弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は原告に対し,3000万円及びこれに対する平成22年4月11日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,被告の開設する診療所(以下「被告診療所」という。)で治療を受
けた原告が,被告代表者(以下「被告医師」という。)の抗生剤等の投与及び
投与後の処置に過失があったために重篤な牛乳アレルギーを発症したとして,
不法行為に基づき,損害金1億3357万6992円の一部である3000万
円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年4月11日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で
ある。
2争いのない事実
(1)原告(平成5年生まれ)は,平成19年8月9日,中学校の部活動(剣道)
中に手の痺れや吐き気を感じ,救急車で被告診療所に搬送され,被告医師の
診察を受けた。
被告医師は,原告に対し,生理食塩水500ml,50%ぶどう糖20m
l2A及びセルシン(向精神薬)1Aを点滴した(以下「8月9日第1回目
点滴」という。)後,ラクトリンゲルS500ml及びペンマリン2gを点
滴し(以下「8月9日第2回目点滴」という。),アクロマイシントローチ
(抗生剤)3錠(1日分。以下同じ。),フロモックス(抗生剤)2錠など
を処方した。
(2)原告は,平成19年8月10日,被告診療所を外来受診し,被告医師は,
原告に対し,ラクトリンゲルS500ml,ペンマリン2g及びセルシン1
/4Aを点滴した(以下「8月10日第1回目点滴」という。)後,生理食
塩水100ml,ブスコパン(消化性潰瘍薬)1A,50%ぶどう糖20m
l1A及びアタラックスP(抗不安薬)1/2Aを点滴し(以下「8月10
日第2回目点滴」という。),タンナルビン(タンニン酸アルブミン製剤。
止瀉薬)2.0などを処方した。
3争点
(1)原告の牛乳アレルギー発症の有無(争点1)
(2)牛乳アレルギー発症の機序(争点2)
(3)被告の過失の有無(争点3)
アセルシン(向精神薬)投与の過失
イ抗生剤投与上の過失
ウ抗生剤投与後の処置上の過失
エタンニン酸アルブミン(止瀉薬)投与の過失
(4)損害の発生の有無及び額(争点4)
4争点に関する当事者の主張
(1)原告の牛乳アレルギー発症の有無(争点1)
ア原告の主張
原告は,平成20年4月に初めて牛乳アレルギーと診断され,それ以前
にはそのような診断がされていないが,原告が被告診療所で抗生剤の投与
を受けた平成19年8月9日以降,同月25日から同年11月20日まで
のB市立病院通院時,平成20年3月27日から同年4月2日までのC大
学病院入院時,同月3日のD病院受診時,同月21日の同病院入院時のい
ずれも,原告が訴えていた症状(乳製品を摂取し,又は臭いをかぐだけで
も嗄れ声,喘鳴,呼吸困難等が生じる。)は一貫して同じである。
そして,C大学病院で,牛乳に関し,食物負荷試験で陰性,プリックテ
ストも陰性で原告の牛乳アレルギーが否定されたわずか3週間後,D病院
ではリンパ球刺激試験(以下「DLST」という。)で陽性,プリックテ
ストで強陽性の結果となり,同病院の医師は原告には牛乳アレルギー(ア
ナフィラキシー)があるとの診断をし,肺機能検査を施行して,牛乳の臭
いだけでも試験用アセチルコリン吸入と同様の肺機能低下が生じること,
原告の気道過敏性が高いこと,同時に喘鳴,呼吸困難等のアナフィラキシ
ー症状を来すことが証明されている。
以上のとおり,被告医師の過失により,原告に牛乳アレルギーが発症し
た。
イ被告の主張
原告に対し,平成19年8月25日にB市立病院で実施されたアレルギ
ー検査においても,IgEの上昇は見られず,特異的IgEのミルク,チ
ェダーチーズいずれについても陰性であったし,同病院では,食物アレル
ギーよりも心因性の症状であると疑われていた。
さらに,平成20年1月17日のC大学病院における特異的IgE検査
でも,α‐ラクトアルブミン,β‐ラクトグロブリン,牛乳のいずれも陰
性であったし,同年3月28日のプリックテストでも牛乳について陰性で
明らかな食物アレルギー症状は認められず,同月31日の二重盲検食物負
荷試験では,症状の出現は一切認められず,牛乳アレルギーはないと判断
され,同病院退院時には,これらの検査結果から,「牛乳アレルギーには
否定的であり,原因としては二次性徴期の自律神経症,心因性症状が考え
られる」とされている。
仮に,被告診療所における診療行為によって牛乳アレルギーが起こった
とすれば,直ちに特異的IgE抗体が産生され,B市立病院,C大学病院
における抗体検査,C大学病院における皮膚テストで陽性反応が見られた
はずであるが,これらの検査結果はすべて陰性であった。
以上のとおり,原告に牛乳アレルギーは発症していない。
