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判決言渡平成19年9月11日
平成19年(行ケ)第10026号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年9月4日
判決
原告栗田工業株式会社
訴訟代理人弁理士重野剛
同有永俊
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人黒田浩一
同高橋泰史
同森川元嗣
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−8035号事件について平成18年12月4日にし
た審決を取消す。
第2事案の概要
本件は,後記特許の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不
服として審判請求をしたところ,特許庁から請求不成立の審決を受けたため,
その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
()特許庁における手続の経緯1
原告は,名称を「軟水管理装置」とする発明につき,平成11年8月9日
に特許出願(特願平11−225476号。請求項の数9。以下「本願」と
いう。甲7)をし,その後平成15年8月18日付けで特許請求の範囲の変
更等を内容とする手続補正(請求項の数8。以下「旧補正」という。甲9)
をしたが,平成16年3月12日付けで拒絶査定を受けた(甲10。)
そこで原告は,これに対する不服の審判請求をし,同請求は不服2004
−8035号事件として特許庁に係属したが,同事件の中で原告は,平成1
6年5月7日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正(請求項
の数8。以下「本件補正」という。甲11)をした。そして特許庁は,平成
18年12月4日,本件補正を却下した上「本件審判の請求は,成り立たな
い」とする旨の審決をし(以下「本件審決」という場合がある,その謄。。)
本は平成18年12月19日原告に送達された。
()発明の内容2
ア旧補正時
旧補正時(平成15年8月18日)の請求項1に係る発明の内容(以下
「本願発明」という)は,下記のとおりである。。

【請求項1】硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度成
分除去装置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分取し
た軟水の水質を測定する測定手段とを有する軟水管理装置において,
該分取手段として,該主配管から分岐し,この分岐点よりも下流側に
おいて再び該主配管に合流する副配管と,該副配管の途中に設けられた
ポンプと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流側の副配管から分岐し
た取出管とを備え,
該取出管で取り出された軟水を,浄化手段,温度調整手段及び気泡除
去手段のうちの少なくとも1つからなる測定誤差防止手段によって処理
した後,前記測定手段に与えることを特徴とする軟水管理装置。
イ本件補正時
本件補正時(平成16年5月7日)の請求項1に係る発明の内容(以下
「本願補正発明」という)は,下記のとおりである(下線は補正箇所。。)

【請求項1】硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度成
分除去装置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分取し
た軟水の水質を測定する測定手段とを有する軟水管理装置において,
該分取手段として,該主配管から分岐し,この分岐点よりも下流側に
おいて再び該主配管に合流する副配管と,該副配管の途中に設けられた
ポンプと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流側の副配管から分岐し
た取出管とを備え,
該取出管で取り出された軟水を,浄化手段及び/又は温度調整手段か
らなる測定誤差防止手段によって処理した後,前記測定手段に与えるこ
とを特徴とする軟水管理装置。
()審決の内容3
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,①本願補正発明は,その出願前に頒布された下記刊
行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたから,特許出願の際に独立して特許を受けることができず,本
件補正は特許法(以下「法」という)159条1項の規定において読み。
替えて準用する53条1項の規定により却下すべきものである,②本願発
明も,刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたから法29条2項により特許を受けることができな
い,としたものである。

刊行物1:実公平7−44995号公報(甲1。これに記載された発明
を以下「引用発明」という)。
刊行物2:特開平10−177019号公報(甲2)
刊行物3:特許第2788187号公報(甲3)
刊行物4:特公平7−31168号公報(甲4)
刊行物5:実願平4−52505号(実開平6−7891号)のCD−
(。「」ROM甲5これに記載された発明を以下刊行物5発明
という)。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,本願補正発明と引用発明(刊
行物1記載発明)との一致点及び相違点を,次のとおり認定している。
(一致点)
「硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度成分除去装
置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分取した軟水の
水質を測定する測定手段とを有する軟水管理装置」である点
(相違点1)
該分取手段として,本願補正発明では「該主配管から分岐し,この,
分岐点よりも下流側において再び該主配管に合流する副配管と,該副配
管の途中に設けられたポンプと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流
側の副配管から分岐した取出管とを備え」るものであるのに対し,刊行
物1(引用発明)には,主配管から分岐したサンプリングライン4で軟
水を取り出し,サンプリングライン4の延長端に設けられ硬度センサー
7の設置されている水圧のかからない開放式の容器6に収容することは
記載されているが,該主配管から分岐し,この分岐点よりも下流側にお
いて再び該主配管に合流する副配管と,該副配管の途中に設けられたポ
ンプと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流側の副配管から分岐した
取出管とを備えることについては記載がない点。
(相違点2)
本願補正発明では「該取出管で取り出された軟水を,浄化手段及び,
/又は温度調整手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,前
」,(),記測定手段に与えるものであるのに対し刊行物1引用発明には
そのような測定誤差防止手段によって処理した後,取出管で取り出され
た軟水を測定手段である硬度センサーに与えることは記載されていない
点。
ウまた審決は,本願発明と引用発明(刊行物1記載発明)との一致点及び
相違点を,次のとおり認定している。
(一致点)
「硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度成分除去装
置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分取した軟水の
水質を測定する測定手段とを有する軟水管理装置」である点
(相違点1)
該分取手段として,本願発明では「該主配管から分岐し,この分岐,
点よりも下流側において再び該主配管に合流する副配管と,該副配管の
途中に設けられたポンプと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流側の
副配管から分岐した取出管とを備え」るものであるのに対し,刊行物1
には,主配管から分岐したサンプリングライン4で軟水を取り出し,サ
ンプリングライン4の延長端に設けられ硬度センサー7の設置されてい
る水圧のかからない開放式の容器6に収容することは記載されている
が,該主配管から分岐し,この分岐点よりも下流側において再び該主配
管に合流する副配管と,該副配管の途中に設けられたポンプと,該ポン
プの吐出口又はそれよりも下流側の副配管から分岐した取出管とを備え
ることについては記載がない点。
(相違点2)
本願発明では「該取出管で取り出された軟水を,気泡除去手段から,
なる測定誤差防止手段によって処理した後,前記測定手段に与える」も
のであるのに対し,刊行物1には,サンプリングライン4の延長端に取
