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主文
1甲乙事件原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は甲乙事件原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
()(「」。),(「」1甲乙事件被告以下被告法務大臣というが甲乙事件原告以下原告
という)に対し,平成14年2月20日付け通知書で通知した難民と認定しない旨の。
処分を取り消す。
(2)被告法務大臣が,原告に対し,平成14年6月13日付け通知書で通知した出入
国管理及び難民認定法(以下「法」という)61条の2の4による原告の異議申出は。
理由がない旨の裁決を取り消す。
2乙事件
(1)被告法務大臣が,原告に対し,平成14年2月22日付け裁決通知書で通知した
法49条1項による原告の異議申出は理由がない旨の裁決を取り消す。
()(「」。)2乙事件被告大阪入国管理局神戸支局主任審査官以下被告主任審査官という
,,。が原告に対し平成14年2月22日付けでした退去強制令書発付処分を取り消す
第2事案の概要
本件は,現在のミャンマー連邦(以下「ミャンマー」という)出身の原告が,被告法。
務大臣がした難民不認定処分及びこれに対する法61条の2の4による原告の異議申出
は理由がない旨の裁決の各取消しを求める(甲事件)とともに,退去強制手続において
被告法務大臣がした法49条1項による原告の異議申出は理由がない旨の裁決及び被告
主任審査官がした退去強制令書発付処分の各取消しを求める(乙事件)事案である。
1前提事実(争いのない事実及び証拠(書証番号は特記しない限り枝番を含む)により。
容易に認められる事実)
(1)法が定める難民とは,難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という)1。
条の規定又は難民の地位に関する議定書(以下「議定書」という)1条の規定より難。
民条約の適用を受ける難民をいうところ(法2条3号の2,上記各規定によれば,難)
民とは,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的
,意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために
国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそ
のような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及び常居
所を有していた国の外にいる無国籍者であって,当該常居所を有していた国に帰るこ
とができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰
ることを望まないものをいう。
(),(),2ミャンマーでは26年間続いた軍事政権に対し昭和63年1988年8月
大規模な民主化運動が起こったが軍により弾圧され,同年9月18日には軍事クーデ
ターにより国家法秩序回復評議会(以下「スローク」という)が全権を掌握した。平。
成2年(1990年)5月,総選挙が施行され,アウン・サン・スー・チー率いる国
民民主連盟(以下「NLD」という)が8割の議席を占め勝利したにもかかわらず,。
スロークは政権を移譲しなかった。スロークは,平成8年(1996年)5月及び9
月にNLD主催の議員総会や党員総会が開催されるのを妨害し,同年5月には256
名,9月には559名のNLD関係者が拘束され,同年6月7日には新治安維持法が
制定された旨の報道がされており,同年12月には,大規模な学生示威運動が展開さ
れたが,武装警察隊の投入などによって強権的に押さえ込まれた旨報道された。同月
25日,ガバーエーパゴダで政府要人を狙った爆弾事件があり,スロークは同事件に
全ビルマ学生民主戦線が関与している疑いがあると発表した旨報道された。また,平
成9年(1997年)4月6日,スロークの第2書記であるa中将の自宅に小包が届
き,これが爆発して同人の長女が死亡する事件が起こり,スローク側が,同月8日,
同事件について,在日反政府組織がテロリズム路線へ転換し実行したものであると発
