弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由一について。
 原審の確定した事実関係はつぎのとおりである。
 被上告人は、昭和三三年一二月頃、訴外Dから二五〇万円の融資を受ける約束を
得たので、同月五日、右借受金の弁済を担保するため、訴外Dに対して原判決別紙
目録記載(三)ないし(七)の土地ほか二筆の不動産につき抵当権を設定するとともに、
あわせて右各不動産について被上告人が右二五〇万円の債務を期限に弁済しないと
きはその弁済に代えてその所有権をDに移転する旨の代物弁済予約を締結し、原判
決主文第二項(2)記載の抵当権設定登記および停止条件付代物弁済契約を原因とす
る所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。しかるに、訴外Dは被上告人に対し
ては右融資の約束に基づく二五〇万円の内金として二四万二五〇〇円の金員を交付
したにすぎなかつたため、右抵当権設定登記は右交付金額を元本とする被担保債権
の限度でのみ有効に存続することとなつたが、右代物弁済の予約については被上告
人が二四万二五〇〇円の貸与金について前記不動産を代物弁済に供する意思を有し
ていたものとは認められないところから、右予約に基づいてされた所有権移転請求
権保全の仮登記は実体に合致しない登記として無効のものであつた(以上の点に関
する原審の判断は、正当として是認することができる。)。その後、昭和三四年八
月三日、訴外Dは、被上告人に対する貸金債権を前示(三)ない(七)の土地ほか二筆
の不動産する抵当権とともに上告人に譲渡し、上告人は、、右各不動産に対する抵
当権設定登記についてそれぞれ附記登記を経由し、また、上告人は、その際、代物
弁済予約上の権利をも譲り受けたものとして、右各不動産に対する仮登記について
もそれぞれ附記登記を経由した。しかるところ、上告人は、昭和三八年二月末頃、
被上告人から一〇〇万円の交付を受けることによつて上告人が訴外Dから譲り受け
た前示貸金債権の全部を決済ずみとすることを承諾したので、被上告人は、同月二
八日、一〇〇万円の金員を上告人に交付した。これよつて上告人の被上告人に対す
る貸金債権は消滅し、右債権を被担保債権とする前示(三)ないし(七)の不動産を目
的とする抵当権も消滅した。なお、右五筆を除く他の二筆の不動産に対する抵当権
設定登記については、そのころ、抵当権の一部放棄を原因とする抹消登記手続が経
由された。被上告人は、以上の事実関係に基づいて、上告人に対し、(三)ないし(
七)の不動産について主登記である抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の
仮登記の抹消登記手続を求めるものである。
 ところで、所論は、被上告人が主登記である抵当権設定登記および所有権移転請
求権保全の仮登記の抹消登記手続を求めるには、訴外Dを被告とすべきであり、上
告人に対しては上告人が現にその登記名義人となつている各附記登記の抹消を求め
うるにすぎないから、上告人に対して前記抵当権設定登記および所有権移転請求権
保全の仮登記の抹消登記手続をなすべきことを命じた原判決には、不動産登記法等
の解釈を誤つた違法があるという。
 しかし、抵当権設定登記または所有権移転請求権保全の仮登記について、実体上
の権利移転の合意に伴い、権利移転の附記登記が経由された場合には、附記登記の
名義人が同時に主登記の登記名義人になるものと解すべきであるから、被上告人が
前示各登記の原始的または後発的無効を主張して該登記の抹消登記手続を求めるに
あたつては、現在の登記名義人である上告人のみを被告として訴求すれば足り、所
論のように、主登記たる抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記につ
いては実体上の契約の直接の当事者訴外Dを、また、その附記登記については上告
人を、それぞれ被告として訴求しなければならないものではない、と解するのが相
当である。この理は、すでに、大審院昭和七年八月九日判決民集一一巻一七号一七
〇七頁、同昭和一三年八月一七日判決民集一七巻一七号一六〇四頁の趣旨とすると
ころであつて、いまこれを変更する必要をみない。論旨引用の大審院民事連合部明
治四一年三月一七日判決民録一四輯三〇三頁は、前示大審院判決により、右の限度
において実質的に変更されたものである。
 されば、これと同旨に出て、上告人に対し、原判決主文第二項(2)記載の各登記
の抹消登記手続をなすべきことを命じた原審の判断は正当であり、原判決に所論の
違法はない。論旨は採用することができない。
 同二について。
 所論は、原判決別紙目録記載(二)の不動産が被上告人からその妻訴外Eに贈与さ
れたことを前提として、詐害行為取消判決の効力を云々するものであるが、原審は、
右不動産が被上告人から贈与を原因として登記簿上Eの名義に変更されたことを認
定したにとどまり、被上告人において実体上贈与の意思表示をしたことまでも確定
した趣旨でないことは、原判決の判文に照らして窺うに難くないところである。さ
れば、所論は、この点においてすでに前提を欠き、原判決を正解しないでその判断
を非難するにすぎないものであるから、論旨は採用するに由ないものといわなけれ
ばならない。
 同三について。
 所論は、原判決別紙目録記載(一)の不動産につきなされた上告人名義の所有権移
転登記の抹消登記手続を命じた原判決主文第二項(1)に関しても、原判決の破棄を
求めるという。しかし、その理由とするところは、原判決が正義、公平の原則に反
するというにとどまり、そのいかなる点に法令違背があるかを具体的に示すところ
がないから、上告適法の理由とならず、排斥を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    関   根   小   郷

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