弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五六年一〇月二五日
から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙目録記載の各著作物を販売ないし無償頒布してはならない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第一項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 著作権の発生
 承継前原告亡【A】(以下【A】という。)は、第二次大戦直後、健全な軽スポ
ーツの発展が阻害されていた当時のスポーツ界の現状を憂い、一般大衆、就中少年
らに対し、健全なスポーツ精神をかん養し、適度な運動による身体の健全な発達を
促進することができる軽スポーツを与えるため、狭い広場で三本のゲート、一本の
ポール、木製ステイツクと球を使用して行うゲートボールなる競技を創作、考案
し、これに伴い、昭和二三年三月競技方法の説明及び競技規則からなる「リクレー
シヨンスポーツ、ゲートボール」(後記原告規則書(一)の原稿に当たる著作物で
ある。)を創作、著述し、その後、(1)これに基づき、同年四月一日、発行所を
ゲートボール普及研究会、発行者を【A】として、B六判(稍々変型)ガリ版刷、
本文一四頁の「リクレーシヨンスポーツ、ゲートボール」と題する規則書(以下原
告規則書(一)という。)を、(2)同年五月一日、発行所を北海道教育局体育部
北海道レクリエーシヨン促進協議会、著者を【A】として、原告規則書(一)と同
内容のB六判活版刷、本文一七頁の「ゲートボール」と題する規則書(以下原告規
則書(二)という。)を、(3)同二八年六月、発行者を日本ゲートボール協会と
して、原告規則書(一)と概ね同内容のB六判活版刷、本文一二頁の「ゲートボー
ル競技規則書」と題する規則書(以下原告規則書(三)という。)を、(4)同三
〇年六月、発行者を日本ゲートボール協会として、原告規則書(一)と概ね同一の
B五判本文八頁の「ゲートボール競技規則、指導部特別編」と題する規則書(以下
原告規則書(四)という。)を、(5)同三二年四月一日、発行所を協易産業株式
会社、編輯者を日本ゲートボール協会、著者を【A】(但し、表示上は通称【B】
名義となつている。)として、原告規則書(一)と概ね同一のB六判活版刷、本文
一五頁の「レクリエーシヨンスポーツ、ゲートボール競技規則書」と題する規則書
(以下原告規則書(五)という。)をそれぞれ出版した。なお、原告規則書(三)
及び(四)は、いずれも発行者を日本ゲートボール協会とのみ表示して出版された
ものであるが、これは【A】が右発行者に出版を無償で許諾したに過ぎず、その著
作権は【A】に帰属している。
 原告規則書(一)ないし(五)の各出版物(以下原告各規則書という。)は、い
ずれも、競技規則をその内容の一部とする点は同一であるが、そのほかにそれぞれ
ゲートボール競技の仕方の解説、解説図面、ゲートボールの軽スポーツとしての意
義の解説、ゲートボール誕生のいわれについての解説、審判規定等の全部または一
部を内容としており、それぞれ個性を有し、別個の思想、感情の表現とみられるの
であるから、各別に著作権が成立するものというべきである。
 仮に、原告各規則書が別個の著作物として評価できないとしても、原告各規則書
によつて表現されたゲートボールなる競技の目的、競技の概要、競技の方法、競技
規則、審判規則から構成されるゲートボールなるものについての考え方を一個の著
作物として考えるべきであり、原告各規則書はその著作権行使の結果発生したもの
というべきである。
2 被告の著作権侵害
 被告は、主たる事務所を被告肩書地に置き、会員六〇万人を擁し、会長を定め、
参加者から会費を徴してゲートボール大会を催し、同じく講習料を徴して講習会を
開くなどしてゲートボール競技の普及活動を行つている権利能力なき社団である
が、(1)昭和五二年四月一日頃、原告各規則書と、ゲートボール競技のコートの
広さに広狭の差異があるほかは、先攻、後攻の順番を決定する方法の決め方、文章
の言い回しに若干の異同があるに過ぎない別紙目録一記載の「ゲートボール競技規
則」と題する規則書(以下被告規則書(一)という。)を、(2)昭和五六年八月
一八日、被告と同様ゲートボール競技の普及活動を行つている日本ゲートボール協
議会、日本ゲートボール協会とともにルールの統一を図ると称して、そのための会
議を開催し、その旨原告各規則書と大同小異の別紙目録二記載の「ゲートボール競
