弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち別紙物件目録1(1),(2)及び同2記
載の各土地に対する平成17年度から平成19年度
までの固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る
事実に係る部分を却下する。
2被告が別紙物件目録2記載の土地に対しそのうちデ
ッキプレートが設置されている部分の地目を宅地と
して,その余の部分の地目を池沼としてそれぞれ評
価せずに平成15年度及び平成16年度の各固定資
産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠ってい
ることが違法であることを確認する。
3原告のその余の請求(ただし,被告が別紙物件目録
2記載の土地についてA町自治会,A町自治会こと
B又はCに対し平成15年度及び平成16年度の固
定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠っているこ
とが違法であることの確認請求を除く。)をいずれ
も棄却する。
4訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担と
し,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告が別紙物件目録1(1)記載の土地に対しその地目を宅地として評価せず
に固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であるこ
とを確認する。
2被告が別紙物件目録1(2)記載の土地に対しその地目を宅地として評価せず
に固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であるこ
とを確認する。
3被告が別紙物件目録2記載の土地に対しその地目を宅地として評価せずに固
定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であることを
確認する。
4被告が別紙物件目録2記載の土地に対しそのうちデッキプレートが設置され
ている部分の地目を宅地として,その余の部分の地目を池沼としてそれぞれ評価せ
ずに固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法である
ことを確認する。
5被告がD町会又はY1に対し別紙物件目録1(1)記載の土地の固定資産税及
び都市計画税の賦課徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
6被告がD町会又はY1に対し別紙物件目録1(2)記載の土地の固定資産税及
び都市計画税の賦課徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
7被告がA町自治会,A町自治会ことB又はCに対し別紙物件目録2記載の土
地の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠っていることが違法であることを確
認する。
8被告は,Y2,Y3,Y4,Y5に対し,連帯して堺市に対し100万円の
支払を求める請求をせよ。
第2事案の概要
1本件は,堺市の住民である原告が,登記簿上の地目がため池とされ,その現
況も池である別紙物件目録1(1)及び(2)記載の各土地並びに同目録2記載の土地
(以下,これらの土地を「本件各土地」という。)は,これを所有する地元の町会
ないし自治会において第三者に賃貸され,その水面上にデッキプレートが構築され
て建物が建築され宅地として利用されているにもかかわらず,被告堺市長は,本件
各土地が地方税法348条2項6号の公共の用に供するため池に該当するなどとし
て,これに対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を違法に怠り,同市に損害
を与えているなどと主張して,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,被告
堺市長に対し,本件各土地に対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事
実の違法確認を求めるとともに(前記第1の1ないし7の各請求),同項4号に基
づき,被告堺市長に対し,同市長又は同市北支所税務課長の職にあり又は職にあっ
た者(Y2,Y3,Y4及びY5)に損害賠償として連帯して100万円の支払の
請求をすることを求めた(前記第1の8の請求)事案である。
2法令の定め
(1)地方税法342条1項は,固定資産税は,固定資産に対し,当該固定資産
所在の市町村において課する旨規定する。
地方税法343条1項は,固定資産税は,固定資産の所有者(質権又は100年
より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については,その質権者又
は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する旨規定し,同
条2項は,同条1項の所有者とは,土地又は家屋については,登記簿又は土地補充
課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については,当
該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律2条2項の区分所有者とする。以下固
定資産税について同様とする。)として登記又は登録されている者をいい,この場
合において,所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡してい
るとき,若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅してい
るとき,又は所有者として登記されている同法348条1項の者が同日前に所有者
でなくなっているときは,同日において当該土地又は家屋を現に所有している者を
いうものとする旨規定し,同法343条4項は,市町村は,固定資産の所有者の所
在が震災,風水害,火災その他の事由によって不明である場合においては,その使
用者を所有者とみなして,これを固定資産課税台帳に登録し,その者に固定資産税
を課することができる旨規定する。
地方税法348条1項は,市町村は,国並びに都道府県,市町村,特別区,これ
らの組合,財産区,地方開発事業団及び合併特例区に対しては,固定資産税を課す
ることができない旨規定する。
地方税法348条2項は,固定資産税は,同項各号に掲げる固定資産に対しては
課することができないが,ただし,固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各
号に掲げる固定資産として使用する場合においては,当該固定資産の所有者に課す
ることができる旨規定し,同項6号として,「公共の用に供する用悪水路,ため池,
堤とう及び井溝」と規定する。
地方税法348条3項は,市町村は,同条2項各号に掲げる固定資産を当該各号
に掲げる目的以外の目的に使用する場合においては,同項の規定にかかわらず,こ
れらの固定資産に対し,固定資産税を課する旨規定する。
地方税法364条10項は,市町村は,固定資産税を賦課し,及び徴収する場合
においては,当該納税者に係る都市計画税をあわせて賦課し,及び徴収することが
できる旨規定する。
(2)地方税法702条第1項は,市町村は,都市計画法に基づいて行う都市計
画事業又は土地区画整理法に基づいて行う土地区画整理事業に要する費用に充てる
ため,当該市町村の区域で都市計画法5条の規定により都市計画区域として指定さ
れたもの(以下「都市計画区域」という。)のうち同法7条1項に規定する市街化
区域(当該都市計画区域について同項に規定する区域区分に関する都市計画が定め
られていない場合にあっては,当該都市計画区域の全部又は一部の区域で条例で定
める区域)内に所在する土地及び家屋に対し,その価格を課税標準として,当該土
地又は家屋の所有者に都市計画税を課することができ,当該都市計画区域のうち同
項に規定する市街化調整区域内に所在する土地及び家屋の所有者に対して都市計画
税を課さないことが当該市街化区域内に所在する土地及び家屋の所有者に対して都
市計画税を課することとの均衡を著しく失すると認められる特別の事情がある場合
には,当該市街化調整区域のうち条例で定める区域内に所在する土地及び家屋につ
いても,同様とする旨規定する。
地方税法702条第2項は,同条1項の「所有者」とは,当該土地又は家屋に係
る固定資産税について同法343条(3項,8項及び9項を除く。)において所有
者とされ,又は所有者とみなされる者をいう旨規定する。
地方税法702条の2第1項は,市町村は,国,非課税独立行政法人及び国立大
学法人等並びに都道府県,市町村,特別区,これらの組合,財産区,地方開発事業
団,合併特例区,非課税地方独立行政法人及び公立大学法人に対しては,都市計画
税を課することができない旨規定する。
地方税法702条の2第2項は,同条1項に規定するもののほか,市町村は,同
法348条2項から5項まで,7項若しくは9項又は同法351条の規定により固
定資産税を課することができない土地又は家屋に対しては,都市計画税を課するこ
とができない旨規定する。
地方税法702条の8第1項は,都市計画税の賦課徴収は,固定資産税の賦課徴
収の例によるものとし,特別の事情がある場合を除くほか,固定資産税の賦課徴収
とあわせて行うものとする旨規定する。
3前提事実
(1)当事者等
ア原告は,旧大阪府南河内郡E町の住民であった者であり,平成17年2月1
日,E町が廃され,その区域が堺市に編入されたことにより,同日,堺市の住民と
なったものである。
イ被告は,堺市の市長である。
ウY3は,平成元年10月8日から平成13年10月7日まで堺市長の職にあ
った者である。
Y2は,平成13年10月8日から堺市長の職にある者である。
Y4は,平成12年度から平成14年度までの間,堺市北支所税務課長の職にあ
り,固定資産税等の賦課徴収を専決処理する権限を有していた者である。
Y5は,平成15年度から平成16年度までの間,堺市北支所税務課長の職にあ
り,固定資産税等の賦課徴収を専決処理する権限を有していた者である。
堺市D町会は,堺市D町の住民により組織された自治会であり,遅くとも平成1
8年以降Y1がその会長を務めている。
A町自治会は,堺市A町の住民により組織され,自治会会則を備える自治会であ
り,Cが平成17年度及び平成18年度の会長を務めている。
なお,D町会もA町自治会も地方自治法260条の2第1項にいう地縁による団
体には該当しない。
(2)本件各ため池
ア別紙物件目録1(1)記載の土地(以下「a番bの土地」という。)及び同目録
1(2)記載の土地(以下「a番cの土地」という。)は,堺市B区D町b番aため池3
7685㎡の土地(以下「b番aの土地」という。)等とともにJと呼ばれる池及び
堤を構成しており,a番bの土地の現況は池,a番cの土地の現況は堤であり,上記各
土地について昭和38年5月9日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされ
ている(甲23,27,乙1,8)。
a番bの土地及びa番cの土地は,D町水利組合がこれを管理し,平成5年ころから
D町会においてその敷地を堺中央綜合卸売市場協同組合に賃貸し,同協同組合は,
その水面上の大部分にデッキプレートを構築してその上に別紙物件目録1(3)記載
