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判決 平成14年11月14日 神戸地方裁判所 平成10年(行ウ)第43号損害賠償請求事
件,平成11年(行ウ)第37号補助金返還請求権不行使違法確認請求事件
主文
1 被告乙は,A町に対し,金20万円及びこれに対する平成10年6月27日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分して,その9を原告らの負担とし,その余を被告乙の負担とす
る。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実
第1 A事件(増資金の支出)
 1 原告らの請求
   被告乙は,A町に対し,金3000万円及びこれに対する平成9年6月30日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らの主張(請求原因)
  (1) 当事者
ア 原告らは,いずれもA町の住民である。
イ 被告乙は,平成9年5月2日から現在に至るまで,A町長の地位にある者である。
  (2) 増資金の支出
A町(被告乙町長)は,平成9年6月30日,被告公社に対し,増資金3000万円(以下
「本件増資金」という。)を支出した。
  (3) 増資金支出の違法
   ア 公益上の必要性の欠如(地方自治法232条の2違反)
    (ア) 地方自治法232条の2の適用
A町は,本件増資金支出の対価として,被告公社の株式を取得した。しかし,被告
公社は,著しい債務超過に陥っており,その株式は無価値に等しい。
よって,本件増資金の支出は,実質的に対価を伴わないものであるから,補助金
の交付と同視すべきである。
したがって,本件増資金の支出につき,公益上の必要性が認められない場合に
は,A町による本件増資金の支出決定は,地方自治法232条の2に反し,違法となる。
    (イ) 公益上の必要性がないこと
A町は,被告公社に運転資金を提供して,その経営を維持・安定させ,その存続
を図ることを目的として,本件増資金を支出した。
しかし,そもそも被告公社は,A町の畜産振興に藉口して,当時の農協組合長aと
当時のA町長bが,農協所有の肉用牛を高く買い取らせ,それを飼育して販売する等して
私益を確保することを真の目的として設立されたものである。それ故,被告公社は,肉用牛
の繁殖・肥育という一般畜産農家と同様の営利事業しか行っておらず,何ら公益的事業を
実施していなかった。
また,被告公社は,著しい債務超過によって経営破綻寸前であり,本件増資金の
支出によっても,短期間の延命が可能となるに過ぎず,将来何らかの公益的事業を実施で
きる状況にはなかった。
このような被告公社の設立経緯や事業実施状況からして,被告公社の存在は,何
らA町の畜産振興に貢献するものではなく,その存続を図る目的で本件増資金を支出する
ことに,公益上の必要性はない。
にもかかわらず,A町は,被告公社に対して,本件増資金を支出し,被告公社は,
それを,公益性ある事業を実施するためではなく,営利事業である肉用牛の繁殖・肥育等
によって生じた負債(飼料代,人件費等に関する未払金)の支払のために費消した。
以上からして,本件増資金の支出は,何らA町の畜産振興に貢献するものではな
く,公益上の必要性はない。
    (ウ) まとめ
  よって,A町(被告乙町長)による本件増資金の支出は,地方自治法232条の2に
反し,違法である。
   イ 支出の根拠の欠如(地方自治法232条の4第2項違反)
    (ア) 支出の根拠の必要性
地方公共団体の支出は,その根拠となる債務の存在が確定したことを確認した上
で行わなければ,支出の根拠を欠くこととなり,地方自治法232条の4第2項に反し,違法と
なる。
すなわち,地方自治法232条の4第2項は,収入役が当該支出負担行為に係る債
務が確定していることを確認した上でなければならないと規定しているが,収入役の支出行
為は,地方公共団体の長の支出命令に基づいて行うこととされていることからすれば(同条
1項),長が支出命令を行うに当たっても,支出負担行為に係る債務が確定している必要が
ある。
    (イ) 本件増資金支出の根拠
     a A町(c町長)は,A町和牛振興公社活性化推進委員会(以下「活性化委員会」と
いう。)での決定を受けて,平成8年12月25日,被告公社,b(被告公社代表取締役),農
協の4者間で,本件増資金の支出について下記合意をし,その合意に従って確認書(甲5,
以下「本件確認書」という。)を締結した。     

  被告公社が経営管理改善計画書及び将来の収支試算表を作成すること,bら被
告公社役員経験者が1700万円を出資することを条件として,A町が3000万円,農協が10
