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裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、補助参加によって生じたものを含め、すべて原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告を再審査申立人、被告補助参加人両名を再審査被申立人とする中
労委昭和六一年(不再)第一八号、第三七号事件について、昭和六三年三月二日付
けをもってした命令を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文第一項と同旨。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 救済命令の存在
(一) 被告補助参加人総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部(以下
「補助参加人支部」という。)及び被告補助参加人総評全国一般労働組合神奈川地
方連合川崎地域支部高津中央病院分会(以下「補助参加人分会」という。)は、神
奈川県地方労働委員会(以下「神労委」という。)に対し、原告を被申立人とし
て、①原告が、補助参加人分会の昭和六〇年度夏季一時金要求に対して、パートタ
イマー・臨時職員については、同分会との協議によらず原告が別途決定するところ
に従うことを支給の条件とし、同分会が同条件を承諾しない限り、同分会の組合員
に対して夏季一時金を支給しないとの態度を採り、その一方で、非組合員に対して
のみ夏季一時金を支給するなどしたこと、②原告が、補助参加人らの適法性や交渉
当事者適格が不明であるなどして、補助参加人らとの団体交渉に応じなかったこと
が、それぞれ不当労働行為に該当するとして、救済を申し立てた(神労委昭和六〇
年(不)第一五号事件)ところ、神労委は、昭和六一年二月二七日付けをもって、
別紙一記載のとおり、補助参加人らの申立を認容する初審命令(以下「初審命令
甲」という。)を発した。
(二) 補助参加人支部及び同分会は、原告を被申立人として、神労委に対し、①
原告が、昭和六〇年度冬季一時金交渉に当たり、補助参加人らの団体交渉員を三名
以内としなければ団体交渉に応じられないとして、補助参加人らとの団体交渉に応
じなかったこと、②原告が、補助参加人分会の昭和六〇年度冬季一時金要求に対し
て、パートタイマー・臨時職員については原告が別途決定するとして、補助参加人
分会の要求のうち、パートタイマー・臨時職員に係る部分について回答しなかった
こと、③原告が、昭和六〇年度冬季一時金について、補助参加人分会との団体交渉
に応じず、同分会をして同一時金について妥結し得ない状況に追い込みながら、そ
の一方で、非組合員に対してのみ冬季一時金を支給したことが、それぞれ不当労働
行為に該当するとして、救済を申し立てた(神労委昭和六〇年(不)第三〇号事
件)ところ、神労委は、昭和六一年五月一九日付けをもって、別紙二記載のとお
り、補助参加人らの申立を認容する初審命令(以下「初審命令乙」という。)を発
した。
(三) 原告は、右(一)、(二)の神労委の各初審命令を不服として、被告に対
して、いずれも再審査を申し立てたところ(中労委昭和六一年(不再)第一八号、
第三七号事件)、被告は、これらを併合して審理したうえ、昭和六三年三月二日付
けをもって、別紙三記載のとおり、原告の各再審査申立を棄却する命令(以下「本
件命令」という。)を発し、その命令書は、昭和六三年五月二八日、原告に交付さ
れた。
2 本件命令の違法
本件命令には、事実認定及び法律の解釈・適用を誤った違法があり、取り消される
べきである。
3 よって、原告は、本件命令の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 同1の(一)ないし(三)の事実は認める。
2 同2の事実は否認する。
三 被告の主張
 本件命令は、労働組合法二五条、二七条及び労働委員会規則五五条に基づき適法
に発せられた行政処分であって、処分の理由は命令書記載のとおりであり、その認
定事実及び判断に誤りはない。
四 本件命令の認定事実に対する原告の認否
(以下、本件命令の認定事実とは、本件命令が「理由」において引用した初審命令
甲及び同乙の各「第1 認定した事実」をいう。)
1 初審命令甲の「第1 認定した事実」について
(一) 「1 当事者」の認定事実について
(1) 同(1)のうち、「肩書地において総合高津中央病院、中央調剤薬局及び
高津看護専門学校を経営しており」とある部分は否認し、その余は認める。
(2) 同(2)、(3)の事実は否認する。
(二) 「2 本件発生前の労使紛争」について
 原告は、補助参加人支部及び同分会が、いずれも川崎地域労働組合及び同高津中
央病院支部が名称を変更したものであるとの点について争うものであるが、以下、
本件紛争が原告と川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部との間のものであると
の前提で認否する。
(1) 同(1)の事実のうち、「団体交渉によって処理していくこと」とある部
分は否認し、その余は認める。
(2) 同(2)ないし(4)の事実は認める。
(3) 同(5)の事実のうち、「社団が、パートタイム労働者であるナースコン
パニオンの昭和六〇年の労働契約更新期に、支部との事前協議及び同意約款を無視
して、従前のほとんど自動的に契約更新されてきた慣行を変更し、契約の満了から
次の契約の始期までに一週間の間隔を設けるとともに年次有給休暇をなくして特別
有給休暇を六日間与えることを提案し、これに同意しなかった分会の組合員である
AとBを雇止めしたので」とある部分は否認し、その余は認める。
(三) 「3 川崎地域労働組合の上部団体加盟と社団の対応」について
(1) 同(1)のアの事実のうち、「第四回定期大会において本部に一括加盟す
ることを決め、その後全組合員投票を行って昭和五九年一二月七日、これを確認す
るとともに規約を改正した。」とある部分は知らず、その余は認める。同(1)の
イの事実のうち、「その後関係者間で話合いが行われた席上、C委員長から責任を
とり辞任したいとの意向が表明されたが、高津中央病院支部の次期大会までこれを
預り扱いとし、同支部の執行委員であったDを執行委員長代行と決めた。」とある
部分、及び、「高津中央病院支部は、昭和六〇年一月二八日、大会を開き、規約を
改正して名称を改正するとともに、執行委員長D、副執行委員長E、書記長Fらを
役員として選出した。」とある部分は、いずれも知らず、その余の事実は認める。
(2) 同(2)のア、イの事実は認める。同(2)のウの事実のうち、「雇止め
にするという事件」とある部分、及び、「団体交渉に応ぜず」とある部分は、いず
れも否認し、その余は認める。同(2)のエの事実のうち、「団体交渉に応じない
こと」とある部分は否認し、その余は認める。同(2)のオの事実のうち、「一切
応じていない」とある部分は否認し、その余は認める。
(四) 「4 昭和六〇年夏季一時金紛争の経緯」について
(1) 同(1)のア、イ、ウの事実は認める。同(1)のエの事実のうち、「社
団は、分会の団体交渉申入れには応ぜず」とある部分は否認し、その余は認める。
同(1)のオ、カの事実は認める。
(2) 同(2)のアの事実のうち、「これを無視して」とある部分は否認し、
「団体交渉が開かれず、また、回答内容が不十分であることから」とある部分は知
らず、その余は認める。同(2)のイの事実は認める。同(2)のウの事実のう
ち、「社団は応じなかった。」とある部分は否認し、その余は認める。
(五) 「5 本件申立て後の事情」について
同事実は認める。
2 初審命令乙の「第1 認定した事実」について
(一) 「1 当事者」について
(1) 同(1)の事実のうち、「肩書地において総合高津中央病院、中央調剤薬
局及び高津看護専門学校を経営」とある部分は否認し、その余は認める。
(2) 同(2)、(3)の事実は否認する。
(二) 「2 本件発生前の労使紛争」について
 原告は、補助参加人支部及び同分会が、いずれも川崎地域労働組合及び同高津中
央病院支部が名称を変更したものであるとの点について争うものであるが、以下、
本件紛争が原告と川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部との間のものであると
の前提で認否する。
(1) 同(1)の事実のうち、「団体交渉によって処理していくこと」とある部
分は否認し、その余は認める。
(2) 同(2)ないし(4)の事実は認める。
(3) 同(5)の事実のうち、「社団が、パートタイム労働者であるナースコン
パニオンの昭和六〇年の労働契約更新期に慣行を変えて雇用条件の変更を提案し、
これに同意しなかった分会の組合員を雇止めしたこと」とある部分は否認し、その
余は認める。
(4) 同(6)の事実のうち、「社団が、昭和六〇年夏季一時金に関し、団交を
拒否し」とある部分、及び、「パートタイマーの一時金については社団が別途決定
するとして組合要求に回答しないまま」とある部分は、いずれも否認し、その余は
認める。
(三) 「3 昭和六〇年冬季一時金紛争の経緯」について
(1) 同(1)のアの事実は認める。同(1)のイの事実のうち、「団体交渉に
応ぜず」とある部分、「団体交渉を拒否する態度を示した。」とある部分、及び、
「支部及び分会が本部に加盟以後、社団が団体交渉に応じないので、昭和六〇年三
月二日、本部、支部及び分会が三者連名で団体交渉を申し入れた」とある部分は否
認し、その余は認める。同(1)のウの事実のうち、「団体交渉が行われていた昭
和五九年夏頃までは交渉人員数の制限を受けたことも無いし、また、社団から七名
以内あるいは九名以内と言われたときも、その通りにしなければ団体交渉に応じな
いという例もなかったので」とある部分、及び、「その回答書においては、社団は
分会組合員の中にパートタイマーがいることを当然知り得る状況にあったにもかか
わらず具体的な回答を行っていなかった」とある部分は、いずれも否認し、「組合
側としては、これまで社団は一つ譲歩するとまた次の難題を持ち出す傾向があると
みていたため、その点を危惧して拒否した」とある部分は知らず、その余は認め
る。同(1)のエの事実のうち、「社団が交渉員数を一方的に三名以内に制限し、
組合側がこれに同意しないことを理由に退席した」とある部分は否認し、その余は
認める。同(1)のオの事実のうち、「社団が労使間で自主解決するとの態度を表
明したのであっせんは行われなかった」とある部分は否認し、その余は認める。
(2) 同(2)の事実のうち、「分会組合員に対しては何らの措置もとらず、一
時金を支給していない。」とある部分は否認し、その余は認める。
五 原告の主張
1 補助参加人らの組織事情や交渉当事者適格に疑義があるとして、補助参加人ら
との団体交渉に応じなかった原告の措置の正当性について
(一) 決別宣言や執行委員長代行の選任という事態の発生
 従前、原告には、原告の従業員が組織する唯一の労働組合として、「川崎地域労
働組合高津中央病院支部(執行委員長C)」が存在し、原告は、同支部と団体交渉
を重ねてきた。
 ところが、昭和五九年夏から秋にかけて、川崎地域労働組合では、総評全国一般
労働組合神奈川地方連合加盟を巡る内部対立が生じ、同年一一月一四日、高津中央
病院支部執行委員C、副執行委員長G、書記長Hの支部三役を含む組合員有志によ
って、加盟賛成派に対して決別を宣言する声明文が出され、また、原告宛の同月一
九日付け昭和五九年度冬季一時金要求書及び団体交渉申入書は、いずれも「高津中
央病院支部執行委員長代行D」の名義によるものであった
 そこで、原告は、同月二八日、支部執行委員長C宛に、D名義の文書を出すに至
った経緯について照会を行うと共に、昭和五九年度冬季一時金の支給についての申
入れを行ったところ、「川崎地域労働組合中央執行委員長I、支部執行委員長代行
D」の連名の同月二九日付け文書で、同月一四日にCより中央執行委員長に辞任届
が出されたため、中央執行委員会及び支部執行委員会は辞任の意向を受け、D執行
委員を執行委員長代行に決定した旨の回答が寄せられ、一方、C自身からは、支部
執行委員長C名義の同年一二月一日付け文書で、一身上の都合により支部執行委員
長の職務を遂行することが困難となったので、組織の決定を受けD執行委員を執行
委員長代行として、支部を運営している旨の回答が寄せられた。ところが、同日付
け昭和五九年度冬季一時金協定書は、何故か支部執行委員長C名で調印されていた
のである。
 このように、昭和五九年度冬季一時金という重要な協定締結に至る交渉過程にお
いて、「執行委員長C」「執行委員長代行D」「執行委員長C・執行委員長代行D
の連名」という作成名義の異なる複数の文書を受領した原告としては、提出された
支部組合規約に「委員長事故あるときは、副委員長が代行する」と定められている
こととの関係上、副委員長でないDは委員長代行になり得ないのではないかという
疑義が存したこともあって、団体交渉の相手方の代表権限や当事者適格性に疑義を
