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平成27年5月14日判決言渡
平成26年(ネ)第10107号特許権侵害行為差止等請求控訴事件(原審大
阪地方裁判所平成25年(ワ)第5744号)
口頭弁論終結日平成27年3月19日
判決
控訴人株式会社ハッピー
訴訟代理人弁護士西枝康一
補佐人弁理士木村満
杉本和之
幸丸正樹
龍竹史朗
被控訴人ロイヤルネットワーク株式会社
訴訟代理人弁護士船橋茂紀
遠山光貴
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,別紙被控訴人方法目録記載第1の方法を使用してはならない。
3被控訴人は,別紙被控訴人装置目録記載第1の装置を使用してはならない。
4被控訴人は,別紙被控訴人装置目録記載第1の装置を廃棄し,被控訴人の提
供する「マイクローク」サービスで登録された情報を記録しているデータベースを
消去せよ。
5被控訴人は,控訴人に対して,1億2139万4166万円及びうち1億1
035万8333円に対する平成21年12月17日から,うち1103万583
3円に対する平成25年6月25日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
6訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要等
なお,呼称は,審級による読替えを行うほか,原判決に従う。
1事案の概要
「預かり物の提示方法,装置およびシステム」という名称の特許権(請求項の数
6)を有する控訴人が,被控訴人の「マイクロークサービス」というクリーニング
の預かり物の保管・返還サービス(被控訴人サービス),それに関する装置(被控訴
人装置)が,控訴人の有する本件特許権を侵害しているとして,被控訴人に対し,
特許法100条1項,2項に基づき,製造等の差止めや上記被控訴人サービスで登
録された情報記録データサービスの消去を求めるとともに,不法行為に基づく損害
賠償として,1億2139万4166円及びうち1億1035万8333円(特許
法102条の損害額)に対する被控訴人サービス開始日の翌日(平成21年12月
17日)から,うち1103万5833円(弁護士費用)に対する訴状送達日の翌
日(平成25年6月25日)から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金を請求した事案である。
原審は,平成26年9月18日,控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言
い渡したところ,控訴人は,同月30日に控訴した。
2前提事実
原判決第2の1(2頁10行目から7頁21行目)記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
第3争点及びこれに関する当事者の主張
次のとおり原判決を補正するほか,原判決第2の3及び第3(8頁6行目から4
3頁14行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
1原判決8頁19行目の末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「(4)被控訴人方法及び被控訴人装置の使用の差止めの要否,被控訴人サービ
スで登録された情報を記録しているデータベースの消去の要否(争点4)」
2原判決12頁21行目の冒頭に,「条件や」を加える。
3原判決16頁5行目~9行目を次のとおり改める。
「これに対して,被控訴人は,顧客からクリーニングの依頼なしに衣類の保管の
依頼に応じることはしていない。被控訴人サービスは,顧客からクリーニングする
ために衣類を預かり,これに必然的に付随する限度で保管を行うにすぎず,その
保管期間も通常は短期間である。10か月を超えて衣類を引き取りに来ない顧客
がまれにいるが,そのような顧客からも保管料は徴収していない。したがって,
被控訴人サービスに基づく保管作業は,「保管業務」に該当せず,被控訴人が顧客
から預かる衣類は「クリーニング対象の品物」に該当しない。」
4原判決17頁21行目~18頁2行目(第3の1-1【被控訴人の主張】(1)
エ(イ))を次のとおり改める。
「画像データが送信される条件が,特許請求の範囲に記載されていないことから
すると,「前記ユーザ情報と前記認証情報が一致する場合」とは,直ちに,顧客の
操作を要することなく自動的にユーザ情報(ID及びパスワード)に対応する画
像データが第2通信装置へ送信されるという具体的構成を指す。
これに対して,被控訴人方法においては,利用者の選択により,画像データの
送信の是否が決定されるのであって,ログインしただけでは,セッションIDに
