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裁判例


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○ 主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1、被告は広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業の施行者として昭
和四五年一月九日になした左記行政処分を取消せ。
(一) 公共用地に充当する目的をもつて行つた一、〇一三、一七九・二平方メー
トル(三〇七、〇二四坪)の公共減歩処分
(二) 土地区画整理法第九六条第二項にもとづいて行つた四三、九六六・三平方
メートル(一三、二九九・八五坪)の保留地設定処分。
(三) 右土地区画整理事業施行対象私有宅地のうち測量増の名称のもとに行つた
七六、〇九三・五平方メートル(二三、〇五八・六四坪)の土地所有権の領得処
分。
(四) 広島市所有にかかる広島市<以下略>宅地二、二五〇・六平方メートル
(六八二・三五坪)を六・六平方メートル以上の土地三四六筆に分割し、未指定地
四四、〇三五・二平方メートル(一三、三四四坪)に換地した処分。
(五) 同市所有にかかる広島市<以下略>宅地一、〇八七・四平方メートル(三
二九・五三坪)を六・六平方メートル以下の土地一七九筆に分割し、未指定地一
七、〇六四・三平方メートル(五、一七一坪)に換地した処分。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
三、本案前の答弁
1、本件訴を却下する。
2、訴訟費用は原告らの負担とする。
四、請求の趣旨に対する答弁
1、本件訴を棄却する。
2、訴訟費用は原告らの負担とする。
第二、当事者の主張
原告
一、請求原因
1、被告は、土地区画整理法第三条第四項規定の広島平和記念都市建設事業東部復
興土地区画整理事業の施行者として、昭和二一年一一月一日右事業の認可を得てこ
れに着手し、昭和四五年一月九日次の各行政処分を行なつた。右各処分は、以下の
理由により違法不当なものである。
2、公共減歩した土地を無償で取得した処分
(一) 被告は広島市<以下略>A所有の宅地四五二・一五平方メートルを現地換
地し、三二〇・七八平方メートルを減歩したのを始め民有宅地一〇、一九四筆から
総面積一、〇一三、一七九・二平方メートルの土地を減歩し、これを無償で取得し
た。
(二) 土地区画整理事業に基く換地処分とは、従前の宅地についての諸権利が換
地上に当然に移行する旨を確認する処分であり、右処分に付随して、事業施行者が
土地を収奪できる旨の定めはない。
土地区画整理法第一〇九条第一項及び第二項は、公共減歩につき、事業施行前と施
行後の宅地の貨幣評価額「交換価値」を対比し、後者が減少した場合にのみ補償す
べしと規定するが、同条項には、公共減歩処分自体の補償の要否についての規定は
全くないし、同条項が無償取得の趣旨を規定したものであるとすれば、同条項は憲
法二九条に違反する無効なものである。
すなわち、同条項の「宅地の価額の総額」が、宅地の交換価値の総額を意味すると
すれば、事業施行に二〇年余を要した本件事業の場合、その対比は地価が数十倍に
値上りした客観的条件を無視した不正不当なもので、衡平の原則を著しく損うもの
であり、「宅地の価額の総額」が土地区画整理事業自体の宅地利用の増進による経
済的効果を抽象的に比較し、それを貨幣価値を以て量化したものと解すれば、その
算定については、基準及び方法について明文を要し、事業施行者の恣意と独断に委
ねられるべきでないからである。
その他、事業施行者が、補償金支払の受働債権に対し、これを相殺して支払を免が
れるような反対債権を取得する法上の根拠はない。
3、保留地と定めて無償で取得した処分
(一) 被告は広島市<以下略>ブロツク二九・一七平方メートルを、はじめ民有
宅地一五五筆から総面積四三、九九六・三平方メートルを保留地に指定し、これを
無償で取得した。
(二) 土地区画整理法第九六条第二項は、整理施行後の宅地の価額の総額が施行
前の宅地の価額の総額をこえる場合に、その差額に相当する金額をこえない価額の
一定の土地を保留地として定めることができる旨規定しているが、右条項自体は、
その補償の要否を規定していないし、同条項が無償取得の趣旨を規定したものであ
るとすれば同条項は憲法二九条に違反する無効な規定である。
すなわち、土地区画整理事業の結果、宅地の価額が増加するとしても、これは土地
