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判決 平成14年11月15日  神戸地方裁判所 平成13年(わ)第1005
号,平成14年(わ)第109号,第452号,第600号,第751号 強姦未
遂,強制わいせつ,強盗,傷害,窃盗被告事件
             主       文
    被告人を懲役6年に処する。      
    未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
          理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成13年5月6日午前零時45分ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号先
歩道上において
 1 同所を通行中のA(当時17歳)の姿を認めて劣情を催し,強いて同女にわ
いせつな行為をしようと企て,やにわにその後方から「静かにしろ。声出すな。」,
「家燃やされたらどうする。お父さんやお母さんが殺されたらどうする。」などと
申し向けて,同女及びその親族の生命身体等に危害を加える旨告知して脅迫し,そ
の反抗を抑圧した上,背後から同女に抱きつき,その両脇の下から両手を入れ,同
女の着衣の上からその乳房をもてあそび,更に着衣を捲り上げてその乳房を舐める
などし,もって強いてわいせつな行為をした
 2 前記1記載の暴行・脅迫により極度に畏怖し,反抗抑圧状態に陥っている同
女に対し,更に「靴よこせ。」と申し向け,同女が履いていたサンダル1足(時価約
2000円相当)を強取した
第2 同年6月5日午後11時40分ころ,同区b町f丁目g番h号先路上におい

 1 同所を通行中のB(当時19歳)に対し,その背後から同女の背部を両手で
強く突いて同女を同女方前の側溝に落とす暴行を加え,よって,同女に加療約1週
間を要する右手・右肘・右下腿打撲及び擦過傷,右前胸部打撲の傷害を負わせた
 2 引き続き,転倒した同女が脱ぎ落とした同女所有のサンダル1足(時価約3
000円相当)を窃取した
第3 同月15日午後8時50分ころ,同区i町jk番地のl先路上において,
 1 同所を通行中のC(当時18歳)に対し,両手で同女の肩付近を強く突き飛
ばし,同女を同所付近の草むらに転倒させる暴行を加え,よって,同女に加療約5
日間を要する骨盤(恥骨)打撲,左膝・下腿・足背打撲及び擦過傷の傷害を負わせ

 2 引き続き,転倒した同女が脱ぎ落とした同女所有のサンダル片足(時価約2
00円相当)を窃取した
第4 同年7月25日午後4時57分ころ,同区m町no番p所在のD公園におい