抱き、これを明確にする必要があると考えた。なぜなら、仮に、交渉相手に正当な
代権権限が欠如していることになれば、労働協約の締結のために費やされた双方の
努力は水泡に帰し、当該労働組合の組合員の労働条件の帰趨にも重大かつ著しい混
乱が生じるからである。
 そこで、原告は、支部執行委員長C宛に、同年一二月一五日付け文書をもって、
貴殿は支部執行委員長をいつ辞任したのかなど五項目の照会を行ったが、C自身か
らはなんらの回答もなく、その後、「総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地
域支部高津中央病院分会執行委員長C、執行委員長代行D」の連名の文書をもっ
て、Cは執行委員長を辞任したものではない旨の回答があった。しかしながら、前
述のとおり、同年一一月二九日付け文書で、Cは辞任届を提出し、執行委員長の職
務を遂行できないので辞任を決定した旨原告に通告しながら、その一方で、同年一
二月一日には、職務を遂行できないと通告されたはずのC名義で労働協約を締結
し、また、一転して、同月二〇日付け文書で、Cは辞任したものではない旨原告に
通知するという不可解極まる組合の対応に接した原告としては、交渉の相手につい
ての理解に混乱と疑問を一層深めざるを得なかった。
(二) 名称変更と称される問題の発生
 昭和五九年一二月一一日、右(一)の事態と併行して、原告に対し、「川崎地域
労働組合中央執行委員長I、川崎地域労働組合高津中央病院支部執行委員長C、同
執行委員長代行D」の連名の文書をもって、組織名称を変更する旨の通知があっ
た。同文書によれば、川崎地域労働組合は、同年一一月一〇日の第四回定期大会に
おいて、上部組織への加盟を決定し、全組合員の投票の後、一二月七日付けをもっ
て正式確認したので、「川崎地域労働組合」は「総評全国一般労働組合神奈川地方
連合川崎地域支部」に、「川崎地域労働組合高津中央病院支部」は「総評全国一般
労働組合神奈川地方連合川崎地域支部高津中央病院分会」に、それぞれ名称を変更
したというものであった。
 しかしながら、原告としては、右通知には理解し難いところがあった。すなわ
ち、総評全国一般労働組合は、周知のとおり、地方本部、支部、分会を下部組織に
持つ法人格を有する単位労働組合であり、他方、川崎地域労働組合も、同様に支部
を下部組織に持つ法人格を有する単位労働組合であるところ、二つの単位労働組合
が連合団体(いわゆる上部団体)を組織し、その連合団体に加盟すること、或い
は、単位組合が他の単位組合と合同することはあり得ても、一方が他方に加盟する
ことはあり得ないのではないか、また、前述のように、川崎地域労働組合では、昭
和五九年秋、総評全国一般労働組合神奈川地方連合への加盟を巡って内紛が生じ、
第四回定期大会後の同年一一月一四日、同組合高津中央病院支部の執行委員長、副
執行委員長、書記長、執行委員らを含む組合員有志が、総評全国一般労働組合神奈
川地方連合加盟賛成派に対し決別宣言を出しており、このような実態からすると、
総評全国一般労働組合加盟賛成派の組合員一〇名が、総評全国一般労働組合に個々
に加盟して、その下部組織としての「川崎地域支部」及び「川崎地域支部高津中央
病院分会」を結成した、つまり、補助参加人分会は、従前の「川崎地域労働組合高
津中央病院支部」とは別個の組合として、一〇名の組合員で新たに発足したとみる
べきではないのか、いわゆる組合分裂の法理と本件の実態との関係をどうみるべき
か、などの疑問が生じたからである。
(三) その後の経緯
 その後、原告は、「高津中央病院分会執行委員長D」名義の昭和六〇年二月一八
日付け文書、及び、「総評全国一般労働組合神奈川地方連合執行委員長J、同川崎
地域支部執行委員長I、同高津中央病院分会執行委員長D」の連名の同月二三日付
け文書により、二回にわたり、団体交渉開催の申入れを受けた。
 これに対し、原告は、D宛に、同月二七日付けの文書をもって、今回、高津中央
病院分会名による団体交渉申入書が提出されたが、原告は、従来どおり「川崎地域
労働組合高津中央病院支部」との間で、労働問題を解決していく所存なので、新た
に組合を結成したのであれば、調整のうえ、Cを通じて回答するよう求めたとこ
ろ、Cからの回答はなく、神労委作成の組合資格決定書を添付した、「総評全国一
般労働組合神奈川地方連合執行委員長J、同川崎地域支部執行委員長I、同高津中
央病院分会執行委員長D」の連名の同年三月二日付け文書により、再度、団体交渉
開催の申入れがあったことから、原告は、補助参加人分会宛に、同月四日付け文書
をもって、団体交渉開催に当たっての照会を行った。
 しかるに、この照会について、補助参加人分会は、全くあいまいな態度に終始
し、既に回答済みの照会事項もある、或いは、質問自体不明で理解できない旨の回
答をしたに留まり、補助参加人支部執行委員長の権限と責任の範囲、交渉主体、補
助参加人分会の交渉当事者適格、並びに、同分会の協定当事者適格、分会が適法に
結成されたのか否かについては、現在に至るも明らかにされていない。
(四) 右(一)ないし(三)のような事情に照らせば、原告が補助参加人らの組
織事情や交渉当事者適格に疑義を抱くのはもとより当然であって、補助参加人分会
に対し、昭和六〇年三月四日付け文書をもって、団体交渉に先立ってこの点を明確
にするよう求めた原告の措置は、極めて正当というべきである。
 ところが、補助参加人らは、これを明確にすることが一挙手一投足の事柄に属す
るにもかかわらず、これを全く怠ったまま、いたずらに団体交渉の応諾を求めてい
るのであって、このような補助参加人らの態度は信義則に反するというべきであ
る。
 しかるに、被告は、不当にも、右のような補助参加人らの不信義な態度を看過
し、補助参加人らの組織事情や交渉当事者適格に疑義があるとして補助参加人らと
の団体交渉に応じなかった原告の措置を不当労働行為に該当すると判断しているの
であって、これが違法であることは明らかである。
2 昭和六〇年度夏季及び冬季一時金要求に対して、パートタイマー・臨時職員に
ついては原告において別途決定するとした原告の回答の正当性について
 原告のパートタイマー就業規則四六条には、原告の事業成績その他により、夏季
(六月)及び冬季(一二月)に一時金を支給することがある旨規定されているだけ
であり、就業規則上からは、パートタイマー各人が当然に具体的な一時金請求権を
有するものではないことが明らかである。こうした具体的請求権のない一時金のよ
うな問題について、仮に原告が一時金は全く支給しないと回答したとしても、それ
自体一つの立派な回答であって、そのこと自体が不当労働行為を構成する謂れはな
い。あとは、組合が争議行為等によって、原告のそのような回答を撤回させ、有額
回答を引き出し得るかという不当労働行為とは無縁の現実の力関係が残るのみであ
る。
 本件の回答は、全く支給しないというゼロ回答を一歩踏み出し(支給があること
自体は、団体交渉で原告交渉員が言明しているし、支給実績の事実は補助参加人ら
が直ちに了知し得たはずである。)、原告の裁量において支給幅を決めようとする
回答内容であって、それ自体、明確な内容を持った一つの立派な回答にほかならな
いのである。補助参加人らがこれに不満であったとしても、確定的な債権を取得し
得るような回答を原告から引き出し得るか否かは、前述のとおり、現実の力関係の
問題であって、不当労働行為制度が介入する余地はない。
 仮に、組合併存のもとで、他方組合に対しては、別途決定の内容を個々人別に開
示したのに、補助参加人分会には、全く開示していないというような特殊な事情で
もあれば、使用者の中立保持義務の観点から不当労働行為が成立する余地もあろう
が、本件では併存組合が存在するというような特段の事情は全くないのである。
 しかるに、被告は、不当にも、補助参加人分会の一時金要求に対して、パートタ
イマー・臨時職員については原告において別途決定すると回答した原告の措置が不
当労働行為に該当すると判断しているのであって、これが違法であることは明らか
である。
3 昭和六〇年度冬季一時金に関する団体交渉を巡る原告の対応の正当性について
 補助参加人らは、前記昭和六〇年三月四日付け文書による原告の照会に回答しな
いまま、同年一一月一日付け昭和六〇年度冬季一時金要求書を原告に提出した。原
告としては、前記の名称変更と称する件についての疑義は解消されていないもの
の、そのために冬季一時金等の解決が遅れることの影響を慮り、同月二一日付け
で、団体交渉開催の通知書を補助参加人分会に交付し、同通知書において、交渉員
を双方三名以内とすることを提案した。その後、原告と補助参加人分会との間で、
交渉員の人数について書面による折衝を行っていたところ、補助参加人らが同月二
八日付けで神労委に団体交渉促進の斡旋を申し立て、神労委から、労使双方に、今
回に限り冬季一時金を議題として交渉員を三名とするとの斡旋案が提示された。原
告はこれを了承したが、補助参加人らは、交渉員を三名とすることについては了承
したものの、団体交渉に神労委が立ち会うことを条件としたため、原告は、団体交
渉は自主交渉が望ましいとの極めて当然の考えから、神労委の立ち会いについては
辞退したいとの見解を表明したところ、補助参加人らがこの斡旋案を拒否し、結
局、斡旋は不調に終わったものである。
 ところで、昭和六一年一月一一日、同年四月三〇日、同年一一月及び一二月に各
一回の合計四回、労使双方の合意により交渉員四名で原告と補助参加人らとの団体
交渉が開催され、労働協約も締結されていることに照して、実際上、交渉員四名で
なんらの支障もないというべきである。
 しかるに、被告は、不当にも、右のような事情を無視して原告を一方的に非難
し、不当労働行為の成立を認めているのであって、これが違法であることは明らか
である。
4 救済の必要性の消滅などについて
(一) 本件命令が維持した初審命令甲の主文第二項は、原告に対し、補助参加人
らが組織事情、交渉当事者適格等について釈明しないことを理由に、補助参加人ら
との団体交渉を拒否してはならないことを命じている。
 しかしながら、原告は、本件命令が全面的に引用する初審命令乙において認定さ
れているとおり、昭和六〇年度冬季一時金問題以降、諸般の事情を考慮し、右問題
を棚上げにして、現実的な対応として、団体交渉に応じることを表明し、現に団体
交渉に応じ、その姿勢は今日に至るも同様なのである。
 団体交渉応諾を求める救済申立は、その後に使用者が団体交渉に応じた以上、原
則として救済の必要性が消滅することになるから、被告としては、本件命令発令時
において既に生じていた右のような事情を斟酌し、救済の必要性が消滅したという
観点から、初審命令甲の主文第二項を取消・修正すべきであったにもかかわらず、
それを怠っているのであって、このような被告の措置が違法であることは明らかで
ある。
(二) 本件命令が維持した初審命令乙の主文第三項は、原告に対して、昭和六〇
年度冬季一時金相当額等を補助参加人分会の組合員に支払うことを命じている。
 しかしながら、補助参加人分会の組合員らが、昭和六一年四月二一日、横浜地方
裁判所川崎支部において、原告に対し、昭和六〇年度冬季一時金相当額を同組合員
らに仮払いすることを命じる仮処分命令を得たことから、原告は、この仮処分命令
に従い、直ちに右金員を組合員らに仮払いしているのである。
 一時金相当額の支払いを求める救済申立は、その後に使用者が一時金相当額を支
払った以上、原則として救済の必要性が消滅することになるから、被告としては、
本件命令発令時において既に生じていた右のような事情を斟酌し、救済の必要性が
消滅したという観点から、初審命令乙の主文第三項を、少なくとも初審命令甲の主
文第一項に準じて取消・修正すべきであったにもかかわらず、それを怠っているの
であって、このような被告の措置が違法であることは明らかである。
(三) 本件命令が維持した初審命令乙の主文第二項は、原告に対し、パートタイ
マー・臨時職員の昭和六〇年度冬季一時金に関し、補助参加人らと誠実に協議する
ことを命じている。
 しかしながら、昭和六〇年度冬季一時金については、右(二)のとおり、初審命
令乙の主文第三項によって、同一時金相当額等の支払いを命じる救済措置が講じら
れているのである。ある事項について、現実の救済を命じる満足的な救済措置が講
じられている以上、当該事項について更に団体交渉を命じることは、屋上屋を重ね
るに等しく、救済の必要性を欠くことは明白であるにもかかわらず、被告は、この
点を看過して、救済の必要性の欠如する団体交渉を命じているのであって、このよ
うな被告の措置が違法であることは明らかである。
5 ポスト・ノーティス命令の違憲性
 本件命令が維持した初審命令甲及び同乙の各主文第四項のポスト・ノーティス命
令は、原告に対し、「陳謝文」と題する文書の掲示を命じ、しかも、その文中に
「陳謝する。」「誓約します。」との文言を記載することも命じている。
 しかしながら、原告に対し、その意に反する右のような陳謝や誓約の意思表示
を、しかも過料・刑罰の威嚇をもって(労働組合法二八条)強制することは、憲法
一九条が保障する思想・良心の自由を侵害するものである。すなわち、憲法一九条