所有者が宅地を減歩し、公共施設を拡張した所産であるから、右差額は、土地所有
者に還元されるべきであり、宅地利用の増進と換地の価額増加という名目で土地収
用手続によらないで公共用地に取得し、何らの補償をしないのは憲法二九条に違反
するものであり、更にこれを事業費にあてることは、土地所有者が事業費を負担す
るのと何ら異なるところがなく、土地区画整理事業に要する費用は、市或いは、国
が負担するものと定める土地区画整理法第一一八条第二項第三項に違反するもので
ある。
特に本件事業においては、被告が換地計画を定めるに際し、公表した整理前の価額
の総額は一七二億一、九三六万六、二八〇円、整理後のそれは、一七二億三、六六
二万八、八八〇円で、その差額は一、七二六万二、六六〇円である。しかるに市が
保留地として取得した土地のうち、三五、九〇七・〇五平方メートルを、昭和四五
年三月三一日迄に売却した代金総額は、三億六、九七二万八、四六三円で、右差額
をはるかにこえる金額であり、広島市は同法第九六条二項に違反し、不当に保留地
を取得したものである。
4、測量増地積を無償で取得した処分
(一) 広島市<以下略>万徳寺(代表役員B)所有の境内地の換地にあたり、測
量増地積約三三平方メートルを生じ、その所有権が右の者に帰属するに拘らず何ら
の補償をせずにこれを領得したように、被告は総面積七六、〇九三・五平方メート
ルの土地を領得した。
(二) 土地所有権の実体は、現存の土地全部について存在するのであるから、換
地処分にあたつては、実測面積を基準として行なうべきであるのに拘らず、被告
は、登記簿上の地積を基準として、測量増地積が二〇坪に至らない場合には、公簿
面積の訂正に応じない方針で測量増地積を取奪したが、これは憲法二九条に違反す
るものである。
なお、このような測量増地積が生じた場合は、整理事業の目的に照らし、公共減歩
用地に充当し、減歩率を軽減して、従前の土地所有権者の負担を軽からしむるべき
である。
5、二坪換地処分として無償で取得した処分
(一) 被告は広島市<以下略>の市有地二、二五〇・六平方メートルを六・六平
方メートル以下の地積三四六筆に分割し、<以下略>ほか三一四件の未指定地四
四、〇三五・二平方メートルに換地し、<以下略>の市有地一、〇八七・四平方メ
ートルを六・六平方メートル以下の土地一七九筆に分割し、<以下略>ほか一六三
件の未指定地一七、〇六四・三平方メートルに換地し、これらを市有地として領得
した。
(二) 前記行為は、土地区画整理法第九一条規定の過小宅地とは存在の根拠も性
質も全く異り、事業施行者が事業計画の錯誤によつて生じた未指定地(公共減歩処
分により収奪しすぎた過剰宅地)を安易に処分するため、市有地を細分してことさ
らに過小宅地を創出したうえ、これに対して広大なる未指定地を換地処分し領得し
たものである。
6、原告らは、いずれも広島市に居住し、右整理事業の対象となつた土地所有権者
等である。
右各行政処分は何れも地方自治法第二四二条第一項の違法若しくは、不当な財産の
取得若しくは処分行為に該当するものであるから、原告らは、同項の規定により、
昭和四五年三月二八日広島市監査委員に対し、監査請求をしたが、同年五月二七日
付を以て請求に理由がない旨の監査結果を通知されたので、同法第二四二条の二第
二号の規定により本訴を提起する。
被告
一、本案前の抗弁
1、原告らが本訴において取消を求める行為(以下本件行為という)は住民訴訟の
対象となる財務会計上の行為に該当しない。
(一) 地方自治法第二四二条の二規定の住民訴訟は、地方公共団体の公金・財
産・営造物等がその住民の負担する公租公課等から形成されるものであり、その支
出、取得、使用、管理及び処分はいずれも住民全体の利益のためになされるべきも
のであるから、地方公共団体の機関や職員の腐敗的な行為によつて蒙る公共団体の
損失を住民の手で自ら防止、匡正し、もつて公共団体の利益を擁護し、結局は公共
団体の財産の享有者であり、かつ、経費の負担者である住民各自の利益を擁護しよ
うとして設けられた制度である。
従つて、右住民訴訟の対象となる行為は、地方自治法第二四二条に規定する地方公
共団体の機関や職員の行為のうち「違法な公金の支出、財産の取得、管理若しくは
処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担」という財務会計
上の行為又は、「違法に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」
に限定されていると解される。
(二) ところで、土地区画整理法に基く土地区画整理事業は、都市計画区域内の
