弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     静岡地方裁判所が昭和二十五年十二月二日与えた同庁昭和二十五年
(ヨ)第一九四号仮処分決定を取消す。
     申請人の仮処分申請を却下する。
     訴訟費用は申請人の負担とする。
     この判決は仮に執行することができる。
         事    実
 申請人は前記仮処分決定を認可する旨の判決を求め、申請の理由として、つぎの
とおり述べた。
 一、 申請人は昭和八年四月に被申請人所有の熱海市ab番地のcの宅地拾弍坪
の地上にあつた、木造亜鉛メッキ鋼板葺三階建建坪各階拾坪五合外地下室六坪を賃
料月金四十円で借り受け、そこで歯科医業をやつて来たところがこの家屋が昭和二
十五年四月十三日の熱海の大火で焼失してしまつた。
 二、 ところが被申請人が焼けたのを幸ひに土地の明渡しを求めて来たので罹災
都市借地借家臨時処理法第二条に依つて建物賃借人として法定の期間内に借地の申
入れをしたが拒絶されたので静岡地方裁判所熱海出張所に右処理法に基き借地権設
定並びに借地条件設定の申立てをし昭和二十五年(シ)第二十三号事件として審理
を受けたが申立てを却下された、それで申請人は昭和二十五年九月十九日抗告の申
立をし目下東京高等裁判所第五民事部に繋属し審理中である。
 三、 ところが今度この土地は土地区劃整理に依り道路になりその換地として二
十七の八ブロツク即ち熱海市d字ef番地(区劃整理に依つて同所b番地のcとな
る)の宅地(宅地より道路に面した右側)拾坪三合三勺を受けることに決定し前住
居者は引越し目下こゝは空地になつている。然るに被申請人は判決が確定しないの
に目下材料を調達し既に切り込みも終り今明日中にはこゝに建物を建てんと急速に
準備をしてゐる、若しこのまゝにしておくと被申請人がこの空地に建物を建て仮り
に抗告審で申請人が勝訴してもその実行が著しく困難になるのでその保全の為め本
件申立てに及ぶものである。
 相手方は右仮処分決定を取消す旨の判決を求め、答弁として、つぎのとおり述べ
た。
 一、 非訟事件手続法による借地権設定並に条件確定申立事件を本案事件として
民事訴訟法による仮処分決定をなすことはゆるされない。
 二、 本案において申請人の借地権のた張を排斥する旨の第一審裁判があつたの
であるから、いまにおいて仮処分申請を認容したのは失当である。
 三、 申請人は焼失建物につき焼失当時借家権を有せず、申請人のなした優先借
地の申出は不適法である。そうでないとしても、相手方の拒絶は正当の事由をそな
えている。従つて申請人主張の本案の請求は理由がない。仮処分をゆるすべきもの
ではない。
         理    由
 本件仮処分命令は民事訴訟法第七五五条による、いわゆる係争物に関する仮処分
であることは明かである。右法案による仮処分は、現に訴訟における、もしくは将
来おこすべき訴訟における係争物に関する権利主張が当該訴訟の結果として是認せ
られたあかつき、これを実行しようとしても、できなかつたり、または、著しく<要
旨>困難になつたりする不利益をふせぐために、かかるおそれある場合に発すべきも
のである。従つて仮処分の目的物に関する権利関係を目的とする訴訟が現に
係属するか将来提起せらるべきことは、前記法案による仮処分を発する要件のひと
つであつて、右の訴訟が民事訴訟法第七五七条第七六一条にいう「本案」である。
仮処分は必ず訴訟を本案とするを要するのである。ところが本作仮処分命令は、罹
災都市借地借家臨時処理法にもとずき、非訟事件手続法による借地権確認借地条件
設定申立事件(第一審静岡地方裁判所熱海出張所昭和二十五年(シ)第二三号当裁
判所昭和二十五年(ラ)第二四八号)を本案として発せられたものであつて、他に
本案たる訴訟は起されないことを予定していることが、記録上明白である。従つて
本件仮処分命令はこれを発すべきでないのに発せられたのであるから違法といわな
ければならない。
 かようなわけで、本件仮処分の失当なことはすでに明かであつて、他の争点につ
いて判断するまでもなく、これを取消すべく、申請人の仮処分申請を不適法として
却下すべきものである。
 よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行宣言につき第七五六条
の二を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 山口嘉夫 判事 猪俣幸一)

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