 1 E(当時23歳)に対し,両手でその肩付近を強く突き飛ばして同女を地面
に転倒させる暴行を加え,よって,同女に加療約1週間を要する両側手掌及び手根
部挫創,右膝部打撲及び擦過傷の傷害を負わせた
 2 引き続き,転倒した同女が脱ぎ落とすなどした同女所有のサンダル1足(時
価約5000円相当)を窃取した
第5 通行中のFの姿を認めるや,同女を強いて姦淫しようと企て,同年8月20
日午前6時45分ころ,同区i町j字qr番地のs先雑木林内及びその付近におい
て,同女(当時27歳)の背後に近づき,いきなり同女の口を左手で塞いで,同女
の背中にのし掛かるなどの暴行を加え,「殺すぞ。」,「包丁でも何でも持ってる
からな。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫しよう
としたが,同女が股を閉じるなどして抵抗するとともに,自己の陰茎が勃起しなか
ったため,その目的を遂げなかった 
ものである。
(証拠の標目)
(省略)
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,被告人が,本件各犯行当時,精神分裂病ないし有機溶剤による残遺性
障害のため,人格と行動の障害が持続し,幻覚妄想状態も残存する状態にあって,
心神喪失ないしは心神耗弱の状態にあった旨主張する。
 なるほど,関係各証拠によれば,被告人は,平成9年2月ころに幻聴,強迫観
念,自傷行為等の症状を示したことから,同年3月から兵庫県立G病院精神科で通
院治療を受け,同年12月24日から翌平成10年1月5日まで同病院に入院し,
その後本件各犯行当時まで継続して同病院で通院治療を受けていたものであって,
本件各犯行当時も精神分裂病又は平成3年ころに濫用した有機溶剤(シンナー)の
影響による脳機能障害が残存していたことが認められる。
 しかしながら,関係各証拠によれば,被告人は,前記の退院後は症状が次第に安
定し,平成13年当時は幻覚・幻聴・妄想を全く感じない状態になっていて,本件
各犯行も幻覚・幻聴・妄想に支配ないしは影響されての犯行ではないこと,本件各
犯行は,被告人が,性欲の赴くままに,一人歩きの女性を捜して,狙うべき女性を
見つけるとその後を追尾し,人通りの少ないところに至るや,道を尋ねる振りなど
をして被害者に近づき,いきなり暴行・脅迫を加えて強姦行為や強制わいせつ行為
に及び,あるいは,ミュールやサンダルを奪うことを累行したものであるが,その
際,被告人は,犯行の発覚を防止するために原動機付自転車のナンバープレートを
隠したり,被害者が被害申告しないように脅したりなどしていること,被告人が,
上記のように女性のミュールやサンダルを奪うことを累行したのは,女性の身体に
密着していて下着と同様の性的興奮を感じることができる上,下着を盗むほど困難
ではなく,デザインがきれいであることなどからであって,特にミュールやサンダ
ルに限っていたわけではなく,実際,逮捕後,被告人方からミュールやサンダルと
ともに女性の下着も発見されていること,被告人は,本件各犯行当時,新聞配達員
として真面目に稼働し,その点では通常の社会生活を送っていたこと,被告人は,
有機溶剤を濫用する以前の未だ幻聴等の症状が発現していない中学生のころに初め
て痴漢行為に及び,平成3,4年ころにも同種の犯行に及んでいるが,被告人の結
婚後離婚までの期間中は同種犯行に及んでいないことなどもまた認められるのであ
って,これらの事実を総合すれば,本件各犯行当時,被告人に精神分裂病又は有機
溶剤による脳機能障害が残存していたとしても,その程度は軽度であって,本件各
犯行におけるその影響は小さいというべきであるから,本件各犯行当時,被告人が
是非弁別能力及びその弁別に従って行動する能力を欠き又はこれが著しく減退する
状態には至っていなかったものと認めることができる。
 よって,弁護人の上記主張は採用することができない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の1の所為は刑法176条前段に,判示第1の2の所為は同法
236条1項に,判示第2の1,第3の1及び第4の1の各所為はいずれも同法2
04条に,判示第2の2,第3の2及び第4の2の各所為はいずれも同法235条
に,判示第5の所為は179条,177条前段にそれぞれ該当するところ,判示第
2の1,第3の1及び第4の1の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を選択し,
以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重
い判示第1の2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内
で,被告人を懲役6年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中240日をそ
の刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して
被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,夜間一人歩きの被害者に対し,判示のとおりの脅迫を加えて
その反抗を抑圧し,強いてわいせつな行為をした上,反抗抑圧状態にある被害者か
らサンダル1足を強取したという強制わいせつ,強盗(判示第1),被害者らに対
し,判示のとおりの暴行を加えて傷害を負わせるとともに,同女らのサンダルを窃
取したという傷害,窃盗(判示第2ないし第4),早朝通勤途中の被害者に対し,
判示のとおりの暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧し,強いて姦淫しようとしたも
のの,未遂に止まったという強姦未遂(判示第5)の事案である。
 被告人は,自己の性的欲望の赴くまま,女性を強姦したり,わいせつな行為をし
たり,女性の靴の臭いを嗅いで自己の性的欲求を解消するためその履いているサン
ダルやミュールを強取あるいは窃取したりしようとして,判示の各犯行に及んだも
のであって,その動機は極めて自己中心的かつ身勝手であって酌量の余地がないこ
と,被告人は,駅等で被害者となるべき女性を捜し,これを追尾したり,先回りし
て待ち伏せしたりした上,一人歩きの女性に対し,人気のない路上等で,判示のよ
うな暴行・脅迫を加え,強姦行為やわいせつな行為に及び,あるいはサンダル等を
強取ないし窃取し,判示第2ないし第4の各犯行の被害者には傷害を負わせている
のであって,その犯行態様は相当程度計画的であり,悪質であること,被告人は,
本件で起訴されただけでも,わずか3か月半程の期間に5回も犯行を重ねているの
であって,被告人にはこの種の犯行の常習性が認められること,被害者らは,何の
落ち度もないのに,本件各被害に遭ったものであるが,判示第1の犯行の被害者は
被告人が近隣に居住していることから仕返しなどに怯えており,判示第2の犯行の
被害者は自宅前で襲われ,判示第4の犯行の被害者は被告人に自宅を知られている
ことから,本件犯行により抱いた不安感はいずれも大きいと思われ,また判示第5
の犯行の被害者は,強姦こそ免れたものの,被告人の陰茎を触らせられるなどのわ
いせつな行為を強いられた上,犯行終了後,警察に被害申告をしたら,出所した後
で殺しに行くと脅されているなど,被害者らの受けた精神的苦痛や衝撃はいずれも
大きいこと,にもかかわらず,被告人の側から被害者らに対する慰謝の措置がほと
んど何も取られていないことなどを考え併せると,その犯情は悪く,被告人の刑事
責任は重いといわざるを得ない。 
 してみると,判示第2ないし第4の各犯行の被害者らが負わされた傷害の程度は
比較的軽微であること,判示第1ないし第4の各犯行において被害者らが強取ある
いは窃取された被害は大きいものではないこと,判示第5の犯行は幸いにも未遂に
止まっていること,本件各犯行当時,被告人の脳機能に障害が残っており,責任能
力に影響する程度のものではないとしても,本件各犯行がその影響を全く受けてい
ないとはいい切れないこと,被告人は,勾留中に自殺を図っているほか,事実を全
て認めて反省の態度を示し,2度と同種犯行を行わない旨述べていること,母親が
被告人の今後の監督を誓っていること,被告人には前科がなく,さしたる前歴もな
いこと,被告人は本件により約1年間身柄拘束を受けていることなどの,被告人の
ために酌むべき事情も考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。
(検察官の科刑意見 懲役8年)
 よって,主文のとおり判決する。            
  平成14年11月15日
     神戸地方裁判所第2刑事部
            
         裁判長裁判官  森   岡   安   廣       
      
裁判官  前   田   昌   宏      
        
裁判官  伏   見   尚   子 

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