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平成13年(行ケ)第48号 審決取消請求事件(平成13年10月1日口頭弁論
終結)
          判         決
   原      告   富士工業株式会社
訴訟代理人弁護士藤   本   英   介
同          鈴   木   正   勇
同    弁理士   宮   尾   明   茂
       被      告   特許庁長官 及川耕造
指定代理人為   谷       博
同          宮   川   久   成
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成11年審判第19502号事件について平成12年12月19
日にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  原告は、平成9年4月1日、別添審決謄本の別掲本願商標記載の立体商標
(以下「本願商標」という。)について、指定商品を商標法施行令別表による第2
8類「投釣り用天秤」として商標登録出願(商願平9-101273号)をした
が、平成11年11月5日、拒絶査定を受けたので、同年12月6日、これに対す
る不服の審判の請求をした。特許庁は、同請求を平成11年審判第19502号事
件として審理した結果、平成12年12月19日、「本件審判の請求は、成り立た
ない。」との審決をし、その謄本は、平成13年1月15日、原告に送達された。
2 審決の理由
  審決は、別添審決謄本記載のとおり、本願商標は、商品の形状を普通に用い
られる方法で表示する標章のみからなるものであって、商標法3条1項3号に掲げ
る商標(以下「記述的商標」という。)に当たり、かつ、使用をされた結果同条2
項所定の自他商品識別機能を有するに至っているとも認められないから、本願商標
の登録出願は拒絶されるべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由
  審決は、本願商標が商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみ
からなるものであるとの誤った認定をして商標法3条1項3号該当性を肯定し(取
消事由1)、かつ、使用をされた結果自他商品識別機能を有するに至っているとも
認められないとの誤った認定をして同条2項該当性を否定した(取消事由2)結
果、本願商標の登録出願が拒絶されるべきであるとの誤った判断をしたものである
から、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)
(1) 商品の形状の意義
 ア 審決は、「商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていて
も・・・全体としてみた場合、商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状
を有している場合には・・・未だ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する
ものの域を出ないと解するのが相当である。」(審決謄本2頁20行目~28行
目)と判断するが、誤りである。
   商品等の形状は、第一次的には、商品等の機能又は美感を発揮させるこ
とを念頭に置いて選択されるものであるが、商品等を製造販売する上においては、
それに加えて、他の同種商品等との識別の有無が重要な意義を有する。他の同種商
品等の人気に便乗しようとする意図で、機能や美感との関係においては必然的でな
い形状を選択するなど、商品等の機能や美感を発揮させながら商品等の識別の有無
を意図して選択される商品等の形状もある。そもそも、商品等は、一定の機能を備
えているからこそ商品価値があり、機能や美感と関係しない特異な形状など存在し
ない。商品等の形状において、特異な形状といえるかどうかは、他の同種商品との
比較により決まるのであって、当該商品等の形状が機能や美感をより発揮させるた
めに選択されたものであっても、他の同種商品等が通常備えている形状と異なるも
のであれば、自他商品の識別は十分に可能となる。
 イ 審決は、「商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果た
すためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人も
これを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人
に独占を認めるのは妥当でないというべきである。」(同29行目~32行目)と
判断するが、誤りである。
   商品等が備えなければならない機能により、商品等の形状は一定の限定
を受けるが、完全に同一形状にならなければならないような場合は例外であって、
多くの場合は、選択し得る形状にも幅があり、その範囲内において異なる形状を選
択することは可能であるから、当該商品等の形状が自他商品等の識別機能を備える
に至っている場合には、他の者が当該商品等の形状を使用することができなくて
も、何ら不都合はなく、むしろ、これを使用させることは、出所の混同を生ずると
いう不都合を招く。
 ウ 審決は、「商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合
はともかくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構
成される商標については・・・商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標
章のみからなる商標として商標法第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受ける
ことができないものと解すべきである。」(同2頁33行目~3頁3行目)と判断
するが、誤りである。
   上記のとおり、商品等の機能又は美感と関係のない形状など存在しない
のであり、本願商標のような形状が商標登録を受けることができないとすると、商
