弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人西嶋勝彦の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であ
って,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ職権で判断する。
 1 記録によれば,以下の事実が認められる。
 (1) 本件の第1審公判において,検察官は,第1審判決判示第1の事実に関し
,立証趣旨を「被害再現状況」とする実況見分調書(第1審検第2号証。以下「本
件実況見分調書」という。)及び立証趣旨を「犯行再現状況」とする写真撮影報告
書(第1審検第13号証。以下「本件写真撮影報告書」という。)の証拠調べを請
求した。
 (2) 本件実況見分調書は,警察署の通路において,長いすの上に被害者と犯人
役の女性警察官が並んで座り,被害者が電車内で隣に座った犯人から痴漢の被害を
受けた状況を再現し,これを別の警察官が見分し,写真撮影するなどして記録した
ものである。同調書には,被害者の説明に沿って被害者と犯人役警察官の姿勢・動
作等を順次撮影した写真12葉が,各説明文付きで添付されている。うち写真8葉
の説明文には,被害者の被害状況についての供述が録取されている。
 本件写真撮影報告書は,警察署の取調室内において,並べて置いた2脚のパイプ
いすの一方に被告人が,他方に被害者役の男性警察官が座り,被告人が犯行状況を
再現し,これを別の警察官が写真撮影するなどして,記録したものである。同調書
には,被告人の説明に沿って被告人と被害者役警察官の姿勢・動作等を順次撮影し
た写真10葉が,各説明文付きで添付されている。うち写真6葉の説明文には,被
告人の犯行状況についての供述が録取されている。 
 (3) 弁護人は,本件実況見分調書及び本件写真撮影報告書(以下併せて「本件
両書証」という。)について,いずれも証拠とすることに不同意との意見を述べ,
両書証の共通の作成者である警察官の証人尋問が実施された。同証人尋問終了後,
検察官は,本件両書証につき,いずれも「刑訴法321条3項により取り調べられ
たい。」旨の意見を述べ,これに対し弁護人はいずれも「異議あり。」と述べたが
,裁判所は,これらを証拠として採用して取り調べた。
 第1審判決は,本件両書証をいずれも証拠の標目欄に掲げており,これらを有罪
認定の証拠にしたと認められる。また,原判決は,事実誤認の控訴趣意に対し,「
証拠によれば,一審判決第1の事実を優に認めることができる。」と判示しており
,前記控訴趣意に関し本件両書証も含めた証拠を判断の資料にしたと認められる。
 2 前記認定事実によれば,本件両書証は,捜査官が,被害者や被疑者の供述内
容を明確にすることを主たる目的にして,これらの者に被害・犯行状況について再
現させた結果を記録したものと認められ,立証趣旨が「被害再現状況」,「犯行再
現状況」とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が
要証事実になるものと解される。【要旨】このような内容の実況見分調書や写真撮
影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合には,
同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の
録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321
条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件
を満たす必要があるというべきである。もっとも,写真については,撮影,現像等
の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署
名押印は不要と解される。
 本件両書証は,いずれも刑訴法321条3項所定の要件は満たしているものの,
各再現者の供述録取部分については,いずれも再現者の署名押印を欠くため,その
余の要件を検討するまでもなく証拠能力を有しない。また,本件写真撮影報告書中
の写真は,記録上被告人が任意に犯行再現を行ったと認められるから,証拠能力を
有するが,本件実況見分調書中の写真は,署名押印を除く刑訴法321条1項3号
所定の要件を満たしていないから,証拠能力を有しない。
 そうすると,第1審裁判所の訴訟手続には,上記の証拠能力を欠く部分を含む本
件両書証の全体を証拠として採用し,これを有罪認定の証拠としたという点に違法
があり,原裁判所の訴訟手続には,そのような証拠を事実誤認の控訴趣意について
の判断資料にしたという点に違法があることになる。
 しかし,本件については,前記の証拠能力を欠く部分を除いても,その余の証拠
によって第1審判決判示第1の事実を優に認めることができるから,前記違法は,
判決の結論に影響を及ぼすものではない。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁
判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川
了滋 裁判官 古田佑紀)

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