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H18.5.25東京高等裁判所平成18年(ネ)第487号損害賠償,地位確
認等請求控訴事件,平成18年(ネ)第1500号同附帯控訴事件
事件番号:平成18年(ネ)第487号,平成18年(ネ)第1500

事件名:損害賠償,地位確認等請求
裁判年月日:H18.5.25
裁判所名:東京高等裁判所
部:第21民事部
結果:原判決一部変更
原審裁判所名:甲府地方裁判所
原審事件番号:平成15年(ワ)第300号,平成16年(ワ)第22号
判示事項の要旨:
1普通地方公共団体の長が,議会,委員会において,当該普通地方公共団
体の事務の執行に関し,故意又は過失により事実に反する説明をし,他人
の名誉を毀損した行為は,国家賠償法上違法となる。
2地方公共団体が地方公務員法3条3項3号所定の嘱託員で任用期間の定
めのあるものの職に任用された者を合理的理由がない限り再任用するとい
う運用を行っていた場合において,任命権者が再任用を希望していた当該
嘱託員につき合理的理由がないのに差別的な取扱いを行って再任用をしな
かったときには,当該行為は,上記嘱託員が有していた再任用について合
理的理由なしに差別的な取扱いを受けないという人格的利益を侵害するも
のとして国家賠償法上違法となる。
主文
1本件控訴及び本件各附帯控訴のうち弁護士費用相当額の損害賠償請
求に係る部分に基づき原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更
する。
(1)控訴人は,各被控訴人に対し,それぞれ100万円及び内金9
0万円に対する平成16年2月4日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
(2)被控訴人らのその余の請求を棄却する。
2その余の本件控訴及びその余の本件各附帯控訴を棄却する。
3訴訟費用(控訴費用及び各附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審
を通じてこれを5分し,その2を控訴人の負担とし,その余を被控訴
人らの負担とする。
4この判決は,第1項の(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2上記取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第2附帯控訴の趣旨
1原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
2被控訴人両名が控訴人の嘱託職員としての地位を有することを確認する。
3控訴人は,各被控訴人に対し,それぞれ230万円及び内金200万円
に対する平成16年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
第3事案の概要
1本件は,控訴人の町立温水プール(以下「温水プール」という。)にお
いて嘱託職員(期限付き嘱託員)として勤務していた被控訴人両名が,控
訴人及びその町長であり原審において被告であったAに対し,Aが町長室,
議会運営委員会(原判決にいう「議員運営委員会」とは後記のとおり議会
運営委員会を指す。)及び議員協議会(原判決にいう「町議会議員全員協
議会」,「全員協議会」とは後記のとおり「議員協議会」を指す。)にお
いて被控訴人両名に対する誹謗中傷を内容とした発言を行ってその名誉を
毀損するとともに,Aが町長としての権限を逸脱して教育委員会に働きか
けて合理的な理由がないにもかかわらず被控訴人両名を嘱託職員として再
任用しないこととする違法な行為を行ったとして,国家賠償法第1条第1
項及び民法第709条に基づき,これにより被控訴人両名が受けた精神的
苦痛等に対する慰謝料として,連帯して各200万円及びこれに対する本
件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払等を求めるとともに,控訴人に対し,被控訴人両名の嘱託
職員としての地位の確認を求める事案である。
原審は,被控訴人らのAに対する請求を棄却し,控訴人に対する請求を
一部認容した。これを不服とする控訴人が控訴を提起し,被控訴人らは附
帯控訴を提起して地位確認を求めるとともに弁護士費用相当額の損害賠償
請求を追加した。なお,被控訴人らは原判決中Aに関する部分については
控訴を提起しなかったため,原判決中同部分は確定した。
2争いのない事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり改
め,3のとおり控訴人の当審における主張を加えるほかは,原判決「事実
及び理由」欄中の「第2事案の概要」の2及び3並びに「第3争点に
対する当事者の主張」の1から4まで(原判決3頁14行目から10頁1
0行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,前記の
