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平成29年5月25日判決言渡名古屋高等裁判所
平成27年(ネ)第974号損害賠償請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判
所平成27年(ワ)第1154号)
主文
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,8万円及びうち1万円に対する平
成26年3月31日から,うち1万円に対する同年4月21日か
ら,うち1万円に対する同年5月30日から,うち1万円に対す
る平成27年4月23日から,うち4万円に対する同年5月19
日から,それぞれ支払済みまで年5%の割合による金員を支払
え。
3控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを8分し,その1を被控
訴人の負担とし,その余は控訴人の負担とする。
5この判決の主文第2項は,本判決が被控訴人に送達された日か
ら14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただ
し,被控訴人が8万円の担保を供するときは,その仮執行を免れ
ることができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,60万円及びうち5万円に対する平成2
6年3月31日から,うち5万円に対する同年4月21日から,うち1
0万円に対する同年5月20日から,うち5万円に対する同年4月30
日から,うち5万円に対する同年12月11日から,うち30万円に対
する平成27年4月23日から,それぞれ支払済みまで年5%の割合に
よる金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,死刑確定者として名古屋拘置所に収容されている控訴人が,
名古屋拘置所職員または名古屋拘置所長から,①吸取紙に書込みをした
ところ,不正書込に当たるとして廃棄を求められたこと,②切手を収納
するため切断した封筒を所持していたところ,不正加工に当たるとして
廃棄を求められ,懲罰を受けたこと,③弁護人から受け取った封筒に書
込みをしたところ,不正書込に当たるとして廃棄を求められたこと,④
訴訟書面に書込みをしたところ,不正書込に当たるとして書き写しを求
められたこと,⑤便せんの台紙等に書込みをしたところ,不正書込に当
たるとして廃棄を求められ,懲罰を受けたこと等が,それぞれ刑事収容
施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」とい
う。)に違反した違法行為であるなどと主張し,被控訴人に対し,国家
賠償法1項1号に基づき,上記①の書込制限による慰謝料5万円及びこ
れに対する平成26年3月31日から,上記②の加工制限による慰謝料
5万円及びこれに対する同年4月21日から,上記②の懲罰及び処分に
よる慰謝料10万円及びこれに対する同年5月20日から,上記③の書
込制限による慰謝料5万円及びこれに対する同年4月30日から,上記
④の書込制限による慰謝料5万円及びこれに対する同年12月11日か
ら,上記⑤の書込制限による慰謝料30万円及びこれに対する平成27
年4月23日から,いずれも支払済みまで民法所定の年5%の割合によ
る遅延損害金の各支払を求めた事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が控訴した。
2前提となる事実等,争点,控訴人の主張は,以下のとおり付加,訂正
するほか,原判決「事実及び理由」第2の2ないし4に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
(1)原判決5頁11行目の「吸取紙に」の後に「領置金の使用金額と
残金を」を付加する。
(2)原判決7頁5行目の「原告は,」から同行目の「所持していたが」
までを「名古屋拘置所では信書発信に使用することができる封筒は拘
置所内で販売されているものに限定されているため,控訴人は,信書
発信に使用することができない差し入れられた封筒を,切手の収納の
ために半分に切断して所持していたが」と改める。
(3)原判決8頁21行目の「表紙と台紙に」の後に「購買品価格,有
