弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成30年9月7日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第9003号意匠権等侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成30年7月11日
判決
原告株式会社アルページュ
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
和田祐造
山本真祐子10
同訴訟復代理人弁護士久礼美紀子
同訴訟代理人弁理士小出俊寛
幡茂良
同補佐人弁理士蔵田昌俊
吉田親司15
被告株式会社レッセ・パッセ
同訴訟代理人弁護士松井秀樹
太田大三20
鷲野泰宏
荒井康弘
同訴訟復代理人弁護士岩寺桂子
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。25
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙1被告物件目録記載の商品を製造,譲渡,貸し渡し,又は譲渡
若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。
2被告は,前項の商品を廃棄せよ。5
3被告は,原告に対し,5396万円及びこれに対する平成28年3月29日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4訴訟費用は被告の負担とする。
5仮執行宣言
第2事案の概要10
1本件は,原告が,被告に対し,被告の販売する別紙1被告物件目録記載の商
品(以下「被告商品」という。)の意匠(以下「被告意匠」という。)は原告の
有する意匠権(以下「本件意匠権」という。)に係る意匠(以下「本件登録意
匠」という。)に類似し,また被告商品の形態は原告の販売する婦人用コート
の形態を模倣したものであると主張し,被告に対し,①意匠法37条1項及び15
2項並びに不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号,3条1
項及び2項に基づき,被告商品の製造,譲渡等の差止め及びその廃棄を求める
とともに,②平成27年10月9日より前の被告商品の販売につき不競法5条
2項に,同日以降につき意匠法39条2項及び不競法5条2項に基づき,損害
賠償金4896万円及び弁護士費用相当額500万円(合計5396万円)並20
びにこれに対する不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である平成28
年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全
趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,25
特に断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア原告は,婦人用被服の企画,製造並びに販売をする株式会社である。
イ被告は,婦人用被服の企画,製造並びに販売をする株式会社である。
(2)原告の意匠権
ア原告は,次の内容の本件意匠権を有している(甲1)。5
登録番号:第1537464号
意匠に係る物品:コート
出願日:平成27年1月30日(意願2015-1810。意匠法4条
2項の適用を申請)
登録日:平成27年10月9日10
本件意匠:別紙4意匠公報(以下「本件公報」という。)の【図面】記載
のとおり
イ原告が本件登録意匠の出願の際に特許庁に提出した「新規性の喪失の例
外規定の適用を受けるための証明書」(以下「本件証明書」という。乙7)
には以下の内容の記載があり,同証明書には原告ホームページ上のウェブ15
ページの印刷物が添付され,そこには原告の商品である「5WAYコクー
ンコート」(商品番号24421971。以下「原告商品甲」という。甲7
の1)の写真が掲載されている(以下,本件証明書に掲載された意匠を「本
件証明書掲載意匠」という。)。
(ア)公開した意匠:本件証明書に添付した別紙に記載のArpeges20
tory「5wayコクーンコート」の意匠
(イ)公開の方法:インターネット上の下記アドレスのホームページに掲載
(ウ)公開した者:原告
(エ)公開した日:2014年8月1日
ウ被告は,平成28年10月18日,本件意匠登録に対する無効審判を請25
求し,特許庁はこれを無効2016-880020号事件として審理した
上で,平成29年11月21日,本件意匠登録を無効とする旨の審決をし,
その謄本は,同月30日に原告に送達された。
これに対し,原告は,本件審決の取消しを求める訴え(平成29年(行
ケ)第10234号事件)を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成3
0年7月19日,引用商標(後記原告先行意匠A)について新規性喪失の5
例外規定の適用を認められないなどと判断し,審決に取り消されるべき違
法はないとして原告の請求を棄却した。
(3)各商品の販売
ア原告は,平成26年8月1日頃から女性用コート(商品番号24422
350。以下「原告商品A」という。甲7の2)を「Apuweiser-10
riche(アプワイザー・リッシェ)」というブランド名(以下「原告ブ
ランド」という。)で販売している。
また,原告は,平成27年8月1日頃から女性用コート(商品番号25
422770。以下「原告商品B」といい,原告商品A及びBを総称して
「原告商品」という。甲7の3)を原告ブランド名で販売している。15
原告商品A及びBの形態は些細な点を除いて同一であり,原告商品は本
件意匠権の実施品である。なお,原告商品甲は,フード周りのファーが存
在しない点で原告商品A及びBと異なる。
原告商品の外観・形状等の概要は別紙2のとおりである。
イ被告は,平成27年8月頃から被告商品を「LAISSEPASSE20
(レッセ・パッセ)」というブランド名(以下「被告ブランド」という。)
で販売している。
被告商品の外観・形状等の概要は別紙3のとおりである。
ウ株式会社ベイクルーズは,遅くとも平成25年12月18日頃から「I
ENA」というブランド名で「ダブルフェイスメルトンノーカラーフード25
ツキコート(品番13020900390040)を販売している(以下,
当該商品を「IENA商品」といい,IENA商品の意匠を「IENA意
匠」という。)。
3争点
(1)意匠権侵害について
ア被告意匠は本件意匠に類似するか(争点1)5
イ本件登録意匠と先行公知意匠との同一性若しくは類似性又はこれに基づ
く創作容易性(争点2)
(ア)IENA意匠(乙4,5)(争点2-1)
(イ)原告の「コクーンコート」(原告先行意匠A。甲7の2。商品番号2
4422350)(争点2-2)10
(ウ)原告の「5WAYコクーンコート」(原告先行意匠B。甲7の1。商
品番号24421971)(争点2-3)
(2)形態模倣(不競法2条1項3号)該当性について(争点3)
(3)損害額(争点4)
第3当事者の主張15
1被告意匠は本件意匠に類似するか(争点1)
〔原告の主張〕
(1)本件登録意匠の構成態様等
ア構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的態様は,以下のとおりである。20
[基本的構成態様]
(A)全体が,長袖ミディアム丈のフード付きコートであり,フード周り及
び袖口にファーを取り付けた態様のものであって,
(B)その使用態様において,需要者がフードのファー,フード,及び袖口
のファーを適宜取り外しできる態様のものである。25
[具体的態様]
(C)コートの胴部は,正面視において略中央付近に,縦に1本線が入って
おり,そのやや左側にこれに平行な1本線が入っている比翼仕立て(表
からボタンやファスナー等を見えなくするために前立てを二重にするこ
と)となっており,