表し,同年6月27日,在日ビルマ人協会所属のb及びcが同事件の犯人として特定
されたと発表した旨の報道がされた。なお,上記両名は難民認定を受けている。スロ
ークは,同年11月,国家平和発展評議会に改組したが,平成10年(1998年)
には,500人以上のNLDメンバーが拘束され,アウン・サン・スー・チーが首都
ヤンゴンから出ることを妨害され連れ戻され,民主化を訴えるビラを配布した外国人
。()18人が警察に拘束されるなどしたとの報道がされている平成11年1999年
には,昭和63年(1988年)8月の民主化運動の11周年記念で大規模な民主化
運動が起きることを警戒した政府により,多くの民主化活動家が拘束された旨報道さ
れた。平成12年(2000年)8月,アウン・サン・スー・チーほかNLD幹部が
ヤンゴンを離れたところ治安当局により強制的に連れ戻され,12日間自宅軟禁とな
,,。,りNLD本部が家宅捜索され書類が押収されたとの報告がされている同年9月
アウン・サン・スー・チーとdNLD副議長がマンダレーを訪れようとしたが,ヤン
ゴン駅から強制退去させられ,d副議長はα軍情報部基地に連行されて拘留され,ア
ウン・サン・スー・チーとNLD中央執行委員は年末まで自宅軟禁となり,NLD支
援者を含む100人近くが逮捕された旨報道された。なお,アウン・サン・スー・チ
ーに対する自宅軟禁措置は,平成14年(2002年)5月,解除された。
(3)原告は,昭和▲年(▲年)▲月▲日,ミャンマーで出生したミャンマー国籍を有
する外国人男性である。原告は,平成9年(1997年)▲月▲日,ミャンマー政府
,,から真正な身分関係が記載され自らの顔写真が貼付された有効な旅券の発行を受け
同年▲月▲日,ミャンマーを出国してタイ王国(以下「タイ」という)に入国し,同。
年▲月▲日,タイを出国して大韓民国(以下「韓国」という)に入国した(乙1。。)
(4)原告は,旅券の有効期限である平成12年(2000年)▲月▲日までに継続手
続をせず,平成13年(2001年)▲月▲日,韓国β港からマレイシア国船籍のコ
ンテナ船γに乗船して出航し,同月▲日,δ港に到着し,有効な旅券を所持せず本邦
()。,,に入国した乙2原告は他の不法入国者11名と共に同船に潜伏していたところ
同船を検索していた税関職員に発見され,神戸海上保安部により法違反(不法入国)
の容疑で緊急逮捕された(乙3。原告は,同月▲日,法違反(不法入国)の罪で神戸)
地方裁判所に起訴され,同年▲月▲日,同罪により懲役1年6月,執行猶予3年の判
決を受け,同判決は,平成14年▲月▲日,確定した(乙2。)
(5)大阪入国管理局(以下「大阪入管」という)神戸支局(以下「神戸支局」とい。
う)入国警備官は,平成13年▲月▲日,原告が法24条1号(不法入国)に該当す。
ると疑うに足りる相当の理由があるとして,被告主任審査官から収容令書の発付を受
け,同月▲日,執行猶予の判決を受けた原告を同令書により神戸支局収容場に収容し
(乙4,原告に対して違反調査を実施し(乙5,6,同日,原告を法24条1号該))
当容疑者として神戸支局入国審査官に引き渡し(乙7,同月▲日,更に違反調査を実)
施した(乙8。神戸支局入国審査官は,同月▲日及び平成14年▲月▲日,原告に対)
して違反審査を実施し(乙9,10,同日,原告が法24条1号に該当する旨の認定)
をし原告にこれを通知した乙11原告は同日口頭審理を請求したところ乙,()。,,(
10,神戸支局特別審理官は,同月▲日,口頭審理を実施し(乙12,同日,入国))
審理官がした上記認定に誤りがないと判定し,原告にこれを通知した(乙13。これ)
に対し,原告は,同日,法49条1項に基づき被告法務大臣に対し異議を申し出たと
ころ(乙14,被告法務大臣は,同年2月20日,原告の上記異議の申出が理由がな)
い旨の裁決(以下「本件退去強制裁決」という)をした。被告主任審査官は,同月2。
2日,原告に本件退去強制裁決を通知するとともに(乙16,送還先をミャンマーと)
する退去強制令書を発付した(以下「本件退令処分」という。乙17。)
(6)原告は,平成14年▲月▲日,神戸支局において,政治的意見を理由にミャンマ
,,()。ーに戻れば迫害を受けるとして被告法務大臣に対し難民認定申請をした乙18
