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平成15年(行ケ)第462号 審決取消請求事件
平成16年7月26日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 株式会社ブイ・テクノロジー
 訴訟代理人弁護士 出澤秀二,髙野浩樹,丸野登紀子,弁理士 飯沼義彦,唐澤
勇吉
 被 告 株式会社ソキア
 訴訟代理人弁理士 八木秀人,清水修
     主    文
 特許庁が無効2003-35003号事件について平成15年9月10日にした
審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 被告は,本件特許第2889083号(発明の名称「二次元座標測定機」,平成
5年6月25日特許出願,平成11年2月19日特許権の設定登録)の特許権者で
ある。
 原告は,平成15年1月6日,本件特許のうち,請求項1及び2に係る発明の特
許について無効審判を請求し(無効2003-35003号),平成15年4月1
日,被告により訂正請求がされた。
 本件無効審判請求につき,平成15年9月10日,「訂正を認める。本件審判の
請求は成り立たない。」との審決があり,その謄本は同年9月22日原告に送達さ
れた。
 2 訂正発明の要旨(上記訂正請求によるもの。下線部分が訂正による付加部
分。(A)ないし(G)は,便宜付したもの)
【請求項1】
 (A)平行に延設されたガイドレール上にスライド移動自在に設置されたX軸フレ
ームと,
 (B)このX軸フレームを前記ガイドレールに沿って移動させるY軸駆動部と,
 (C)前記X軸フレームの長手軸方向に沿ってスライド移動自在に設けられた検出
部と,
 (D)この検出部を前記X軸フレームに沿って移動させるX軸駆動部と,
 (E)前記検出部の下方から被測定物を照射する光源部とを備えた二次元測定装置
において,
 (F)前記Y軸駆動部を,
 (f1)その縦断面が略凹形に形成され,
 (f2)かつ被測定物を載せるテーブルが挿通する窓孔が設けられた
 (f3)前記X軸フレームの長手軸方向略中央部下面に設けた
ことを特徴とする二次元座標測定機。
【請求項2】
 (G)前記光源部は,前記X軸フレームに取り付けられ,かつ,前記検出部と同期
移動する
 ことを特徴とする請求項1記載の二次元測定機。
 3 原告が審判で主張した無効理由
 下記アないしエの理由により,請求項1及び2に係る特許は,本件出願前に頒布
された刊行物である下記審判甲第2号証及び審判甲第3号証ないし審判甲第9号証
に記載された当該技術分野における従来技術に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであって,特許法29条2項により特許を受けることができない
ものである。
      記
 審判甲第2号証:実願昭57-88304号(実開昭58-189905号)の
マイクロフィルム(本訴甲2)
 審判甲第3号証:実願昭61-65958号(実開昭62-178395号)の
マイクロフィルム(本訴甲3)
 審判甲第4号証:特開平1-152306号公報(本訴甲4)
 審判甲第5号証:「機械設計」1992年(平成4年)12月号,57~60頁
(本訴甲5)
 審判甲第6号証:米国特許第4815857号明細書(本訴甲6)
 審判甲第7号証:実願平3-60669号(実開平5-6308号)のCD-R
OM(本訴甲7)
 審判甲第8号証:米国特許第4682418号明細書(本訴甲9)
 審判甲第9号証:米国特許第5173613号明細書(本訴甲8)
 ア.(訂正前の)請求項1及び請求項2に係る発明は,審判甲第2号証に記載さ
れた発明において,審判甲第3号証ないし審判甲第6号証にそれぞれ記載された周
知技術を適用したにすぎないものであり,特許法29条2項により特許を受けるこ
とができないものである。
 イ.平成15年4月1日付けの訂正請求書による明細書の訂正は,以下の理由1
及び2により,認められない。
 理由1)訂正後の明細書は特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たして
いない。
 理由2)本件特許明細書に記載されていない作用効果を主張しており,実質上特
許請求の範囲を変更するものである,
 ウ.訂正後の請求項1及び2(訂正発明1,2)は,審判甲第2号証に記載され
た発明において,審判甲第3号証ないし審判甲第6号証にそれぞれ記載された周知
技術を適用したにすぎないものであり,特許法29条2項により特許を受けること
ができないものである。
 4 審決の理由の要点
 (1) 訂正請求は,関係規定に適合するので,これを認める。
 (2) 訂正発明1についての対比
 訂正発明1と審判甲第2号証記載の発明とを対比すると,以下のとおりである。