(D)コート胴部の両側にポケットを形成し,5
(E)コート背面の腰部にコートと同色の帯状ベルトを付け,
(F)フードのファーは,天幅方向に,天幅の約2倍の長さを有するように
首周りに略環状に形成したものであり,
(G)袖口のファーは,袖口周りに略環状に形成され,正面視において略横
長長方形状の態様のものであり,10
(H)その使用態様において,需要者が胸元のビジューブローチを適宜取り
外しできる態様のものである。
イ要部
本件登録意匠に係る物品はコートであるところ,需要者がコートを選ぶ
際にはその丈感等の全体的形状に着目するものであるから,基本的構成態15
様Aは要部である。また,需要者がコートを選ぶ際には,その使用態様と
いう機能性にも着目するところ,基本的構成態様Bは,原告の新規な創作
的部分に係る部分であり,特に需要者の注意を惹くものであるから,同態
様も要部である。
(2)被告意匠の構成態様20
被告意匠の基本的構成態様及び具体的態様は,以下のとおりである。
[基本的構成態様]
(A)全体が,長袖ミディアム丈のフード付きコートであって,フード周り
及び袖口にファーを取り付けた態様のものである。
(B)その使用態様において,需要者がフードのファー,フード及び袖口の25
ファーを適宜取り外すことのできる態様のものである。
[具体的態様]
(C)コートの胴部は,正面視において略中央付近に,縦に1本線が入って
おり,そのやや左側にこれに平行な1本線が入っている比翼仕立てとな
っている。
(D)コート胴体部の腰部両側にポケットを設けたものである。5
(E)’コート背面の腰部にベルトを設けない態様のものである。
(F)フードのファーは天幅方向に,天幅の約2倍の長さを有するように首
周りに略環状に形成したものである。
(G)袖口のファーは,袖口周りに略環状に形成され,正面視において略横
長長方形状となっておる。10
(H)その使用態様において,需要者が胸元のビジューブローチを適宜取り
外すことのできる態様のものである。
(3)本件登録意匠と被告意匠との対比
ア共通点
本件登録意匠と被告意匠とは,上記(A)~(D),(F)~(H)において共通す15
る。
イ相違点
本件登録意匠はコート背面の腰部にコートと同色の帯状のベルトを付
けた態様であるのに対し(上記(E)),被告意匠はコート背面の腰部にベル
トを設けない態様である点(上記(E’))において相違する。20
(4)類否
本件登録意匠と被告意匠は,上記(A)~(D),(F)~(H)において共通するの
に対し,相違点は,背面の形状であって需要者の注意を惹くものではなく,
背面の腰部における帯状のベルトはありふれた態様であり,これを付けるか
否かは当業者が適宜選択可能である。25
したがって,本件登録意匠と被告意匠は類似する。
〔被告の主張〕
(1)本件登録意匠の構成態様等
ア原告の主張に対する認否
本件意匠の基本的構成態様は,全体が長袖のフード付きコートであるこ
と,フード周り及び袖口にファーが取り付けられていること,正面視にお5
いて腰部が膨らみ裾方向に窄まった形状をしていること,腰部に帯状のベ
ルトが設けられていること,胴部の両側にポケットが設けられていること
などである。原告の主張する基本的構成態様(A)のうち,ミディアム丈であ
ることは,そもそも本件公報に寸法等は記載されていないので,基本的構
成態様とはいえず,基本的構成態様(B)は,形態を離れた機能そのものであ10
り,意匠の内容とならない。
イ構成態様
本件登録意匠の構成態様は,以下のとおりである。
①長袖のフード付きコートである。
②全体の輪郭(シルエット)として,胸部と腰部(ヒップ)に膨らみを15
持たせつつ,胴部(ウエスト)を絞ったデザインであり,また,正面視
において,腰部(ヒップ)が膨らんでおり裾方向に窄まった形状(いわ
ゆるコクーン型)をしている。
③フード周り及び袖口にファーが取り付けられている。
④コートの胴体部は,正面視において略中央付近に,縦に一本線が入っ20
ており,そのやや左側にこれに平行な一本線が入っている。
⑤ポケット様の2つの矩形の布部材がコート胴体部の腰部前面左右に,
布部材の長手方向がコート本体の中心線と垂直な方向となるように,布
部材の上縁部がコート本体に縫い付けられフラップが形成されている。
⑥コート胴体部の前面側部の縦方向の切替え線が上記⑤のポケット様の25
布部材によって分断されている。前面胸部に左右1本ずつの切替え線が
上方斜め方向に入っている。
⑦コート背面の腰部にコートと同色の帯状の飾りベルトを付けている。
⑧コート背面中央を縦方向に貫く切替え線が配置されている。
⑨フードのファーは,本件登録意匠の図面上(フードの形につき天幅方
向に長く楕円状の状態において),天幅方向に,天幅の約2倍の長さを5
有するように首回りに略環状に形成したものである。
⑩袖口のファーは,袖口周りに略環状に形成され,正面視において略横
長長方形状となっている。
⑩-2取り外した袖口のファーをつなげて首回りに取り付けた態様を有す
る。10
⑪ビジューブローチ等の装飾を備えない。
⑫コートに取り付けられたフードは,背面視においてその横幅が肩口に
及ばず,側面視において膨らみの少ないコンパクトなものである。
⑬袖丈が身丈の約75%の長さとなっている。
⑭フード周り及び袖口に取り付けられたファーには,コート本体と異な15
る系統の配色がなされている(いわゆるツートンカラーである。)。
ウ要部
上記のうち,本件意匠の基本的構成態様は,②,⑤,⑥,⑦,⑧及び⑭で
ある。
(2)被告意匠の構成態様20
被告商品の意匠の構成態様は,以下のとおりである。
①長袖のフード付きコートである。
②’全体の輪郭(シルエット)として,胴体部側部の切替え線を支点として
ボックス様のデザインであり,また,正面視において腰部から裾にかけて
広がっていく形状(いわゆるAライン様)をしている。25
③フード周り及び袖口にファーが取り付けられている。
④コートの胴体部は,正面視において略中央付近に,縦に1本線が入って
おり,そのやや左側にこれに平行な1本線が入っている。
⑤’コート胴体部の腰部に2つポケットを設けたものであり,各ポケット口
の布部材は矩形であり,コート胴体部の腰部側面左右に,コート本体の中
心線と略平行となるように,布部材の上縁部,下縁部及び内側縁部がコー5
ト本体に縫い付けられており,フラップが形成されていない。
⑥’コート胴体部の前面側部の縦方向の切替え線は,上記⑤’のポケットに
沿うように配置され,上記⑤’のポケットによって分断されていない。前
面胸部に本件登録意匠のような切替え線が入っていない。
⑦’コート背面の腰部に飾りベルトを付けていない。10
⑧’コート背面の腰部に横方向の切替え線が配置され,コート背面の縦方向
の切替え線は,当該横方向の切替え線の存在する部分で終了している。
⑨フードのファーは,訴状に掲載されている被告意匠の写真上(フードの
形につき縦横均等の菱形状の状態において),天幅方向に,天幅の約2倍
の長さを有するように首回りに略環状に形成したものである。15
⑩袖口のファーは,袖口周りに略環状に形成され,正面視において略横長
長方形状となっている。
⑩’-2取り外した袖口のファーをつないで首回りに取り付けることのでき
る態様を備えていない。
⑪’コートの略中央に入った2本の1本線の間の略上端部分にビジューボタ20
ンを備えている。
⑫’コートに取り付けられたフードは,背面視においてその横幅が肩口まで
及び,側面視において膨らみの多い大きさである。
⑬’袖丈が身丈の約80%の長さとなっている。
⑭’フード周り及び袖口に取り付けられたファーには,コート本体と同じ系25
統の配色がなされている。
(3)本件登録意匠と被告意匠との対比
ア共通点
原告登録意匠と被告意匠とは,上記①,③,④,⑨及び⑩において共通
する。
イ相違点5
原告登録意匠と被告意匠とは,上記②,⑤~⑧,⑩-2及び⑪~⑭におい
て相違する。
(4)類否
原告登録意匠と被告意匠は,コートの配色(上記⑭),飾りベルトの有無
(上記⑦),ポケットの形状(上記⑤),コート全体の輪郭(上記②),切替10