対応する預かり物画像が検索されることも,データベースサーバから画像データ
が読み込まれることも,ユーザ側に画像データが送信されることもない。」
5原判決18頁4行目~6行目を次のとおり改める。
「本件明細書の記載に鑑みると,送信される画像データと送信されない画像デー
タを区別する基準を示す文言は存在せず,「一覧出力形式」とは,ユーザ情報に対応
する複数の品物の全ての画像を(【0053】,【0055】),ウェブブラウザの同一
画面において閲覧することができる形式をいう。」
6原判決18頁15行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「スクロール操作による問題は,ウェブブラウザの表示方法を縮小することによ
り全ての画像を画面上に表示させるのと同様であって,閲覧した画像を削除した後
に他の画像を閲覧することで結果として全体の閲覧が可能であることとは,根本的
に異なる。」
7原判決18頁22行目の「視覚的に示し,」の後ろに,「顧客が預入れを失念
している物を含めて,」を加える。
8原判決43頁14行目の末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「4争点4(被控訴人方法及び被控訴人装置の使用の差止めの要否,被控訴人
サービスで登録された情報を記録しているデータベースの消去の要否)
【控訴人の主張】
被控訴人は,特許法100条1項によれば,被控訴人方法及び被控訴人装置の使
用の停止及び廃棄を要する。
また,被控訴人は,特許法100条2項によれば,被控訴人サービスで登録され
た情報を記録しているデータベースの消去を要する。
【被控訴人の主張】
被控訴人は,平成25年4月29日に旧被控訴人方法を廃止し,新被控訴人方法
のみを行っているから,旧被控訴人方法及び旧被控訴人装置の停止及び廃棄の必要
性は認められない。
また,被控訴人装置自体は,市販のパソコンやデジタルカメラから構成される装
置で汎用性があり,被控訴人方法以外にも使用可能であるし,同じ機器は他から調
達することも可能である。したがって,被控訴人方法や被控訴人装置の使用差止め
を命ずることは,控訴人にとって実効性がない上に,被控訴人にとって過度の負担
を課するものである。被控訴人サービスで登録されたデータベース情報は,顧客台
帳の性質を有し,被控訴人サービス以外にも使用できる有用な営業資産であるし,
これらを消去すれば,各顧客から預かっている商品を返還できなくなり,無用な混
乱をもたらす。したがって,被控訴人方法が本件特許権を侵害するか否かにかかわ
らず,被控訴人方法や被控訴人装置の使用差止め及びデータベースの消去は認めら
れない。」
第4当審における当事者の主張
1控訴人
(1)構成要件1Dについて
ア「一覧出力方式」
(ア)国語的意味
「一覧できるように」を「全体を一目で分かるように」と限定して解釈すること
は不適切である。「一覧」は「全体に一通り目を通すこと」(甲14)という意味で
あり,「全体を一目で分かるようにすること」という意味も包含する。「一通り目を
通す」とは,複数の頁にわたる本の記載情報全てに目を通す場合を含み,必ずしも
一目で分かるものには限定されない。本件明細書にも,本件各発明における画像の
表示態様にはスクロール表示も含まれるとの記載があり(【0055】),1表示画面
上に全画像が表示されず,各画像が逐次表示されることにより全画像に一通り目を
通すことができるスクロール表示を含む趣旨の記載がある。
(イ)課題,課題解決の手段及び発明の効果,出願経緯からの検討
請求項1及び本件明細書には,画像出力を1回に限定する記載や1送信当たりの
画像データ数についての記載はない。全画面をスクロールさせて表示する場合,デ
ィスプレイに表示される画像のみを送信すれば足りる。請求項1に記載されていな
いにもかかわらず,画像出力の回数を「1回」に限定する解釈は誤りである。顧客
は,預かった複数の品物の全ての画像について,1回で出力する態様であろうと,
複数回に分けて出力する態様(逐次出力)であろうと,全体に一通り目を通すこと
ができる。出力が何回であっても,顧客は,どのような衣類を預けたかを忘れた場
合を含めて,預けている衣類の全体を正確に把握でき,その中から,返却を要求し
たい衣類を事業者に対して容易かつ的確に知らせることができるという本件特許の
目的,作用効果を奏することができる。このことは,出願経緯からも明らかであっ
て,【0059】には,電子メールによる画像データの送信が予定されていた旨記載
されているが,当時の技術レベルでは大容量のデータを必ず1回で送信することは
現実的でなかった。
イ被控訴人方法
構成要件1Dの充足性の判断は「保管中アイテム」のカテゴリーについてのみ判
断すれば足り,それ以外のカテゴリーを考慮する必要はない。
被控訴人方法における,「検品済みアイテム」,「保管中アイテム」,「保管期限間近