名事件の発生年及び有名な言葉を」を付加する。
3被控訴人の主張
(1)名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長の行為が違法である旨の控
訴人の主張は,いずれも争う。
(2)名古屋拘置所長は,刑事収容施設法を受けて,名拘遵守事項を設
け,便せんやノートその他認書を許可された用紙以外の物に許可なく
書込みをしてはならないこと,許可なく物品を製作し,加工し,所持
し,隠匿し,壊し,若しくは投棄し,又はこれらの行為を企ててはな
らないこと,職員に対し,抗弁,無視その他の不当な方法で反抗して
はならないこと等を定め,また,名古屋拘置所懲罰手続規程を設け,
規定に違反したときの懲罰に関する事項を定めている。国庫帰属はこ
れらに伴う処分である。
(3)吸取紙,封筒,訴訟書面,便せんの台紙等への書込みを禁止する
理由は,以下のとおりである。
ア本来の使用用途として書込みを予定していない物品に対する書込
みは,不正連絡や不正な情報収集の手段として用いられ,実際に多
数の事例が発覚しており,控訴人自身も平成16年3月9日に茶封
筒から切り取った紙片に連絡事項を記載した上,同紙片を石けん箱
の中に入れて入浴の際に持ち出し,浴室内に置いて他の被収容者に
拾わせる方法で不正に連絡を取ったことがあった。
イ刑事施設においては,被収容者が不正に入手した情報を記録して
いないか等を確認するため,あるいは被収容者の心情を把握するた
めに,居室の検査を行うほか,雑記帳等の書込みをすることが認め
られた物品について,定期・不定期に検査を行っているが,多数の
被収容者を少数の職員で収容し処遇している刑事施設において,限
られた職員で,限られた時間の中,そのように広範な範囲について
確実に検査を行うことは到底不可能である。
したがって,被収容者による不正な行為を防止し,刑事施設の規
律及び秩序を適正に維持するためには,被収容者が書き込むことを
可能とする物品を制限せざるを得ない。
ウ刑事収容施設法41条2項は,受刑者以外の被収容者に対し,一
定の範囲の物品(同条1項各号に記載の物品及び寝具)について,
刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそ
れのある場合などを除き,自弁のものの使用・摂取を認めているが,
一定の範囲に物品に限定しているのは,刑事施設の事務負担を考慮
すれば,生活条件の保障として十分であるといえる範囲で自弁の物
品の使用・摂取を許す以上に,いかなる種類の物品の使用・摂取も
許すことは,必要でなく,適当でもないためである。
(4)不正製作等を禁止する理由は,以下のとおりである。
ア封筒,便せん等を切り取った紙片を用いて不正連絡が行われた事
例や,ちり紙を用いて賭博の道具となり得るサイコロを製作した事
例等,刑事施設の規律及び秩序の適正な維持の観点から許されない
不正製作等の事例が多数発覚している。
イ不正製作等の行為は,ちり紙,封筒,歯磨き粉,ジャンパー内の
葉くず,裁判書類等,様々な物品を材料にして行われる上,その製
作等の態様は様々であることから,禁止される製作等を具体的に定
めることは,現実には不可能か,極めて困難である。
また,拘置所長の許可を得ることで,物品の製作等を行うことは
可能となるのであるから,許可を受けない限り一切の物品の製作等
を禁じるという方法で物品の製作等を禁じたとしても,被収容者の
受ける制限は,それほど大きいものとは認められない。
ウさらに,原則として,一切の物品の製作や加工を禁止した場合,
特に刑事施設の規律及び秩序の適正な維持に支障を生じないような
態様の製作等でも名拘遵守事項違反に該当することになるが,この
ような場合には,当該行為自体は厳正に取り締まるとしても,懲罰
を科さず,注意指導をするにとどめるなどとすることで,被収容者
が過度に不利益を被ることを防止している。
(5)控訴人は,書込みが許されていない吸取紙,来信封筒,訴訟書面,
便せんの台紙等に書込みをしたり,許可なく封筒を切断して所持した。
これらの行為が名拘遵守事項に違反するため,名古屋拘置所職員は,
これらを廃棄するように指導し,控訴人がこれに従わなかったため,
名古屋拘置所長は,懲罰を科し,国庫帰属処分とした。
したがって,名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長の行為等に違法