  ① 審判甲第2号証に記載された発明では,「アーム2」と「該アーム2に固
定されたY軸移動装置」とは一体となって,平行に延設されたガイドレールである
レール4a,4b上をスライド移動自在に設置されていることは明らかであるか
ら,審判甲第2号証に記載された発明における「アーム2」と「該アーム2に固定
されたY軸移動装置」が,訂正発明1における「X軸フレーム」(構成(A))に相
当する。
  ② 審判甲第2号証には,「アーム2」と「該アーム2に固定されたY軸移動
装置」を,レール4a,4bに沿って移動させる手段については具体的な記載はな
いものの,何らかの「Y軸駆動部」(構成(B))があることは自明である。
  ③ 第1図からも明らかなように,審判甲第2号証記載の発明における「測定
ヘッド3」は,アーム2の長手軸方向に沿ってスライド移動自在に設けられている
から,訂正発明1における「検出部」(構成(C))に相当し,該測定ヘッド3がX
方向に移動することが明記されている以上,測定ヘッド3をアームに沿って移動さ
せる何らかの「X軸駆動部」(構成(D))があることも自明である。
  ④ 第1図からも明らかなように,審判甲第2号証記載の発明においては「ガ
ラス基板を下方から照射する点光源8」が,測定ヘッド3の下方に設けられてお
り,該「点光源8」が,訂正発明1における「光源部」(構成(E))に相当する。
  ⑤ 上記①のとおり,審判甲第2号証に記載された発明における「アーム2」
と「該アーム2に固定されたY軸移動装置」は,訂正発明1における「X軸フレー
ム」に相当するものであるが,第1図からも明らかなように,審判甲第2号証記載
の発明では,門形をした「アーム2」と,該アーム2の脚部に固定された「Y軸移
動装置7」によって形成された空間を設け,該空間を「被測定物を載せるテーブ
ル」に相当するガラス基板6が挿通し得るように構成されている。よって,審判甲
第2号証記載の発明においても,X軸フレームには,被測定物を載せるテーブルが
挿通する空間が設けられているといえる。
 以上の①ないし⑤から明らかなように,両者は,
「(A)平行に延設されたガイドレール上にスライド移動自在に設置されたX軸フレ
ームと,
 (B)このX軸フレームを前記ガイドレールに沿って移動させるY軸駆動部と,
 (C)前記X軸フレームの長手軸方向に沿ってスライド移動自在に設けられた検出
部と,
 (D)この検出部を前記X軸フレームに沿って移動させるX軸駆動部と,
 (E)前記検出部の下方から被測定物を照射する光源部とを備え,
 前記X軸フレームには,被測定物を載せるテーブルが挿通する空間が設けられて
いる二次元座標測定機。」
である点で一致しており,以下の点で相違している。
【相違点ア】
 前記「X軸フレーム」について,訂正発明1では,「その縦断面が略凹形に形成
され」ているのに対して(構成(f1)),審判甲第2号証記載の発明では,そのよ
うな構成を有していない点。
【相違点イ】
 X軸フレームに設けられた,前記「被測定物を載せるテーブルが挿通する空間」
が,訂正発明1では,「窓孔」であるのに対して,審判甲第2号証記載の発明で
は,「アーム2」と「該アーム2に固定されたY軸移動装置7」によって形成され
た空間である点。
【相違点ウ】
 前記「Y軸駆動部」について,訂正発明1では,「前記X軸フレームの長手軸方
向略中央部下面に設けた」としているのに対して(構成(f3)),審判甲第2号証
の発明では,その設置場所については言及されていない点。
 (3) 訂正発明1の相違点についての判断
  ① 相違点イについて
 「被測定物を載せるテーブルが挿通する空間」が,審判甲第2号証記載の発明で
は,「アーム2」と「該アーム2に固定されたY軸移動装置7」によって形成され
た空間であるのに対して,訂正発明1においては,「窓孔」であるとしている。
 しかしながら,請求人(原告)が新たに提出した審判甲第8,第9号証にも記載
されているとおり,二次元座標測定機において,X軸フレームを1つの環状構造体
で構成すること,すなわち,窓孔を有するX軸フレームを用いることは,本件出願
前に既に周知である。
 したがって,被測定物を載せるテーブルが挿通する空間を設けるに当たり,審判
甲第2号証記載の発明のように,門形の「アーム2」と「該アーム2に固定された
Y軸移動装置7」によって該空間を形成するか,あるいは,X軸フレームを1つの
環状構造体で構成する,すなわち,窓孔を有するX軸フレームを用いるかは,単な
る設計的事項にすぎず,相違点イが,実質的な相違点であるとすることはできな
い。
  ② 相違点アについて
 「その縦断面が略凹形に形成され」るという意味については,既に訂正の適否の
判断で述べたとおりである。
(判決注:ここで引用された「訂正の適否の判断」の該当部分は,次のとおり)