技規則」と題する規則書(以下被告規則書(二)という。)を、それぞれ原告各規
則書の存在を知りながら出版し、原告各規則書についての著作権を侵害した。すな
わち、被告規則書(一)及び(二)(以下被告各規則書という。)は、原告各規則
書とその内容とする思想において同一性を有し、その具体的表現において若干の異
同はあるものの、その大本において変りはなく、【A】の著作権を侵害していると
いうべきである。
3 妨害排除の必要性
 被告は、会員六〇万人を擁すると自称し、かつ鋭意ゲートボール競技普及活動に
従事している旨新聞紙上に報道されている団体であつて、被告各規則書の出版頒布
をさらに継続するおそれが充分である。
4 損害
(一)【A】は、昭和三二年四月一日以降、原告規則書(五)を日本ゲートボール
協会に対し、一部金一五〇円で有償頒布することを許諾し、右協会より【A】に対
し、頒布数が一か年三万部に達したら月金一〇万円の対価を支払う旨の約定がなさ
れていたが、被告の前記不法出版により頒布数が一向に増大しなくなり、このため
【A】は少なくとも被告規則書(一)の発行された昭和五二年四月一日以降本訴提
起の前月の昭和五六年九月末日までの間に一か月金五万円の割合による合計金二七
〇万円の得べかりし利益を喪失したことが明らかである。
(二)他方、被告は、昭和五二年四月一日頃以降、被告規則書(一)を一部金三〇
〇円で販売しているが、現在までに少なくとも会員数六〇万人の一〇パーセントに
当たる六万部以上販売していることが容易に推認できるところ、昭和五二年四月一
日以降本訴提起までの間に被告が右規則書の販売によつて得た利益は少なくとも右
規則書の売買代金総額金一八〇〇万円の三〇パーセントに当たる金五四〇万円を下
ることはなく、著作権法一一四条一項に基づき、【A】が被告の右著作権侵害行為
により被つた損害は金五四〇万円以上と推定される。
5 【A】は本訴提起後の昭和五八年四月九日に死亡し、同人の妻である原告が本
件著作権及び本件著作権についての損害賠償請求権等を単独相続した。
6 よつて、原告は被告に対し、原告各規則書の著作権に基づき、被告各規則書の
販売ないし無償頒布の停止並びに右著作権侵害に基づく損害賠償金の内金一〇〇万
円及びこれに対する右損害発生後である昭和五六年一〇月二五日から支払ずみまで
民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1の事実は不知、著作権の主張にわたる部分は争う。
 著作権の対象となるのは思想、感情の「表現」であり、その表現が著作物性を有
していれば著作権保護の対象となるのであるが、スポーツに関する規則書(いわゆ
るルールブツク)のうち規則を表現した部分は、当該スポーツを行う者が誰でも順
守できるように、いわば思想、感情抜きで機械的、画一的に表現されているのであ
るから、規則を表現した部分の著作物性は問題がある。
2 請求原因2のうち、被告が被告各規則書をそれぞれ出版したことは認めるが、
その余は否認する。
 原告は、要するに、被告各規則書は原告各規則書とその表現形式は異つていて
も、そこに表現されている基本的なゲームについての考え方が同じだから原告の著
作権を侵害している旨主張するかのごとくである。しかし、著作権保護の対象とな
る著作物は、思想、感情の「表現」であり、表現されている思想それ自体が保護さ
れるわけではないのであつて、これをゲートボールゲームに関していえば、ゲーム
についての考え方ないしゲームのやり方についての考案は著作権の対象とはなら
ず、いわゆる「アイデアの自由」として一般の自由使用にまかされているのであ
る。従つて、ゲートボール規則書をそのまま複製してはならないが、自分なりの個
性的表現で規則書を作成することは自由であつて、本件において原告各規則書と被
告各規則書の表現を比較対照すれば、各文の文章、配列、構成等、その表現が異な
つていることは明白であり、仮に原告の規則書に著作物性を認めたとしても、被告
各規則書がその著作権を侵害しているとはいえない。
3 請求原因3は争う。
4 請求原因4(一)は不知、同(二)は争う。
5 請求原因5のうち、【A】の死亡並びに原告の相続の事実は認める。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 被告が被告各規則書を出版したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いの
ない甲第三九号証、第四〇号証の二、原告【A】本人尋問の結果により真正に成立
したものと認められる甲第一ないし第五号証、原告【A】本人尋問の結果並びに弁