え線の有無,形状(上記⑥及び⑧)といった基本的構成態様において大きく異
なっているので,具体的態様を検討するまでもなく,本件登録意匠と被告意
匠とは需要者をして異なる美感を生じさせる。
他方,原告が主張する共通点のうち,上記①,③,④及び⑩については,
公知意匠であるため需要者の注意を惹かないものであり,また,上記⑨につ15
いても需要者が注意を惹かれる部分ではないので,これらの共通点をもって
原告登録意匠と被告意匠が類似しているということはできない。
したがって,本件登録意匠と被告意匠とは類似していない。
2争点2(本件登録意匠と先行公知意匠との同一性若しくは類似性又はこれに
基づく創作容易性)について20
(1)争点2-1(IENA意匠)について
〔被告の主張〕
IENA意匠は,ファーに関する態様(本件登録意匠に関する上記③,⑨,
⑩及び⑭)を除いて本件登録意匠と同一の態様を有しており,本件登録意匠
とIENA意匠とは類似している。25
仮に,本件登録意匠とIENA意匠とが類似していないとしても,本件登
録意匠は,IENA意匠に対し,袖口及びフード周りにファーを付属したも
のにすぎない。袖口及びフード周りにファーを付属させるデザインは,女性
用コートにおいて一般的な手法であり,本件登録意匠の出願時においてIE
NA意匠に基づき本件登録意匠を創作することは容易であった。
したがって,本件登録意匠は無効にされるべきものである。5
〔原告の主張〕
IENA意匠は,本件登録意匠の要部を構成する「袖口及びフード周りに,
取り外しができるファー」を取り付けておらず,本件登録意匠とIENA意
匠とは非類似の意匠である。
また,袖口及びフード周りにファーを付属させるデザインは女性用コート10
において多く存在するとしても,どのような形態のファーをどのような態様
で取り付けるかはコートのデザインにおいて重要な要素であり,IENA意
匠に基づき当業者が容易に創作することができたということはできない。
(2)争点2-2(原告先行意匠A)について
〔被告の主張〕15
原告は本件登録意匠の出願(平成27年1月30日)に当たり,新規性喪
失の例外規定(意匠法4条2項)の適用を申請し,同規定の適用に必要な本
件証明書を提出している。同証明書には原告商品甲に係る意匠(本件証明書
掲載意匠)が記載されているが,平成26年8月1日に販売されて本件登録
意匠の出願日より前に公知となった原告商品A(商品番号24422350。20
甲7の2)に係る原告先行意匠Aは記載されていない。
新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには,適用を受けようとする公
開意匠全てにつき「証明する書面」に記載することが必要とされ,類似する
意匠はいうまでもなく,実質的に同一の公開意匠についても省略することは
許されない。本件証明書に記載されていない原告先行意匠Aと本件証明書掲25
載意匠とを比較すると,その商品番号が異なる上,フード周りのファーが存
在しないという構成態様上の差違があり,その差違が微差であるということ
はできないので,原告先行意匠Aは新規性喪失の例外規定の適用対象とはな
らない。
そこで,本件登録意匠と原告先行意匠Aとを対比すると,両意匠は類似し
ているということができ,また,本件登録意匠は,原告先行意匠Aからその5
構成要素であるビジューブローチを取り除いたものにすぎないので,原告先
行意匠Aに基づき本件登録意匠を創作することは容易であったということが
できる。
したがって,本件登録意匠は無効にされるべきものであるので,本件意匠
権に基づく請求は理由がない。10
〔原告の主張〕
新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには,適用を受けようとする公
開意匠全てを「証明する書面」に記載しなければならないわけではなく,同
書面に記載された意匠と実質的に同一のものについては,同書面に掲載しな
くても同証明書に記載されたものとして新規性を喪失しないと解すべきであ15
る。
本件証明書に記載された原告先行意匠Aと本件証明書掲載意匠とは,フー
ドのファーの有無のみにおいて相違するにすぎず,社会通念上,意匠の表現
として実質的に同一ということができる。また,当業者において,原告商品
のようなフード付のコートについて袖にファーを付けた場合にフードにファ20
ーを付けることは常識的かつ普通なことである。
そうすると,原告先行意匠Aが本件証明書上に記載されていないとしても,
新規性を喪失することはないというべきである。
(3)争点2-3(原告先行意匠B)について
〔被告の主張〕25
本件証明書掲載意匠は,前記のとおり原告商品甲に係る公開意匠(平成2
6年8月1日公開)であるが,原告は,本件意匠の出願日より6か月以上前
である平成26年7月18日時点において,同一の原告商品甲に係る原告先
行意匠Bをそのウェブサイト上に掲載している(乙8)。意匠法4条2項は,
意匠登録出願の日から6か月以内の行為について新規性喪失の例外を認める
ものであるから,本件登録意匠の出願日の6か月より前に掲載された原告先5
行意匠Bは,新規性喪失の例外規定の適用対象とはならない。
そこで,本件登録意匠と原告先行意匠Bとを対比すると,原告先行意匠B
は本件登録意匠の実施品とフード周りのファーの有無という相違点以外は同
一の形態であるから,両意匠は類似しているということができ,また,本件
登録意匠は,原告先行意匠Bにフード周りのファーを加えたにすぎないので,10
原告先行意匠Bに基づき本件登録意匠を創作することは容易であったという
ことができる。
したがって,本件登録意匠は無効にされるべきものであるので,本件意匠
権に基づく請求は理由がない。
〔原告の主張〕15
意匠が不特定者に公然知られた状態になったといえるためにはその一部が
視認されただけでは足りず,意匠の全体が視認されなければならない。平成
26年7月18日時点における原告ウェブサイト上には,眼鏡をかけた人物
が着用しているコートの写真が掲載されているが,この写真のみでは本件登
録意匠の基本的構成態様及び具体的態様は不明であり,これにより本件登録20
意匠が不特定者に公然知られた状態になったということにはならない。
したがって,原告先行意匠Bは,本件登録意匠の先行公知意匠とはなり得
ないので,本件意匠について無効理由は存在しない。
3争点3(形態模倣(不競法2条1項3号)該当性)について
〔原告の主張〕25
(1)原告商品の形態
原告商品の基本的形態及び具体的形態は,前記1〔原告の主張〕(1)ア(A)
~(H)(以下,符号に従い「形態A」などという。)に以下の形態を付加した
ものである。
(I)フードは側面視において略三角形状である。
(J)フード及びフード周りのファーが付されている場合の側面視において,5
フードと当該ファーの長さ比は約1対1である。
(K)ビジューブローチの形状が,縦長形状の中央の大きなビジューの周囲を
小さなビジューが取り囲む形状である。
(2)被告商品の形態
被告商品の基本的形態及び具体的形態は,前記1〔原告の主張〕(2)(A)~10
(H)に上記(I)~(K)の形態を付加したものである。
(3)原告商品と被告商品との形態の対比
ア共通点
原告商品と被告商品の形態は,形態A~D,F~Kにおいて共通する。
イ相違点15
原告商品はコート背面の腰部にコートと同色の帯状のベルトを付けた態
様のものであるのに対し(形態E),被告商品はコート背面の腰部にベル
トを設けない態様のものである点(形態E’)において相違する。
(4)実質的同一性
ア原告商品と被告商品は,上記の共通点を有するところ,これらの共通点20
に係る形態はいずれも創作的なものであり,少なくとも形態Bは同種商品
にはない新規なものである。これに対し,相違点(態様EとE’)は,背面
の形状であって需要者の注意を惹くものではなく,背面の腰部における帯
状のベルトはありふれた形態であるので,原告商品と被告商品の形態は実
質的に同一である。25