のアイテム」,「返却処理済みアイテム」という4つのカテゴリーのうち,「検品済み
アイテム」には,検品が終了して価格が決定しているが,顧客による入金処理が完
了しておらず,未だクリーニング役務契約が成立せず,保管を行うか否かが未定の
品物が表示される。被控訴人サービスでは,利用規約上代金の支払が先履行であり,
代金の支払がない限り,クリーニングの義務は発生せず,クリーニング対象の商品
には該当しない。「保管中アイテム」には,入金処理後の保管中のクリーニング対象
の品物が表示される。「保管期限間近のアイテム」には,保管期限(10か月)が残
り1か月未満の品物が表示されるが,「保管中アイテム」のカテゴリーで表示される
アイテムの一部を抜粋したものとなっており,「保管中アイテム」のカテゴリーの中
に含まれる。そして,「返却処理済みアイテム」には,顧客に既に返却した品物が表
示されるから,「預かり物」の画像ではない。被控訴人方法において,ウェブサイト
上,残日数がゼロになった商品は,顧客からの返却要請等を待機している状態で表
示されるが,実際には顧客の返却要請の有無にかかわらず,返却期間を経過すれば
一方的に返却されるから,クリーニング対象の品物ではない。保管期間経過後一定
期間被控訴人が商品を保管していたとしても,それは返還処理過程における一時的
なものであって,「預かり物」に当たるための保管とはいえない。こうしてみると,
被控訴人方法における「保管中アイテム」には保管中のクリーニング対象の品物が
全て含まれているから,構成要件1Dの充足性の判断に際しては,「保管中アイテム」
のカテゴリーを選択した後の被控訴人方法を問題にすべきである。
ウ旧被控訴人方法
旧被控訴人方法では,「保管中アイテム」が画面上に一括表示される。したがって,
旧被控訴人方法の出力形式は,「一覧出力形式」という要件を充足する。
エ新被控訴人方法
新被控訴人方法では,既に表示されているクリーニング対象の品物の画像の上下
に表示される矢印画像を逐次クリックすることにより,顧客が預けている他のクリ
ーニング対象の品物の画像を逐次表示させて,顧客が預けているクリーニング対象
の品物全ての画像に一通り目を通すことができるから,新被控訴人方法の出力形式
は,「一覧出力形式」という要件を充足する。
(2)均等論について
ア非本質性について
本件各発明は,預かり物の画像データの顧客の識別の用に供するための送信,及
び当該画像データへの顧客のクリック操作による品物の選択的な返却要求を行う点
が中核的,特徴的な部分であるから,本件各発明において,ユーザ情報に対応する
複数の品物の画像データを第2通信装置へ送信する形式である一覧出力形式は,本
件各発明の本質的部分とはいえない。本件特許の出願経過で,請求項1に「一覧出
力形式」の文言を追加する補正に対して,拒絶査定(甲21)がなされていること
からも,「一覧出力形式」が本件特許の特許性を左右するものではなく,本件特許の
本質的部分ではないことがわかる。
なお,「一覧出力形式」における画像データの出力回数に,本件各発明と新被控訴
人方法及び新被控訴人装置とで相違点があると仮定しても,その相違点は本件各発
明の本質的部分ではない。
また,本件各発明の上記特徴からすると,被控訴人方法及び被控訴人装置の複数
のカテゴリー中で本質的な部分は,「保管中アイテム」であり,「検品済みアイテム」,
「保管期限間近のアイテム」,「返却処理済みアイテム」といったその他のカテゴリ
ーは,いずれも本件特許の本質的部分ではない。
イ置換可能性について
本件各発明について,一覧出力形式の詳細について被控訴人方法及び被控訴人装
置の構成に置き換えたとしても,事業者が預かっている対象物の内容を画像で視覚
的に示すことによって,顧客が,預けている衣類を正確に把握でき,その中から,
返却を要求したい衣類を事業者に対して容易かつ的確に知らせることができるとい
う本件特許の目的,作用効果を奏することができる。
本件各発明において,旧被控訴人方法のように,「保管中アイテム」のカテゴリー
内の全ての品物の画像が顧客に送信される方法に置き換えた場合,顧客は,預けて
いる衣類を正確に把握することができ,返却を要求したい衣類を事業者に対して容
易かつ的確に知らせることができる。「検品済みアイテム」,「保管中アイテム」,「返
却処理済みアイテム」のカテゴリーを逐次選択することでも,最終的には全ての画
像につき目を通すことができる。そうすると,本件各発明の目的を達成することが
でき,同一の作用効果を奏するものと認めることができる。
また,「顧客が「保管中アイテム」のカテゴリーを選択すると,当該カテゴリー内
の1枚の画像のみが顧客側へ出力される」構成に置き換えたとしても,顧客は,本
件発明は,「保管中アイテム」のカテゴリーを選択してから,アイテム毎に画像を逐
次出力表示させることにより,保管対象とするアイテムに一通り目を通すことがで