品等の形状についても商標登録を予定している商標法の趣旨と反する。
 エ 審決は、工業所有権審議会の平成7年12月13日付け「商標法等の改
正に関する答申」(乙第1号証、以下「審議会答申」という。)を引用している
が、同答申は、商品等の形状として通常予定される範囲のものについて登録対象と
しないという趣旨にすぎず、その範囲を超えるようなものであれば、機能又は美感
を発揮させるための形状であっても、商標登録の対象から除外する趣旨ではない。
(2) 本願商標の識別性の判断
ア 審決は、「本願商標を構成する『投げ釣り用天秤』の特徴は、商品等の
機能(投げ易さ、糸絡み防止等)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせる
ための範囲内のものというべきである。・・・本願商標は、その形状に特徴をもた
せたことをもって自他商品の識別力を有するものとは認められない」(審決謄本3
頁25行目~33行目)と判断する。
  しかしながら、商品等の形状が商品等の機能又は美感をより発揮させる
ために施されたものであるからといって直ちに、他の同種商品との識別機能が否定
されるものではなく、当該商品等の具体的形状が同種商品において従来にない特異
な形状をしていることにより他の同種商品と識別することができるかどうかを判断
すべきである。
イ 投げ釣り用天秤は、その大半が機能重視のもので、おもり本来のイメー
ジを引きずった愚鈍な形状であるのに対して、本願商標に係る投げ釣り用天秤の形
状は、3枚の翼状片を付けることによっておもり本来のイメージを払拭したざん新
で独創的なものである。
     投げ釣り用天秤は、趣味として行われる釣りにおいて用いられ、その需
要者は、細部の形状の相違についても強い関心を持っているから、その相違により
商品等の相違を識別することは十分可能である。
ウ 審決は、「立体的形状からなる商標で商品等の形状をもって構成される
ものについては、本来的又は直接的には他の知的財産制度で保護されるものである
ことなど、平面的な商標とは明らかに異なるものである」(同3頁35行目~37
行目)と判断するが、誤りである。
  当該商標が自他商品の識別機能を備えている場合に、出所の混同を防止
する必要は、商標が立体であるか平面であるかにより異なるものではない。平面的
商標であっても、単なる模様のようなものもある。また、商標は、特許、意匠等の
他の知的財産制度と目的が異なり、形状の問題であるからといって、特許法や意匠
法により保護すれば足りるというものではない。
 2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)
(1) 本願商標の形状としての特異性
  投げ釣り用天秤は、その大半が機能重視のもので、おもり本来のイメージ
を引きずった愚鈍な形状であるのに対して、原告の製造販売する「ジェット天秤」
(以下「本件投げ釣り用天秤」という。)の形状は、3枚の翼状片を付けることに
よっておもり本来のイメージを払拭したざん新で独創的なものである。
  第一精工株式会社のカタログ(乙第4号証の1)に掲載されている「キン
グ天秤」も、頭部に翼を有し、2枚の翼とともに、翼と垂直に交差する2枚のつば
が設けられているが、翼よりもはるかに小さく、単なるつばであって、本件投げ釣
り用天秤との形状の相違は明らかである。また、両者は、共に翼と頭部が同一色で
構成されるため、不鮮明な写真等で見るとその相違が把握しにくいかもしれない
が、実物を見れば、その相違は明らかである。
(2) 広告宣伝
  原告は、本件投げ釣り用天秤のイラストを掲載した自社の卸価格表を、昭
和41年から今日まで、毎年取引先に大量に頒布している(甲第4号証の1~2
8)。現在の全国の釣具店の総数は、約8800店ほどであるが(甲第25号
証)、原告は、毎年、価格表を約8000ないし8500部ほど配布しており(甲
第26号証)、取引者である釣具店の大半に価格表が行きわたっている。
  原告は、本件投げ釣り用天秤の写真を掲載した自社のカタログも、毎年、
取引者である釣具店や需要者である釣り愛好家に大量に頒布している(甲第7号証
の1~12)ほか、「国際つり博」等の博覧会を中心に、約4万部ほど配布してい
る(甲第26号証)。また、東京地裁昭和53年10月30日判決・無体裁集10
巻2号509頁(以下「本件地裁判決」という。)が認定するように、原告は、昭
和41年から昭和53年ころまで、本件投げ釣り用天秤の広告を、月刊の釣り雑誌
に継続して掲載していた。
  原告の昭和54年から平成13年までの広告宣伝費は、総計6億8075
万6488円であり(甲第26号証)、そのうち、原告の代表的な商品である本件
投げ釣り用天秤の広告宣伝に、かなりの額が費やされている。
(3) 販売数量
  原告は、本件投げ釣り用天秤を、昭和41年から現在まで長期間にわたり
継続して大量に販売している。昭和51年から平成12年までの本件投げ釣り用天
秤の販売数量の合計は5257万3339個であり(甲第27号証)、1年間の平
均販売個数は200万個以上であって、現在も、特に、販売個数が激減するという
こともない。
(4) 釣り雑誌の掲載
  投げ釣り用天秤の取引者である釣具業者やその需要者である釣り愛好家の
多くが購読している釣り雑誌の多くに、本件投げ釣り用天秤の特徴である頭部の3
枚翼を容易に認識し得るように描かれたイラスト等が掲載されている(甲第16号
証の8、64、95、99、101)。また、釣り雑誌に掲載されている投げ釣り
用の仕掛け図のほとんどにも、本件投げ釣り用天秤が記載されている。スペースの
関係から、その形状を正確に記載するものではないが、本件投げ釣り用天秤の特徴
である頭部から胴部分にかけて翼を備えていることが分かるように図示されている
(甲第16号証の1~101)。このような仕掛け図の記載と上記の本件投げ釣り
用天秤の特徴を描いたイラストや写真とを繰り返して交互に見ていれば、釣り雑誌
の読者は、おのずと本件投げ釣り用天秤の特徴を把握することが可能となる。上記
「キング天秤」も翼を有するが、上記雑誌のイラストの仕掛け図における投げ釣り
用天秤には、その特徴である頭部中央のつばがなく、「キング天秤」が想起される
ことはない。
  このように、多くの異なる釣り雑誌の投げ釣り用の仕掛け図のほとんどに