り出された試料水を収容する水圧のかからない開放式の容器6に設けら
れた硬度センサーで硬度を検出することは記載されているが,気泡除去
手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,取出管で取り出さ
れた軟水を測定手段である硬度センサーに与えることは明記されていな
い点。
()審決の取消事由4
本願補正発明と引用発明を対比した場合,上記のとおりの一致点・相違点
があること,及び相違点1に関する判断は,争わない。本願発明と引用発明
との一致点及び相違点についても認める。
しかしながら,審決は,以下に述べる次第により違法として取り消される
べきである。
ア取消事由1(拒絶理由通知の欠如)
(ア)審決が引用した刊行物5(甲5)は,審査官が平成15年6月19
日付けでなした拒絶理由通知(甲8)及び平成16年3月12日付け拒
絶査定(甲10)に全く記載がないもので,かつ,審判の過程で出願人
(審判請求人)である原告に通知されたものでもなく,審決において初
めて引用されたものである。拒絶理由通知に引用されたのは下記の文献
である。

1.実公平7−44995号公報(刊行物1)
2.特開平10−177019号公報(刊行物2)
3.特許第2788187号公報(刊行物3)
4.特公平7−31168号公報(刊行物4)
.(。「」。)5特開平7−128204号公報甲6以下甲6文献という
(イ)また審決は,相違点2について「硬度を測定するイオンセンサー,
の上流側に活性炭などの濾過材や微細穴フィルタ等で測定水を濾過する
浄化手段を設置して,浄化した後の水の硬度を測定することも,上記刊
行物5に記載されているから,硬度成分除去装置によって生成した軟水
の硬度を測定するための硬度センサー(測定手段)についても,副配管
から分岐した取出管で取り出された軟水に硬度センサーに測定誤差を引
き起こさせる濾過により浄化できる不純物が含まれていた場合にも測定
誤差が生じないように,該取出管で取り出された軟水を浄化手段によっ
て処理した後硬度センサーに与えることも,当業者が必要に応じて採用
する事項と認められる」と認定した(7頁30行∼8頁1行。。)
しかし,上記の通り,刊行物5は原告に全く通知されなかった引用文
献であるから,刊行物5に基づく審決は,査定の理由と異なる拒絶の理
由であって特許出願人に対し通知していない拒絶の理由に基づいてなさ
れたものである。
なお,上記「硬度を測定するイオンセンサーの上流側に活性炭などの
濾過材や微細穴フィルタ等で測定水を濾過する浄化手段を設置して,浄
化した後の水の硬度を測定すること(審決7頁30∼32行)は,刊」
行物1∼4にも記載がないから,本願補正発明を刊行物1∼4に基づい
て容易に発明をすることができたとすることもできない。
(ウ)したがって,審決は,法159条2項で準用する法50条に違反し
てなされたものであり,違法として取り消されるべきものである。
イ取消事由2(本願補正発明と刊行物5発明との相違点の看過)
(ア)仮に審決において刊行物5を引用することが適法であったとして
も,本願補正発明は,刊行物1ないし5に基づいて容易に発明をするこ
とができたものではない。
(イ)刊行物5の記載内容
a刊行物5(甲5)は,7頁の段落【0001】記載の通り「無機,
質イオン含有量の高い硬水をイオン交換して軟水に交換後,電気分解
によりアルカリイオン水と酸性水を生成するイオン水生成器」に関す
るものである。
bそして刊行物5には【0010】∼【0016】に以下のとおり,
の記載がある。
「0010】【
図1において,1は硬水を給水して不純物を活性炭等で濾過して除
去する浄水器,2は浄水器1で濾過した硬水のカルシウム等の無機質
イオン含有量(以下「硬度」と呼ぶ)を検出するイオンセンサーであ
り,検出データは制御部へ送られる。
3はイオン交換樹脂のイオン交換作用により硬水を軟水に変えるイ
オン交換樹脂槽,4はイオン交換樹脂槽3からの軟水の硬度を検出す
るイオンセンサー,5は軟水を電解してアルカリイオン水を生成する
,,電解槽6は電解槽5に印加する電解用電圧を切り換える電圧調節部
7は洗浄時に電解槽5に印加する電圧を反転する極性反転部,8は装
置の各検出データを基準値と比較してPID制御を行う制御部であ
る。
【0011】
つぎに動作について説明する。
硬度の高い硬水を浄水器1に給水して,活性炭などの濾過材や微細
,,穴フィルタ等で濾過してカビや微生物や塩素分のカルキ等を除去し
イオンセンサー2で硬度を検出する。
硬度を検出するイオンセンサーは,従来例で説明した電位変化によ
り導電度を検出するフィードバックセンサー間接検出方式でもよい
し,イオン電極方式のものでもよい。検出データは制御部8へ送られ
る。
【0012】
次に,硬水をイオン交換樹脂槽3へ給水してイオン交換を行う。
イオン交換樹脂については衆知のように,イオン交換管または槽内
にビーズ状のカチオン交換樹脂(陽イオン交換用,ビーズ状のアニ)
オン交換樹脂(陰イオン交換用)を詰めておき,例えば,食塩水Na
ClのナトリウムイオンNaがカチオン交換樹脂表面の水素イオン+
Hと交換され,交換樹脂はNaを吸着してHを放出する。アニ+++
オン交換樹脂は同様に塩素イオンClと水酸イオンOHを交換し--
,。て食塩水を純水に変えるような化学反応性を持った高分子材である
【0013】
,,,従ってその地域の水質に合わせてカルシウム分が特に多い場合
あるいは,マグネシウム分が多い場合,硫酸塩が多い場合等のデータ
からそれぞれの無機質イオン交換用のイオン交換樹脂材を単独または
複合選択して積層して使用する。
【0014】
イオン交換樹脂槽3でイオン交換された軟水をイオンセンサー4で
硬度を検出する,検出データを得た制御部8は先のイオンセンサー2
の検出データと比較してデータを表示する。若し,未だ硬度が多すぎ
る場合はイオン交換樹脂ビーズを追加積層する。
【0015】
また,日本やアメリカの場合のように水道水の浄水設備が化学処理
の多い急速浄化方式の地域では,ヨーロッパ地域の自然沈殿池を利用
した低速浄化に比較して塩素投入量が多くなり,発ガン性トリハロメ
タンの発生量も多くなるので,イオン交換樹脂槽3にトリハロメタン
成分のイオン交換用ビーズを混積すれば,浄水器で除去し切れなかっ
たトリハロメタン成分も除去することができる。
【0016】
このようにして,イオン交換された軟水の処理は電解処理が行われ
る。
まず,電解槽5で電解が行われアルカリイオン水と酸性水が生成さ
れて,アルカリイオン水は測定槽内でフィードバックセンサーにより
PH検出を行い,制御部8はフィードバック量を換算して,調節する
電圧値を電圧調節部6へ指示し,電圧調節部6は印加電圧切り換えス
イッチを切換えて電解槽5の電極印加電圧を調節し,PHコントロー
ルが行われる」。
c上記によれば,刊行物5には,硬水を浄水器1で濾過し,イオン交
換樹脂槽3でイオン交換して硬水を軟水に変え,この軟水の硬度をイ
オンセンサー4で検出すると共に,この軟水を電解槽5で電解し,ア
ルカリイオン水を生成させることが記載されている。
(ウ)刊行物5発明と本願補正発明との対比及び相違
a刊行物5発明と本願補正発明とを対比すると,刊行物5発明のイオ
ン交換樹脂槽3が本願補正発明の硬度成分除去装置に相当し,イオン
センサー4が水質測定手段に相当し,電解槽5が軟水需要箇所に相当
する。刊行物5発明では,硬水を浄水器1で濾過しているので,この
浄水器1が本願補正発明の「浄化手段からなる測定誤差防止手段」に
相当するものとなる。
b刊行物5発明と本願補正発明との相違
(a)本願補正発明では,硬度成分除去装置によって生成した軟水の
一部を分取して測定誤差防止手段で処理した後,測定手段に与える
ようにしており,測定誤差防止手段は,硬度成分除去装置よりも後
段に設けられる。これに対し,刊行物5発明では,浄水器1は,硬
度成分除去装置たるイオン交換樹脂槽3の前段に配置されるもので
あるから「硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を処理,
するもの」ではない。
(b)刊行物5発明には,硬度成分除去装置たるイオン交換樹脂槽3
からの軟水を測定誤差防止手段によって処理してから測定手段たる
イオンセンサー4に与えるという技術思想は全く記載されていな
い。
(c)刊行物5発明の浄水器1は,刊行物5の【0011】段落の3
行目の通り,硬水中の「カビや微生物や塩素分のカルキ等を除去」
するためのものであり「イオン交換樹脂槽3からの軟水を処理し,
てイオンセンサー4の測定誤差を防止するためのもの」ではない。
cまとめ
このように刊行物5には「硬度成分除去装置によって生成した軟,
水を浄化手段及び/又は温度調整手段からなる測定誤差防止手段によ
って処理した後,測定手段に与え,該測定手段での測定誤差を防止す
る」という技術思想(構成,効果)は開示されていない。
したがって,仮に刊行物1ないし4に加えて刊行物5を参照したと
しても,本願補正発明を当業者が容易に発明することができたものと
することはできない。