とおり,原判決にいう「議員運営委員会」とは議会運営委員会を指し,
「全員協議会」とは「議員協議会」を指すが,原判決中のこれらの用語は
訂正しないこととする。)。
(1)原判決中上記引用に係る部分のうちの各「被告ら」をいずれも「控
訴人」と,各「被告A」をいずれも「A」とそれぞれ改める。
(2)原判決5頁24行目から6頁2行目までを削除する。
(3)原判決6頁3行目の「イ」を「ア」に改め,同行目の「仮に,原告
両名の主張が不適法でないとしても,」を削除する。
(4)原判決6頁9行目の「ウ」を「イ」に改める。
3控訴人の当審における主張
(1)平成15年3月20日の議会運営委員会及び同年4月11日の議員
協議会におけるA及び各町議会議員との質疑応答を録音していたテープ
の反訳書(乙16,17)によれば,Aが被控訴人らの名誉を毀損する
ような発言をしていないことが明らかである。
(2)普通地方公共団体の長が議会,委員会において議員の質疑に対して
する答弁は,議員の質疑等が地方自治における住民の意思形成の前提と
なるものであることに照らすと,議員の質疑等について最高裁平成6年
(オ)第1287号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3
850頁が判示しているところと同様に,仮に普通地方公共団体の長の
答弁のうちに個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとして
も,これによって当然に国家賠償法第1条第1項にいう違法な行為があ
ったものとして地方公共団体の損害賠償責任が生ずるものではなく,同
責任が肯定されるためには,普通地方公共団体の長が,その職務とはか
かわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し,あるいは,虚偽
であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど,普通地方公共
団体の長がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使した
ものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解すべきで
ある。仮にそうでないとしても,普通地方公共団体の長が職務として議
会等において議員の質疑等に応じて答弁するについては,正当業務行為
とされる範囲が広いことは明らかである。Aは,町長としての職責を果
たすために必要最小限度の答弁を行ったものである。
(3)原判決の真実性に関する事実認定には事実誤認がある。
(4)被控訴人らの本件辞令の発令の違法を理由とする損害賠償請求を認
容した原判決は,最高裁平成6年(オ)第1287号同9年9月9日第
三小法廷判決・民集51巻8号3850頁に反する判断をしている。
(5)被控訴人らは,自らの意思により嘱託職員としての再任用を断った
のであり,その他,原判決の判断は前提となる事実認定を誤って判断を
したものというべきである。
第4当裁判所の判断
1被控訴人らの請求の当否について判断する前提となる事実関係について
は,次のとおり訂正するほかは,原判決「事実及び理由」欄中の「第4
当裁判所の判断」の1(原判決10頁12行目から17頁7行目まで)に
説示するとおりであるから,これを引用する。控訴人が当審において提出
した証拠を考慮しても,原審の上記認定を左右するに足りない。
原判決11頁5行目から23行目までを次のとおり改める。
「(2)控訴人における嘱託職員等の任用等
控訴人においては,昭和町職員定数条例(昭和42年昭和町条例
第3号)により一般職の地方公務員(地方公務員法第4条にいう
「職員」)の採用に関して定数に上限が設けられており,上記制限
の下で正規任用に係る一般職の地方公務員だけでは賄いきれない事
務量があるが,特別の習熟,知識,技術又は経験を必要としない代
替的事務については,人件費等の増大を防ぐとともに,住民サービ
ス向上等のために,地方公務員法第3条第3項第3号にいう嘱託員
に相当する嘱託職員の職に任用し,また,同法第22条第2項所定
の臨時的任用を行う運用がされていた。控訴人においては,上記の
嘱託員を嘱託職員と呼び,臨時的に任用された者を臨時職員と呼ん
で,給与等の支給は「昭和町嘱託職員及び臨時職員等の給与及び旅
費に関する規則」(昭和63年6月28日規則第10号)に基づい
て行っており,平成15年4月1日当時,控訴人全体で約170名,
そのうち教育委員会において67名の嘱託職員及び臨時職員(以下
両者を併せて「嘱託職員等」という。)が採用されていた。こうし
て,昭和町教育委員会生涯学習課温水プールにも一般職の地方公務
員のほか嘱託職員等が配置されており,平成15年3月当時,昭和
町教育委員会生涯学習課温水プールは,一般職の地方公務員1名,
嘱託職員8名及び臨時職員1名によって構成されていた。
