弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

            主     文
       原判決を破棄する。
       本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
            理     由
 上告代理人勅使河原安夫,同八島淳一郎,同三輪佳久の上告受理申立て理由につ
いて
 1 本件は,仙台市(以下「市」という。)の住民である被上告人らが,市と上
告人らとの間で締結された上告人らが共有する1審判決添付物件目録一及び二の土
地(以下,同目録一の土地を「本件土地一」,同目録二の土地を「本件土地二」と
いい,これらを併せて「本件各土地」という。)の各売買契約(以下,本件土地一
の売買契約を「本件契約一」,本件土地二の売買契約を「本件契約二」といい,こ
れらを併せて「本件各契約」という。)が公序良俗違反又は錯誤により無効である
として,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市
に代位して,本件各契約の相手方である上告人らに対し,不当利得として売買代金
相当額の返還及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
 (1) 原審の確定した事実関係等の概要は,以下のとおりである。
 ア 市は,昭和45年ころ,史跡景勝の丘陵地帯であるa山を公園として整備す
るa山公園計画を有していた。市は,同63年11月11日以降数回にわたり,公
園予定地の地権者を対象とした同計画の説明会を開催し,平成2年11月16日,
a山公園について公園区域面積を変更する旨を決定して告示するとともに,本件各
土地を含む買収予定区域を明示した都市計画案を縦覧に供し,同年12月14日,
a山公園整備事業の認可を受けた。
 イ 市は,不動産鑑定士による鑑定評価及び仙台市公有財産価格審査委員会の審
査を経て売買価格を決定した上,平成3年3月13日,上告人らから,a山公園整
備事業の公園用地として,本件土地一を1㎡当たり17万円の価格で買い受ける旨
の本件契約一を締結した。本件土地一について,同月26日,本件契約一を原因と
する上告人らから市への共有者全員持分全部移転の登記がされ,同月30日,閲覧
が可能であった仙台市土地台帳にも登録された。市は,同月29日,上告人らに対
し,平成2年度予算の執行としてその売買代金を支払った。
 また,市は,同様の手続を経た上,平成3年12月2日,上告人らから,a山公
園整備事業の公園用地として,本件土地二を1㎡当たり18万0700円の価格で
買い受ける旨の本件契約二を締結した。本件土地二について,同月9日,本件契約
二を原因とする上告人らから市への共有者全員持分全部移転の登記がされ,同4年
9月30日,仙台市土地台帳にも登録された。市は,同3年12月25日,上告人
らに対し,平成3年度予算の執行としてその売買代金を支払った。
 本件土地一の上記売買価格は,同年3月1日時点における正常価格の約3倍から
4.7倍であり,本件土地二の上記売買価格は,同年11月1日時点における正常
価格の約4.9倍であった。
 ウ a山公園整備事業については,市の平成2年度予算説明書には,一般会計の
歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「単独事業,風致公園
,a山公園」との記載がある。同年度決算説明書には,一般会計の歳出の部の土木
費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,風致公園,a山公園」と
の,公共用地先行取得事業会計の歳出の部の公共用地先行取得事業の「事業費」欄
に「a山公園5294.1㎡,900,000千円」との記載がある。同3年度予算
説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄
に「補助事業,特殊公園,a山公園」との記載がある。同年度決算説明書には,一
般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,
特殊公園,a山公園」との記載があり,a山公園に係る歳出に関して一部別会計に
移された分につき,公共用地先行取得事業会計の歳入の部に記載がある。上記各予
算説明書及び決算説明書は,いずれも一般の閲覧に供されていた。
 エ 市議会議員Dは,市が行った別の用地取得について調査をしていた際,a山
公園用地の買収について問題があるとの情報を得,市から各年度ごとの各購入土地
の所在,地積,単価等に関する資料の提出を受けて調査したところ,本件各契約の
売買価格に問題があると考え,平成5年9月20日に開かれた市議会の一般質問に
おいて,a山公園に係る平成2年度及び同3年度の取得用地の売買価格が同4年度
のそれの4倍に近い異常な高値であったことについて質問をした。市は,上記売買
価格に疑問を持ち,調査中であることを明らかにした。翌21日,上記質疑の内容
が新聞で報道された。その新聞記事には,市は,同2年度においてa山公園用地と
して仙台市b区cの土地約9400㎡を1㎡当たり平均17万円で購入し,同3年
度において同様に同所の土地約1万2900㎡を1㎡当たり平均18万円で購入し
たこと,市は,平成5年3月,それまで依頼していた不動産鑑定士とは別の不動産
鑑定士に依頼して改めて取得予定地の鑑定評価をし,平成4年度において約1万㎡
の土地を1㎡当たり4万7747円で購入したこと,市は,同2年度及び同3年度
当時の鑑定内容や購入に至ったいきさつなどを調査していることなどが記載されて
いた。
 オ 被上告人らは,平成5年10月8日,仙台市情報公開条例に基づき,a山公
園用地の売買契約書等の開示請求を行い,同月22日,請求に係る文書のうち土地
の所在,地番,地積及び代金額部分が非開示とされ,その余の部分が開示された。
被上告人らは,同年11月10日ころまで,公図,登記簿謄本等を閲覧するなどし
て,疑義のある売買契約がされた土地の地番等を特定する作業を行い,同月25日
,本件各土地の取得に関し,代金額を正当な価額に是正し,市の被った損害を賠償
させる等の適切な措置を講ずることを求める監査請求(以下「本件監査請求」とい
う。)をした。監査委員は,同6年1月20日,被上告人らに対し,本件各契約に
おける売買価格が不当に高額であるおそれがあるものの,その立証,確定をし得な
いので措置の勧告をするまでには至らず,これに代えて,市長に対し監査結果に基
づく意見を提出した旨を通知した。
 (2) 記録によれば,上記(1)ウの平成3年度決算説明書中のa山公園に係る歳出
に関して公共用地先行取得事業会計の歳入の部に移された分は,同会計の歳入の部
の公共用地先行取得事業収入(款),財産収入(項),財産売払収入(目),土地
建物(節)に「a山公園1435.6㎡,249,208千円」と記載されたもので
あることが明らかである。
 2 第1審は,本件監査請求は法242条2項本文の監査請求期間を経過した後
にされたものであって,被上告人らの本件訴えは,適法な監査請求を経ていない不
適法なものであるとして,これを却下すべきものとしたが,原審は,上記事実関係
等に基づき,次のとおり判示して,本件監査請求について同項ただし書にいう正当
な理由を認め,第1審判決を取り消して,本件を第1審裁判所に差し戻した。
 (1) 法242条2項本文の趣旨に照らせば,財務会計上の行為が秘密裡に行わ
れたため,監査請求期間経過後初めてその存在が明るみに出た場合のように,その