が保障する思想・良心の自由は、単に事物に関する是非弁別の判断に干渉されない
という内心的自由のみならず、かかる是非弁別の判断に係る事項を外部に表現しな
い自由、いわゆる沈黙の自由を包含するからである。そして、沈黙の自由の保障は
絶対的であるから、本件命令が原告の沈黙の自由を侵害して、その意に反する「陳
謝」「誓約」の意思の表明を強制することは、憲法一九条に違反し、違憲・違法で
あることは明らかである。また、その報復的、懲罰的な性格は、正常な労使関係秩
序の回復という不当労働行為救済制度の趣旨を逸脱し、労働委員会に委ねられた裁
量の範囲を超えるものであって、この意味においても違法であることは明らかであ
る。なお、最高裁昭和三一年七月四日大法廷判決(民集一〇巻七号七八五頁)は、
裁判所が民法七二三条所定の処分として名誉毀損を行った者に対して謝罪広告を命
じることは、その者の内心の自由を侵害するものではなく、憲法一九条に違反しな
い旨判示しているが、これは代替執行が予定されている民事判決についての判断で
あり、代替執行などおよそ予定されず、過料・刑罰の威嚇をもって陳謝文の交付を
強制される本件のような救済命令の場合とは事案を異にするというべきである。
 また、被告は、従来、右のような違憲、違法の問題が起きることに配慮し、各地
方労働委員会が命じたポスト・ノーティス命令について再審査が申し立てられた場
合には、本件のようないわゆる陳謝誓約型の文言を、陳謝や誓約などの文言を含ま
ないいわゆる労働委員会認定型に変更してきたにもかかわらず、本件に限りそのよ
うな措置を採っていない。このような被告の措置は、いわゆる平等原則に反するも
のであって、この意味においても違法であることが明らかである。
六 原告の主張に対する被告の反論
1 救済の必要性の存在について
(一) 原告は、昭和六〇年度冬季一時金問題以降、諸般の事情を考慮し、補助参
加人らが組織事情、交渉当事者適格等について釈明しないことを棚上げにして、現
実的な対応として、補助参加人らとの団体交渉に応じることを表明し、現に団体交
渉に応じ、その姿勢は今日に至るも同様であるから、本件命令が維持した初審命令
甲の主文第二項に係る救済の必要性が消滅した旨主張する。
 しかしながら、原告は、従前から団体交渉を拒否する理由としてきた補助参加人
らの組織事情、交渉当事者適格等に疑義があるとの主張を撤回したものではなく、
今後も、この主張を維持するとしているばかりか、本件再審査手続中に、今度は、
交渉員の人数制限という新たな理由で団体交渉を拒否しているのであるから、原告
が補助参加人らの組織事情等を理由として団体交渉を拒否する可能性は依然として
残っており、本件命令が維持した初審命令甲の主文第二項に係る救済の必要性は失
われていないというべきであって、原告の右主張は失当である。
(二) 原告は、補助参加人分会の組合員らが、昭和六一年四月二一日、横浜地方
裁判所川崎支部において、原告に対し、昭和六〇年度冬季一時金相当額を同組合員
らに仮払いすることを命じる仮処分命令を得、直ちに右金員の仮払いを受けたこと
から、本件命令が維持した初審命令乙の主文第三項に係る救済の必要性が消滅した
旨主張する。
 しかしながら、仮処分命令による支払いはあくまで仮の支払いに過ぎないのに対
して、救済命令は確定的に支払いを命じるものであるから、仮処分命令の履行の有
無は救済命令の主文になんら影響を与えるものではない。仮に、救済措置として、
仮処分命令によって仮払いされた部分を除いて支払いを命じるとすると、後に仮処
分命令が取り消された場合には、その部分が救済の範囲から欠落するという不都合
が生じてしまうのである。したがって、救済命令は仮処分命令によって仮に履行さ
れた部分をもその内容に含まなければならないのであって(もっとも、救済命令の
履行に当たって、仮処分命令に従って支払われたものを救済命令による支払いの一
部に充当することは差し支えない。)、本件命令が維持した初審命令乙の主文第三
項に係る救済の必要性は、仮処分命令に基づく仮払いがされたことによって、失わ
れていないというべく、原告の右主張は失当である。
(三) 原告は、昭和六〇年度冬季一時金については、初審命令乙の主文第三項に
よって、原告に対し、同一時金相当額等の支払いを命じる救済措置が講じられてい
るから、当該事項について更に団体交渉を命じることは、屋上屋を重ねるに等し
く、本件命令が維持した初審命令乙の主文第二項は救済の必要性を欠く旨主張す
る。
 しかしながら、被告は、本件命令が維持した初審命令乙の主文第三項で、原告に
対し、昭和六〇年度冬季一時金相当額等を補助参加人分会の組合員に支払うことを
命じているところ、組合員のうちパートタイマー・臨時職員については、同冬季一
時金の支払基準が明確でないことから、右支払いに先立ちこれを明確にするため、
本件命令が維持した初審命令乙の主文第二項で、原告に対し、パートタイマー・臨
時職員の昭和六〇年度冬季一時金に関して補助参加人らと誠実に協議することを命
じているのであって、両者はその意味内容を異にするから、右主文第二項に係る救
済の必要性にはいささかも欠ける点はないというべきであって、原告の右主張は失
当である。
2 ポスト・ノーティス命令の合憲性について
 原告は、本件命令が維持した初審命令甲及び同乙の各主文第四項のポスト・ノー
ティス命令は、原告に対し、「陳謝文」と題する文書の掲示を命じ、しかも、その
文中に「陳謝する。」「誓約します。」との文言を記載することをも命じている
が、これは、原告に対し、その意に反する陳謝や誓約の意思表示を、過料・刑罰の
威嚇をもって強制するものであって、憲法一九条が保障する思想・良心の自由を侵
害する旨主張する。
 しかしながら、ポスト・ノーティス命令は、使用者の行為が労働委員会によって
不当労働行為と認定された事実を関係者に周知徹底させ、将来、同種行為が再発す
ることを抑制しようとする趣旨のものであって、「陳謝」「誓約」の文言が用いら
れていても、使用者に対して倫理ないし内心に関する意思表示を要求することを本
旨とするものではないから、憲法一九条に違反するものではなく、原告の右主張は
失当である。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1の(一)ないし(三)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 当事者について
 成立に争いがない乙第一三二号証(丙第一号証と同一)、弁論の全趣旨により成
立が認められる乙第二八号証及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認めら
れ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
1 原告は、医療法人であり、本件当時、内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻科な
どの約一〇の診療科目を備える総合高津中央病院のほか、中央調剤薬局及び高津看
護専門学校を経営していた。
 なお、中央調剤薬局は、昭和六三年二月一日、原告から分離独立し、有限会社中
央調剤薬局となった。
2 補助参加人支部は、昭和五五年一二月に結成された川崎市及びその周辺におけ
るいわゆる地域合同労働組合であって、昭和六〇年一二月当時、その組合員数は約
三八名であった。
 なお、補助参加人支部は、当初、川崎地域労働組合と称していたが、昭和五九年
一一月一〇日に開催された第四回定期大会で、総評全国一般労働組合神奈川地方連
合(以下「神奈川地連」という。)に加盟することを決定し、その後、規約改正の
ための所定の手続を履践したうえ、同年一二月七日、改正手続を完了して現名称に
変更すると共に、神奈川地連に正式に加盟した。
3 補助参加人分会は、昭和五六年一月二五日に病院及び中央調剤薬局の従業員に
より結成された労働組合であって、補助参加人支部の下部組織たる分会を構成し、
昭和六〇年一二月当時、その組合員数は約八名であった。
 なお、補助参加人分会は、当初、川崎地域労働組合高津中央病院支部と称してい
たが、右2のとおり、補助参加人支部が神奈川地連に加盟して名称を変更したこと
に伴って、現名称を称するようになり、昭和六〇年一月二八日、大会を開催して規
約を改正し、正式に現名称に変更した。
三 補助参加人支部及び同分会の組織事情や交渉当事者適格に疑義があるとして、
補助参加人らとの団体交渉に応じなかった原告の措置について
1 前掲乙第二八号証、いずれも成立に争いがない乙第一三六号証、第一三七号証
の一、二、第一三八、第一四〇ないし第一四二、第一四四ないし第一五六、第一七
五、第一八五号証及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、他にこの
認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 川崎地域労働組合は、前記二の2のとおり、昭和五九年一一月一〇日に開
催された第四回定期大会で、神奈川地連に加盟することを決定したが、同月一四
日、当時、同高津中央病院支部の執行委員長であったC(以下、単に「C」ともい
う。)ら一〇名は、連名で、川崎地域労働組合の神奈川地連への加盟を推進する同
組合のI中央執行委員長らと決別する旨の声明文を配付するという事件が発生し
た。
 川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部では、この事件を収拾するための協議
が行われ、その結果、Cが声明文配付の責任をとって同支部執行委員長の辞任届を
川崎地域労働組合のI中央執行委員長宛に提出したが、同支部の次期大会まで右辞
任届を預かりとしたうえ、取り敢えずCの職務執行を停止することとし、同月一六
日、同支部のD執行委員を同支部執行委員長代行に選任した。
(二) 昭和五九年一一月一九日、川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部は、
原告に対し、いずれも川崎地域労働組合中央執行委員長I、同高津中央病院支部執
行委員長代行Dの連名の文書(二通)をもって、同年度冬季一時金要求をすると共
に、同月二九日に冬季一時金に関する団体交渉を開催するよう申し入れた。
(三) 昭和五九年一一月二八日、原告は、川崎地域労働組合高津中央病院支部委
員長C宛に、同日付け文書をもって、①従前、原告は、高津中央病院支部との間
で、執行委員長C名による文書を交換してきた、②ところが、原告は、今回、突然
に執行委員長代行D名による文書に接し、驚いている、③そこで、今回、執行委員
長代行D名による文書が発せられた経緯とこの文書の取扱いを、明確にされたい旨
照会した。
(四) これに対して、川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部は、昭和五九年
一一月二九日、川崎地域労働組合中央執行委員長I、同高津中央病院支部執行委員
長代行Dの連名の同日付け文書をもって、①同月一四日、高津中央病院支部執行委
員長Cから川崎地域労働組合中央執行委員長宛に同支部執行委員長の辞任届が提出
された、②同月一六日、川崎地域労働組合及び同高津中央病院支部は、執行委員会
において、Cの右辞意を受け、同支部のD執行委員を同支部の執行委員長代行に選
任した、③これにより、同日以降、高津中央病院支部の代表者はD執行委員長代行
となった、④右(二)の同月一九日付け文書の名義人がD執行委員長代行となって
いるのは、以上の理由による旨原告に回答した。
(五) 原告は、川崎地域労働組合高津中央病院支部委員長C宛に、右(四)の一
一月二九日付け文書を添付した昭和五九年一二月一日付け文書をもって、①前記
(三)の一一月二八日付け文書をもってCに照会したところ、同月二九日付けで別
添文書による回答があったが、この回答について承知しているのか、②右同月二八
日付け文書に対して未だにCの回答がない、至急回答されたい旨、重ねて照会し
た。
 これに対して、Cは、同年一二月一日中に、川崎地域労働組合高津中央病院支部
執行委員長C名義の同日付け文書をもって、①右一一月二九日付け支部提出文書の
とおりである、②Cは、一身上の都合により支部執行委員長の職務を遂行すること
が困難となったので、組織の決定を受け、D支部執行委員が同支部執行委員長代行
として支部の運営を行っている旨原告に回答した。
 なお、同年一二月一日、高津中央病院支部は、執行委員長C名義で、原告と昭和
五九年度冬季一時金協定を締結しているが、これは、協定締結の名義人の件で紛議
が生じ締結が遅延することを慮った同支部が、原告の希望に従い執行委員長C名義
を選択したためである。
(六) 昭和五九年一二月七日、川崎地域労働組合は、前記二の2のとおり、規約
の改正手続を完了して現在の補助参加人支部の名称に変更すると共に、神奈川地連
に正式に加盟した。また、これに伴い、前記二の3のとおり、高津中央病院支部
も、現在の補助参加人分会の名称を称するようになった。
 これを受けて、神奈川地連のK書記長、補助参加人支部のI中央執行委員長、同
