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平成22年2月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第32593号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月16日
判決
埼玉県飯能市<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士小口恭道
東京都文京区<以下略>
被告国立大学法人東京大学
東京都小金井市<以下略>
被告国立大学法人東京学芸大学
大阪府吹田市<以下略>
被告国立大学法人大阪大学
茨城県つくば市<以下略>
被告国立大学法人筑波大学
福岡市東区<以下略>
被告国立大学法人九州大学
東京都渋谷区<以下略>
被告学校法人青山学院
東京都港区<以下略>
被告財団法人日韓文化交流基金
上記7名訴訟代理人弁護士清水幹裕
同溝内健介
東京都千代田区<以下略>
被告学校法人専修大学
同訴訟代理人弁護士宮岡孝之
同迫野馨恵
同鈴木健三
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,それぞれ,その所蔵する別紙文献目録記載2の出版物につき,こ
れを閲覧,若しくは謄写をさせたり,又は貸出しをしたりしてはならない。
,,。2被告らはそれぞれその所蔵する別紙文献目録記載2の出版物を廃棄せよ
3被告国立大学法人東京大学(以下「被告東京大学」という)は,原告に対。
し,316万2800円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
4被告国立大学法人東京学芸大学(以下「被告東京学芸大学」という)は,。
原告に対し,158万1400円及びこれに対する平成18年5月1日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告国立大学法人大阪大学(以下「被告大阪大学」という)は,原告に対。
し,158万1400円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
6被告国立大学法人筑波大学(以下「被告筑波大学」という)は,原告に対。
し,158万1400円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
7被告国立大学法人九州大学(以下「被告九州大学」という)は,原告に対。
し,158万1400円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
8被告学校法人青山学院(以下「被告青山学院」という)は,原告に対し,。
158万1400円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
9被告財団法人日韓文化交流基金(以下「被告日韓文化交流基金」という)。
は,原告に対し,158万1400円及びこれに対する平成18年5月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被告学校法人専修大学(以下「被告専修大学」という)は,原告に対し,10。
158万1400円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,別紙文献目録記載1の出版物(以下「原告著作物」という)を著。
作した原告が,大韓民国(以下「韓国」という)の出版社である高麗書林が。
出版した韓国語の書籍である別紙文献目録記載2の出版物(以下「本件韓国語
著作物」という)が原告の原告著作物に係る著作権(複製権,翻訳権・翻案。
権)を侵害するものであることを前提に,被告らに対し,()①被告らが,そ1
れぞれ設置する図書館等において本件韓国語著作物を閲覧,謄写,貸与する行
為が,原告の著作権(二次的著作物に係る貸与権)を侵害する,②被告らが,
,,それぞれ設置する図書館等において本件韓国語著作物を所蔵貸与する行為が
原告の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害すると主張して,著
作権法112条に基づき,本件韓国語著作物の閲覧,謄写,貸出しの差止め及
び廃棄を求めるとともに,()①主位的に,著作権及び著作者人格権侵害の不2