の複数の建物(附属建物を含む。)を建築して所有し,これらの建物において,コ
ーナン中環堺中村店,堺中央綜合卸売市場,大起水産堺活魚流通センター等が営業
している(甲5,13,20)。
イ別紙物件目録2記載の土地(以下「c番aの土地」という。)は,その現況が
池(Kと呼ばれている。)であり,登記簿の表題部に所有者として「B」と記載さ
れている。
c番aの土地は,K水利組合が管理し,遅くとも平成10年ころからA町自治会に
おいてその敷地(の一部)をエービーシー開発株式会社に対しABCハウジングA
住宅公園(住宅展示場)として賃貸し,その水面上の一部にデッキプレートが構築
されてその上に複数の建物(未登記)が建築され,モデルハウスとして展示されて
いる(甲6,8ないし10)。
ウa番bの土地及びa番cの土地について,堺市は,相当以前から,地方税法34
8条2項6号の規定により固定資産税を非課税とする扱いをし,また,これらの土
地が市街化区域に編入された平成13年度以降,地方税法702条の2第2項(平
成13年法律第8号による改正前のもの及び平成17年法律第5号による改正前の
ものを含む。以下同じ。)の規定により都市計画税を非課税とする扱いをしている
(甲2)。
c番aの土地について,堺市は,相当以前から,地方税法348条2項6号,地方
税法702条の2第2項の規定により固定資産税及び都市計画税を非課税とする扱
いをしている(甲2)。
上記各土地に構築されたデッキプレートについて,堺市は,償却資産として固定
資産税を賦課している(甲2)。
(3)住民監査請求及び本訴の提起等
ア原告は,上記(1)アのとおり堺市民となった日である平成17年2月1日,
ため池にデッキプレートを敷き,その上に家屋を建設するものとして,「堺市D町
a番のbにあるコーナン中環堺中村店,堺活魚流通センター」及び「堺市A町d−bに
あるABCハウジングA住宅公園」があるところ,これらのため池敷は収益用建物
の用に供する地盤であるから,宅地として評価した上宅地としての課税をすべきで
あるにもかかわらず,堺市は宅地として課税していないから,「上記2箇所の溜池
敷の固定資産税の賦課徴収を怠る事実」があるとして,堺市監査委員に対し,「上
記2物件について,5年ないし7年にさかのぼり,関係者らに対して,納付を怠っ
た固定資産税の相当額を堺市に納付することを請求する事を堺市長に勧告」するこ
とを求める住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。
イ堺市監査委員は,平成17年3月28日付けで,本件監査請求について,監
査対象事項を「堺市a町及びd町に所在する土地(貯水池敷地)に対して,固定資産
税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の賦課徴収を違法又は不当に
怠る事実があるのかどうか。当該怠る事実によって,市に損害が生じているのかど
うか。」であるとし(地方税法702条の8第1項は都市計画税の賦課徴収は固定
資産税の徴収の例によるものとし同税の賦課徴収とあわせて行うことを規定してい
るので都市計画税についても監査の対象としたとする。),監査対象期間を平成1
0年度から平成16年度までの期間とした上で,「本件2か所の土地は,「公共の
用に供するため池」に該当することから,固定資産税等を課していないことについ
て適正であるということができ,違法・不当に賦課徴収を怠っている事実は認めら
れない。」などとして,原告に対し,請求に理由がない旨の通知をした(甲2)。
ウ原告は,平成17年5月2日,請求の趣旨(ただし,平成17年10月12
日付け訴状補正書による補正後のもの)を下記のとおりとして本件訴えを提起した。
(ア)「被告堺市長が,堺市D町a番地に存するため池敷(ホームセンター,鮮
魚市場に利用),堺市A町d−b(住宅公園に利用)に存するため池敷に課すべき固
定資産税,都市計画税を平成12年度以降賦課徴収せず,怠ることは,違法である
ことを確認する。」
(イ)「被告堺市長は,相手方らに対し,違法に固定資産税の賦課徴収を怠り,
堺市の租税債権が消滅したことによる少なくとも以下の損害額(相手方自治会,町
内会に対しては固定資産税の賦課徴収を免れたことにより不当利得をした額)を請
求せよ。
①被告堺市長は,堺市D町a番地ため池分につき,平成6年度から平成11年
度までの固定資産税相当額2982万2166円及びこれに対する2005年5月
2日から支払済まで年5分の割合による金員を相手方Y3,Y6,Y7,Y8,D
町会に対し,連帯して支払うよう請求せよ。
②堺市A町d−bため池分につき,平成6年度から平成11年度までの固定資
産税相当額7488万4662円及びこれに対する2005年5月2日から支払済
まで年5分の割合による金員を相手方Y3,Y6,Y7,Y8,A町自治会に対し,
連帯して支払うよう請求せよ。」
エ原告は,平成18年9月4日付け訴えの変更申立書(同日の本件第5回弁論
準備手続期日において陳述)により,請求の趣旨を次のとおり変更した。
(ア)「被告堺市長が,堺市D町a番地に存するため池敷(ホームセンター,鮮
魚市場に利用),堺市A町d−b(住宅公園に利用)に存するため池敷に課すべき固
定資産税,都市計画税を平成14年度以降賦課徴収せず,怠ることは,違法である
ことを確認する。」
(イ)「被告堺市長は,相手方らに対し,違法に固定資産税の賦課徴収を怠り,
堺市の租税債権が消滅したことによる少なくとも以下の損害額(相手方自治会,町
内会に対しては固定資産税の賦課徴収を免れたことにより不当利得をした額)を請
求せよ。
①被告堺市長は,堺市D町a番地ため池分につき,平成6年度から平成13年
度までの固定資産税相当額3976万2888円及びこれに対する2005年5月
2日から支払済まで年5分の割合による金員を相手方Y3,Y6,Y7,Y8,D
町会に対し,連帯して支払うよう請求せよ。
②堺市A町d−bため池分につき,平成6年度から平成13年度までの固定資
産税相当額9984万6216円及びこれに対する2005年5月2日から支払済
まで年5分の割合による金員を相手方Y3,Y6,Y7,Y8,A町自治会に対し,
連帯して支払うよう請求せよ。」
オ原告は,平成19年10月1日付け原告準備書面(9)(同月19日の本件第
4回口頭弁論期日において陳述)により,請求の趣旨を前記第1の1ないし8のと
おり変更するとともに,前記第1の8の請求について,平成18年度に時効により
消滅した本件各土地に係る固定資産税及び都市計画税相当額の損害のうち100万
円の連帯支払請求をすることを求める一部請求である旨の陳述をした。
4争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,①本件各土地は地方税法348条2項6号の非課税財産に該当
するか,②本件各土地は地方税法348条1項の非課税財産ないし納税義務者を
確定することができない固定資産に該当するか,③本件各土地に係る平成13年
度の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠ったことにより堺市が被った損害の
額,④堺市長及び堺市北支所税務課長らの故意,過失の有無,であり,各争点に
関する当事者の主張は,次のとおりである。
なお,被告は,前記第1の1ないし7の各請求に係る訴えについて,平成14年
以前の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実に係る部分は固定資産税及
び都市計画税の賦課徴収権が消滅していることなどから不適法である旨の本案前の
主張をしているが,原告は,平成19年10月1日付け原告準備書面(9)による請
求の趣旨の変更によって,本件第4回口頭弁論期日当時においていまだ時効により
消滅していない本件各土地に対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事
実,すなわち,本件各土地に対する平成15年度から平成19年度の各固定資産税
及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実を対象として地方自治法242条の2第1項
3号に基づき上記怠る事実の違法確認を求める趣旨のものであることは,本件の審
理経過及び同準備書面の記載内容等に照らして明らかであるから,被告の上記本案
前の主張は,その前提を欠く。
(1)本件各土地は地方税法348条2項6号の非課税財産に該当するか(争点
①)
(原告の主張)
ア固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号)においては,土地の
地目は現況によるものとされ,地目の認定は原則として1筆ごとに当該土地の現況
及び利用目的に重点を置いて行うものとされている。また,不動産登記規則99条
も地目は主たる用途により宅地,池沼,ため池等に区分して定めるものとしている。
「ため池」は,不動産登記法上の地目としては存在するが,地方税法上は「その他
の土地」,すなわち,雑種地(田,畑,宅地,塩田,鉱泉地,池沼,山林,牧場,
原野以外の土地)として分類される。そして,土地の評価は,原則として1筆を単
位として行われ,例外的に,1筆の土地が2以上の地目に利用されているものにつ
いては,それぞれの地目ごとの土地をもって単位とし,非課税地の存する土地につ
いては課税単位をもって単位とするものとされている。
a番bの土地及びa番cの土地は,ほぼその全体にデッキプレートが構築されて普通
の宅地として利用されており,上記各土地全体の使用状況,主たる利用目的からみ
て,その地目は宅地である。なお,上記各土地はb番aの土地とともに,堤(a番cの
土地)を中央に2つの池(a番bの土地及びb番aの土地)から成り,a番bの土地が
「L」,b番aの土地が「J」と呼ばれていたようであり,上記各土地の周辺に田が
あるとしても,「J」(b番aの土地)が十分にため池の機能を果たしているのでは
ないかとの疑問もある。
c番aの土地は,そもそもその近隣には田畑は全くなく,被告がそのかんがいの用
に用いられていると主張している田の所在地である堺市A町e丁は上記土地(K)
からはA駅を超えた線路の反対側に位置しており,その付近は古墳を除いて宅地化
されているところからして,ため池として現在も利用されているとは考え難い。ま
た,デッキプレートは上記土地(池)の面積の4割程度を占めているとみられると
ころ,上記土地の主たる用途は建物の地盤であるから,現況主義,1筆評価原則の
下においては,上記1筆の土地の地目は宅地であり,デッキプレートが設置されて
いない部分は上記土地の価格の評価の際に考慮すれば足りる(前記第1の3の請求
の趣旨)。そうでないとしても,上記土地のうちデッキプレートが設置されている
部分を宅地,それ以外の部分を池沼として評価すべきである(前記第1の4の請求
の趣旨)。
イそもそも,固定資産税は,収益税的な性格も有しているところ,「公共の用
に供する」場合には,固定資産の所有者がこれを収益する可能性が極端に小さく,
収益税的財産税としての固定資産税を賦課することが課税の趣旨に合致しないとこ
ろがあることから,非課税とされているのである。このような地方税法348条2
項の趣旨からすれば,同項6号にいう「公共の用に供する」とは,同項1号及び5
号にいう「公共の用に供する」と同様に,何ら制限を設けず広く不特定多数人の利
用に供する状態をいうものと解すべきである。しかるところ,本件各土地は,農業
用水の貯溜という用途以外に,宅地,すなわち,建物所有権という排他性を有する
物権の設定の用に供しているのであるから,同項6号にいう「公共の用に供する」