分会のD執行委員長代行らが、同月一一日、原告のL事務局長、M総務部長、N職
員課長代理と面会し、①川崎地域労働組合は、昭和五九年一一月一〇日に開催され
た第四回定期大会で、神奈川地連を上部組織とすることを決定し、同年一二月七
日、これを確認した結果、その名称を「川崎地域労働組合」から「総評全国一般労
働組合神奈川地方連合川崎地域支部」に変更したこと、②高津中央病院支部も、補
助参加人支部が名称を変更したことに伴い、その名称を「川崎地域労働組合高津中
央病院支部」から「総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部高津中央病
院分会」に変更したこと、及び、③神奈川地連と補助参加人支部それぞれの三役の
氏名を通告すると共に、その旨記載された川崎地域労働組合中央執行委員長I、同
高津中央病院支部執行委員長C、執行委員長代行Dの連名の同日付け文書を手交し
た。
 なお、その際、原告から、神奈川地連について若干の質問があったものの、補助
参加人支部及び同分会については特に質問はなかった。
(七) 昭和五九年一二月一五日、原告は、川崎地域労働組合高津中央病院支部委
員長C宛に、同日付け文書をもって、①Cは同支部の執行委員長をいつ辞任したの
か、②もしCが同支部の執行委員長を辞任したのならば、規約により執行委員長が
新たに選出されなければならないが、いつ、どこで、誰が、どのような方法、手続
により新執行委員長に選出されたのか、③支部の執行委員長代行という機関は、規
約のどこに定められているのか、④支部の規約によれば、「他の労働団体への加
盟」、「組合の合併又は解散」は大会決議事項とされているが、支部大会は、い
つ、誰が、どのような方法、手続で召集し、いつ、どこで、開催されたのか、その
出席者数、議決数はどうなのか、⑤以上、不明或いは疑義があるので、今後の正常
な労使関係を確立するためにも、明確にされたい旨照会した。
(八) これに対して、補助参加人分会は、昭和五九年一二月二〇日、同分会執行
委員長C、執行委員長代行Dの連名の同日付け文書をもって、①Cは、一身上の都
合で辞任届を提出したが、それが預かり扱いとなっており、現時点では支部の執行
委員長を辞任したものではない、②しかし、支部執行委員会及び中央執行委員会
は、Cが辞意を表明したことから、従前どおり執行委員長の職責を遂行することが
困難と認め、D支部執行委員に執行委員長を代行させており、支部の代表者は従前
どおりCだが、執行委員長の職務はDにおいて代行している、③支部の組合員が所
属する川崎地域労働組合は、昭和五九年一一月一〇日に開催された第四回定期大会
で、神奈川地連を上部組織とすることを決定し、同年一二月七日、これを確認した
結果、その名称を「総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部」に変更し
た、④支部が新しく上部組織に加盟したものではないが、川崎地域労働組合が名称
を変更したことに伴い、その名称を「総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地
域支部高津中央病院分会」に変更した、⑤支部の規約上の名称は従前どおりである
が、近日中に規約改正を行う予定である旨原告に回答した。
(九) 昭和六〇年一月二八日、補助参加人分会は、前記二の3のとおり、大会を
開催し、規約を改正して正式に現名称に変更したが、その際、執行委員長にD、副
執行委員長にE、書記長にFらの役員を選出した。
(一〇) 昭和六〇年二月一八日、補助参加人分会は、原告に対し、同分会執行委
員長D名義の文書をもって、同月になって生じた同分会の組合員であるパートタイ
マーの雇い止め問題に関する団体交渉を開催するよう申し入れた。
(一一) これに対して、原告は、昭和六〇年二月一九日、川崎地域労働組合高津
中央病院支部委員長C宛に、同日付け文書をもって、①前記(八)の昭和五九年一
二月二〇日付け文書によれば、Cは、支部の執行委員長を辞任したわけではなく、
従前どおり支部の代表者であるが、その職務をDが代行しているとある、執行委員
長が存在しているのに、なぜ代行しなければならないのか、②前記(七)の昭和五
九年一二月一五日付け文書の③、④について明確な回答がない、③念のため確認す
るが、支部は独立した適法な労働組合なのか、それとも川崎地域労働組合の手足な
のか、④支部執行委員長代行と称していたD名義の昭和六〇年二月一八日付け文書
が突如提出されたが、支部及び支部執行委員長との関係について、具体的かつ明確
に文書をもって明らかにされたい旨回答及び照会し、団体交渉に応じなかった。
(一二) 昭和六〇年二月二三日、神奈川地連、補助参加人支部及び同分会は、原
告に対し、神奈川地連執行委員長J、補助参加人支部執行委員長I、同分会執行委
員長Dの連名の同日付け文書をもって、パートタイマーの雇い止め問題に関して団
体交渉を開催するよう重ねて申し入れた。
 なお、右文書には、①組合に対するいいがかり、不当な干渉は自重願いたい、②
補助参加人分会は、昭和五九年一二月一一日に通知したとおり、名称を「総評全国
一般労働組合神奈川地方連合高津中央病院分会」に変更した、③補助参加人分会
は、昭和六〇年一月二八日に開催した大会で、執行委員長にD、副執行委員長に
E、書記長にFを、それぞれ選出したので、通知する旨付記されていた。
(一三) これに対して、原告は、昭和六〇年二月二七日、いずれも同日付け文書
(二通)をもって、川崎地域労働組合高津中央病院支部執行委員長C宛に、①前記
(一一)の二月一九日付け文書に対する回答が未だにない、至急回答されたい、②
支部執行委員長代行と称していたD名義の二月二三日付け文書二通が提出されてい
るが、支部及び支部執行委員長との関係について具体的かつ明確に文書をもって至
急明らかにされたい、明らかにされた後、改めて回答する旨照会すると共に、D個
人宛に、①原告は、原告における労働問題について、「川崎地域労働組合高津中央
病院支部」との間で長年にわたり解決してきたが、この度、Dから、突如、「全国
一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部高津中央病院分会」名義の文書が提出さ
れ、驚いている、原告は、今後とも、「川崎地域労働組合高津中央病院支部」との
間で解決する所存である、②Dからの文書については、現在、「川崎地域労働組合
高津中央病院支部執行委員長C」宛に照会中である、もし、Dが新たに組合を結成
したのであれば、その旨文書をもって明らかにされたく、新たに組合を結成したの
でないなら、「川崎地域労働組合高津中央病院支部」と調整のうえ、「執行委員長
C」を通して回答されたい旨回答し、やはり団体交渉に応じなかった。
(一四) 昭和六〇年三月二日、神奈川地連、補助参加人支部及び同分会は、原告
に対し、神労委から交付された組合資格決定書を添付した神奈川地連執行委員長
J、補助参加人支部執行委員長I、同分会執行委員長Dの連名の同日付け文書をも
って、パートタイマーの雇い止め問題などに関して団体交渉を開催するよう三度申
し入れた。
 なお、右文書には、組合に対するいいがかり、不当な干渉については、既に自重
を申し入れているが、念のため、添付した組合資格決定書を精読されたい旨付記さ
れていた。
(一五) これに対して、原告は、昭和六〇年三月四日、補助参加人分会執行委員
長D宛に、同日付け文書をもって、①右(一四)の三月二日付け文書による団体交
渉申入れは、三者連名による複数の申入れで交渉の主体が明らかでない、②補助参
加人分会は、真実適法に結成されたのか、③原告に、補助参加人分会の結成通知、
役員名簿及び規約等の提出がないのはなぜか、至急提出を求める、提出がなけれ
ば、同分会が適法なものか否か、代表者は誰なのか、誰と交渉(交渉の主体)すべ
きなのか、判断できない、④補助参加人分会の協定当事者適格(締結権限)につい
て明確にするため、分会長及び分会役員の権限・責任、分会長が組合を代表できる
のか、分会員の権利・義務、分会長が組合内で発生した全ての問題を処理し解決す
る権限があるのか、組合の全ての行為に関し一切の責任(処分、損害賠償を含
む。)は分会役員と一般組合員が負うのか、について補助参加人分会の見解を求め
る、⑤補助参加人分会は、適法かつ独立した労働組合ではなく、単に補助参加人支
部に従属した手足に過ぎない下部組織なのか、⑥以上①ないし⑤について明確な回
答があり、かつ、補助参加人分会が協定に関する締結能力、権限を有することが明
らかにならなければ、団体交渉のしようがなく、また、団体交渉をしたとしても無
意味なものとなるので、至急明らかにされたい、⑦前記(一三)の二月二七日付け
文書に対する返事が未だにないが、なにか返事できない理由があるのか、あるのな
ら、その理由を至急明らかにされたい、⑧補助参加人分会に属する従業員の名簿が
あれば、その提出を要望する旨回答及び照会し、やはり団体交渉に応じなかった。
(一六) 昭和六〇年三月七日、補助参加人支部及び同分会は、原告に対し、補助
参加人支部執行委員長I、同分会執行委員長Dの連名の同日付け文書をもって、団
体交渉を開催するよう四度申し入れた。
 なお、右文書には、①原告の組合に対するいいがかりや不当な干渉については、
既に自重を申し入れているが、未だに停止されていない、②とりわけ、右(一五)
の三月四日付け文書については、既に組合から回答済みの件もあり、質問自体不明
で理解できない、③したがって、右文書については、団体交渉の場で質問の趣旨を
確認したうえ、判断したい旨付記されていた。
(一七) これに対して、原告は、昭和六〇年三月八日、補助参加人分会執行委員
長D宛に、同日付け文書をもって、①前記(一五)の三月四日付け文書について、
回答済みの件もあり、質問自体不明で理解できないとのことだが、どのような内容
で回答済みなのか、また、どの質問のどの項目が意味不明なのか、具体的に明らか
にされたい、②右文書については、団体交渉の場で質問の趣旨を確認したいとある
が、質問の趣旨の確認は団体交渉になじまないと思料するので、質問の趣旨を確認
したいのならば、なにを確認したいのか、文書で具体的に明らかにされたい、原告
は文書で返答する旨回答し、やはり団体交渉に応じなかった。
(一八) 補助参加人分会は、原告に対し、いずれも同分会執行委員長D名義の文
書をもって、昭和六〇年三月一四日、同年度の賃上げなどを要求すると共に、同月
二二日までに団体交渉で回答するよう申し入れたほか、同月一九日、パートタイマ
ーに対する雇い止めなどに関して団体交渉を開催するよう申し入れた。
(一九) これに対して、原告は、昭和六〇年三月二二日、補助参加人分会執行委
員長D宛に、同日付け文書をもって、①前記(一五)の三月四日付け文書及び前記
(一七)の三月八日付け文書の①について、未だに回答がないので、至急回答され
たい、①右(一八)の補助参加人分会の申入れについては、右の回答があり次第、
改めて回答する旨回答し、やはり団体交渉に応じなかった。
(二〇) その後も、補助参加人支部及び同分会は、原告に対し、団体交渉の開催
を申し入れたが、原告は、やはり、補助参加人らの組織事情や交渉当事者適格に疑
義があるとして、補助参加人らが前記(一五)の三月四日付け文書及び前記(一
七)の三月八日付け文書の①について回答することが団体交渉開催の前提になると
の態度を採り続け、補助参加人らとの団体交渉に応じなかった。
 なお、補助参加人分会は、原告の従業員が組織する唯一の労働組合であり、外に
原告の従業員の組織する労働組合が存在したことはない。
2 右の認定事実を基礎として、補助参加人支部及び同分会の組織事情や交渉当事
者適格に疑義があるとして、補助参加人らとの団体交渉に応じなかった原告の態
度、措置が不当労働行為に該当するか否かについて検討する。
(一) 確かに、川崎地域労働組合高津中央病院支部が補助参加人分会に名称を変
更する過程において、Cらによる決別宣言が出されたり、Dが執行委員長代行に選
任されるという事態が生じたことから、原告が当初同高津中央病院支部ないし補助
参加人分会の組織事情や役員問題に疑義を抱いたことには、無理からぬ点があった
というべきである。
 しかしながら、前記の認定事実によれば、原告は、遅くとも昭和六〇年三月二日
の時点においては、川崎地域労働組合すなわち補助参加人支部及び川崎地域労働組
合高津中央病院支部すなわち補助参加人分会との間の多数回にわたる文書の授受及
び神労委発行の組合資格決定書などによって、補助参加人支部及び同分会の組織事
情及び役員問題について充分に承知していたもので、団体交渉を拒否しなければな
らない程の疑義を抱いていたと解することはできない。すなわち、①川崎地域労働
組合及び同高津中央病院支部が、原告の高津中央病院支部委員長C宛の昭和五九年
一一月二八日付け照会に対して、Cから同支部執行委員長の辞任届が提出され、D
が支部の執行委員長代行に選任された旨回答したこと、②Cが、原告の高津中央病
院支部委員長C宛の昭和五九年一二月一日付け照会に対して、右①の川崎地域労働
組合及び同高津中央病院支部の回答のとおり、Cは一身上の都合により同支部執行