性はない。
第3当裁判所の判断
1名古屋拘置所における遵守事項の定めについて
(1)刑事収容施設法74条1項は,刑事施設の長が被収容者が遵守す
べき事項を定める旨規定し,同条2項8号において,物品の不正加工
及び不正書込に係る遵守事項につき「金品について,不正な使用,所
持,授受その他の行為をしてはならないこと。」と規定する。
また,刑事収容施設法41条2項は,受刑者以外の被収容者が,日
用品,文房具その他刑事施設における日常生活に用いる物品等につい
て自弁のものを使用したい旨の申出をした場合は,刑事施設の規律及
び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合などを
除きこれを許すものとすると規定しているところからすると,自弁の
ものであっても管理運営上支障を生ずるおそれがある場合には,その
使用態様について一定の制限を加えることが許されると解される。
(2)これを受けて,名古屋拘置所において名拘遵守事項を定めている
ところ,名拘遵守事項第1の18項は「(自弁物品の破損等)自己の
物品を故意に破損し,又は手続きを経ず廃棄してはならない。」と規
定し,同第1の20項は「(物品不正製作等)許可なく物品(金銭を
含む。以下同じ。)を製作し,加工し,所持し,隠匿し,壊し,若し
くは投棄し,又はこれらの行為を企ててはならない。」と規定し,同
第1の26項は「(不正書込)便せん,ノートその他認書を許可され
た用紙以外の物に許可なく書込みをしてはならない。」と規定してい
る。
(3)刑事収容施設において,実際に物品不正製作等や不正書込がなさ
れ,それによって刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上支
障を生ずるおそれがあるとされた複数の事例が存するところ,その概
要は次のとおりである。
ア不正連絡の手段として物品不正製作ないし不正書込が行われた事

①封筒の口の部分を切って紙片にした上,連絡事項を書き込み,
不正連絡を試みた者,②封筒の切手貼り付け部分に不正な連絡事項
を書き込んだ上,当該部分に切手を貼り付ける方法で書込みを隠匿
し,これを宅下げする方法で不正連絡を試みた者,③現金書留封筒
の中封筒部分に連絡事項を記載して,これを自弁書籍の表表紙及び
裏表紙部分に隠して他人に交付する方法で不正連絡を試みた者,④
便せんの余白部分を切り取った上,これに連絡事項を書き込んで不
正連絡を試みた者,⑤作業用メモ紙に連絡事項を記載して不正連絡
を試みた者,⑥電池式カミソリの説明書に同室者の帰住予定地を記
載した者,⑦保管私物である書籍に他の受刑者の氏名,住所,刑期
終了日及び生年月日を書き込んだ上,その受刑者と不正に連絡しよ
うと企てた者,⑧私物のちり紙に連絡文を記載して交付する方法で
不正連絡を試みた者,⑨封筒の包装袋に添付された紙を小さく破っ
たものに連絡文を記載して交付する方法で不正連絡を試みた者など
の不正連絡事案が発生している(乙56)。
イ不正な情報収集の手段として,不正書込が行われた事例
被収容者の処遇に苦慮した拘置所職員が,その処遇負担を軽減す
るために,当該被収容者の要求に応じて国家公務員法100条に違
反し10年以上の長期にわたり情報を漏洩していたことが発覚した
際,当該情報は,本来,書込みが認められていない願箋用紙やパン
フレット類の裏等に記載されていたため,所持品の検査によって発
見できなかった(乙57)。
ウ物品の不正製作等により,刑事施設の管理運営上支障を生ずるお
それがあるとされた事例
①ちり紙を固めてサイコロを製作した,②自弁封筒の一部をネー
ムラベルの大きさにちぎり,別の被収容者の呼称番号を記載した上,
歯磨き粉やセロテープを用いるなどしてラベルを製作した,③所持
していた革ジャンパーのポケット内の葉くずを集め,裁判書類の余
白部分を破った紙片の上に乗せて丸め,たばこ様の物品を製作した,
④筒状に丸めた紙片内に,乾燥させたオレンジの皮を詰めて,たば
こ様の物品を製作した,⑤ちり紙を折り畳んで湿らせた上,1cm四
方大にちぎり,数字を書き込んでいた,⑥雑誌の製本用ホッチキス
3本を外した,⑦正規の手続では発信許可がされない信書を,自分
の書類の中に隠して郵送宅下げしようと考え,給与された主食(米
麦飯)をのりの代わりに用いて当該書籍に貼り付けて,これを当該
