弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     上告人は、被上告人に対し、金一一二万九三二五円を支払え。
     訴訟の総費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人大国正夫の上告理由について。
 記録によれば、本件第一審判決成立の経過はつぎのとおりである。すなわち、本
件は第一審たる京都地方裁判所において一人の裁判官により審理されていたもので
あるところ、昭和四二年二月八日午前一〇時の第三一回口頭弁論期日において京都
地方裁判所裁判官白石嘉孝により口頭弁論が終結されたが、判決言渡期日は追つて
指定と告知され、昭和四四年三月一一日同裁判所裁判官高橋史朗によつて判決言渡
期日が同月二五日午後一時三〇分と指定され、当時当事者にその告知がされた後、
右判決言渡期日たる第三二回口頭弁論期日において同裁判官により判決原本にもと
づき言渡がされたものであつて、判決原本には前記白石嘉孝裁判官の署名押印がな
されている。
 ところで、同裁判官が昭和四二年四月一〇日京都地方裁判所から花巻簡易裁判所、
盛岡地方裁判所および盛岡家庭裁判所に転補されたことおよび右転補後同裁判官に
京都地方裁判所裁判官としての職務代行の辞令が発令されていないことは、当裁判
所に顕著な事実である。
 思うに、下級裁判所の裁判官が裁判官としての職務を行なうためには、特定の裁
判所の裁判官の職に補されることを要するのであつて、補職庁の変更(転補)後は、
従前の補職庁における裁判官としての行為はなしえないものと解すべきである。し
たがつて、本件の場合、判決原本の署名捺印が当該裁判官の転補後に行なわれたと
きは、その判決手続は違法となるものというべきである。
 そこで、所論に鑑み本件第一審判決原本がいつ作成されたとみうるかについてみ
るに、最終口頭弁論に関与した裁判官が、判決言渡期日前他へ転補された場合にお
いて、判決原本に同裁判官の署名捺印があるときは、右原本は、反証がないかぎり、
右裁判官が転補の辞令を受領した日までに作成されたものと認めるのが相当である
(最高裁昭和二四年(オ)第一五四号同二五年一二月一日第二小法廷判決・民集四
巻一二号六五一頁参照)が、本件第一審判決の判決原本用紙の各末尾に「四四、一、
一八、〇〇〇」と印刷されているところから、右用紙が昭和四四年一月当時に印刷
されたものであることがうかがえることおよび右のとおり一人の裁判官による判決
が当該裁判官転補(昭和四二年四月一〇日)後二年近く後の昭和四四年三月二五日
に言渡されていることからすれば、判決原本が作成されたのは署名捺印した裁判官
の転補後であると認めざるをえないものといわなければならない。
 してみると、本件第一審判決にはその判決手続に違法があることになるから、原
審としては、民訴法三八七条により、第一審判決を取り消したうえ自判または差戻
の裁判をすべきであつたといわなければならない。したがつて、これを看過して上
告人の控訴を棄却した原判決には法令違背があつて、その違法は判決に影響を及ぼ
すことが明らかである。所論中原判決の右違法をいう部分は理由があるから、原判
決はこの点において破棄を免れない。なお、所論中その余の部分は原判決の違法を
いうものではないから、上告適法の理由に当たらない。
 そして、原審が適法に確定した事実関係に照らせば、被上告人の請求は理由があ
るから、原判決を破棄し、第一審判決を取り消して被上告人の請求を認容すること
とする。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八七条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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