 ******************************************************
 本件明細書において、「X軸フレーム」の縦断面の形状に関する記載は、【00
15】の「X軸フレーム14は、その縦断面が略凹形に形成され、その下面側の両
側にガイドレール12と嵌合する複数のスライダー24が固設され、その上端面側
には検出部18が載置される載置台25をスライド移動自在に支持する複数のレー
ル26が固設されている。」という記載だけであり、また、本件図面の記載をみて
も、第1実施例を示す図1及び第2実施例を示す図3~5に、上記明細書の記載事
項のとおりの事項が図示されているにすぎず、本件明細書及び図面のいずれにも、
X軸フレームの縦断面が、X軸フレームの特定の箇所での縦断面である旨の記載、
略凹形の向きが、横向きであったり下向きであってもよい旨の記載、あるいは、略
凹形における凹部の幅や深さに関する記載はない。
 そして、本件訂正請求における「その縦断面が略凹形に形成され」という限定が
意味するところは、明細書及び図面に記載された事項から判断されるべきものであ
ることは当然であるところ、明細書及び図面の記載からみて、上記限定における
「その縦断面」とは、X軸フレームの全長における縦断面であること、すなわち、
X軸フレームの全長に亘り、縦断面が略凹形に形成されていることは明らかであ
り、また、凹形とは文字どおり上向きの凹形であり、さらに、その凹部の幅や深さ
が特に限定されるものではないことも、明白である。
 したがって、「訂正後の請求項1及び請求項2は、発明の詳細な説明に記載した
事項の範囲を超えるものであって、同請求項1及び請求項2に係る発明は、発明の
詳細な説明に記載したものということができず、また発明の詳細な説明には、その
発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明を実施す
ることができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されていない。」とす
る請求人(原告)の主張は採用できない。
 ******************************************************
(以上,審決の「訂正の適否の判断」の該当部分)
 そこで,X軸フレームの縦断面が略凹形に形成されることが,審判甲第3ないし
6号証に記載あるいは示唆されているか否かについて検討する。
 審判甲第3号証には,XY移動テーブルに関し記載があり,該XY移動テーブル
における「X方向移動台5」は,訂正発明1における「X軸フレーム」に対応する
ものであるが,フレーム(枠体)ではない上,その断面形状についての記載もな
い。
 審判甲第4号証には,形状測定装置が記載されており,該装置において,訂正発
明1における「X軸フレーム」に相当するものは「センサ支持枠20」であるが,
その縦断面を略凹形に形成する旨の記載も示唆もない。
 審判甲第5号証には,プリント基板用NCテープ自動作成装置が記載されてお
り,該装置は,訂正発明1における「X軸フレーム」に相当するものは有していな
い。そして,審判甲第5号証の図4には,訂正発明1のように移動するものではな
く固定された枠体であって,その上面にY軸モータ及びY軸ボールネジが設けられ
た枠体が図示されており,その上面に「凹溝」が設けられていることが見てとれる
ものの,該枠体の縦断面が「略凹形」であるとすることは到底できない。
 審判甲第6号証には,「側部直立柱10,11」と「上部及び下部横断部材1
2,13」とからなるフレームを有する測定機が記載されており,該フレームは,
訂正発明1における「X軸フレーム」に相当するものであるが,そのフレームの縦
断面を略凹形にすることについては,何ら示唆する記載もない。
 以上のとおり,審判甲第3号証ないし審判甲第6号証には,X軸フレームの縦断
面が略凹形に形成されることについては何ら示唆する記載はない。
 したがって,訂正発明1の相違点アに係る構成については,審判甲第3号証ない
し審判甲第9号証に記載された周知技術からでは,当業者といえども,容易に想到
し得るものであるとすることはできない。
  ③ 相違点ウについて
 平行に延設された一対のガイドレール上にスライド移動自在に設置されたフレー
ムやテーブル等の移動体を,該ガイドレールに沿って移動させる際,その軸駆動部
を,フレームの長手軸方向略中央部下面あるいはテーブルの幅方向力中央部下面に
設けることは,審判甲第3号証ないし審判甲第6号証,あるいはさらに,新たに請
求人(原告)が提出した審判甲第8号証及び審判甲第9号証にも記載されていると
おり,本件出願前に既に周知である。
 すなわち,審判甲第3号証には,軸駆動部である「X方向移動用モータ2及びX
方向移動用ボールネジ3」を「X方向移動台5」の長手軸方向略中央部下面に設け