委員長の職務を遂行することができなくなったので、同支部のD執行委員が執行委
員長代行として同支部の運営を行っている旨回答したこと、③神奈川地連のK書記
長、補助参加人支部のI中央執行委員長、同分会のD執行委員長代行らが、昭和五
九年一二月一一日、原告のL事務局長、M総務部長、N職員課長代理と面会し、補
助参加人支部が昭和五九年一二月七日をもって神奈川地連に加盟したことに伴い、
同支部及び補助参加人分会がそれぞれ旧名称から現名称に名称を変更したこと、及
び、神奈川地連と同支部それぞれの三役の氏名を通告したこと、④補助参加人分会
が、原告の高津中央病院支部委員長C宛の昭和五九年一二月一五日付け照会に対し
て、Cの提出した辞任届は預かり扱いとなっており、現時点では同人は同支部の執
行委員長を辞任したものではなく、同支部の代表者は従前どおりCだが、同人が執
行委員長の職責を遂行することは困難と認め、Dに執行委員長を代行させているこ
と、補助参加人支部が同月七日をもって神奈川地連に加盟して名称を変更したこと
に伴い、高津中央病院支部も現名称に名称を変更したこと、同支部の規約上の名称
は従前どおりであるが、近日中に規約改正を行う予定である旨回答したこと、⑤補
助参加人分会が、原告に対し、昭和六〇年一月二八日に開催した大会で、執行委員
長にD、副執行委員長にE、書記長にFを、それぞれ選出した旨通告したこと、⑥
昭和六〇年三月二日、補助参加人らが、神労委から交付された組合資格決定書を原
告に提出したこと、⑦補助参加人分会は、原告の従業員が組織する唯一の労働組合
であり、外に原告の従業員の組織する労働組合が存在したことはないことなどの前
記1に認定した一連の事実に鑑みると、原告は、遅くとも昭和六〇年三月二日の時
点においては、①補助参加人支部が、昭和五九年一二月七日をもって、神奈川地連
に加盟し、これに伴い旧名称から現名称に名称を変更したこと、②補助参加人支部
の下部組織である同分会も、同支部が名称を変更したことに伴い旧名称から現名称
に名称を変更したこと、③補助参加人支部及び同分会がそれぞれ名称変更を行って
いるが、これはあくまで同支部が神奈川地連に加盟したことに伴う単なる名称変更
に過ぎず、同支部及び同分会の組織の同一性に変動はないこと、③昭和六〇年一月
二八日に開催された補助参加人分会の大会で、Dが正式に同分会の執行委員長に選
任されたこと、④神奈川地連、補助参加人支部及び同分会それぞれの三役の氏名、
以上の諸点を充分に承知していたと推認されるからである。仮に、原告にはなお疑
義が残っていたとしても、それは団体交渉の場において補助参加人らに確認すれば
足りる程度のものに留っていたはずである。
 そうすると、原告が、この点に疑義があるとして、補助参加人らが前記1の(一
五)の三月四日付け文書及び前記1の(一七)の三月八日付け文書の①について回
答しないことを理由に補助参加人らとの団体交渉の開催に応じなかったのは、正当
な理由なく団体交渉の開催を拒否したものであって、労働組合法七条二号所定の不
当労働行為に該当するというほかはない。
(二) この点について、原告は、①昭和五九年一一月一四日、高津中央病院支部
の三役を含む組合員有志によって神奈川地連加盟賛成派に対する決別宣言が出さ
れ、また、昭和五九年度冬季一時金協定締結に至る交渉過程において、「執行委員
長C」「執行委員長代行D」「執行委員長C・執行委員長代行Dの連名」という作
成名義の異なる複数の文書が提出されたほか、高津中央病院支部の規約上、副委員
長でないDが委員長代行になり得ないのではないかという疑義が存したこともあっ
て、原告としては、団体交渉の相手方である高津中央病院支部の交渉当事者適格性
やDの代表権限に疑義を抱き、同支部執行委員長C宛に照会を行ったが、同支部の
対応は不可解を極め、交渉相手についての理解に混乱と疑問を深めざるを得なかっ
た、②右①の事態と併行して、昭和五九年一二月一一日、原告に対し、川崎地域労
働組合が神奈川地連に加盟したことに伴い、同組合及び高津中央病院支部がそれぞ
れ名称を変更した旨通知があったが、原告としては、総評全国一般労働組合は、地
方本部、支部、分会を下部組織に持つ法人格を有する単位労働組合であり、他方、
川崎地域労働組合も同様に支部を下部組織に持つ法人格を有する単位労働組合であ
るところ、二つの単位労働組合が連合団体(いわゆる上部団体)を組織し、その連
合団体に加盟すること、或いは、単位組合が他の単位組合と合同することはあり得
ても、一方が他方に加盟することはあり得ないのではないか、また、高津中央病院
支部では、神奈川地連への加盟を巡って、同支部の三役らが神奈川地連加盟賛成派
に対し決別宣言を出しており、このような実態からすると、神奈川地連加盟賛成派
の組合員一〇名が、総評全国一般労働組合に個々に加盟し、その下部組織としての
川崎地域支部及び同高津中央病院分会を結成した、つまり、補助参加人分会は、従
前の川崎地域労働組合高津中央病院支部とは別個の組合として、一〇名の組合員で
新たに発足したとみるべきではないのか、いわゆる組合分裂の法理と本件の実態と
の関係をどうみるべきか、などの疑問が生じた、③その後、原告は、補助参加人分
会宛に、昭和六〇年三月四日付け文書をもって、団体交渉開催に当たっての照会を
行ったが、これに対して、補助参加人らは、全くあいまいな態度に終始し、既に回
答済みの質問事項もあるとか、質問自体不明で理解できない旨の回答をしたに留ま
り、補助参加人支部執行委員長の権限と責任の範囲や、補助参加人分会の協定当事
者適格等について、現在に至るも明らかにされていない、④右のとおり、本件状況
の下では、原告が補助参加人らの組織事情や交渉当事者適格に疑義を抱くのはもと
より当然であって、昭和六〇年三月四日付け文書により団体交渉に先立ってこの点
を明確にするよう求めた原告の措置は、極めて正当というべきであるにもかかわら
ず、補助参加人らは、一挙手一投足の事柄に属する右照会に対する回答を全く怠っ
たまま、いたずらに団体交渉の応諾を求めているのであって、このような補助参加
人らの不信義な態度を看過して、不当労働行為の成立を認めることは許されない旨
主張する。
しかしながら、次のとおり、右主張は採用することができない。
(1) 確かに、川崎地域労働組合高津中央病院支部が補助参加人分会に名称を変
更する過程において、Cらによる決別宣言が出されたり、Dが執行委員長代行に選
任されるという事態が生じたことから、原告が当初同高津中央病院支部ないし補助
参加人分会の組織事情や役員問題に疑義を抱いたことには、無理からぬ点があった
と認められるが、原告が、神労委の組合資格決定書の提出を受けた昭和六〇年三月
二日以降も、補助参加人支部及び同分会の組織事情や役員問題に団体交渉を拒否し
なければならない程の疑義を抱いていたと認め難いことは、右(一)に認定したと
おりである。
(2) 弁論の全趣旨により成立が認められる乙第二七号証によれば、神奈川地連
には、個人が加盟するだけでなく、単位組合が一括加盟することも可能であること
が認められるから、単位組合である「川崎地域労働組合」すなわち補助参加人支部
が神奈川地連に一括加盟し得ることについては、なんらの疑問もないというべきで
ある。
 また、前記1に認定した本件事実関係の下で、「川崎地域労働組合」と「総評全
国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部」すなわち補助参加人支部、「川崎地
域労働組合高津中央病院支部」と「総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域
支部高津中央病院分会」すなわち補助参加人分会との各同一性を疑うべき事情は見
出し難い。なお、補助参加人分会は、原告の従業員が組織する唯一の労働組合であ
って、外に原告の従業員の組織する労働組合が存在したことはないのであるから、
本件がいわゆる組合分裂の法理が問題になる場合でないことは明らかである。
(3) 原告が、昭和六〇年三月二日以降、補助参加人支部及び同分会の組織事情
や役員問題に団体交渉を拒否しなければならない程の疑義を抱いていたとは認め難
いことは、右(一)に認定したとおりであるから、そもそも、原告には、補助参加
人らとの団体交渉に先立ち、昭和六〇年三月四日付け文書に係る照会を行う必要性
はなかったというべきである。そればかりか、右照会の内容は、それまでの補助参
加人側からの回答や申入れを顧慮することなく、「補助参加人分会は真実適法に結
成されたのか」と補助参加人分会の存在そのものを疑問視したり、「補助参加人支
部に従属した手足に過ぎない下部組織なのか」などと挑発的とも受け取れる言葉を
用いたり、分会長及び分会役員の権限・責任などの組合内部の組織問題を殊更に問
題にするなど、補助参加人分会をなかば愚弄しているかのような印象すら与えるも
のであって、真摯に疑義を問い質そうとするものとは認め難いから、補助参加人ら
が右照会に明確な回答をしなかったからといって、それが信義に反するということ
はできない。
 仮に、原告は真摯に疑義を問い質そうとしたのだとしても、補助参加人らは団体
交渉の場で質問の趣旨を確認したうえで回答するとしていたのであるから、特に支
障となるような事情もないのに、団体交渉の場を設定しなかった原告は、自ら照会
事項を解明する途を閉ざしたものというほかはない。
(4) 右のように、原告が、昭和六〇年三月二日以降、補助参加人らの組織事情
や役員問題に団体交渉を拒否しなければならない程の疑義を抱いていたとは認め難
く、また、補助参加人らが昭和六〇年三月四日付け文書に係る照会に明確な回答を
しなかったからといって、信義に反するということはできないのであって、むし
ろ、原告が、補助参加人らが昭和六〇年三月四日付け文書に係る照会に明確に回答
しなかったことなどを口実にして、正当な理由なく補助参加人らとの団体交渉の開
催に応じなかったというべきである。
四 昭和六〇年度夏季一時金を巡る原告の態度、措置について(本項において、月
日はいずれも昭和六〇年のものである。)
1 いずれも成立に争いがない乙第七、第八、第一〇ないし第一二、第一四号証、
第一五号証の一、二、第一六ないし第二二号証、第九九号証の一、二、第一一二、
第一一四、第一一六、第一一九、第一七六、第一七七、第一八三号証及び弁論の全
趣旨を総合すると、次の事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠は
ない。
(一) 五月三一日、補助参加人分会は、原告に対し、いずれも同日付け文書(二
通)をもって、①パートタイマーを除く全職員、(昭和六〇年度基本給+同業務手
当)×三か月分、②パートタイマー、昭和六〇年度時間給に基づく予定月収×三か
月分、③支給対象者、五月一五日現在在籍者、という内容の昭和六〇年度夏季一時
金要求をすると共に、六月一二日に夏季一時金に関する団体交渉を開催するよう申
し入れた。
(二) 六月一一日、原告は、職員各位宛に、①医師、管理職、パートタイマー・
臨時職員を除く一般職員については、昭和六〇年度夏季一時金を、支給率は(昭和
六〇年度基本給+同業務手当)×二・三か月×出勤率、支給対象者は支給日現在在
籍者という条件で、六月二九日に支給する、②パートタイマー・臨時職員の昭和六
〇年度夏季一時金については、原告において別途決定する、という趣旨の文書を職
場に掲示すると共に、同日から翌日にかけ、職制機構を通じて原告の職員にその内
容を周知させた。
(三) また、原告は、右(二)と同日、補助参加人分会に対し、支給日を除き右
(二)の文書と同一内容の同日付け夏季一時金回答書を送付し、前記(一)の団体
交渉開催の申入れに応じなかった。
 なお、右文書には、支給予定日について、六月一七日までに妥結・調印された場
合には、六月二九日とし、六月一八日以降に妥結・調印された場合には、妥結・調
印の日から二週間後とする旨記載されていた。
(四) 六月一四日、補助参加人分会は、原告に対し、いずれも同日付け文書(二
通)をもって、パートタイマー・臨時職員の夏季一時金については原告において別
途決定するとあるが、神労委が三月一日にパートタイマー・臨時職員について組合
と交渉しないのは不当労働行為であるとの命令を発しているにもかかわらず、再び
同じ行為を繰り返すものであって尋常ではない旨強く抗議すると共に、六月一七日
に夏季一時金などに関する団体交渉を開催するよう申し入れた。
 しかし、原告は団体交渉の開催に応じなかった。
(五) 六月一八日、原告は、補助参加人分会に所属しない職員に対し、同日午後
五時までに所属長に受領承諾書を提出した者には、六月二九日に夏季一時金を支給
する旨の受領承諾書と一体となった文書を配付すると共に、その内容について周知
を図った。
 なお、右文書には、補助参加人分会に所属する者には、同分会との交渉が妥結し
ていないので、夏季一時金を支給できない旨付記されていた。
(六) 六月一九日、原告は、補助参加人分会に対し、前記(三)の六月一一日付
け回答書と同一内容の協定書(案)を添付した同日付け文書をもって、①補助参加
人分会が夏季一時金に関してあくまで団体交渉による妥結・調印を望むのであれ