嘱託職員等の採用については,従来いわゆる縁故採用が行われて
いたが,平成12年6月ころからは公募を含む登録制度が取り入れ
られ,そのころから,任期ごとに6か月(特別職の場合は1年の場
合もある。)の任用期間を明示した辞令を交付するという扱いを行
うようになった。
昭和町教育委員会における嘱託職員等の採用においては,教育長
が実質的な人事権を有し,教育委員会が辞令を交付することとなる
が,実際上増員や異動といった職員配置の変更が必要な場合には,
教育委員会として事前に申し入れをし,町長,総務課長と協議をす
る方法を採っていた。
控訴人において,従来,任用期間が長年にわたる嘱託職員につい
て任用期間の更新をしないこととする措置を執ったことはなく,昭
和町教育委員会でも同様であった。B教育長及びC所長が在任して
いた平成13年から平成15年にかけて,昭和町教育委員会におい
て,再任用を希望した嘱託職員等についてそれを認めず,再任用を
しなかった例はなく,被控訴人両名が初めてであった。」
2本件控訴のうち名誉毀損を理由とする国家賠償請求に係る部分について
当裁判所も,前記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含
む。)の下では,被控訴人らの名誉毀損を理由とする国家賠償請求は,各
被控訴人につきそれぞれ30万円及びこれに対する平成16年2月4日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
限度で理由があるからこれらを認容すべきであるが,その余は理由がない
から棄却すべきであると判断する。その理由は,次のとおり訂正し,後記
の4のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは,
原判決「事実及び理由」欄中の「第4当裁判所の判断」の2の(1)及び
(3)のア(原判決17頁9行目から21頁14行目まで,同31頁5行目
から9行目まで)に説示するとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決18頁24行目から19頁1行目までを次のとおり改める。
「そして,議会運営委員会(乙第16号証によれば,原判決にいう
「議員運営委員会」とは「議会運営委員会」を指すものと認められ
る。)には議長や控訴人の幹部職員だけでなく町議会の各委員会の代表
者や一部の町議会議員も出席しており,また,議員協議会(乙第17号
証によれば,原判決にいう「全員協議会」とは「議員協議会」を指すも
のと認められる。)には控訴人の幹部職員だけでなく町議会議員全員が
出席していたのであって,Aの上記発言が町議会議員の質問に対する町
長としての答弁としてされたものであることからすると,Aの上記発言
が,町長の公式答弁として出席者を通じて不特定多数の者に伝播するこ
ととなる蓋然性があったものということができる。」
(2)原判決19頁8行目から10行目までを次のとおり改める。
「(イ)これに対し,控訴人は,Aが上記のとおり発言したのは町長
として必要な答弁をしたものであり,町長としての正当な職務行
為にほかならないとして,違法ではないと主張する。
普通地方公共団体の執行機関は,当該普通地方公共団体の条例,
予算その他の議会の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規
程に基づく当該普通地方公共団体の事務を,自らの判断と責任に
おいて,誠実に管理し及び執行する義務を負うのであり(地方自
治法第138条の2),普通地方公共団体の長は,当該普通地方
公共団体の事務を管理し及びこれを執行するのであり(同法第1
48条),普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の
長その他の執行機関の報告を請求して,当該普通地方公共団体の
事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができるのであ
って(同法第98条第1項),これらの規定が示すとおり,普通
地方公共団体の長は誠実に当該普通地方公共団体の事務を執行し
なければならず,その事務の執行が事実に基づいて適正にされて
いるかどうかは議会による検査の対象となることに照らせば,普
通地方公共団体の長が上記のとおり職務を執行するに当たって必
要とされる普通地方公共団体の長自らの判断は事実に基づくもの
でなければならず,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認が
あること等によりその判断が全く事実の基礎を欠く場合には,そ
のような判断に基づく職務執行行為は違法となるというべきであ
る。そして,上記の地方自治法第138条の2及び同法第98条
第1項の趣旨に照らすと,普通地方公共団体の長は,議会,委員
会において当該普通地方公共団体の事務の執行に関して誠実に説
明すべき義務を負っていることはいうまでもなく,この説明をす
