弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告訴訟代理人竹内重雄の上告理由について
 本件係争の家督相続が開始したのは被上告人の先々代Dの死亡の日たる明治三十
六年五月二十日であるから右相続に関しては改正民法附則第二十五条第一項の規定
により改正前の民法を適用すべきである、従つて改正前の民法第九百六十六条の規
定が本件に適用のあることは言うまでもないところである而して右規定によると家
督相続回復の請求権は家督相続人又はその法定代理人が相続権侵害の事実を知つた
時から五年間之を行わないときは無効に因り消滅す、相続開始の時から二十年を経
過したとき亦同じとなつているのである、そしてこの後段の二十年の時効も亦時効
として一般時効に関する規定に従い中断せられることもあり又完成した時効の利益
を抛棄することもできるのであるが唯この二十年の時効の進行については一般の消
滅時効と多少差異があるのである。一般の消滅時効は権利が発生してそれが行使で
きる時から進行するのである、これに反し前記法条によると相続開始の時をもつて
二十年の時効の起算点としているのであるから相続開始後相続権の侵害せられるま
での期間は家督相続回復の請求権はまだ発生していないのであつて従つてこれを行
使することはできないに拘らずその消滅時効は相続開始の時から進行を始め右の期
間は当然に時効期間に算入せられることになるのである、そしてこのことは相続権
の侵害が相続開始後二十年の期間内に行われた場合に限るべきではなく、相続権の
侵害が二十年の期間後に行われた場合も亦同様に解すべきである、蓋し法律が二十
年の長期時効を認めたのは家督相続に関する争は相続開始後二十年以上の長年月を
経た後は二十年の時効で打切ることが家督相続の性質上からも又公益上からも必要
であるという趣旨に出でたものであるから、若しこれを相続権の侵害が二十年以後
行われた場合には長期時効の適用がないとするならば家督相続の争が二十年以上の
長年月に渉り行われる結果になり法律がこの時効を認めた趣旨に背馳することにな
るのである、原判決の確定した事実は単身戸主であつたDは明治三十六年五月二十
日死亡し被上告人先代Eが若松区裁判所昭和十一年(チ)第一二八号決定をもつて
招集された親族会によつて昭和十一年九月二十六日右Dの家督相続人に選定され同
年六月二十七日Dの家督相続届出をしたがEは昭和十八年十二月十四日死亡し同人
の養子である被上告人が昭和十九年一月三十一日Eの家督相続届出をしF家の戸主
として戸籍に登載されている、ところが被上告人の先代EをDの家督相続人として
選定した前記決議は昭和二十一年十二月十三日福島地方裁判所若松支部で之を無効
とする判決があり右判決は確定し次いで若松区裁判所昭和二十二年(チ)第一五号
決定に基く親族会において昭和二十二年三月二十二日上告人がDの家督相義人に選
定されたというのである、そして原判決は民法第九百六十六条の所謂家督相続回復
の請求権の時効は相続開始の時から進行するから中断事由の認められない本件にお
いては家督相続回復の請求権は相続開始の翌日たる明治三十六年五月二十一日から
起算して二十年の後たる大正十二年五月二十日時効完成したものと判断し被上告人
の時効の抗弁を理由あるものとしたのであつて何等所論の如き違法はない論旨は理
由なきものである。
 よつて本件上告は理由がないから民事訴訟法第四百一条第九十五条第八十九条に
依り主文の如く判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎

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