宅地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため右区域内の一
定の範囲を土地区画整理施行地区とし、その施行地区内において、公共施設の新設
又は変更を行なうとともに、宅地について区画形質を変更して整備し、整理前の土
地に存した権利関係を喪失させるとともに、整理後の土地につき権利を与え(換地
処分)、両者を位置、地積、土質、利用状況環境等について照応させようとするも
のである。
そして、従前の宅地の位置、地積、土質等の条件の換地のそれとを比較して過不足
があり、かつ、他の宅地について定められた換地との関係に比して不均衡があると
認められる場合には、その過不足又は不均衡は金銭により精算されるものである。
(三) 右の土地区画整理事業ないし換地処分の性質に照らせば原告らが本訴にお
いて取消しを求める各行為は、地方公共団体の公金、財産、営造物に対する管理処
分等に該当するものとは解されず、住民訴訟の対象とはなり得ない。
(四) 本件土地区画整理事業の結果、広島市は、保留地の全部および公共施設の
一部の所有権を取得したことになつたが、これは土地区画整理法の規定による法律
上の効果として当然生ずるものであつて、被告の財務会計的処理を直接の目的とす
る行為によるものではないから、住民訴訟の対象とはなりえない。
2、前記住民訴訟の制度の目的に照らすと、その対象となる行為は、地方公共団体
の執行機関又は職員による違法な行為又は不行為(不当な行為又は不行為を含まな
いことは地方自治法第二四二条と同条の二の条文自体を対比することによつて明瞭
である)により地方公共団体が積極又は消極の損害を受ける場合、もしくは受ける
おそれがある場合でなければならない。そこで、住民訴訟の対象としての地方自治
法第二四二条の二の「違法な財産の取得、管理、若しくは処分」等の各行為は、右
の意味の限定をした上で解釈しなくてはならないが、本件各行為は、いずれも広島
市に損害をもたらすおそれのある行為ではない。
3、原告らは、公共減歩処分、保留地処分、測量増地領得処分を、それぞれ行政処
分としてその取消しを求めているが、右は換地処分の結果にすぎず、独立の行政処
分ではないし、又被告が、かような行政処分を行なつたことはない。
4、原告らの本訴請求は、以上いずれの点からみても不適法であつて却下されるべ
きである。
二、請求原因に対する答弁
1、請求原因第1項中、被告が土地区画整理法第三条第四項規定の広島平和記念都
市建設事業東部復興土地区画整理事業の施行者として、昭和二一年一月一日右土地
区画整理事業の認可をえて、これに着手したことを認め、その余は争う。
2、同第2項(一)のうち、広島市<以下略>A所有の宅地についていわゆる現地
換地したことは認めるが、その余は争う。同項(二)は争う。
3、同第3項(一)は認めるが、(二)は争う。
4、同第4項中、本件土地区画整理事業の施行地区内の全体の宅地についてみれ
ば、最終の事業計画において、公簿面積に比して七六、二二六・八九平方メートル
の測量増地積が生じたことは認めるが、その余は争う。
5、同第5項中、広島市所有の広島市<以下略>の宅地二、二四四・一三平方メー
トルおよび同<以下略>の宅地一、〇八三・八七平方メートル合計三、三二八平方
メートルの従前の宅地に対し、いわゆる「二坪換地」の方法により、合計六一、二
〇九・〇二平方メートルの仮換地を指定したことは認めるが、その余は争う。
6、同第6項中原告らが広島市の住民であること、C外三八八名が昭和四五年三月
二八日付で、広島市監査委員に監査請求し、同年五月二七日付で監査委員は請求に
理由がない旨を同人らに通知したことは認めるがその余は争う。
本案前の抗弁に対する答弁
一、被告は、本件行為が財務会計上の行為に該当しないと主張する。
地方自治法第二四二条及び同法第二四二条の二は、住民自治の原則によつて、普通
地方公共団体の行政の非違を正すのが目的であつて、普通地方公共団体の長若しく
は職員が、右団体の機関としてなしたか、はたまた普通地方公共団体の長が行政庁
として行為の主体となつて行為したかを問わず、行為の結果として、同法条該当の
法律効果が右団体に帰属すれば、住民訴訟の対象となるものである。
仮に、住民訴訟の対象が財務会計上の行為に限られると解するとしても本件各行為
は財務会計上の行為に該当するものである。すなわち、公有財産の得喪変動に関す
ることは、財産に関する事務であつて財務自体に属することは明白であり、現に本
件土地区画整理事業については特別会計が設けられていて、右会計には、事業経費
