弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中慰藉料およびその遅延損害金の請求を排斥した部分を破棄し、
この部分に関する事件を東京高等裁判所に差し戻す。
     原判決中前項の部分を除く上告人敗訴の部分に関する上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士矢留文雄の上告理由第一点乃至第三点および第八点について。
 論旨第一点は、原審で主張、判断のない事項(原審では、建物の引渡義務の履行
不能による損害賠償として請求しており、所論のように積極的不法行為による損害
賠償として請求していない。)を前提とする法令違背の主張に帰し、同第二点およ
び第八点は、結局原審が適法になしたと認められる事実認定を非難するに帰し、同
第三点は、原判決に影響を及ぼさない仮定的な蛇足的判断(原判決は、本件建物部
分においてなした喫茶店営業により一ヶ月金一万五千円以上の純益を得ていたとの
事実を認めうる証拠はないといつており、所論特別事情並びにこれが予見は仮定的
な蛇足的判断と認められる。)に対する非難であつて、いずれも、上告適法の理由
とは認め難い。されば、原判決の排斥した引渡義務の履行不能による遅延損害金の
請求の一部および営業妨害による財産上の損害賠償の請求に関する部分の上告は、
その理由がない。
 同第四点ないし第六点、第一〇点および第一一点について。
 原判決が、第一審被告(被上告人)が同原告(上告人)に対し、将来時期をみて、
本件営業名義を同原告に書替えるべき旨約した事実を認定し、且つ、第一審被告が
同原告主張のように継続手続をしなければ営業許可が無効になることを知りながら
この手続をせず該営業許可が遂に無効になつたことは当事者間に争いないところで
ある旨判示したことは、論旨第四点のとおりである。果たして然らば、原判決は、
第一審被告が故意に同原告の権利又は利益を侵害したことを判定したものといわな
ければならない。しかるに、原判決は、所論のごとく、第一審原告は、同被告とは
かかわりなく単独にて喫茶店営業の許可申請をなしうべく、第一審被告の右違反に
より何等損害を生ずべき筋合ではない旨判示したのは、判決の理由に不備又は齟齬
あるものといわなければならない。されば、論旨第四点は、その理由があつて、営
業権侵害の不法行為を否定した原判決の部分は、論旨第一〇点、第一一点につき判
断を与えるまでもなく破棄を免れない。
 次に、原判決は、「第一審原告と第一審被告等とは共同で本件家屋において昭和
二一年二月から同二二年九月まで喫茶店営業をなし、また、第一審原告は本件建物
部分を賃借した昭和二三年二月頃より単独で喫茶店営業をなしたが、営業名義人が
同被告であり、かつ、同人が建築代願業を営んでいた関係上同人名義で両営業の所
得額決定がなされ、一括課税されるため第一審原告が同被告の負担すべき分をも立
替支払つたこと」を認定しながら、同被告が第一審原告等を欺いて同被告の負担す
べき所得税を第一審原告に支払わしめたとの事実を認定し難いとして不法行為上の
責任を否定したことは、論旨第五点のとおりである。しかし、不法行為の成立には
必ずしも権利侵害の意思を必要とせず、事実の認識又は過失による不認識の場合に
も成立するものであるから、右のごとく詐欺により支払わしめた事実を認定し難い
一事を以て直ちに不法行為上の責任を否定したのは、審理不尽又は理由不備の違法
があるものといわなければならない。論旨第五点は、その理由があつて前示所得税
に関する不法行為を否定した原判決の部分は、破棄を免れない。
 さらに、原判決は、「第一審原告が本件建物につき設備した造作類を第一審被告
が昭和二五年一〇月頃搬出処分した事実ならびに第一審原告が本件建物に備付けた
大工道具、コーヒーセツト、灰皿等が昭和二五年一一月頃紛失していた事実」を認
定しながら、右紛失が第一審被告の所為によるものであるとの事実についてはこれ
を認めうる証拠はないとして不法行為上の責任を否定したことは、論旨第六点のと
おりである。しかし、右判示前段において第一審被告が造作類を搬出処分した事実
を認めながら、何故に不法行為とならないかにつき少しも説明していないし、また、
判示後段において物品の紛失の事実を認めながら、物品保管の責任は何人にあつた
か又は相当の注意義務を尽してもなお紛失を免れなかつたか等を審究しなかつたの
は、審理不尽又は理由不備の違法があるものといわなければならない。論旨第六点
は、理由があつて、前示加害行為に関する責任を否定した原判決の部分は、破棄を
免れない。
 同第七点および第九点について。
 原判決は、第一審原告主張のような債務不履行および不法行為上の責任が第一審
被告にあるかどうかは、以上「第一」および右(一)(二)(三)に判断したとお
りであるが、仮りに第一審原告主張のような債務不履行および不法行為上の責任が
第一審被告にあるものとするも、右債務不履行乃至不法行為による被害者の精神上
の苦痛は通常債務の履行又は物質上の損害の賠償によつていやさるべく本件におい
て第一審原告がその主張のような慰藉料の支払を受けるのでなければ慰藉すること
ができない精神上の苦痛を受けたとの事実については、これを認めうる証拠がない
から、右第二の請求は失当であると判示したことは、論旨第七点のとおりである。
しかし、原判決のいうように、仮りに、第一審原告主張のような債務不履行、こと
に、その主張のような不法行為上の責任が第一審被告にあるものとすれば、その相
手方たる第一審原告は、特段の事情のない限り、なんらか精神上の苦痛を受くべき
ことは、事物当然の結果であつて、これを否定し得ない事実であることはいうを待
たない。そして、その精神上の苦痛に対しどれだけの慰藉料を支払ふのを相当とす
るかは、当該債務不履行もしくは不法行為に関する諸般の事情に即して裁判所が判
断すべき事項であるから、右の諸般の事情そのものは証拠によつて認定しうるとし
ても慰藉料の数額のごときものについては、証拠によつて判断し得べきものではな
いといわなければならない。従つて原判決が、何等首肯するに足りる特段の事情を
判示することなく(債務不履行乃至不法行為による被害者の精神上の苦痛は通常債
務の履行又は物質上の損害の賠償によつていやされる旨の原判示は、首肯できない。)、
本件において第一審原告が、その主張のような慰藉料の支払を受けるのでなければ、
慰藉することのできない精神上の苦痛を受けたとの事実については、これを認めう
る証拠がないから右第二の請求は失当であると判示して慰藉料の請求を排斥したの
は違法である。されば、論旨第七点、第九点は、結局理由があつて、原判決の判示
第二の請求に対する部分は、破棄を免れない。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、四〇七条、九五条、八九条により、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    入   江   俊   郎

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