よって,仮に刊行物5を審決で引用することが適法であったとして
も,審決には刊行物5発明と本願補正発明との相違点を看過した違法
があり,審決は取り消されるべきである。
ウ取消事由3(本願発明と刊行物1発明との相違点の看過)
仮に本件補正が却下されるべきであったとしても,旧補正時の請求項1
発明である本願発明は刊行物1∼4等に記載の発明に基づいて容易に発明
をすることができたものではない。
(ア)刊行物1の記載内容
a刊行物1(甲1)の2頁右欄2∼28行には,以下の記載がある。
「,,この考案の一実施例を示す系統図である第1図において水道水
工業用水等の原水に含まれている硬度分を除去する軟水器1と軟水使
用機器としてのボイラー2とは給水ライン3で連結されている。この
給水ライン3には,上流側より給水タンク8,給水ポンプ9および逆
止弁10が挿入されている。そして,ボイラー2で発生した蒸気を使
用する負荷機器12において生じたドレンは,給水タンク8内へ回収
されるシステムとなっている。さらに,この給水タンク8内には,ボ
ールタップ装置11が設けてあり,水面が一定のレベルまで上昇した
時点で給水タンク8内への軟水の流入を停止するように構成してい
る。
,,,さて前記給水ライン3の途中で前記給水タンク8の上流側には
サンプリングライン4が接続されており,このサンプリングライン4
に挿入した電動弁5の開閉動作により,所定の時間間隔(インターバ
ル)で間欠的に適量の試料水を前記給水ライン3からこのサンプリン
グライン4へ取り出すように構成している。この電動弁5の開閉動作
は,制御器13により時間的に制御される。そして,電動弁5の開閉
動作によって給水ライン3から取り出された試料水は,サンプリング
ライン4の延長端に設けられている水圧のかからない開放式の容器6
内に収容され,ここにおいて,容器6内に設置した硬度センサー7に
より,硬度分の濃度が検出される。この硬度センサー7としては,た
とえばカルシュウムイオン電極を使った電極式のものを用いるのが好
適で,その検出値を制御器13へ出力するようになっている」。
bしたがって,刊行物1には,軟水器1からの軟水を給水ライン3か
らサンプリングライン4に分取し,水圧のかからない開放式の容器6
に導入し,この容器6内に設置した硬度センサー7によって硬度分の
濃度を検出することが記載されている。
(イ)刊行物1と本願発明との対比及び相違点
a刊行物1では,硬度センサー7は容器6に設置されている。この容
器6内の軟水は,未だ気泡を十分に含んでいるものであり「気泡除,
去された軟水」ではない。従って,刊行物1は「気泡除去された軟,
水を測定手段で測定すること」を開示していない。
,,,bこれに対し拒絶査定時の発明である本願発明は軟水を浄化手段
温度調整手段及び気泡除去手段のうちの少なくとも1つからなる測定
誤差防止手段によって処理した後,前記測定手段に与えるようにして
おり,測定手段での測定に先行して上記浄化手段,温度調整手段及び
気泡除去手段のうちの少なくとも1つからなる測定誤差防止手段によ
って処理を行っておくものである。
(ウ)まとめ
aこのように刊行物1には「軟水を浄化手段,温度調整手段及び気泡
除去手段のうち少なくとも1つからなる測定誤差防止手段によって処
理した後,測定手段に与え,これによって測定手段での誤差を防止す
る」という技術思想(構成,効果)は開示されていない。かかる技術
思想は刊行物2∼4及び甲6文献にも記載されていない。
したがって,本願発明を刊行物1ないし4に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであるとすることはできない。また,
刊行物1ないし4に加えてさらに甲6文献に基づいても,本願発明を
当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはでき
ない。
bよって,仮に本件補正が却下されるべきであったとしても,審決に
は刊行物1と本願発明との相違を看過した違法があり,審決は取り消
されるべきである。
(エ)なお審決は,刊行物5に開示された技術内容を引用するものであっ
て,刊行物5を周知技術を示すものとしては引用していない。刊行物5
が周知技術を示すためのものではなく,公知発明として全く新たに引用
されたものであることは,本件についての前置報告書(甲12)に「追
加引用する引用文献6(実願平4−52505号(実開平6−7891
号)のCD−ROM」と記載されていることからも明らかである。)
したがって,刊行物5を周知技術を示すものと主張することは許され
ない。
2請求原因に対する認否
請求原因()ないし()の各事実は認めるが,同()は争う。134
3被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
()取消事由1に対し1
原告は,刊行物5は,拒絶理由通知及び拒絶査定に全く記載がないもので
あり,また,審判の過程で出願人に通知されたものでもないから,刊行物5
に基づく補正却下は,法159条2項で準用する法50条に違反してなされ
たものであり,違法である旨主張するが,以下のとおり誤りである。
審決において,刊行物5は,審判の請求の日から30日以内にされた法1
7条の2第1項4号の規定による平成16年5月7日付けの手続補正(審判
請求時の補正)により補正された発明が,特許出願の際独立して特許を受け
ることができるものか(法第17条の2第5項において準用する法126条
5項の規定に適合するか)を検討するために,新たに引用したものである。
そして,審決では,上記手続補正により補正された発明は,刊行物1記載
の発明(引用発明,刊行物5発明,及び刊行物3,4にみられる周知技術)
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,法29条2
項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであ
るから,上記手続補正は,法17条の2第5項において準用する法126条
5項の規定に違反するものとして,法159条1項の規定において読み替え
て準用する法53条1項の規定により審判請求時の補正を却下したものであ
る。
法159条2項は,法50条のただし書きの規定を,法17条の2第1項
4号の場合(審判請求時に補正した場合)を含むように読み替えた上で準用
しており,読み替え後の法50条は「特許出願人に対し,拒絶の理由を通,
,。知し相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない
ただし,第17条の2第1項第3号又は第4号に掲げる場合において,第5
3条第1項の規定による却下の決定をするときは,この限りでない」とな。
り,審判請求時の補正を却下する場合は,拒絶の理由を通知する必要はない
のであるから,刊行物5に基づく拒絶の理由を通知することなく,平成16
年5月7日付けの手続補正(審判請求時の補正・本件補正)を却下した審決
に手続上の瑕疵はない。
したがって,審判の審理過程で出願人に通知されたものでない刊行物5に
基づいてなされた補正却下を含む審決は,法159条2項で準用する法50
条に違反するものではなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
()取消事由2に対し2
原告は,刊行物5には「硬度成分除去手段によって生成した軟水を浄化,
手段及び/又は温度調整手段からなる測定誤差防止手段によって処理した
後,測定手段に与え,該測定手段での測定誤差を防止する」という技術思想
は開示されていないから,刊行物5を審決で引用することが適法であったと
しても,審決には刊行物5発明と本願補正発明との相違を看過した違法があ
り,審決は取り消されるべきものであると主張する。
しかし,審決は,前記相違点2の検討として「イオン電極センサーなど,
の硬度センサーは,その表面に気泡や配管の錆粒子や微生物等の不純物が付
着するなどして試料水と硬度センサーの測定面との接触が損なわれた場合,
正しい測定結果が得られず測定誤差を生じることは技術常識であるところ,
硬度を測定するイオンセンサーの上流側に活性炭などの濾過材や微細穴フィ
ルタ等で測定水を濾過する浄化手段を設置して,浄化した後の水の硬度を測
定することも,上記刊行物5に記載されているから,硬度成分除去装置によ
って生成した軟水の硬度を測定するための硬度センサー(測定手段)につい
ても,副配管から分岐した取出管で取り出された軟水に硬度センサーに測定
誤差を引き起こさせる濾過により浄化できる不純物が含まれていた場合にも
測定誤差が生じないように,該取出管で取り出された軟水を浄化手段によっ
て処理した後硬度センサーに与えることも,当業者が必要に応じて採用する
事項と認められる(7頁27行∼8頁1行)と記載しているように,刊行。」
物5には,硬度を測定するイオンセンサーの上流側に活性炭などの濾過材や
微細穴フィルタ等で測定水を濾過する浄化手段を設置して,浄化した後の水
の硬度を測定することが記載されているとしたものである。
つまり,審決では,刊行物5は「硬度成分除去手段によって生成した軟,