なお,原告は,被告医師による抗生剤の投与(以下「本件抗生剤投与」
という。)以前から牛乳アレルギー様の症状を訴えていたとの医療記録が
あり,これらの症状がどのような疾患によるものであるにせよ,本件抗生
剤投与によって発生したものでないことは明らかである。
(2)牛乳アレルギー発症の機序(争点2)
ア原告の主張
被告医師が,原告に対し,抗生剤の投与の必要がなかったにもかかわ
らず,フロモックス,ペンマリン及びアクロマイシンの3種類の抗生剤
を過剰に投与したことにより,原告の腸内細菌叢が攻撃を受け,腸内細
菌叢に変化,異常が生じた(第1段階)。
原告が,抗生剤投与の翌日から下痢をしたのは,腸内細菌叢の変化,
異常を反映したものであると考えられる。この異常は,抗生剤投与中止
後1か月経過しても継続し得るものである。
次に,原告は,腸内細菌叢の変化,異常を来した結果,腸内細菌叢を
その誘導・維持に必要とする腸管免疫系に破綻を来したと考えられる(第
2段階)。
腸管免疫系の大きな特徴は,危険な病原細菌やウイルスに対しては抗
体を産生して排除し,食品や腸内細菌など異物であっても安全なものに
対しては排除しない(経口免疫寛容)ことであり,経口免疫寛容によっ
て,異物である食物抗原に対してアレルギー反応を起こすことなく食物
を摂取できるのである。
原告は,腸内細菌叢の変化,異常を来した結果,上記の腸管炎症抑制
の制御,経口免疫寛容の制御などの腸管免疫系の制御機能が破綻した。
そして,被告医師が,上記の腸管免疫系が破綻した原告に対し,牛乳
抗原であるカゼインを含むタンニン酸アルブミン(タンナルビン)を投
与したため,原告の体内では,腸管炎症抑制の制御機能の破綻によって
腸管に炎症が惹起され,タンニン酸アルブミンの食物抗原の腸管透過性
が亢進し,これと経口免疫寛容の破綻が相俟って,牛乳に対して抗体が
産生され,牛乳アレルギーに陥った(第3段階)。
イ被告の主張
原告には,本件抗生剤投与の後,アナフィラキシーなどの即時型の反応
は全く見られていない。
原告に生じた下痢が抗生剤による下痢であれば,通常,抗生剤を中止す
れば治癒するはずであるが,平成19年8月25日のB市立病院受診時ま
で下痢が続いていたのであるから,他に原因があったものと思われ,原告
に,抗菌薬起因性下痢症が起こったと考える根拠はない。
また,ペニシリンに対するアレルギー反応は,D病院の検査では認めら
れていないので,ペニシリンが腸内細菌叢を破綻させたとは考えられない。
そして,同月10日に被告が処方したタンニン酸アルブミンには,牛乳
抗原であるカゼインが含まれているとしても極めて微量であり,その結果
牛乳に対して抗体が産生されたという原告の主張が成立するのか疑問であ
る。
(3)被告の過失の有無(争点3)
ア原告の主張
セルシン投与の過失
平成19年8月9日,原告の手の痺れ等の症状は,救急車内にて既に
軽減していたし,仮に,原告が過換気症候群であったとしても,過換気
症候群の治療として第1に行うべき措置は紙袋再呼吸法が一般的であり,
呼吸抑制や心肺停止などの重篤な副作用の危険性があるセルシンを投与
することは不必要,不適切であった。翌10日には,原告には手の痺れ
等の症状は全くなかったのであるから,同日のセルシンの投与は全く不
必要であった。
また,セルシン注射液は,静脈注射が原則であり,点滴静脈注射とし
て使用されるものではない。セルシン注射液の使用は,その適用上の注
意に,「経口投与が困難な場合や,緊急の場合,また,経口投与で不十
分と考えられる場合にのみ使用すること」と記載されており,被告医師
は,経口投与が可能な原告に対しては,まずは,経口投与を行うべきで
あった。
そして,セルシンの能書には,「他の注射液と混合又は希釈して使用
しないこと」と記載されており,他の液と混合すると白濁し,沈殿物が
生じて,酷い時には心臓麻痺を起こす。
したがって,被告医師は他の液と混合してセルシンを点滴投与するべ
きではなかったにもかかわらず,8月9日第1回目点滴の際,セルシン
を生理食塩水500mlと混合して点滴液として使用した過失がある。
また,これらの使用法の間違いが原因で,8月9日第1回目点滴の後,
原告の体温は,36.5度から37.8度に上昇し,血圧も99/57
㎜Hgまで低下している。被告医師はセルシンの誤った投与による発熱
及び血圧低下を予見するべきであったにもかかわらず,これを予見する
ことなくさらにセルシンを中断することなく投与した過失がある。
抗生剤投与上の過失
そもそも,熱中症に対しては,3剤もの(フロモックス・ペンマリン・
アクロマイシン)抗生剤投与は不必要,不適切である。
抗生剤であるフロモックスは,慎重に,かつ十分な問診を行って投与
する必要がある上,原告がアレルギー反応を起こした経験のある抗生剤
(セフゾン)と同じセフェム系であり,原告に投与すればアレルギーを
起こす確率が高く,原告に対して投与禁忌であった。
