弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は原判決を取消す。被控訴人が昭和三五年一二月二〇日山一証券株式会社
に対し発行した三二〇万株の新株発行はこれを無効とする。訴訟費用は第一、二審
とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め
た。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否、援用は次のとおり附加するほか
原判決事実摘示欄に記載するところと同一であるからこれを引用する。
(証拠関係)
 控訴人は甲第二六号証、第二七号証の一、二、第二八、二九号証、第三〇号証の
一、二、第三一ないし第三六号証、第三七号証の一、二、第三八号証を提出し、被
控訴代理人は右甲号各証(第三四号証については原本の存在をも)の成立はいずれ
も認めた。
         理    由
 一、 被控訴人の本案前の抗弁についての当裁判所の判断は原審の判断と同一で
あつて、控訴人は本訴を提起するについて当事者適格を有すると認めるものであつ
て、その理由は原判決の理由に示すところと同一であるからこれを引用する。
 二、 控訴人は被控訴会社が山一証券株式会社に新株引受権を与えるについて商
法第二八〇条の二、第二項の手続を履践しなかつたから、被控訴会社が昭和三五年
一二月二〇日山一証券株式会社に対し発行した三二〇万株の新株の発行は無効であ
ると主張する。
 被控訴会社が、昭和三五年八月二五日の取締役会において、新株発行に関し、新
株二、八八〇万株は株主に割当て、三二〇万株は公募により、発行することを定
め、同年一一月二八日の取締役会において、公募の新株三二〇万株は一株金四〇〇
円ですべて山一証券株式会社に買取引受けさせ、その払込期日を同年一二月二〇日
とする旨決議し、同年一二月二〇日新株三二〇万株を同証券会社に発行したこと、
右新株の発行について、株主総会の特別決議および株主総会において取締役が株主
以外の者に新株引受権を与える理由の開示をしていないことは当事者間に争がな
く、成立に争のない乙第一号証によれば、被控訴会社は昭和三五年一一月二八日山
一証券株式会社と石新株三二〇万株の買取引受契約をなしたことが認められる。
 そして、同号証によれば、右買取引受契約において、被控訴会社が発行する新株
のうち、三二〇万株を山一証券株式会社が一株につき金四〇〇円の割合で一括して
買取引受け、かつこの株式を一般に売り出す(売出の要領、売出価額一株につき金
四〇〇円、売出株数の単位五〇〇株またはその倍数、売出期間は昭和三五年一二月
一四日から同月一六日まで、受渡期日同年一二月二三日)。山一証券株式会社は株
式に対する申込証拠金として昭和三五年一二月一九日までに指定の払込取扱場所
へ、一株につき金四〇〇円を払込む。なお、被控訴会社は引受手数料として一株に
つき九円を支払うことが約定されたことが認められる。
 そうすると、右買取引受契約によつて、被控訴会社は山一証券株式会社に対し約
定数までの新株を発行する義務と、定められた引受手数料を支払う義務を負い、山
一証券株式会社は買取引受義務、売出義務を負うものであつた。
 右買取引受義務の内容は如何なるものであるかは約定書(乙第一号証)によつて
は明かではない。先ず一般的に買取引受の場合には、証券業者は約定の新株を自己
名義で一括して引受け(発行会社に対し、自己名義で株式の申込をなし、証券業者
が原始株主となる)、この株式を売出す(証券業者が、一旦、原始株主となつた上
で、応募者に対し、その株式を裏書譲渡するもので売れ残り分については証券業者
が引受ける義務を負うものとされているから、右の買取引受契約においても右の様
な方法によることを前提として契約がなされたものと認めるのが相当である。この
ことは原審における証人A、同B、同Cの証言によつてもこれを認めることができ
る)。
 しかし、他面買取引受において、応募者の有無にかかわらず、証券業者は約定数
の新株を引受ける権利を有し、発行会社としては、新株を割当、発行する義務を負
うものであろうか。この点についても約定書(乙第一号証)によつて必ずしも明か
ではないが、特別の留保がないかぎり、引受義務を負うということはこれに相応す
る株式の割当、発行をなすことを前提としているものと考えられるところであるか