水を浄化手段及び/又は温度調整手段からなる測定誤差防止手段によって処
理した後,測定手段に与え,該測定手段での測定誤差を防止する」という技
術思想を引用したものではなく「硬度を測定するイオンセンサーの上流側,
に活性炭などの濾過材や微細穴フィルタ等で測定水を濾過する浄化手段を設
置して,浄化した後の水の硬度を測定する」という技術思想を引用したもの
である。そして,審決において刊行物5の記載事項として述べたように,刊
行物5(甲5)には,実用新案登録請求の範囲に「請求項1・・・給水す【】
る無機質イオン含有量の高い硬水中の不純物を濾過する浄水器と,該濾過し
た硬水の導電度から無機質イオン含有量を検出する第1のイオンセンサー
と・・・」と記載され,また,段落【0011】に「・・・硬度の高い硬,
水を浄水器1に給水して,活性炭などの濾過材や微細穴フィルタ等で濾過し
て,カビや微生物や塩素分のカルキ等を除去し,イオンセンサー2で硬度を
検出する・・・」と記載されているように,硬度を測定するイオンセンサ。
ーの上流側に,活性炭などの濾過材や微細穴フィルタ等で測定水を濾過する
浄化手段を設け,カビや微生物や塩素分のカルキ等を除去した後の水の硬度
を測定することが記載されている。
そして,刊行物1(甲1)記載の「サンプリング式硬度漏れ検出装置」に
おいて,硬度成分除去装置によって生成した軟水の硬度を測定するための硬
度センサー(測定手段)についても,不純物による測定誤差が生じないよう
にする必要があることは明らかであるから,上記刊行物5記載の技術的思想
を適用して,取出管で取り出された軟水を,浄化手段からなる測定誤差防止
手段によって処理した後,水質を測定する測定手段に与えるように構成する
ことは,当業者が容易に採用する事項である。
原告の上記主張は,審決の論旨を正しく理解しないものであって,失当で
ある。
()取消事由3に対し3
原告は,刊行物1において,硬度センサー7が設置されている容器6内の
,,「」軟水は未だに気泡を十分に含んでいるものであり気泡除去された軟水
ではないから,刊行物1は「気泡除去された軟水を測定手段で測定するこ,
と」を開示していないと主張する。
しかし,まず刊行物1(甲1)には,硬度センサー7が設置されている容
器6内の軟水が,未だに気泡を十分含んでいることを裏付ける記載はなく,
示唆する記載もないのであるから,原告の上記主張は,刊行物1の記載に基
づくものではない。
そして,審決は,前記相違点2について「イオン電極センサーなどの硬度
センサーは,その表面に気泡や配管の錆粒子や微生物等の不純物が付着する
などして試料水と硬度センサーの測定面との接触が損なわれた場合,正しい
測定結果が得られず測定誤差を生じることは技術常識であるところ,本願明
細書においても,測定誤差防止手段としての『気泡除去手段』の具体例とし
ては,大気に開放した水槽しか記載されていない(請求項4,発明の詳細な
説明の段落【0015【0024】参照。そうすると,刊行物1記載の】,)
,,,発明においても明記されていないものの主配管から取り出された軟水は
試料水を収容する水圧のかからない開放式の容器,すなわち気泡除去手段か
らなる測定誤差防止手段によって処理した後,測定手段に与えられるもので
あるから,相違点2は実質的な相違点ではない(9頁26行∼35行)と。」
記載しているように,刊行物1には,本願明細書において測定誤差防止手段
としての「気泡除去手段」の構成と実質的に同じ構成である「大気に開放し
」,()た水槽を用いてその水槽内に収容された軟水を硬度センサー測定手段
で測定することが記載されているのであるから「そうすると,刊行物1記,
載の発明においても,明記されていないものの,主配管から取り出された軟
水は,試料水を収容する水圧のかからない開放式の容器,すなわち気泡除去
手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,測定手段に与えらるも
のであるから,相違点2は実質的な相違点ではない(審決9頁32行∼3。」
5行)としたものである。
つまり,刊行物1(甲1)には「さて,前記給水ライン3の途中で,前,
記給水タンク8の上流側には,サンプリングライン4が接続されており,こ
のサンプリングライン4に挿入した電動弁5の開閉動作により,所定の時間
間隔(インターバル)で間欠的に適量の試料水を前記給水ライン3からこの
サンプリングライン4へ取り出すように構成している。この電動弁5の開閉
動作は,制御器13により時間的に制御される,そして,電動弁5の開閉動
作によって給水ライン3から取り出された試料水は,サンプリングライン4
の延長端に設けられている水圧のかからない開放式の容器6内に収容され,
ここにおいて,容器6内に設置した硬度センサー7により,硬度分の濃度が
検出される。この硬度センサー7としては,たとえばカルシュウムイオン電
極を使った電極式のものを用いるのが好適で,その検出値を制御器13へ出
力するようになっている(2頁4欄14行∼28行)と記載されている。。」
ここで,給水ラインから取り出した試料水である軟水は,水圧のかからな
い開放容器に収容されると,軟水に含まれる気泡は自身の浮力により開放容
器の上方へ向かい,水面から開放容器の上方へ除去されることになることは
自然の理である。刊行物1においては,単に「容器6」と記載するものでは
なく「水圧のかからない開放式の容器6」と記載しているのであるから,,
この容器6が気泡を除去していることは明らかである。このことは,大気に
開放した容器が「気泡除去手段」であることが乙1(特開平8−32029
3号公報,段落【0025】∼【0028】に,標本液槽3内で気泡を除去
した後に異物検出器11で異物計測を行うことが示されている,乙2(特。)
開昭62−45808号公報,1頁左下欄末行∼右下欄13行までに,従来
の技術として,気泡混入流だと計測が正確にできないので,気泡除去装置2
を配置することが示されている,乙3(特開平8−257547号公報,。)
段落【0009】に,気泡除去室(エア・トラップ)3を介して,液体クロ
マトグラフの分析器へ供給することが示されている)にみられるように,。
技術常識であることからも明らかである。
そして,刊行物1(甲1)記載の,開放容器内の軟水は,このようにして
気泡が除去されることになり,測定時においてはこの気泡除去された軟水の
硬度を硬度センサー(測定手段)で測定していることになるから,刊行物1
には,軟水を気泡除去手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,
測定手段に与える構成が記載されているといえる。
したがって,審決においてした「相違点2については実質的な相違点では
ない」とした判断に誤りはない。
原告の上記主張は,審決の論旨を正しく理解しないものであって失当であ
る。
()取消事由3に対する被告の予備的主張4
刊行物1記載発明(引用発明)は,水圧のかからない開放式の容器6内に
硬度センサー7が配置されているものではあるが,仮に,原告の主張するよ
うに,刊行物1において硬度センサー7が設置されている容器6内の軟水は
未だ気泡を十分に含んでいるもので「気泡除去された軟水」ではないから,
刊行物1が「気泡除去された軟水を測定手段で測定すること」を開示してい
ないとしても,以下に述べるように,相違点2は,当業者が適宜採用する設
計的事項である。
つまり,液体試料を測定する装置において,被検液中に気泡が残存してい
ると測定誤差を生じるという課題があり,その課題を解決するために,気泡
除去手段で気泡除去した被検液を測定手段で測定するようにすることは,乙
4(特開昭51−48395号公報,1頁左下欄19行∼右下欄2行には,
試料中に気泡が混入することにより測定誤差が大きくなることが示され,2
頁右上欄12∼18行には,脱泡装置5で気泡を取除かれた試料液と希釈液
の混合液が分析計に導入されることが示されている,乙5(特開平1−2。)
50864号公報,1頁左下欄の特許請求の範囲には,気泡を含有する検液
を気泡を分離する気液トラップに導き,この気液トラップからの気泡が除去
された検液の成分濃度を検出する検出部を有するフロー型分析計が示され,
1頁右下欄1∼10行には,検出法として吸光光度法を用いた場合にも,ク
ーロメトリー法を用いた場合にも検出を気泡が通過することがノイズの要因
になることが示されている)にみられるように,液体試料の測定を行う上。
で当業者が普通に採用する技術である。そして,この場合,気泡除去手段を
用いることによって測定誤差を防止しているのであるから,気泡除去手段が
測定誤差防止手段となっていることは自明である。
そうすると,刊行物1に記載された発明も液体試料である軟水を測定して
いることに他ならないから,刊行物1記載発明(引用発明)において,水圧
のかからない開放式の容器内に測定手段である硬度センサーを配置すること
に代えて,気泡除去手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,測
,。定手段に与えるようにすることは当業者が適宜採用する設計的事項である