ば、前記三の1の(一五)の三月四日付け文書及び前記三の1の(一七)の三月八
日付け文書の①について、文書をもって具体的に回答されたい、②補助参加人分会
が夏季一時金について団体交渉によらず妥結・調印するのであれば、別添の協定書
(案)に記名押印のうえ、返却されたい、原告は協定に基づき支給する旨申し入
れ、右の回答をしない限り団体交渉には応じないとの態度を改めて示した。
(七) 他方、補助参加人分会は、右(六)と同日の六月一九日、原告に対し、同
日付け文書をもって、①パートタイマーの新契約に伴う労働条件の変更、②組合員
A及びBに対する解雇、③神労委の三月一日付け救済命令及び同月二日付け勧告
書、④腕章着用に対する警告書、⑤春闘、⑥六月五日付け通知書、⑦夏季一時金を
交渉事項とする団体交渉を六月二一日に開催するよう申し入れたが、原告は団体交
渉の開催に応じなかった。
(八) 六月二二日、補助参加人分会は、原告に対し、同日付け文書をもって、右
(七)と同一の交渉事項に関する団体交渉を同月二五日に開催するよう重ねて申し
入れたが、やはり原告は団体交渉の開催に応じなかった。
 その後も、六月二六日と七月一日、補助参加人分会は、原告に対し、右交渉事項
に関して団体交渉を開催するよういずれも文書をもって申し入れたが、やはり、原
告は団体交渉に応じなかった。
(九) 六月二四日、補助参加人分会は、原告に対し、同日付け文書をもって、医
師、管理職、パートタイマー・臨時職員を除く一般職員の夏季一時金については、
前記(三)の六月一一日付け回答書記載の内容で夏季一時金を支給することに同意
する旨申し入れて、一般職員の夏季一時金についてのみ原告の回答どおり分離妥結
したい旨表明すると共に、パートタイマー・臨時職員に関しても、夏季一時金要求
に対する回答を速やかに行うよう改めて要求した。
 なお、この日、原告と補助参加人分会は、昭和六〇年度の賃上げについて、原告
の一発回答どおり妥結・調印した。
(一〇) 六月二九日、原告は、前記(五)の受領承諾書を提出した補助参加人分
会に所属しない職員に対し、夏季一時金を支給した。
(一一) 七月一日、原告は、補助参加人分会に対し、同日付け文書をもって、原
告は、補助参加人分会の夏季一時金要求について慎重に検討した結果、前記(三)
の六月一一日付け回答書をもって一括回答しており、一括解決するのが当然である
ところ、前記(九)の補助参加人分会の六月二四日付け文書は原告回答の一部のみ
に同意するものであって、原告回答に対する同意とはならないから、右六月二四日
付け文書が原告回答に対する同意(妥結)文書でないことは明確である旨回答し
て、一般職員についてのみ分離妥結することを拒否すると共に、パートタイマー・
臨時職員に関する回答については、右六月一一日付け回答書で「原告において別途
決定する」と明確に回答済みであるところ、昭和五九年度の夏季一時金及び冬季一
時金の各協定において、「原告において別途決定する」との文言で協定を締結した
実績があり、補助参加人分会において右の文言で協定を締結できない理由は全くな
く、速やかに妥結・調印されたい旨申し入れた。
(一二) その後も、補助参加人分会は、度々、原告に対し、夏季一時金などに関
する団体交渉の開催を申し入れたが、原告は一切これに応じなかった。
(一三) 原告は、Dら補助参加人分会の組合員六名が、一〇月三日、横浜地方裁
判所川崎支部において、原告に対し、夏季一時金相当額を右組合員らに仮払いする
ことを命じる仮処分命令を得たことから、同月五日、右組合員らに対し、夏季一時
金相当額を仮払いした。
2 右の認定事実を基礎として、昭和六〇年度夏季一時金を巡る原告の態度、措置
が不当労働行為に該当するか否かを検討する。
(一) 原告が昭和六〇年度夏季一時金に関する団体交渉の開催に応じなかったこ
との不当労働行為該当性
 原告が、補助参加人らの組織事情や交渉当事者適格に疑義があるとして、補助参
加人らが前記三の1の(一五)の三月四日付け文書及び前記三の1の(一七)の三
月八日付け文書の①について回答しないことを理由に補助参加人らとの団体交渉の
開催に応じなかったことに正当な理由が認められないことは、前記三の2に説示し
たとおりであるから、同様の理由をもって補助参加人らと夏季一時金に関する団体
交渉に応じなかったのは、正当な理由なく団体交渉の開催を拒否したものであっ
て、労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当するというほかはない。
 そして、原告が補助参加人らとの団体交渉を拒否したことは、そのことによっ
て、夏季一時金の妥結を遅延せしめて、組合員の心理的不安や動揺を誘い、ひいて
は同分会の内部的混乱や弱体化を招くことを意図したものとの評価をも免れること
ができず、労働組合法七条三号所定の不当労働行為にも該当するというべきであ
る。
(二) 補助参加人分会の夏季一時金要求に対して「パートタイマー・臨時職員に
ついては、原告において別途決定する。」と回答したり、補助参加人分会が一般職
員についてのみ原告の回答どおり分離妥結したい旨申し入れたのを拒否したりした
原告の態度、措置の不当労働行為該当性
(1) 「パートタイマー・臨時職員については、原告において別途決定する。」
という回答は、支給する額の決定基準が示されていないばかりか、支給するか否か
すらも示されておらず、パートタイマー・臨時職員に関しては、補助参加人分会の
要求に対して回答を拒否するにも等しいものであって、いわば原告への白紙委任を
求めるものであるから、補助参加人分会としては、到底、受け容れ難いものという
べきである。にもかかわらず、原告は、補助参加人分会が右回答に同意することを
求め続けたばかりか、一般職員についてのみ原告の夏季一時金回答どおり分離妥結
したい旨の同分会の申入れを拒否し、あくまで一般職員及びパートタイマー・臨時
職員の双方について原告の回答どおり一括妥結することに固執し、一切譲歩しよう
とはしなかったのである。
 これに加えて、前記(一)に説示したとおり、原告が補助参加人らとの夏季一時
金に関する団体交渉を正当な理由なく拒否していることをも併せ勘案すると、原告
の右のような態度、措置は、これによって、補助参加人分会をして夏季一時金問題
を妥結し得ないような状況に追い込み、その結果、同分会の組合員に対して夏季一
時金が支給されないという事態を招来させて、組合員の心理的動揺や不安を誘い、
ひいては同分会の組織的混乱や弱体化を招くことを意図したものとの評価を免れ難
く、労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当するというべきである。
(2) この点について、原告は、パートタイマーは、原告の就業規則上、事業成
績その他により一時金を支給することがある旨規定されているだけで、当然に一時
金が支給されるものではないから、仮に原告が一時金は全く支給しないと回答した
としても、それ自体一つの立派な回答であるところ、本件の回答は、全く支給しな
いというゼロ回答を一歩踏み出し、原告の裁量において支給幅を決めようとするも
のであるから、それ自体、明確な内容を持った一つの立派な回答にほかならない旨
主張する。
 しかしながら、「パートタイマー・臨時職員については、原告において別途決定
する。」という原告の回答が、支給する額の決定基準を示していないばかりか、支
給するか否かすらも示しておらず(なお、原告は、本件回答は全く支給しないとい
うゼロ回答を一歩踏み出したものであると主張するが、成立に争いがない乙第一八
一号証によれば、原告の病院の事務次長であるOが、再審査の審問において、「原
告が別途決定する。」との回答には、支給しないことがあるとの意味合いも含まれ
ている旨証言していることが認められることに照して、採用し難い。)、パートタ
イマー・臨時職員に関しては、補助参加人分会の要求に対して回答を拒否するにも
等しいものであることは、右(1)に説示したとおりであって、それ自体、明確な
内容を持った一つの立派な回答とは到底いい難いことは明らかであるから、原告の
右主張は採用することができない。
(三) 原告が、六月二九日、受領承諾書を提出した非組合員に対して夏季一時金
を支給したことの不当労働行為該当性
 原告が、補助参加人らが前記三の1の(一五)の三月四日付け文書及び前記三の
1の(一七)の三月八日付け文書の①について回答しないことを理由に補助参加人
らとの夏季一時金に関する団体交渉に応じなかったこと、及び、補助参加人分会の
夏季一時金要求に対して「パートタイマー・臨時職員については、原告において別
途決定する。」と回答したり、一般職員についてのみ原告の夏季一時金回答どおり
分離妥結したい旨の補助参加人分会の申入れを拒否したりすることによって、補助
参加人分会をして夏季一時金問題を妥結し得ないような状況に追い込み、その結
果、同分会の組合員に対して夏季一時金が支給されないという事態を招来させたこ
とは右(一)、(二)に説示したとおりである。しかるに、その一方で、原告は、
六月二九日、受領承諾書を提出した非組合員に対して夏季一時金を支給している。
 このような原告の措置は、夏季一時金交渉が妥結していないことを口実として、
補助参加人分会の組合員を差別扱いするものであると共に、これによって、組合員
の心理的動揺や不安を誘い、ひいては同分会の組織的混乱や弱体化を招くことを意
図したものとの評価をも免れ難く、労働組合法七条一号、三号所定の不当労働行為
に該当するというべきである。
五 昭和六〇年度冬季一時金を巡る原告の態度、措置について(本項において、特
に断ったほか、月日はいずれも昭和六〇年のものである。)
1 いずれも成立に争いがない乙第三九、第四〇、第四二、第四三ないし第五二、
第五四、第五七、第五九、第六一、第六三、第六四、第八一(左記の採用しない部
分を除く。)、第八五(左記の採用しない部分を除く。)、第一〇〇、第一七九号
証、前掲乙第一八三号証により成立が認められる乙第六八号証及び弁論の全趣旨を
総合すると、次の事実が認められ、右乙第八一、第八五号証のうち、この認定に反
する趣旨に帰着する部分は、右各証拠に照らして、いずれも採用し難く、他にこの
認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 一一月一日、補助参加人分会は、原告に対し、いずれも同日付け文書(二
通)をもって、①パートタイマーを除く全職員、(昭和六〇年度基本給+同業務手
当)×三か月分、②パートタイマー、昭和六〇年度時間給に基づく予定月収×三か
月分、③支給対象者、一一月一五日現在在籍者、という内容の昭和六〇年度冬季一
時金要求をすると共に、同月一三日に冬季一時金に関する団体交渉を開催するよう
申し入れた。
 これに対し、原告は、団体交渉を開催するかどうかを含めて検討中で回答できな
いとして、同月一三日の団体交渉に応じなかった。
(二) 一一月一八日、原告は、補助参加人分会に対し、同日付け文書をもって、
①右(一)の補助参加人分会の要求については、現在検討中であり、同月二五日頃
には回答できる見込である、②団体交渉については、前記三の1の(一五)の三月
四日付け文書及び前記三の1の(一七)の三月八日付け文書の①について、文書を
もって具体的に回答されたい、交渉の主体が明らかにならなければ交渉のしようが
ない旨回答し、補助参加人分会が右回答をしない限り団体交渉に応じないとの態度
を表明した。
(三) 一一月二〇日、補助参加人分会は、原告に対し、いずれも同日付け文書
(二通)をもって、①右一一月一八日付け文書の②については、前記三の1の(一
六)の三月七日付け文書で回答済みであり、同分会としては、これで充分と考えて
いる、②原告がこれ以上の回答を望むのならば、団体交渉の場において、質問の趣
旨を確認したうえ、回答すべきものには回答する旨申し入れると共に、同月二五日
に冬季一時金などに関する団体交渉を開催するよう申し入れた。
(四) 一一月二一日、原告は、補助参加人分会に対し、同日付け文書をもって、
①原告は、神労委及び横浜地方裁判所川崎支部においても終始一貫主張していると
おり、補助参加人分会の名称変更と称する件について今なお法的疑義を抱いてお
り、今後もこの主張は維持する所存である、②しかし、諸般の事情を考慮しあえて
この主張に拘泥することなく、現実的に対応するため、一一月二五日午後二時から
高津ホテル会議室において、前記(一)の一一月一日付け文書に係る要求事項に対
する原告の回答に関する団体交渉を、時間は二時間以内、交渉員は双方三名以内と
いう条件で開催する旨通知し、補助参加人分会との団体交渉に応じるとの態度を表
明した。
(五) これに対して、補助参加人分会は、一一月二二日、原告に対し、同日付け
文書をもって、①同分会としては、団体交渉の要領については、神労委が一〇月七
日に同委昭和六〇年(不)第一五号事件において提示した「和解(案)骨子につい
て」の趣旨に沿ったものにしたい、②ただし、今回は、日時・場所について原告の
通知に従う旨回答した。
 なお、右「和解(案)骨子について」で示された団体交渉のルールは、①補助参
加人ら、原告、いずれか一方から団体交渉の申入れがあったときは、特別の事情が
