弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
上告代理人戸田謙、同伊藤廣保の上告理由第二点ないし第四点について
 一 原判決によると、上告人が本件建物所有権の取得原因事実として主張すると
ころは、次のとおりである。
 (1) 本件建物は、もと別荘の賃貸等を業とするD土地株式会社(以下、訴外会
社という。)の所有であつたが、昭和一九年に学徒動員により三重県下で働いてい
た学徒の福利厚生のため設立された法人格のない団体である三重県E援護会(以下、
援護会という。)が賃借し、学徒らの保養所として使用されていた。その後戦火が
激しくなり、訴外会社の株主らが会社経営の意欲を失い、援護会に会社の財産・株
式の買取りを求めたので、昭和二〇年七月、援護会を実質的に運営していた同県内
政部長ほか数名において株式全部を譲り受け、内政部教学課がその経営にあたり、
同課職員Fが本件建物を含む会社財産を管理していた。
 (2) 終戦により援護会が解散されることとなつたのに伴い、訴外会社も解散す
ることとなり、昭和二一年二月二五日、同社株主総会において、解散が決議され、
清算人にFが選任され、かつ、本件建物を含む会社の全財産を県下の児童、生徒及
びHの福利厚生に利用するために県又は財団法人G援護会の三重県支部としての援
護会に贈与する旨決議された。しかし、県は右贈与を採納せず、援護会も右財団法
人の三重県支部となることなく消滅したため、右贈与は実現しなかつた。以後、訴
外会社は、会社財産を右決議の趣旨に沿うよう処分して清算の目的を達するまで、
Fを清算人として清算続行の状態となつた。
 (3) 昭和二八年、Fが東京都に転勤することとなり、また三重県の教育界にお
いて訴外会社の財産の管理・処分につき適正な方策を立てるべきであるとの声が高
まつたので、同年七月、Fが三重県教育委員会、同県H組合、同県I三会(高等学
校長会、中学校長会、小学校長会)の三団体(以下、三団体という。)と協議した
結果、将来右財産を引き継ぐのに適した団体が結成されたときは右団体に贈与し、
それまでの間三団体において訴外会社の財産を管理することとなり、Fは三団体に
対して右会社所有の全財産につき管理・処分権(管理・処分行為の一切を、代理人
たることを表示し、又は表示することなく、することができる代理権をも含む。)
を譲渡した。
 (4) 昭和二九年、三重県下の公立学校職員をもつて組織し、職員の相互共済、
福利増進を目的とする権利能力のない社団である上告人が設立され、その後機構も
整備され、業務も軌道に乗り、訴外会社の財産を承継するにふさわしい実体を備え
るにいたつたので、三団体は前述の管理・処分権に基づき本件建物を含む訴外会社
の財産一切を上告人に贈与して引き渡し、その移転登記については、上告人に法人
格がないので代表者理事長である三重県教育長J名義に登記をした。
 二 上告人の右主張についての原審の判断の骨子は、次のとおりである。
 (1) 財産の管理・処分権のみを他に譲渡することは許されないし、会社の清算
人が清算人の有する会社財産の管理・処分権のみを他に譲渡することもできないか
ら、訴外会社又はその清算人Fが三団体に本件建物についての管理・処分権を譲渡
したとしても無効であつて、右譲渡の有効であることを前提とする上告人の主張は
失当である。
 (2) また、上告人の主張を、訴外会社清算人Fが会社のため本件建物を管理・
処分する代理権を三団体に授与したという趣旨と解しても、Fにおいて、訴外会社
に本件建物の管理・処分権が帰属しているとの認識をもつていたことも、三団体に
右代理権を授与する意思表示をしたことも認められないのみならず、三団体には地
方公共団体の執行機関にすぎない県教育委員会が含まれており、かかるものが代理
人となりうるとは解されないから、右主張は失当である。
 (3) よつて、上告人の同人が本件建物所有権を取得したとの主張は、その余の
判断をするまでもなく、採用することができない。
 三 思うに、財産の所有権のうち管理・処分権のみを抽出・分離して他に譲渡す
ることは、特別の場合を除いて許されないが、財産の所有者がその管理・処分を他
の者に委任することは自由であり、右委任を受けた者が財産を処分した場合、その
効力が所有者に及ぶことはいうまでもなく、このことは、その処分が代理形式をと
つてされたか、受任者みずからの名によつてされたかを問わないのである。
 ところで、上告人の前記主張は、訴外会社の清算人であるFが昭和二八年東京都
に転勤するにあたり、三団体に、本件建物の管理・処分の一切を、三団体又は訴外
会社の名においてすることを委任した趣旨のものと解するのを相当とするところ、
前述のように、原判決は、上告人の主張を、Fから三団体への本件建物の管理・処
分権の譲渡又はFから三団体への本件建物の管理・処分の代理権の授与の主張と解
してこれを斥けたのであり、受任者である三団体の名による管理・処分の委任の主
張については判断を遺脱しているのである。そうして、本件記録によると、三団体
が本件建物を上告人に贈与したこと及びこれについてFになんらの異議がないこと
が窺われるのであり、原判決事実摘示の被上告人(Bを除く。)の主張によつても、
Fは本件建物について上告人のための所有権移転登記手続に協力したというのであ
つて、これらの事実に徴すると、Fが三団体に本件建物の管理・処分一切を委任し
ていたこと、更に上告人が本件建物所有権を取得したこと等が容易に認められるの
ではないかと考えられる。なお、右委任を受けたとされる三団体の中に、受任をす
ることや受任に基づく処分行為をすることのできない者が仮に含まれていたとして
も、他の団体においてこれをすることができる場合には、これをすることができな
い団体が含まれていることによつて右委任や処分が直ちに無効となるものではなく、
更に仮に三団体とも受任や処分をすることができない場合でも、委任は実際に管理・
処分する団体所属の個人に対してされ、処分もその者によつてされたものと解する
のを相当とするのである。そうすると、前述の判断遺脱は原判決の結論に影響を及
ぼすことが明らかであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないところ、
前述の主張について審理させるほか被上告人らの賃借権の帰趨その他について更に
審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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