本件投げ釣り用天秤が描かれているのは、投げ釣り用天秤といえば本件投げ釣り用
天秤が想起されるほど定番化されていることの証左である。
(5) 文字商標との関係
 ア 審決は、本願商標と同一と認められる投げ釣り用天秤には、その大部分
に「富士ジェット天秤」等の文字商標が併記されていることをとらえて、「商品の
形状は・・・本来的(第一義的)には、商品の出所を表示し自他商品を識別する標
識として採択されるとはいえないものであり、その識別機能を果たすものとしては
文字、図形又は記号等が・・・使用されていること・・・からすれば、前記甲号証
(注、本訴甲第4、第7、第11ないし第16、第20、第23号証〔枝番を含
む。〕を指す。)中の商品『投げ釣り用天秤』は、『富士ジェット天秤』・・・の
文字商標により識別されているというべきである。」(審決謄本4頁16行目~2
5行目)と判断するが、誤りである。
   商品の形状において他の同種商品の形状と異なる特異な形状を備えてい
れば、それが反復使用されることによって、自他商品の識別が行われるようにな
る。
 イ 本件投げ釣り用天秤は、上記のとおり、形状に特異性を備え、何十年に
わたり大量に宣伝広告、販売されている商品である。また、上記のとおり、本件投
げ釣り用天秤は、投げ釣り用天秤の代表的なものとして、釣の雑誌や書籍に繰り返
し紹介されており、既に釣り愛好家の間では定番化している。このような商品に文
字商標が付されている場合、当初は文字商標のみにより自他商品の識別がされるこ
とがあったかもしれないが、次第に文字商標と商品の形状が結びつくようになり、
最終的には、形状を見るだけで当該文字商標を想起するようになる。
 ウ 本件投げ釣り用天秤には、本体に「富士」の刻印がされ、カタログ及び
パッケージに「ジェット天秤」等の文字商標が付されているが、審決のいうよう
に、文字、図形等が商品の形状に比べて自他商品の識別標識として適しているもの
とはいえず、文字商標が付されていることによって、本件投げ釣り用天秤の形状の
自他商品識別機能が左右されるものではない。
   すなわち、本体の「富士」の刻印は、全体が銀色の金属部分に目立たな
い態様で付され、釣り雑誌の写真から判別することはできず、また、そのイラスト
にも描かれていない。釣用品のように趣味性の強い商品にあっては、取引者である
釣り用具業者や需要者である釣り愛好家が最も関心を持つのは、商品の形状であ
り、文字商標は重要なものではない。原告のカタログにおいては、商品の形状が目
立つように記載されており、「ジェット天秤」等の文字商標は、それよりも小さく
記載されている(甲第7号証の6~12、第13号証、第15号証)。商品のパッ
ケージにおいても、本件投げ釣り用天秤の形状が判別し得るように、下から3分の
1は透明になっており、天秤の形状が「ジェット天秤」の文字よりも目立つように
なっている(甲第13号証、検甲第1号証)。釣り雑誌においても、本件投げ釣り
用天秤を紹介する場合には、ほとんどの場合、「ジェット天秤」の名称に商品の写
真やイラストを記載しているし、「ジェット天秤」であるとの説明を付すことな
く、単に商品の写真のみを掲載する場合もある(甲第16号証の8の87頁、同号
証の29の72頁)。
   さらに、投げ釣り用天秤のような商品は、需要者が購入後直ちに消費す
ることなく使用を継続するが、使用される際にパッケージは廃棄され、需要者は、
文字商標なしに商品の形状と長時間接することとなり、その形状が強く印象に残
る。
   なお、本件地裁判決は、本件投げ釣り用天秤の形状について、文字商標
が商品のパッケージ等に付されていることを問題とすることなく、不正競争防止法
(昭和9年法律第14号、以下「旧不正競争防止法」という。)1条1項1号の
「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当することを認定したものであって、商標
法3条2項の適用の有無を判断する際においても、文字商標が付されていることを
問題とすべきではない。
(6) アンケート結果
  原告は、釣り用品の業者及び釣り愛好家が多数来場する「東京国際つり博
2001」及び「フィッシングショーOSAKA2001」において、アンケート
を実施した。その結果、本件投げ釣り用天秤については、有効回答の45%以上が
原告製であると回答しており、他のメーカーの製品であると回答したものは数%に
すぎないなど、本件投げ釣り用天秤が原告製であるとの識別が示されている。
(7) 不正競争防止法との関係
 ア 審決は、「商標法第3条第2項における当該出願商標が使用をされた結
果自他商品の識別機能を有するに至っているものであるか否かと不正競争防止法
(注、旧不正競争防止法)第1条第1項第1号における当該商品等表示が需要者の
間に広く認識されているものであるか否かの認定、判断は・・・それぞれの法律の
目的によってその内容が異なるといい得るものであるから、前記『侵害差止等請求
併合事件』に係る判決(注、本件地裁判決)の存在をもって、『本願商標は、その
指定商品について自他商品の識別機能を有するに至っているものである。』とする
旨の請求人の主張は、直ちには採用し難い。」(審決謄本4頁37行目~5頁13
行目)と判断するが、誤りである。
 イ 本件地裁判決は、本件投げ釣り用天秤の形状について、旧不正競争防止
法1条1項1号の「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当することを認めたが、
それは、本件投げ釣り用天秤の形状が自他商品の識別力を備えていることが前提と
なっている。確かに、商標法と不正競争防止法の目的は異なっているが、旧不正競
争防止法1条1項1号の商品表示性と商標法3条2項の自他商品の識別力は、共に
形状から出所を判断し得るという点において共通しており、不正競争防止法上の商
品表示性が肯定された場合には、商標法3条2項における自他商品の識別力も備わ
っているというべきである。
 ウ 本願商標の形状が識別力を有することが、既に判決において確定してい
るのであるから、その点を検討することなく、単に形式的な法の立法目的の相違の
みを理由に、本願商標が使用の結果識別機能を備えているとの原告主張を排斥する
ことはできない。また、本件地裁判決後も、本件投げ釣り用天秤の販売量は増加し