第4当裁判所の判断
1請求原因()(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容)及び(3)(審1)
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下においては,原告主張の取消事由ごとに審決の適否について判
断する。
2取消事由1について
()原告は,審決に引用された刊行物5は審判手続きの審理過程において出1
願人(審判請求人)である原告に通知されておらず,審判において初めて引
用されたものであり,拒絶理由通知に記載されていないから,法159条2
項で引用する法50条に違反すると主張するので,以下この点について判断
する。
()証拠(各認定事実の末尾に摘示した)及び弁論の全趣旨によれば,以下2
の事実を認めることができる。
ア原告は,平成11年8月9日に本件特許出願をした(甲7。)
出願時の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
【請求項1】硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度成
分除去装置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分取し
た軟水の水質を測定する測定手段とを有する軟水管理装置において,該
分取手段として,該主配管から分岐し,この分岐点よりも下流側におい
て再び該主配管に合流する副配管と,該副配管の途中に設けられたポン
プと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流側の副配管から分岐した取
出管とを備え,該取出管で取り出された水が前記測定手段に与えられる
ことを特徴とする軟水管理装置。
【請求項2・・・該分取手段で分取した軟水を活性炭及び濾過膜を有す】
る浄化手段によって浄化した後,前記測定手段に与えることを特徴とす
る軟水管理装置。
【請求項3・・・該分取手段で分取した水の温度を温度調整手段によっ】
て調整した後,前記測定手段に与えることを特徴とする軟水管理装置。
【】,,請求項4請求項3において前記温度調整手段に比較標準液を供給し
該温度調整手段によって比較標準液の温度を調整した後前記測定手段に
与える手段を備えたことを特徴とする軟水管理装置。
【請求項5・・・該分取手段で分取した軟水を大気開放した水槽に導入】
し,この水槽内の水を前記測定手段に与えることを特徴とする軟水管理
装置。
【請求項6】請求項5において,大気開放した水槽に軟水を導入する配管
出口が,該水槽内の軟水と直接触れないような位置に配置されることを
特徴とする軟水管理装置。
【請求項7】請求項5又は6において,定量かつ定圧で送水可能なポンプ
によって該水槽内の水を該測定手段に与えることを特徴とする軟水管理
装置。
【請求項8】請求項1ないし7のいずれか1項において・・・硬度リー,
ク警報・・・のうち少なくとも一つの情報を通信端末にて情報センタ,
ーへ送信する機能を有する軟水管理装置。
【請求項9】請求項1ないし8のいずれか1項において,前記硬度成分除
去装置がイオン交換樹脂を充填した軟水器及び膜分離装置の少なくとも
一方を有することを特徴とする軟水管理装置。
イこれに対し,特許庁は,平成15年6月19日付けの原告に対する拒絶
理由通知(平成15年6月24日原告受領)において,拒絶の理由を以下
のとおりとした(甲8。)
「理由1
この出願は,下記の点で特許法37条に規定する要件を満たしていな
い。

本願発明は軟水管理装置に関するものであって,請求項1に係る発明
は,副配管/ポンプ/取出管からなる分取手段を,請求項2に係る発明
は,活性炭及び濾過膜を有する浄化手段による浄化を,請求項3及び4
に係る発明は,水の温度調整を,請求項5乃至7に係る発明は,大気開
放した水槽を,それぞれ発明の主要部としている。
また,明細書の【発明が解決しようとする課題】欄に記載されるよう
に,それぞれの発明は,解決しようとする課題が異なっている。
その他,第37条の各号のいずれにも該当しない。
,,,この出願は特許法第37条の規定に違反しているので請求項18
及び9以外の請求項に係る発明については同法第37条以外の要件につ
いての審査を行っていない。
理由2
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内におい
て頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前に
その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に
発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規
定により特許を受けることができない。

請求項1,8,及び9
引用文献1及び2には,軟水管理装置が記載されており,警報/情
報の送信機能も開示されている。
引用文献3乃至5には,流体試料の分取手段が記載されており,副
配管,ポンプ,取出管等が開示されている。
また,硬度成分除去装置の構成は,一般的なものである。
引用文献等一覧
1.実公平7−44995号公報
2.特開平10−177019号公報
3.特許第2788187号公報
4.特公平7−31168号公報
5.特開平7−128204号公報」
ウ原告は,これを受けて,平成15年8月18日に旧補正をするとともに
(甲9,同日意見書を提出した(甲13。))
旧補正時の請求項1(本願発明)は上記第3,1()ア記載のとおりで2
あり,以下に再掲するほか,旧補正時の請求項2ないし8の特許請求の範
囲の記載は以下のとおりである。
【請求項1】硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度成
分除去装置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分取し
た軟水の水質を測定する測定手段とを有する軟水管理装置において,
該分取手段として,該主配管から分岐し,この分岐点よりも下流側に
おいて再び該主配管に合流する副配管と,該副配管の途中に設けられた
ポンプと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流側の副配管から分岐し
た取出管とを備え,
該取出管で取り出された軟水を,浄化手段,温度調整手段及び気泡除
去手段のうちの少なくとも1つからなる測定誤差防止手段によって処理
した後,前記測定手段に与えることを特徴とする軟水管理装置。
【請求項2】請求項1において,前記浄化手段は活性炭及び濾過膜を有す
ることを特徴とする軟水管理装置。
【請求項3】請求項1又は2において,前記測定誤差防止手段は温度調整
手段を含み,該軟水管理装置は更に該温度調整手段に比較標準液を供給
し,該温度調整手段によって比較標準液の温度を調整した後前記測定手
段に与える手段を備えたことを特徴とする軟水管理装置。
【請求項4】請求項1ないし3のいずれか1項において,前記気泡除去手
段は大気開放した水槽であることを特徴とする軟水管理装置。
【請求項5】請求項4において,大気開放した水槽に軟水を導入する配管
出口が,該水槽内の軟水と直接触れないような位置に配置されることを
特徴とする軟水管理装置。
【請求項6】請求項4又は5において,定量かつ定圧で送水可能なポンプ
によって該水槽内の水を該測定手段に与えることを特徴とする軟水管理
装置。
【請求項7】請求項1ないし6のいずれか1項において,測定手段からの
,,測定出力信号に基づく硬度リーク警報測定手段の劣化を知らせる警報
硬度成分除去装置からの採水量データ,硬度成分除去装置の再生剤の残
量警報,比較標準液の液位警報のうち少なくとも一つの情報を通信端末
にて情報センターへ送信する機能を有する軟水管理装置。
【請求項8】請求項1ないし7のいずれか1項において,前記硬度成分除
去装置がイオン交換樹脂を充填した軟水器及び膜分離装置の少なくとも
一方を有することを特徴とする軟水管理装置。
エこれに対し特許庁審査官は,平成16年3月12日付けで拒絶査定を
した(甲10)が,その理由として以下のとおり記載されている。
「この出願については,平成15年6月19日付け拒絶理由通知書に
記載した理由2によって,拒絶をすべきものである。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆す
に足りる根拠が見いだせない。
備考
請求項1,7,及び8
引用文献1(実公平7−44995号公報)及び2(特開平10−
177019号公報)には,分取手段を有する軟水管理装置が記載さ
れている。
そして,引用文献1の第2頁右欄第22行乃至第25行には「試料,
水は,サンプリングライン4の延長端に設けられている水圧のかから
ない開放式の容器6内に収容され・・・,容器6内に設置した硬度セ,
,。」,ンサー7により硬度分の濃度が検出されると記載されているから
軟水は,開放式の容器6内に収容されることにより気泡が除去されて