は勿論のこと区画整理による財産権の得喪変動が一切計上されているから、土地区
画整理事業自体がその歳出入の原因行為として財務に関する行為であることは一点
の疑いもない。原因行為を除外した財務会計行為とは「金額計算行為」と「同記入
行為」のみとなつて無意味である。
本件請求にかかる行為のうち、保留地設定処分が直接事業経費に充当する目的をも
つて行われ当該団体の歳出予算を左右するものであることはいうまでもないし、二
坪換地処分が市有地の管理及び処分行為であることは誠に明白である。
二、本件係争各行為と処分行為性について
被告は、本件請求趣旨に揚げる各土地所有権の領得行為は個々の市民を相手とする
換地処分の効果であり、処分自体ではないと主張する。なるほど各市民のうけた換
地処分が処分行為であることは異論がないが、だからとして右各土地所有権の領得
行為が処分行為でないとはいえない。
(1) 公共減歩処分について
被告は土地区画整理法に基く事業計画において公共減歩率二三・六%を決定し、こ
の地積の土地を公共施設(道路、公園、学校等)の整備改善を図る目的を以て私有
宅地から無補償で収奪した。
右行為が行政庁としての被告の意思決定を原因とし、広島市民の土地所有権の一部
を取上げて公共用地として広島市所有の土地とした事業行為と行為の法律効果が厳
存すること、右行為の客体として広島市民が存在し、土地所有権の一部に縮少削減
の法律効果が発生したことについて異論の余地はない。右行為の客体を更に個々の
市民に特定しなければ行政処分に該当しない理由はない。
何故なればこの様な特定をすることは右行為の法的内容及び性質から遊離し右行為
の処分性を喪失することとなるからである。即ち個々の市民に対する換地処分にお
いては右減歩率を上廻つて従前の土地地積を縮少された者があり、下廻つて縮少さ
れた者があり、更に換地地積が従前のそれを上廻る者があつて、右減歩行為はその
儘の姿態をもつて存在しないこととなり、存在するのは個々市民の精算処分の違法
若しくは不当性を争う行政訴訟の訴訟物のみが存在することとなつて、住民訴訟の
対象である「違法若しくは不当な公有財産の取得行為」の存在及び特定から遊離す
ることとなり、住民訴訟の訴訟物から脱落し、本来の制度の趣旨を没却することに
なるし、個々の市民の受けた処分行為は本来行政事件の訴訟物として関係外市民に
出訴の資格の無いこととも関連して「違法若しくは不当な公有財産の取得行為」は
出訴の途を封ぜられ有名無実の空文と化し去る。
(2) 保留地処分について
保留地処分が土地区画整理法第九六条の規定によつて事業経費に充当されたことに
ついても一点の疑はないし、右行為が右規定に基く処分行為であることが処分行為
自体の成立、存在、効果を示す全部であつてそれ以上でもそれ以下でもない。
しかも右行為によつて右処分対象である私有宅地は公有地として収奪され、右宅地
が事業経費に充当された限りにおいて私権の得喪変動を受けたことに異論の余地は
ないであろう。
右保留地処分の対象市民が明確でないからと云つて対象市民と対象私有宅地は厳と
して存在する。
厳存するが故に公有地への収奪も可能となり経費の充当もひいては事業の遂行も可
能となつたものである。
(3) 測量増地積の領得処分について
右については原告らは被告が一定の方針と基準を設けて測量増地積の私有宅地を一
斉に収奪した行為を問題としている。
行為の主体が行政庁としての被告であり行為の客体が測量増地積の所有権者であり
行為の対象が私有宅地でその地積も特定しているのである。
個々の市民が収奪された地積は広狭様々であつて一定ではなくその様な個々の地積
の領得行為の違法性を争うのであれば行政訴訟に席を譲るべきであることは言う迄
もないし、何よりも右個々の収奪行為は前記基準の下に行われた処分行為の反射的
な効果に過ぎない。
前記一定の基準の下に測量増地積として膨大な私有宅地を無補償で領得する行為自
体の違法性を住民訴訟の訴訟物として争訟の対象にしなければ行政行為の非違を正
すことは永遠に不可能となるし、地方自治法の設ける住民訴訟制度は単なる形骸に
等しいものとなろう。
(4) 二坪換地処分について
前記公共減歩率によつて無補償で収奪した私有宅地の総べてが公共施設用地として
充当されたのではない。余剰を生じた宅地の処分に困惑した結果、既存の市有地を
二坪単位の土地に細分して計画的に過少宅地を造成した上、右余剰宅地に換地指定
したうえ公有財産に取得した行為が二坪換地処分であつて、原告らは右細分された
個々の従前の土地に対し換地処分された個々の換地との地積の対比などを微視的に
問題としているのではない。
この様な過小宅地を造成した上、これを従前の土地として余剰宅地に換地指定する