被告は,需要者がフードのファー,フード及び袖口のファーを適宜取り
外すことができる形態であること(形態B)は機能にすぎないと主張する
が,原告は取り外し可能であることが「形態」と主張しているのではなく,
ファー等を着脱した後の外観上認識し得る状態が「形態」に当たると主張
しているのであるから,被告の反論は理由がない。
さらに,形態A~C及び形態F及びHは,公知にすらなっていない創作5
的なものである。
イ以下のとおり,被告の主張する相違点は相違点ではないか,部分的かつ
些細なものにすぎず,実質的同一性の判断に影響を与えない。
(ア)全体の輪郭
被告は商品全体の輪郭が異なると主張するが,両商品の輪郭は完全に10
同一であるので,この点は共通点である。仮に被告が指摘する相違点が
存在するとしても,一見して確認することができない程度の些細のもの
であり,実質的同一性の判断に影響を与えない。
(イ)ポケットの形状
女性用コートにおいて需要者が着目するのはファーや輪郭であり,ポ15
ケットの態様が着目されることは少ない(甲71~75)。また,被告
商品のポケットの形態は,コートのポケットの形状としてありふれたも
のにすぎず,原告商品の形態をこれに置き換えることは極めて容易であ
る。さらに,ポケットの形状に係る相違点は,部分的かつ些細なもので
あり,全体の形態に影響を与えない。20
(ウ)ベルトの有無
ベルトの有無は,需要者が最も着目する正面視ではなく背面視におけ
る形態に係る相違点であり,需要者から着目されることは少ない(甲7
1~75)。また,原告商品に設けられた飾りベルトはコートと同色で
あるため,それ自体目立つものではない。さらに,飾りベルトをなくす25
という改変は極めて容易に着想し得るものである上,被告の指摘する相
違点は部分的かつ些細なものであり,全体の形態に影響を与えない。
(エ)胸部,側面及び背面の切替え線の形状
コートの切替え線は,一見して確認することができるものではなく,
需要者が着目するとは考え難い。切替え線に関する相違点は他の相違点
に係るものであって独立した相違点とはならず,また,被告の指摘する5
相違点は部分的かつ些細なものであり,全体の形態に影響を与えない。
(オ)フードの大きさ
フードは,他の生地に比べて撓みやすく,変化し易い態様であるから,
背面視における横幅及び側面視における膨らみといった安定性に欠ける
形状をもって比較することは妥当ではない。また,被告の指摘する相違10
点が存在するとしても,ごくわずかな部分的なものにすぎず,全体の形
態に影響を与えない。
(カ)ファーとコート本体の配色
被告は,ファーとコート本体の配色を相違点として挙げるが,原告商
品のファーはベージュ系統であり,コート本体と同じ系統の配色がされ15
ている(甲7の2,3)ので,この点は共通点である。仮にこの点が相違
点であるとしても,ごくわずかな部分的なものにすぎず,全体の形態に
影響を与えない。
(キ)袖丈と身丈のバランス
原告商品と被告商品の袖丈と身丈は一致するので,この点は相違点で20
はなく,共通点である。被告の指摘する相違点は,袖丈の長さに対する
身丈の長さがわずか5%異なるというものにとどまり,長袖であること
に変わりないので,需要者がこの点に着目するとは考え難い。また,被
告の指摘する相違点は部分的かつ些細な点にすぎず,全体の形態に影響
を与えない。25
(ク)ビジューブローチ/ビジューボタン
原告商品と被告商品のビジューブローチ/ビジューボタンは,真ん中
の大きなシルバーのビジューの周りを小さなビジューが取り囲んでお
り,前立ての2本線内に収まるという点で共通している。また,ピン留
めのブローチを縫い付けるという改変は容易に着想し得るものである
上,被告の指摘する相違点は部分的かつ些細なものであり,全体の形態5
に影響を与えない。
(ケ)正面視におけるコート胴体部の留め具
原告商品におけるファスナー及び被告商品におけるボタンは前立てに
隠れており,需要者において着目する部分ではない。また,原告商品の
形態をボタンに置き換えることは容易に着想し得る上,被告の指摘する10
相違点は部分的かつ些細なものであり,全体の形態に影響を与えない。
(コ)前立て
前立てが一重か二重かはコートの内部形状に関するものであり,着用
時において一見して明らかなものではなく,需要者において着目する部
分ではない。また,被告の指摘する相違点は部分的かつ些細なものであ15
り,全体の形態に影響を与えない。
(サ)スナップボタンの数
スナップボタンは前立てに隠れているため,需要者において着目する
部分ではない。また,スナップボタンを1つから2つにすることは極め
て容易である上,被告の指摘する相違点は部分的かつ些細なものであり,20
全体の形態に影響を与えない。
(シ)袖口ファーの形状
原告商品も被告商品も取り外した状態は環状であり,この点は相違点
ではなく,共通点である。
(ス)フードの裏地25
フードの裏地の生地はフードの表地と同じ素材であることからその差
違は一見して確認することはできず,またフードの裏側は需要者におい
て注目されない部分であるので,被告の指摘する相違点は極めて些細な
ものであり,全体の形態に影響を与えない。
(セ)フード周りの線
フード周りの線は,一見して確認することができるものではなく,需5
要者が着目するとは考え難い。被告の指摘する相違点は部分的かつ些細
なものであり,全体の形態に影響を与えない。
(ソ)取り外した袖口のファーを首回りに取り付ける態様の有無
被告の指摘する相違点は,両袖口のファー及びフードを取り外した上
で首回りに両袖口のファーを付した形態であって,他の取り外しに起因10
する形態に比して多大な手間を要するものであり,需要者が特に着目す
るものとは考え難い。
ウ以上によれば,原告商品と被告商品の形態は実質的に同一である。
(5)依拠性
原告ブランドと被告ブランドは,同種のカテゴリーに属するブランドであ15
るため,日常的に互いに商品バリエーションを確認することが通常であり,
実際に,両ブランドは,百貨店等において店舗が近接することが多く,被告に
おいて原告商品の形態にアクセス可能かつ容易であった。
(6)請求主体としての適格性
原告商品はIENA商品の形態を模倣したものではなく,原告は「模倣さ20
れた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者」である。
原告商品とIENA商品の形態は,①原告商品は,全体が長袖ミディアム
丈のフード付きコートであって,フード周り及び袖口にファーを取り付けた
態様のものであるのに対し,IENA商品にはフード周り及び袖口にファー
が存在しない点,②原告商品は,その使用態様において,需要者がフードの25
ファー,フード及び袖口のファーを適宜取り外すことのできる態様であるの
に対し,IENA商品はフードの取り外しができるにすぎない点,③原告商
品の生地は,柔らかい印象を与える質感・風合のものであるのに対し,IE
NA商品の生地は,肉厚なメルトンであって,ハリのある印象を与える質感
である点で相違している。これらは,重要かつ特徴的な形態であるから,両
商品の形態に実質的同一性は認められない。5
また,原告ブランドはエレガンス系のブランドであるのに対し,IENA
はカジュアル系のブランドであり,原告ブランドとIENAは異なる種類の
ブランドであって,原告はIENAの商品バリエーションを通常確認してい
ない。
したがって,原告がIENA商品を模倣したものとはいえない。10
〔被告の主張〕
(1)原告商品の形態
原告商品の形態は,前記1〔被告の主張〕(1)イ①~⑭(ただし,⑪に対応
する形態は下記⑪-2である。)に以下の形態を付加したものである(以下,
符号に従い「形態①」などという。)。15
⑪-2任意の場所にピン留めできるビジューブローチ(様々な色が配色さ
れている)が付属している(乙9の9)。
⑮コート胴体部の正面視において略中央付近の前立ての裏側にはファス
ナーが設けられている。
⑯形態④の前立て部分は,前立てが一重となっている。20
