弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 主任弁護人南出一雄の陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人名義及び弁護
人小林宏也名義の各控訴趣意書の記載と同じであるから、これを引用する。
 南出弁護人の控訴趣意及び小林弁護人の控訴趣意第一点乃至第三点について。
 しかし、原判示事実特に所論昭和二十五年四月十一日a町事務当局者、同町議会
総務常任委員及び被告人の三者の間で現地において話合の上本件境界が設定せられ
たこと及び被告人において本件六本の松立木が右境界を越えて町側の山林内にある
ことを知りながらこれを伐採したことは、原判決挙示の証拠によりこれを肯認する
に足り、所論原判決援用の証人A同B同C同Dの各証言が所論のように全面的に信
憑性がないものとは認められず、所論被告人において町がEに譲渡した地域内から
も松立木を伐採したことは原判決援用の所論民事事件の証拠調調書特にその見取図
によりこれを窺い得るのであつて、ただ原判決が弁護人の主張に対する判断におい
て地方自治法第九十六条第一項第六号の解釈適用を誤り、境界の設定は町議会の議
決を経ることを要しないものとした点は失当であり、従つて原判決が同町所有の松
立木六本と判示しているのは右町議会の議決を経るまでもなく同町所有の松立木と
確定した趣旨であるから、この点において原判決の右認定は誤りであるけれども、
後記説明のとおり右の誤りはいずれも被告人に所論犯意のあつた事実を認定する妨
げとならないから、結局原判決には未だ以て所論理由不備の違法あるものとはなし
難く、更に記録を精査し当裁判所のなした事実調の結果に徴しても右の点をのぞく
原判決の事実認定に過誤あることを疑うべき事由は存しない。
 即ち、前記昭和二十五年四月十一日の現地における境界設定は直接にはa町が水
道濾過池拡張のためE所有畑と交換することとなつた町所有山林原判示b番のcの
一部(後に分筆したb番のd)とこれと接続する被告人所有山林原判示e番のfと
の境界を設定するにあるが、そのためには右b番のcとe番のfとが相接続してい
る関係上、右一部の境界のみならずその接続する全線につき境界を設定することの
必要であつたことが記録及び当裁判所のなした事実調の結果に徴し窺えるのであつ
て、右現地立会につきa町から同町議会議長宛に出した所論昭和二十五年四月八日
附同町長発同町議会議長宛協議事項送付についてと題する書面に町有林境界確定の
件(現地)とあるのは、実質上右の趣旨をも含むものと必ずしもいえないこともな
く仮令所論のように本件境界の設定が右の案件外であるとしても、右は前記の必要
からその際現地において本件境界が後記の如く設定せられた事実自体を左右するも
のではない。又右現地立会についての被告人に対する通知が、当時被告人が同町議
会副議長であつた関係上、所論のように同町議会議長から副議長宛としてなされた
としても、それは右本件境界設定の事実自体には影響ないのみでなく、被告人は隣
接地所有者として個人の資格で立会つたものとみるのが、地方自治法第百十七条の
趣旨に鑑み、相当であり個人の資格で立会つたことは被告人の検察官に対する供述
調書において被告人自身自認し強調するところである。そして、右現地において被
告人は最初本件境界線につき多少の異議を述べたが、結局話合の結果これに同意し
て木杭が打たれ本件境界が設定せられたことは原判決挙示の証拠により認められ、
昭和二十五年四月十一日附町有林(水道用地交換地)境界設定と題する書面に町有
林とF氏所有地との境界を別紙図面のとおり設定するとしてその添付図面表示の本
件境界線に当る部分に「境界線」と明示してあること、その後八個月余を経て本件
伐採をするまで被告人において右境界線は一応の打合せ線で自分には異議がある旨
申出でたこともないこと等からみても、被告人の同意の下に本件境界が設定せられ
たものであることが首肯される。これを以て所論のように単なる一応の境界協定予
定線に過ぎないものとは認め難い。
 尤も、本件境界の設定は所有権の移転を伴わない。従つてその登記手続を要しな
い単なる管理行為ではあるが、地方自治法第九十六条第一項第六号により町議会の
議決を経ることを要するものというべきところ、記録に徴すれば、昭和二十五年四
月二十六日開催のa町第二回町議会において第九号議案として町有土地交換の件
(前記町有山林とE所有畑との交換)が上程されて総務常任委員会附託となり、翌
二十七日の本会議において議決されるに当り、当時の総務常任委員会委員長Aから
本件境界についても報告のあつたことが推認されるのみであるから、これを以て直
ちに本件境界の設定までが町議会の議決を経たものとは到底認められない。され
ば、この意味において、本件境界の設定は未だ確定していなかつたものというべ
く、従つて右境界の設定により町側の物とされた山林及び立木は未だ町所有の物と
確定していなかつたものといわな<要旨>ければならない。しかし、本件境界の設定
は被告人自身が立会つて木杭まで打込んで定めたものであるから、かかる措
置により町側のものとされた山林及び立木については、その所有権は前記の意味に
おいて未だ町所有のものと確定したものではないとしても、刑事法上の意味におけ
るその占有は既に町のものと確定したものといわなければならない。
 そして、被告人において本件松立木六本が右境界を越えて町側の山林内にあるこ
とを知りながら原判示の如く次男Fをして伐採せしめたことは、被告人の検察官に
対する供述調書及びFの検察官に対する第一回供述調書により明白であり、その後
昭和二十七年七月二十三日右境界線どおり裁判上の和解が成立し町議会の議決を経
たことは記録に徴し明かである。既に然る以上、仮令、前記のように本件境界の設
定につき町議会の議決を経ていなかつたとしても、又所論のように被告人が仙台法
務局気仙沼支局保管図押図面等により右の境界線は正しくないと思つたとしても右
境界設定の手続につき町側に不備な点があると思つたとしても将又本件伐採が自己
所有林撫育の妨げとなる立木を間伐したもので、しかも本件六本のみでなく全部で
約二百本を間伐したものである等所論の事情があるとしても、本件松立木六本の伐
採につき前記説明の占有関係において町のものであることを知りながらこれを伐つ
た故意が被告人にあつたことの認められるのは固より、その所有関係においても被
告人に未必の故意があつたものと認めざるを得ないのである。これを以て、所論の
ように、単に過失のとがむべきものがあつたに過ぎないものとなすを得ない。所論
起訴の当否は固より犯罪の成否に関係はない。
 要するに、原判決にはその弁護人の主張に対する判断において地方自治法第九十
六条第一項第六号の解釈適用を誤り、延て本件六本の松立木が伐採当時前記の意味
において確定的に町所有であつたとした事実の誤認があるけれども、右の誤りはい
ずれも判決に影響を及ぼすことが明かなものとはいえないから、原判決破棄の理由
となすに足りない。論旨は結局いずれも理由がない。
 以上の次第であるから、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべき
ものとし、当審における訴訟費用の負担につき同法第百八十一条第一項を適用し
て、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 細野幸雄)

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