ため池に該当しないことは明らかである。
ウ地方税法348条2項ただし書の趣旨は,所有者において賃料を徴収してい
る場合においては,一般の用途に供されているものと比較して,所有者の負担につ
いて別段の考慮をする必要は認められないことにあるところ,地方税法は,賃貸の
対象とされている土地が同法348条2項各号に該当しない用途で利用されている
場合はそもそも用途的非課税の対象にならないことを前提としているのであって,
固定資産が賃貸の対象とされた場合は,当該固定資産がどのような用途に供されて
いようとも,用途的非課税の対象とはなり得ない。本件各土地の賃借人はこれを宅
地の用に供しており,ため池の用に供していないのであるから,本件各土地は,同
項ただし書により,用途的非課税の対象とはならない。
エ地方税法348条3項は,固定資産をその用途や目的を理由に非課税とする
か否かは,単なる名義や形式によってではなく,非課税とするに足りる用途なり目
的なりに使用されているか否かの実質によって判断されるべきものであることを確
認的に明らかにしたものであるところ,本件各土地は,「公共の用に供するため
池」という用途,目的以外に,デッキプレートを設置してその上に建物を建造する
という用途,目的に使用しているのであるから,同項の規定により用途的非課税の
対象とはならない。
(被告の主張)
アa番bの土地及びa番cの土地は,その敷地(ため池敷)に水が流入流出貯溜さ
れて広くD町に所在する田の農業かんがいに供用されており,農業かんがい用施設
としての機能を果たしている。また,c番aの土地は,その敷地(ため池敷)に水が
流入流出貯溜されて広く堺市A町e丁に所在する田の農業かんがいに供用されてお
り,農業かんがい用施設としての機能を果たしている。このように,本件各土地は,
いずれもかんがい用水を貯溜等するため池としての用途に供されていることが明ら
かであるから,地方税法348条2項6号にいう公共の用に供するため池,堤とう
に該当し,したがって,これに対して固定資産税等を課することができない。
イ地方税法348条2項各号の非課税規定は,固定資産の用途に着目し,当該
固定資産を当該各号所定の用途に供する事実をもってこれに対する固定資産税等を
非課税としているものであるから,本件各土地(の一部)がD町会ないしA町自治
会によって賃貸され,デッキプレートが構築されてその上に建物等が建築されてい
るとしても,農業かんがい用水の貯溜地の用に供されている以上,同項6号により
固定資産税等を課することはできない。
原告は,本件各土地が賃貸されその水面より上の部分にデッキプレートが構築さ
れて使用収益されていることをとらえてため池敷に対し固定資産税等を賦課すべき
旨主張するが,固定資産の資産価値に着目した財産税である固定資産税を収益税的
にとらえるものであって,採用することができない。
ウ原告は,本件各土地について地方税法348条2項ただし書が適用されるか
のような主張をするが,同項ただし書は,固定資産を有料で借り受けた者がこれを
同項各号に掲げる固定資産として使用する場合についての規定であり,本件各土地
が同項ただし書の定める場合に該当しないことは明らかであるから,原告の上記主
張は理由がない。
また,原告は,本件各土地について地方税法348条3項が適用される旨の主張
をするが,同項は,固定資産が同条2項各号に定められているような公共的な用途
以外の使用のされ方をしているときには用途に着目した非課税の便宜を与える必要
もないことから当該固定資産に対して固定資産税等を課することを規定しているも
のであって,同条2項と表裏の関係を成す当然の規定にすぎず,当該固定資産が同
条2項各号所定の公共的用途に供されていないか又は公共的用途が阻害されている
ような場合に適用されるものであるところ,本件各土地は,その水面上にデッキプ
レートが構築されているものの,かんがい用水の貯溜,放流の機能を全く損なって
おらず,公共のため池として供用されているのであるから,同条3項が適用される
余地はない。
(2)本件各土地は地方税法348条1項の非課税財産ないし納税義務者を確定
することのできない固定資産に該当するか(争点②)
(原告の主張)
ア地方税法343条2項後段の趣旨は,台帳課税主義の下で同法が非課税とし
た趣旨から離れて事実上非課税となる範囲が広がることを可及的に防止することに
あり,このような同項後段の規定の趣旨及び文言からすれば,登記簿上地方公共団
体等の所有名義となっていても,市町村長が地方公共団体等の所有でないことを知
っている場合は,同項後段の規定の適用があると解すべきである。被告は,同項後
段の規定は実質的所有者がだれであるかを判定,確認することが困難なものについ
ては適用の余地はない趣旨の主張をするが,当該規定の文言上そのような制限はな
く,真の所有者の確定は非課税であるか否かとは別次元の問題である。
イ本件各土地については,D町会及びA町自治会が自らの本件各土地に対する
所有権を前提にこれに賃借権を設定しており,D町会及びA町自治会の上記所有権
について異議を述べている者が存在するといった事情もない。のみならず,D町会
は,昭和38年に「J」の一部の売買の当事者になっていたほか,中央環状線を挟
んで堺市F町c丁に存在する「J残地」に関する平成19年1月12日の売買にお
いてもその当事者となっており,被告もD町会にその所有権があるとの前提で上記
売買に基づく所有権移転登記手続に協力している。また,A町自治会は,昭和44
年に「K」の一部を南海不動産株式会社に売却した際,その当事者となっており,
堺市は,「K」の処分権者を「A町代表自治会長」とした上,c番aの土地から同番
2の土地を分筆して堺市名義で所有権保存登記をするとともに南海不動産株式会社
に対する所有権移転登記手続をしているのであって,A町自治会にその所有権があ
ることを前提に所有権移転登記手続に協力している。以上のとおり,D町会及びA
町自治会は,本件各土地に共有の性質を有する入会権(民法263条。D町会及び
A町自治会が権利能力なき社団に該当する場合)ないし狭義の共有権(D町会及び
A町自治会が権利能力なき社団に該当しない場合)を有しており,D町会及びA町
自治会の各代表者は,権利能力なき社団の代表者として又は共有者の一人として
(地方税法10条,10条の2)本件各土地に係る固定資産税等の納税義務を負う
ことは明らかである。
ウ以上のとおりであるから,被告は,a番bの土地及びa番cの土地については,
その登記名義を速やかに移転するか,又は地方税法343条2項後段を適用して,
D町会代表者Y1ないし共有者の一人としてのY1に対し,固定資産税等を賦課す
べきであり,また,c番aの土地については,A町自治会代表者Cないし共有者の一
人としてのCに対し,固定資産税等を賦課すべきである。しかるに,被告は,本件
各土地について,何ら固定資産税等を賦課徴収していないから,固定資産税等の賦
課徴収を違法に怠っているというべきである。
エc番aの土地について登記簿上所有者と記載されている「B」が現在において
具体的にだれなのかを特定することがきわめて困難というのであれば,地方税法3
43条4項の規定により,上記土地(ため池敷)の使用者であるA町自治会を納税
義務者として固定資産税等を賦課すべきであり,A町自治会がこれをかんがい用水
に利用するのみで土地自体を使用していないというのであれば,上記土地を有料で
使用している事業者(エービーシー開発株式会社)を納税義務者として固定資産税
等を賦課すべきである。
(被告の主張)
アa番bの土地及びa番cの土地は,登記簿に所有者を堺市として登記されている
から,地方税法348条1項により固定資産税等を貸すことができない。
この点,原告は,上記各土地は地方税法343条2項後段にいう「所有者として
登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなっているとき」に
該当する旨主張する。しかしながら,地方税法343条2項前段は,徴税の事務処
理の便宜上,その納税義務者である所有者の判定について画一的形式的に登記簿上
の所有名義人を当該不動産の所有者として取り扱えば足りる(当該登記簿上の記載
がされた経過等を問わない。)といういわゆる台帳課税主義を規定しており,同項
後段は,その例外として,不動産の実質的所有者(現実の所有者)を納税義務者と
して固定資産税等を賦課することを認めたものであるところ,同法が台帳課税主義
を採用した趣旨からすれば,同法343条2項後段の規定は,あくまでも,地方公
共団体が自信と責任を持って当該不動産の実質的所有者を判断し,固定資産税等を
課税することができる場合であることを前提としているものというべきであり,
「所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなっ
ているとき」とは,地方公共団体がもともと当該不動産を実質的に所有し,登記簿
に所有者として登記されていたが,賦課期日前に当該不動産の所有権を譲渡(売
却)し,それにもかかわらず何らかの事情により登記簿上当該不動産の登記名義が
変更されずに残ってしまっているような場合を適用対象としていると解すべきであ
って,このように解釈することが租税法律主義(憲法84条)にも合致する。しか
るところ,a番bの土地及びa番cの土地は,もともと堺市が実質的に所有していたも
のではなく,同市がこれを他に売却したという関係にもないから,上記各土地の実
質的所有者がだれであるかを具体的に確定することはきわめて困難である。したが
って,上記各土地は地方税法348条2項後段にいう「所有者として登記されてい
る第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなっているとき」に該当しない。
イc番aの土地は,登記簿の表題部に所有者を「B」とする記載がされているが,
現時点において「B」が具体的にだれを指すのか全く明らかではなく,同土地につ
いて固定資産税等を賦課することは不能な状態にある(A町自治会に対して賦課し
た場合において同自治会から当該賦課処分の取消訴訟を提起されたときは「B」が
A町自治会であることを立証する責任を負うことになるところこれを証明する資料
などはない。)ことにかんがみると,被告堺市長が同土地について固定資産税等を
賦課徴収していないことをもって賦課徴収を違法に怠るということはできない。
この点,原告は,c番aの土地について地方税法343条4項によりその使用者を
所有者とみなして固定資産税等を賦課すべきである旨主張するが,同項は,昭和2
5年の地方税法の改正において償却資産が固定資産税等の課税対象に加えられたこ
とに伴い,償却資産については所有者が不明となることもあり得るとの観点から,
その場合には使用者を所有者とみなして課税することができるようにしようとした
規定であるから,同項の規定を不動産に適用することは慎重かつ厳格でなければな
らず,同項にいう「所有者の所在が震災,風水害,火災その他の事由によって不明
である場合」とは,震災等の災害的事由や,災害的事由にきわめて準ずるような事
情のために,所有者が所在不明となっている場合を意味するものと解すべきであり,
また,所有者の所在について調査を尽くしたことが前提で,それにもかかわらず,
なお所有者の所在が明らかにならないような場合に限り,同項の規定が適用される
ことになると解すべきであるところ,上記土地の登記簿上所有者として記載されて
いる「B」が歴史的経過の中で現在のだれに該当するのか分からないというのは,
災害的事由に準ずるような事情のために所有者の所在が不明というのとは異質なこ
とであり,また,「B」が現在のだれに該当するかは調査検討の途上であることか