⑰スナップボタン(襟元を閉めるためのボタン)が1つのみ取り付けら
れている(乙9の7)。
⑱袖口のファーが,平面的な略長方形様である(乙9の5,6)。
⑲フードの裏側にも布生地が仕立てられている(生地が二重となってい
る。)。25
⑳フード周りに1本線が略環状にデザインされている(乙9の8)。
(2)被告商品の形態
被告商品の形態は,前記1〔被告の主張〕(2)①~⑭’(ただし,⑪’に対
応する形態は下記⑪’-2である。)に以下の形態を付加したものである。
⑪’-2被告商品は,コートの略中央に入った2本の1本線の間の略上端
部分にビジューボタン(同系色が配色されている)が縫い付けられてい5
る(乙1の9)。
⑮’コート胴体部の正面視において略中央付近の前立ての裏側にはボタン
が設けられている。
⑯’形態④の前立て部分は,前立てが二重(比翼仕立て)となっている。
⑰’スナップボタン(襟元を閉めるためのボタン)が2つ取り付けられて10
いる(乙1の7)。
⑱’袖口のファーは,立体的な環状である(乙1の5,6)。
⑲’フードの裏側には布生地が仕立てられていない(裏生地が見える形状
となっている。)。
⑳’フード周りに平行する2本線が略環状にデザインされている(乙1の15
8)。
(3)原告商品と被告商品との形態の対比
ア共通点
原告商品と被告商品の形態は,形態①,③,④,⑨及び⑩において共通
する。20
イ相違点
原告登録意匠と被告意匠とは,形態②,⑤~⑧,⑩-2,⑪-2,⑫~⑳に
おいて相違する。
(4)実質的同一性
ア原告商品はフード,フード周りのファー及び袖口に取り付けられたファ25
ーをそれぞれ取り外すことができるが,取り外し可能であること自体は単
なる機能にすぎず,不競法2条1項3号の「商品の形態」には含まれない。
また,襟元,袖口及びフードに取り外し可能なファーを備え,ファーを
取り外して見た目の印象の異なる複数の形態において着用することは一般
的に想定され,そのようなフードを備える女性用コートは多く存在してお
り(乙2,3,25~30,32~38),原告商品に特徴的な形態という5
ことはできない。
さらに,原告は,形態I~Kも原告商品と被告商品の形態の共通点であ
ると主張するが,形態I及びJについては,コートのフードやファーが柔
らかい素材であることから,これを適宜変形させる過程で共通する形状に
すぎない。また,形態Kについては,被告商品はビジューブローチではな10
く,ビジューボタンを取り付けるものであるので,相違点である。
イ原告商品と被告商品の形態の共通点は,需要者の注意を惹くものではな
く,他方,原告商品と被告商品の形態には多数の相違点があるので,両商
品の形態が実質的に同一とはいえない。
これを敷衍すると,以下のとおりである。15
(ア)全体の輪郭(形態②)
原告商品の全体的な輪郭は,腰部が膨らんでおり裾方向に窄まったコ
クーン型の形状であり,また,胸部と要部に膨らみを持たせつつ,ウエ
ストを絞ったデザインであることから,女性の胸部と腰部を中心とした
身体のラインを強調しつつ,スリムな美感を与えるものである。20
これに対し,被告商品は,腰部から裾にかけて広がっていくAライン
様の形状であり,また,ウエスト側部の切替え線を支点としてボックス
様のデザインであることから,女性の身体のラインを隠し,柔らかい美
感を与えるものである。
このように,原告商品と被告商品とではコートの輪郭に関する設計思25
想が根本から異なる。
(イ)ポケットの形状(形態⑤)
女性用コートにおけるポケットは,コートの外観にとって極めて重要
なアクセントの一つであり,需要者が特に強い関心を持つ点である。原
告商品と被告商品のポケットは,その取付け位置や取付け態様,形状が
大きく異なり,需要者の美感に対して与える印象を全く異にする。5
(ウ)ベルトの有無(形態⑦)
女性用コートにおけるベルトは,コートの外観に極めて重要な影響を
与えるものであり,需要者が特に強い関心を持つ点である。原告商品の
ベルトは飾りとして取り付けられているものであり,背面のみならず側
面にも現れており,幅も太いので,需要者の目に必ず留まる。10
また,原告商品では,上記ベルトとポケット用のフラップ状布部材が
ほぼ同じ高さに設けられているので,腰部で横方向に分断するような太
いラインが形成されており,需要者にカジュアルな印象を与える。原告
商品においてベルトのデザインが重視されていることは,そのウェブサ
イトに「バックスタイルのベルトがポイント!!」(乙6),「飾りベ15
ルトを効かせて」(甲7の2)などと記載されているとおりである。
これに対し,被告商品はポケット用の布部材が縦方向に伸びた状態で
設けられ,飾りベルトもないので,縦ラインを強調する構成となってお
り,フェミニンな印象を与えるものである。
以上のとおり,ベルトの有無は更にポケットの形状の差違とあいまっ20
て,需要者の美感に大きく異なる印象を与えるものである。
(エ)胸部,側面及び背面の切替え線の形状(形態⑥,⑧)
原告商品の胸部左右の切替え線及び前面側部の切替え線(ポケット用
の布部材により分断)は,胸部及び腰部に膨らみを持たせつつ,身体の
ラインを強調したスリムな形状をもたらす一因となっている。他方,背25
面部の切替え線は,取り立てて特徴のある形状をしていない。
他方,被告商品においては,胸部の切替え線が設けられておらず,側
面の切替え線はポケットに分断されることなく縦方向に貫かれ,背面部
には外観上のデザインとして特徴のある切替え線が設けられている。被
告商品の切替え線は,被告商品にボックス様の膨らみを持つゆとりのあ
る形状をもたらす一因となっている。5
原告商品と被告商品との切替え線に関する上記相違点は,需要者の美
感に対して一見して異なる印象を与えるものである。
(オ)フードの大きさ(形態⑫)
女性用コートにおいてフードの大きさや形状はコート着用時におけ
る外観に大きな影響を与えるものである。原告商品と被告商品のフード10
の大きさの差違は,需要者の美感に対して一見して異なる印象を与える。
(カ)ファーとコート本体の配色(形態⑭)
コートの配色は,コートの外観上,大きな印象を与えるものであり,
需要者はこの点に着目することが通常である。原告商品は,コート本体
部の配色とフード周り及び袖口のファーの配色に異系色を用いているの15
に対し,被告商品では同系色を用いているので統一感のある色彩となっ
ている(甲24,37)。こうした配色に関する相違点は,需要者の美
感に対して一見して異なる印象を与えるものである。
(キ)袖丈と身丈のバランス(形態⑬)
需要者が女性用コートを購入したり着用したりする際には,需要者は20
袖丈と身丈のバランスに着目することが通常であるので,原告商品と被
告商品のこの点における差違は需要者の美感に対して一見して異なる印
象を与える。
(ク)ビジューブローチ/ビジューボタン(形態⑪-2)
原告商品のビジューブローチはコートの付属品にすぎず,前立てに取25
り付けるかどうかも需要者に委ねられるのに対し,被告商品の胸元に配
置されたビジューボタンはあくまでボタンとして取り付けられたもので
あり,その差違は需要者の美感に一見して異なる印象を与えるものであ
る。
(ケ)正面視におけるコート胴体部の留め具(形態⑮)
原告商品におけるファスナーと被告商品におけるボタンは,着用時に5
は前立てに隠れているとしても,コートは人前で着脱することが予定さ
れているものであり,前を開いてコートを着用することも多い。ファス
ナーかボタンかはそのような際に一見して区別できるものであり,需要
者に異なる印象を与えるものである。
(コ)前立て(形態⑯)10
コートの前立てが一重であるか二重であるかは,着用時において一見
して明らかなものではないとしても,上記(ケ)と同様の理由から,需要者
に異なる印象を与えるものである。
(サ)スナップボタンの数(形態⑰)
スナップボタンは,着用時において一見して明らかなものではないと15
しても,上記(ケ)と同様の理由から,需要者に異なる印象を与えるもので
ある。
(シ)袖口ファーの形状(形態⑱)