るに当たっては,事実に基づいてこれを行わなければならず,故
意又は過失により事実に反する説明をした場合には,当該普通地
方公共団体の事務の執行に関して説明責任を果たしたということ
はできないのみならず,そのような説明をすることは,普通地方
公共団体の長の職務執行行為として違法となるといわざるを得な
い。したがって,普通地方公共団体の長が,上記の説明の過程で
行った発言により他人の名誉を毀損するに至ったときは,当該行
為が国家賠償法上違法となることも否定することができないもの
というべきである。
控訴人は,普通地方公共団体の長が議会,委員会において議員
の質疑に対してする答弁は,議員の質疑等が地方自治における住
民の意思形成の前提となるものであることに照らすと,議員の質
疑等について最高裁平成6年(オ)第1287号同9年9月9日
第三小法廷判決・民集51巻8号3850頁が判示しているとこ
ろと同様に,仮に普通地方公共団体の長の答弁のうちに個別の国
民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても,これによっ
て当然に国家賠償法第1条第1項にいう違法な行為があったもの
として当該普通地方公共団体の損害賠償責任が生ずるものではな
く,同責任が肯定されるためには,普通地方公共団体の長が,そ
の職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示
し,あるいは,虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘
示するなど,普通地方公共団体の長がその付与された権限の趣旨
に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事
情があることを必要とすると解すべきであると主張する。
確かに,国会又は地方公共団体の議会における議員の質疑等は,
多数決原理による統一的な国家意思ないし地方公共団体の意思の
形成に密接に関連し,これに影響を及ぼすべきものであり,国民
又は住民の間に存する多元的は意見及び諸々の利益を反映させる
べく,あらゆる面から質疑等を尽くすことも国会議員又は地方公
共団体の議会の議員の職務ないし使命に属するものであるから,
質疑等においてどのような問題を取り上げ,どのような形でこれ
を行うかは,国会議員又は地方公共団体の議会の議員の政治的判
断を含む広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであって,
たとえ質疑等によって結果的に個別の国民又は住民の権利等が侵
害されることになったとしても,直ちに当該国会議員又は地方公
共団体の議会の議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえ
ないと解すべきである(上記第三小法廷判決参照)。しかしなが
ら,地方自治法第138条の2及び同法第98条第1項の趣旨か
らすると,普通地方公共団体の長は,議会,委員会において当該
普通地方公共団体の事務の執行に関して誠実に説明すべき義務を
負っているのであり,この説明をするに当たっては,事実に基づ
いてこれを行わなければならず,故意又は過失により事実に反す
る説明をした場合には,当該普通地方公共団体の事務の執行に関
して説明責任を果たしたということはできないのみならず,その
ような説明をすることは,普通地方公共団体の長の職務執行行為
として違法となるといわざるを得ず,したがって,普通地方公共
団体の長が上記の説明の過程で行った発言により他人の名誉を毀
損するに至ったときは,これにより不法行為に基づく損害賠償責
任が生ずることも否定することができないことは前記のとおりで
あり,このことは,上記第三小法廷判決が指摘するその質疑等に
ついて広範な裁量権を有する国会議員又は地方公共団体の議会の
議員の場合と異なるといわざるを得ない。したがって,控訴人の
前記主張は採用することができない。」
(3)原判決19頁11行目の「確かに,」を「次に,」に改める。
(4)原判決21頁8行目から14行目までを削除する。
3本件控訴のうち本件辞令の発令が違法であることを理由とする国家賠償
請求に係る部分について
(1)地方公共団体の嘱託員(地方公務員法第3条第3項第3号)で任用
期間の定めのあるものの職に任用された者は,任用期間の満了後に再び
任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを
期待する法的利益を有するものと認めることはできない(最高裁平成4
年(オ)第996号同6年7月14日第一小法廷判決・裁判集民事第1
72号819頁,判例タイムズ871号144頁参照)。もっとも,任
命権者が,上記嘱託員に対して任用期間満了後も任用を続けることを確
約し又は保障するなど,任用期間満了後も任用が継続されると期待する
ことが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別の事情が