らすれば,上記土地について同項の適用の余地はない。
(3)本件各土地に係る平成13年度の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を
怠ったことにより堺市が被った損害の額(争点③)
(原告の主張)
前記(1)(原告の主張)アのとおり,本件各土地は宅地として評価すべきである。
a番bの土地及びa番cの土地の平成13年度固定資産税等の課税標準額の概算値は,
平成14年1月1日時点における南側の路線価10万9000円(当時の地価下落
傾向の中で平成13年度の路線価が平成14年度のそれを下回ることはない。)に
崖地補正(補正率0.5)をした単位地積当たりの評点数5万4500にその面積
(公簿面積)28181㎡を乗じた上商業地等の負担水準の調整措置として0.7
(70%)を乗じた額である10億7510万5150円であり,固定資産税の税
額の概算値は上記課税標準額に税率1.4%を乗じた1505万1472円,都市
計画税の税額の概算値は上記課税標準額に税率0.3%を乗じた322万5315
円,固定資産税及び都市計画税の合計額の概算値は1827万6788円である。
c番aの土地の平成13年度固定資産税等の課税標準額の概算値は,平成14年1
月1日時点における北西側の路線価11万3000円(当時の地価下落傾向の中で
平成13年度の路線価が平成14年度のそれを下回ることはない。)に崖地補正
(補正率0.5)をした単位地積当たりの評点数5万6500にその面積(公簿面
積)18366㎡を乗じた上商業地等の負担水準の調整措置として0.7(70
%)を乗じた額である7億2637万5300円であり,固定資産税の税額の概算
値は上記課税標準額に税率1.4%を乗じた1016万9254円,都市計画税の
税率は上記課税標準額に税率0.3%を乗じた217万9126円,固定資産税及
び都市計画税の合計額の概算値は1234万8380円である。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
(4)堺市長及び堺市北支所税務課長らの故意,過失の有無(争点④)
(原告の主張)
a番bの土地及びa番cの土地上の建物は平成5年6月には存在しており,c番aの土
地上の建物も遅くとも平成10年以降存在しているところ,被告は,これらの建物
については固定資産税を賦課しているというのであるから,これらの建物について
課税された時点から,本件各土地に対する固定資産税等を賦課徴収すべきであった。
また,平成6年7月発行の自治省資産評価室編集の固定資産評価基準解説土地篇に
は,デッキプレートが設置されている池について,その地目を宅地として評価する
旨の明確な基準が提示されている上,1筆の土地が2つ以上の地目に利用されてい
ると評価され,一方の利用態様が非課税であっても,課税される態様で利用されて
いる部分は課税するのが原則であることからしても,本件各土地のうちデッキプレ
ート部分は宅地として課税すべきであったのであり,当該部分が非課税となる理由
は存しない。しかるに,堺市は,これらの地目認定の原則についての調査研究を怠
り,漫然と本件各土地に対する非課税扱いを継続し,本件訴訟の提起後である平成
17年6月1日に堺市地区共有地問題懇話会を設置して,登記名義人が「共有地」,
「大字何某」である土地に対する課税に向けて具体的な調査及び判断を行っている
(本件に関連する平成17年8月16日付け住民監査請求に対する同年10月13
日付け監査結果)というのであり,これらの状況,経過からすれば,堺市の市長の
職にあるY2及び北支所税務課長として本件各土地に対する固定資産税等の賦課徴
収を専決処理する権限を有するY5ら堺市の責任者は,遅くとも平成17年10月
には,本件各土地に対して固定資産税等を賦課すべきことを自覚し,又は重過失に
よりこれを自覚していなかったというべきであり,また,平成元年10月から平成
13年9月まで堺市の市長の職にあったY3及び平成12年度から平成14年度ま
で北支所税務課長として上記の専決権限を有していたY4も,十分な調査や有効に
機能する調査体制の整備を怠った点について少なくとも過失があるというべきであ
る。なお,地方自治法243条の2第1項の規定は,公金の賦課又は徴収に係る相
手方への損害賠償請求については相手方の責任を軽減していない。
(被告の主張)
本件各土地のようにため池として公共の用に供されていながらその水面上にデッ
キプレートが構築されて使用収益されている土地に対する固定資産税等の賦課徴収
のあり方についての裁判例や通達等もない中で,そのような土地が地方税法348
条2項6号に該当し固定資産税等を課することができないとする解釈適用をするこ
とには相応の根拠があるから,堺市長や堺市北支所税務課長の職にあり又は職にあ
った者(Y2,Y3,Y4及びY5)に本件各土地に対する固定資産税等の賦課徴
収を怠ったことについて故意過失を認める余地はない。
第3争点に対する判断
1本件訴えの適法性
(1)前記前提事実(3)オの請求の趣旨の変更後の本件訴えは,前記第1の1ない
し7の各請求に係る部分が,a番bの土地,a番cの土地及びc番aの土地(本件各土
地)に係る平成15年度から平成19年度までの固定資産税及び都市計画税の賦課
徴収を怠る事実を対象とするものであり,前記第1の8の請求に係る部分が,平成
18年度において時効により消滅した本件各土地に係る固定資産税及び都市計画税
の賦課徴収を怠る事実,すなわち,本件各土地に係る平成13年度の固定資産税及
び都市計画税の賦課徴収を怠る事実(地方税法18条,362条1項,堺市市税条
例(昭和41年堺市条例第3号)39条1項)を対象とするものであると認められ
るところ,前記前提事実(3)に加えて本件監査請求に係る住民監査請求書(甲2)
によれば,平成17年2月1日に提起された本件監査請求は,本件各土地に係る平
成10年度から平成16年度までの固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事
実を対象とするものであって,平成17年度から平成19年度までの固定資産税及
び都市計画税の賦課徴収を怠る事実をもその対象に含むものとは認められないから,
本件訴えのうち本件各土地に対する平成17年度から平成19年度までの固定資産
税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実に係る部分は,適法な住民監査請求の前置
を欠くといわざるを得ない。
この点,原告は,怠る事実については,住民監査請求の対象とされた怠る事実が
継続している限り,監査請求後の期間に係る怠る事実も住民訴訟における審理の対
象となるところ,本件監査請求は,被告が年度に関係なく本件各土地を用途的非課
税ないし人的非課税若しくは納税義務者の特定不能を理由とする非課税としてこれ
に対する固定資産税等の賦課徴収を継続して怠っていることが違法であるとしてそ
のような取扱いを止めること,具体的には,登記簿又は固定資産課税台帳における
本件各土地の地目及び納税義務者の内容の変更を求めるものであって,これは,そ
の後の事情の変更がない限り,一度行えば済むものであるところからすれば,本件
監査請求は,実質的には,1回の行為を怠っていることを問題とするものであるか
ら,このような賦課徴収を怠る事実を本件監査請求の前後で期間的に分断すること
は妥当ではなく,本件監査請求に係る住民監査請求書(甲2)の記載内容にかんが
みても,本件監査請求は将来分の賦課徴収を監査の対象から除外する趣旨のもので
はないなどと主張する。
しかしながら,地方税法359条,364条,702条の6,702条の8の規
定等からすれば,地方税法は,固定資産税及び都市計画税について,各年度ごとに
その徴収権が発生する仕組みを採用していることが明らかであるから,たとい市町
村が複数年度にわたって継続的に同一土地に対する固定資産税及び都市計画税の賦
課徴収を怠っているとしても,各年度に係る当該土地に対する固定資産税及び都市
計画税の賦課徴収を怠る事実がそれぞれ別個に存在し,住民監査請求の対象となる
というべきである。そして,地方自治法242条の2第1項は,普通地方公共団体
の住民は,「前条第1項の規定による請求をした場合において」,「同条第1項の
請求に係る違法な行為又は怠る事実につき」,住民訴訟を提起することができる旨
規定しているところからすれば,当該土地に対する固定資産税等の賦課徴収を怠る
事実を対象とする住民訴訟においても,当該住民訴訟の対象とされた各年度に係る
当該土地に対する固定資産税等の賦課徴収を怠る事実ごとに当該怠る事実を対象と
する住民監査請求を経ていることがその適法要件になると解さざるを得ない。また,
地方自治法242条1項は,その規定の文理に照らしても,請求時点においては存
在しておらず将来発生することが予測される怠る事実を対象とする住民監査請求を
およそ予定していないことは明らかというべきであるから,市町村が複数年度にわ
たって継続的に同一土地に対する固定資産税等の賦課徴収を怠っているような状況
の下において請求時点までの年度に係る固定資産税等の賦課徴収を怠る事実を対象
とする住民監査請求がされた場合においても,当該住民監査請求がその請求時点よ
り後の年度に係る固定資産税等の賦課徴収を怠る事実をもその対象として含むもの
と解することもできない。そして,住民訴訟が自己の法律上の利益にかかわらない
当該普通地方公共団体の住民という資格で特に法律によって出訴することが認めら
れている民衆訴訟の一種であることにかんがみると,住民訴訟の対象とされた怠る
事実がこれに先行する住民監査請求の時点においては存在していなかった場合には,
当該住民監査請求が原告の主張するような目的の下に提起され,また,当該怠る事
実が将来発生した場合にはこれをも監査の対象にする趣旨を含むものであるとして
も,当該怠る事実について住民監査請求を経ているものと解することはできないと
いうべきである。
以上によれば,本件訴えのうち本件各土地に対する平成17年度から平成19年
度までの固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実に係る部分は,適法な住
民監査請求の前置を欠くから,その余の点について判断するまでもなく,不適法と
して,却下を免れない。
(2)前記前提事実(3)によれば,本件訴えのうち本件各土地に対する平成13年
度の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実については,本件訴えの提起
時においては,地方自治法242条の2第1項3号の当該怠る事実の違法確認の請
求として提起されていたところ,原告に対する本件監査請求についての監査の結果
の通知があった日から30日を経過した後の平成18年9月4日付け訴えの変更申
立書(同日の本件第5回弁論準備手続期日において陳述)により,同項4号の当該
職員(及び当該怠る事実に係る相手方)に対する損害賠償(及び不当利得返還)の
請求をすることを求める請求に変更されたものであるが,当該訴えの変更は,怠る
事実に係る本件各土地に対する平成13年度の固定資産税及び都市計画税の徴収権
が時効により消滅したため同項3号に基づく当該怠る事実の違法確認の請求はその
利益を欠くに至ったことからこれを同項4号の請求に交換的に変更したものであっ
て,ともに同一の怠る事実を対象とするものであるのみならず原告の主張する違法
事由も同一であることにかんがみると,上記変更後の同項4号に基づく請求(前記
第1の8の請求)についても,当該請求に係る訴えを当初の訴えの提起の時に提起
されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段