経過後においてもなお住民の監査請求を認めるべき特別の事情がある場合でなけれ
ば,同項ただし書にいう正当な理由があるとすることはできない。
 本件各契約は秘密裡にされたものではないところ,本件監査請求は,本件各契約
の各売買代金支払時から起算しても,同項本文に定める1年の監査請求期間を経過
している。しかしながら,被上告人らは,売買価格が適正な価格をはるかに超える
違法又は不当なものであることを隠ぺいして本件各契約が締結されたと主張するも
のであるところ,そのような事実がある場合には,当該行為の違法,不当を判断す
る上で極めて重要な前提事実が隠されており,その結果として,住民が相当の注意
力をもって調査したとしても監査請求の対象とすることができない状態にあったも
のというべきである。この場合には,本件各契約が秘密裡にされたと同様に取り扱
うべきであり,同項ただし書にいう正当な理由の有無は,住民が相当の注意力をも
って調査したときに,客観的にみて,売買価格の相当性に関する点が隠ぺいされて
いるのではないかとの合理的な疑いを持つことができた時から相当な期間内に監査
請求をしたかどうかによって判断すべきである。
 (2) 本件各契約は所定の手続に従い公然と行われたものではあるが,住民にお
いてその手続の中で売買価格の相当性につき疑いを差し挟む余地はなかったという
べきである。また,平成2年度及び同3年度の各予算説明書及び決算説明書にはa
山公園整備事業に関する記載があり,いずれも住民の閲覧に供されているが,その
記載内容は概括的なものにすぎず,住民が売買価格の相当性の点に疑いを抱く端緒
となり得る資料としては十分でない。結局,平成5年9月20日の市議会において
a山公園用地の売買価格の相当性に関する質疑がされ,その翌日にその内容が新聞
で報道されるまでは,住民らが本件各土地の売買価格の相当性に関する点が隠ぺい
されているのではないかとの合理的な疑いを持つことは著しく困難であったという
べきである。そして,被上告人らは,上記の新聞報道により合理的な疑いを持つこ
とができた時から2箇月余りを経過して本件監査請求をしているところ,事案の性
格と被上告人らの調査のための作業内容からすれば,当該期間を要したことは無理
からぬものがある。
 (3) 以上によれば,本件監査請求は,法242条2項本文の監査請求期間経過
後にされたものであるが,これにつき同項ただし書にいう正当な理由があるから,
適法な監査請求であるというべきである。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 (1) 法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上
の行為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求
ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことが法的安定性を損ない好まし
くないとして,監査請求の期間を定めている。しかし,当該行為が普通地方公共団
体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等
にもその趣旨を貫くのは相当でないことから,同項ただし書は,「正当な理由」が
あるときは,例外として,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した
後であっても,普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるようにして
いるのである。したがって,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合には,同
項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体
の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることが
できたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間
内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁昭和62年(
行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁参
照)。そして,当該行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民
が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程
度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,上記の趣旨を貫
くのは相当でないというべきである。したがって,そのような場合には,上記正当
な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力
をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ること
ができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断す
べきものである。
 (2) 本件監査請求は,本件各土地の売買価格が不当に高額であるとしてされた
ものであるところ,前記事実関係等によれば,本件各契約に関しては,a山公園整
備事業都市計画案の縦覧並びに本件各土地につき市への所有権移転登記及び仙台市
土地台帳への登録が前記各日にそれぞれされており,平成2年度及び同3年度の各
予算説明書及び決算説明書にa山公園用地取得のための事業費に関する記載がある
というのである。そして,上記各決算説明書の記載によれば,a山公園用地の各年
度の売買価格の平均値が1㎡当たり約17万円であったことが明らかとなっていた
というべきである。そうすると,【要旨】上記各決算説明書が一般の閲覧に供され
て市の住民がその内容を了知することができるようになったころには,市の住民が
上記各書類を相当の注意力をもって調査するならば,客観的にみて本件各契約の締
結又は代金の支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知る
ことができたというべきである。
 【要旨】ところが,上記各決算説明書が一般の閲覧に供されて市の住民がその内
容を了知することができるようになった時期は,原審の確定するところではなく,
記録上も明らかではないから,本件監査請求がその時から相当の期間内に行われた
ものであるか否かを判断することはできないといわざるを得ない。
 4 【要旨】以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明
らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,上告理由
について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,上記の点につき
更に審理を尽くした上,本件監査請求に法242条2項ただし書にいう正当な理由
があるか否かについて判断させるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 上田
豊三)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