から,測定されているものと認められる。
引用文献3(特許第2788187号公報,4(特公平7−311)
68号公報,及び5(特開平7−128204号公報)には,分取手)
段として,主配管から分岐し,分岐点よりも下流側において再び主配
管に合流する副配管が開示されると共に,引用文献3及び4には,副
配管の途中に設けられたポンプと,ポンプの下流側の副配管から分岐
した取出管が開示されている。
引用文献3乃至5に記載された発明は,流体を管理する装置に関す
るものであり,引用文献1及び2に記載の軟水管理装置に適用するこ
とに,格別の困難性は認められない」。
オこれに対し原告は,不服の審判請求をし,同請求は不服2004−8
035号事件として特許庁に係属した。
原告は,上記審判手続中,平成16年5月7日付けで本件補正をする
とともに甲11審判請求書の理由の変更を内容とする手続補正書甲(),(
14)を提出した。
カ本願補正発明(甲11)は上記第3,1()イのとおりであり,以下に2
再掲するほか,本件補正後の請求項4の記載は以下のとおりである。な
お,本件補正後の請求項2,3はいずれも上記旧補正時の請求項2,3
のとおりである。
【請求項1】硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度
成分除去装置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分
取した軟水の水質を測定する測定手段とを有する軟水管理装置におい
て,
該分取手段として,該主配管から分岐し,この分岐点よりも下流側
において再び該主配管に合流する副配管と,該副配管の途中に設けら
れたポンプと,該ポンプの吐出口又はそれよりも下流側の副配管から
分岐した取出管とを備え,
該取出管で取り出された軟水を,浄化手段及び/又は温度調整手段
からなる測定誤差防止手段によって処理した後,前記測定手段に与え
ることを特徴とする軟水管理装置。
【請求項4】請求項1ないし3のいずれか1項において,前記測定誤差
防止手段が更に気泡除去手段を含み,該気泡除去手段は大気開放した
水槽であることを特徴とする軟水管理装置。
キところで,本願について特許庁審査官Aは,平成17年2月8日付け
で前置報告書を作成した(以下「本件前置報告書」という。甲12。同)
報告書は原告に通知等はされていないが,同報告書には下記記載がある
(判決注:下記引用文献6は刊行物5である。。)

「請求項1,7,及び8
(実公平7−44995号公報より変更した)引用文献1(実願昭63
−157797号(実開平2−77655号)のマイクロフィルム)の
明細書第5頁には「サンプリングライン(4)中に熱交換器を挿入し,
て,高温の水を冷却するようにしてもよい」と記載されており,温度調
整手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,測定手段に与え
る点が開示されている。
追加引用する引用文献6(実願平4−52505号(実開平6−78
91号)のCD−ROM)には,浄化手段からなる測定誤差防止手段に
よって処理した後,硬度測定手段に与える点が開示されている。
引用文献3乃至5(特許第2788187号公報/特公平7−311
68号公報/特開平7−1248204号公報)には,流体管理装置が
,()記載されており引用文献1及び2特開平10−177019号公報
,。に記載の軟水管理装置に適用することに格別の困難性は認められない
また,請求項2に記載の事項は引用文献6に,請求項4及び5は引用
文献1及び2に,請求項6は引用文献3に,それぞれ開示されている。
引用文献等一覧
1.実願昭63−157797号(実開平2−77655号)のマイ
クロフィルム
2.特開平10−177019号公報
3.特許第2788187号公報
4.特公平7−31168号公報
5.特開平7−128204号公報
6.実願平4−52505号(実開平6−7891号)のCD−RO
M」
クそして特許庁(審判官)は,平成18年12月4日,本件補正を却下
した上「本件審判の請求は,成り立たない」とする旨の本件審決をし。
た。なお,本件審決の理由中で,本件補正に関しては「本件補正にお,
ける請求項1は,補正前に『浄化手段,温度調整手段及び気泡除去手段
のうちの少なくとも1つからなる測定誤差防止手段』と,3種類の測定
誤差防止手段を択一的に記載していたもののうちの『気泡除去手段』を
削除して限定したものであるから,請求項1についての前記補正は,特
許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する」とした(2頁18行
∼26行。)
()ア上記認定の事実を整理すると,以下の①∼⑥のとおりとなる。3
①まず本件前置報告書甲12により初めて引用された刊行物5甲,()(
5)は,浄化手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後に硬度測
定手段に与える点に関するものである。②測定誤差防止手段に関しては,
法37条以外の要件について審査された出願時の特許請求の範囲の請求項
1,8,9に記載されていなかったところ,旧補正時の請求項1(本願発
明)において「浄化手段,温度調整手段及び気泡除去手段のうちの少なく
とも1つからなる測定誤差防止手段」と記載され,気泡除去手段が測定誤
差防止手段の選択的な一方法であるとされていた。③その後,拒絶査定が
なされ,その理由において,旧補正時の請求項1(本願発明)に関し,気
泡が除去されてから測定する点が引用文献1(本件刊行物1,甲1)に開
示されていることが示された。④その後にされた本件補正により,本件補
正後の請求項1本願補正発明ではこの測定誤差防止手段につき浄(),,「
化手段及び/又は温度調整手段からなる測定誤差防止手段」とされ,気泡
除去手段による測定誤差防止手段は本件補正後の請求項4に移された。⑤
そうすると,本件補正後の請求項1(本願補正発明)が特許請求の範囲の
減縮に伴う独立特許要件を備えるか否かを判断するためには,本件補正後
の「浄化手段及び/又は温度調整手段からなる測定誤差防止手段」に関し
て進歩性の有無等を判断する必要がある。⑥そして,上記のとおり,前置
報告書により引用された刊行物5は浄化手段からなる測定誤差防止手段が
開示されているとするものであり,本件補正に関する独立特許要件の判断
について必要となった引用例である。
イところで,法159条2項が拒絶査定不服審判において準用する法50
条は「審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出,
願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出
する機会を与えなければならない。ただし,第17条の2第1項第3号に
掲げる場合において,第53条第1項の規定による却下の決定をするとき
は,この限りでない」と規定して,法53条1項の規定により却下の決。
定(補正の却下)をする場合には拒絶理由を通知する必要はない旨を定め
ている。審決は,本件補正を法17条の2第5項において準用する法12
6条5項の規定に違反するので,法159条1項の規定において読み替え
て準用する法53条1項により却下したものである。そうすると,審決が
本件補正の却下について刊行物5を引用するに当たっては,明文上,原告
に対し改めて拒絶理由を通知する必要はないと解されるから,審決の手続
きに何ら違法な点はないというべきである。
,,()これに対し原告は法159条2項により法50条が準用される趣旨は4
拒絶査定不服の審判が請求された場合において査定の理由と異なる拒絶理由
が発見されたとき直ちに新たな理由による特許出願を拒絶することは,特許
出願人にその理由についてなんらの弁明の機会も与えないことに帰し,特許
出願人に酷であるとともに,審判官も過誤を犯すおそれがないわけでもない
から,このようなときにはまず特許出願人に意見書を提出して意見を述べる
機会を与えると共に,法17条の2第1項1号にしたがい願書に添付した明
細書・特許請求の範囲又は図面を補正する機会を与え,提出された意見書及
び補正書に基づいて審判官に再度の審理をなさしめて審判の公正を担保しよ
うとするにあり,法159条1項において読み替えて準用する法53条1項
に基づいて補正却下の決定をするに際しても,この補正却下の理由が法17
条の2第5項で準用する法126条5項の規定(独立特許要件)によるもの
である場合は,独立特許要件の判断の基礎となる引用文献が出願の審査又は
審判の審理の過程で出願人(審判請求人)に拒絶理由通知書によって提示さ
れたもの(もしくは,場合により周知技術)でなければならないことは法1
59条2項の不意打ち禁止及び審判の公正担保の趣旨からして明らかである
とも主張する。
,,,しかし法の規定は上記()イのとおりであり立法論としてはともかく3
原告の主張は法159条2項が準用する法50条ただし書が補正却下の場合
に拒絶理由通知を不要としている点を見過ごした独自の解釈というほかな