原告商品と被告商品の袖口ファーの形状の差違は,需要者に異なる印
象を与えるものである。20
(ス)フードの裏地(形態⑲)
フードの裏側に布生地が仕立てられていない場合には裏生地が露わに
なっていることから一見して確認することができるものであり,また,
フードは頭部を覆うものであるから,裏側の形状は需要者が着目する点
である。25
(セ)フード周りの線(形態⑳)
フードはコート上部に備わるものである上,顔付近の目立つ部位であ
るから,フード周りの形状は需要者が着目する点である。
(ソ)取り外した袖口のファーを首回りに取り付ける態様の有無(形態⑩-
2)
袖口のファーをつなげた形態はコート本体と同時に使用されることが5
予定されているものであり,需要者が着目する点であるということがで
きる。
ウ以上によれば,原告商品と被告商品の形態が実質的に同一であるという
ことはできない。
(5)依拠性10
否認する。
(6)請求主体としての適格性
不競法2条1項3号に基づく請求を行うことができるのは,模倣された商
品について,自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるところ,原告
商品は,IENA商品の形態を模倣したものであって,不競法2条1項3号15
に基づく請求ができない。
4争点4(損害額)について
〔原告の主張〕
(1)被告は,平成27年8月以降,被告商品の販売をしており,これまでに少
なくとも1200着を,1着につき6万8000円で販売している。被告商20
品の販売による利益率は小売価格の約60%(被告商品1着当たり4万08
00円)であると考えられるので,被告は,被告商品の販売行為により少な
くとも4896万円の利益を得ており,原告は同額の損害を受けている。
(2)原告は,本件訴訟を弁護士及び弁理士に委任せざるを得ず,その弁護士・
弁理士費用は500万円を下らない。25
(3)したがって,原告に生じた損害は少なくとも5396万円となる。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1争点2-2(原告先行意匠Aを先行公知意匠とする新規性喪失の有無)につ
いて5
事案に鑑み,まず,争点2-2(原告先行意匠Aを先行公知意匠とする新規
性喪失の有無)について判断する。
(1)意匠法4条2項は,意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して同
法3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠に関し,その該当するに至
った日から6か月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同10
条1項及び2項の規定の適用については,同条1項1号又は2号に該当する
に至らなかったものとみなすとして,新規性喪失の例外を認めている。
かかる新規性喪失の例外の適用を受けようとする者は,その旨を記載した
書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し,かつ,同法3条1項1号
又は2号に該当するに至った意匠が同法4条2項の適用を受けることができ15
る意匠であることを証明する書面を意匠登録出願の日から30日以内に特許
庁長官に提出しなければならない(同条3項)。
したがって,原告が原告先行意匠Aについて同項の適用を受けるためには,
原告が原告先行意匠Aについて意匠法4条3項所定の証明書を提出している
ことがその前提となる。20
(2)原告は,本件証明書掲載意匠と原告先行意匠Aは実質的に同一の意匠であ
って,本件証明書が原告先行意匠Aについての意匠法4条3項所定の証明書
に当たる旨を主張している。
そこで検討するに,本件証明書掲載意匠は,「5wayコクーンコート」
という商品名の女性用コート(原告商品甲)に係るものであること,その販25
売価格は5万6160円であること,同コートには,フードと袖口のファー
とブローチが付いていること,これらのフードと袖口のファーとブローチは
いずれも取り外しが可能であること,袖口のファーはネック(コートの襟)
に装着可能であることが,その記載内容から理解できる。もっとも,フード
にファーが付くことや,フードのファーが取り外し可能であることについて
は,本件証明書に一切記載されておらず,その記載から直ちにそのことを理5
解するのは困難である(甲7の1,乙7)。
他方,原告先行意匠Aは,「【Arpegestory限定】コクーン
コート」という商品名の女性用コート(原告商品A)に係るものであること,
その販売価格は6万3720円であること,同コートはフードと袖口のファ
ーとブローチのほか,フードのファーも付いていること,これらのフードと10
袖口のファーとブローチとフードのファーはいずれも取り外しが可能である
こと,袖口のファーはネック(コートの襟)に装着可能であることが,原告
先行意匠Aに係る原告のウェブサイト(甲7の2)の記載から理解できる。
また,同ウェブサイトには,「ファー,フード,ビジューはそれぞれ取り外
し可能なので,自由に印象を変えて,アレンジを楽しめるのも大きな魅力!」15
「”限定ポイント”アプの大人気5WAYコートに袖とフードの両方にファ
ーをつけました。」との記載がある。
以上によれば,本件証明書掲載意匠に係る原告商品甲も,原告先行意匠A
に係る原告商品Aも,共に「5wayコクーンコート」という商品名の女性
用コートであって,フードと袖口のファーとブローチが付いている点,これ20
らのフードと袖口のファーとブローチはいずれも取り外しが可能である点及
び袖口のファーはネック(コートの襟)に装着可能である点で共通する。
しかし,原告先行意匠Aに係る原告商品Aは,本件証明書掲載意匠に係る
原告商品甲の限定品であって,袖口のほかにフードにもファーが付いており,
かかるフードのファーも袖口のファーと同様に取り外しが可能である点にお25
いて,本件証明書掲載意匠にはない特徴を有するものと認められる。
(3)上記のとおり,原告先行意匠Aは,フードにファーが付く点及びフードの
ファーが取り外し可能である点において本件証明書掲載意匠と明らかに相違
すると認められるところ,かかる変化の態様が,本件証明書において説明な
いし図示されていなかったとしても,物品の性質や機能に照らして十分理解
することができる範囲内のものであると認められれば,なお,原告先行意匠5
Aは本件証明書掲載意匠と実質的にみて同一であると評価する余地がある。
しかしながら,フードやファー,ブローチなどを取り外して複数の組合せ
を楽しむことができる女性用コートであれば,説明や図示がなくても,通常
はフードにファーが付くことや,当該フードのファーが取り外し可能である
ということを十分理解できると認めるに足りる証拠はなく,商品名に「5w10
ay」なる文言が付されていることも直ちにその認定を左右するものとは認
められない。
また,女性用コートの意匠において,フードにファーが付くことそれ自体
はありふれた構成の一つにすぎなかったとしても,現にフードにファーが付
くか否かによって,その意匠から受ける需要者の印象が異なるものといえる。15
(4)以上によれば,原告先行意匠Aが本件証明書掲載意匠と実質的に同一の意
匠であるとは認めることはできないので,本件証明書が原告先行意匠Aにつ
いてのものであると認めることはできない。
そうすると,原告先行意匠Aについては,そもそも,意匠法4条3項所定
の証明書が提出されていないことに帰するから,原告は原告先行意匠Aにつ20
いて同条2項の適用を受ける余地はない。
(5)そこで,原告先行意匠Aと本件登録意匠とを対比すると,原告先行意匠A
の構成は上記(2)のとおりであり,他方,本件登録意匠は原告先行意匠Aから
その構成要素のうちビジューブローチを取り除いたものといえることから,
両意匠は類似しているということができる。25
(6)したがって,本件意匠は新規性を欠き,無効審判により無効にされるべき