法行為による損害賠償請求権に基づき,被告東京大学につき合計316万28
00円の損害賠償金(後記4()アのとおり著作権侵害と著作者人格権侵害に3
よる損害額の割合は各2分の1ずつ,その余の被告につき各自合計158万)
1400円の損害賠償金(著作権侵害と著作者人格権侵害による損害額の割合
は各2分の1ずつ,及びこれらの金員に対する不法行為の後の日である平成)
18年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を,②予備的に,被告らがそれぞれ設置する図書館等において本件韓国語
著作物を所蔵,貸与する行為が一般不法行為に該当すると主張して,民法70
9条に基づき,上記①と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案
である。
2前提となる事実(証拠等は各項に掲記)
()原告著作物の発行1
原告著作物は,原告がその内容を編集及び解説したものであり,平成8年
(1996年)2月28日,夏の書房から発行された。
原告著作物は,米国国立公文書館が所蔵する朝鮮戦争時に米国が北朝鮮か
ら押収した文書等の中から,原告が選別した文書をまとめた全3巻からなる
資料集であり,各巻末には原告が著作した各資料についての日本語による解
説文が掲載されている(甲1の1∼3,3の1∼3,4の1∼12,5の。
1∼12,6の1∼14)
()本件韓国語著作物の発行2
韓国の出版社である高麗書林は,平成10年(1998年)6月,全6巻
。(,からなる韓国語の書籍である本件韓国語著作物を発行した甲1の1∼3
3の1∼3,7の1∼11,8の1∼6,9の1∼8,10の1∼6,11
の1∼8,12の1∼の8)
()被告らによる図書館等の設置及び本件韓国語著作物の所蔵3
ア被告東京大学,被告大阪大学,被告筑波大学,被告九州大学,被告青山
学院及び被告専修大学は,それぞれ図書館を設置し,学生及び教職員等に
対し,所蔵する図書を閲覧させ,貸出しをしている。
イ被告東京学芸大学は,B研究室を設置し,所蔵する図書を研究室内での
研究に利用している。
ウ被告日韓文化交流基金は,図書センターを設置し,職員や研究者等に対
し,所蔵する図書を閲覧させ,貸出しをしている。
エ被告東京大学,被告大阪大学,被告筑波大学,被告九州大学,被告青山
学院及び被告専修大学は,それぞれが設置する図書館において(被告東京
大学は,文学部図書館及び東洋文化研究所図書館に各1組,合計2組,)
被告東京学芸大学は,B研究室において,被告日韓文化交流基金は,図書
センターにおいて,それぞれ本件韓国語著作物を購入し,所蔵している。
()貸出し等の状況4
ア被告東京大学
本件韓国語著作物は貸出し可能な状況にあるが,現に貸出しがされた記
録はない。
イ被告東京学芸大学
B研究室所蔵の書籍について閲覧,貸出しはされていない。本件韓国語
著作物のような研究資料は,教員等の使用責任者が保管責任を負い,原則
として当該研究室のみで利用されているが,一般利用者から利用の申出が
あった場合には,支障のない範囲で応じるものとされている。本件韓国語
著作物は所蔵以来現在に至るまで,現に貸出しがされたことはない。
ウ被告大阪大学
本件韓国語著作物は貸出し可能な状況にあるが,現に貸出しがされたこ
とはない。
エ被告筑波大学
本件韓国語著作物は,所蔵以来現在に至るまで,現に貸出しがされたこ
とはない。
オ被告九州大学
本件韓国語著作物は貸出し可能な状況にあるが,平成15年8月7日以
降現在に至るまで現に貸出しがされたことはない(平成15年8月7日よ
り前については,記録がなく不明である。。)
カ被告青山学院
本件韓国語著作物は貸出し可能な状況にあるが,現に貸出しがされたこ
とはない。
キ被告日韓文化交流基金
本件韓国語著作物は,平成19年6月以降現在に至るまで,現に貸出し
がされたことはない。
ク被告専修大学
平成20年11月8日,原告著作物の販売元であるレインボー通商の代
表者Cから被告専修大学図書課に,原告が被告専修大学に対し訴えを提起
したとの電話連絡があった。被告専修大学は,本件韓国語著作物は海賊版
と認定することはできないが,暫定的な処置として,同月10日,本件韓
国語著作物を書架から一時取り外して事務所内で保管することとした。
(弁論の全趣旨)
3争点
()著作権侵害の成否(争点1)1
()著作者人格権侵害の成否(争点2)2