ある場合には,当該嘱託員は,上記のような権利ないし法的利益を取得
するものではないとはいえ,そのような誤った期待を抱いたことによる
損害につき国家賠償法に基づく賠償を請求することができると解する余
地があるというべきである(上記第一小法廷判決参照)。このように,
任用期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又
は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることが
できない場合であっても,任命権者が自らの言動によって当該嘱託員に
任用期間満了後も任用が継続されるとの誤った期待を持たせるような特
別の事情がある場合には,この期待を裏切る行為が国家賠償法上違法と
なると解する余地があることにかんがみれば,当該地方公共団体におい
て上記嘱託員を再任用しないことについて合理的理由がない限り再任用
するという運用が行われていた場合には,上記嘱託員は,任用期間の満
了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用さ
れることを期待する法的利益を有するものと認めることはできないとは
いえ,少なくとも,合理的理由なしに再任用について差別的な取扱いを
受けないという人格的利益を有していたものと見るべき特別の事情があ
るということができる。したがって,上記の運用が行われていた場合に
おいて,任命権者が再任用を希望していた当該嘱託員につき合理的理由
がないのに差別的な取扱いを行って再任用をしなかったときには,当該
行為は,当該嘱託員の上記のような人格的利益を侵害するものとして国
家賠償法上違法となると解するのが相当である。そして,当該地方公共
団体において,上記嘱託員の職を維持すべき客観的な必要性があり,か
つ,従来再任用を希望した嘱託員については特段の事情がない限りその
者を再任用するという運用が行われていたという場合にあっては,当該
地方公共団体においては上記嘱託員を再任用しないことについて合理的
理由がない限り再任用するという運用が行われていたものということが
できるから,任命権者が上記嘱託員を再任用しないこととするについて
は合理的な理由を必要とするのであり,合理的な理由がないにもかかわ
らず,任命権者が再任用を希望していた当該嘱託員につき差別的な取扱
いを行って再任用をしなかったときには,当該嘱託員の人格的利益を侵
害するものとして国家賠償法上違法となると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに,前記争いのない事実に前記引用に係る
原判決の認定事実及び証拠(原審における証人B,同C)を併せて考え
れば,平成15年3月当時,昭和町教育委員会生涯学習課温水プールは
一般職の地方公務員が1名,嘱託職員8名及び臨時職員1名によって構
成されていたこと,控訴人においては,昭和町職員定数条例(昭和42
年昭和町条例第3号)により正規職員の採用に関して定数に上限が設け
られており,上記制限の下で正規任用に係る一般職の地方公務員だけで
は賄いきれない事務量があるが,特別の習熟,知識,技術又は経験を必
要としない代替的事務については嘱託職員等を採用する運用が行われて
いたこと,控訴人において,従来,任用期間が長年にわたる嘱託職員等
について任用期間の更新をしないこととする措置を執ったことはなく,
昭和町教育委員会でも同様であったこと,B教育長及びC所長が在任し
ていた平成13年から平成15年にかけて,昭和町教育委員会において,
再任用を希望した嘱託職員等についてそれを認めず,再任用をしなかっ
た例はなく,被控訴人両名が初めてであったこと,A町長は,平成15
年4月1日以降被控訴人らを再任用しない方針を固めていたが,同年3
月18日に至るまでB教育長に事前にその方針を告げたことはなく,B
教育長はA町長の上記の方針を知らなかったこと,B教育長は,A町長
が被控訴人らに対して再任用しない旨を告げた後,同年7月までに限っ
て再任用するという案を考え,A町長にその旨説明してその案の了承を
得たこと,本件辞令の発令当時,昭和町教育委員会生涯学習課温水プー
ルにおいて嘱託職員の人数を減少させなければならない客観的な必要性
が生じていたわけではなく,被控訴人らを再任用しないことにつき合理
的な理由が存在していたことを認めるに足りる証拠はないこと,以上の
とおり認めることができる。これに対し,控訴人は,被控訴人らを再任
用しなかったことについて合理的理由があったとして縷々主張するが,
その主張を裏付ける事実を認め難く,いずれも採用することができない
ことについては,原判決24頁4行目から29頁8行目までに説示する
とおりであるから,これを引用する(ただし,原判決24頁4行目の
「エ組織的な運用について」を「ア控訴人における嘱託職員の再任
用に関する基準の有無ないし運用の実情について」と,同頁19行目か