ら証券業者は発行会社に対し、約定数までの新株の割当、発行を求めることができ
るものと認められなければならない。従つて、買取引受契約により発行会社におい
てかかる拘束を受けるものとすれば(単なる請負募集となすことはできないし、又
この場合発行会社は割当の自由はないことになる)、証券業者は結局他の者に優先
して新株を引受ける権利を有するものというべきである。そうすると商法第二八〇
条の二、第二項にいわゆる「株主以外の者に新株の引受権を与える場合」に該当す
るものといわなければならない。
 山一証券株式会社においては昭和三五年一二月一四日から同月一六日までの売出
期間内に引受新株全部を売りつくしてしまつたと主張し原審証人A、同Bはこれに
副う供述をしているが、原本の存在ならびに成立に争のない甲第一八号証の一ない
し三九、一九号証の一ないし一七六に対比して必ずしも信用できないし、仮りにこ
れが認められるとしても右買受契約において証券会社に新株引受権が付与されたか
否かが問題なのであつて、右の事実によつて、商法第二八〇条の二、第二項の適用
を排除するものではない。
 しかし、右のとおりであるとしても、商法第二八〇条の二、第二項の法意は新株
の発行価額の公正を保障するにあるから、公正な価額で売り出された場合には同条
の適用がないのではないかという疑問もあるが、同条は右のほか、第三者に優先的
に新株の引受権を認める場合は、当然には新株の引受権を有しない従前の株主の利
益を侵害する(当該新株の発行を受けることから排除される)結果を生ずるのでこ
れを保障することをも目的とするものであるから売り出し価額が公正であるか否か
によつて、ただちに同条の適用がないものとすることはできない。
 したがつて、被控訴会社の取締役会が商法第二八〇条の二、第二項の手続を履践
することなく、山一証券株式会社に対する前記買取引受契約による新株引受権の付
与は違法である。
 <要旨>しかしながら、右手続を履践することなくして、新株の引受権が付与され
たとしても、すでに新株が発行されてしまつたならば、その新株の発行自体
は無効とはならないと解すべきである。現行商法においては、元来新株の発行は定
款に特別の定めがないかぎり、取締役会が決定し得べき事項であつて、右株主総会
の決議は取締役会が権限を濫用することを防止するための対内的要件にすぎない
し、又株主は当然に新株の引受権を有するものでなく、右規定に違反して第三者に
新株の引受権が与えられたとしても、間接にその利益を侵害せられることあるは格
別、株主の新株引受権を侵害するものとはなし得ない。しかも、一旦発行された新
株を無効とすることは、取引の安全を害することが非常に大きい。新株が発行され
会社が拡大された規模において活動を開始すれば、これと取引をする者は、その規
模を信用して取引をするのであるから、その後において、新株の発行が無効とせら
れるならば、実質において資本の減少がなされたと同じ結果となつて、会社債権者
の利益を害するおそれがあり、また発行された株式が輾転流通した後において無効
とされることは株式の円滑な流通を阻害することが極めて大きいものがあり、他
面、株主において商法第二八〇条の一〇の規定により新株式発行前において違法な
新株式の発行を防止するための有効な手続をとりうべく、新株式発行後においては
場合により、当該取締役に対し同法第二六六条の三の規定により損害賠償の請求を
なし得るほか、当該取締役または新株を引受けた第三者において同法第二六六条第
一項第五号または同法第二八〇条の一一による責任を会社に対して負担する結果株
主の利益を直接間接に保護せられているものといわなければならない。したがつ
て、この点より考えても一般取引安全の犠牲において同法第二八〇条の二、第二項
の規定に違反し発行せられた新株式を無効であると解することを得ないことは明か
である。
 そうすると、控訴人の本訴請求は失当として棄却した原判決は結局正当であるか
ら民事訴訟法第三八四条により、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について同法
第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 牧野威夫 裁判官 満田文彦 裁判官 浅賀栄)

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