()損害額(争点3)3
()一般不法行為の成否・損害額(予備的請求−争点4)4
4争点に関する当事者の主張
()争点1(著作権侵害の成否)について1
ア原告の主張
(ア)原告著作物と本件韓国語著作物は,収録されている資料及びその配列
,,が同一であること目次及び解説部分の内容がほとんど同一であること
奥付の書名がほとんど同一であること本件韓国語著作物の表紙では北(「
朝解放直後極秘資料」となっているが,甲1の3及び甲3の3の奥付で
は「北朝鮮の極秘文書」のままになっている,両著作物の違いは書。)
名や巻数など些細な点しかないことから,本件韓国語著作物は,原告著
作物に依拠した実質的に同一内容の複製物であり,高麗書林が本件韓国
語著作物を出版することは,原告の原告著作物に係る複製権(著作権法
21条)及び翻訳権・翻案権(著作権法27条)を侵害する。
(イ)被告らは,それぞれが設置する図書館等において本件韓国語著作物を
購入して所蔵し,これを利用者に対して閲覧,謄写させたり,貸し出し
たりしている。
被告らによる本件韓国語著作物の閲覧,謄写,貸出しは,原告の二次
的著作物に係る貸与権(著作権法26条の3)を侵害するものである。
(ウ)被告らは,各図書館等は平成16年8月1日時点において現に公衆へ
の貸与の目的でそれぞれ本件韓国語著作物を所蔵していたのであるか
ら,平成16年の著作権法の一部を改正する法律(平成16年法律第9
2号。以下「平成16年改正法」という)附則4条により,被告らが。
所蔵する本件韓国語著作物の貸与については貸与権の規定は適用されな
いと主張するが,平成16年改正法附則4条の経過措置は,貸本業者が
以前から所持しているすべての書籍について貸与権が及ぶとすると,貸
本業者に予期せぬ不利益を課し現実的に妥当でないことから設けられた
ものであること等,貸与権規定の制定,変遷の経緯からすると,平成1
6年改正法附則4条,同改正法により削除される前の著作権法附則4条
の2により貸与権が及ばない書籍又は雑誌の範囲は,貸本業者が所持す
る書籍又は雑誌に限定されると解するのが相当である。
したがって,貸本業者ではない被告らが所蔵する書籍である本件韓国
語著作物の貸与については,貸与権の規定が適用される。
また,本件韓国語著作物のような違法複製物に対して著作権法附則4
条の2により貸与権の規定の適用がないと解することは,著作権法に違
反する行為を放置,容認,保護することになり著作権法の目的に反する
ものであって,著作権法113条1項2号により違法複製物をそれと知
りつつ貸与することは認められないこととの関係からも,許されないこ
とである。
(エ)被告らは,著作権法38条4項の適用により原告の貸与権は制限され
ると主張するが,被告らが設置する図書館等で所蔵している本件韓国語
著作物は原告著作物の違法複製物であり,このような違法複製物の貸与
は,文化的所産の公正な利用や文化の発展への寄与という著作権法の目
的に反し,公益上の必要性がないこと,著作権法113条1項2号との
関係から違法複製物をそれと知りつつ貸与することは認められないこと
等からすると,本件韓国語著作物の貸与につき著作権法38条4項の適
用はなく,貸与権が制限されることはない。
イ被告らの主張
(ア)本件韓国語著作物が原告の原告著作物に係る複製権,翻訳権・翻案権
を侵害するとの主張は,否認ないし争う。
(イ)被告らが設置する図書館等においては,所蔵する本件韓国語著作物が
現に貸し出されたことはない。
被告らによる本件韓国語著作物の閲覧,謄写,貸出しが,原告の二次
的著作物に係る貸与権を侵害するとの主張は,否認ないし争う。
(ウ)昭和59年の著作権法の一部を改正する法律(昭和59年法律第46
号。以下「昭和59年改正法」という)により付加された著作権法附。
則4条の2により,書籍又は雑誌の貸与については,当分の間,貸与権
の規定は適用されないこととされたが,平成16年改正法により同附則
が削除され,書籍又は雑誌の貸与についても貸与権の規定が適用される
ことになった。
もっとも,平成16年改正法の公布日(平成16年6月9日)の属す
る月の翌々月の初日において現に公衆への貸与の目的をもって所持され
ている書籍又は雑誌の貸与については,引き続き貸与権の規定は適用さ
れないこととされた(平成16年改正法附則4条。)
被告らがそれぞれ設置する図書館等は,いずれも平成16年7月31