ることが,審判甲第4号証には,軸駆動部である「ボールネジ及びモータ」を「セ
ンサ支持枠20」の長手軸方向略中央部下面あるいは「フレームF」の幅方向略中
央部下面に設けることが,審判甲第5号証には,軸駆動部である「X軸ボールねじ
及びX軸モータ」を「テーブル」の幅方向略中央部下面に設けることが,審判甲第
6号証には,軸駆動部である「ナット16と共働するウオーム15よりなるウオー
ムギア機構」を「下部横断部材13」の長手軸方向略中央部下面に設けることが,
それぞれ記載されている。
 してみれば,審判甲第2号証記載の発明において,Y軸駆動部を,移動体である
Y軸移動装置の長手軸方向略中央部下面,すなわち,X軸フレームの長手軸方向略
中央部下面に設ける程度のことは,当業者が容易になし得ることである。
 訂正発明1は,相違点ウにより,「軸駆動部がX軸フレームの長手軸方向略中央
に設けられているので,ガイドレールの加工誤差によりヨーイング運動が発生した
としても,X軸フレームにスライド移動自在に設けられている検出部は,Y軸駆動
部に対して,最大でもX軸フレームの長手軸方向の略1/2しか移動せず,このた
め,ヨーイング運動による測定誤差を略1/2に低減できる。」という本件明細書
(【0012】)記載の作用効果を奏するものであるが,審判甲第3号証に「前述
の従来装置においては,一対のX方向レールの摩擦力(レール4とX方向移動台5
との間の摩擦力)の違いがあると移動台5が平行移動できず傾斜状態で移動した
り,円滑に移動しないという不都合がある。またこの傾斜は移動台5が図面上左方
向に移動するときと右に移動するときとでは互いに逆となり,移動台の位置精度が
著しく悪いという問題点があった。」(明細書2頁下から2行~3頁7行)と記載
されているように,ヨーイング運動による測定誤差があることは,本件出願前に既
に知られているところであり,そして,ガイドレールの加工誤差により被移動体に
ヨーイング運動が発生したとしても,軸駆動部を移動体の中央部下面に設けた場合
には,軸駆動部を移動体の一端側に設ける場合に比して,そのヨーイング運動によ
る被移動体上の最大の移動誤差を,略1/2に低減し得ることは,当業者にとって
自明のことである。
 よって,審判甲第2号証記載の発明において,Y軸駆動部を,Y軸移動装置の中
央部下面に設けたことによるその効果についても当然に予期し得る範囲内の効果に
すぎない。
  ④ 訂正発明1についてのまとめ
 以上のとおり,相違点イ及び相違点ウに係る構成については,審判甲第3ないし
6号証,あるいは審判甲第8,9号証等に記載された当該技術分野における周知技
術に基づいて,容易に発明をすることができたものであるが,相違点アに係る構成
については,当業者といえども,容易に発明をすることができたものであるとする
ことはできない。
 したがって,訂正発明1が,審判甲第2号証ないし審判甲第6号証に記載された
発明,あるいは審判甲第2号証に記載された発明及び当該技術分野における周知・
慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとするこ
とはできない。
 (4) 訂正発明2について
 訂正発明2は,訂正発明1の構成に,さらに「前記光源部は,前記X軸フレーム
に取り付けられ,かつ,前記検出部と同期移動する」という構成を付加したもので
ある。
 そこで,この付加された構成について検討するに,審判甲第2号証記載の発明に
おいては,点光源8はY軸移動装置に組付けられており,該点光源8が測定ヘッド
3の移動に連動するようにされており,該付加された構成を有するものである。
 よって,訂正発明2と審判甲第2号証記載の発明との一致点,相違点,及び相違
点についての判断については,前項に記載したとおりである。
 したがって,訂正発明2が,審判甲第2号証ないし審判甲第6号証に記載された
発明,あるいは審判甲第2号証に記載された発明及び当該技術分野における周知・
慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとするこ
とはできない。
 (5) 結び
 以上のとおりであるから,請求人(原告)の主張する理由及び提出した証拠方法
によっては本件の請求項1及び2に係る特許を無効とすることができない。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 取消事由1(梁構造についての誤った認識)
 審判甲第2号証に記載された「アーム2」あるいは訂正発明1における「X軸フ
レーム」において,全体の構造が,その中央部に被測定物を載せるテーブルが挿通
する空間が設けられた門形のフレームあるいは窓孔を有するフレーム(枠体)であ
っても,「梁」に相当する部分の縦断面を略凹型とすることによる効果,例えば,