書籍とともに外部の者に交付しようとしたなどの不正製作の事案が
発生している(乙56)。
(4)以上のように,多数の事例で,許可を受けないでされた物品製作
等ないし書込みが不正連絡ないし不正情報収集の手段等として用いら
れ,その態様も様々であることや,予期せぬ場所への書込みを許容す
れば,刑事施設職員が行う被収容者の居室内の所持品検査,書込検査
の範囲が無限定となってしまうことからすると,不正連絡,不正情報
収集その他不正の目的であることが明らかであるか否かにかかわらず,
名古屋拘置所が名拘遵守事項を定めて,許可を受けないでされた物品
製作等ないし書込み自体を,一般社会において些細なものと評価され
る場合を含めて一律に禁止することが直ちに不合理であるということ
はできない。
しかしながら,刑事収容施設法74条2項は,遵守事項として定め
得る項目を列挙しているところ,物品の加工や書込みに関しては,
「金品について,不正な使用,所持,授受その他の行為をしてはなら
ないこと。」(8号)として,不正と評価し得る行為の禁止のみを容
認していることが明らかであるから,同項に基づいて定められた名拘
遵守事項18号,20号及び26号についても,その文言に関わらず,
当該行為が不正なものと評価し得るもののみを禁止しているものと解
釈すべきである。すなわち,被収容者が行った物品の加工や書込みが,
当該物品の本来的な使用用途から若干逸脱するものであっても,一般
社会においても通常行われる態様のものであり,不正連絡,不正情報
収集その他不正の目的に繋がるおそれがないことが明らかであるよう
な場合においてまで一律に禁止することは,刑事施設の規律及び秩序
の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれを排除するという目的を
逸脱し,被収容者に対して所持品の使用方法につき過度な制約を科す
ものであって,刑事収容施設法74条2項に反し国家賠償法上も違法
と解すべきである。
なお,控訴人は,過去に茶封筒から切り取った紙片を不正連絡の手
段として用いたことがあったが(乙55),そのことから直ちに不正
の目的に繋がるおそれのない行為までを一律に制限することが正当化
されるものとはいえない。
また,被控訴人は,許可を受けないでされた物品製作等ないし書込
みを一律に制限する根拠として,刑事施設職員が行う被収容者の居室
内の所持品検査,書込検査を限られた職員で確実に行うために必要で
あるなどと主張するが,当該物品の本来的な使用用途から若干逸脱す
る程度の加工や書込みがされたにすぎず,一般社会においても通常行
われる態様のものであれば,それが直ちに検査担当職員の見落としに
繋がるものとも考え難い。
以下,上記観点から名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長の控訴人
に対する対応,懲罰が国家賠償法上違法か否かについて検討する。
2吸取紙への書込みについて
(1)認定事実
名古屋拘置所職員は,平成26年3月31日,控訴人が収容されて
いる居室内の検査を実施したところ,便せん綴りに添付された吸取紙
に控訴人による書込みがされているのを見つけ(控訴人の主張によれ
ば,領置金の使用金額と残金を書き込んだとされる。),いったんこ
れを引き取ったが,控訴人に対し,書込みが容認されている物品以外
への書込みが許されておらず,書込みが容認されているノート等に書
き写して,必要なければ吸取紙を廃棄するように指導し,吸取紙を返
還した(乙1)。
控訴人は,同年4月1日,上記指導に関し,教示を願い出たが,担
当主任(主任矯正処遇官)は,同月3日,不服申立相当である旨を告
知した。控訴人は,同月4日,上記教示願いに対する回答に関し,教
示を願い出たが,担当主任は,同月10日,同月3日に回答したとお
りである旨を告知した(乙2,3)。
控訴人は,同年4月18日,上記指導に関し,書面により,名古屋
拘置所長に対する苦情の申出をした。これに対し,第2統括(統括矯
正処遇官)は,同年8月27日,苦情申出を不採択とする旨を通知し
た(乙4~6)。
なお,その後の控訴人の居室内検査において,上記吸取紙が発見さ
れていないから,控訴人が廃棄したものと認められる(乙6)。
(2)検討
ア便せん綴りは,その全体を見れば筆記するための用紙を綴ったも
のであり,それに添付された吸取紙に書込みをすることは一般社会