日以前から本件韓国語著作物を所蔵しているから,各図書館等が所蔵す
る本件韓国語著作物は,平成16年8月1日時点において現に公衆への
貸与の目的をもって所持されている書籍であり,その貸与につき貸与権
の規定は適用されないから,被告らによる本件韓国語著作物の閲覧,謄
写,貸出しが原告の貸与権を侵害することはない。
(エ)仮に,被告らの設置する図書館等が本件韓国語著作物の貸出しを行っ
ていたとしても,被告らによる本件韓国語著作物の貸出しは,営利を目
的とするものではなく,かつ,その複製物の貸与を受ける者から料金を
受けないで行われているため,原告の貸与権は制限され,原告の貸与権
を侵害することはない(著作権法38条4項。)
()争点2(著作者人格権侵害の成否)について2
ア原告の主張
本件韓国語著作物は,原告が執筆した解説を原告に無断で韓国語に翻訳
した上で,著作者である原告の氏名を表示せず,かつ,一部の文章を削除
するなどして内容を改変するものであるから,原告の著作者人格権(氏名
表示権,同一性保持権〔著作権法19条,20条)を侵害するものであ〕
る。
被告らが,このような内容の本件韓国語著作物を所蔵し,貸与すること
も,原告の著作者人格権を侵害するものである。
イ被告らの主張
否認ないし争う。
()争点3(損害額)3
ア原告の主張
原告は,被告らによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為によ
り,以下の損害を被った。著作権侵害による損害額と著作者人格権侵害に
よる損害額の割合は,それぞれ2分の1ずつとする。
なお,被告東京大学は,設置する2つの図書館でそれぞれ本件韓国語著
作物を所蔵していることから,被告東京大学に対しては他の被告の倍額の
損害賠償を求める。
(ア)各被告らの侵害行為により,それぞれ原告著作物(全3巻)の販売価
格28万1400円相当の損害を被った(ただし,被告東京大学につ
いては56万2800円相当である。。)
(イ)被告らの侵害行為により原告は精神的苦痛を受け,これを金銭に評価
すると各被告につきそれぞれ100万円を下らない(ただし,被告東
京大学については200万円を下らない。。)
(ウ)原告は,本件訴訟を提起するため,原告代理人に対し,着手金として
(。,。)90万円各被告当たり10万円ただし被告東京大学は20万円
,(。,を支払い報酬金として180万円各被告当たり20万円ただし
被告東京大学は40万円)を支払うことを約した。。
(エ)損害合計額
a被告東京大学につき合計316万2800円
bその余の被告につき各自合計158万1400円
イ被告らの主張
否認ないし争う。
()争点4(一般不法行為の成否・損害額:予備的請求)4
ア原告の主張
仮に,被告らによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為が認め
,()られないとしても著作権法の保護の対象とならない著作物違法複製物
である本件韓国語著作物が保護されることは著作権法の趣旨に反するこ
と,被告らによる本件韓国語著作物の所蔵,貸与は複製権侵害の幇助と評
価できることから,被告らが,本件韓国語著作物を所蔵し,貸与すること
は民法709条の不法行為に該当する。
被告らの不法行為により,原告は,自らが執筆及び編集した原告著作物
の違法複製物が第三者により所蔵,貸与されることがないという利益を侵
害された。その損害額は,上記()アと同額である。3
イ被告らの主張
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(著作権侵害の成否)について
当裁判所は,仮に本件韓国語著作物が原告の原告著作物に係る複製権及び翻
訳権・翻案権を侵害するものであったとしても,被告らがそれぞれ設置する図
書館等において,本件韓国語著作物を利用者に閲覧・謄写させたり,貸し出し
たりすることが,原告の著作権(二次的著作物に係る貸与権)の侵害には該当
しないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
()貸与権の規定1
貸与権の規定(著作権法26条の3)は,昭和59年改正法により設けら
れた規定であるが(当時の条文は26条の2,同改正法により付加され。)
た著作権法附則4条の2により,書籍又は雑誌(主として楽譜により構成さ
れているものを除く)の貸与による場合には,当分の間,適用しないこと。