ており(甲第27号証)、広告宣伝も同様に行われている。しかも、本件投げ釣り
用天秤と同一形状の投げ釣り用天秤が他者から販売されておらず、本件地裁判決の
認定した本件投げ釣り用天秤の形状の商品表示性は、現在においても認められる。
第4 被告の反論
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について
(1) 商品の形状の意義
 ア 原告は、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、全体
として商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状である場合には、商品等
の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ない旨の審決の判断に対
し、機能や美感と関係しない特異な形状は存在しないとか、商品の形状が機能や美
感をより発揮させるために選択されたものであっても、他の同種商品等が通常備え
ている形状と異なるものであれば、自他商品の識別は十分可能になると主張する。
   しかしながら、商品等の形状は、本来的には、それ自体の有する機能を
効果的に発揮させたり、美感を追求するなどの目的で選択されるものであって、商
品等の出所を表示する自他商品等の識別標識として採択されるものではなく、基本
的に識別標識たり得ないものである。そして、商品等の形状は、その機能又は美感
等とは関係のない特異な形状からなる場合において、例外的に、その使用により二
次的に自他商品等の識別力を有するに至るにとどまる。このことは、審決の引用す
る審議会答申(乙第1号証)からも明らかであり、裁判例も、東京地裁昭和52年
12月23日判決・無体裁集9巻2号769頁などがこの趣旨を判示している。さ
らに、特許庁は、立体商標制度の導入に際しての説明会のテキスト「平成8年改正
商標法に基づく商標登録出願と審査・審判の実務運用について」(乙第2号証、以
下「運用指針」という。)において、指定商品等との関係において同種の商品等が
採用し得る立体的形状に特徴的な変更、装飾等が施されたものであっても、需要者
が、全体としてその形状を表示したものと認識するにとどまる限り、そのような立
体商標は識別力を有しないものとするとの説明をしている。これらと同旨の審決の
判断は正当である。
 イ 原告は、商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たす
ために原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上なんぴとも
これを使用する必要があり、かつ、なんぴともその使用を欲するものであって、一
私人に独占を認めるのは妥当でない旨の審決の判断が誤りであると主張する。しか
しながら、この主張は、当該商品等の形状が自他商品等の識別機能を備えるに至っ
ている場合を前提とするものであるから、失当である。
 ウ 商品等の形状に係る立体商標の識別性については、その形状が果たす役
割から見れば、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はとも
かくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成され
る商標については、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみから
なる商標として記述的商標に該当し、商標登録を受けることができないものと解す
べきである。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(2) 本願商標の識別性の判断
ア 原告は、当該商品等の具体的形状が同種商品において従来にない特異な
形状をしていることにより他の同種商品と識別することができるかどうかを判断す
べきであるとか、本件投げ釣り用天秤の形状は、3枚の翼状片を付けることによっ
ておもり本来のイメージを払拭したざん新で独創的なものであると主張するが、こ
れらは、投げ釣り用天秤の用途、機能から予想し得る程度の特徴にすぎない。
  本件投げ釣り用天秤の形状は、釣り雑誌において、「プラスチックの羽
根が着いているので、浮き上がりやすい。飛びの方向性も良く、よく飛び、オモリ
が遊導式でアタリも出やすく、初心者にも扱いやすいが、流れの速い場所では転が
りやすいのが欠点だ。」(甲第16号証の29)、「茂抜け、岩根抜けを得意とす
る半遊動式の伝統的天ビン。プロテクター部の三翼によって、水中からの浮き上が
りも早いアイナメ専科。」(同号証の97)と記載されているように、投げやすさ
や根掛かりのしにくさなど、専ら投げ釣り用天秤の機能をより発揮させるために採
択されたものであることは明らかである。
  また、原告が提出した書籍、カタログ及び雑誌(甲第2号証の1~
8)、被告が提出した商品カタログ(乙第4号証の1、2)、実用新案公報(乙第
5号証の1)及び意匠公報(乙第5号証の2~5)によれば、審決時以前から、本
願商標を構成する立体的形状と同様のものを含む多種類の形状の投げ釣り用天秤が
市場に出回っていたことが明らかである。
 したがって、本願商標をその指定商品である「投釣り用天秤」に使用し
ても、取引者、需要者は、全体として単に投げ釣り用天秤の形状を表示したものと
認識するにとどまるというべきである。
イ 原告は、立体的形状からなる商標で商品等の形状をもって構成されるも
のについては、本来的又は直接的には他の知的財産制度で保護されるものであるこ
となど、平面的な商標とは明らかに異なるものであるとする審決の判断が誤りであ
ると主張する。
  しかしながら、商品等の形状は、本来、それ自体の持つ機能又は美感を
より発揮させるために選択されるものであり、本来的又は直接的には、意匠法など
他の知的財産制度により保護されるものであるから、商品等の形状をもって構成さ
れる立体商標と、当初から自他商品を識別する標識として採択される平面的な商標
とでは、当該商標の識別力に関する需要者の認識の程度が相違することは明らかで
ある。もっとも、商品等の形状が立体商標として自他商品の識別力を有するもので