においても通常行われる態様のものであって(書込みによってでは
なく,吸取紙本来の用法で用いた場合でも,インクで書いた文字が
吸取紙に転写されることもある。),便せん用紙に書込みをするこ
とと添付された吸取紙に書込みをすることとの間には,刑事施設の
管理運営上支障に繋がるか否かという観点から見ても質的な相違は
ないというべきである。控訴人の書込みの態様を見ても,不正連絡
及び不正情報収集に繋がるおそれがあるとは認められない。
したがって,名古屋拘置所職員が,控訴人に対し,吸取紙に書込
みをしたことを捉えて,ノート等に書き写した上吸取紙を廃棄する
ように指導したことは,刑事施設の管理運営上支障を生ずるおそれ
を排除するという目的を逸脱し,所持品の使用方法につき過度な制
約を科すものとして国家賠償法上違法と解すべきである。
イなお,控訴人は,上記指導を受けて,名古屋拘置所長に対する苦
情の申出をし,それが不採択となった後に吸取紙を任意に廃棄して
いるが,控訴人が任意に廃棄したのは,それに従わなければ強制的
な懲罰ないし廃棄処分を受けることになるからであって,一連の経
過を見れば,名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長が控訴人に対し
て吸取紙の廃棄を強制したと評価することができる。
ウ控訴人が,名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長から受けた上記
の違法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料は,上記の廃棄
指示に至る経過等の諸事情を考慮すれば1万円と認めるのが相当で
あるから,被控訴人は,控訴人に対し,1万円及びこれに対する廃
棄指示の日である平成26年3月31日から支払済みまで民法所定
の年5%の割合による遅延損害金の支払義務を負うというべきであ
る。
3封筒の切断について
(1)認定事実
名古屋拘置所職員は,平成26年4月14日,控訴人が収容されて
いる居室内の検査を実施したところ,差し入れられた未使用の封筒を
半分に切断し,2つの袋状になった封筒の中に切手を保管しているの
を見つけ,いったん封筒を引き取ったが,控訴人に対し,許可なく封
筒を切断して切手の保管に用いることが許されておらず,封筒を廃棄
するように指導し,封筒を返還した(乙7,21)。
名古屋拘置所職員は,同年4月21日,控訴人が収容されている居
室内の検査を実施したところ,控訴人が封筒を廃棄しないで所持して
いたため,いったん封筒を引き取ったが,控訴人に対し,許可なく封
筒を切断して切手の保管に用いることが許されておらず,封筒を廃棄
するように指導し,封筒を返還した。
控訴人は,同年4月22日,上記各指導に関し,教示を願い出たが,
担当主任(主任矯正処遇官)は,同年5月9日,教示しない旨を告知
した(乙8,9)。
名古屋拘置所職員は,同年5月15日,控訴人が収容されている居
室内の検査を実施したところ,控訴人が封筒を廃棄しないで所持して
いたため,いったん封筒を引き取ったが,控訴人に対し,許可なく封
筒を切断して切手の保管に用いることが許されておらず,封筒を廃棄
するように指導したが,控訴人は,これに応じなかった(乙10)。
これを受けて警備主任(主任矯正処遇官)は,同年5月16日,封
筒を廃棄するように指導するとともに,廃棄しないのであれば一時保
管するので提出するように指導したが,控訴人は,これに応じなかっ
た。そのため,警備主任は,名古屋拘置所処遇部処遇部門首席矯正処
遇官らに報告した上,再度,控訴人に対し,封筒を廃棄するように指
導するとともに,廃棄しないのであれば一時保管するので提出するよ
うに指導したが,控訴人がこれに応じなかったため,名拘遵守事項第
1の45項違反の容疑(反抗)で調査に付す旨を告知した(乙11~
13)。
担当主任は,同年5月16日,控訴人に対し,封筒を職権で引き上
げる旨を告知し,封筒を引き取って一時保管した。さらに,担当主任
は,同年5月20日,控訴人に対し,控訴人が許可なく封筒を切断し
たことについて,名拘遵守事項第1の20項違反の容疑(物品不正製
作等(物品不正加工))で調査に付す旨を告知した(乙14~16)。
控訴人は,同年5月20日,警備主任が封筒の廃棄又は提出を指導
したこと,担当主任が封筒を引き取ったことに関し,書面により,名