ない限り、遅くとも団体交渉の申入れがあった日から一〇日以内に団体交渉を行う
ものとする、②団体交渉の出席者は、補助参加人らは、神奈川地連、補助参加人支
部及び同分会を併せて七名以内とし、原告は、役員及び担当職員を併せて七名以内
とする、③団体交渉の場所は、原則として原告の施設内とし、交渉時間は二時間を
限度とする、④補助参加人ら及び原告は、団体交渉において、最終的に合意妥結し
た事項については、書面を作成し、相互に各一通保管するものとする、という内容
のものであった。
(六) 一一月二五日、原告が前記(四)の一一月二一日付け文書で指定した団体
交渉場所である高津ホテル会議室に、補助参加人らは七名、原告は三名の交渉員が
それぞれ臨席したが、原告は、右文書による通知のとおり、交渉員は双方三名以内
にしたい旨主張したのに対して、補助参加人らがこれを拒否し七名以内にしたいと
主張したことから、原告は、それでは団体交渉に応じられないとして、冬季一時金
要求に対する同日付け回答書を補助参加人らに手交したのみで退席し、結局、団体
交渉の開催には至らなかった。なお、右回答書には、①医師、管理職、パートタイ
マー・臨時職員を除く一般職員の冬季一時金について、支給率は(昭和六〇年度基
本給+同業務手当)×二・五か月×出勤率、支給対象者は支給日現在在籍者、支給
予定日は、一二月二日までに妥結・調印された場合には同月一三日とし、同月三日
以降に妥結・調印された場合には妥結・調印の日から二週間後、という条件で支給
する、②パートタイマー・臨時職員の冬季一時金については、原告において別途決
定する旨記載されていた。
 補助参加人分会は、一一月二五日中に、原告に対し、同日付けの文書をもって、
原告が交渉員を三名以内に制限し、補助参加人らがこれに同意しないことを理由に
退席したことは明らかに不当労働行為であるとして、これに抗議すると共に、一一
月二七日午後二時から病院の二号館二階応接室において冬季一時金などに関する団
体交渉を開催するよう申し入れた。
(七) これに対して、原告は、一一月二七日、同日付け文書をもって、①前記
(四)の一一月二一日付け文書の趣旨に沿って、同日午後二時から高津ホテル会議
室において、右(六)の一一月二五日付け回答書に関する団体交渉を、時間は二時
間以内、交渉員双方三名以内という条件で開催する、②右(六)の一一月二五日付
け文書による補助参加人分会の抗議は事実に反し、失当である、③団体交渉の開催
は、その日時、場所、出席者について双方の合意が必要であることはいうまでもな
いから、その合意がなければ開催されないことは明らかであり、また、団体交渉の
趣旨からしても、できるだけ少人数で行うことが望ましく、補助参加人分会の組合
員数が五名程度という実情に鑑みても、良識をもって判断される相当の人数に限定
されるのが当然と思料する旨補助参加人分会に通知した。
 右通知を受けた補助参加人分会の申入れにより、団体交渉の開催に先立って事務
折衝が行われたが、原告は交渉員を双方三名以内にしなければ団体交渉は開催でき
ないと主張したのに対して、同分会は交渉員を七名と主張したため、物別れに終
り、結局、団体交渉の開催には至らなかった。
 補助参加人分会は、一一月二七日中に、原告に対し、同日付け文書をもって、右
のような原告の態度に抗議すると共に、一一月三〇日に冬季一時金などに関する団
体交渉を開催するよう申し入れた。
(八) 一一月二八日、原告は、補助参加人分会に対し、同日付け文書をもって、
①翌二九日午後二時から高津ホテル会議室において、前記(六)の一一月二五日付
け回答書に関する団体交渉を、時間は二時間以内、交渉員双方三名以内という条件
で開催する、②一一月二七日開催予定の団体交渉については、原告は開催場所にお
いて待機していたにもかかわらず、補助参加人分会が欠席したため、開催できなか
ったのは誠に残念である、一一月二九日開催予定の団体交渉には是非とも出席され
たい旨通知した。
 なお、補助参加人分会は、一一月二八日、神労委に団体交渉促進に関する斡旋申
請を行ったが、原告は労使間で自主解決するとの態度を表明したため、斡旋は不調
に終った。
(九) 一一月二九日、原告が右(八)の一一月二八日付け文書で指定した団体交
渉場所である高津ホテル会議室に、補助参加人らは六名、原告は三名の交渉員がそ
れぞれ臨席したが、やはり、原告は交渉員を双方三名以内としなければ団体交渉を
開催できないと主張したのに対して、補助参加人らは交渉員を七名と主張したた
め、結局、団体交渉の開催には至らなかった。
(一〇) 一二月二日、原告は、補助参加人分会に対し、前記(六)の一一月二五
日付け回答書とほぼ同内容の協定書(案)を提示すると共に、同日付け文書をもっ
て、翌三日午後二時から高津ホテル会議室において、右回答書に関する団体交渉
を、時間は二時間以内、交渉員双方三名以内という条件で開催する旨通知した。
(一一) 一二月三日、原告は、補助参加人分会に所属しない職員に対し、所属長
に受領承諾書を提出した者には、同月一三日に冬季一時金を支給する旨の受領承諾
書と一体となった文書を配付すると共に、その内容について周知を図った。
 なお、右文書には、補助参加人分会に所属する者には、同分会との交渉が妥結し
ていないので、冬季一時金を支給できない旨付記されていた。
(一二) 右(一一)と同日である一二月三日、原告が前記(一〇)の一二月二日
付け文書で指定した団体交渉場所である高津ホテル会議室に、補助参加人らは七
名、原告は三名の交渉員がそれぞれ臨席し、まず、団体交渉ルールについての折衝
が行われたが、原告は、①団体交渉は労使の交渉員が同数であることが原則であ
る、②双方三名程度の方がじっくり話合える、③補助参加人分会の組合員が五名程
度なら、交渉員は三名がふさわしい旨主張したのに対して、補助参加人らは、①組
合員数が少なければ交渉員を減らすべきだとの原告の主張は妥当でなく、また、原
告主張の組合員数は誤ってる、②労使同数でなければ団体交渉が開けないとの主張
も、誤りである、③じっくり話合えるかどうかは、交渉員の人数の問題ではなく、
労使関係の在り方の問題であって、交渉員は、七名が相応しい旨主張して、双方の
見解が一致せず、結局、団体交渉の開催には至らなかった。
 その後も、一二月一三日、二〇日、二七日と、いずれも団体交渉を開催するとの
原告の通知に基づき、原告が指定した団体交渉場所である高津ホテル会議室に双方
の交渉員が臨席したが、やはり交渉員の人数に関する双方の見解が平行線をたど
り、団体交渉の開催には至らなかった。
(一三) 一二月一三日、原告は、前記(一一)の受領承諾書を提出した補助参加
人分会に所属しない職員に対し、冬季一時金を支給した。
(一四) 一二月二五日、補助参加人分会は、原告に対し、同日付け文書をもっ
て、医師、管理職、パートタイマー・臨時職員を除く一般職員の冬季一時金につい
ては、前記(六)の一一月二五日付け回答書記載の内容で冬季一時金を支給するこ
とに同意する旨申し入れて、一般職員についてのみ原告の冬季一時金回答どおり分
離妥結したい旨表明すると共に、パートタイマー・臨時職員に関しても、冬季一時
金要求に対する回答を速やかに行うよう改めて要求した。
(一五) これに対して、原告は、一二月二六日、補助参加人分会に対し、同日付
け文書をもって、原告は、補助参加人分会の冬季一時金要求について慎重に検討し
た結果、前記(六)の一一月二五日付け回答書をもって一括回答しており、一括解
決するのが当然であるところ、右(一四)の補助参加人分会の一二月二五日付け文
書は、原告回答の一部のみに同意するものであって、原告回答に対する同意とはな
らないから、右一二月二五日付け文書が原告回答に対する同意(妥結)文書でない
ことは明確である旨回答して、一般職員についてのみ冬季一時金を妥結することを
拒否すると共に、パートタイマー・臨時職員に関する回答については、右回答書で
「原告において別途決定する」と明確に回答済みであるところ、昭和五九年度の夏
季一時金及び冬季一時金の各協定において、「原告において別途決定する」との文
言で協定を締結した実績があり、補助参加人分会において右の文言で協定を締結で
きない理由は全くなく、速やかに妥結・調印されたい旨申し入れた。
(一六) 原告は、Dら補助参加人分会の組合員八名が、昭和六一年四月二一日、
横浜地方裁判所川崎支部において、原告に対し、昭和六〇年冬季一時金相当額を右
組合員らに仮払いすることを命じる仮処分命令を得たことから、右組合員らに対
し、冬季一時金相当額を仮払いした。
2 右の認定事実を基礎として、昭和六〇年度冬季一時金を巡る原告の態度、措置
が不当労働行為に該当するか否かを検討する。
(一) 補助参加人らが交渉員三名以内との条件に同意しないことを理由に冬季一
時金に関する団体交渉に応じなかった原告の態度、措置の不当労働行為該当性
(1) 前掲乙第八五、第一七九、第一八三、第一八五号証によれば、従前、原告
と補助参加人らとの団体交渉において、交渉員の人数に特に制限はなく、実際上
も、補助参加人らは、概ね、七名或いはそれより多数の交渉員で団体交渉に臨んで
いたこと、補助参加人らとしては、補助参加人分会の役員、組合員の外に、上部組
織である神奈川地連や補助参加人支部の役員が団体交渉に出席する必要があったこ
とが認められる。これに加えて、前記1の(五)に認定したとおり、神労委が、一
〇月七日、同委昭和六〇年(不)第一五号事件において、団体交渉の出席者は双方
七名以内とする旨の条項を含む和解案を提示していたことをも併せ勘案すると、原
告が提案した交渉員三名以内という団体交渉開催の条件には、合理性を認め難い。
 そうすると、原告が、交渉員三名以内という条件を一方的に提案したうえ、補助
参加人らとの再三の折衝においてもこれに固執して全く譲歩しようとせず、この条
件に同意しないことを理由に冬季一時金に関する団体交渉に応じなかったことに
は、正当な理由は認められないというべきである。
(2) この点について、原告は、①原告は、補助参加人分会に対し、一一月二一
日付けで、交渉員を双方三名以内とすることを提案し、その後、補助参加人らが、
同月二八日付けで、神労委に団体交渉促進の斡旋を申し立て、神労委から、今回に
限り交渉員を三名とするとの斡旋案が提示されたため、原告はこれを了承したが、
補助参加人らは、交渉員を三名とすることについては了承したものの、団体交渉に
神労委が立ち会うことを条件としたことから、原告は、団体交渉は自主交渉が望ま
しいとの極めて当然の考えに立って、神労委の立ち会いについては辞退したいとの
見解を表明したところ、補助参加人らがこれを拒否し、結局、斡旋は不調に終わっ
た、②昭和六一年一月一一日、同年四月三〇日、同年一一月及び一二月に各一回の
合計四回、労使双方の合意により交渉員四名で原告と補助参加人らとの団体交渉が
開催され、その場で労働協約が締結されており、これからみても、実際上、交渉員
四名でなんらの支障もない、③右のような事情を無視して原告を一方的に非難し、
不当労働行為の成立を認めることは許されない旨主張する。
 しかしながら、次のとおり、右主張は採用することができない。
① 神労委の斡旋が不調に終った経緯についての原告の主張については、前掲乙第
八一、第八五号証のうちこれに沿う部分(乙第八五号証は証人N証言部分)は、前
記1に掲記の各証拠に照して、いずれも採用し難く、かえって、前記1の(八)に
認定したとおり、原告が労使間で自主解決するとの態度を表明したため、斡旋は不
調に終ったものであることが認められる。なお、前掲乙第八一、第八五号証によれ
ば、斡旋申請を受けた神労委が、労使双方に対し、今回に限り交渉員を三名とし、
これを先例としない、団体交渉には神労委が立ち会うという内容の斡旋案を打診し
たことが認められるが、これは、あくまで神労委が立ち合い、しかも先例としない
という条件で、交渉員を三名とするというものであるから、このことによって、原
告が主張した交渉員三名以内という団体交渉開催の条件の合理性が裏付けられるわ
けではない。
② たとえ、昭和六一年一月一一日以降、四回にわたり、双方の合意により交渉員
四名による団体交渉が開催されたとしても、それは、あくまで昭和六一年一月一一
日以降の時期における、しかも交渉員四名による団体交渉である。したがって、そ
のことによって、昭和六〇年末の同年度冬季一時金交渉において、交渉員三名以内
という条件を一方的に提案したうえ、補助参加人らとの再三の折衝においてもこれ
に固執して全く譲歩しようとせず、補助参加人らがこの条件に同意しないことを理
由に冬季一時金に関する団体交渉に応じなかった原告の態度、措置の正当性が、基
礎付けられる謂われはない。
(3) 以上のとおり、原告が、補助参加人らが交渉員三名以内との条件に同意し
ないことを理由に冬季一時金に関する団体交渉に応じなかったことは、正当な理由
なく団体交渉の開催を拒否したものであって、労働組合法七条二号所定の不当労働
行為に該当するというほかはない。
 そして、原告が補助参加人らとの団体交渉を拒否したことは、そのことによっ
て、冬季一時金の妥結を遅延せしめて、組合員の心理的不安や動揺を誘い、ひいて
は同分会の内部的混乱や弱体化を招くことを意図したものとの評価をも免れること