論の全趣旨を総合すれば、【A】は原告主張のとおり原告規則書(一)、(二)及
び(五)をそれぞれ著作、出版したこと、また原告規則書(三)及び(四)はいず
れも【A】が発行者日本ゲートボール協会に出版を無償で許諾し、発行されたもの
であるが、その著作者は【A】であることが認められる。
二 右認定の事実に、前掲甲第一ないし第五号証、第三九号証、第四〇号証の二、
成立に争いのない甲第一六号証、第二四号証の一、二、第二六号証、第三七及び第
三八号証、原告【A】本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が
認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
1 昭和二二年頃、【A】は、戦後の荒廃の中で少年らの為に、安価な素材で競技
ができ、また広い競技用地も必要としない軽スポーツを作ろうと考え、古来フラン
スで発祥し、欧米、特にイギリスで行われていた「クロツケ」という競技に着想を
得、これに玉突きの要素を加えて、一チーム五名編成の二チームが、交互に一名ず
つ、木製ステイツク(当初はバツトと呼称していた。)で木製ボールを打撃しなが
ら、グランド上の三つのゲートを通過させ、中央に立てたボールに打ち当てて行
き、いずれのチームが先に全員ポールに打ち当ててゴールするかを競ういわゆるゲ
ートボール競技を創作考案し、昭和二三年三月右ゲートボール競技に関し、その競
技方法の説明及び競技規則からなる「リクレーシヨンスポーツ、ゲートボール」な
る原告規則書(一)を著述、出版し、引き続き原告規則書(二)ないし(五)を順
次著述、出版したが(但し、同規則書(三)、(四)については前認定のとおりで
ある。)、この間、昭和二三年三月八日ゲートボール競技の打球競技具につき実用
新案の登録出願をなし、同二四年一二月六日右出願につき公告がなされ、同二五年
六月一三日特許庁より右登録を受け実用新案権を取得した。そして、原告は昭和二
三年頃から昭和三三年頃まで、北海道、東京、大阪、岡山等で講習会等を開き、ゲ
ートボールの普及活動を行つた。
2 原告規則書(一)は、競技人員、グランド、運動具、競技法について説明した
「ゲートボール競技の仕方」(但し、実質的には競技規則に相当する部分も存す
る。)、運動具、グランド、競技に関する規則並びに附則を二六ケ条にまとめた
「ゲートボール競技規則」から構成されており、巻末に運動具とグランドの図面が
添付されている。原告規則書(二)は、レクリエーシヨン運動普及の必要性とその
一助としてのゲートボール競技を紹介、説明した「レクリエイシヨン的軽スポーツ
としてのゲートボールの推奨について」、ゲートボール競技の発祥及びゲートボー
ル競技の特徴について説明した「ゲートボールについて」、原告規則書(一)とほ
ぼ同内容の「ゲートボール競技の仕方」及び「ゲートボール競技規則(二六ケ
条)」から構成されている。原告規則書(三)は、「はしがき」、ゲートボール競
技の発祥及びゲートボール競技について簡単に説明した「ゲートボールについ
て」、競技用具、コート及び用具配置、競技人員、競技、反則、審判に関する規則
及び附則を六章一二ケ条にまとめた「ゲートボール競技規則」並びに昭和二八年五
月一〇日に設立された日本ゲートボール協会の規則を定めた「日本ゲートボール協
会規約」から構成されている。そして、原告規則書(四)及び(五)は、原告規則
書(三)の「はしがき」及び「ゲートボールについて」と同旨の「御挨拶」及び
「ゲートボールの発祥について」、競技人員、グランド、競技法等について説明し
た「ゲートボール競技の仕方」(但し、実質的には競技規則に相当する部分も存す
ることは原告規則書(一)及び(二)と同様である。)、「ゲートボール競技規則
(二六ケ条)」、「大会時に於ける審判に関する事項」、「応用競技の一例」から
それぞれ構成されている。
 なお、原告各規則書中の競技規則に関する部分もすべて【A】の独創に係るもの
であり、基本的には同趣旨のものであるが、規則の構成、体裁内容は順次修正され
ており、それぞれ若干の差異がある。
三 以上の認定事実によれば、原告各規則書は、【A】が考案したゲートボール競
技に関して、ゲートボール競技のいわれ、レクリエーシヨンスポーツとしての意
義、競技のやり方、競技規則等の全部ないし一部を固有の精神作業に基づき、言語
により表現したものであり、その各表現はスポーツという文化的範疇に属する創作
物として著作物性を有するというべきである。
 この点に関し、被告は競技規則を表現した部分は思想、感情抜きで機械的に表現