ものと認められるので,本件意匠権に基づく原告の請求は,その余の争点に
ついて判断するまでもなく,理由がない。
2争点3(形態模倣(不競法2条1項3号)該当性)について
(1)不競法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡するなど
の行為を不正競争行為として規定する。ここで「模倣する」とは,他人の商5
品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをい
う(同法2条5項)から,同号の不正競争行為といえるためには,他人の商
品と作り出された商品を対比して観察した場合に,それぞれの形態が同一で
あるか実質的に同一といえる程度に類似していることが必要である。
(2)証拠(甲4,5,8,24,25,36(ただし,3,5,6,9及び1010
頁を除く。),37,乙1,9,18)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品
及び被告商品の形態は,以下のとおりであると認められる。
ア原告商品の形態(以下「形態(ア)」などという。」
(ア)長袖ミディアム丈の長袖のフード付きコートであり,フード周り及び
袖口にファーが取り付けられている。15
(イ)使用者がフードのファー,フード及び袖口のファーを適宜着脱するこ
とができることに起因して,フード周り及び袖口にファーを取り付けた
形状,フード周りにのみファーが付いた形状,袖口にのみファーが付い
た形状,フードのみの形状,フード及びファーを全て外したコート本体
のみの形状の五つの異なる形態を呈する。20
(ウ)取り外した袖口のファーをつないで首回りに取り付けることのできる
形態を備えている。
(エ)全体の輪郭として,正面視において,腰部が膨らんでおり裾方向にや
や窄まった形状をしている。
(オ)コートの胴部は,正面視において略中央付近に縦に1本線が入ってお25
り,そのやや左側にこれに平行な1本線が入っており,比翼仕立てとな
っている。
(カ)コート胴部の両側に水平状にポケットを形成しており,略横長長方形
状のフラップを有するポケットがある,
(キ)コート背面の腰部にコートと同色の帯状の飾りベルトが付けられてい
る。5
(ク)コートの前面胸部には左右1本ずつの切替え線が上方斜め方向に入
り,その側面部にはポケットにより分断される縦方向の切替え線が設け
られ,その背面中央には縦方向に貫く切替え線が配置されている。
(ケ)コートに取り付けられたフードは,背面視においてその横幅が肩口に
及ばず,側面視において膨らみの少ないものであり,その裏側には布生10
地が仕立てられ(生地が二重となっている。),フード周りに1本線が
略環状にデザインされている(乙9の8)。
(コ)フードのファーは,天幅方向に,天幅の約2倍の長さを有するように
首周りに略環状に形成され,袖口のファーは,袖口周りに略環状に形成
され,正面視において略横長長方形状の態様のものである。15
(サ)フード周り及び袖口に取り付けられたファーとコート本体の色合いは
異なる。
(シ)胸元に取り外しの可能なビジューブローチがつけられており,当該ブ
ローチは,縦長形状の中央の大きなビジューの周囲を小さなビジューが
取り囲む形状をしている。20
(ス)袖丈が身丈の約75%の長さとなっている。
(セ)コート胴体部の正面視において略中央付近の前立ては一重であり,そ
の裏側にはファスナーが設けられるとともに,スナップボタン(襟元を
閉めるためのボタン)が1つ取り付けられている(乙9の7)。
なお,上記(イ)に関し,被告は,フードのファー,フード及び袖口のファー25
を適宜取り外しできる態様であることは,機能であって形態ではない旨を主
張するが,適宜取り外しができること自体は機能であるとしても,フードの
ファー,フード及び袖口のファーを適宜取り外すことによって,変化した形
態自体は形態に含まれるものといえることから,上記のとおり,これらを形
態に含めることが相当である。
イ被告商品の形態5
(ア)長袖ミディアム丈の長袖のフード付きコートであり,フード周り及び
袖口にファーが取り付けられている。
(イ)使用者がフードのファー,フード及び袖口のファーを適宜着脱するこ
とができることに起因して,フード周り及び袖口にファーを取り付けた
形状,フード周りにのみファーが付いた形状,袖口にのみファーが付い10
た形状,フードのみの形状,フード及びファーを全て外したコート本体
のみの形状の五つの形態を呈する。
(ウ’)取り外した袖口のファーをつないで首回りに取り付けることのでき
る形態を備えていない。
(エ’)全体の輪郭として,正面視において腰部から裾にかけてやや広がっ15
ていく形状をしている。
(オ)コートの胴部は,正面視において略中央付近に,縦に1本線が入って
おり,そのやや左側にこれに平行な1本線が入っており,比翼仕立てと
なっている,
(カ’)コート胴体部の腰部に2つのポケットがあり,各ポケット口の布部20
材は矩形であり,コート胴体部の腰部側面左右に,コート本体の中心線
と略平行となるように,布部材の上縁部,下縁部及び内側縁部がコート
本体に縫い付けられており,フラップが形成されていない。
(キ’)コート背面の腰部に飾りベルトが付けられていない。
(ク’)コートの前面胸部には切替え線がなく,その側面部にはポケットに25
沿いかつポケットにより分断されることなく切替え線が配置され,その
背面の腰部には背面上部に縦方向及び腰部に横方向の切替え線が配置さ
れ,縦方向の切替え線は当該横方向の切替え線の存在する部分で終了し
ている。
(ケ’)コートに取り付けられたフードは,背面視においてその横幅が肩口
まで及び,側面視において膨らみの多い大きさであり,その裏側には布5
生地が仕立てられ(生地が二重となっている。),フード周りに平行す
る2本線が略環状にデザインされている(乙1の8)。
(コ)フードのファーは,天幅方向に,天幅の約2倍の長さを有するように
首周りに略環状に形成され,袖口のファーは,袖口周りに略環状に形成
され,正面視において略横長長方形状の態様のものである。10
(サ’)フード周り及び袖口に取り付けられたファーとコート本体と同系統
の配色がされている。
(シ’)コートの略中央に入った2本の1本線の間の略上端部分にビジュー
ボタンが縫い付けられており(乙1の9),当該ボタンは,縦長形状の
中央の大きなビジューの周囲を小さなビジューが取り囲む形状をしてい15
る。
(ス’)袖丈が身丈の約80%の長さとなっている。
(セ’)コート胴体部の正面視において略中央付近の前立ては二重であり,
その裏側にはボタンが設けられるとともに,スナップボタン(襟元を閉
めるためのボタン)が2つ取り付けられている(乙9の7)。20
(3)原告商品の形態と被告商品の形態の対比
ア共通点
原告商品と被告商品は,形態(ア),(イ),(オ)及び(コ)において共通する
と認められる。
イ相違点25
原告商品と被告商品は,形態(ウ),(エ),(カ)~(ケ)及び(サ)~(セ)におい
て相違すると認められる。ただし,両商品は,形態(カ)に関しては,両商
品が腰部に2つのポケットを有する点において,形態(ク)に関しては,コ
ートの側面及び背面に切替え線を有する点において,形態(シ)に関しては,
ビジューの付いた装身具が設けられていること及びその装着位置,形状に
おいて,形態(セ)に関しては,前立ての裏側にスナップボタンが取り付け5
られている点において共通すると認められる。
(4)実質的同一性の検討
ア原告は,両商品の上記各共通点に係る形態はいずれも創作的であるが,
特に形態(イ)は同種商品にはない新規なものであると主張する。
しかし,原告商品及び被告商品がファーの着脱に起因し共通して有す10
ることとなる形態は,①フード周り及び袖口にファーを取り付けた形状,
②フード周りにのみファーが付いた形状,③袖口にのみファーが付いた
形状,④フードのみの形状,⑤フード及びファーを全て外したコート本
体のみの形状であるところ,このうち最も特徴的な形態と考えられる上