あれば、意匠権等との併存もあり得ること、その形状に係る意匠権等の消滅後にお
いても商標登録される場合のあることまでを否定するものではない。
 2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
(1) 本願商標と使用商標の同一性
  商品等の形状に係る立体商標が商標法3条2項に該当するものとして登録
が認められるのは、原則として、使用に係る商標が出願に係る商標と同一の場合に
限られる。したがって、出願に係る商標が立体的形状のみからなるものであるのに
対し、使用に係る商標が立体的形状と文字等との結合により構成されている場合に
は、両商標の全体的構成が同一でないことから、出願に係る商標が使用により識別
力を有するに至ったということはできない。本件投げ釣り用天秤には、そのおもり
部分に「富士」の刻印がされていることから、使用に係る商標は、立体的形状と文
字との結合により構成されているものであって、本願商標と同一であるということ
はできない。本願商標が使用により識別力を有するに至ったとの原告の主張は、こ
の点で前提を欠く。
(2) 本願商標の形状としての特異性
  原告は、本件投げ釣り用天秤の形状が独創的なものであると主張するが、
上記のとおり、その形状は、投げやすさや根掛かりのしにくさなど、専ら投げ釣り
用天秤の機能をより発揮させるために採択されたものであることは明らかであるか
ら、本願商標は、投げ釣り用天秤の機能又は美感とは関係のない特異な立体的形状
からなるということはできない。
(3) 広告宣伝、販売数量
  原告の主張に係る卸価額表及び商品カタログにおいては、その天秤の図形
と共に、「富士ジェット天秤」、「ジェット天秤」、「JETSINKER」等の文字が表
示されている。上記図形は、商品そのものの形状を表すものにすぎず、自他商品の
識別機能を果たすものとしては文字等が適していることなどに照らすと、上記卸価
格表及び商品カタログにおいて、商品の識別は、上記文字商標によりされていると
いうべきである。
  なお、原告提出証拠によれば、本件投げ釣り用天秤は、相当数の販売量が
あり、広告宣伝費も相当多額であることが推認されるが、本願商標に係る立体的形
状自体がどのように広告宣伝されたのか、その内容が不明であるから、本件投げ釣
り用天秤が文字商標により識別されている事実を覆すことはできない。
(4) 釣り雑誌の掲載
  原告提出の釣り雑誌において、投げ釣りの仕掛け図の中に表示された投げ
釣り用天秤は、ほとんどが本願商標に係る立体的形状と相違するばかりでなく、そ
れぞれが統一された形状のものとなっていないから、これをもってしては、本願商
標が投げ釣り用天秤に使用された結果自他商品の識別機能を有するに至ったという
ことはできない。また、上記投げ釣り用天秤の図には、いずれも「ジェット天秤」
等の文字が併記されていることから、これら雑誌の記事に接する取引者、需要者
は、上記文字が自他商品を識別する標識であると理解し、投げ釣り用天秤の図につ
いては、商品の形状そのものを表示したものとして把握するとみるべきである。
(5) アンケート結果
  原告は、釣り用品の業者及び釣り愛好家が多数来場する「東京国際つり博
2001」及び「フィッシングショーOSAKA2001」におけるアンケート結
果につき主張するが、上記アンケートは、釣り用天秤、釣り竿用ガイド、リールシ
ート等を製造販売する原告のブースであることを来場者らが直ちに理解し得るよう
に構成されていたことが推認され、そのブースにおいてアンケートが実施され、ア
ンケートの調査票の右上部及び右下部に「富士工業株式会社」の表示があることか
ら、回答者は、アンケート調査票中の商品が原告のものであろうとの予断をもって
回答した可能性があり、また、アンケート調査の内容が15種類の釣り具に対する
10の選択群という煩雑なものとなっているため、回答者が安易に又は適当に回答
したのではないかという疑問もある。
(6) 不正競争防止法との関係
  原告は、商標法と不正競争防止法の目的は異なっているが、旧不正競争防
止法1条1項1号の商品表示性と商標法3条2項の自他商品の識別力は、共に形状
から出所を判断し得るという点において共通しており、不正競争防止法上の商品表
示性が肯定された場合には、商標法3条2項の自他商品の識別力も備わっていると
主張する。
  しかしながら、商標法においては、出願に係る商標が設定登録されると、
存続期間の更新登録をすることにより半永久的に存続する独占的、排他的な商標権
となることを前提とするのに対して、不正競争防止法は、飽くまで具体的な当該事
案において、流通市場で周知となった商品等表示と混同を生じさせる不正競争行為
を個別具体的に把握し、その行為を防止することを前提とするものと解される。審
決が引用する東京高裁昭和45年4月28日判決・無体裁集2巻1号213頁も、
同旨の判示をするものである。商標法と不正競争防止法の目的が異なる以上、本件
地裁判決をもってしても、本願商標がその指定商品について自他識別機能を有する
に至っているということはできず、その趣旨を説示する審決の判断は正当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について
(1) 商品の形状の意義
 ア 審決は、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、全体
として商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状である場合には、商品等
の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ない旨判断するところ、原
告は、機能や美感と関係しない特異な形状は存在せず、商品の形状が機能や美感を
より発揮させるために選択されたものであっても、他の同種商品等が通常備えてい
る形状と異なるものであれば、自他商品の識別は十分可能になると主張する。
   しかしながら、商標法3条1項3号が、記述的商標は商標登録を受ける
ことができない旨規定する趣旨は、記述的商標が商品の特性を表示記述する標章で
あって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものである
から、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであると
ともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商
標としての機能を果たし得ないものであることによると解される(最高裁昭和54
年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁〔判例時報927号2
33頁〕参照)。商品の形状は、本来、その商品に期待される機能をより効果的に
発揮させたり、その商品から得られる美感をより優れたものにするなどの目的で選
択されるものである。したがって、指定商品の形状そのものからなる立体商標は、
その形状に変更又は装飾が施されても、指定商品等の形状を記述するものであっ
て、原則として、取引に際し必要適切な表示として特定人によるその独占的使用を
認めるのを公益上適当とせず、また、多くの場合自他商品識別力を欠くという記述
的商標の特徴を具備するものであるから、商品の用途、機能から予測し難いような
特異な形態や特別な印象を与える装飾的形状等を備えている場合を除き、同号に掲
げる「商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」とし
て登録を受けることができない商標というべきである。
   もっとも、商品の形状は、一次的には商品の特性そのものであるが、二
次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るというべきであり、商品等の形
状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる立体商標も、当該形状を有
する商品の販売、広告、宣伝等がされた結果、自他商品識別力を獲得するに至り、
商標法3条2項により商標登録を受け得る場合のあることは、記述的商標一般につ
いて、その使用をされた結果自他商品識別力を獲得した場合と異なるところはな
い。審決の引用する審議会答申(乙第1号証)も、その趣旨をいうものと解すべき
である。
 イ また、審決は、商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を
果たすために原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上なん
ぴともこれを使用する必要があり、かつ、なんぴともその使用を欲するものであっ
て、一私人に独占を認めるのは妥当でない旨判断するところ、原告は、この判断が
誤りであると主張する。
   一般に、商品等の形状は、商品等の機能により相当程度の制約を受ける
が、同一の機能を保持しつつも、なお、選択し得る形状に一定の幅があるのが通常
である。しかしながら、商標法3条1項3号は、記述的商標が登録を受けることが
できない旨規定しており、当該記述的商標の表示する商品の形状等が他者の販売す
る商品と識別可能なものであること、又は現に出願人が販売する商品の形状等を記
述するものであることを記述的商標の除外事由としていない。その趣旨は、上記の
とおり、取引に際し必要適切な表示として特定人によるその独占的使用を認めるの
を公益上適当とせず、また、多くの場合自他商品識別力を欠くという記述的商標の
特徴が、他者の販売する商品と識別可能かどうか、又は現に出願人が販売する商品
の形状等を記述するものかどうかにかかわらないからである。そうすると、指定商
品の取引者、需要者が、指定商品に使用された商標に接した場合、これを当該指定
商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認識
するようなものである限り、その形状が特徴的であり、又は装飾が施されていて
も、記述的商標に当たることを否定すべき理由はない。立体商標の識別性に関する
特許庁の運用指針(乙第2号証)も、この趣旨をいうものと解すべきである。
 ウ さらに、審決は、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状であ
る場合はともかくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をも
って構成される商標については、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する
標章のみからなる商標として記述的商標に該当する旨判断するところ、原告は、商
品等の機能又は美感と関係のない形状など存在しないのであり、本願商標のような
形状が商標登録を受けることができないとすると、商品等の形状についても商標登
録を予定している商標法の趣旨と反すると主張する。
   しかしながら、上記のとおり、取引者、需要者により指定商品等の形状
そのものと認識される立体的形状をもって構成される商標は、原則として、商品等
の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として記述的商標
に該当し、商標登録を受けることができないものと解すべきである。また、商品の
用途、機能から予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状等
は、指定商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と
いうことはできないから、記述的商標に当たらない上、商標法は、記述的商標であ
っても、使用をされた結果自他商品識別力を獲得した場合には、商標法3条2項に
より登録されることを予定しているのであるから、上記の解釈が商標法の趣旨に反
するということはできない。
 エ そうすると、指定商品等の形状として、その商品の機能をより効果的に
発揮させたり、美感をより優れたものにするなどの目的で同種の商品等が一般的に
採用し得る範囲内のものについては、商品の形状を普通に用いられる方法で表示す
る標章のみからなる商標として登録を受けることはできないが、その範囲を超える
ような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状のものであるか、又は使用をさ
