弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役10年に処する。
未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
押収してあるバタフライナイフ1丁(平成14年押第165号の1)を
没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1
 1  A及び氏名不詳者と共謀の上,金員等を強取しようと企て,平成14
年4月16日午前零時25分ころから同日午前零時56分ころまでの間,さ
いたま市台湾式エステ店「B」において,同店従業員C,同D,同E及び客
のFに対し,被告人においては所携のバタフライナイフ(刃体の長さ約1
0.2センチメートル,平成14年押第165号の1)を,Aらにおいては
各所携の各折りたたみ式ナイフをBらの首に突き付け,Bらの両手足をビニ
ール紐で縛り,目や口を粘着テープで塞ぐなどの暴行,脅迫を加えて,その
反抗を抑圧した上,Cら管理の現金6万3000円,C所有の現金2万80
00円並びにF所有又は管理の現金約4万5000円,キャッシュカード2
枚及び腕時計1個(時価1万円相当)を強取し,同所から逃走しようとした
際,通報により上記ビルに臨場して被告人らを追跡するなどした埼玉県a警
察署警部補H,同県警察本部警部補I及び同隊巡査長Jらによる逮捕を免れ
るため,被告人において,上記バタフライナイフで,同日午前零時56分こ
ろ,上記ビル非常階段2階踊場において,Hの背部を刺し,同日午前零時5
7分ころ,上記ビル前歩道上において,Jの左大腿部を刺し,さらに,その
ころ,同所において,Iの左脇腹を刺し,よって,Hに全治約10日間を要
する背部刺創等の,Jに加療約14日間を要する左大腿刺創の,Iに全治約
1か月間を要する左側腹部刺傷等の各傷害を負わせ,
  2 上記のとおり通報により上記ビルに臨場して被告人らを逮捕しようとし
た上記の警察官3名に対し,上記バタフライナイフで刺す暴行を加え,もっ
て,上記職務の執行を妨害し,
第2 A及び氏名不詳者と共謀の上,上記のとおり強取したF名義のキャッシ
ュカード2枚を使用して金員を窃取しようと企て,同日午前零時40分ころ
から同日午前零時46分ころまでの間,前後5回にわたり,同市所在のK店
において,上記氏名不詳者において,同店に設置された現金自動預払機に上
記キャッシュカード2枚を挿入するなどして同機を作動させ,同機から株式
会社L銀行支店長管理の現金合計39万円を引き出して窃取し,
第3 同日午前1時ころ,同市M方駐車場内において,業務その他正当な理由
による場合でないのに,上記バタフライナイフ1丁を携帯し,
第4 大韓民国の国籍を有する外国人で,同12年2月24日,同国政府発行
の旅券を所持し,千葉県成田市所在の新東京国際空港に上陸して本邦に入っ
た者であるが,その在留期間は同年3月10日までであったのに,在留期間
の更新又は変更を受けないで,同14年4月15日まで東京都b区Nマンシ
ョン等に居住するなどし,もって,在留期間を経過して不法に本邦に残留し

ものである。
(証拠の標目)
 略
(法令の適用)
被告人の判示第1の1の各所為は,いずれも刑法60条,240条前段(2
36条1項)に,判示第1の2の所為は,同法95条1項に,判示第2の所為
は,包括して同法60条,235条に,判示第3の所為は,銃砲刀剣類所持等
取締法32条4号,22条に,判示第4の所為は,出入国管理及び難民認定法
70条1項5号にそれぞれ該当するところ,判示第1の1の各強盗致傷と判示
第1の2の公務執行妨害は,1個の行為で4個の罪名に触れる場合であるか
ら,刑法54条1項前段,10条により1罪として刑及び犯情の最も重いIに
対する強盗致傷罪の刑で処断し,所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑
を,判示第3及び第4の各罪については懲役刑をぞれぞれ選択し,以上は,同
法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判
示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告
人を懲役10年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中40日をその刑
に算入し,押収してあるバタフライナイフ1丁(平成14年押第165号の
1)は,判示第1の各強盗致傷の用に供した物で被告人以外の者に属しないか
ら,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用につい