く,また前記()で認定した本件審決までの経過を精査しても(なお,刊行2
物5を踏まえた当事者双方の主張とこれに対する当裁判所の判断は,後記3
のとおり,特許庁(審判官)が刊行物5の存在を明示的に提示しなかった)
ことが著しく手続の公正を害したとまで認めることはできないので,原告の
主張は採用することができない。
3取消事由2について
()原告は,審決は刊行物5と本願補正発明との相違点を看過しており,本1
願補正発明は,刊行物1ないし5から容易想到といえないと主張するので,
以下この点について判断する。
()刊行物5(甲5)には以下の記載がある。2
【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】電解槽内の電極間に電圧を印加することにより水を電気分解し
て,アルカリイオン水と酸性水を生成するイオン水生成器において,給水
する無機質イオン含有量の高い硬水中の不純物を濾過する浄水器と,該濾
過した硬水の導電度から無機質イオン含有量を検出する第1のイオンセン
サーと,自槽内のイオン交換樹脂のイオン放出,吸着作用により前記硬水
を無機質イオン含有量の低い軟水にイオン交換するイオン交換樹脂槽と,
該イオン交換された軟水の無機質イオン含有量を検出する第2のイオンセ
ンサーと,前記軟水を電気分解してアルカリイオン水と酸性水を生成する
電解槽と,該電解槽の電極に印加する電解用電圧を調節可変する電圧調節
部と,前記電解槽の電極に洗浄用の逆電圧を洗浄タイミングで印加する極
性反転部と,装置の動作を所定のセンサーの検出データにより制御する制
御部を備えたことを特徴とするイオン交換装置付イオン水生成器。
【0011】つぎに動作について説明する。
硬度の高い硬水を浄水器1に給水して,活性炭などの濾過材や微細穴フィ
ルタ等で濾過して,カビや微生物や塩素分のカルキ等を除去し,イオンセ
ンサー2で硬度を検出する。
硬度を検出するイオンセンサーは,従来例で説明した電位変化により導
電度を検出するフィードバックセンサー間接検出方式でもよいし,イオン
電極方式のものでもよい。検出データは制御部8へ送られる。
【0021】
【考案の効果】
以上述べた如く本考案によれば,給水する硬度の高い硬水中の不純物を
濾過する浄水器と,濾過した硬水の導電度から硬度を検出する第1のイオ
ンセンサーと,自槽内のイオン交換樹脂のイオン放出・吸着作用により硬
水を無機質イオン含有量の低い軟水にイオン交換するイオン交換樹脂槽
と,交換された軟水の硬度を検出する第2のイオンセンサーと,軟水を電
解する電解槽と,印加する電解用電圧を調節可変する電圧調節部と,洗浄
用の逆電圧を印加するための極性反転部と,装置全体の動作を制御する制
御部を備えたので,硬水を使用する地域でも,軟水を処理した場合と同じ
,,ように上質のアルカリイオン水が得られさらに軟水地域と同じ使用条件
耐久性が得られるという効果がある。
()上記記載によれば,刊行物5には,第1のイオンセンサー(イオンセン3
サー2)による硬度検出に先立って,浄水器により不純物を除去する技術が
記載されているものと認められる。
()そして,審決が認定した本願補正発明と刊行物1記載発明(引用発明)4
との一致点及び相違点1に関する判断には争いがないところ,相違点2に係
る「取出管で取り出された軟水を,浄化手段及び/又は温度調整手段からな
,」,る測定誤差防止手段によって処理した後前記測定手段に与える点につき
当該測定誤差防止手段は,浄化手段からなるものを含むところ,上記()の2
刊行物5の記載に照らせば,硬度の検出に先立って浄水器により不純物を除
去し,相違点2に係る「取出管で取り出された軟水を,浄化手段からなる測
定誤差防止手段によって処理した後,前記測定手段に与える」とする本願補
,。正発明の構成を得ることは当業者が容易になし得たものというべきである
したがって,審決の判断に誤りはない。
()原告は,刊行物5の浄水器1は,硬度成分除去装置たるイオン交換樹脂5
槽3の前段に配置されるものであり「硬度成分除去装置によって生成した,
軟水の一部を処理するもの」ではないし「イオン交換樹脂槽3からの軟水,
を処理してイオンセンサー4の測定誤差を防止するためのもの」ではないか
ら,刊行物5には,硬度成分除去装置たるイオン交換樹脂槽3からの軟水を
測定誤差防止手段によって処理してから測定手段たるイオンセンサー4に与
えるという技術思想,すなわち「硬度成分除去装置によって生成した軟水を
浄化手段及び/又は温度調整手段からなる測定誤差防止手段によって処理し
た後,測定手段に与え,該測定手段での測定誤差を防止する」という技術思
想(構成,効果)は開示されていないから,刊行物5を参照したとしても,
本願補正発明を当業者が容易に発明することができたものとすることはでき
ない,と主張する。
なるほど刊行物5発明は硬度成分除去後の軟水の硬度を測定する構成を備
えるものでないが,この点の構成は,本願補正発明と引用発明との一致点と
して「硬度成分除去装置によって生成した軟水の一部を,該硬度成分除去装
置と軟水需要箇所とを結ぶ主配管から分取する手段と,分取した軟水の水質
を測定する測定手段」として認定されているとおり,引用発明が備えている
ものである。そして,前記()のとおり,刊行物5に硬度検出に先立って浄2
水器により不純物を除去する技術が記載されていることからすれば,引用発
明において「取出管で取り出された軟水を,浄化手段からなる測定誤差防,
止手段によって処理した後,前記測定手段に与える」とする本願補正発明の
構成を得ることは,当業者が容易になし得たものというべきことは,既に説
,,示したとおりであって刊行物5発明が上記構成を備えるものでないことは
。,相違点2の容易想到性についての判断を左右するものではないしたがって
原告の主張は採用できない。
4取消事由3について
()審決は,本願発明と引用発明との相違点2について「イオン電極センサ1,
ーなどの硬度センサーは,その表面に気泡や配管の錆粒子や微生物等の不純
物が付着するなどして試料水と硬度センサーの測定面との接触が損なわれた
場合,正しい測定結果が得られず測定誤差を生じることは技術常識であると
ころ,本願明細書においても,測定誤差防止手段としての『気泡除去手段』
の具体例としては,大気に開放した水槽しか記載されていない(請求項4,
発明の詳細な説明の段落【0015【0024】参照。そうすると,刊】,)
行物1記載の発明においても,明記されていないものの,主配管から取り出
された軟水は,試料水を収容する水圧のかからない開放式の容器,すなわち
気泡除去手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,測定手段に与
えらるものであるから,相違点2は実質的な相違点ではない(9頁27行」
∼末行)と判断したところ,原告は,刊行物1では硬度センサー7は容器6
に設置され,この容器6内の軟水は,未だに気泡を十分に含んでいるもので
あり「気泡除去された軟水」ではないから,刊行物1は「気泡除去された,,
軟水を測定手段で測定すること」を開示していない。したがってこの点の相
違点を看過し,本願発明について刊行物1ないし4記載の発明から容易想到
とした審決の認定・判断は誤りであると主張するので,以下この点について
検討する。
()ア刊行物1(甲1)には,次の記載がある。2
「さて,前記給水ライン3の途中で,前記給水タンク8の上流側には,サ
ンプリングライン4が接続されており,このサンプリングライン4に挿入
した電動弁5の開閉動作により,所定の時間間隔(インターバル)で間欠
的に適量の試料水を前記給水ライン3からこのサンプリングライン4へ取
り出すように構成している。この電動弁5の開閉動作は,制御器13によ
り時間的に制御される。そして,電動弁5の開閉動作によって給水ライン
3から取り出された試料水は,サンプリングライン4の延長端に設けられ
ている水圧のかからない開放式の容器6内に収容され,ここにおいて,容
器6内に設置した硬度センサー7により,硬度分の濃度が検出される。こ
の硬度センサー7としては,たとえばカルシュウムイオン電極を使った電
極式のものを用いるのが好適で,その検出値を制御器13へ出力するよう
になっている(2頁右欄14行∼28行)。」
イ上記記載によれば,刊行物1には,引用発明における硬度センサー7を
開放式の容器6内に収容し,ここにおいて硬度が検出されることが記載さ
れているものと認められる。
,(。),。()ア他方旧補正時の明細書全文補正甲9には次の各記載がある3
【請求項4】請求項1ないし3のいずれか1項において,前記気泡除去手
段は大気開放した水槽であることを特徴とする軟水管理装置。
【0003】
この軟水供給設備における硬度成分のリークを検出する装置として,
実公平7−44995号公報には,軟水器から軟水を送水する主配管に
電動弁付きの枝管を設け,この電動弁を開弁させることにより該枝管を
介して主配管内の軟水を大気開放式の容器に導入して分取し,この容器
内に設置したカルシウムイオン電極などの硬度センサによって硬度成分
濃度を検出するようにした軟水管理装置が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