れた結果自他商品識別力を獲得したものであれば、商標登録を受けることができる
というべきであって、審決の引用する審議会答申(乙第1号証)は、その趣旨をい
うものである。
(2) 本願商標の識別性の判断
ア 審決は、本願商標がその形状に特徴をもたせたことをもって自他商品の
識別力を有するものとは認められない旨判断するところ、原告は、当該商品等の具
体的形状が同種商品において従来にない特異な形状をしていることにより他の同種
商品と識別することができるかどうかを判断すべきであるとか、本件投げ釣り用天
秤の形状が3枚の翼状片を付すことによっておもり本来のイメージを払拭したざん
新で独創的なものであると主張する。
  確かに、商品の形状は、二次的には商品の出所を表示する機能を併有し
得るから、商品等の形状が商品等の機能又は美感をより発揮させるために施された
ものであることから直ちに、他の同種商品との自他商品識別力が否定されるもので
はないが、登録出願された立体商標の形状が同種商品において従来にない特異な形
状をしており、その形状が他の同種商品と識別可能であるとしても、それだけでは
当該商標が記述的商標であることは否定されないのであって、指定商品の形状を普
通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である以上は、記述的商標と
して登録を受けることができないというべきである。
 イ 本願商標の構成は、別添審決謄本別掲本願商標記載のものである(当事
者間に争いがない。)。そうすると、本件において、本願商標がその指定商品であ
る投げ釣り用天秤の形状そのものを表示する標章のみからなる商標であることは、
上記の本願商標の構成自体から明らかである。そして、本願商標を構成する投げ釣
り用天秤の特徴は、商品の機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたも
のにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって、商品
の用途、機能から予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状で
あるということはできない。したがって、本願商標がその指定商品である投げ釣り
用天秤に使用された場合、指定商品の取引者、需要者は、本願商標を投げ釣り用天
秤の形状そのものと認識するにとどまるというべきであるから、本願商標は、指定
商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、記述
的商標に当たり、商標登録を受けることができないというべきである。
   ウ また、原告は、投げ釣り用天秤の需要者が細部の形状の相違により商品
等の相違を識別することを主張するが、上記のとおり、商標法3条1項3号は、記
述的商標一般について商標登録を受けることができない旨規定しており、指定商品
の他の形状と識別し得るかどうかは同号該当性と関係がない。そうすると、上記需
要者が細部の形状により商品等の相違を識別するとしても、本願商標を指定商品で
ある投げ釣り用天秤の形状そのものと認識する以上、本願商標が記述的商標である
ことは左右されないというべきである。
エ さらに、審決は、立体的形状からなる商標で商品等の形状をもって構成
されるものは、商標登録の場面において、平面的な商標と異なる考慮がされるべき
旨判断するところ、原告は、この判断が誤りであると主張する。しかしながら、指
定商品等の形状のみからなる立体商標は、当該指定商品に使用された場合、当該指
定商品の取引者、需要者により、当該指定商品等の形状を普通に用いられる方法で
表示する標章のみからなる商標として認識されることが通常であるから、自他商品
識別力において平面商標と異なるものであり、審決の上記判断に誤りはない。
 2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
(1) 本件投げ釣り用天秤の形状の特異性
 ア 検甲第1号証によれば、原告の販売する本件投げ釣り用天秤の形状は、
「テーパー型に形成された主体の外周面に、その軸線と並行して縦に突出した3枚
の薄板の翼状片を有し、うち2枚の翼状片の形成する角度がいずれも約120度で
あり、主体とその基部に固着されたおもりとが相まって全体が砲弾型に一体化し、
主体及びおもりの中心を貫通する孔に真直な線条が貫通し、線条の両端に連結環が
形成され、主体基部側の連結環に関節状に連結する連結環により他の線条が連結さ
れている立体形状」であって、3枚の翼状片を主体の外周面に付した特徴的なもの
であることが認められる。
 イ 被告は、本件投げ釣り用天秤の形状が特異性を有するものではないとし
て、原告が提出した書籍、カタログ及び雑誌(甲第2号証の1~8)、被告が提出
した商品カタログ(乙第4号証の1、2)、実用新案公報(乙第5号証の1)及び
意匠公報(乙第5号証の2~5)について主張するので、これらの書証に記載され
た投げ釣り用天秤の形状について判断する。
   実開昭63-20777号公報(昭和61年7月28日出願、昭和63
年2月10日公開、乙第5号証の1)には、おもりに翼状片の付された投げ釣り用
天秤が記載されているが、おもり本体の頭部約2分の1のみに2枚の翼状片が付さ
れており、主体全体に3枚の翼状片が付された本件投げ釣り用天秤と形状が異な
る。また、意匠登録第642789号公報(昭和57年7月19日出願、昭和59
年10月17日設定登録、乙第5号証の5)には、おもりに3枚の翼状片が付され
た投げ釣り用天秤が記載されているが、おもりの頭部約3分の1にのみ翼状片が付
され、主体全体に翼状片が付された本件投げ釣り用天秤とは形状が異なる。このよ
うな形状の相違によって、これら投げ釣り用天秤は、翼状片が商品全体に与える印
象の相違が大きく、本件投げ釣り用天秤の形状と類似しない上、これら投げ釣り用
天秤が実際に販売されたかどうかも明らかではない。そうすると、上記各公報の記
載から直ちに、本件投げ釣り用天秤の形状の特異性を否定することはできない。
   第一精工株式会社のカタログ(乙第4号証の1)に掲載されている「キ
ング天秤」は、翼状片が主体の外周面に付された投げ釣り用天秤であり、カタログ