ができず、労働組合法七条三号所定の不当労働行為にも該当するというべきであ
る。
(二) 補助参加人分会の冬季一時金要求に対して「パートタイマー・臨時職員に
ついては、原告において別途決定する。」と回答したり、補助参加人分会が一般職
員についてのみ原告の回答どおり分離妥結したい旨申し入れたのを拒否したりした
原告の態度、措置は、前記四の2の(二)に説示したのと同様の理由で、労働組合
法七条三号所定の不当労働行為に該当するというべきである。
(三) 原告が、一二月一三日、受領承諾書を提出した非組合員に対して冬季一時
金を支給したことの不当労働行為該当性
 原告が、補助参加人らが交渉員三名以内との条件に同意しないことを理由に冬季
一時金に関する団体交渉に応じなかったことや、補助参加人分会の冬季一時金要求
に対して「パートタイマー・臨時職員については、原告において別途決定する。」
と回答したり、同分会が一般職員についてのみ原告の回答どおり分離妥結したい旨
申し入れたのを拒否したりすることによって、同分会をして冬季一時金問題を妥結
し得ないような状況に追い込み、その結果、同分会の組合員に対して冬季一時金が
支給されないという事態を招来させたことは右(一)、(二)に説示したとおりで
ある。しかるに、その一方で、原告は、一二月一三日、受領承諾書を提出した非組
合員に対して冬季一時金を支給している。
 このような原告の態度、措置は、冬季一時金交渉が妥結していないことを口実と
して、補助参加人分会の組合員を差別扱いするものであると共に、これによって、
組合員の心理的動揺や不安を誘い、ひいては同分会の組織的混乱や弱体化を招くこ
とを意図したものとの評価をも免れ難く、労働組合法七条一号、三号所定の不当労
働行為に該当するというべきである。
六 救済の必要性について
1 原告は、本件命令が維持した初審命令甲の主文第二項は、原告に対し、補助参
加人らが組織事情、交渉当事者適格等について釈明しないことを理由に、補助参加
人らとの団体交渉を拒否してはならないことを命じているが、原告は、昭和六〇年
度冬季一時金問題以降、諸般の事情を考慮して、補助参加人らが組織事情、交渉当
事者適格等について釈明しないことを棚上げにし、現実的な対応として、団体交渉
に応じることを表明し、現に団体交渉に応じ、その姿勢は今日に至るも同様なので
あるから、本件命令発令時には、初審命令甲の主文第二項に係る救済の心要性は消
滅していた旨主張する。
 しかしながら、原告は、前記五の1の(四)に認定したとおり、補助参加人らと
の団体交渉に応じる旨表明するに当たり、補助参加人らの名称変更と称する件につ
いて今なお法的疑義を抱いており、今後もこの主張は維持する所存であるとの留保
を付しているのであるから、原告が、補助参加人らが組織事情、交渉当事者適格等
について釈明しないことを理由に団体交渉を拒否する可能性はなお存続していると
認められ、本件命令発令時には、本件命令が維持した初審命令甲の主文第二項に係
る救済の必要性が消滅していたということはできず、原告の右主張は採用すること
ができない。
2 原告は、本件命令が維持した初審命令乙の主文第三項は、原告に対し、昭和六
〇年度冬季一時金相当額等の支払いを命じているが、原告は、補助参加人分会の組
合員らが、昭和六一年四月二一日、横浜地方裁判所川崎支部において、原告に対
し、昭和六〇年度冬季一時金相当額を右組合員らに仮払いすることを命じる仮処分
命令を得たことから、この仮処分命令に従い、直ちに右金員を右組合員らに仮払い
しており、被告としては、本件命令発令時において既に生じていた右のような事情
を斟酌し、救済の必要性が消滅したという観点から、初審命令乙の主文第三項を、
少なくとも初審命令甲の主文第一項に準じて取消・修正すべきであったにもかかわ
らず、これを怠った違法がある旨主張する。
 しかしながら、仮処分命令と救済命令とは、その目的、性質及び効力のいずれを
も異にする別個のもので、それぞれの要件を満たす限り、別個の命令として併存し
て発令することが許されるから、仮処分命令に基づいて金銭の仮払いがされている
ときでも、労働委員会としては、救済命令制度の趣旨に照らして必要があると認め
る限り、仮処分命令と同一の内容の救済措置を講ずることを妨げられるものではな
いというべく、この場合における救済命令は、使用者に対し、公法上の義務とし
て、仮定的、暫定的な金銭の仮払いを確定的な債務弁済として取消の余地のないも
のとするための一定の作為を命ずる意味があることになる。そして、本件全証拠を
もってしても、本件命令の発令時までに、原告が仮処分命令に対する異議申立権を
放棄したとか或いは仮処分命令に基づく金銭の仮払いを確定的な債務の弁済とする
ための労使間の協定を締結したなどの事情のあったことは認められないから、本件
命令が維持した初審命令乙の主文第三項に係る救済の心要性が消滅していたと解す
ることはできない。なお、このように解したとしても、救済命令の履行に当たって
は、仮処分命令に基づいて仮払いされた金員が斟酌され得るから、原告に対して二
重払いを強いる結果とならないことはいうまでもない。
 もっとも、本件命令が維持した初審命令甲の主文第一項は、右に見た初審命令乙
の主文第三項と異なり、原告に対し、非組合員に夏季一時金を支給した日の翌日か
ら補助参加人分会の組合員に仮払いをした日までの間の夏季一時金相当額に対する
年五分の割合による金員の支払いを命じているのみであることとの関係が問題とな
る。しかし、いずれも成立に争いがない乙第二、第三号証、丙第一〇号証の一ない
し三及び弁論の全趣旨によれば、初審命令甲においては、救済申立人である補助参
加人らが、仮処分命令に基づく仮払いがされたことを考慮して、申立の内容を、一
時金の支払いが遅延した期間中の遅延損害金相当額の支払いに自ら減縮したのに対
して、初審命令乙においては、同じように仮処分命令に基づく仮払いがされていな
がら、初審命令甲に係る夏季一時金についての仮処分命令に対して原告が起訴命令
の申立をして争う態度を示したこともあって(もっとも、右起訴命令に基づく訴訟
については、本件命令の発令後である昭和六三年一二月一四日に、仮処分命令によ
る仮払いによって昭和六〇年度夏季一時金の支払義務が履行済みであることを相互
に確認する旨の和解が成立している。)、救済申立人らが右のような減縮の申立を
していないためであることが認められる。すなわち、初審命令甲の主文第一項と初
審命令乙の主文第三項とが相違しているのは、救済申立をした補助参加人らの申立
内容の定立の仕方に原因があるのであって、そこに不統一のあることは否定できな
いが、右の事情を勘案すると、その結果は首肯し得るもので、少なくとも労働委員
会には、救済申立人に対して申立の内容の変更を促すべき義務があるとはいえない
から、被告が、初審命令乙の主文第三項を初審命令甲の主文第一項に準じて取消・
修正をしなかったからといって、救済措置の決定について被告に委ねられた裁量の
範囲を逸脱した違法があるとはいえない。
 原告の前記主張は採用することができない。
3 原告は、本件命令が維持した初審命令乙の主文第二項は、原告に対し、パート
タイマー・臨時職員の昭和六〇年度冬季一時金に関し、補助参加人らと誠実に協議
しなければならないことを命じているが、昭和六〇年度冬季一時金については、本
件命令が維持した初審命令乙の主文第三項によって、同一時金相当額等の支払いを
命じる救済措置が講じられているのであるから、当該事項について、更に団体交渉
を命じることは、屋上屋を重ねるに等しく、初審命令乙の主文第二項は救済の必要
性を欠く旨主張する。
 しかしながら、原告は、組合員であるかどうかを問わず、「パートタイマー・臨
時職員の昭和六〇年度冬季一時金に関しては、原告において別途決定する。」とす
るのみで、支給する額の決定基準をなんら示しておらず、その支給基準が明らかで
はないから、非組合員に支給した冬季一時金と同一の基準により算出した冬季一時
金相当額等の支払いを命じる初審命令乙の主文第三項を、パートタイマー・臨時職
員たる組合員について履行するためには、これに先立ちその支給基準を明確にしな
ければならないのである。そうすると、初審命令乙の主文第三項が命じる救済措置
の履行に先立ち、支給基準を明確にするため、原告にパートタイマー・臨時職員の
昭和六〇年度冬季一時金に関して補助参加人らと誠実に協議させる必要があるので
あって、初審命令乙の主文第二項は、救済の必要性を欠くことはないというべく、
原告の右主張は採用することができない。
4 ところで、本件命令が維持した初審命令乙の主文第一項は、原告に対し、補助
参加人らが交渉員を三名以内にしないことを理由に補助参加人らとの団体交渉を拒
否してはならないことを命じているが、前掲乙第一七九、第一八三号証、いずれも
成立に争いがない乙第一二四、第一三一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、
昭和六一年になってから、数回、補助参加人らと交渉員四名による団体交渉に応じ
ており、また、昭和六一年二月四日付け文書による団体交渉開催通知以降、団体交
渉開催の条件である交渉員の人数について、当初の「三名以内」から「三名程度」
にと含みのある表現に変更していることが認められる。
 しかしながら、前掲乙第一二四、第一三一、第一七九号証、いずれも成立に争い
がない乙第一〇九、第一二五、第一二八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、
団体交渉開催の条件である交渉員の人数を「三名程度」という表現に変更した後
も、交渉員が実質四名ならば団体交渉に応じるとの従前より若干柔軟な姿勢は示し
ているものの、依然として、補助参加人らが交渉員三名程度との条件に同意しなけ
れば、団体交渉に応じないとの態度を採り続けていることが認められ、右事実によ
れば、原告が、補助参加人らが交渉員三名以内の条件に同意しないことを理由に補
助参加人らとの団体交渉に応じないとの態度を完全に改めたとは認め難く、本件命
令発令時において、初審命令乙の主文第一項に係る救済の必要性は失われていない
というべきである。
七 ポスト・ノーティス命令について
 原告は、本件命令が維持した初審命令甲及び同乙の各主文第四項のポスト・ノー
ティス命令は、原告に対し、「陳謝文」と題する文書の掲示を命じ、しかも、その
文中に「陳謝する。」「誓約します。」との文言を記載することをも命じている
が、これは、原告に対し、その意に反する陳謝や誓約の意思表示を、過料・刑罰の
威嚇をもって強制するものであって、憲法一九条が保障する思想・良心の自由を侵
害する旨主張する。
 しかしながら、右ポスト・ノーティス命令が、労働委員会において原告の行為が
不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させることによって、労使関係
の歪みを是正すると共に、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであるこ
とは明らかというべきであって、右掲示文には、「陳謝する。」「誓約します。」
との文言が用いられてはいるものの、これは同種行為を繰り返さない旨の約束文言
を強調するに過ぎず、原告に対し謝罪等の意思表明を要求することを本旨とするも
のではないと解される。したがって、ポスト・ノーティス命令が原告に対し謝罪等
の意思表明を強制するものであるとの見解を前提とする憲法一九条違反の主張は、
その前提を欠くというべきである。また、被告が掲示文に「陳謝する。」「誓約し
ます。」との文言を用いたことは、右にみたポスト・ノーティス命令の趣旨、目的
に照らし、適切さを欠く面がなくはないが、本件事実関係の下においては、右ポス
ト・ノーティス命令が、原告の不当労働行為により補助参加人らの受けた不利益に
対する救済方法として行き過ぎたものとまでいうことはできず、被告に委ねられた
裁量権の範囲を逸脱し相当性を欠くものとはいえない。
 なお、原告は、従来、被告は、違憲、違法の問題が起きることに配慮し、各地方
労働委員会が命じたポスト・ノーティス命令に対して再審査が申し立てられた場合
には、本件のようないわゆる陳謝誓約型の文言を、陳謝や誓約などの文言を含まな
いいわゆる労働委員会認定型に変更してきたのであるが、本件に限りそのような措
置を採っていないのは、いわゆる平等原則に反するとも主張するが、被告が、ポス
ト・ノーティス命令の文言を、陳謝誓約型から労働委員会認定型に変更してきたと
いうことを認めるに足りる証拠はなく、右平等原則違反との主張はその前提を欠く
というべきである。
八 以上、認定・説示したとおり、本件命令にはなんら違法の点はなく、原告の本
件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行
政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 太田豊 水上敏 田村真)
別紙一~三(命令書)(省略)

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