ては,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこと
とする。
(量刑の理由)
 本件は,韓国人の被告人が,(1)同国人のA及び氏名不詳者と共謀の上,夜
間,台湾式エステ店において,従業員や客に暴行脅迫を加えてその反抗を抑
圧した上,現金やキャッシュカード等を強取した際,通報により臨場した警察
官3名に対し,被告人において,逮捕を免れるため,次々とバタフライナイフで
刺し,傷害を負わせたという強盗致傷(判示第1の1の事実),(2)単独で警察官
の職務の執行を妨害したという公務執行妨害(判示第1の2の事実),(3)上記共
犯者2名と共謀の上,氏名不詳の共犯者において,上記強取したキャッシュカー
ドを使って,現金自動預払機から現金を引き出して窃取したという窃盗(判示第
2の事実),(4)バタフライナイフ1丁を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法
違反(判示第3の事実),(5)在留期間を経過して本邦に残留したという出入国管
理及び難民認定法違反(判示第4の事実)の事案である。
 被告人らは,韓国式エステ店を襲えば従業員は若い女性ばかりであり,簡単に
多額の現金を強取できる上,不法滞在者であろうから警察への届出はせず,捕ま
ることはないなどと考え,押込み強盗を企てたが,適当な店を見付けることがで
きなかったことから,偶々見付けた台湾式エステ店を襲ったもので,その動機経
緯に何ら酌むべきものはない。被告人らは,各人がナイフを持ち,ビニール紐や
粘着テープを用意した上,店を探して歩き回った末,本件に及んだものであり,
計画的かつ組織的犯行である。その態様は,客を装って入店し,各人が従業員や
客に対し,刃体の長さが10センチメートル前後のナイフを突き付けるなどし,
その両手足をビニール紐で縛り,目や口を粘着テープで塞ぐなどして,その反抗
を抑圧した上,店の売上金等を強取した。その後,店にかかってきた電話に出る
ことを許された従業員が,機転を利かせて被告人らに分からない中国語で強盗被
害に遭っていることを知らせたことから臨場した警察官から逮捕されそうになる
や,バタフライナイフを振り回して逃走を図り,Aが警察官に取り押さえられそ
うになったことから,被告人において,同警察官の背部を同ナイフで刺し,被告
人を取り押さえようとした警察官2名の大腿部や左脇腹をそれぞれ刺し,判示の
傷害を負わせた。このように,本件強盗は,各人が役割を分担し,凶器を使用
し,被害者らを縛り上げるなど手荒なもので,その態様は悪質である。しかも,
被告人は,制服の警察官が臨場したのに,観念するどころか,頑強な抵抗を続
け,被告人らを取り押さえようとした警察官3名を次々とナイフで刺し,現場か
ら約350メートル逃走し,警察官が威嚇発砲したことから,漸く抵抗を諦め,
逮捕に至ったものであり,共犯者中1名は預金引き下ろしに行っていたため逃走
に成功している。傷害の程度も,左側腹部刺傷等の傷害は,深さが五,六センチ
メートルと推定され,腎臓を損傷するに至っており,また,腹部及び背部の傷害
は,傷が深ければ,重大な結果を招来する危険性も高かった。強盗の被害者及び
傷害を負った警察官に与えた打撃は大きく,一様に被告人の厳罰を求めている
が,何ら慰謝の措置は採られていない。本件は,夜間,a駅付近の路上等におい
てパトカー5台等が駆けつけて制圧しようとした際,Aが逮捕されるのを妨げる
ために,被告人が,積極的に執拗かつ強力な暴行を加えて警察官に傷害を負わせ
た凶悪犯罪として,一般社会に与えた恐怖感,不安感は非常に大きい。さらに,
被告人及びAが従業員や客を監視するなどしている間,氏名不詳の共犯者におい
て,付近のコンビニエンスストアに赴き,客から強取したキャッシュカードを使
って,現金自動預払機から39万円を引き出している。
 被告人は,主犯に誘われ,分け前欲しさに犯行に加わり,ビニール紐や粘着テ
ープを用意し,実行行為の大半を分担し,殊に臨場した警察官に執拗な暴行を加
えて重大な結果を招来させており,その刑責は非常に重い。
 他方,被告人は,事実を概ね認めており,一応反省の情を示していること,我
が国における前科前歴はないことなど,被告人にとって酌むべき事情もある。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成14年7月31日
     さいたま地方裁判所第1刑事部
(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 山口裕之 嘉屋園江)

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