また,抗生剤であるペンマリンは,ペニシリン系であるからアレルギ
ー反応を起こしやすい上,原告がアレルギー反応を起こした経験のある
抗生剤(セフゾン)と同じベーターラクタム系に属し,アレルギー反応
が起こり得るので使用を避けるべきであり,仮に使用の必要があった場
合も,原告のアレルギー歴を認識していた被告医師は,十分に問診し,
事前に皮内テストをして安全を確認する義務があった。
それにもかかわらず,被告医師は,原告に対する問診や皮内テストを
怠り,薬や食物に対するアレルギーを確認することなく,不必要かつ過
剰に,ペンマリン,フロモックス及びアクロマイシンを投与した過失が
ある。
抗生剤投与後の処置上の過失
原告は,8月9日第2回目点滴(ペンマリン含有)開始後より悪寒が
出現し,気分不良,下痢の症状を来し,下痢は翌朝まで続いた。8月1
0日第1回目点滴(ペンマリン含有)開始後にも同様の症状が出現し,
さらに吐き気,腹痛も出現した。
この点,D病院は,原告に対するプリックテストにおいてペンマリン
が強陽性であることを踏まえ,ペンマリンアレルギー(アナフィラキシ
ー)と確定診断している。
ペンマリンの添付文書には,その使用上の注意に,副作用としてアナ
フィラキシー様症状を起こすことがあるため観察を十分に行い,異常が
認められた場合には投与を中止して適切な処置を行うこと,偽膜性大腸
炎等の血便を伴う重篤な大腸炎が現れることがあるので,腹痛,頻回の
下痢が現れた場合には直ちに投与を中止して適切な処置を行う旨記載さ
れている。
したがって,被告医師は,上記のような原告の症状に照らし,抗生剤
投与によるアナフィラキシー,抗菌薬起因性下痢症(偽膜性腸炎を含む)
を疑って,抗生剤の中止,便培養やCD毒素検出などの便の検査などの
処置を採るべきであったのに,これを怠った過失がある
タンニン酸アルブミン投与の過失
原告は,過剰に抗生剤を投与された結果,腸内細菌叢に変化,異常が
生じ,腸管免疫系(経口免疫寛容)が破綻していたところ,タンニン酸
アルブミンは牛乳抗原であるカゼインを含み,牛乳アレルギーを起こす
ことがあるので観察を十分に行うこととされているにもかかわらず,被
告医師は,原告に対し,漫然とタンニン酸アルブミン(タンナルビン)
を投与した過失がある。
イ被告の主張
セルシン投与の過失
原告には,平成19年8月9日,気分不良,悪寒戦慄が認められ,通
常人であれば正常時の呼吸数は,14~20回/分であるのに,原告は2
8回/分であり,手の痺れを訴えており,被告診療所に救急車で来院した
状況,被告医師の質問にも目を閉じて余り答えないことに照らし,被告
医師は,原告を熱中症と過換気症候群であると判断し,その治療のため
にセルシンを使用した。
また,点滴は点滴静脈注射であり,注射液の一使用法である上,セル
シンの添付文書には「他の注射液と混合又は希釈して使用しないこと」
と記載されているものの,セルシンは静脈注射すると呼吸抑制と心停止
が起こることが広く知られており,臨床上は希釈して点滴静注の形で使
用されている。
したがって,原告にセルシンを点滴によって投与した被告医師には過
失がない。
セルシンを生理食塩水,ぶどう糖と共に点滴静注することによって直
ちに体温が上昇することはあり得ず,被告医師に過失はない。
抗生剤投与上の過失
被告医師は,原告の体温上昇に照らし上気道感染症(夏風邪)を考え,
原告に抗生剤投与を行ったものであり,熱中症,過呼吸に対する治療と
して投与したものではない。
フロモックスは,被告医師が原告に対し,平成18年7~8月に使用
したが原告には何ら問題も生じなかったし,ペンマリンも,平成18年
7月当時,原告が服用していたサワシリンと同様のペニシリン系抗生剤
であることを確認して使用したのであり,被告医師は原告のアレルギー
の有無について,他院での治療内容を含めて確認している。
また,本件の投与時に,被告医師は,原告がセフゾンでアレルギーを
起こすとの情報は原告から伝えられておらず,フロモックスやペンマリ
ンを禁忌と考える理由はなかったし,日常一般の臨床の場において,抗
生剤の皮内テストを行う理由はない。
したがって,被告医師に過失はない。
抗生剤投与後の処置上の過失
原告に悪寒が生じたのは抗生剤投与前であって,原告の症状は,抗生
剤の投与によって生じたものではない。また,被告医師は,腸内細菌叢
に変化,異常を来していることは全く予見できなかった。
したがって,被告医師に過失はない。
タンニン酸アルブミン投与の過失
被告医師は,平成19年8月10日当時,原告の腸内細菌叢の変化,
異常を来していることも腸管免疫系に破綻を来していることも知る由も
なかったから,タンニン酸アルブミンによって,牛乳アレルギーが発症
することの予見は不可能であった。
したがって,被告医師に過失はない。
(4)損害の発生の有無及び額(争点4)
ア原告の主張
原告は,重篤な牛乳アレルギーにより,社会生活を送ることができない
状態となり,下記の損害が生じており,損害金合計1億3357万699