ら21行目までを「以上によれば,控訴人において任用期間が長年にわ
たる嘱託職員等については一定の採用年数経過後は再任用しないことと
するなどの基準を設けていたり,そのような運用を行っていたりしたも
のと認めることはできない。」と,同頁22行目の「オ」を「イ」とそ
れぞれ改め,同28頁1行目の「利用したり」の次に「,被控訴人矢口
が住民に選挙の個票を依頼したりした」を加え,同30頁2行目の
「カ」を「ウ」と改める。)。
上記認定事実によれば,控訴人の嘱託職員である被控訴人らは,本件
辞令の発令当時,再任用されることについて権利ないし法的利益を有し
ていたわけではないが,合理的理由がないのに再任用について差別的な
取扱いを受けないという人格的利益を有していたものというべきである
から,任命権者が合理的理由がないのに再任用について差別的な取扱い
を行った場合は,再任を希望していたにもかかわらず再任されなかった
嘱託職員の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となると
解するのが相当である。
そして,上記人格的利益は,地方公共団体の嘱託職員が,本来権利な
いし法的利益を有していたわけではない再任用について,合理的理由の
ない差別的な取扱いを受けないという観点から法的保護に値することが
肯定されるものであること,Aの名誉毀損行為による損害については別
途控訴人に対して賠償請求がされて認容されること,その他本件辞令の
交付に至る経緯について認められる前記引用に係る原判決の認定事実に
顕れた一切の事情を総合勘案すると,上記人格的利益が侵害されたこと
により各被控訴人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,各被控
訴人につきそれぞれ60万円をもって相当とするというべきである。
4控訴人の当審における主張に対する判断
控訴人は,種々の理由を掲げて原審の認定を争い,被控訴人らの請求を
一部認容した原審の判断を非難するが,いずれも理由がなく採用すること
ができないことは,前記のとおりである。控訴人の上記主張は失当である。
5本件各附帯控訴のうち弁護士費用相当額の国家賠償請求に係る部分につ
いて
上記1及び2のとおり,控訴人は,Aの違法行為により各被控訴人に対
し,それぞれ合計90万円の無形の損害を与えたものというべきところ,
上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては各被控訴人につき
それぞれ10万円が相当である。
被控訴人らは,上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては
各被控訴人につきそれぞれ60万円をもって相当とすると主張するが,採
用することはできない。
6本件各附帯控訴のうち地位確認請求に係る部分について
前記引用に係る原判決の認定事実によれば,被控訴人らの控訴人の嘱託
職員としての任用期間は平成15年3月31日をもって満了しており,そ
の後被控訴人らが控訴人の嘱託職員として任用されたことを認めるに足り
る証拠はないから,被控訴人らの地位確認請求は理由がなく,これを棄却
すべきである。
したがって,被控訴人らの地位確認請求を棄却した原判決は相当であり,
本件各附帯控訴のうち地位確認請求に係る部分は棄却すべきである。
7なお,被控訴人らは,本件口頭弁論終結後,「弁論再開の申立て」と題
する書面を提出し,本件各附帯控訴のうち地位確認請求に係る部分に関し,
本件口頭弁論終結後に言い渡された東京地方裁判所平成16年(ワ)第57
13号同18年3月24日判決を参考資料として提出した上,同判決を論
拠として更に主張立証を行う必要があるとし,このことを理由に口頭弁論
の再開を求めているが,当裁判所は,上記東京地裁判決を十分検討した上
で,同判決は前記第一小法廷判決が説示した判例法理とは異なる見解に基
づいてされたものであり,被控訴人らの地位確認請求について更に審理を
行う必要はないと判断し,したがって,口頭弁論を再開しなかった次第で
ある。
第5結論
よって,本件控訴は一部理由があるがその余は理由がなく,また,本件
各附帯控訴のうち弁護士費用相当額の損害賠償請求を追加した部分も一部
理由があるがその余は理由がないから,原判決中控訴人に対する損害賠償
請求に係る部分を上記判断と抵触する限度において変更することとし,他
方,本件各附帯控訴のうち地位確認請求に係る部分は理由がないからこれ
を棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第21民事部
裁判長裁判官浜野惺
裁判官高世三郎
裁判官長久保尚善は,転任のため署名押印することができない。
裁判長裁判官浜野惺

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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