同号公報の軟水管理装置にあっては,次のような短所がある・・・。
(5)硬度センサが大気開放した容器内に浸漬配置されているため,
この容器内に導入された軟水から発生した気泡が該硬度センサに付着
し,該硬度センサが誤作動することがある。
【0011】
測定誤差防止手段が気泡除去手段を含む場合にあっては,分取手段で
分取した水を一旦気泡除去手段に導入させ,ここにおいて溶存気体から
生じる気泡を除去し,その後,この軟水を測定手段に与えるので,誤差
の小さい水質測定データを得ることができる。
【0015】
前記気泡除去手段は,大気開放した水槽であることが好ましい(請求
項4。)
【0021】
【発明の実施の形態】
以下,図1を参照して実施の形態について説明する。図1は実施の形
態に係る軟水管理装置の系統図である・・・。
【0024】
この配管15から軟水は,活性炭及び精密濾過膜を有した浄水器20
,。を通り定流量弁21を有した配管22を介して水槽23へ導入される
,。この水槽23は大気開放しており軟水中の溶存気体が大気へ抜け出る
また,この場合,配管22の出口部は水槽23内の軟水と接しないよう
な位置に配置される。なお,この水槽23の底部にはブロー弁24を有
したブロー配管25が接続されている。
【0025】
この水槽23の下部からは,チューブポンプ30を有した配管31を
介して水槽23内の水が定量かつ定圧にて取り出される。この軟水は,
キャピラリー式などの熱交換器32を介して硬度成分測定器40へ導入
され,硬度成分が測定された後,排出配管33を介して廃棄される。測
定後の軟水は排出配管33から需要箇所へ戻すようにすれば,水回収の
点で望ましい。
イ実公平7−44995号公報(刊行物1・甲1)の軟水管理装置におい
ては,硬度センサが大気開放した容器内に浸漬配置されているため,この
容器内に導入された軟水から発生した気泡が該硬度センサに付着し,該硬
度センサが誤作動することがあるという問題があったところ,上記記載に
よれば,本願発明における気泡除去手段は,大気開放した水槽であり実施
の形態としては大気開放した水槽23からさらに配管31等を介して取り
出された軟水を硬度成分測定器に導入して硬度成分を測定すると説明され
ているとおり「取出管で取り出された軟水を,気泡除去手段からなる測,
定誤差防止手段によって処理した後,測定手段に与える」との相違点2に
係る構成を採用し,上記問題を解決したものと認められる。
()上記の検討によれば,本願発明における気泡除去手段は,具体的には大4
気開放した水槽であるから,刊行物1記載の開放式の容器6も気泡除去手段
としての機能を果たしうるといえる。
しかし,引用発明(刊行物1記載発明・甲1)の硬度センサー7は,開放
式の容器6内に収容され,ここにおいて硬度が検出されることからして,気
泡を除去した後の軟水の硬度を検出するものとはいい難い。これに対して,
本願発明は,刊行物1記載の軟水管理装置が上記()イの問題を有すること3
から「取出管で取り出された軟水を,気泡除去手段からなる測定誤差防止,
手段によって処理した後,測定手段に与える」との構成を採用したものであ
って,この点において,引用発明と本願発明とで実質的な相違がないとはい
えない。
したがって,審決が「刊行物1記載の発明においても,明記されていない
ものの,主配管から取り出された軟水は,試料水を収容する水圧のかからな
い開放式の容器,すなわち気泡除去手段からなる測定誤差防止手段によって
処理した後,測定手段に与えらるものであるから,相違点2は実質的な相違
点ではない(9頁33行∼末行)と判断した点は誤りである。」
しかし被告は審決に上記の誤りがあるとしても相違点2は当業者そ,,,(
の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適宜採用する
設計的事項である旨を予備的に反論するので,以下検討する。
()ア乙2ないし乙5には,以下の各記載がある。5
(ア)乙2(特開昭62−45808号公報)は,石川島播磨重工業株式
会社がした特許出願に係る公開特許公報(昭和62年2月27日公開)
であり,以下の記載がある。
「従来の技術〕[
取水設備においては,通常,放流管より放流された流水のエネルギー
を減勢池により減勢してから下流に導いて,工業用水や水道用水として
給水しているが,この際,減勢池で減勢された流水には多量の空気泡が
混入している。このような気泡混入流をそのまま排水すると,所定流量
の水が流れないし又計測も正確にできない,落差によって空気が配管内
で圧縮されるため蛇口を開くとエアハンマー現象を起す,等の問題があ
る。
そこで従来は,第3図に示すように,減勢池1の下流位置に気泡除去
,。」装置2を配置し気泡を除去してから下流へ給水するようにしている
(1頁左下欄末行∼右下欄13行)
(イ)乙3(特開平8−257547号公報)は,株式会社島津製作所が
した特許出願に係る公開特許公報(平成8年10月8日公開)であり,
以下の記載がある。
「0002】【
【従来の技術】例えば液体クロマトグラフにおいては,クロマト分析に
使用する試薬を容器から分析器に移送するが,この場合試薬の中に気泡
が含まれていると精度よい分析が期待できない。そのために分析器(カ
ラム)にポンプなどにて圧送する試薬はその前段で気泡の除去が行われ
る。具体的には液送系の途中に送中の気泡を除去するための気泡除去機
構を設置している(2頁第1欄(左欄)12行∼19行)。」
(ウ)乙4(特開昭51−48395号公報)は,株式会社日立製作所が
(),した特許出願に係る公開特許公報昭和51年4月26日公開であり
以下の記載がある。
「液体連続分析計においてセルに試料を送り込む方法にはポンプで圧送
する方法とヘッド圧を利用する方法の2つが考えられる。しかし両者共
サンプリングの途中において配管のすき間等から気泡が混入する。送液
量が大量の場合は気泡の混入による問題が少ないが,送液量が微量にな
ると気泡が混入する割合が増大し,ノイズ等が増大し,測定誤差が大き
くなる・・・従ってセルの直前に脱泡装置を設けるのが良策である」。。
(1頁左下欄下から6行∼右下欄7行)
(エ)乙5(特開平1−250864号公報)は,富士電機株式会社がし
た特許出願に係る公開特許公報(平成元年10月5日公開)であり,以
下の記載がある。
「従来の技術〕〔
検液が検出部中を連続的に流れるフロー型の分析計においては,圧力
の変動や温度の変化などによって液中に溶けていた気体がガス化し,気
泡となって検液が流れる配管内に生じることがある。これは大きなノイ
ズの要因となる(1頁左下欄下から5行∼右下欄1行)。」
「このため,フロー型の分析計では検液中に含有する気泡を除去するた
めに検液を検出部に導く配管の途中に気液トラップを設け,この気液ト
ラップにより検液中に含有する気泡を検液から分離し,気泡を除去した
検液を検出部に送るようにしている(2頁右上欄5行∼10行)。」
イ上記のとおり,本願出願(平成11年8月9日出願)の相当前に発行さ
,,,,れた出願人を異にする複数の公開特許公報にしかも従来技術として
液体を被検体とする種々の測定に先立って,気泡除去手段により気泡を除
去しておくことが記載されており,このことからすれば,当該技術は,本
件出願時において,当業者にとっては技術常識ともいうべき周知性の高い
技術であったことが認められる。
そうすると,引用発明(甲1)において「取出管で取り出された軟水,
を,気泡除去手段からなる測定誤差防止手段によって処理した後,測定手
段に与える」との構成を採用し,相違点2に係る本願発明の構成に到るこ
とは,当業者が適宜採用する設計的事項というべきである。
ウそして,本願発明と引用発明との一致点及び相違点についての審決の認
定については争いがない。原告は本願発明と引用発明1との審決の「相違
点の検討(審決9頁25行∼末行。相違点1及び2についての審決の判」
断部分)については争うとしているものの,本願発明と引用発明との相違
点1については,本願補正発明と引用発明との相違点1と同一であるとこ
ろ,これについて刊行物2∼4記載の発明,周知技術等から当業者が容易
になしえたとした審決の判断(7頁4行∼25行)については原告もこれ
を認めるとしている。
そうすると,本願発明は,刊行物1ないし刊行物4記載の発明に基づい
,,て当業者が容易に発明をすることができたものということができるから
これと同旨の判断をした審決は,結論において誤りがないということがで
きる。
()以上によれば,相違点2は当業者が適宜採用する設計的事項であるとす6
る被告の予備的反論は正当であることになるので,原告主張の取消事由3を
採用することができない。
5結語
以上のとおり,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がな
い。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官田中孝一

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