きる。また,顧客の操作に応じて画像を選択的に送信する場合であっても,新被控
訴人方法のようにテキスト形式で品物一覧表を提示し,一覧表中の,逐次クリック
することにより表示させた画像に対応する品物の欄を明示することにより,顧客に
対して預かっているアイテムの全てにつき把握させることは可能である。
2被控訴人
(1)構成要件1Dについて
ア「一覧出力方式」
(ア)国語的意味
【特許請求の範囲】の記載から,「一覧出力形式」で送信する行為主体が提示者
(クリーニング業者等)であるのは明らかであるから,「一覧」も提示者が行為主
体になるように解釈する必要がある。そのように解釈すると,「一覧」とは「全体
を一目でわかるように」という意味と解される。
ユーザ情報に対応する全画像をディスプレイに表示することができない場合に
スクロールする必要が生じる形式と,ユーザ情報に対応する画像の一部が送信さ
れ表示されるだけの形式とは全く異なる。全画像を表示させるためにスクロール
する必要が生じる形式は,顧客が利用する第2通信装置(クライアントマシン)
へ全ての画像が送信されているが,ディスプレイの大きさにより一つの画面に表
示できない場合に,ディスプレイに表示させるために画面をスクロールして表示
させるものである。これに対して,一部の画像のみが送信及び表示される形式は,
第2通信装置にユーザ情報に対応する画像の全てが送信されているわけではなく,
残りの画像を表示させるためには,新たな画像の送信を要する。
(イ)課題,課題解決の手段及び発明の効果,出願経緯からの検討
本件各発明が解決しようとする課題は,どの衣類を預けたか忘れている顧客に対
して事業者が預かっている対象物の内容を画像で視覚的に示すことによって,顧客
が,預けている衣類を正確に把握し,その中から返却を要求したい衣類を事業者に
対して容易かつ的確に知らせることができるようにする点にあるから,顧客に対し,
1回の画像送信により預かっている衣類の全てを示す必要がある。しかしながら,
顧客が各操作をして結果的に全ての画像を閲覧できるようにするだけでは,どの衣
類を預けたか忘れた顧客が,適切に,全ての画像を送信するような操作を行うこと
を期待できない。このような方式は,顧客に対して容易かつ的確に全ての画像を示
すことにはならず,本件各発明が解決しようとする課題を解決できない。
【発明の実施の形態】では,「全て」の画像が1回で出力されるもののみを掲げ
ており,複数回の出力を示唆する記載は存在しない(【0053】~【0055】)。
本件特許の出願人であるAも,出願段階において,「本願発明においては,すべ
ての画像を必ず記録し,これらのすべてを提示することによってもそのような問
題が生じず,かえって顧客の利便性が向上されます。」(乙1)と,ユーザ情報に
対応する全ての画像を提示することにより顧客の利便性が向上される旨を強調し
ていた。
イ被控訴人方法
本件各発明において「一覧出力形式」で送信される「画像データ」は,保管中の
ものではなく「ユーザ情報に対応するもの」である。「画像データ」は「顧客から預
かるべき複数の品物」に関するものであるから,保管前の品物であっても「画像デ
ータ」として存在することがあり得る。【0017】も「画像データを得るタイミン
グとしては,顧客から預かる前であっても預かった後であってもよい。」と記載して
いる。また,「画像データ」は「顧客から預かった複数の品物」に関するものである
から,顧客に返却して保管が終了したものであっても「画像データ」として存在す
ることがあり得る。【特許請求の範囲】及び【発明の詳細な説明】のいずれにも,保
管後に顧客に返却した品物の画像データを当然に送信対象から除外する旨の記載は
存在しない。そして,保管中か否かを問わず「画像データ」のうち「ユーザ情報に
対応するもの」が全て送信されるのが,「一覧出力形式」である。
「検品済みアイテム」のカテゴリー内にある画像は,被控訴人が預かり,検品,
撮影し,被控訴人サーバに記録した時点から,顧客が入金するまでの間の品物であ
って,保管されている品物に関する画像である。また,顧客と被控訴人との間のク
リーニング役務契約は,顧客が被控訴人に対してクリーニングを委託し被控訴人が
これを承諾した時点(通常は,衣類の引渡しを同時に行う。)で成立する。したがっ
て,「検品済みアイテム」内の画像も,保管中であり,かつ,「ユーザ情報」に対応
するものである。そして,顧客が「保管中アイテム」をクリックしても,被控訴人
が保管中でありかつ「ユーザ情報」に対応する「検品済みアイテム」内の画像は送
信されないから,「一覧出力形式」に該当しない。「返却処理済みアイテム」内の画
像も「ユーザ情報」に対応するものであるが,顧客が「保管中アイテム」をクリ
ックしても,「返却処理済みアイテム」内の画像は「ユーザ情報」に対応するにも