大阪入管難民調査官は,同月▲日,原告から事情を聴取するなどの調査を行った(乙
19。被告法務大臣は,同年2月20日,原告の政治的意見を理由とした迫害を受け)
るおそれがあるという申立ては証明されず,難民とは認められないとして,難民の認
定をしない処分(以下「本件不認定処分」という)をし,同月▲日,原告に通知した。
(甲3,乙20。原告は,同月▲日,本件不認定処分を不服として法61条の2の4)
に基づき被告法務大臣に対して異議の申出をした(乙21。大阪入管難民調査官は,)
同年▲月▲日,原告から事情を聴取するなどして調査を行い(乙22,被告法務大臣)
,,(「」は同年6月13日上記異議の申出には理由がない旨の裁決以下本件難民裁決
といい,本件退去強制裁決,本件退令処分及び本件不認定処分と合わせて「本件各処
分」という)をし,同月▲日,原告に通知した(甲4,乙23。。)
(7)原告は,平成14年▲月▲日,本件退去強制裁決及び本件退令処分の取消しを求
めて神戸地方裁判所に乙事件を提訴し,同年▲月▲日,本件不認定処分及び本件難民
裁決の取消しを求めて当庁に甲事件を提訴したところ,その後,乙事件は当庁に移送
された。
2争点
本件の争点及びこれに関する当事者の主張は次のとおりである。
(1)難民該当性
(原告)
難民認定申請者が,証言のすべてを裏付ける物証や書証を提出できることは例外的
であり,また,判断の誤りが申請人に生命をも含む重大な法益侵害を惹起しかねない
という難民認定の特殊性と困難性からすれば,供述の信ぴょう性判断は格別に慎重で
,「」あるべきでUNHCR難民認定基準ハンドブック等に疑わしきは申請者の利益に
とあるように立証の負担の軽減等が認められるべきである。
原告は,昭和63年(1988年)8月,3日間にわたり大規模な民主化要求デモ
に参加し,弾圧に当たった兵士によりこん棒で殴られるなどして左手の小指が曲がる
などの傷害を負った。平成元年(1989年)3月ころ,友人のeが,原告と共に写
っているデモ行進の写真を証拠に逮捕され10年の刑に処せられたことが判明し,原
告は,同年6月ころ,ε村に逃げて,以後そこで生活していた。平成9年(1997
年,ζのアパートを売却し,ブローカーにパスポート等の手配を依頼し,同年8月に)
タイに出国した。原告は,タイで1か月余り暮らし,ブローカーが韓国のビザを取っ
てくれ,同年9月に韓国に入国した。原告は,入国して3ないし4か月して,NLD
韓国支部の事務所の住所を聞きその事務所を訪ね,以後在韓国ミャンマー大使館前の
デモやビラ配り等の活動に参加し,平成10年(1998年)6月,毎月3万ウォン
(約3000円)の党費を納めるようになって正式にNLD韓国支部のメンバーとな
った。在韓国ミャンマー大使館前のデモでは,大使館からビデオを撮影しており,原
告がミャンマーに帰国すれば逮捕され投獄されることは間違いない。原告は,他のN
LD韓国支部メンバーと共に,平成12年(2000年)5月ころ,韓国の入国管理
局とUNHCRに難民認定申請をしたが,1年半経っても何ら回答はなく,韓国政府
がミャンマーの軍事政権に経済投資をするようになったため,いつか逮捕されミャン
マーに送還されることを恐れ,韓国に一番近く,ミャンマー人が難民として認定され
ていることも聞いた日本で難民認定申請をするため,4000ドルを支払い日本に密
入国したものである。
ミャンマー国内において,軍事政権の迫害はNLDの一般党員や一般市民にまで及
んでおり,軍事政権は,爆弾事件を在日反政府組織の犯行と決めつけるなど海外の反
政府団体を敵視している。上記のとおり反政府活動を行っていた原告がミャンマーに
帰国した場合,迫害に遭わないという保障はなく,原告は難民に該当する。
。,原告の難民性の判断を誤った本件不認定処分及び本件難民裁決は違法であるまた
本件退去強制裁決は,原告を難民でないとの誤った判断の下にされたもので重大な事
実誤認があり,拷問等禁止条約3条(ノンルフールマン原則)に違反するものであっ
て,裁量権の逸脱ないし濫用に該当し違法であり,本件退令処分は,本件退去強制裁
決の違法性を承継すると同時に,法53条3項(ノンルフールマン原則)に反し違法
である。
(被告ら)
難民条約及び難民議定書には,難民認定に関する立証責任や立証の程度に関する規
定はなく,各国の立法政策にゆだねられており,我が国においては,法によれば難民
