弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本上告論旨は理由がない。
         理    由
 上告代理人吉井晃、同奥田実、同原田策司の上告理由第二点について。
 所論の要旨は、上告人が高令であることを理由に被上告人がした本件待命処分は、
社会的身分により差別をしたものであつて、憲法一四条一項及び地方公務員法一三
条に違反するとの上告人の主張に対し、原審が、高令であることは社会的身分に当
らないとして上告人の右主張を排斥したのは、(一)右各法条にいう社会的身分の
解釈を誤つたものであり、また、(二)仮りに右解釈に誤りがないとしても、右各
法条は、それに列挙された事由以外の事由による差別をも禁止しているものである
から、高令であることを理由とする本件待命処分を肯認した原判決には、右各法条
の解釈を誤つた違法があるというにある。
 思うに、憲法一四条一項及び地方公務員法一三条にいう社会的身分とは、人が社
会において占める継続的な地位をいうものと解されるから、高令であるということ
は右の社会的身分に当らないとの原審の判断は相当と思われるが、右各法条は、国
民に対し、法の下の平等を保障したものであり、右各法条に列挙された事由は例示
的なものであつて、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当であるから、
原判決が、高令であることは社会的身分に当らないとの一事により、たやすく上告
人の前示主張を排斥したのは、必ずしも十分に意を尽したものとはいえない。しか
し、右各法条は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合
理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄
の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の
否定するところではない。
 本件につき原審が確定した事実を要約すれば、被上告人a町長は、地方公務員法
に基づき制定されたa町待命条例により与えられた権限、すなわち職員にその意に
反して臨時待命を命じ又は職員の申出に基づいて臨時待命を承認することができる
旨の権限に基づき、a町職員定員条例による定員を超過する職員の整理を企図し、
合併前の旧町村の町村長、助役、収入役であつた者で年令五五歳以上のものについ
ては、後進に道を開く意味でその退職を望み、右待命条例に基づく臨時待命の対象
者として右の者らを主として考慮し、右に該当する職員約一〇名位(当時建設課長
であつた上告人を含む)に退職を勧告した後、上告人も右に該当する者であり、か
つ勤務成績が良好でない等の事情を考慮した上、上告人に対し本件待命処分を行つ
たというのであるから、本件待命処分は、上告人が年令五五歳以上であることを一
の基準としてなされたものであることは、所論のとおりである。
 ところで、昭和二九年法律第一九二号地方公務員法の一部を改正する法律附則三
項は、地方公共団体は、条例で定める定員をこえることとなる員数の職員について
は、昭和二九年度及び昭和三〇年度において、国家公務員の例に準じて条例の定め
るところによつて、職員にその意に反し臨時待命を命ずることができることにして
おり、国家公務員については、昭和二九年法律第一八六号及び同年政令第一四四号
によつて、過員となる職員で配置転換が困難な事情にあるものについては、その意
に反して臨時待命を命ずることができることにしているのであり、前示a町待命条
例ならびに被上告人a町長が行つた本件待命処分は、右各法令に根拠するものであ
ることは前示のとおりである。しかして、一般に国家公務員につきその過員を整理
する場合において、職員のうちいずれを免職するかは、任命権者が、勤務成績、勤
務年数その他の事実に基づき、公正に判断して定めるべきものとされていること(
昭和二七年人事院規則一一―四、七条四項参照)にかんがみても、前示待命条例に
より地方公務員に臨時待命を命ずる場合においても、何人に待命を命ずるかは、任
命権者が諸般の事実に基づき公正に判断して決定すべきもの、すなわち、任命権者
の適正な裁量に任せられているものと解するのが相当である。これを本件について
みても、原判示のごとき事情の下において、任命権者たる被上告人が、五五歳以上
の高令であることを待命処分の一応の基準とした上、上告人はそれに該当し(本件
記録によれば、上告人は当時六六歳であつたことが明らかである)、しかも、その
勤務成績が良好でないこと等の事情をも考慮の上、上告人に対し本件待命処分に出
たことは、任命権者に任せられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められず、高
令である上告人に対し他の職員に比し不合理な差別をしたものとも認められないか
ら、憲法一四条一項及び地方公務員法一三条に違反するものではない。されば、本
件待命処分は右各法条に違反するものではないとの原審の判断は、結局正当であり、
原判決には所論のごとき違法はなく、論旨は採用のかぎりでない。
 よつて、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎

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