行為自体こそ土地区画整理法に違背する「違法な公有財産の取得行為」に該当する
と主張しているのである。
(5) 行政行為によつて私権に得喪、変動、消滅を来たす場合、行政機関の意思
決定を原因とし、法律効果が私権に発生する迄の行為は多元的で且つ積層的であ
る。殊に高度に進歩した法治国家にあつては法による行政を原則とし法が階層的で
あると同時に執行機関も執行々為も階層的である。単に私権に直接した段階にのみ
行政処分の処分性を認識し得るとするような法理観では複雑な行政の機能と行為を
とらえてこれを正すことは至難であるし、分けても多数者の人権を支配する行政処
分の処分性に目を蔽うこととなろう。
三、被告は「不当な行為又は不行為は住民訴訟の対象にならな
い・・・・・・・・・」と主張し、右根拠として地方自治法第二四二条と同条の二
の条文自体を比較対照すれば判るという。
そこで両者を比較対照するならば同法第二四二条の規定は「違法若しくは不当な」
との制限語句をこれに続く各用語に冠している事実を見ても不当な行為が排除せら
るべきでないことは当然であるし、また「違法若しくは不当な財産の管理を怠る事
実」が不行為の事態を意味することは云う迄もないし、これを受けて同法第二四二
条の二の第一項の「同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき」出訴
し得る旨を規定し、同条同項一乃至四の各号を設けているものであるが、行為の差
止め請求、取消し又は無効確認請求、怠る事実の違法確認、損害賠償又は不当利得
返遠請求等から不当な行為と不行為とを除外すべき理由は無い、特に「怠る事実」
に不行為を含むことに異論は無いし、「行為の差止め請求」や「損害賠償や不当利
得返還請求」の損害や利得の発生原因行為から不当行為を除外しなければならぬ理
由はない。
一方では住民監査の対象行為として許容し、他方でこれを住民訴訟の対象から排除
するの法意ではない。「監査委員の監査の結果に不服があるとき、同条第一項(第
二四二条第一項)の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき訴えを以て云々」と
の規定中単に用語の存否を論ずるのではなく、同条全文を論理的、目的論的に解釈
すべきである。
第三、証拠関係(省略)
○ 理由
一、原告らが広島市の住民であること、被告が土地区画整理法第三条第四項規定の
広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業の施行者として昭和二一年一
月一日右事業の認可を得てこれに着手したこと、原告らが、昭和四五年三月二八日
広島市監査委員に対し、被告が同年一月九日付を以てした本件行為の取消しを求め
て監査請求をしたところ、同年五月二七日付をもつて、請求に理由がない旨の監査
結果を通知されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二、被告は、本件訴が地方自治法二四二条の二に基くいわゆる住民訴訟として不適
法である旨本案前の抗弁をなすので判断する。
1、地方自治法に規定する住民訴訟は、住民自治の原則に根底を置き、住民に対し
て自治参与の範囲を拡張する措置の一環として制度化されたものであるが具体的な
適用の場は、地方自治法第二四二条の二に規定するように地方公共団体の機関又は
職員による違法な(1)公金の支出、(2)財産の取得・管理・処分、(3)契約
の締結履行、(4)その他の債務の負担、(5)公金の賦課徴収、財産管理の懈怠
につき住民から当該行為の差止め、行政処分である場合にはその取消、又は無効確
認更に損害賠償、不当利得返還を求めうることになつている。
すなわち住民が等しく地方公共団体から福祉の増進及び地域環境の整備等十分な役
務の提供をうける権利を保障するため住民が負担した公租公課が適正に使用され、
地方公共団体の機関や職員の財政上の腐敗行為等の違法な行為の結果、地方公共団
体の事務遂行が阻害されないように住民に訴権を行使させることにより右腐敗行為
等の防止・是正の機会を与えようとしたもので、地方公共団体の財政面の適正を確
保し、以て住民の利益を守ろうとするものであつて、住民が地方公共団体の行政事
務全般にわたり政治的、行政的意思決定に直接参与することにより不正の防止・匡
正の機会を与えようとした地方自治法第五章以下に規定する直接請求の制度とはそ
の適用の場を異にするものである。
従つて、住民訴訟の対象となる地方公共団体の長、又は職員の行為は地方公共団体
に財産上積極・消極の損害を与え、ひいては住民の利益の侵害につながる財務的事