2本の「梁」に相当する部分の縦断面の面積を同じくした場合に,縦断面を略凹型
とした場合の「梁」に相当する部分の曲げ剛性や捩れ剛性が,縦断面を矩形のまま
とした場合の「梁」に相当する部分の曲げ剛性や捩れ剛性に比べて大きくなると
か,縦断面を略凹型としたことによって形成された凹溝を,X軸フレームに沿って
移動させる検出部を案内する案内溝あるいはガイドレールとして利用することがで
きるようになるとか,凹溝内に,検出部をX軸フレームに沿って移動させるX軸駆
動部の推進ねじ等を収容することができ,そうすることによってX軸駆動部の重心
の位置を,「梁」に相当する部分の凹溝内の位置まで低い位置にすることができる
ようになって,「梁」に相当する部分を全体としてより安定な姿勢に保つことがで
きるようになるとかの効果は,「梁」に相当する部分に直接生じる効果にほかなら
ず,審判甲第2号証に記載された「アーム2」あるいは訂正発明1における「X軸
フレーム」の全体の構造が,その中央部に被測定物を載せるテーブルが挿通する空
間が設けられた門形のフレームあるいは窓孔を有するフレーム(枠体)であること
によって,審判甲第2号証に記載された「アーム2」あるいは訂正発明1における
「X軸フレーム」に特有の効果として生じるものではない。
 審判甲第2号証に記載された「アーム2」あるいは訂正発明1における「X軸フ
レーム」の「梁」に相当する部分は,審判甲第2号証に記載された「アーム2」あ
るいは訂正発明1における「X軸フレーム」の一部によって構成されていることは
明らかである。そのような構造であるから,「梁」に相当する部分の縦断面を略凹
型とすることによる効果は,審判甲第2号証に記載された「アーム2」あるいは訂
正発明1における「X軸フレーム」にも,二次的に当然に生じることは明らかであ
る。
 本件明細書には,「X軸フレーム」の「梁」に相当する部分の縦断面を略凹型と
することによって,「X軸フレーム」に,当業者が当然予測し得る効果を超えて予
期し得なかった効果が生じるとの記載はない。
 したがって,審決が,「梁構造のごく一般的な構造として,その縦断面を略凹型
とすることが従来より周知・慣用手段であったとしても,いわゆる「梁」と,審判
甲第2号証に記載された「アーム2」あるいは訂正発明1における「X軸フレー
ム」とは異なる形状であって,その機能も異なるものであるから,梁構造において
周知・慣用手段であるというだけでは,相違点アについて,容易に想到し得る構成
であるとすることはできない。」としたことには,誤りである。
 2 取消事由2(審判甲第5号証の記載事項の認定誤り)
 審判甲第5号証の図4に示された枠体は固定された枠体ではあるが,その固定さ
れた枠体は,左右両側の固定された脚部によって支えられた「梁」に相当する部分
を有している。この「梁」に相当する部分は,その側面に付設された「リニアスケ
ール」を除いて,その縦断面の形状が全体として概ね矩形状の輪郭を有しており,
その上面側に2本の矩形断面の凸条が互いに平行に一体的に形成されている。これ
らの2本の凸条によって,縦断面の形状が概ね矩形の「梁」に相当する部分の上面
側には「凹溝」が形成されているのである。その結果,「梁」に相当する部分は,
全体として縦断面が「略凹型」の「梁」を形成している。
 しかるに,審決は,これについて,「該枠体の縦断面が「略凹型」であるとする
ことは到底できない。」と誤って認定した。
 3 取消事由3(審判甲第7号証の記載事項の認定誤り)
 審判甲第7号証における「架台36」の「梁」に相当する部分の縦断面は,全体
として概ね矩形状の輪郭を有している。この縦断面が全体として概ね矩形状の輪郭
を有する「架台36」の「梁」に相当する部分の上面側には,凹溝が設けられてい
るのであるから,「架台36」の「梁」に相当する部分の縦断面は,当然「略凹
型」の形状となる。
 審決は,この点の認定も誤っている。
 4 取消事由4(周知慣用技術の誤認)
 X軸フレームとY軸フレームとを備えて二次元的に座標を測定したり,あるいは
二次元的に座標を測定しながら高精度の加工を行ったりする機械装置において,X
軸フレームがY軸方向に移動するように構成されている場合であっても,また,X
軸フレームをY軸方向に移動させる代わりに測定テーブルをY軸方向に移動させる
場合であっても,X軸フレームの梁部の縦断面を略凹型に形成することは,審判甲
第5号証及び甲第7号証に示されているのはもちろん,本訴で提出した下記甲第1
0号証ないし甲第14号証にも示されているとおり,従来より極めて周知であっ
て,ごく普通の技術として慣用されていることにすぎない。
 審決は,この周知慣用技術の認定を誤っている。
     記
 甲第10号証(米国特許第4,379,308号明細書)
 甲第11号証(実願昭62-195471号(実開平1-99008号)のマイ
クロフィルム)