古屋拘置所長に対する苦情の申出をした(乙17,18)。
名古屋拘置所職員は,同年5月26日,上記各調査として控訴人を
取り調べたところ,控訴人は,苦情申出をしており,その結論が出る
まで廃棄できないため,反抗にあたらないし,1年以上も放置されて
いた上に,封筒の切断が不正加工にあたらず,調査が不当である等と
供述した(乙19)。
名古屋拘置所長は,同年5月29日,控訴人に対し,弁解の機会を
与えるため,弁解すべき日時,懲罰の原因となる容疑事実の要旨等を
記載した「懲罰審査会の開催等に関する通知書」を通知した。控訴人
は,同年5月30日,懲罰審査会において,同審査会委員から弁解の
聴取を受け,支援者から封筒を受け取り,使いやすくするため半分に
切断したが,警備主任から20項でなく18項だと言われたし,封筒
を返還してほしい等と弁解した(乙20,21)。
名古屋拘置所長は,同年5月30日,控訴人に対し,戒告の懲罰に
科すこと,封筒を国庫帰属処分とすることを決定し,処遇首席は,控
訴人に対し,その旨を告知した(乙21,22)。
第2統括は,同年8月27日,控訴人に対し,苦情申出について不
採択とする旨を通知した(乙23)。
(2)検討
ア封筒を半分に切断してその中に切手を保管する行為は,一般社会
においても通常行われる態様のものであり(裁判所が余った郵券を
返送する際にも,半分に切断した封筒に入れて郵送することがあり,
名古屋拘置所においても,裁判所から送付された切断した封筒をそ
の形状のまま使用することは許している。乙19,弁論の全趣旨),
控訴人は,差し入れられた未使用の封筒を切断してできた袋状部分
を2つとも切手保管用に用いていたのであるから,不正連絡の手段
として用いられるような小さな紙片が生ずるものでもなく,不正連
絡及び不正情報収集に繋がるおそれはないものと認められる。
したがって,名古屋拘置所職員が上記の封筒の廃棄を求めた行為
は,刑事施設の管理運営上支障を生ずるおそれを排除するという目
的を逸脱し,所持品の使用方法につき過度な制約を科すものとして
国家賠償法上違法と解すべきである。
しかも,名古屋拘置所長は,上記の違法な廃棄指示に応じない控
訴人に対して,戒告の懲罰に科すとともに封筒を国庫帰属処分とし,
控訴人に更なる精神的苦痛を与えたものであって,名古屋拘置所長
のした戒告及び国庫帰属処分は国家賠償法上違法と解すべきである。
イ被控訴人は,一切の物品の製作等を禁じるという方法で物品の製
作等を禁じたとしても,拘置所長から許可を得ることで物品の製作
等を行うことは可能となるから被収容者の受ける制限はそれほど大
きいものとは認められないとか,刑事施設の規律及び秩序の適正な
維持に支障を生じないような態様の製作等でも名拘遵守事項違反に
該当することになるが,このような場合には,当該行為自体は厳正
に取り締まるとしても,懲罰を科さず,注意指導をするにとどめる
などとすることで,被収容者が過度に不利益を被ることを防止して
いるなどと主張するところ,このような被控訴人の主張を前提とし
ても,現に名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長の取った控訴人に
対する上記の対応は,過度の不利益を与えるものと評価することが
できる。
ウ控訴人が,名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長から受けた上記
の違法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料は,上記の廃棄
指示に至る経過,懲罰や国庫帰属処分の内容等の諸事情を考慮すれ
ば,違法な廃棄指示につき1万円,その後の戒告及び国庫帰属処分
につき1万円と認めるのが相当であるから,被控訴人は,控訴人に
対し,2万円及びうち1万円に対する廃棄指示の後の日である平成
26年4月21日から,うち1万円に対する懲罰(戒告)等の日で
ある同年5月30日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5%
の割合による遅延損害金の支払義務を負うというべきである。
4来信封筒への書込みについて
(1)認定事実
名古屋拘置所職員は,平成26年4月30日,控訴人が収容されて
いる居室内の検査を実施したところ,弁護人からの来信封筒の裏面に