かかわらず送信されないから,「一覧出力形式」に該当しない。顧客の意向が確認
できない状態で保管期限が経過した場合,「保管期限間近のアイテム」から自動的
に「返却処理済みアイテム」に移行するが,この場合,ご利用規約第10条に明
記しているとおり,被控訴人は,倉庫で当該商品を保管し続け,顧客から返却要
請があれば返却することになる。したがって,「返却処理済みアイテム」内の品物
も「預かり物」であることには変わりなく,「保管中アイテム」をクリックしただ
けでは「返却処理済みアイテム」内の画像が送信されない以上,「一覧出力形式」
には該当しない。
なお,この場合の顧客からの返却要請は,被控訴人システムの画面上での「返
却オーダー」ボタンのクリックではなく,電話や電子メールなどの画面外で行わ
れる。したがって,1Eの要件も充足しない。
(2)均等論について
ア非本質性について
本件各発明は,どのような預かり物があるかを忘れてしまった顧客に対して,預
かり物を知らせる方法として,画像を1点1点別々に提示するのではなく,また,
複数回に分けて顧客に示すのではなく,同一画面で全ての画像を閲覧することがで
きるようにするために,ユーザ情報に対応する画像データの全てを一度に送信する
ようにしたのであるから,「一覧出力形式」という構成は,本件発明の技術的課題の
具体的解決のための特定の解決原理であり,本件各発明の本質的部分である。
したがって,被控訴人方法のように,複数のカテゴリーに分類する方法は本質的
部分で相違する。
なお,本件各発明の本質的部分が,特許性を基礎付ける部分でなければならない
理由はない。
イ置換可能性について
本件各発明の目的,作用効果を奏することができれば送信する形式はどのような
ものでもよいわけではなく,明細書に開示された特定の技術的アプローチが明細書
中で顕現する限度で把握される特定の解決原理における同一性について考察すべき
である。本件各発明の目的からすれば,どの衣類を預けたかを忘れている顧客に,
預かり物の画像データの全てを知らせること,かつ,それを容易に知らせるために
は,1回の画像送信で全ての画像を顧客に示す必要がある。旧被控訴人方法では,
「保管中アイテム」をクリックしても,顧客からの預かり物の画像が全て送信さ
れるわけではなく,「検品済みアイテム」や「返却処理済みアイテム」内の画像デ
ータは送信されないし,また,新被控訴人方法では,「保管中アイテム」内の画像
の受付日付が最も古い1枚しか表示されず,他の画像を閲覧しようとすると,今
までの画像を閲覧できなくなるから,被控訴人方法は本件各発明の目的,作用効
果を奏することができず,置換可能性がない。
第5当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人の当審における追加主張を踏まえても,被控訴人方法及
び被控訴人装置は,控訴人の本件各発明を侵害しておらず(均等侵害を含む。),控
訴人の差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がなく認められないから,控訴人
の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は棄却されるべきものと
判断する。
その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の
「第4当裁判所の判断」に記載のとおり(別紙を含む。)であるから,これを引用
する。
(原判決の補正)
(1)原判決49頁18~20行目の「事業者は,顧客に対し,預かった複数の
品物の全てについて,1回の出力で,その画像を閲覧できるように提示する必要が
ある。」を,「顧客が,事業者に預けた複数の品物の全ての画像データを特定のウェ
ブページで表示させる操作を1度すれば(ただし,実際の画面表示までに要する出
力回数は問わない。),その後,他のウェブページへのアクセスや同一ウェブページ
上で他の画像への切替操作等をすることなく,同一のウェブページ上で全ての画像
を閲覧できるように,事業者は当該画像を提示する必要がある。」と改める。
(2)原判決50頁1~6行目の「ユーザ情報に対応する複数の品物の画像デー
タが出力された場合,その画像データの全てが一覧できる状態,例えば,ディスプ
レーに表示される場合には,ひとつの画面上で閲覧できる状態(ディスプレーの大
きさや画面の大きさにより,スクロールする必要が生じる場合を含む。)で,情報を
外部へ出す方法を意味する」を,「ユーザ情報に対応する複数の品物の画像データを
含むように生成されたウェブページとして出力表示された場合,ウェブページに含
まれるその画像データの全てが同一ウェブページ上で一時に閲覧できる状態(表示
される画像の数や大きさに起因するウェブページのサイズと,ディスプレーや画面
の大きさの関係により,全ての画像を閲覧するためにウェブページをスクロールす