の事情を認めるべきである。
2本件各土地は地方税法348条2項6号の非課税財産に該当するか(争点
①)
(1)地方税法348条2項本文は,同項各号に掲げる固定資産に対しては固定
資産税を課することができない旨規定し,同項ただし書は,固定資産を有料で借り
受けた者がこれを同項各号に掲げる固定資産として使用する場合においては,当該
固定資産の所有者に固定資産税を課することができる旨規定し,同条3項は,同条
2項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使用する場合にお
いては,同条2項の規定にかかわらず,これらの固定資産に対し固定資産税を課す
る旨規定している。そして,そもそも,固定資産税は,当該固定資産の資産価値に
着目し,その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって,個々
の固定資産の収益性の有無にかかわらず,その所有者に対して課するものであるこ
とに加えて,地方税法348条2項各号の規定内容及び同項ただし書が固定資産税
を「課することができる」旨規定することにより同項ただし書所定の場合において
当該固定資産の所有者に固定資産税を課するか否かを市町村の裁量(条例の定め)
にゆだねている(同条3項が「固定資産税を課する」との文言で規定しているのと
対比しても明らかである。)趣旨をも併せ考えると,同条2項本文は,公用又は公
共の用等に供する固定資産について,その性格,用途にかんがみ,当該公用又は公
共の用等に供する固定資産の確保という政策目的のために,例外的に当該固定資産
を非課税とする趣旨のものであり,同項ただし書の規定は,固定資産を借り受けた
者がこれを公用又は公共の用等に供する場合において当該固定資産の使用に対する
代償として金員が支払われているときは,その金額の多寡にかかわらず,租税政策
的見地から,更にその例外として課税権者である市町村の裁量により当該固定資産
の所有者に固定資産税を課することができることとしたものであり,同条3項の規
定は,同条2項各号に掲げる固定資産が現実に当該各号に掲げる公用又は公共の用
等に供されている場合に限り当該固定資産を非課税とする趣旨を注意的に規定した
ものと解するのが相当である。
以上のような地方税法348条2項及び3項の規定の文理,内容及びその趣旨に
かんがみると,固定資産の所有者が当該固定資産を同条2項各号に掲げる公用又は
公共の用等に供するとともに当該固定資産の全部又は一部を有料で貸すなどしてこ
れを収益している場合であっても,当該固定資産が現実に当該各号に掲げる公用又
は公共の用等に供されている限り,市町村は,当該固定資産の所有者に対し固定資
産税を課することができないものと解すべきであり,また,都市計画税についても
同様に解すべきである。
これに対し,原告は,固定資産税は,収益税的な性格も有しており,地方税法3
48条2項本文は,固定資産を「公共の用に供する」場合には,当該固定資産の所
有者がこれを収益する可能性が極端に小さく,収益税的財産税としての固定資産税
を賦課することが課税の趣旨に合致しないところがあることから,非課税とされて
いるのであり,同項ただし書の趣旨は,所有者において当該固定資産につき賃料を
徴収している場合においては,一般の用途に供されているものと比較して,所有者
の負担について別段の考慮をする必要は認められないことから,その例外として当
該固定資産に係る固定資産税を課することとしたものであって,これらによれば,
地方税法は,賃貸の対象とされている土地が同法348条2項各号に該当しない用
途で利用されている場合はそもそも同項所定の用途的非課税の対象にならないこと
を前提としているのであり,固定資産が賃貸の対象とされた場合は,当該固定資産
がどのような用途に供されていようとも,用途的非課税の対象とはなり得ないなど
と主張する。
しかしながら,前記のような固定資産税の財産税としての性格に加えて,前記の
とおり,地方税法348条2項ただし書がその所定の場合において「固定資産税を
課する」とせずに「課することができる」として,課税,非課税について課税権者
である市町村の裁量を認める趣旨の規定をしていること,例外的に固定資産税を課
することができる場合として,「固定資産を有料で借り受けた」とのみ規定するこ
とにより,通常の取引上固定資産の貸借の対価に相当する額に至らないとしても,
その固定資産の使用に対する代償として金員が支払われていれば足りるものとして
いる(最高裁平成5年(行ツ)第15号同6年12月20日第三小法廷判決・民集
48巻8号1676頁参照)ことなどにかんがみると,同項本文が同項各号に掲げ
る公用又は公共の用等に供する固定資産に対する固定資産税を非課税としている趣
旨について原告の主張するように当該固定資産の所有者が当該固定資産を収益する
可能性が小さいことないし当該所有者のいわゆる犠牲的精神のみで説明することは
困難というべきである。そうであるとすれば,原告が主張するような同項本文及び
ただし書の趣旨を根拠に,地方税法が賃貸の対象とされている土地が同法348条
2項各号に該当しない用途で利用されている場合はそもそも同項所定の用途的非課
税の対象にならないことを前提としていると解するのは困難というべきである。
もっとも,地方税法348条2項本文の趣旨について前記説示のとおり公用又は
公共の用等に供する固定資産の確保という政策的見地に基づくものであると解する
としても,固定資産がその所有者により同項各号に掲げる公用又は公共の用等に供
されるとともに賃貸の対象とされているような場合には例外的に当該固定資産を固
定資産税の課税の対象とするという立法政策ももとよりあり得るところである。し
かしながら,租税法律主義及び納税義務の公平な分担の見地からすれば,租税法の
規定はみだりに拡張適用すべきものではないから,その旨の明文の規定を欠くにも
かかわらず同項ただし書の規定ないしその趣旨を類推適用して上記の場合に当該固
定資産の所有者に対し固定資産税を課すべきものと解することは許されないという
べきである。
以上のとおり,固定資産の所有者が当該固定資産を地方税法348条2項各号に
掲げる公用又は公共の用等に供するとともに当該固定資産の全部又は一部を有料で
貸すなどしてこれを収益している場合であっても,当該固定資産が現実に当該各号
に掲げる公用又は公共の用等に供されている限り,市町村は,当該固定資産の所有
者に対し固定資産税を課することができないものと解すべきであり,都市計画税に
ついても同様に解すべきである。
これを本件についてみると,前記前提事実(2)及び後記2において認定するとお
り,本件各土地は,いずれも,そのほとんどの部分ないし相当部分が所有者により
第三者に賃貸されているものであるが,本件各土地が現実に地方税法348条2項
各号に掲げる公用又は公共の用等に供されているのであれば,被告は,本件各土地
の所有者に対し固定資産税等を課することができないというべきである。しかると
ころ,被告は,本件各土地が地方税法348条2項6号の公共の用に供するため池
に該当する旨主張しており,本件各土地がそれ以外の同項各号に掲げる用途に供さ
れていることを認めるに足りる証拠もないから,以下,本件各土地がこれに対する
固定資産税等の各賦課期日,すなわち,平成13年度,平成15年度及び平成16
年度の各固定資産税等の賦課期日(平成13年1月1日,平成15年1月1日及び
平成16年1月1日。以下「本件各賦課期日」という。)において現実にため池と
して公共の用に供されていたか否かにつき検討する。
(2)地方税法348条2項6号にいう「公共の用に供する」とは,何らの制約
を設けず,広く不特定多数人の利用に供することをいい,同号にいう「ため池」と
は,耕地かんがい用の用水貯溜池をいうものと解される。そして,前記(1)におい
て説示したところからすれば,本件各土地がため池として公共の用に供されていた
といえるためには,本件各賦課期日において,本件各土地が客観的にみて耕地かん
がい用の用水貯溜池としての機能を果たし得る状態にあっただけでは足りず,その
貯溜水が現実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供されていたことが必要で
あるというべきである。
本件各土地は,いずれも,登記簿上その地目がため池及び堤とされており,前記
前提事実(2)のとおり,現実に水が貯溜する池及びその堤であるから,本件各賦課
期日において客観的にみて耕地かんがい用の用水貯溜池としての機能を果たし得る
状態にあったものと認められる。そこで,本件各土地が本件各賦課期日において現
実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供されていたか否かについて検討する。
アa番bの土地及びa番cの土地
前記前提事実(2)に加えて甲1,11,13,20ないし27,33,34,3
7,乙1,3,7,8,12及び弁論の全趣旨によれば,a番bの土地及びa番cの土
地は,b番aの土地等とともにJと呼ばれる池及び堤を構成しており,堤であるa番c
の土地をはさんでその両側が池(a番bの土地及びb番aの土地)となっていること,
a番bの土地は,旧土地台帳に字を「L」,地目を「溜池」,所有主住所を空欄,所
有主氏名を「共有地」として登録され,登記簿においても,表題部に所有者を「共
有地」とする表示に関する登記のみがされていたこと,昭和38年ころ,これらの
土地の一部を大阪中央環状線の道路用地として供用する必要が生じたところ,上記
のとおり登記簿に所有者を「共有者」とする表示に関する登記のみがされていたこ
とから,堺市と大阪法務局堺支局との間で堺市名義での所有権保存登記手続を行う
ことで協議が整い,堺市議会の審議を経た上,a番bの土地について昭和38年5月
9日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされるとともにa番b,c及びdの各
土地に分筆され,また,a番cの土地についても同日付けで所有者を堺市とする所有
権保存登記がされるとともにa番c,d,e,f及びgの各土地に分筆され,さらに,b
番aの土地についても同日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされるとと
もにb番a,b,c,d,e,f,g及びhの各土地に分筆され,そのうちa番cの土地につ
いて昭和40年1月14日付けで昭和38年3月30日売買を原因とする大阪府へ
の所有権移転登記が,a番dの土地について昭和44年2月5日付けで昭和41年3
月30日売買を原因とする大阪府への所有権移転登記がされたほか,a番d,e,f及
びgの各土地についても大阪府への所有権移転登記がされたこと,昭和44年,J
残地の一部とされる堺市F町c丁d番ため池0反618のうち実測面積329.89
㎡(99坪78)がD町会長の名において地元公共事業資金への充当を理由に処分
され,当該処分が同年第2回堺市議会の議案第32号「部落有財産の処分につい
て」として審議されていること,a番bの土地及びa番cの土地を含むJは,D町水利
組合がこれを管理し,平成5年ころからD町会においてその敷地を堺中央綜合卸売
市場協同組合に賃貸し,同協同組合は,a番bの土地のほぼ全域に加えa番cの土地
(堤)を超えてb番aの土地の一部にわたりデッキプレートを構築し別紙物件目録1
(3)の建物(複数)の敷地として利用していること,大阪中央環状線をはさんでJ
(a番bの土地,a番cの土地及びb番aの土地)と反対側にあるJ残地とされる堺市A