2円のうちの一部である3000万円の損害賠償を請求する。
逸失利益4857万6992円
487万4800円×(1-0.3)×14.2356(ライプニッ
ツ係数・13歳)
慰謝料5000万円
治療費3000万円
弁護士費用500万円
イ被告の主張
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(原告の牛乳アレルギー発症の有無)について
(1)原告の診療経過
証拠(各項目末尾掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を
認めることができる。
ア医療法人E病院(以下「E病院」という。)における診療経過
原告は,平成18年7月16日,左手掌にマメができ,周囲が発赤して
痛み,痺れがあるとして,E病院を受診し,18G注射針で膿排出術を受
け,サワシリン(抗生剤)250mg3錠が処方された。
原告の同病院の外来問診表(甲A14・3頁)の「薬や食べ物などで「じ
ん麻疹」や「アレルギー」を起こしたことはありますか?」との質問欄に
は,「ある」に丸印が記入され,「食品・薬品名」欄に,「卵・牛乳,セ
フゾン」と記入されている。
(甲A14)
イ被告診療所における診療経過
(ア)原告は,平成18年7月18日,左手掌の痛みがあるとして,被告診
療所を初めて受診した。
原告の予診用紙(乙A1・16頁)の「今までに,じんましんや,薬
などでアレルギーをおこしたことがありますか?」との質問欄には,「あ
る」に丸印が記入されている。
(乙A1・13,16頁)
(イ)原告は,平成19年8月9日,被告診療所に救急車で搬送された際,
救急隊員に対し,寒気があり,現在扁桃腺の薬を飲んでおり,体調不良
であった旨申告した。
(乙A1・25頁)
(ウ)原告は,同日,被告診療所において被告医師の診察を受けたが,被告
診療所へ到着した時点の体温は36.5度であった。8月9日第1回目
点滴の後,原告の体温は37.2度であり,手の痺れは改善し,吐き気
はなかった。
(乙A1・26,27頁)
(エ)被告医師は,同日,原告の採血を行い,アレルギー検査(血液検査)
を行ったが,同年8月10日受付の検査結果も,同月13日受付の検査
結果も牛乳アレルギーは陰性であった。
(乙A1・7~12,27頁)
(オ)原告は,平成19年8月10日,被告診療所を受診し,被告医師に対
し,体調は良く,腹痛もなく,食欲はあるが,朝から下痢(泥状)を2
回している旨訴えた。
被告医師は,原告に対し,8月10日第1回目点滴をしたが,原告は,
同点滴後吐き気を訴え,8月9日第2回目点滴でも気分が悪くなった旨
訴えた。
(乙A1・29頁)
(カ)原告は,平成19年8月11日,被告診療所を受診し,被告医師に対
し,食欲はあるが,吐き気(嘔吐はない),頭痛,腹痛があったりなか
ったりし,また,何回も下痢がある旨訴えた。
(乙A1・29,30頁)
ウB市立病院における診療経過
(ア)原告は,平成19年8月25日,アレルギー検査等を目的としてB市
立病院小児科を受診した。
原告は,同科のF医師に対し,被告診療所において抗生剤を使用され
た後から急に悪寒を認め,その後しばらく問題なく経過したが,同月2
4日再び同様の症状を認めたと訴えた。
F医師は,同月25日,原告の血液検査(特異的IgE抗体)を行っ
たが,その結果では,乳製品(チェダーチーズ,ミルク)は陰性であっ
た。
(甲A20・10頁,112頁)
(イ)原告は,平成19年10月7日から腹痛及び下痢の症状(血便,嘔吐
はない。)が出たことから,同月9日からF医師による経過観察を受け
ていたが,倦怠感が強く食欲が回復しなかったため入院管理となり,同
月15日からB市立病院に入院した。
F医師は,原告の入院後,輸液,整腸剤,粘膜保護剤,H2ブロッカ
ーにて経過観察をしたが,原告の症状は完全に改善せず,腹部CT検査
等を実施したが特に器質的疾患もなかったため,心因反応(過敏性腸炎)
の可能性を考え,外来診療で心理アプローチもすることとし,原告は同
月22日,B市立病院を退院した。
(甲A20・4頁,13~32頁)
(ウ)F医師は,平成20年1月11日,原告に対し,C大学病院の受診を
勧めた。
F医師は,同月15日付け診療情報提供書(甲A20・81頁)にお
いて,C大学病院小児科医師に対し,原告が被告診療所での輸液後,乳
製品を少しでも摂取すると後頭部の違和感や息苦しさを訴えることから,
今まで外来診療で抗アレルギー薬(オノン,インタール,ペミラストン)
を処方して経過観察をしていたが,原告の症状のコントロールが難しい
として,必要な検査の実施,他の原因の探索,内服の助言を依頼した。
(甲A20・37,51,81頁)
(エ)F医師は,下記エ記載のC大学病院の検査結果及び下記オ記載のD病
院の検査結果を把握した後,原告の症状について,アレルギーの可能性
を考慮しつつも,心因性である可能性が強い印象を持っていた。