る必要が生じる場合は,それを含む。)で,情報を外部へ出力する方法を意味する」
と改める。
(3)原判決50頁8行目及び同23行目の「甲6~8,乙3」をそれぞれ「甲
6~8,17,乙3」と改める。
(4)原判決51頁22~24行目の「本件各発明では,ユーザ情報に対応する
複数の品物の画像データを第2通信装置へ送信する方法として,「一覧出力形式」が
採用されている。」を「本件各発明は,「一覧出力方式」を採用し,ユーザ情報に対
応する複数の品物の画像を全て同一ウェブページ上で出力表示できるように,その
画像データ全てを第2通信装置へ送信することにしている。」と改める。
(5)原判決52頁2~3行目の「顧客は,預けている衣類を正確に把握できず,
返却を要求したい衣類を事業者に対して容易かつ的確に知らせることもできなくな
る。」を,「顧客は,わざわざ,他のカテゴリーにアクセスしたり,同一カテゴリー
内の他の画像に切り替えたりしなければ,預けている全ての品物を把握することが
できないから,他の品物の存在を失念しているような場合には,預けている品物を
確実に把握することができなくなる。」と改める。
2控訴人の当審における主張に対する判断
(1)本件発明1について
ア「一覧出力方式」の解釈について
控訴人は,「一覧」とは「全体に一通り目を通すこと」という意味も包含するので
あって,「全体を一目で分かるように」する場合に限る必要はないし,本件発明1に
対する課題解決のための手段という観点からも,出願経緯からも,出力を1回に限
定する必要もなく,被控訴人方法は構成要件1Dを充足すると主張する。
確かに,「全体を一目で分かるように」するためには,全体が画面に表示される必
要があるものの,その場合,画面への表示までに送信されるデータが一度で出力さ
れなければならない必然性はない。また,【0055】にあるとおり,本件発明1は,
画面をスクロールする場合を含むのであって,この場合,画面上表示されない画像
データについては事前に送信しなくても,表示するためのスクロールの時点までに
送信されていれば,全体を確認することができる以上,画面上表示されない画像デ
ータについては事前に送信しない方法も考えられ,このような観点からしても,画
像出力の回数を1回に限定する必要はない。また,本件発明1の目的,作用効果を
果たすためには,事業者は,顧客に対し,預かった複数の品物の全てについて一目
で分かるように,すなわち,複数の品物の全ての画像を含むように生成したウェブ
ページとして1回の呼出操作で,ウェブページに含まれる品物に対応した画像を閲
覧できるように提示する必要があるが,このことを表現するものとして,控訴人の
主張するとおり,「一覧」は「全体に一通り目を通す」ものと解釈することも一応は
可能である。
しかしながら,そう解釈した場合であっても,顧客が自らの預かり品の「全体」
の範囲を簡単に把握,理解できない方法では,すなわち,自分が行った1回の呼出
操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示されず,出力されていない画像
が他に存在する構成に基づく方法では,顧客が,表示されていない品物の存在を失
念している場合には,他のカテゴリーにアクセスしたり,同一カテゴリー内にある
他の画像を呼び出したりすることは考えられないのであって,自分が預けた品物を
全て正確に把握するという上記課題を解決できないから,「全体に一通り目を通す」
ことにならない。そうすると,1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブペ
ージに表示されない新旧いずれの方法についても,被控訴人方法がこの要件を欠く
ものとなる。
したがって,被控訴人方法は,本件発明1の技術的範囲に属しない。同様の理由
で,被控訴人方法は,本件発明2及び3の技術的範囲に属さず,被控訴人装置も,
本件発明4から6の技術的範囲に属しない。
イ被控訴人方法について
また,控訴人は,構成要件1Dの充足性の判断は「保管中アイテム」のカテゴリ
ーについてのみ判断すれば足り,それ以外のカテゴリーを考慮する必要はないと主
張する。
しかしながら,本件発明1において,画像データが一覧出力されるのは,「クリー
ニング対象の品物の保管業務における預かり物」の全てであって,顧客と事業者の
間のクリーニング契約の成立は条件となっていない。クリーニング対象物や預かり
物を定義した【0014】(「本明細書で称する「クリーニング業務」とは,衣類,
絨毯等のクリーニングを業として行うことであり,その対象となる品物(クリーニ
ング対象の品物)は,上述した衣類および絨毯に限定するものではなく,広く一般
にこの種類のクリーニング業務で扱われる品物を指すものである。」),【0018】
(「このようなことから,本願明細書においては,上記品物が,顧客の手を離れて,