。,(。),とされたその後平成16年改正法平成17年1月1日施行により
上記附則4条の2は削除され,平成17年1月1日から書籍及び雑誌の貸与
にも貸与権の規定が適用されることになったが,同改正法附則4条により,
同法の公布の日(平成16年6月9日)の属する月の翌々月の初日において
現に公衆への貸与の目的をもって所持されている書籍又は雑誌(主として楽
譜により構成されているものを除く)の貸与については,上記附則4条の。
2の規定は平成16年改正法の施行後もなおその効力を有するとされ,平成
16年8月1日において現に公衆への貸与の目的で所持されていた書籍又は
(。),雑誌主として楽譜により構成されているものを除くの貸与については
引き続き貸与権の規定は適用されないこととされた。
()上記経過規定を本件に当てはめると,被告東京大学は平成11年5月192
日(東洋文化研究所図書館,平成13年3月9日(文学部図書館)に,被)
告東京学芸大学は平成12年2月4日に,被告大阪大学は平成15年12月
18日に,被告筑波大学は平成10年11月25日に,被告九州大学は平成
12年7月24日に,被告青山学院は平成12年9月18日に,被告専修大
,,学は平成16年4月8日に被告日韓文化交流基金は平成11年4月6日に
それぞれ本件韓国語著作物を購入し,そのころ,それぞれが設置する図書館
等に本件韓国語著作物を所蔵し,現在に至っているが,被告らが設置する図
書館等における本件韓国語著作物の貸出し等の状況は上記第2の2(),()34
(,,,,,)。のとおりである乙イ1の12乙イ2∼7乙ロ34弁論の全趣旨
そうすると,被告らが設置する図書館等で所蔵する本件韓国語著作物は,
いずれも平成16年8月1日の時点において現に公衆への貸与の目的をもっ
て所持されていた書籍であり,かつ,本件韓国語著作物は主として楽譜によ
り構成されているものでないことは明らかであるから,平成16年改正法附
則4条,同改正法により削除される前の著作権法附則4条の2により,その
貸与につき貸与権の規定は適用されないこととなる。したがって,被告らが
所蔵する本件韓国語著作物については貸与権の規定が適用されず,本件韓国
語著作物に係る著作者の貸与権が及ばない以上,仮に原告が本件韓国語著作
物の原著作物の著作者であったとしても,二次的著作物である本件韓国語著
作物に係る原告の貸与権が及ぶことはなく(著作権法28条,原告の二次)
的著作物に係る貸与権の侵害に該当することはないため,原告の著作権侵害
に基づく各請求は失当である。
原告は,被告らによる本件韓国語著作物の閲覧,謄写も貸与権の侵害にな
ると主張する。しかし,著作権法の「貸与」とは,使用の権原を取得させる
(),,行為をいうが著作権法2条8項図書館等において書籍を利用者に閲覧
,「」謄写させる行為は利用者に使用権原を取得させるものではないから貸与
に当たるということはできず,原告の上記主張は誤りというほかない。
()原告は,貸与権の規定の制定,変遷の経緯からすると,平成16年改正法3
附則4条,同改正法により削除される前の著作権法附則4条の2により貸与
権が及ばない書籍又は雑誌の範囲は,貸本業者が所持する書籍又は雑誌に限
定されると解するのが相当であると主張する。
しかし,平成16年改正法附則4条及び同改正法により削除される前の著
作権法附則4条の2の文言上,貸与権の規定が適用されない書籍又は雑誌に
は,主として楽譜により構成されているものを除くとするほかには何ら限定
,,はなく貸本業者が所持する書籍等に限定されると解すべき理由はないから
原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,本件韓国語著作物のような違法複製物につき貸与権の規定
の適用がないと解することは,著作権法に違反する行為を放置,容認,保護
することになり著作権法の目的に反し,また,著作権法113条1項2号に
より違法複製物をそれと知りつつ貸与することは認められないこととの関係
からも,許されないと主張する。
しかし,平成16年改正法附則4条及び同改正法により削除される前の著
作権法附則4条の2は,貸与権の規定が適用されない書籍又は雑誌につき,
違法複製物を除く適法なものに限定していないから,当該書籍等が適法なも
のか否かにより上記各規定の適用が異なるものと解することはできない。原