区F町c丁e番ため池5.40㎡について,平成19年1月12日,売主を堺市D町
会,買主を丸一鋼管株式会社とする売買契約が締結され,同日付けで売主として堺
市D町会町会長Y1の署名押印のある土地売買契約書が作成されるとともに,同月
16日付けで堺市D町会町会長Y1から「共有地管理者堺市長」あてに上記土地の
実質的な債権債務はD町会(自治会)にあるが同町会では登記手続をすることがで
きないため共有地管理者堺市長名義で登記手続を行うよう依頼する旨の「登記手続
について(依頼)」と題する文書が出されていること,J(a番bの土地,a番cの土
地及びb番aの土地)の近隣(堺市B区D町)には現在においてもなお田畑が少なか
らず存在していること,本件監査請求に対する平成17年3月28日付け監査の結
果の通知(甲2)において,現にJの貯溜用水を利用して耕作を行っている者があ
る旨の認定がされていること,平成19年11月15日付け堺市農業土木課長の堺
市税政課長あて「堺市B区D町a番bに所在するL(I)及び同区A町c丁c番aに所
在するKについて,それぞれを管理する水利組合名及び農業灌漑に利用している地
域について(回答)」と題する書面(乙12)には,a番bの土地について,水利組
合名をD町水利組合,利用地域をD町,確認時期を同年11月とする旨の回答がさ
れていること,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,a番bの土地,a番cの土地及びb番aの土地から成るJは,
古くから堺市D町の住民により耕地かんがい用の用水貯溜池として総有的に利用さ
れてきたものであり,遅くとも昭和44年ころまでにはD町会(前記前提事実(1)
及び弁論の全趣旨によれば権利能力なき社団と認められる。)がこれを所有し,D
町水利組合により管理され,現時点においてもその貯溜水がその近隣に少なからず
存在する田畑のかんがいの用に供されているものと認められ,この認定を左右する
に足りる証拠はない。
そうであるとすれば,本件各賦課期日において,a番bの土地及びa番cの土地は,
客観的にみて耕地かんがい用の用水貯溜池としての機能を果たし得る状態にあった
のみならず,その貯溜水が現実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供されて
いたものというべきであるから,a番bの土地は地方税法348条2項6号の「公共
の用に供するため池」に,a番cの土地は同号にいう「公共の用に供する堤とう」に
それぞれ該当し,したがって,同項本文,同法702条の2第2項により,上記各
土地に対しては固定資産税及び都市計画税を課することはできないというべきであ
る。
イc番aの土地
前記前提事実(2)に加えて甲1,8,31,32,36ないし39,乙2の1な
いし3,乙3,12及び弁論の全趣旨によれば,c番aの土地は,旧土地台帳に字を
「K」,地目を「溜池」,所有主住所を「B」,所有主氏名を「共有地」として登
録され,閉鎖登記簿においても,表題部に所有者を「B共有地」とする表示に関
する登記のみがされ,現登記簿においても,表題部に所有者を「B」とする表示に
関する登記のみがされていること,「B」は,明治21年4月公布の市制・町村制
の施行により,旧来の村が新たにA村の大字とされたものであるが,現在の堺市B
区A町のどの地域に相当するのかは明らかではないこと,A村は大正8年にG村と
合併してH村となった後,昭和13年に堺市と合併したが,その際,H村が引継書
類として作成した部落有財産目録の中にc番aの土地が記載されていたこと,昭和4
4年,c番aの土地のうち実測面積3万0323㎡(9173坪)及び堺市A町c丁c
番堤5反824のうち実測面積991㎡(300坪)が「A町代表自治会長」の名
において地元公共事業資金への充当を理由に南海不動産株式会社に対して処分され,
当該処分が同年第2回堺市議会の議案第36号「部落有財産の処分について」とし
て審議された上,同年7月5日付けでc番aの土地がc番a及び2の土地に分筆され,
c番bの土地について同日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされるととも
に同年3月28日売買を原因とする南海不動産株式会社への所有権移転登記がされ
ていること,c番aの土地は,K水利組合が管理し,遅くとも平成10年ころからA
町自治会においてその敷地の一部をエービーシー開発株式会社に対し賃貸し,同社
は,その一部にデッキプレートを構築してこれをABCハウジングA住宅公園(住
宅展示場)として利用し,デッキプレート上に複数の建物がモデルハウスとして建
築されていること,本件監査請求に対する平成17年3月28日付け監査の結果の
通知(甲2)において,現にKの貯溜用水を利用して耕作を行っている者がある旨
の認定がされていること,前記平成19年11月15日付け堺市農業土木課長の堺
市税政課長あて「堺市B区D町a番bに所在するL(I)及び同区A町c丁c番aに所
在するKについて,それぞれを管理する水利組合名及び農業灌漑に利用している地
域について(回答)」と題する書面(乙12)には,c番aの土地について,水利組
合名をK水利組合,利用地域をA町e丁,確認時期を同年11月とする旨の回答が
されていること,甲30,36による限り,c番aの土地の近隣(堺市B区A町a丁
ないしc丁付近)には,現時点において田畑は見当たらず,上記回答書(乙12)
にいうA町e丁は,南海高野線A駅をはさんで上記土地と反対側に位置しており,
その近隣(A町e丁ないしf丁付近)にも田畑は見当たらないこと,昭和50年ころ
撮影されたc番aの土地付近の航空写真(甲31)によれば同土地の北方付近に田畑
がかなり多く存在していることが認められるが,昭和60年ころ撮影された同土地
付近の航空写真(甲32)によれば上記付近の田畑は相当減少して少なくなってお
り,また,これらの航空写真によっても,南海高野線をはさんで同土地と反対側の
地域には田畑は見当たらないこと,以上の事実が認められ,この認定を左右するに
足りる証拠はない。
上記認定事実によれば,c番aの土地は,古く市制・町村制の施行により「B」と
された地域の住民により耕地かんがい用の用水貯溜池として総有的に利用されてき
たものであり,遅くとも昭和44年ころまでにはA町自治会(前記前提事実(1)及
び弁論の全趣旨によれば権利能力なき社団と認められる。)がこれを所有し,K水
利組合により管理されてきたものと認められるところ,同土地の北方付近には,昭
和50年ころは田畑がかなり多く存在していたものの,昭和60年ころには上記田
畑は相当減少して少なくなり,現時点においては,堺市B区A町a丁ないしc丁付近
には田畑は見当たらないのみならず,上記回答書(乙12)において農業かんがい
の利用地域と記載されている堺市A町e丁のみならずその周辺をも含む南海高野線
をはさんで上記土地と反対側の地域には,既に昭和50年ころから田畑が見当たら
ず,現時点においても田畑は見当たらないというのであり,これらに加えて当裁判
所において上記土地が現時点において耕地かんがいの用にされていることを裏付け
る証拠の提出を促したにもかかわらず乙12が提出されたのみである経過をもしん
しゃくすれば,本件全証拠によっても上記土地の貯溜水をかんがいの用に利用し得
るものと社会通念上考えられる位置関係にある地域に田畑が存在することを認める
に足りないというほかない。
そうであるとすれば,c番aの土地は,本件各賦課期日(平成13年1月1日,平
成15年1月1日及び平成16年1月1日)において,客観的にみて耕地かんがい
用の用水貯溜池としての機能を果たし得る状態にあったか否かはともかく,その貯
溜水が現実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供されていたものとは証拠上
認め難いというべきであるから,上記土地は,地方税法348条2項6号の「公共
の用に供するため池」に該当しないものというべきであり,したがって,同項本文,
同法702条の2第2項により上記土地を非課税とすることはできないものという
べきである。
3本件各土地は地方税法348条1項の非課税財産ないし納税義務者を確定す
ることのできない固定資産に該当するか(争点②)
前記2(2)において認定説示したとおり,本件各土地のうちa番bの土地及びa番c
の土地は,本件各賦課期日において地方税法348条2項6号に該当するから,本
件各賦課期日に係る各年度の固定資産税及び都市計画税を課することができないが,
c番aの土地は,本件各賦課期日において同項本文の規定する非課税固定資産に当た
らない。しかるところ,前記2(2)イにおいて認定したとおり,本件各賦課期日に
おいて,c番aの土地は,表題部に所有者を「B」とする表示に関する登記のみがさ
れており,被告は,現時点において「B」が具体的にだれを指すのか全く明らかで
はなく,同土地について固定資産税等を賦課することは不能な状態にあることにか
んがみると,被告が同土地について固定資産税等を賦課徴収していないことをもっ
て賦課徴収を違法に怠るということはできない旨主張する。
地方税法343条1項は,固定資産税は,固定資産の所有者に課する旨規定し,
同条2項前段は,同条1項にいう所有者とは,土地又は家屋については,登記簿又
は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されて
いる者をいう旨規定し,同条2項後段は,所有者として登記又は登録されている個
人が賦課期日前に死亡しているとき,若しくは所有者として登記又は登録されてい
る法人が同日前に消滅しているとき,又は所有者として登記されている同法348
条1項の者(国並びに都道府県,市町村,特別区,これらの組合,財産区,地方開
発事業団及び合併特例区)が同日前に所有者でなくなっているときは,同日前にお
いて当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする旨規定し,同法34
3条4項は,市町村は,固定資産の所有者の所在が震災,風水害,火災その他の事
由によって不明である場合においては,その使用者を所有者とみなして,これを固
定資産課税台帳に登録し,その者に固定資産税を課することができる旨規定してい
る。これらの規定の趣旨については,固定資産税は,固定資産の資産価値に着目し,
その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるから,その負担者
は,当該固定資産の所有者であることを原則とするが,課税上の技術的考慮から,
土地又は家屋については賦課期日において登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家
屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者に課税する方式(いわゆ
る台帳課税主義)を採用し,台帳課税主義を貫いた場合,土地又は家屋が現に存在
し,これを現に所有している者があるにもかかわらず,当該土地又は家屋に固定資
産税を課することができず,納税義務の公平な分担の見地からも適当でない場合が
生じ得ることから,台帳課税主義の例外として,所有者として登記又は登録されて
いる個人が賦課期日前に死亡しているとき,若しくは所有者として登記又は登録さ
れている法人が同日前に消滅しているとき,又は所有者として登記されている非課
税団体が同日前に所有者でなくなっているときは,現実の所有者を納税義務者とす
るものとし,さらに,固定資産の所有者がだれであるのか不明である場合又は所有
者の所在が不明である場合について,課税上の衡平を保持する観点から,所有者課