クリーニング業務若しくは保管業務を行う者,又はこれに委託された者が「預かっ
た」時点以後から顧客に返却される迄の間において「預かり物」と称し区別してい
る」。)においても,対象となる預かり物は,衣類等のクリーニング業務で扱われる
品物で,顧客の手を離れて業者が預かった時点以降の全てのものを指すとされてい
る。これに対し,被控訴人方法の「検品済みアイテム」に表示される品物は,顧客
がクリーニングを依頼する前提で,その対象物として被控訴人に送付し,業者が保
管することになったものであるから,クリーニング業務の一環として保管が開始さ
れたものであることはいうまでもなく,「クリーニング対象の品物の保管業務におけ
る預かり物」に該当することは明らかである。そして,クリーニング代金が入金さ
れるまでの期間にかかわらず,「検品済みアイテム」の品物は「保管中アイテム」に
移行されないから,ある品物が長期間「検品済みアイテム」に表示されることも考
えられ,顧客が預かり物の有無及び内容を失念するという上記課題が生じないとは
いえない。その上,保管中の品物の中から返却すべき品物を決定する際には,保管
期間が必ずしも長くないものを含めた保管中の品物の内容を全て把握することが有
益といえるから,「全て」の品物の画像が表示されることに本件各発明の技術的意義
がある。したがって,上記課題を解決するためには,「検品済みアイテム」のカテゴ
リーを除外して検討してもよいことにはならない。
また,「返却処理済みアイテム」についてみると,控訴人の主張するように,被控
訴人が保管期間経過後に自動的に顧客に保管物を返却する運用を行っているとして
も,本件各発明における預かり物とは,顧客に返還されるまでの物を指すから(【0
018】),実際に手元に戻ってくるまでは「預かり物」であることに変わりない。
また,保管期間経過後即時に顧客の手元に品物が到着するわけではなく,返却実際
の返却までには一定の期間を要することになるから,顧客としては,保管物の存在
や内容を失念している場合には,上記期間内であっても全ての預かり物を正確に把
握するという上記課題が生じ得る。したがって,上記課題を解決するためには,「返
却処理済みアイテム」のカテゴリーを除外して検討してもよいことにはならない。
よって,控訴人の主張は採用できない。
なお,控訴人の主張するように,被控訴人方法が,被控訴人が自動的に返却手続
を取るものであるとしても,その場合は,顧客からのシステムを利用した返却要請
に応じて返却するものではないから,「返却処理済みアイテム」の商品は,「預かり
物」であるにもかかわらず,「返却要求を第2通信装置から送信」する構成が取られ
ていないことになり,構成要件1Eを充足せず,被控訴人方法が本件発明1を充足
しないことになる。したがって,被控訴人方法が本件発明1の技術的範囲に属しな
い(よって,被控訴人方法は,本件発明2及び3の技術的範囲に属しないし,被控
訴人装置は,本件発明4から6の技術的範囲に属しない。)という結論に変わりはな
い。
(2)均等論について
控訴人の当審での主張は,原審の繰り返しにすぎない。かかる主張に理由がない
は,原判決第4の3において説示したとおりである。
控訴人は,控訴人方法であっても,他のカテゴリーにアクセスしたり,同一カテ
ゴリー内にある他の画像を呼び出したりすることで,本件各発明の目的を達成する
ことができるから,本件各発明と同一の作用効果を奏することができると主張する
が,これは,「一覧出力方式」を採用することで,一覧性をもって,預かり物の画像
を全て顧客に提供することで確実に品物を把握させるという本件各発明の技術的意
義を否定する主張にほかならず,採用の限りではない。
第6結論
以上より,控訴人の請求はいずれも理由がなく,原判決は相当であるから,本件
控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
新谷貴昭
裁判官
鈴木わかな
【別紙】被控訴人方法目録
第1対象方法(被控訴人方法)
クリーニング対象の品物の保管業務における顧客からの預かり物をインターネッ
トを介して顧客に提示する「マイクローク」サービスで使用される,「預かり物の
提示方法」
第2被控訴人方法の構成
1顧客(以下「会員」という。)から預かったアイテムを写真撮影して,その
画像データを取得し(第1図),その画像データをデータベースに登録する。
2(1)会員の端末より送信されたユーザ情報と,データベースに記憶された認証
情報とによって,会員の認証をする。
(2)ユーザ情報の送信の手順
①会員は,会員の端末においてウェブブラウザを起動させて,「マイクロ
ーク|専用クロークで高品質な宅配クリーニング・保管サービス」ホームページ(第
2図)を表示させる。
②会員は,会員の端末を操作して,「マイクローク」ホームページに表示