(甲A20・60,62,64,66頁,同A26)
エC大学病院における診療経過
(ア)原告は,平成20年1月17日,F医師の紹介でC大学病院小児科を
受診した。
同病院のG医師は,同日,原告を診察し,原告の年齢で初発の牛乳ア
ナフィラキシーは非常に稀であり,精神的な要因が最も考えられると判
断したが,食物負荷試験を実施することとした。
(甲A21・5頁)
(イ)原告は,平成20年3月27日,前記の検査目的でC大学病院に入院
した。
同病院の医師は,原告が診察時にやや過呼吸であったこともあり,原
告の心因性による症状と食物アレルギー症状との区別は困難であると考
えた。同病院の医師は,入院中,牛乳及び乳製品除去食にて経過観察し,
症状の原因検索のため,原告に対し,同月28日,プリックテストを,
同月30日及び31日,二重盲検負荷試験を実施した。
同病院の医師は,上記のプリックテストの結果,原告にハウスダスト
で3×12mmの硬結を伴う発赤を認めたが,小麦,杉,牛乳,カモガ
ヤではいずれも陰性であり,明らかな食物アレルギーを認めなかった。
また,二重盲検負荷試験では,原告の症状を負荷前,15分後,30分
後,45分後,60分後,90分後,2時間後,3時間後,6時間後の
各時点において確認したが,いずれの時点においても原告に特に症状の
出現を認めず牛乳アレルギーはないと判断した。
同病院の医師は,以上の検査結果から,原告について牛乳アレルギー
はなく,原告の症状の原因は,二次性徴期の自律神経症状,心因性症状
が考えられると判断し,以上の経過及び検査結果をB市立病院に報告し
た。
原告は,同年4月2日,同病院を退院した。
(甲A21・9,29~34,37,39,40,47頁)
オD病院における診療経過
(ア)原告は,平成20年4月3日,D病院を受診した。
同病院のH医師は,原告に対し,同日DLSTを,同月16日プリッ
クテストを実施した。上記DLSTの結果は,ミルクが陽性,ペンマリ
ンが陰性であり,上記プリックテストの結果では牛乳が強陽性であった。
(甲A23の1・35~37,49頁)
(イ)原告は,平成20年4月21日から同月30日までの間,精査目的で
D病院に入院した。
同病院の医師は,同月21日に気道過敏性試験を,同月23日プリッ
クテストを,同月24日牛乳匂いテストを,同月28日牛乳負荷テスト
(①湯気負荷,②暖めた牛乳を1ml飲む,③冷たい牛乳を50ml飲
む)を実施した。
原告は,上記気道過敏性試験では気道過敏性が高いと判断され,上記
プリックテストでは,ペンマリン皮内反応液(4+)の結果となった。
また,原告は,上記牛乳匂いテストでは,温めた牛乳の匂いを嗅いだ約
30秒後から咳などの症状が出たが,D病院耳鼻科の医師が喉頭ファイ
バーで検査しても明らかな喉頭や声帯の異常は確認されず,上記牛乳負
荷テストでは,①では1分20秒後に嗄れ声が出現するが閉塞感や喘鳴
はなく,②では45秒後に喉頭にきつい感じや頸部の腫れている感じを
訴えたが喘鳴はなく,③では約2時間半後から頭痛,鼻汁,吐き気など
を訴えた。
以上の検査結果に照らし,D病院のI医師は,同月30日頃,原告は,
非常に稀な症例ではあるが,免疫系の変調をきたし,非常に敏感な状態
になっており,そのときの状況によって乳アレルギーの即時型や遅延型
の症状が出現するようであるとして乳アナフィラキシーと診断した。ま
た,I医師は,プリックテストでペンマリンが陽性であったことから原
告をペンマリンアレルギー確定診断とした。
(甲A23の1・43,49,59頁,同A23の2・17~24頁)
(2)医学的知見
証拠(各項末尾掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認
めることができる。
ア食物アレルギー
(ア)機序
食物アレルギーとは,原因となる食物(アレルゲン)を摂取後,Ig
E抗体やリンパ球など体の免疫学的な仕組みが働き,様々な症状が起き
る現象をいう。
消化管内腔の粘膜表面は,経口摂取された食物等と直接触れ合い,体
内に有益なものを取り入れ,有害なものは排除する免疫機能(腸管免疫)
の舞台となる組織であるところ,消化機能の未発達などの理由により,
タンパク質が高分子のまま吸収されることがあり,免疫系がこれを認識
しても排除しないような免疫寛容が成立する必要があるところ,このよ
うな免疫寛容の不成立又は破綻が食物アレルギーの原因の主要な機序の
一つと考えられている。
(甲B18,同B20)
(イ)症状
a即時型
食物アレルギー症状のうち,食物を摂取して2時間以内に症状を発
現するものをいう。主として,IgE抗体を介して遊離される化学伝
達物質によって発症すると考えられているが,必ずしもIgE抗体の
関与が証明されない場合もある。
即時型症状としては,全身症状(アナフィラキシー),呼吸器症状
(鼻汁,喘鳴,呼吸困難,胸部圧迫感,咽喉頭浮腫など),眼症状(結
膜充血,流涙など),皮膚症状(じん麻疹,紅斑,発疹など)などが