されているから、その著作物性には問題があると主張するけれども、新たに創作さ
れたスポーツ競技に関し、その競技の仕方のうち、どの部分をいかなる形式、表現
で競技規則として抽出、措定するかは著作者の思想を抜きにしてはおよそ考えられ
ないことであり、本件原告各規則書の規則自体も【A】の独創に係るものであるこ
とは前認定のとおりであつて、それは文化的所産というに足る創作性を備えている
のであるから、その著作物性を否定し去ることはできないというべきである。
四 そこで、次に、被告の著作権侵害行為の有無について検討するに、そもそも著
作権侵害とは既存の著作物に依拠し、これと同一性或いは類似性のある作品を著作
権者に無断で複製することによつて生ずるもので、仮に第三者が当該著作物と同一
性のあるものを作成したとしても、その著作物の存在を知らず、これに依拠するこ
となしに作成したとするならば、知らないことに過失があつたとしても著作権侵害
とはならないものと解すべきである(昭和五三年九月七日最高裁第一小法廷判
決)。従つて、依拠した結果同一性或は類似性のあるものを作成すると侵害行為と
なるが、たとえ依拠した場合でも換骨奪胎して同一性或は類似性のないものを作成
したとすれば、侵害行為は該当しない。
 そうだとすると、著作権侵害を判断するに当つては、先ず既存の著作物に依拠し
たか否かの点が前提となり、依拠した場合に同一性或は類似性を判断することにな
る。但し、第三者が既存の著作物と同一或は類似のものを作成した場合、それは依
拠したことを推認する資料となるうるのであつて、それが酷似すればする程その度
合は強くなるといえる。
 このような観点から、以下に検討する。
1 前掲甲第一ないし第五号証、成立に争いのない甲第六及び第七号証、第一七な
いし第二一号証、第三五号証の一ないし三、被告代表者本人尋問の結果(後記認定
に反する部分を除く。)、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることがで
きる。
(一)昭和三四年、当時熊本市体育指導委員協議会の副会長であつた被告代表者
【C】は、熊本県教育委員会主催の体育指導委員講習会において配布されたゲート
ボール競技を簡単に説明した小冊子に接して、初めてゲートボール競技の存在を知
り、当時右体育指導委員協議会では年齢等に関係なく永続して取組める軽スポーツ
を模索中であつたため、以後右【C】らが中心となつてゲートボール競技の研究、
普及に努めるようになつた。そして昭和四〇年前後頃より全国的にゲートボール競
技が盛んに行われるようになり、熊本県内においても昭和四五年には熊本市ゲート
ボール協会(以下市協会という。)が設立され、同四九年にはこれが熊本県ゲート
ボール協会(以下県協会という。)に改組され(会長はいずれも【C】)、活発に
研究指導が進められ、その間昭和四五年には市協会が中心となり、それまでの研
究、体験を踏まえて独自の競技規則を制定し、以後昭和五一年までの間、右規則
は、市、県協会を通じて通算五回の改訂が行われた。その後、県協会は全国各地に
積極的に普及活動を行い、昭和五二年には一道二府二八県の加盟のもとに被告が設
立され、【C】が代表者に就任した。そして、被告は右県協会の競技規則等を参考
として検討を加えた末同年四月一日頃に被告規則書(一)を出版した。
(二)しかして、その頃にはゲートボール競技普及団体が全国に多数設立されてい
たが、各団体間に横の連絡がとれていなかつたため、各団体の競技規則は不統一
で、所属団体を異にする者同志の試合ができない有様で、全国大会の開催等におい
て不都合も生じ、次第に「全国統一ルール」作成の機運がたかまり、昭和五六年、
日本レクリエーシヨン協会が仲裁役となり、被告、日本ゲートボール協会、日本ゲ
ートボール協議会の主要団体が集まり、統一ルール作成委員会が開かれ、審議の結
果一応の了解が成立したとして右四団体名で被告規則書(二)が出版されたが、そ
の後右統一ルールの合意につき日本ゲートボール協会から異議が出されたため、現
在においても右統一ルールは正式のものとして全団体に承認される状況に至つてい
ない。
(三)被告規則書(一)は、被告設立までのゲートボール競技の歴史等(但し、
【A】を創作者とする記述及び原告各規則書に関する記述は全くない。)を説明し
た「本競技普及発展の歩み」、「ゲートボール競技とは」と題する七行のゲートボ
ールに関する説明の項に続き、「第一章コートおよび用具(二ケ条)」、「第二章
チーム構成(一ケ条)」、「第三章競技規程(一ケ条)」、「第四章反則(一ケ
条)」、「第五章競技役員(一ケ条)」、「第六章競技時間および勝敗(二ケ
