弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人木村保男、同的場悠紀、同川村俊雄、同坂本正寿、同大槻守の抗告理
由について。
 論旨は、株式買取価格の決定は訴訟事件であるから、これを非訟事件手続法によ
つて審理裁判することは、憲法三二条、八二条に違反する、かりに、非訟事件であ
るとしても、株価の決定という当事者にとつて重要な問題を審理するに当たり当事
者に十分な攻撃防禦の機会を保障していない現行の非訟事件手続法および本件にお
ける審理手続は、憲法三二条、八二条に違反する、というのである。
 ところで、当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張
する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする裁判が憲法三二条にいう裁
判、すなわち、固有の司法権の作用に属するところの訴訟事件であつて、これにつ
いては憲法八二条の「公開の対審・判決」が要求されるが、他方、基本的な法律関
係はこれを変更せずに、裁判所が後見的立場から合目的の見地に立ち裁量権を行使
してその具体的内容を形成する裁判は、固有の司法権の作用に属しない非訟事件の
裁判であつて、これは憲法三二条、八二条にいう裁判ではないと解すべく、したが
つて、非訟事件の手続および裁判に関する法律の規定について憲法三二条、八二条
違反の問題を生じないことは、すでに当裁判所の判例(昭和二六年(ク)第一〇九
号同三五年七月六日大法廷決定・民集一四巻九号一六五七頁、昭和三六年(ク)第
四一九号同四〇年六月三〇日大法廷決定・民集一九巻四号一〇八九頁、昭和三七年
(ク)第二四三号同四〇年六月三〇日大法廷決定・民集一九巻四号一一一四頁、昭
和三九年(ク)第一一四号同四一年三月二日大法廷決定・民集二〇巻三号三六〇頁、
昭和四一年(ク)第四〇二号同四五年六月二四日大法廷決定・民集二四巻六号六一
〇頁、昭和四〇年(ク)第四六四号同四五年一二月一六日大法廷決定・民集二四巻
一三号二〇九九頁等参照)の趣旨とするところである。
 そこで、裁判所が商法二四五条ノ三第三項(同法三四九条二項によつて準用され
る場合を含む。)によつてする株式買取価格決定の性質についてみるに、反対株主
の株式買取請求権は、会社に対し、「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナ価格」
(商法二四五条ノ二参照)で株式を買い取るべきことを請求する権利であつて、そ
の権利の行使により、会社の承諾を要することなく、法律上当然に会社と株主との
間に売買契約が成立したのと同様の法律関係を生ずるが、その際買取価格までもが
具体的に定まるものではない。その価格は、まず当事者の協議によつて定めるべき
であるが、この協議が調わないときは、株主の請求によつて裁判所がこれを定める
こととなるのである(商法二四五条の三第二項、第三項参照)。したがつて、裁判
所による価格の決定は、客観的に定まつている過去の株価の確認ではなく、新たに
「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」を形成するものであるといわな
ければならない。そして、右にいう「公正ナル価格」の特質からみて、価格決定に
当たり考慮さるべき要素はきわめて複雑多岐にわたらざるをえないが、法が価格決
定の基準について格別規定していないことからすると、法は価格決定を裁判所の裁
量に委ねているものと解することができる。このような裁量性に加え、価格決定が
たんに請求者たる株主および会社の利害に関するだけでなく、他の株主、会社債権
者等の利害にも影響するところが少なくないこと、また、価格の決定がすでに成立
している株式売買の価格を事後的に定めるものであるところ、株価は変動の可能性
が高いものであるから、とくに手続の迅速処理が必要とされること等を考えると、
価格の決定に当たつては、裁判所の監督的、後見的役割が期待されているものとい
わなければならない。かくして、裁判所は、具体的事件につき、当事者の主張・立
証に拘束されることなく、職権により諸般の事情を斟酌して迅速に買取価格を決定
することが要請されるのであつて、その決定の性質は、裁判所が、私人間の紛争に
介入して、後見的立場から合目的の見地に立つて裁量権を行使し、権利の具体的内
容を形成するものということができる。
 してみれば、株式買取価格の決定が固有の司法権の作用に属しない非訟事件の裁
判であることは、前記判例の趣旨に徴し明らかであり、したがつて、また、本件を
非訟事件手続法により審理裁判すること、本件非訟事件の手続に関する法律の規定
および本件における実際の審理手続について、憲法三二条、八二条違反の問題を生
じないことも、前記判例の趣旨に徴して明らかということができる。原決定および
その手続に所論の違憲があるとは認められず、論旨は採用することができない。
 よつて、本件抗告はこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とすべきものとし、
裁判官全員の一致で、主文のとおり決定する。
   昭和四八年三月一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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