税の原則に対する例外として,現にその固定資産を使用収益することによりその利
益を享受している者を所有者とみなして固定資産税を課するみちを開くことにより,
可及的に固定資産税の捕捉漏れを防止し,徴税の確保を図ったものと解される。こ
のような地方税法の上記各規定の趣旨及び内容に照らすと,同法は,土地又は家屋
について登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登
記又は登録されている者がだれであるかについては,課税権者である市町村におい
て調査を尽くすことを当然の前提としているものと解される。
ところで,地方税法381条1項及び2項の規定からすれば,所有権の登記がな
く所有者の氏名又は名称等が表題部に記載された表示に関する登記のみがされてい
る土地については,同法343条2項により,登記簿の表題部に所有者として記載
されている者が固定資産税の納税義務者となるところ,本件各賦課期日において,
c番aの土地は,表題部に所有者を「B」とする表示に関する登記のみがされていた
というのであるから,その納税義務者は「B」である。しかるところ,前記2(2)
イにおいて認定した事実によれば,「B」は,明治21年4月公布の市制・町村制
の施行により,旧来の村が新たにA村の大字とされたものであり,上記土地は,旧
土地台帳に所有主住所を「B」,所有主氏名を「共有地」として登録され,A村が
大正8年のG村と合併してH村となった後同村が昭和13年に堺市と合併する際に
同村が引継書類として作成した部落有財産目録にも挙げられていたところ,昭和4
4年,上記土地の一部等が「A町代表自治会長」の名において南海不動産株式会社
に対して処分され,その際,当該処分が堺市議会において審議された上,上記処分
に係る土地部分が同年7月5日付けで分筆され,所有者を堺市とする所有権保存登
記を経て南海不動産株式会社への所有権移転登記がされたほか,平成10年ころか
らA町自治会においてc番aの土地の敷地の一部をエービーシー開発株式会社に対し
賃貸しているというのであって,これらの事実によれば,遅くとも昭和44年ころ
までにはA町自治会(前記のとおり権利能力なき社団と認められる。)が市制・町
村制の施行により「B」とされた地域の住民から成る入会団体の後身として上記土
地を所有し,堺市も上記事実を認識した上同自治会がその財産である上記土地の一
部を処分するに当たりその所有権移転登記手続に協力していた経過が明らかである
から,少なくとも本件各賦課期日において上記土地の所有者として登記されている
「B」がA町自治会に該当することを容易に知り得たというべきである。
以上のとおりであるから,現時点において「B」が具体的にだれを指すのか全く
明らかではなく,同土地について固定資産税等を賦課することは不能な状態にある
ことを前提とする被告の前記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
4地方自治法242条の2第1項3号に基づく当該怠る事実の違法確認請求
(前記第1の1ないし7の各請求)について
(1)前記2及び3において検討したところによれば,本件各土地のうちa番bの
土地及びa番cの土地は,本件各賦課期日において,地方税法348条2項6号の
「公共の用に供するため池」及び「公共の用に供する堤とう」に該当し,同項本文,
同法702条の2第2項により,上記各土地に対しては固定資産税及び都市計画税
を課することはできないから,被告が上記各土地に対して本件各賦課期日に係る年
度(平成13年度,平成15年度及び平成16年度)の固定資産税及び都市計画税
を賦課徴収しないことは,何ら違法ではない。
そうであるとすれば,前記第1の1,2,5及び6の各請求のうち,平成15年
度及び平成16年度の固定資産税及び都市計画税に係る部分は,その余の点につい
て判断するまでもなく,理由がない。
(2)前記2及び3において検討したところによれば,本件各土地のうちc番aの
土地の本件各賦課期日に係る固定資産税及び都市計画税の納税義務者はA町自治会
(権利能力なき社団)であり,また,上記土地は本件各賦課期日において地方税法
348条2項本文の規定する非課税固定資産に当たらないから,被告は,上記土地
に対して本件各賦課期日に係る年度(平成13年度,平成15年度及び平成16年
度)の固定資産税及び都市計画税を賦課徴収すべきである。しかるところ,原告は,
c番aの土地は,デッキプレートがその面積の4割程度を占めているとみられ,上記
土地の主たる用途は建物の地盤であるから,現況主義,1筆評価原則の下において
は,上記1筆の土地の地目は宅地であって,デッキプレートが設置されていない部
分は上記土地の価格の評価の際に考慮すれば足り,そうでないとしても,上記土地
のうちデッキプレートが設置されている部分を宅地,それ以外の部分を池沼として
評価すべきである旨主張する。
固定資産評価基準は,土地の評価は,土地の地目(田,畑,宅地,鉱泉地,池沼,
山林,牧場,原野及び雑種地)の別に,それぞれ,同基準の定める評価の方法によ
って行うものとし,土地の地目の認定に当たっては,当該土地の現況及び利用目的
に重点を置き,部分的に僅少の差異の存するときであっても,土地全体としての状
況を観察して認定するものとし(第1章第1節一),宅地の評価は,各筆の宅地に
ついて評点数を付設し,当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の
価額を求める方法によるものとし(第1章第3節一),各筆の宅地の評点数は,市
町村の宅地の状況に応じ,原則として,主として市街地的形態を形成する地域にお
ける宅地については「市街地宅地評価法」によって,主として市街地的形態を形成
するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によって付設
するものとし(第1章第3節二),池沼の評価は,池沼の売買実例価額から評定す
る適正な時価によってその価額を求める方法によるものとし,市町村内に池沼の売
買実例価額がない場合においては,池沼の位置,形状,利用状況等を考慮し,附近
の土地の価額に比準してその価額を求める方法によるものとしている(第1章第6
節)。また,固定資産評価基準は,市街地宅地評価法による各筆の宅地の評点数は,
路線価を基礎とし,「画地計算法」を適用して付設するものとし,この場合におい
て,市町村長は,宅地の状況に応じ,必要があるときは,「画地計算法」の附表等
について,所要の補正をして,これを適用するものとし(第1章第3節二),各筆
の宅地の評点数は,1画地の宅地ごとに画地計算法を適用して求めるものとし,こ
の場合において,1画地は,原則として,土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登
録された1筆の宅地によるものとするが,ただし,1筆の宅地又は隣接する2筆以
上の宅地について,その形状,利用状況等からみて,これを一体をなしていると認
められる部分に区分し,又はこれらを合わせる必要がある場合においては,その一
体をなしている部分の宅地ごとに1画地とするものとしている(別表第3,画地計
算法2)。
前記前提事実(2)イ及び前記2(2)イにおいて認定した事実によれば,c番aの土地
は,その敷地に水が貯溜する池であるが,本件各賦課期日当時,その一部にデッキ
プレートが構築された上デッキプレート上に複数の建物がモデルハウスとして建築
され,当該デッキプレート部分が住宅展示場として利用されているというのであり,
甲8,29,30及び弁論の全趣旨によれば,上記土地のうちデッキプレートが構
築されている部分はその現況地積の約半分程度であると認められる。
固定資産評価基準にいう宅地とは,建物の敷地及びその維持若しくは効用を果た
すために必要な土地をいい,池沼とは,水の貯溜池をいうところ,c番aの土地のう
ち少なくともデッキプレートが構築されている部分は,当該デッキプレート上に現
にモデルハウスとして複数の建物が建築されているのであるから,その敷地部分は,
デッキプレートを介して建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要
な土地としての機能を果たしているということができるのであって,当該敷地とデ
ッキプレートとの間に水が貯溜しているものの,山間の傾斜地等に支柱等を構築し
て建物が建築されている場合とその実質において何ら異なるところがないというべ
きであるから,社会通念に照らしても,当該敷地部分の地目は,固定資産評価基準
にいう宅地に該当するというべきである(自治省資産評価室編・固定資産評価基準
解説土地篇においても,池沼の一部について分筆及び所有権移転登記がされた後,
デッキプレートを構築して事務所用建物が建築されている事例について,当該事務
所用建物が家屋に該当するものであれば,当該分筆後の土地は,その利用状況から
みて当該建物の敷地及びその維持効用を果たす土地と認められるので,地目は宅地
として認定して差し支えないものとされている。甲7)。
もっとも,上記のとおり,c番aの土地のうちデッキプレートが構築されている部
分はその現況地積の約半分程度であるというのであるところ,固定資産評価基準は,
土地の地目の認定に当たっては,当該土地の現況及び利用目的に重点を置き,部分
的に僅少の差異の存するときであっても,土地全体としての状況を観察して認定す
るものとしているが,登録価格の算定基礎となる法341条5号にいう「適正な時
価」とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交
換価値をいうところ,1筆の土地が一体として利用されていないなど,その形状及
び利用状況等からみて一体を成していると認められる複数の部分に区分され,その
各部分ごとにその土地の地目が異なる場合において,これを1筆の土地としてその
全体の地目を認定し固定資産評価基準に従って評価したのでは,当該宅地の適正な
時価,すなわち,客観的な交換価値への接近方法としての一般的な合理性を欠くと
認められるようなときには,その一体を成している部分の土地ごとにそれぞれその
地目を認定して固定資産評価基準の定める方法による評価をすべきであり,固定資
産評価基準もこのことを当然の前提としているものと解される。上記のとおり,c
番aの土地のうちデッキプレートが構築されている部分はその現況地積の約半分程
度であるところ,デッキプレートが構築されている部分はデッキプレート上の建物
の敷地として利用されているのであるから,その地目は宅地と認定すべきであるが,
その余の部分は,その現況が水の貯溜地にすぎず,上記建物がモデルハウスとして
建築され上記デッキプレート部分が住宅展示場として利用されている状況にもかん
がみると,社会通念に照らしても上記その余の部分をもって建物に付随する庭園等
のように宅地に便益を与え又は宅地の効用に必要な土地ということはできないから,
上記その余の部分の地目を宅地と認定することはできない。そうすると,上記土地
は,その形状及び利用状況等からみて,一体を成している2つの部分に区分され,
その割合はそれぞれ全体の約半分程度であり,その一方は地目を宅地と認定し得る
ものであり,他方の地目は池沼と認定されるものであるから,これを1筆の土地と
してその全体の地目を認定し固定資産評価基準に従って評価したのでは,当該宅地
の適正な時価,すなわち,客観的な交換価値への接近方法としての一般的な合理性
を欠くことは明らかである。したがって,上記土地については,デッキプレートが
構築されている部分とその余の部分とに区分し,前者についてはその地目を宅地,