される空欄に,ユーザ情報として,会員が登録したIDとパスワードを入力する(第
3図)。
③会員は,会員の端末を操作して,マイクローク画面の「ログイン」ボタ
ンに対してクリック操作する。
④上記クリック操作により,会員の端末装置が,被控訴人サービスで使用
されるサーバーに対して,ユーザ情報を送信する。
⑤会員の端末の画面上には,マイページTOP画面(第4図)が表示され
る。
3会員はマイページTOP画面(第4図)より,お預かりアイテム一覧の中の
「保管中アイテム一覧」という青文字,又は「返却オーダーへ」ボタンをクリック
操作する。
4前記クリック操作により,「保管中アイテム」カテゴリーの内容を表示する
画面を選択した状態のウェブページが会員の端末の画面上に表示される(第5図)。
なお,「保管中アイテム」カテゴリーの内容が表示されたウェブページ(第5図)
には,当該会員が預けている全てのアイテムが一覧表示され,また会員は,アイテ
ムの名称,返却を要求するためのチェックボックス,又は,画像の上下に表示され
ている矢印をクリック操作することにより,預けたアイテム全ての画像が閲覧でき
るようになっている。
5前記,「保管中アイテム」カテゴリーの内容を表示するウェブページ(第5
図)において,会員の端末操作により,会員は自己が預けた全ての品物の中から,
返却を要望する品物に対応したチェックボックスをクリックし,事業者に対して選
択的な返却要求を送信することができる。
6前記ウェブページ(第5図)の「返却オーダー確認画面へ」ボタンをクリッ
クすると,返却を要求したアイテムの返却先や返却日時を入力するウェブページ(第
6図及び第7図)に移行する。会員は,当該ウェブページにおいて返却先や返却日
時を入力し,「確認」ボタンをクリックすると,返却を要求したアイテムの返却先住
所や返却日時を確認するウェブページ(第8図)へ移行する。
第3図面の簡単な説明
第1図預かったアイテムの写真撮影を示す図面。
第2図「マイクローク|専用クロークで高品質な宅配クリーニング・保管サー
ビス」ホームページ画面。
第3図ログイン画面。
第4図マイページTOP画面。
第5図「保管中アイテム」カテゴリーの内容を表示して,預けた品物全ての中
から選択的な返却要求をすることができる画面。
第6,7図返却を要求したアイテムの返却先住所,返却日時を入力する画面。
第8図返却を要求したアイテムの返却先住所や返却日時を確認する画面。
第1図
第2図
第3図
IDとパスワード(ユーザ情報)を入力して「ログイン」ボタンをクリックすると、
マイページTOP画面(第4図)へ移行する。
第4図
いずれをクリックしても、「保管中アイテム」カテゴリー内容
が表示された状態のウェブページ(第5図)へ移行する。
第5図
預けた品物の全てが一覧表示
される。
この矢印をクリックして、上下に画像をスラ
イド表示させることにより、預けた品物の全
ての画像を閲覧できる。
なお、表示中の画像と、左の一覧表は関
連づけられているため、一目で預けている
品物を識別できるようになっている。
返却を希望するアイテムを選択してチェック
マークを入れることで返却要求をおこなう。
下部「返却オーダー確認画面へ」をクリック
すると、第6図のウェブページへ移行する。
預けた品物の全てを表示するカテゴリー
第6図
返却を要求したアイテムを確認することができる。
第7図
【第6図WEBページの続き】
返却を要求したアイテムの返却先や返却日時等を入力して、下部の「確認」ボタンを
クリックすると、第8図(入力情報の確認ページ)へ移行する。
第8図
【別紙】被控訴人装置目録
第1対象装置(被控訴人装置)
「マイクローク」サービス(被控訴人サービス)で使用される以下の装置。
1ディジタルカメラ
2コンピュータ
3データーベースサーバー
4Webサーバー
5ネットワークルーター及びファイヤーウォール
第2被控訴人装置の構成
被控訴人装置の構成について,次項の構成図を参照して,以下に説明する。
1会員から預かったアイテムを写真撮影するディジタルカメラ。
21で取得された画像データと,画像データに対応付ける認証情報とを入力す
るための,データ入力用コンピュータ(端末装置)。
3入力された画像データと認証情報とを記憶する記憶手段に相当するデータベ
ースを有するデーターベースサーバー。
4ユーザ情報と認証情報による顧客の認証を行う認証手段を備えるとともに,
記憶手段から会員の端末装置に送信する画像データを選択して読み出すサーバーと
なるWebサーバー。
5会員の端末装置にWebサーバーによって読み出された画像データを送信す
る送信手段であると同時に,顧客の端末装置から送信されるユーザ情報と返却要求
を受信してサーバーに送出するネットワークルーターやファイヤーウォール。
第3被控訴人装置の構成図

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