であることの立証責任は申請者にある「疑わしきは申請者の利益に」とする原告の主。
張は失当である。
原告は,昭和63年(1988年)8月に民主化要求デモに参加した旨供述してい
,,るが学生らのデモに対する軍の制圧行動は同月8日に始まったとされているところ
原告の難民調査官に対する供述では同月6日ないし8日にデモに参加したと供述して
いたのに対し,原告本人尋問では同月8日ないし10日に参加した旨供述を変遷させ
ている。また,原告は,デモに参加した際の負傷で右太股を縫合したと供述するが,
診断書にも縫合痕を認める記載はない。これらの点に照らせば,上記原告の供述は信
用できるものではない。仮にデモに参加した旨の原告本人の供述を前提としても,原
告は,単なる1学生として参加したものであって,特に指導的役割を担っていたもの
ではなく,本国において反政府活動組織に属して活動していたわけでもない。原告の
供述によれば,友人の逮捕等を知り危険を感じたとしながら約3か月ヤンゴンに留ま
っていたこと,その後約8年間は安全であったこと,真正な身分事項が記載され自身
の顔写真が貼付された有効なミャンマー旅券を取得してミャンマーを出国しているこ
と,タイにおいて反政府活動が行われていることを知りながら何ら庇護を求めること
なくNLD等と連絡を取っていないことが認められ,これらによれば,原告がミャン
マー政府から迫害を受けるおそれを抱いていたとは認め難い。
また,原告は,NLD韓国支部において何らの役職にも就かず,単なるメンバーの
1人として活動していたにすぎず,その活動も在韓国ミャンマー大使館への示威行動
や街頭でのビラ配付等にすぎない。NLDの海外活動家はおよそ100万人存在する
とされ,原告はその1人にすぎず,韓国で上記の活動を行っただけで本国政府から個
別に把握され,迫害を受けるおそれがあるとは到底いえない。原告は,在韓国ミャン
マー大使館員がビデオ撮影していた旨供述するが,ビデオ撮影を行っているとの客観
的証拠はなく,また,撮影していたとしても,それが本国政府に送付,報告されてい
るか,送付されているとしてもその内容,程度は明らかでない。むしろ,抗議デモを
撮影していることをデモ参加者に印象づけることで抗議デモ等を牽制し萎縮効果を狙
ったものにすぎないと考えられる。さらに,撮影されたビデオを分析しても,参加者
の顔が判明するにとどまり,参加者の身分事項が判明するわけではなく,参加者が個
別に特定できるとは考え難い。
原告は,本国の家族に送金することがミャンマーを出国する動機の1つであったこ
とを認めており,韓国入国後も収入の3分の1を送金し,その生活の中心は就労と本
国の家族への送金であった。原告は,韓国で収容されることなく自由に活動すること
ができ,他のNLDメンバーが韓国に残って活動している中,10か月以上前から渡
航資金を準備し,ブローカーに4000ドルもの手数料を支払って本邦に不法入国し
ており,原告の韓国入国及び本邦への不法入国の主たる目的が稼働にあったことは明
らかであり,真に政治的意見から迫害を受ける危険を有していたかについては疑念を
差し挟まざるを得ない。
(2)適正手続違反
(原告)
本件の難民認定手続においては,担当官が条約の理解や国際情勢に関する情報資料
の収集,分析についてほとんど研修等を受けずに,難民条約等の精神を理解せず,出
入国管理業務と同様の観点から難民認定業務を行っている。難民認定手続と並行して
退去強制手続が進められるため,退去強制の観点が難民調査に入ってくることを防止
できず,退去強制の取締官的発想から逃れられない。また,直接の調査を担当しない
入国管理局長等が書面のみに基づいて難民該当性を判断するため,供述の信ぴょう性
等の判断においてその適正さが担保されていない。
さらに,本件不認定処分では,処分の理由として「申立ては証明されず」としか記
載されず,処分を受けた側としてはいかなる証拠が不十分であったのか全く不明であ
って,処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を図るという理由付記を求め
た趣旨が没却されてしまい,法61条の2において要求される理由が付記されている
とはいい難い。
(被告法務大臣)
法務省入国管理局は,難民調査官に対し専門的な研修を実施し,外務省,各国関係