 甲第12号証(特開平3-138092号公報)
 甲第13号証(特開平4-105001号公報)
 甲第14号証(特開平4-184208号公報)
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1に対し
 (1) 審決は,「いわゆる梁」と訂正発明1における「X軸フレーム」とは,異な
る形状であって,その機能も異なることのみをもって,X軸フレームの縦断面を略
凹形とすることは当業者が容易に想到できるものではない,と判断したのではな
い。審決では,審判甲第3ないし第9号証には,X軸フレームの縦断面を略凹形と
することを示唆することについての記載がないから,X軸フレームの縦断面を略凹
形とすることは,当業者が容易に想到できることではない,としたものである。
 (2) 審判甲第2号証に記載されたものの「アーム2」は,梁状部分の両端に脚を
有する門形の形状をしており,脚の下端間に結合されたY軸移動装置7によって,
アーム2とY軸移動装置7の間に,被測定物を載せるガラス基板6(テーブル)が
挿通する空間を形成している。このような「アーム2」は,上下方向荷重を受ける
機能を有する単なる横臥部材である「いわゆる梁」とは異なる形状であって,その
機能も異なる。
 訂正発明1のX軸フレームは,縦断面が略凹形で,かつ被測定物を載せるテーブ
ルが挿通する窓孔が設られており,同様に単なる横臥部材である「いわゆる梁」と
は,異なる形状であって,その機能も異なるものである。
 (3) したがって,「アーム2」は,いわゆる梁とは異なる形状であって,その機
能も異なる。審決はこのことを理由にして,「訂正発明1のX軸フレームに相当す
る審判甲第2号証に記載のもののアーム2の縦断面を略凹形とすることは,当業者
といえども,容易に想到し得ることはできない」と判断したものである。
 2 取消事由2に対し
 審判甲第5号証の図4には,Y軸スライド板をガイドする固定された枠体上にお
いてY軸ボールねじの両側にレールを配置して,枠体とレールで凹溝を構成した点
が記載されているが,この図に記載のものでは枠体自体に凹溝を形成してはいな
い。審決は,このことをもって,「枠体の上面に凹溝が設けられていることが見て
とれるものの,該枠体の縦断面が「略凹型」であるとすることは到底できない」と
認定したものである。
 3 取消事由3に対し
 審判甲第7号証の第7図に記載された架台36に設けられた凹溝は,同号証の図
1に記載されたX方向駆動架台13のガイド溝13aに相当する。このガイド溝1
3aは,観察ヘッド14下部の係合突起14aをガイドするだけの小さな凹溝であ
り,X方向駆動架台13の同一断面積に対する断面係数を大きくするために設けた
ものではない。
 これに対して,訂正発明1においては,同一断面積に対するX軸フレームの断面
係数を大きくし,すなわち,X軸フレームの幅及び高さを大きくするために,X軸
フレームの縦断面を略凹形にしているのである。したがって,審判甲第7号証の第
7図に記載の架台36に凹溝があるからといって,訂正発明1と同じ意味で,架台
36の縦断面が略凹形に形成されているとはいえない。
 4 取消事由4に対し
 (1) 原告は,甲第10号証ないし甲第14号証を新たに提示して,「X軸フレー
ム」の縦断面を「略凹形」に形成することが周知である旨,主張しているが,これ
らは,本審決の引用しなかったところであるから,許されない。
 (2) 仮にこれらの証拠提出が許されるとしても,次に述べるように,X軸フレー
ムの縦断面を略凹形とすることが周知であるとは,認めることができない。
 甲第10号証の図1には,X軸ガイドビーム114に推進ねじ126を収容する
小さな凹溝が設けてあるが,この凹溝はX軸ガイドビーム114の同一断面積に対
する断面係数を大きくするために設けたものではない。したがって,X軸ガイドビ
ーム114の縦断面が略凹形であるとはいえない。
 甲第11号証の第3図には,審判甲第7号証の第7図に記載された架台36と同
様に,凹溝を設けた架台15が記載されている。しかし,この凹溝は,審判甲第7
号証に記載の架台36に設けた凹溝と同様に,架台15の同一断面積に対する断面
係数を大きくするために設けたものではない。したがって,架台15の縦断面が略
凹形であるとはいえない。
 甲第12号証の第2図及び第4図には,移動台4,18の上面に小さなガイド溝
6,20を設けた点が記載されている。しかし,ガイド溝6,20は,審判甲第7
号証に記載の架台36に設けた凹溝と同様に,架台36の同一断面積に対する断面
係数を大きくするために設けたものではない。したがって,移動台4,18の縦断
面が略凹形であるとはいえない。
 甲第13号証及び甲第14号証の第5図及び第6図には,「デジタル精密測長機
又は厚み測定装置において,前後方向(第5図では上下方向)にスライド移動する