告が主張するように,本件韓国語著作物が原告の原告著作物に係る著作権を
侵害するものである場合には,本件韓国語著作物の貸与につき貸与権の規定
の適用がないとしても,これを情を知って貸与し,又は貸与の目的をもって
所持すれば,原告の著作権を侵害する行為とみなされるのであるから(著作
権法113条1項2号,2条1項19号,著作権者の権利保護に欠けるこ)
とはなく,著作権法の目的に反することはない。したがって,上記原告の主
張も採用することはできない。
なお付言するに,被告らは,原告から,各図書館等で所蔵する本件韓国語
著作物が原告著作物を違法に複製・翻訳したものである旨の警告を受け,原
告が株式会社高麗書林(韓国の高麗書林とは別法人)外1名を被告とする別
件訴訟(当庁平成20年(ワ)第20337号事件)において著作権侵害を
主張して争っているという事情を認識してはいるものの(甲23,弁論の全
趣旨,本件韓国語著作物を原告の著作権を侵害する行為によって作成され)
たものであると知って所持しているものと認めることはできないから,被告
らにつき著作権法113条1項2号の「侵害とみなす行為」が成立するとい
うこともできない。
2争点2(著作者人格権侵害の成否)について
被告らが設置する図書館等において本件韓国語著作物を所蔵し,貸与する行
為自体は,著作物及びその題号を改変するものではないから,原告の同一性保
持権を侵害することはない。
また,上記第2の2(),()のとおり,被告らは,それぞれが設置する図書34
館等において,利用者に対する閲覧,貸与等のために本件韓国語著作物を所蔵
しているものである。そして,一般に,図書館等において所蔵する書籍等を利
用者へ貸与する際に,当該書籍等に表示されているもののほかに著作者の氏名
は表示しないのが通例であり,そのことによって著作者が創作者であることを
主張する利益を害するおそれはなく,公正な慣行にも反しないといえる。そう
とすれば,書籍等の貸与に当たっては,公衆への提供又は提示に際して付すべ
き著作者名の表示とは,書籍等に付された表示に尽きるものであり,被告らが
本件韓国語著作物を利用者へ貸与する際に改めて著作者名を表示しなかったと
しても原告の氏名表示権を侵害する行為があったとはいえない。また,被告ら
が設置する図書館等において本件韓国語著作物を所蔵する行為は「著作物の,
公衆への提供若しくは提示(著作権法19条1項)に当たらず,氏名表示権」
を侵害することはない。
よって,原告の著作者人格権侵害に基づく各請求は理由がない。
3争点4(一般不法行為の成否:予備的請求)について
著作権及び著作者人格権侵害の不法行為が認められないことは上記1,2の
とおりであるところ,民法709条の規定に照らしても,被告らが設置する図
書館等において本件韓国語著作物を所蔵し,貸与することは,法令に違反する
ものとは認められず,また,不公正な行為として社会的に許容される限度を超
えるものと認めることもできないから,被告らの行為が一般不法行為を構成す
るということもできない。
原告は,著作権法の保護の対象とならない著作物(違法複製物)である本件
韓国語著作物が保護されることは著作権法の趣旨に反する,被告らによる本件
,,韓国語著作物の所蔵貸与は複製権侵害の幇助と評価できるなどと主張するが
結局のところ著作権侵害の違法をいうものにすぎず,その主張に理由がないこ
とは上記1,2に説示したとおりである。
よって,原告の民法709条の不法行為に基づく各請求も理由がない。
4結論
以上のとおり,原告主張のいずれの不法行為も認めることはできないから,
その余の点について判断するまでもなく,原告の被告らに対する各請求はいず
れも理由がない。よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡本岳
裁判官
中村恭
裁判官
坂本康博
(別紙)
文献目録
「」()1書名米国・国立公文書館所蔵北朝鮮の極秘文書上・中・下
編集・解説萩原遼(本名A)
発行夏の書房
発行日平成8年(1996年)2月28日
「」()2書名美國・國立公文書館所蔵北韓解放直後極秘資料全6巻
発行圖書出版高麗書林(韓国)
発行日平成10年(1998年)6月21日

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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