機関その他国際機関等との連携を密接にして諸外国の事情に関する情報を収集,分析
した上執務資料として配付するなど,難民調査官の専門的知識や技術の向上を図って
いる。難民認定事務取扱要領では,難民調査官が違反調査及び口頭審理を担当するこ
とはなく,難民認定手続と退去強制手続とはしゅん別が図られている。難民認定は,
申請者の難民該当性について判断する行為で事実の確認であり,これを受けているこ
とが他の利益的な取扱いを受けるための要件となっており,不利益処分,侵害処分に
当たらないことは明らかであり,難民認定手続について憲法31条が適用,準用され
る余地はない。一般的に行政処分を行うに当たり公正な手続によるべきことはいうま
でもないが,法定された難民認定手続において適正手続は十分に確保されている。運
用の面においても,上記要領を定め,手続の公正さに対して十分な配慮が払われてい
る。このように,我が国の難民認定の手続が適正手続の保障に欠けるところはない。
また,難民該当性の判断は,すべての証拠を総合的に考慮してされる個別的な判断
,。であっていかなる証拠が不十分であるかを類型的に示すことはおよそ不可能である
難民不認定処分においては,難民該当性を基礎づける事実の存在を認めることができ
なかったためか又は法61条の2第2項に規定する「やむを得ない事情」の存在を認
めることができなかったためかが明らかになれば,異議の申出に当たって十分参考に
なるというべきであり,本件不認定処分の理由付記に欠けるところはない。
第3争点に対する判断
1難民該当性について
(1)立証責任について
難民条約及び議定書には,難民認定に関する立証責任や立証の程度に関する規定は
なく,これらについては各国の立法政策にゆだねられている。難民の認定は,申請者
の難民該当性について公の権威をもって判断する行為で,事実の確認であり,これを
受けていることが他の利益的な取扱い(法61条の2の5,61条の2の6,61条
の2の8)を受けるための要件となっており,授益処分に該当するところ,授益処分
については原則として申請者に立証責任があると解される。UNHCRの難民認定基
準ハンドブックにおいても,申請を提出する者に立証責任があるのが一般の法原則で
ある旨記述されている(甲28。また,難民であることを基礎づける事実は,通常申)
請者の生活領域内で生じる事実であって,難民該当性を基礎づける事実の立証責任は
申請者にあると認めるのが相当である。法61条の2第1項は「法務大臣は・・・,,
申請があったときは,その提出した資料に基づき,その者が難民である旨の認定を行
うことができる」と定め,法施行規則55条1項は,難民の認定を申請しようとする。
,,外国人は難民に該当することを証する資料を提出しなければならないと定めており
これらの規定は,難民であることの立証責任が申請者にあることを前提としているも
のと解される。
UNHCRの難民認定基準ハンドブックは,各国政府に指針を与えることを目的と
するものではあるが,それ自体に法的拘束力を認めることはできないこと,同ハンド
ブックにいう「疑わしきは申請者の利益に」の原則は,申請人がした陳述を立証でき
ない場合において,申請人の説明が信ぴょう性を有すると思われるときは,反対の十
分な理由がない限り,申請人は灰色の利益を与えられるべきであるというものであっ
て,灰色の利益は,すべての手に入り得る資料が入手されて検討され,かつ審査官が
,申請人の一般的信ぴょう性について納得したときに限り与えられるべきものであって
申請人の陳述は首尾一貫してもっともらしいものでなくてはならず,一般的に知られ
ている事実に反するものであってはならないとされていることからすると,原告の主
張が,同ハンドブックの記載を根拠に,しかも,申請人の陳述に信ぴょう性が認めら
れるかどうかという点を離れて,一般的に「疑わしきは申請者の利益に」の原則によ
り立証責任の転換や立証の負担の軽減等がされるべきであるという主張であるとすれ
ば,そのような主張を採用することはできない。
ただし,迫害を受け,又は迫害を受けるおそれがあることによって母国を出国した
者が,十分な客観的証明資料を所持せず出国し,出国後もこれらの資料の収集に困難
な点があることは,経験則上認められるところであり,申請者がこれらの資料を提出