ある。
b非即時型
食物アレルギー症状のうち,食物を摂取してから症状発現までに2
時間を超える時間を要するものをいう。非即時型食物アレルギーの病
態に関しては不明な点が多く,因果関係を明らかにすることが必ずし
も容易ではない。
非即時型の食物アレルギーとしては,アトピー性皮膚炎に関する論
文が多数報告されているが,食物アレルギーが関与する頻度について
は報告者によりかなりの開きがある。
(甲B19の1及び2,同B20)
(ウ)診断方法
a手順
食物アレルギーの診断では,摂取歴などのエピソードを基に,疑わ
しい抗原について免疫学的検査として血液検査や皮膚テストにて感作
を確認し,それぞれの食品で除去負荷試験を行う。
(甲B17・22頁)
b食物経口負荷試験
(a)食物経口負荷試験(以下「負荷試験」という。)は,アレルゲン
食品を経口摂取し症状誘発の有無を確認する検査であり,食物アレ
ルギーの最も確実な診断法である。原因食物アレルゲンの確定診断
と食物アレルギー耐性化の判断を目的に行われる。
(b)原因食物アレルゲンの確定診断を目的とする場合には,①食物ア
レルギーの関与を疑うアトピー性皮膚炎などの慢性的な症状で除
去試験に引き続き行う場合や,②即時型反応が主症状で原因アレル
ゲンの診断をする場合などがある。
(c)負荷試験ではアナフィラキシーが誘発されることがあるため,対
象児の病歴,特異的IgE抗体価,プリックテストなどを参考にし
て負荷試験の適応判断と負荷食品の選定を行う。
(d)負荷試験実施方法には,オープン法(アレルゲン食品そのものを
負荷する方法)や盲検法(カプセル又はシロップ類でアレルゲン食
品が分からないようにして行う方法)がある。
盲検法は,アレルゲン食品に対する不安感が少なく最も正確な負
荷試験法であり,特に二重盲検法(ダブルブラインド法。医師(観
察者)からも患者からもアレルゲン食品が分からないようにして行
う方法。)による負荷試験は,食物アレルギー診断の最も信頼度の
高い基準と位置付けられている。
(甲B17・27頁,同B18の2,弁論の全趣旨)
cプリックテスト
(a)プリックテストは,即時型皮膚テストの一つである。
(b)プリックテストは,感度は高いが特異度及び陽性的中率が低く
(60%前後),偽陽性が多いとされている。プリックテスト陽性
は,アレルゲンに対するIgE抗体の存在(感作が成立しているこ
と),つまりアレルギー症状を来す「可能性がある」ことを示唆す
るものの,「アレルギーがある」ことを示すものではないが,プリ
ックテスト陰性であれば,95%以上の確率でその食物に対してI
gE抗体依存性のアレルギー反応を示さないため,「食物アレルギ
ーではないこと」の診断には有用であるとされている。
(甲B17・22,23,26頁)
イアナフィラキシー
じん麻疹などの皮膚症状,消化器症状や呼吸困難等の呼吸器症状といっ
た即時型のアレルギー症状が,同時又は引き続いて複数の臓器に強く急激
に発現することをいう。さらに血圧低下や意識障害を伴う症例は,「アナ
フィラキシーショック」といわれ,生命の危険を伴う場合もある。
(甲B20・19頁,同B22・9~18頁)
(3)争点に対する判断
ア鑑定の経過
証拠(甲A25,同A27,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,
鑑定人J(以下「鑑定人」という。)の鑑定の経過は以下のとおりである
ことが認められる。
(ア)入院中の経過観察
鑑定人は,原告の牛乳アレルギーの有無等を鑑定するために,平成2
4年1月16日から同月19日まで,原告をK病院に入院させ,下記(イ)
~(エ)の各検査を行う(補助者による実施も含む。)とともに,原告及び
原告の母の訴えや症状の観察を行った。
原告は,同月16日の入院直後,喉に違和感を感じ,嗄れ声などの症
状を訴えたが,経皮酸素飽和度には変化が認められなかった。
(イ)皮膚テスト(プリックテスト)
鑑定人は,平成24年1月16日,担当医に,原告のプリックテスト
を行わせた。
同検査結果によれば,原告は,ミルクのプリックテストの反応は陰性
であった。
(ウ)血液検査(血中総IgE及び抗原特異的IgE抗体)
鑑定人は,担当医に,原告の血液検査を行わせた(平成24年1月1
7日,採血,同月19日,結果の報告)。
同検査結果によれば,原告は,ミルク,カゼインなど牛乳関連の特異
的IgE抗体は全て陰性であった。
(エ)二重盲検負荷試験
鑑定人は,平成24年1月17日及び同月18日,担当医に,原告の
二重盲検法での牛乳負荷試験を行わせた。同検査では,牛乳タンパクを
入れ込む媒体にハンバーグを用い,両日ともアイマスク及びノーズクリ
ップで視覚及び嗅覚を遮った状態で実施した。
同月17日の負荷試験は,プラセボ負荷試験(単なるハンバーグ)で
あり,原告は無症状であった。
同月18日の負荷試験は,ハンバーグに牛乳50ml相当の脱脂粉乳
を混ぜたものを使用した負荷試験であり,午前中に実施された。原告は,