項に限るものであつて、それ以上に行政一般の非違にまでわたるものではない。
このことは、住民訴訟の制度が沿革的には納税者の利益を擁護するため納税者に発
言権を与え、裁判で争う機会を確保しようとした納税者訴訟の制度に起源するもの
と解されていることに徴しても首肯できる。
しかして、住民訴訟の対象となる財務的事項であるか否かの判断にあたつては、地
方公共団体に住民の福祉をはかるべき立場から財政を適正に処理すべきことが強く
望まれ、地方公共団体の行為が直接及び間接に住民個々の利益、不利益につながる
現在の行政の現状に鑑み、地方自治法二四二条、同二四二条の二の規定の文言の解
釈にあたつては、当該行為が実質的に地方公共団体の財政処理の適正を損い、地方
公共団体に財産上積極・消極の損害をもたらし、若しくはそのおそれがあるかにつ
いて検討を加えなければならない。
2、ところで、原告らの本件訴の趣旨は要するに被告が前記土地区画整理事業の施
行者として一定の基準に基いてした換地処分により道路公園等の公共用地を造出
し、広大な市有地を取得する結果となつた事実を以て憲法第二九条および土地区画
整理法の規定に違反し、違法に私有宅地を公有地として取得した処分であるから、
その取消を求めるというにある。
土地区画整理事業は都市計画区域内の土地について公施設の整備改善および宅地利
用の増進をはかり宅地所有者及び利用者の利益に資する為一定の範囲の土地を区画
整理施行地区とし、右地区内の宅地はこれを一団とみなし、そのうち必要な公共用
地を確保し、残地の区画形質を整然としたうえ整理前の宅地に存した権利関係を喪
失させるとともに、整理後の宅地につき権利を与え(換地処分)両者をその位置、
地積、土質、水利、利用状況、環境等において照応させまた右事業に関する経費が
特別会計として地方自治体の費用により支弁されることになつているから右費用に
充当するため土地区画整理法第九六条に基き一定の土地を換地として定めないで、
保留地を設定する等地方公共団体の行なうべき事務(地方自治法第二条第二項第一
二号)に該当する。
3、そこで前示のごとく地方自治法第二四二条の二、第二四二条の規定によれば住
民訴訟を提起しうる対象として「違法な財産取得」を掲げており原告らは被告が広
島市における右土地区画整理事業の施行の結果広大な市有地を取得したことが右に
該当するというのであるが広島市が原告ら主張のごとき市有地を取得するに至つた
のは土地区画整理法に基く事業遂行に伴う換地処分の結果であつて右換地処分のほ
かに広島市が市有地を取得する契機となる別個独立の財務的行為は介在せず右換地
処分はこれを財務的事項というには適しない。
(しかも前示のごとき住民訴訟が設けられた趣旨に照らすと地方公共団体の機関又
は職員のなした「違法な財産所得」の結果地方公共団体に積極消極の損害を及ぼす
場合に救済を認めるべきものと解せられるが、被告のなした換地処分の結果広島市
が道路、公園等の用に供せられる市有地を取得し又広島市の土地区画整理事業施行
の費用を支弁するための保留地設定が広島市に損害を与えひいては広島市民の利益
に反したか否かについては一般的にはこれを消極に解するのが相当であろう。)
そうすると原告ら広島市民が住民訴訟として本訴請求の内容とした各行為-結局被
告のなした換地処分に帰する-の取消を求めるのは地方自治法の予定するいわゆる
住民訴訟の定型に該当せず結局本件訴は不適法といわざるをえない。
三、原告らとしては被告のなした換地処分の結果個々的に自己の権利ないし利益が
侵害されたことを主張するかのごとくであるが、かかる場合においては本訴のごと
き住民訴訟によるのでなく抗告訴訟による救済を求むべきでありまず何よりも土地
区画整理事業遂行の過程において施行規程、事業計画、換地計画の決定等の諸手続
に自らの意思を反映し適正な土地区画整理事業が遂行されるよう努力すべきもので
あつたということができる。
四、そこで原告らの本件訴は不適法なものとして却下することとし訴訟費用の負担
につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決す
る。
(裁判官 田辺博介 山下和明 野田武明)

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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職種 事務職
時給 当社規定による
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