しないからといって直ちに難民であることを否定すべきではない。本人の供述等を中
心に,資料収集の困難な事情をも十分に考慮した上で,難民であることを基礎づける
根幹的な主張事実が認定できるかどうかについて判断すべきである。
(2)原告のミャンマーにおける政治的活動について
原告は,昭和63年(1988年)8月,3日間にわたり大規模な民主化要求デモ
に参加し,弾圧に当たった兵士によりこん棒で殴られるなどして傷害を負った旨供述
している。原告の難民認定手続における供述等(乙18,19)と本訴での原告本人
尋問の結果とでは参加した日が異なるなど,詳細については確実でない点もあるもの
の,原告が,難民認定手続中から一貫して供述していることからすれば,原告が,同
月3日間にわたり民主化要求デモに参加し,兵士から暴行を受けるなどして負傷した
事実を認めることができる。
しかしながら,①原告は,上記デモに1学生として参加したものであり,指導的役
割等を担っていたものではないこと,②原告の受けた暴行もデモの参加者に対するも
ので原告を特定して加えられたものではないこと,③原告が,ヤンゴン市内からε村
に逃げた際にも,家族には別の場所で働くなどと説明したにとどまり,政府から捜索
されているなどとは話していないこと(原告本人,④原告は,その後,ミャンマーに)
おいて反政府活動組織に属して反政府活動をすることなどなく,ミャンマーを出国す
るまでの約8年間は特に危険を感じることはなかったこと,⑤原告が,真正な身分事
項が記載され自らの顔写真が貼付された有効なミャンマー旅券を取得してミャンマー
を出国していること(この点が当然に難民認定の障害となるわけではないが,難民か
否かの認定に当たって考慮されるべき一事情となり得ることは否定できない)に照ら。
せば,原告がミャンマーにおける政治的活動を理由に迫害を受けるおそれがあるとは
認めることができない。
原告は,デモに参加した友人のeが,原告と共に写っているデモ行進の写真を証拠
,,に逮捕され10年の刑に処せられたとして原告に対する迫害のおそれを主張するが
上記事実を裏付ける客観的証拠は存在しない上,原告はe逮捕の話を聞いた後も約3
か月ヤンゴンに留まっていたというのであるし(原告本人,原告に対して逮捕状が出)
ているわけでもない(乙19。また,デモや反政府活動におけるeの役割,立場等も)
明らかではなく,原告自身がeのその後の動向について知らないと供述するなど(原
告本人尋問,原告とeとの間に反政府活動等における特別の関係があるともいい難い)
ところであって,上記原告の主張を採用することはできない。
(3)原告の韓国における政治的活動について
証拠(甲1,2,5,6,17,18,72,84,109,乙8,10,12,
18,19,22,証人f,原告本人)によれば,原告が,韓国入国後数か月してか
らNLD韓国支部を訪れ,以後,在韓国ミャンマー大使館前のデモやビラ配り等の活
動に参加していたこと,原告が,平成10年(1998年)6月,正式にNLD韓国
支部のメンバーとなったこと,原告が,平成12年(2000年)4月ないし5月こ
ろ,韓国の入国管理局とUNHCRに難民認定申請をしたことが認められる。
しかしながら,原告は,NLD韓国支部において特に役職に就くことなく,単なる
メンバーの1人として活動していたにすぎず,その活動も在韓国ミャンマー大使館へ
の示威行動や街頭でのビラ配付等で,ミャンマー政府にとって脅威となり得るような
態様の活動ではなく,ミャンマー政府が,海外におけるこのような活動に格別注目し
ていたとは認め難い。証人fの証言によれば,NLDの海外活動家はおよそ100万
人存在するというところ,このような多数のメンバーの1人にすぎず何ら指導的立場
等にない原告が,韓国で他のメンバーと共に上記の活動を行っただけで,本国政府か
ら個別に把握され,迫害の対象となるとはいい難く,迫害の恐怖を抱くような客観的
事情があると認めることはできない。
原告は,在韓国ミャンマー大使館員がデモの様子をビデオで撮影しており,それが
本国政府に送付,報告されているから,原告がミャンマーに帰国すれば迫害を受ける
おそれがある旨主張する。しかし,デモの様子を撮影されたとしても参加者の顔等が
判明するにとどまり,参加者の身分事項が判明するわけではなく,参加者が個別に特