主観的症状(口腔内違和感,咽喉頭症状など,本人にしか分からない症
状)を訴えたが,客観的症状(他人から見て明らかな症状)の出現は認
められず,主観的症状の訴えに対応するようなバイタルサイン(心拍数,
呼吸数,血圧,経皮酸素飽和度等)の変化も認められなかった。担当医
及び当直医は,原告がハンバーグを食べ終わってからも頻繁に原告の症
状の観察をしていたが,医学的に治療を要する状態とは判断せず,薬物
投与は一切行わなかった。
上記の検査結果に照らし,担当医は判断を保留とした。
イ鑑定の結果
鑑定人は,上記ア(エ)の二重盲検負荷試験の判定は主観的症状としては陽
性ととれないことはないとしながらも,①即時型の牛乳アレルギーを惹起
するのに必要な特異的IgE抗体は上記ア(イ)の皮膚テスト・上記ア(ウ)の
血液検査のいずれにおいても陰性であったこと,②二重盲検負荷試験の際,
牛乳50ml相当という乳を含む加工品に含有されている以上の量(30
ml相当以上)を摂取しながら,主観的症状に加え客観的症状を伴わない
ことは,即時型の食物アレルギーの現象として考え難く,原告が牛乳によ
りアナフィラキシー(多臓器における即時型症状の出現)を起こすという
訴えは否定されること,③負荷試験を含め入院期間中に原告が訴えた主観
的症状(嗄れ声,呼吸困難,発声不可能,足に力が入らず歩行不可能など)
にはバイタルサインの変化などを伴わないこと,④牛乳アレルギーの発症
はそのほとんどは乳児期・幼児期早期であり,思春期に新規に発症するケ
ースはまず存在せず,幼児期以降の即時型牛乳アレルギーにおいては皮膚
テストや血液検査で特異的IgE抗体が証明されないことはほとんどない
ことから,原告は牛乳アレルギーではないと鑑定し,原告の訴える症状の
原因については,虚偽性障害,心身症,ヒステリー等の可能性などを指摘
している。
ウ判断
以上の鑑定の結果によれば,現在,原告が牛乳アレルギーであるとは認
められない。
そして,上記(1)エのとおり,C大学病院での検査(プリックテスト及び
二重盲検負荷試験)では,いずれも牛乳アレルギーは否定され,原告の症
状の原因は,二次性徴期の自律神経症状,心因性症状が考えられると判断
されていること,また,上記(1)イ(エ)の被告診療所での血液検査及び上記
(1)ウ(ア)のB市立病院での血液検査のいずれにおいても,牛乳アレルギー
については特異的IgE抗体の検査結果が陰性であったことも併せ考慮す
ると,原告が被告診療所での各抗生剤投与以降,牛乳アレルギーを発症し
ていたとも認められない。
エ原告の主張について
原告は,上記鑑定について,①原告は,即時型のみならず遅延型の牛乳
アレルギーも有しているところ,遅延型については検討されていないこと,
②原告がD病院で牛乳アレルギーと診断されていることについて検討され
ていないこと,③鑑定人自らが原告を観察等しておらず鑑定方法として不
当であることからすると信用できない旨主張するので,以下,これらの点
について検討する。
(ア)遅延型について検討されていないとの主張について
鑑定においては,上記ア(エ)のとおり,二重盲検負荷試験が実施されて
いるところ,上記(2)ア(ウ)b(b)のとおり,二重盲検負荷試験は即時型の
症状の診断のみならず食物アレルギーの関与を疑うアトピー性皮膚炎な
どの慢性的な症状(非即時型の症状)の診断をも目的とする検査である。
そして,上記ア(エ)のとおり,平成24年1月18日午前中に原告に脱
脂粉乳を経口摂取させてから同日夜に至るまで,担当医及び当直医によ
って原告の症状は継続的に観察されていること,鑑定書にも「負荷試験
当日「足に力が入らない」,翌日朝に「歩行ができない」という訴えも
あったが,血圧の低下もなく,アレルギー症状としてもこれらの症状・
訴えは理解しがたい現象である。」との記載や,「「声が出ない」とい
う訴えに関しても負荷試験時にバイタルサインに変化がない状況でアレ
ルギー症状として翌日まで遷延することも通常あり得ない。」との記載
があることからすると,鑑定は,即時型の症状のみならず非即時型の症
状についても観察する態勢で行われており,遅延型についても検討され
ているものと認められる。
したがって,遅延型について検討していない点を捉えて鑑定が信用で
きないとの原告の主張は,前提を欠き採用することができない。
(イ)D病院における診断について検討されていないとの主張について
a上記(1)オ(ア)のとおり,D病院のH医師は,原告に対し,DLST
及びプリックテストを行ったところ,DLSTはミルクが陽性,プリ
ックテストは牛乳が強陽性の結果であったことなどから,原告を乳ア
ナフィラキシー等と診断した(甲A23の1・35頁)。
また,上記(1)オ(イ)のとおり,同病院の医師が原告に対し,牛乳匂
いテスト及び牛乳負荷テストを行ったところ,原告は,牛乳匂いテス
トでは嗄れ声,発声不能,ふらふら感などの症状を訴え,牛乳負荷テ