条)」、「第七章試合没収(一ケ条)」、「第九章試合中止、延期および取りやめ
(一ケ条)」、「第一〇章判定(一ケ条)」の九章一一ケ条からなる競技規則条
項、主として審判の運用に関する「競技運用について」、更に「全国ゲートボール
協会連合会登録規定」、「全国ゲートボール協会連合会公認審判員規定」、「全国
ゲートボール協会連合会公認審判員登録規定」、ステイツクの握り方等を写真解説
した「正しい競技法」から構成されており、被告規則書(二)は、被告同様ゲート
ボール競技の普及活動を行つている日本ゲートボール協会、日本ゲートボール協議
会、財団法人日本レクリエーシヨン協会との共同著作に係るもので、「第一章競技
場および用具(二ケ条)」、「第二章チームおよび競技者(三ケ条)」、「第三章
競技規程(一ケ条)」、「第四章勝敗の決定(一ケ条)」、「第七章審判員(一ケ
条)」、「第九章大会運営(四ケ条)」の純枠に競技規則のみからなる六章(一二
ケ条)から構成されている。
(四)そして被告規則書(一)の競技規則に関する部分を除く著述は原告各規則書
と、その内容及び表現が全く異なつており、右部分は被告が独自に著述したもので
あり、また原告各規則書と被告各規則書とを対比すると、これらがいずれも競技規
則を含むゲートボール競技に関する著作物であるという点において共通するもの
の、コートの広狭、先攻の順番の決定方法等、双方規則化されているその内容も細
部においてかなりの差異があるのみならず、前者においては「競技の仕方」等競技
規則以外の説明の文章中にある内容を後者においては規則の内にとり入れ、或は逆
に前者において規則とされている部分が後者においては規則として採用されていな
いなど、その実質的内容も相当程度異なるほか、文章表現、著述構成、その表現形
式も両者は明らかに異なつている。
 以上の事実を認めることができ、被告代表者本人尋問の結果中、右認定に反する
部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。なお、本件において
被告が被告各規則書を著作、出版するにつき原告各規則書のすべてもしくはその一
部を直接参照したことを認めるに足りる証拠はない。
2 右認定の事実によれば、被告規則書(一)は県協会(もしくはその前身たる市
協会)制定の競技規則を参考として制定されたものであり、原告各規則書を直接参
照し、これを取り入れているとは認め難い。もつともゲートボール競技自体、原告
の創作、考案に係るものであり、その規則の基本的骨子部分がすべて原告の発想、
アイデアに由来するものであることは前記二1に認定のとおりであるから、被告規
則書(一)の土台とされた県協会制定の規則が少くとも原告各規則書の影響の下に
作成されたであろうことは容易に推認することができ、ひいては被告規則書(一)
も原告各規則書の影響を受けているということもできるけれども、被告規則書
(一)が著述、出版された昭和五二年当時においては、既にゲートボール競技が全
国に発展普及し、各種団体が乱立し、しかも団体ごとに横の連絡がとれていなかつ
たため、別個の規則が制定されていつたわけであり、既にその時点では、いわば競
技そのものが原告の手を離れ、独立して一人歩きを始めていた状況にあつたのであ
るから、新たに規則を制定するにあたつても当初の原告各規則書とは別に実施され
ている競技の体験を踏まえ、これに創意工夫を加えて新たな規則書を作ることが充
分可能な状況にあつたと推認されるから、被告規則書(一)が原告各規則書の影響
を受けたからといつて、これをもつて、被告規則書(一)が原告各規則書に依拠し
て作成されたということはできない。
 そしてこのことは被告規則書(二)についても同様であり、被告規則書(二)が
前記四団体の審議の結果作成されたもので、その際直接原告各規則書を参照にし、
これを取り入れたという事情が認められない以上、これについても依拠性の存在は
否定されざるをえないというべきである。
3 以上のとおりであるから、被告各規則書が原告各規則書の著作権を侵害してい
るということはできない。
五 結論
 従つて被告各規則書が原告各規則書の著作権を侵害していることを前提とする原
告の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却するこ
ととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決す
る。
(裁判官 安間喜夫 前島勝三 原敏雄)
別紙目録(省略)

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