に掲載されていることから、実際に販売されたことが推認されるが、おもり主体の
外周面に、2枚の翼状片及びこれに垂直に交差し翼状片よりも小ぶりのつばが2枚
付されたものであり(検甲第2号証)、その形状は本件投げ釣り用天秤と類似しな
いから、「キング天秤」の存在によっても、本件投げ釣り用天秤の形状の特異性を
否定することはできない。
   被告の主張する上記投げ釣り用天秤のうち、その他のものは、いずれも
おもりに翼状片が付されておらず、他に、3枚の翼状片をおもり主体の外周面に付
すなど本件投げ釣り用天秤に類似した形状の投げ釣り用天秤が原告以外の者によっ
て販売された事実をうかがわせる証拠はない。むしろ、本件地裁判決(甲第3、第
8号証)によれば、遅くとも昭和45年中には、3枚の翼状片を主体の外周面に付
した本件投げ釣り用天秤の形状が周知性を獲得していたことにより、昭和53年当
時、他者がこれに類似した形状の投げ釣り用天秤を販売することは、旧不正競争防
止法により禁止されていたと推認される。
(2) 本願商標と本件投げ釣り用天秤の形状の同一性
   ア 本件投げ釣り用天秤の形状は、上記認定のとおり、3枚の翼状片を主体
の外周面に付したものであり、本件地裁判決も、そのような商品の形状が周知性を
獲得したと認定している。ところで、本願商標は、別添審決謄本別掲本願商標に見
るとおり、1枚の斜視図により表示された立体形状であり、主体の裏側の形状は表
示されていないが、その表側の外周面には2枚の翼状片のみが表示されており、子
細に観察すると、2枚の翼状片の形成する角度が180度よりも小さいとは認めら
れるものの、その正確な角度は不明である。そうすると、本願商標は、主体の裏側
に3枚目の翼状片が存在する形状のものを含まないわけではないが、主体裏側に翼
状片が存在しない2枚翼のもの、そこに2枚以上の翼状片が存在し合計4枚以上の
翼状片が付されたものも構成に含むものといわざるを得ない。したがって、本願商
標は、原告が主張するように本件投げ釣り用天秤の特異的形状である主体に3枚の
翼状片を付した形状のみならず、主体に2枚又は4枚以上の翼状片が付されたもの
を含んでおり、この点において、本願商標の表示する立体形状は、原告が実際に販
売、広告、宣伝等をした本件投げ釣り用天秤の形状との同一性を有しないというべ
きである。
   イ 一般に、商標は、出願人が現に販売する商品の形状とは関係がないばか
りでなく、商品の形状そのものを表現する立体商標は、記述的商標として、原則と
して商標登録を受けることができないから、原告が実際に販売する本件投げ釣り用
天秤の形状が3枚翼のものであることを理由に、本願商標の構成が3枚の翼状片が
付された投げ釣り用天秤の形状であると判断することは許されない。
     また、立体商標について商標登録を受けようとするときは、その旨を願
書に記載しなければならず(商標法5条2項)、出願に係る商標の願書への記載
は、その商標を一又は異なる二以上の方向から表示した図又は写真によりしなけれ
ばならない(同法施行規則4条1項)。原告は、本願商標の登録出願に際し、本願
商標が3枚の翼状片を有することを示す参考図(甲第6号証)を特許庁に提出して
いるが、願書に添付されたものでないことは明らかであり、出願された商標の内容
は、上記のとおり、出願に係る商標として願書に添付された図面等により特定され
るところ、本件においては、主体の表側に2枚の翼状片のみが表示された1枚の斜
視図により特定されているから、上記参考図が提出されているからといって、本願
商標の構成を3枚の翼状片が付されたものに限定することはできない。そして、本
願商標が登録されると、願書に添付された斜視図により特定された商標について商
標権という独占的排他権が付与され、第三者も上記斜視図により本願商標の構成を
理解するのであって、上記参考図の内容は、特許庁における出願記録を閲覧しない
限り知ることはできないから、この点においても、上記参考図を参酌して本願商標
の構成を判断することは許されないというべきである。
ウ なお、審決は、「本願商標は、別掲のとおり、三枚の翼状片を設けた砲
弾型の引き通し式おもりを装着した釣り用天秤と認められる」(審決謄本3頁11
行目~12行目)と判断するが、上記のとおり、本願商標が表示する立体形状の内
容は、商標登録がされると、商標権者の第三者に対する独占的排他権の範囲を画す
ものであり、第三者もこれにより本願商標の構成を理解するものであるから、特許
庁及び出願人の主観的意図に拘束されることなく、本願商標により客観的に看取し
得る形状として特定されるべきである。そうとすれば、審決が本願商標の構成につ
いて3枚の翼状片が付されたものと判断したからといって、本願商標により表示さ
れる立体形状が主体に3枚の翼状片を付したものに限定されるということはできな
い。
(3) そうすると、本願商標の表示する立体形状は、原告が実際に販売等をした
本件投げ釣り用天秤の形状と同一性を有しないこととなるから、その使用をされた
結果本願商標が自他商品識別力を獲得したものと認める余地はないといわざるを得
ない。使用により識別力を有するに至った商標として登録が認められるのは、あく
までも使用を前提とするものであるから、当該使用をしていた商品等と同一の商品
等のものに限定されるべきことは当然である(商標法3条2項に関する商標審査基
準も同旨である。)。したがって、本件投げ釣り用天秤の販売数量等、その余の原
告主張の事実について認定判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項により
商標登録を受けることができるということはできないから、本願商標は同項の要件
を具備するものとも認められないとした審決の判断に誤りはない。
 3 以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決
する。
   東京高等裁判所第13民事部
       裁判長裁判官  篠  原  勝  美
        
          裁判官   石  原  直  樹
 
裁判官    長  沢  幸  男

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