Y軸9は,底面と一対のX軸固定レール13と一対の左右側壁からなる箱型で,Y
軸9内には,X軸本体15を左右方向にスライド移動させるための空間を形成し
た」点が記載されている。しかし,わずかこの2つの証拠から,Y軸9が箱型であ
ることが本件出願前に周知であったことは証明されない。
 仮にこの2つの証拠を考慮したとしても,審決の結論は変わらない。なぜなら,
Y軸9内の空間はX軸本体15を左右方向にスライド移動させるための空間である
から,訂正発明1の構成である「被測定物を載せるテーブルが挿通する窓孔」をY
軸9に設けることは不可能であり,これにより,Y軸9にテーブルが挿通する窓孔
を設けるという構成を想到することはできないからである。
 5 審決の判断に関する被告の主張の補充
 (1) 相違点アについては,字句どおり解釈すべきではなく,相違点イが存在しな
いことを前提に,「被測定物を載せるテーブルが挿通する窓孔が設けられたX軸フ
レームについて,訂正発明1では,その縦断面が略凹形に形成されているのに対
し,甲第2号証記載の発明では,そのような構成を有しない点」と解すべきであ
る。すなわち,縦断面略凹形の溝形鋼と呼ばれるものが梁や柱等に用いられること
が周知であり,単なるX軸フレームの縦断面を略凹形にすることには特に困難性が
ないこと,そして,審決が,相違点イの判断を先にした上で,梁構造において縦断
面略凹形とすることが周知慣用手段であったとしても,被測定物を載せるテーブル
が挿通する窓孔のない「いわゆる梁」と訂正発明1のX軸フレームとは,形状と機
能が全く相違するから,前記相違点アについて容易に想到し得るものではない旨説
示していることからして,上記のように解すべきである。
 (2) 審判手続において原告が提出した証拠は,審判甲第2~第9号証だけであ
り,審決の判断に誤りがあるか否かは,これらの証拠のみによって決せられるべき
である。
 これら審判甲号証には,X軸フレームの縦断面が略凹形に形成されているものが
含まれていないのであるから,審判では,被測定物を載せるテーブルが挿通する窓
孔を有するX軸フレームにおいて,その縦断面が略凹形に形成されたことに特許性
があるか否かを判断すれば足りる。訂正発明1のように,被測定物を載せるテーブ
ルが挿通する窓孔が設けられたX軸フレームの縦断面を略凹形にすることは,当業
者といえども容易に想到できることではない。
 (3) 原告が新たに提出した甲第13,第14号証及び本件特許公報の従来例に記
載されたものにおいて,訂正発明1のX軸フレームに相当するものは,いずれも縦
断面が略凹形であるが,この凹形はボールネジと該ボールネジに螺合する移動体
(甲第13,第14号証に記載のX軸本体15参照)を移動自在に収容するもので
ある。したがって,移動体と被測定物を載せるテーブルとの干渉を防ぐため,X軸
フレームにはテーブルを挿通させる窓孔を設けずに,テーブルはX軸フレームの下
側に配置されている。
 このような証拠が審判請求時に適正に提出されていたとしても,次のような理由
によって,審決の結論が変わることはない。
 これらの書証に記載されたものにおいて,訂正発明1のX軸フレームに相当する
ものは,縦断面略凹形の梁状をしているが,被測定物を載せるテーブル挿通用の窓
孔を設けておらず,審判甲第2号証に記載のアーム2とY軸移動装置7の連結体と
は全く異なる形状を有していることは,従来周知の縦断面略凹形の梁と同じであ
る。したがって,審判甲第2号証に記載のアーム2とY軸移動装置7の連結体と,
新たに提出された証拠のX軸フレームの縦断面を略凹形とする構成とからでは,訂
正発明1のように,被測定物を載せるテーブルが挿通する窓孔が設けられたX軸フ
レームの縦断面を略凹形にすることは,当業者といえども容易に想到できることで
ない。
第5 当裁判所の判断
 1 原告主張の審決取消事由について一括して判断する。
 (1) 審判甲第7号証(甲第7号証)記載の「テーブル型測長装置」の架台36
は,本件発明1に係る二次元座標測定機のX軸フレームに相当することは明らかで
あり,第7図の架台36に凹溝が設けられている。
 そもそも,訂正発明1と審判甲第2号証に記載の発明との間の相違点アは,X軸
フレームの縦断面が略凹形に形成されているか否かという形状自体に係る事項であ
って,その「凹形」の形状が厳密に規定されているわけでもなく,同一断面積に対
する断面係数を大きくしたり,X軸フレームの幅及び高さを大きくするためにその
縦断面を凹形とすることが規定されているわけでもない。このような凹形の形状と
その意義にかんがみれば,架台36が審決の認定のとおり門形であるとはいえ(審
判甲第7号証第7図),架台36に凹溝が設けられていることからすると,門形の
脚部である両端を除く部分(審決でいう「梁」に相当する部分)の縦断面は略凹型
の形状の範疇に属するというべきである。