控訴人による書込みがされているのを見つけ(控訴人の主張によれば,
購入予定品の旧価格と消費税増税後の新価格を書き込んだとされ
る。),いったんこれを引き取ったが,警備主任は,控訴人に対し,
書込みが容認されている物品以外への書込みが許されておらず,書込
みが容認されているノート等に書き写して,封筒を廃棄するように指
導し,封筒を返還した。控訴人は,封筒を廃棄した(乙24)。
控訴人は,同年5月20日,上記指導に関し,書面により,名古屋
拘置所長に対する苦情の申出をした。これに対し,第2統括は,同年
8月27日,苦情申出を不採択とする旨を通知した(乙17,18,
23)。
(2)検討
第三者が被収容者に宛てて送付した信書は,刑事収容施設法139
条ないし141条の規定によって受信の可否が判断され,被収容者は,
受信が許可された信書を保管私物として保管することができるが(同
法48条1項),それは受信信書として保管することが許されるもの
であって,その裏面に信書の内容とは無関係の事柄を書き込むことは,
来信封筒の本来的な保管態様を逸脱するものである。しかも,来信封
筒の裏面への書込みが一般社会においても通常行われる態様のもので
あると直ちに認めることはできないし,来信封筒への書込みを容認す
れば検査担当職員の検査範囲がより広範囲に及ばざるを得なくなるか
ら,来信封筒への書込みを制限することについては合理的な理由があ
るというべきである。
したがって,名古屋拘置所職員の上記対応が国家賠償法上違法であ
るとまでは認められない。
5訴訟書面への書込みについて
(1)認定事実
名古屋拘置所職員は,平成26年12月11日,控訴人が収容され
ている居室内の検査を実施したところ,控訴人による書込みがされた
訴訟書面を見つけ(控訴人の主張によれば,訴訟書面の裏面に毎月回
覧される食事献立予定表12月分の一部を書き写したものとされ
る。),いったんこれを引き取ったが,警備主任は,控訴人に対し,
書込みが容認されている物品以外への書込みが許されておらず,書込
みが容認されているノート等に書き写すように指導し,訴訟書面を返
還した(乙25)。
控訴人は,同年12月18日,上記指導に関し,書面により,名古
屋拘置所長に対する苦情の申出をした。これに対し,第2統括は,平
成27年3月12日,苦情申出を不採択とする旨を通知した(乙26
~28)。
(2)検討
訴訟書面は,訴訟準備等の必要のため特に所持が認められているも
のであるから,その必要に応じた利用又は保管がされるべきものであ
って,その裏面に当該訴訟と無関係の内容を書き込むことを予定した
ものではないし,その裏面に食事献立予定表の一部を書き写す行為は,
当該訴訟書面が本来の用途に用いる必要がなくなった場合を除き,一
般社会においても通常行われる態様のものであると直ちに認めること
はできず,仮に上記のように訴訟書面としての用途に用いる必要がな
くなったのであれば,控訴人がこれを所持している根拠もなくなって
いるというほかない。しかも,訴訟書面の裏面への訴訟と無関係の書
込みを容認すれば検査担当職員の検査範囲がより広範囲に及ばざるを
得なくなるから,訴訟書面への書込みを制限することについては合理
的な理由があるというべきである。
したがって,名古屋拘置所職員の上記対応が国家賠償法上違法であ
るとまでは認められない。
6便せん台紙への書込みについて
(1)認定事実
名古屋拘置所職員は,平成27年4月23日,控訴人が収容されて
いる居室内の検査を実施したところ,控訴人により「1963」等の
多数の数字や,「Tobe,ornottobe;thatisthequestion。」等
の文言が書き込まれた便せん綴りの台紙2点を見つけ(控訴人の主張
によれば,購買品価格,有名事件の発生年及び有名な言葉を書き込ん
だとされる。),いったん台紙を引き取ったが,控訴人に対し,書込
みが容認されている物品以外への書込みが許されておらず,書込みが
容認されているノート等に書き写し,必要なければ台紙を廃棄するよ
うに指導したが,控訴人は,これに応じなかった(乙34~37)。
これを受けて第1統括は,控訴人に対し,台紙への書込みについて,
名拘遵守事項第1の26項違反の容疑(不正書込)で調査に付す旨を
告知し,引き取った台紙について,返却をしないで,一時保管した
(乙35,38)。
名古屋拘置所職員は,同年4月30日,上記調査として控訴人を取
り調べた(乙39)。