ストでは嗄れ声,喉頭のきつい感じなどの症状を訴えたことなどから,
同病院のI医師は,原告を乳アナフィラキシー等と診断した(甲A2
3の1・49頁)。
bしかしながら,プリックテストは,陽性であってもアレルギー症状
を来す「可能性がある」ことを示唆するが,「アレルギーがある」こ
とを示すものではなく,偽陽性も少なくないとされる検査法であり,
D病院におけるプリックテストにおいて陽性の反応が出たことをも
って,直ちに原告が牛乳アレルギーであると認めることはできない。
また,上記(1)オ(イ)のとおり,D病院の負荷試験はオープン法で行
われているところ,上記のとおり,オープン法は,診断方法の精度の
点で二重盲検法に劣るというべきであるし,上記(1)ウ(イ),(エ),同エ
のとおり,原告の診察をしたB市立病院のF医師,C大学病院の医師
ら複数の医師が,原告の症状が心因性である可能性を指摘し,鑑定人
も同意見であるところ,このような原告の診断をするに際しては,心
理的影響を排除する必要性は高く,牛乳を摂取することが分かるオー
プン法での検査結果による診断には限界があるといわざるを得ない。
さらに,D病院での負荷試験の判断において,原告の主観的症状のみ
ならず客観的症状やバイタルサインの変化なども総合考慮して牛乳ア
レルギーであるとの診断に至ったことを裏付けるに足りる証拠はない。
他方,上記(1)エ(イ)のとおり,C大学病院における負荷試験は二重
盲検法で行われ,上記ア(エ)のとおり,鑑定における負荷試験も同方法
で実施され,いずれの検査結果も原告の牛乳アレルギーを否定するも
のであった。また,上記(1)エ(イ),及びア(イ)のとおり,C大学病院の
検査及び鑑定のいずれにおいてもプリックテストで牛乳アレルギーは
陰性とされており,これらによっても各二重盲検負荷試験の結果は裏
付けられており,各検査結果の信頼性は高いというべきである。
c以上検討したところを総合考慮すると,D病院の医師らの診断結果
が,鑑定やC大学病院の医師らの検査結果よりも信用できるものとは
認められず,原告の指摘する点を踏まえても,鑑定が信用できないと
の原告の主張は,採用することができない。
(ウ)鑑定方法が不当であるとの主張について
証拠(甲A25,27,鑑定書)及び弁論の全趣旨によれば,鑑定人
は,鑑定の補助者として医師を使用して鑑定を行っているが,同医師は
アレルギーに関する専門医であることが認められ,同医師を補助者とし
て原告の症状の観察等を行い,鑑定を行ったことに何ら不適切な点は認
められない。
(エ)結論
以上からすれば,原告の上記主張はいずれも失当である。
2争点2(牛乳アレルギー発症の機序)について
(1)以上認定判断したとおり,原告は,牛乳アレルギーを発症したとは認めら
れないが,念のため,抗生剤の投与で腸内細菌叢のバランスが崩れて牛乳ア
レルギーを発症する旨の原告の主張する機序について検討する。
(2)原告がわずか3日間の抗生剤の投与であっても腸内細菌叢のバランスが
崩れること(抗生剤投与による菌交代現象)の根拠とする医学的知見(甲B
6)は,乳幼児期の腸内細菌叢の形成に対する抗生剤投与の影響に関するも
のであり,しかも,生後3日間に渡り感染症防御のために抗生剤を投与され
た新生児という非常に限定的なケースに関するもので,被告医師に抗生剤を
投与された当時13歳であった原告にも同様に当てはまるとは言い難い。
そして,上記1(2)ア(ア)の医学的知見によれば,腸管の経口免疫寛容の不
成立又は破綻が食物アレルギーの原因の主要な機序の一つとされており,腸
内細菌叢の正常な分布(共生菌が十分存在すること)が経口免疫寛容の正常
な機能に影響を与えることを指摘する文献(甲B6,同B9,同B10)も
あるが,腸内細菌叢がアレルギーに影響する機序については明らかになって
いないとする指摘(甲B6・36頁)もある上,鑑定人は,食物アレルギー
の専門医の立場から,抗生剤の投与で腸内細菌叢のバランスが崩れて牛乳ア
レルギーを発症することは通常まず起こりえない旨意見を述べている。結局,
抗生剤の投与が腸内細菌叢に与える影響の内容や程度に関しても,また,被
告医師の抗生剤の投与によって原告の腸内細菌層がバランスを崩し,腸管免
疫寛容が破綻したことに関してもこれらを認めるに足りる証拠はないといわ
ざるを得ない。
(3)そうすると,原告がその他縷々主張するところを検討しても,本件におい
て被告医師による抗生剤の投与で原告の腸内細菌叢のバランスが崩れて牛
乳アレルギーを発症したものと認めることはできない。
第4結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は
理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官平田豊
裁判官長谷川秀治
裁判官國井香里

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