後者についてはその地目を池沼と認定した上,固定資産評価基準に従ってその価格
を評価すべきである。
(3)上記(2)において認定説示したところによれば,c番aの土地は,デッキプレ
ートが構築されている部分とその余の部分とに区分し,前者についてはその地目を
宅地,後者についてはその地目を池沼と認定した上,固定資産評価基準に従ってそ
の価格を評価し,地方税法及び堺市市税条例の定めるところに従って固定資産税及
び都市計画税を賦課徴収すべきところ,課税権者である被告は,本件各賦課期日に
係る年度(平成13年度,平成15年度及び平成16年度)の固定資産税及び都市
計画税を全く賦課徴収していないというのであるから,被告は,上記土地に対する
上記各年度の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を違法に怠っているものという
べきである。
ところで,c番aの土地について,原告は,地方自治法242条の2第1項3号に
基づき,前記第1の3,4及び7の各請求を求めており,原告の主張内容に照らす
と,これらの請求は,前記第1の7の請求が前記第1の3及び4の各請求の予備的
請求の関係に,また,前記第1の4の請求が前記第1の3の請求の予備的請求の関
係にそれぞれ立つものと解されるところ(原告は,前記第1の5ないし7の各請求
について,本件各土地に固定資産税等を課税しないことが主として固定資産税等の
納税義務者に関する地方税法343条,702条に違反していることの確認を求め
る趣旨である旨主張するが,納税義務者が確定されて初めて当該納税義務者に対す
る固定資産税等の賦課徴収を怠る事実が違法になるものである上,納税義務者の確
定の誤りを主張するものでもないから,前記第1の1ないし4の各請求は,納税義
務者に関する前記第1の5ないし7の各請求をその一部として含むものというべき
である。),上記のとおり,被告は,上記土地のうちデッキプレートが構築されて
いる部分についてはその地目を宅地,その余の部分についてはその地目を池沼と認
定した上,固定資産評価基準に従ってその価格を評価し,地方税法及び堺市市税条
例の定めるところに従って本件各賦課期日に係る年度(平成13年度,平成15年
度及び平成16年度)の固定資産税及び都市計画税を賦課徴収すべきところ,これ
を違法に怠っているというのであるから,平成15年度及び平成16年度の固定資
産税及び都市計画税に係る前記第1の3,4及び7の各請求のうち,前記第1の3
の請求(前記第1の4の請求に対する主位的請求)は理由がないが,前記第1の4
の請求(前記第1の3の請求に対する予備的請求)は理由があり,これと予備的請
求の関係に立つ前記第1の7の請求の成否については判断を要しないことになると
いうべきである(なお,前記第1の4の請求に係る訴えが地方自治法242条の2
第1項3号に基づく確認の訴えとして訴えの利益を有することは明らかである。)。
5堺市長及び堺市北支所税務課長らの故意,過失の有無(争点④)
(1)以上認定説示したところによれば,被告は,c番aの土地に対し平成13年
度の固定資産税及び都市計画税を賦課徴収すべきところ,これを違法に怠ったこと
により,その徴収権を時効により消滅させたものというべきところ,前記前提事実
(1)のとおり,上記土地に対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収については,
堺市北支所税務課長の専決処理に任されており,上記土地に対する平成13年度の
固定資産税及び都市計画税の賦課徴収については,平成13年10月7日まではY
3が,平成13年10月8日以降はY2がそれぞれ堺市長としてその本来的な権限
を有し,また,平成13年度から平成14年度までの間はY4が,平成15年度か
ら平成16年度まではY5がそれぞれ堺市北支所税務課長としてこれを専決処理す
る権限を有していたというのである。そこで,Y3,Y2,Y4及びY5が上記土
地に対する平成13年度の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を違法に怠ったこ
とについて過失が認められるか否かについて検討する。
(2)前記認定のとおり,c番aの土地は,平成13年度の固定資産税及び都市計
画税の賦課期日である平成13年1月1日において,その貯溜水が現実に広く不特
定多数人の耕地かんがいの用に供されていたものとは証拠上認め難いというべきで
あり,このような事実は,上記土地付近の航空写真等を調査すれば,ある程度の推
測がつくものということができる。
しかしながら,前記のとおり,地方税法348条2項6号の「公共の用に供する
ため池」として同項本文及び同法702条の2第2項により非課税とされるために
は,固定資産税等の賦課期日において当該土地が客観的にみて耕地かんがい用の用
水貯溜池としての機能を果たし得る状態にあっただけでは足りず,その貯溜水が現
実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供されていることが必要であるところ,
一般に,登記簿上その地目をため池とする表示に関する登記等がされている土地が
固定資産税等の賦課期日において現実に広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供
されているか否かについては,当該土地が埋立て等により当該賦課期日においてそ
の貯溜水を失い池沼としての原形をとどめていないような場合は格別,そうでない
限り,当該土地付近を撮影した航空写真等を用いて当該土地の貯溜水をかんがいの
用に利用し得るものと社会通念上考えられる位置関係に田畑が存在するか否かを調
査するなどすればある程度の推測がつく場合もなくはないものの,これを確定する
ためには,現地を実地に調査したり当該土地を管理している水利組合等からその利
用状況等を聴取するなどの調査を行うことが必要であると考えられる。のみならず,
一般に,賦課課税方式がとられている固定資産税等の賦課徴収に当たる市町村長は,
定められた期間内にその区域内に存在する極めて多数の固定資産を評価した上固定
資産税等を賦課徴収しなければならないのであって,地方税法408条に規定する
固定資産の状況の実地調査の程度,態様についても,少なくとも土地についていえ
ば,すべての土地の利用状況の細部についてまで逐一行う必要はなく,特段の事情
がない限り,外観上土地の利用状況,現況地目等を確認し,これらに変化があった
場合にこれを認識する程度で足りるものと解される。しかるところ,甲37,乙3,
11及び弁論の全趣旨によれば,堺市内には,本件各土地以外にもその地目をため
池とする表示に関する登記がされている土地が多数存在している事実が認められる
のであるから,市長等において,上記のような固定資産税等の賦課徴収事務の一環
として,限られた期間内にこれらのため池について逐一その現実の利用状況等を調
査することが事務的,技術的に極めて困難であることは明らかである。このことに
加えて,前記認定のとおり,c番aの土地は,現に貯溜水が存在して池沼としての形
状をとどめている上,旧土地台帳や登記簿の記載等に照らし古くから地域の住民に
より耕地かんがい用の用水貯溜池として総有的に利用されてきた事実が容易に推認
され,しかも,平成19年11月15日付け堺市農業土木課長の堺市税政課長あて
「堺市B区D町a番bに所在するL(I)及び同区A町c丁c番aに所在するKについ
て,それぞれを管理する水利組合名及び農業灌漑に利用している地域について(回
答)」と題する書面(乙12)においても,上記土地について,水利組合名をK水
利組合,利用地域をA町e丁,確認時期を同年11月とする旨の回答がされている
ことなどをも併せ考えると,上記土地付近の航空写真によればその貯溜水をかんが
いの用に利用し得るものと社会通念上考えられる位置関係にある地域に田畑が見当
たらない事実等をしんしゃくしてもなお,上記土地に対する固定資産税等の賦課徴
収を専決処理する権限を有していたY4及びY5においてその在職中に上記土地に
対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を行わなかったことについて過失があ
るということはできず,また,Y3及びY2が市長としてY4及びY5に対する指
揮監督上の義務に違反したということもできない。
(3)以上検討したところによれば,前記第1の8の請求は,その余の点につい
て判断するまでもなく,理由がない。
6結論
以上によれば,本件訴えのうち本件各土地に対する平成17年度から平成19年
度までの固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実に係る部分は,不適法で
あるから,これを却下し,原告の被告に対するその余の請求のうち,被告がc番aの
土地に対しそのうちデッキプレートが設置されている部分の地目を宅地として,そ
の余の部分の地目を池沼としてそれぞれ評価せずに平成15年度及び平成16年度
の各固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法である
ことの確認を求める請求は,理由があるから,これを認容し,原告の被告に対する
その余の請求(ただし,被告がc番aの土地についてA町自治会,A町自治会ことB
又はCに対し平成15年度及び平成16年度の各固定資産税及び都市計画税の賦課
徴収を怠っていることが違法であることの確認請求を除く。)は,いずれも,理由
がないから,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西川知一郎
裁判官岡田幸人
裁判官釜村健太
物件目録
1(1)所在堺市B区D町
地番a番b
地目ため池
地積28089㎡
(2)所在堺市B区D町
地番a番c
地目堤
地積92㎡
(3)所在堺市B区D町a番地f番地b,a番地

家屋番号a番b
種類事務所
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
床面積1階330.00㎡
2階330.00㎡
附属建物の表示
符号1
種類店舗
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積4674.53㎡
符号2
種類店舗
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積2879.25㎡
符号3
種類倉庫
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積141.47㎡
符号4
種類事務所・倉庫
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
床面積1階521.70㎡2階420.18㎡
符号5
種類物置
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積84.00㎡
符号6
種類便所
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積33.00㎡
符号7
種類守衛所
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
床面積1階21.00㎡2階21.00㎡
符号8
種類便所
構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
床面積40.87㎡
2所在堺市B区A町c丁
地番c番a
地目ため池
地積18366㎡

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