定できるとは考え難い。また,ビデオ等が本国政府に送付,報告されていることを認
めるに足りる証拠もない。これらによれば,原告が参加したデモの様子がビデオで撮
影されたという事実から,原告の迫害のおそれを認めることはできず,原告の主張を
採用することはできない。
(4)原告の難民該当性について
以上によれば,本件各処分当時,原告が難民に該当すると認めることはできない。
また,そうであるとすると,前記前提事実(4(5)記載のとおり,原告には不法),
入国という退去強制事由があり,入国目的も日本で稼働するためであったというので
ある(乙6,8,9,10,原告本人)から,在留特別許可を与えなかった被告法務
大臣の本件退去強制裁決に裁量権の逸脱・濫用があったとはいえず,本件退去強制裁
決及び本件退令処分がノンルフールマン原則や拷問等禁止条約に違反するものともい
えない。
なお,証拠(甲54,68,69,102ないし104,116,119,原告本
人)によれば,原告が,仮放免後に日本でNLDの活動に参加し,平成15年4月に
UNHCRにより難民と認定され,新聞等によって本訴が係属していることやミャン
マーの反政府活動をしていることが報道され,平成16年5月にはNLD日本支部の
正式のメンバーとなったことが認められる。これらによれば,原告が,現在において
はミャンマー政府により反政府活動家として身分関係も含めて把握されている可能性
がある。しかしながら,これらは,いずれも本件各処分後の事情であり,本件各処分
当時において原告が難民に該当することが認められるものではなく,本件各処分の適
法性を左右するものではない。また,UNHCRによるマンデート難民の認定は,難
民条約所定の保護を与えることを目的とする法所定の難民認定とはその目的・対象を
異にし,認定資料も異なるし,本件においては,上記のとおり,認定時期も異なるの
であるから,原告がマンデート難民の認定を受けたことをもって,本件各処分時にお
ける原告の難民該当性を肯定することもできない。
2適正手続違反について
原告は,難民調査官が十分な知識等を持たずに難民調査に従事している,難民認定手
続に退去強制手続の観点が影響して適正な手続がされていない,直接調査を担当した者
が判断しないため判断の適正さが担保されていないなどと主張する。
しかし,証拠(乙25)及び弁論の全趣旨によれば,難民調査官には必要な研修等が
行われており,難民認定手続と退去強制手続とは手続上しゅん別され,同一の担当者が
関与することはないことが認められ,また,最終判断者が直接調査を担当しないからと
いって適正な手続が確保できないものではなく,法の定める我が国の難民認定手続にお
いて適正手続に反する点は認められない。他に,本件不認定処分及び本件難民裁決に手
続上の違法があることを認める証拠はなく,上記原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,本件不認定処分に理由不備の違法がある旨主張するが,難民該当性の
判断はすべての証拠を総合的に考慮してされる個別的な判断であって,いかなる証拠が
不十分であるかを類型的に示すことは困難であり,難民該当性を認定するに足りる証拠
がなかった場合,被告法務大臣はその旨を理由として摘示して処分をすれば足りるとい
うべきである。また,本件不認定処分において,難民該当性を基礎づける事実の存在を
認めることができないことが理由として明らかにされている以上,本邦に上陸した日か
ら60日を経過してから難民認定申請をしている原告にとっては,いわゆる60日ルー
ル(法61条の2第2項)違反を理由に本件不認定処分がされたわけではないことを明
確に示されたことにより,本件不認定処分に対する不服申立ての便宜を与えられたもの
といえる。よって,本件不認定処分には法61条の2第3項において要求される理由の
付記があるというべきで,これを違法ということはできない。
3結論
以上によれば,本件各処分はいずれも適法なものというべきであり,原告の本訴各請
求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官川神裕
裁判官山田明
裁判官一原友彦

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