記①と同様の形状を備える女性用コートは,原告商品の発売前から数多15
く存在しているものと認められ(乙25~30,32~38),原告商
品に特に特徴的な形態ということはできない。また,上記②~⑤の形態
のコートもありふれた形態であって,これらの形態も特徴的な形態とい
うことはできない。
他方,ファーの着脱に起因する形態として,原告商品は取り外した袖20
口のファーをつないで首回りに取り付けることのできる形態(形態(ウ))
を備えているのに対し,被告商品は係る形態を備えていない(形態(ウ’))
との相違点が存在することは上記のとおりである。
イ原告は,原告商品の形態と被告商品の形態との間の他の共通点(形態
(ア),(オ)及び(コ))も創作的であると主張するが,これらの共通点に係る25
形態は,女性用コートとして一般的なものであり,特に特徴的なもので
あるということはできない。
また,原告商品と被告商品は,いずれもビジューの付いた装身具が設
けられ,その装着位置,形状において共通すると認められるが,女性用
コートにおいてビジューの付いた装身具を設けること自体が特徴的であ
るということはできず,また,原告商品のビジューブローチは取り外し5
可能であるのに対し,被告商品のビジューボタンがコートに縫い付けら
れているという相違点も存在するので,この点をもって原告商品と被告
商品が実質的に同一であるということもできない。
以上によれば,原告商品と被告商品との間の上記各共通点をもって両
商品の実質的に同一であるということはできないというべきである。10
ウ原告商品と被告商品の相違点は,上記(3)イ記載のとおりであると認め
られるが,このうち,ポケットは,原告商品においては,コート胴部の
両側に水平状に形成され,略横長長方形状のフラップが取り付けられて
おり,コート前面において需要者の目を引くアクセントとなっていると
いうことができる。15
これに対し,被告商品においては縦の切替え線に沿って布部材がコー
ト本体に縫い付けられ,フラップが形成されていないので,ポケットは
それほど目立たず,コート前面は比較的シンプルで縦に流れる線が需要
者の目を惹く態様となっているということができる。
以上によれば,原告商品と被告商品の前面については,ポケットの形20
状の差異により,需要者が受ける印象が相当程度異なるというべきであ
る。
エまた,原告商品と被告商品とは,背面における飾りベルトの有無が相
違することは,前記のとおりである。
原告商品における飾りベルトは,腰部に水平方向に設けられ,その幅25
も太い上,原告商品の背面には同ベルトに匹敵する目立つ構成部分は存
在しないことから,当該飾りベルトは,コート背面において特に需要者
の注目を惹くものであるということができる。そして,この点において
は,原告自身も,そのウェブサイトにおいて,「バックスタイルのベル
トがポイント!!」(乙6),「バックウエストには飾りベルトを効か
せて,後ろ姿にもメリハリをプラス」(甲7の2)などと強調しており,5
このことは,原告自身も飾りベルトが原告商品のデザイン上の特徴点で
あるとの認識を有していたことを示している。
これに対し,被告商品では,飾りベルトが設けられておらず,切替え
線が設けられているにとどまることから,その背面は比較的シンプルで
目立つ構成部分が存在せず,すっきりした印象を与えるということがで10
きる。
以上によると,原告商品は,その胴部のほぼ同じ高さに飾りベルトと
ポケットが取り付けられていることから,コートの正面視,側面視,背
面視ともに,横方向に流れる強い印象を与える構成が需要者の目を惹く
のに対し,被告商品は,その前面及び背面ともに需要者の目を惹く態様15
の構成が設けられていないため,全体としてシンプルな印象であり,身
体のラインに沿った縦の線が需要者の目を惹く態様となっているという
ことができる。このため,原告商品と被告商品は,コートの正面視,側
面視,背面視ともに,需要者に異なる印象を与えるというべきである。
オ原告商品と被告商品のフードとを対比すると,原告商品に取り付けら20
れたフードは,背面視においてその横幅が肩口に及ばず,側面視におい
て膨らみの少ないものであるのに対し,被告商品に取り付けられたフー
ドは,背面視においてその横幅が肩口まで及び,側面視において膨らみ
の多い大きさである点で異なると認められる。このようなフードの大き
さや形状の差違は,コート背面における美感に影響を与えるものであり,25
飾りベルトの有無やフードとコート本体の色合いの違い(形態(サ))もあ
いまって,需要者に背面におけるデザインが異なるとの印象を与えるも
のであるということができる。
カ以上のとおり,原告商品と被告商品との形態の相違点は,需要者の注
目を集める形態についての差違であり,その美感に対して異なる印象を
与えるものであるから,両者を実質的に同一の形態ということはできな5
い。
(5)原告の主張について
これに対し,原告は,被告商品のポケットやベルト等の形態は,女性用
コートとしてありふれたものにすぎず,原告商品の形態をこれに置き換え
ることは極めて容易である上,その相違点は,部分的かつ些細なものであ10
り,全体の形態に影響を与えないと主張する。
しかし,被告商品のポケットやベルト等の形態が特に特徴的なものでな
く,置換が容易であるとしても,被告商品において飾りベルトやポケット
の形状が需要者の目を惹き,コート全体の美感に影響を及ぼすものである
ことは前記判示のとおりであり,その相違点が部分的かつ些細なものであ15
るということはできない。
また,原告は,平成28年から平成29年にかけて雑誌に掲載された女
性用コートの説明文から着目点を抽出したところ,ベルトやポケット等に
注目した記載は非常に少ないとの結果を得たと主張する。
しかし,上記の結果においてもポケットやベルトが着目点として一定程20
度挙げられているように,女性用コートのポケットやベルトはコートの胴
部という目につき易いところに配置され,そのデザインも多様であること
から,需要者がコートを選択する際の着目点となることは否定し難い。ま
た,商品の形態が実質的に同一かどうかは,事案ごとに個別的に判断すべ
きところ,本件においては,被告商品における飾りベルトやポケットの形25
状が需要者の目を惹き,コート全体の美感に影響を及ぼすものであること
は前記判示のとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(6)小括
以上のとおり,原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一である
とは認められないから,その余の争点について判断するまでもなく,被告商5
品は,不正競争防止法2条1項3号に該当しない。
3結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず
れも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐藤達文
裁判官
三井大有
裁判官
遠山敦士
別紙1
被告物件目録
商品番号「331065513」の婦人用コート
別紙2
原告商品の六面図
正面図
背面図
平面図
右側面図
底面図
左側面図
ブローチを付けた状態の斜視図
ブローチをはずした状態の斜視図
袖口のファーを取り外した状態の斜視図
フード,フードのファーを取り外した斜視図
フードのファー及び袖口のファーを取り外した斜視図
フード,フードのファー及び袖口のファーを取り外した斜視図
別紙3
被告商品の六面図
正面図
背面図
平面図
右側面図
底面図
左側面図
ファー付きフード及び袖口のファーを付けた状態の斜視図
袖口のファーを取り外した状態の斜視図
フード,フードのファーを取り外した斜視図
フードのファー及び袖口のファーを取り外した斜視図
フード,フードのファー及び袖口のファーを取り外した斜視図

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