控訴人は,同年5月7日,上記指導に関し,書面により,名古屋拘
置所長に対する苦情の申出をした(乙40)。
名古屋拘置所職員は,同年5月13日,上記調査として再度控訴人
を取り調べた(乙41)。
名古屋拘置所長は,同年5月18日,控訴人に対し,弁解の機会を
与えるため,弁解すべき日時,懲罰の原因となる容疑事実の要旨等を
記載した「懲罰審査会の開催等に関する通知書」を通知した。控訴人
は,同年5月19日,懲罰審査会において,同審査会委員から弁解の
聴取を受けた(乙42,43)。
名古屋拘置所長は,同年5月19日,控訴人に対し,閉居5日の懲
罰に科すこと,台紙を国庫帰属処分とすることを決定し,処遇首席は,
控訴人に対し,その旨を告知した。名古屋拘置所長は,同日,控訴人
に対し,懲罰を開始した(乙43,44)。
第2統括は,同年6月1日,控訴人に対し,苦情申出について不採
択とする旨を通知した(乙45)。
(2)検討
ア便せん綴りは,その全体を見れば筆記するための用紙を綴ったも
のであり,その台紙に書込みをすることは一般社会においても通常
行われる態様のものであって,便せん用紙に書込みをすることと台
紙に書込みをすることとの間には,刑事施設の管理運営上支障に繋
がるか否かという観点から見ても質的な相違はないというべきであ
る。控訴人の書込みの態様を見ても,不正連絡及び不正情報収集に
繋がるおそれがあるとは認められない。
したがって,名古屋拘置所職員が書込みが容認されているノート
等に書き写し,必要なければ台紙を廃棄するよう求めた行為は,刑
事施設の管理運営上支障を生ずるおそれを排除するという目的を逸
脱し,所持品の使用方法につき過度な制約を科すものとして国家賠
償法上違法と解すべきである。
しかも,名古屋拘置所長は,上記の違法な廃棄指示に応じない控
訴人に対し,閉居5日の懲罰に科すとともに台紙を国庫帰属処分と
し,控訴人に更なる精神的苦痛を与えたものであって,名古屋拘置
所長のした閉居5日の懲罰及び国庫帰属処分は国家賠償法上違法と
解すべきである。
イ控訴人の書込みの趣旨,目的は必ずしも明らかではないが,死刑
確定者として自らの内面から吐露された心情を記載する場合もあり
得るのであって,そうした書込みに対して,便せん用紙ではなくそ
の台紙に記載した点を捉えて書き写しを命じ,それに応じない場合
に懲罰まで科したとするならば,心情の安定に留意すべきとする死
刑確定者の処遇の原則(刑事収容施設法32条1項)にも反する対
応といわざるを得ない。
ウ控訴人が,名古屋拘置所職員及び名古屋拘置所長から受けた上記
の違法行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料は,上記の廃棄
指示に至る経過,懲罰や国庫帰属処分の内容等の諸事情を考慮すれ
ば,違法な廃棄指示につき1万円,その後の閉居5日の懲罰及び国
庫帰属処分につき4万円と認めるのが相当であるから,被控訴人は,
控訴人に対し,5万円及びうち1万円に対する廃棄指示の日である
平成27年4月23日から,うち4万円に対する懲罰(閉居5日)
等の日である同年5月19日から,それぞれ支払済みまで民法所定
の年5%の割合による遅延損害金の支払義務を負うというべきであ
る。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人に対し,8万円及びうち1
万円に対する平成26年3月31日から,うち1万円に対する同年4月
21日から,うち1万円に対する同年5月30日から,うち1万円に対
する平成27年4月23日から,うち4万円に対する同年5月19日か
ら,それぞれ支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の
支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄
却すべきであり,これと異なる原判決を取り消すこととして,主文のと
おり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官藤山雅行
裁判官前田郁勝
裁判官丹下将克は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官藤山雅行

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