弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月に処する。
     ただし、この裁判確定の日から貳年間右刑の執行を猶予する。
     原審の押収にかかる木綿反物貳反(証第一号)を没収する。
     被告人から金貳万円を追徴する。
         理    由
 検察官屋代春雄の陳述した控訴趣意は、記録に編綴の仙台地方検察庁検察官千葉
勝治名義の控訴趣意書の記載と同じであるから、これを引用する。
 検察官の控訴趣意第一点について。
 刑事訴訟法第三百十九条第二項が被告人の自白のほかに補強証拠を要するとして
いる趣旨は、被告人の自白があつても、それが客観的に犯罪が全然実在せず全く架
空な場合があり得るのであるから、客観的事実の実在については自白があつてもな
お補強証拠によつてその確実性を担保することを必要としたものと解せられる。
 従つて、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものである限り、その補強証拠
は情況証拠であつても差支なく、自白と相待つて全体として犯罪構成要件たる事実
を認定し得るものであれば足り、又必ずしも自白にかかる構成要件事実の全部に亙
つてもれなくこれを裏付けするものであることを要しないものというべきである。
 本件において、原判決は、被告人が昭和二十七年九月十六日頃宮城県刈田郡a町
A方において、同年十月一日施行の衆議院議員選挙の立候補者Bの選挙運動者たる
同人から、同候補のための投票取纏の資金及び報酬として現金一万円の供与を受け
たとの公訴事実につき、被告人は自白しているけれどもその自白<要旨>を補強する
に足る証拠がないとして無罪の言渡をしている。しかし、記録に徴するに、右自白
の趣旨は、被告人は右日時前日AからCと二人で来るようとの電話があつた
ので、Cと二人でA方へ行くと、Aは被告人を別室に呼んで、足代だと言つてハト
ロン封筒の厚いのに入れた現金一万円を渡したというのであり、なおその際別にD
に渡してくれと依頼されて一万円を受取つたというのであるところ、Cの検察官に
対する第七回供述調書によれば、右日時にCと被告人と二人でA方を訪ねると、被
告人だけAから別室に呼ばれて十分位して出て来た事実、C自身もその五、六日前
選挙事務所でAから一万円貰つている事実及び選挙の時期でもあり被告人だけ別室
へ呼ばれたのであるからその際きつと選挙の金を貰つたに違いないと思つた事実が
各認められ、なおDの検察官に対する第一回供述調書(謄本)によれば、同年九月
十九日頃被告人がD方を訪ねた際同人に対し選挙で預つた金があるから一万円置い
て行くと言つて金をDに渡した事実が認められる。以上の事実は情況事実であり、
それだけでは独立して本件犯罪の客観的事実全部を裏付けするものではないけれど
も、自白と総合するときは、これを以て全体として被告人の自白にかかる事実の真
実性を保障し得るものと解するのが相当であるから、前記証拠は補強証拠たり得る
ものというべきである。されば、これを目して自白を補強するに足らずとして無罪
を言渡した原判決は、判決に影響を及ぼすことが明かな法令違反の違法をおかした
ものである。そして、右の公訴事実と原判決認定の事実とは刑法第四十五条前段の
併合罪の関係にあるから、原判決は全部破棄を免れない。論旨は理由がある。
 そこで、検察官の爾余の控訴趣意に対する判断を省略して、刑事訴訟法第三百九
十七条第三百七十九条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所に
おいて更に次のとおり判決することとする。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、昭和二十七年十月一日施行の衆議院議員選挙に際し、宮城県第E区よ
り立候補したBの選挙運動者であるが
 第一、 同候補者の選挙運動者Aから、同候補者のため投票取纏運動をすること
の報酬及び買収資金等として供与するものであることの情を知りながら
 (一) 昭和二十七年九月八日頃、宮城県刈田郡a町b同候補者選挙事務所にお
いて、現金五千円
 (二) 同年同月十六日頃、同県同郡同町bc番地A方において、現金一万円
 (三) 同年同月二十一日頃、同県亘理郡d村の肩書自宅において、被告人の妻
Fを介して、現金五千円
 の各供与を受け
 第二、 同年九月二十四日頃、同県亘理郡d村e字fg番地G方において、同人
から (一) 同候補者のため選挙運動をしたことの報酬等として供与するもので
あることの情を知りながら、木綿反物一反(証第一号の一部)の供与を
 (二) 選挙人Hに対し同候補者のため選挙運動をしたことの報酬として供与す
べき旨の依頼をうけて、木綿反物一反(証第一号の一部)の交付を
 各受け
 第三、 前記Aと共謀の上、同年九月十九日頃、同県同郡h町字ij番地D方に
おいて、選挙人たる同人に対し、同候補者に当選を得しめる目的を以て、同候補者
のため投票及び投票取纏運動をすることの報酬等として、現金一万円を供与し
 たものである。
 (証拠の標目)
 判示冒頭の事実は原審第一回及び第三回各公判調書中被告人の供述記載によりこ
れを認め
 判示第一の(一)の事実(第一の冒頭の事実を含む、以下同じ)は
 (1) 原審第一回及び第三回各公判調書中被告人の供述記載
 (2) 被告人の検察官に対する第三回及び第四回各供述調書
 (3) Iの検察官に対する第三回供述調書
 判示第一の(二)の事実は
 (1) 原審第一回及び第三回各公判調書中被告人の供述記載
 (2) 被告人の検察官に対する第三回及び第四回者供述調書
 (3) Cの検察官に対する第七回供述調書
 (4) Dの検察官に対する第一回供述調書(謄本)
 判示第一の(三)の事実は
 (1) 原審第一回及び第三回公判調書中被告人の供述記載
 (2) 被告人の検察官に対する第三回及び第四回各供述調書
 (3) Fの検察官に対する第一回供述調書
 判示第二の事実は
 (1) 原審第一回及び第三回各公判調書中被告人の供述記載
 (2) 被告人の検察官に対する第一回供述調書
 (3) Gの検祭官に対する第四回供述調書(謄本)
 (4) F作成の任意提出書及び司法警察員作成の領置調書
 (5) 原審押収にかかる木綿反物二反(証第一号)
 判示第三の事実は
 (1) 原審第一回及び第三回各公判調書中被告人の供述記載
 (2) 被告人の検察官に対する第二回及び第三回各供述調書
 (3) Dの検察官に対する第一回供述調書(謄本)
 を各総合して、これを認める。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為中、第一(一)乃至(三)の所為は各公職選挙法第二百二十一
条第一項第四号第一号に、第二(一)の所為は同法条同項第四号第三号に、第二
(二)の所為は同法条同項第五号第三号に、第三の所為は同法条同項第一号刑法第
六十条に該当するところ、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、所定刑
中いずれも懲役刑を選択の上、同法第四十七条第十条により、犯情の最も重いと認
める判示第三の罪の刑に併合罪の加重を施した刑期範囲内で、被告人を懲役四月に
処し、情状に因り同法第二五条を適用して、本裁判確定の日から二年間右刑の執行
を猶予することとし、原審押収にかかる反物二反(証第一号)は判示第二(一)
(二)の罪により収受し又は交付を受けた利益であるから、公職選挙法第二百二十
四条前段によりこれを没収することとし、被告人が判示第一の各所為に収受した現
金二万円は、これを没収することができないから、同法条後段に従い、被告人から
その価額を追徴すべきものとして、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 細野幸雄)

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