 したがって,審判甲第7号証には,二次元座標測定機のXの軸フレームの縦断面
を略凹形とすることが記載されていると認めることができる。
 (2) 甲第10号証(米国特許第4,379,308号明細書)記載の「表面上に
おける図面のパラメータ決定装置Apparatusfordeterminingtheparametersof
figuresonasurface」のガイドビームguidebeam114,甲第11号証(実願
昭62-195471号(実開平1-99008号)のマイクロフィルム)記載の
「基板測定装置の試料載置台」の架台15,甲第12号証記載(特開平3-138
092号公報)の「レーザ加工機」の移動台4,18が,本件発明1に係る二次元
座標測定機のXの軸フレームに相当することは明らかである。そして,甲第10号
証図1のガイドビーム114に推進ねじleadscrew126を収容する小さな凹溝
が設けられていること,甲第11号証第3図の架台15に凹溝が設けられているこ
と,甲第12号証第2図及び第4図の移動台4,18の上面に小さなガイド溝(凹
溝)6,20が設けられていることも明らかである。
 甲第10号証のガイドビーム114,甲第11号証の架台15,甲第12号証の
移動台4,18に設けられた凹溝は,門形の部材に設けられているとしても,審判
甲第7号証の架台36と同様に,その縦断面が略凹型であることは明らかである。
 なお,これら甲第10ないし第12号証は,周知技術の存在を立証するものにす
ぎず,新たな引用例を立証する証拠ではないから,審決取消訴訟である本訴におい
て新たにこれを提示して主張立証することが許されないものではない。
 (3) 以上によれば,二次元座標測定機においてX軸フレームの縦断面を略凹形と
することは,周知の技術に属するものと認めることができる。訂正発明1の相違点
アに係る構成は,当該技術分野における周知技術に基づいて,当業者が容易に想到
することができたものであり,これに反する審決の判断は誤りである。審決は,結
論に影響を及ぼすべき誤りがあるものとして,取り消されるべきである。
 2 原告が審判で提出した審判甲号各証との対比において,訂正発明1が進歩性
を欠くかの検討においては,審決が認定した審判甲第2号証記載の発明との相違点
イ,ウの構成の容易想到性について更に吟味されなければならないが,この点につ
いては,審決が設計的事項にすぎないか(相違点イ),当業者が容易になし得るこ
とである(相違点ウ)と認定判断しているところである。本訴においては,上記審
判甲号各証との対比における訂正発明1,2の進歩性の有無が審理の対象となって
おり,相違点イ,ウに関する争点も審理の範囲内に属する。
 この点につき,被告は,相違点イに関する訂正発明1の構成,すなわち,X軸フ
レームに設けられた,「被測定物を載せるテーブルが挿通する空間」が「窓孔」で
あると規定されている点が審判甲第2号証記載の発明の構成とは実質的に相違しな
いとした審決の認定を争わず,この点の構成を相違点アに関する構成に重ね合わせ
た上での構成の容易想到性が判断されるべきである旨主張する。しかし,被告のこ
の主張を前提にして,相違点ア及びイに係る構成を一体としてみても,容易に想到
することのできるそれぞれの構成から予期できるところを凌駕する作用効果が奏さ
れるものとは認められない。したがって,相違点イとアに係る訂正発明1の構成を
総合してみても,この点は容易に想到することができたものと認めることができ
る。
 その他,当事者双方の主張(特に被告の主張)にかんがみても,前記1で判断し
たような相違点アに関する審決の判断の誤りがあるにもかかわらず,訂正発明1が
容易に発明することができなかったとした審決の判断を支持すべき他の構成の容易
不想到性があるものと認めることはできない。したがって,訂正発明1は,審判甲
第2号証及び周知技術から容易に想到することができたものというべきである。
 3 訂正発明1に付加された構成を含む訂正発明2に関してみるに,この付加さ
れた構成(「前記光源部は,前記X軸フレームに取り付けられ,かつ,前記検出部
と同期移動する」との構成)は,審判甲第2号証記載の発明が有するものであると
した審決の認定判断に誤りは認められず,訂正発明2も,訂正発明1と同様,審判
甲第2号証及び周知技術から容易に想到することができたものというべきである。
第6 結論
 以上のとおりであり,原告の請求は認容されるべきである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
        裁判長裁判官 塚  原  朋  一
           裁判官 塩  月  秀  平
裁判官    髙  野  輝  久

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