00万円を出資し,平成9年5月31日までに合計5700万円の増資を行う。
     b したがって,本件増資金の支出は,上記合意(活性化委員会での決定,本件確
認書での合意)に従って行わなければ,支出の根拠を欠き違法となる。
    (ウ) 本件増資金支出の根拠の不存在
     a bらの出資の不履行等
 ところが,A町(被告乙町長)は,bらが1700万円の出資を履行しておらず,か
つ,被告公社が経営管理改善計画書及び将来の収支試算表を作成していないのに,本件
増資金を支出した。
     b 増資期限の徒過
 また,A町(被告乙町長)は,増資期限を平成9年6月30日に変更するとの合意
が成立していなかったのに,本来の増資期限である平成9年5月31日よりも後になって本件
増資金を支出した。
    (エ) まとめ
      したがって,本件増資金の支出は,支出の根拠を欠くものであり,地方自治法23
2条の4第2項に反し,違法である。
  (4) 被告乙の故意・過失,A町の損害
被告乙は,上記(3)ア(公益上の必要性の欠如),同イ(支出の根拠の欠如)の各事情
を知りながら(故意),又はそれらを確認すべきであったのにこれを怠るという不注意により
(過失),本件増資金を支出したことによって,A町に対し,本件増資金3000万円と同額の
損害を与えた。
  (5) 監査請求前置
ア 原告らは,平成10年6月29日,A町監査委員に対し,本件増資金の支出につき,
監査請求をした。
イ A町監査委員は,平成10年8月24日付けで上記監査請求を棄却し,平成10年8
月25日,原告らにその旨を通知した。
  (6) 結論
よって,原告らは,A町に代位して,被告乙に対し,地方自治法242条の2第1項4号
前段により,本件増資金の支出に基づく損害賠償金3000万円,及び平成9年6月30日
(本件増資金の支出日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める。
 3 被告乙の主張(請求原因に対する認否,反論)
  (1) 認 否
    請求原因(1)(当事者),同(2)(増資金の支出),同(5)(監査請求前置)は認め,同(3)
(増資金支出の違法性),(4)(被告乙の故意・過失,A町の損害)は否認ないし争う。
  (2) 公益上の必要性について
ア 地方自治法232条の2は,本件増資金の支出については適用されない。よって,
原告らの主張は,その点で主張自体失当である。
イ 仮に,本件増資金の支出に同条項の適用があるとしても,本件増資金の支出に
は,次のとおり公益上の必要性があった。
    (ア) 被告公社は,次のような畜産業の危機に直面したA町が,同町の基幹産業であ
る畜産業の維持・振興を図る目的で設立した第三セクターである。
     a A町の畜産農家は,後継者不足及び景気低迷の影響により危機的状態にあっ
た。
     b A町の和牛の飼育頭数は,著しい減少傾向にあった。
     c A町の近辺にあるD家畜市場は,閉鎖の危機に晒されていた。
     d A町の畜産業は,牛肉輸入自由化による価格競争等の危機に晒されていた。
    (イ) そして,被告公社は,肉用牛の繁殖・肥育という収益的事業を実施することを通
じて,A町における肉用牛の飼育頭数減少に歯止めをかけ,上記危機を回避する役割を果
たしている。この意味において,被告公社の実施している収益的事業は,公益性ある事業
である。
    (ウ) また,被告公社は,素牛導入・肥育事業,都市住民との交流事業(オーナー牛
制度),高齢畜産農家支援事業(ショートステイ)等の公益的事業を実施してきおり,今後も
様々な公益的事業を実施する予定である。
    (エ) 被告公社が債務超過状態にあるとしても,一般畜産農家ではこのような公益的
事業を実施し難く,被告公社の公益的事業は,将来その必要性を増すことは確実である。
    (オ) このような被告公社の設立経緯や事業実施状況からすれば,被告公社は,A
町の畜産振興事業の一翼を担う存在であり,かかる被告公社の存続を目的とする本件増資
金の支出には,公益上の必要性がある。
    (カ) そうであれば,本件増資金が,被告公社の収益的事業に係る未払金の支払に
充当されたとしても,本件増資金の支出には,公益上の必要性がある。
  (3) 出資の根拠について
   ア 前提条件の不履行について
    (ア) 前提条件の不存在
A町は,被告公社ら4者間で,本件増資金の支出につき,bらの1700万円の出資
の履行の有無,及び被告公社の経営管理改善計画書等の作成の有無にかかわらず,増
資期限が到来すれば必ず本件増資金を支出することを合意していたのであり,原告らが主
張するような前提条件についての合意など存在しなかった。
よって,A町の本件増資金の支出につき,支出の根拠を欠くとの違法はない。
    (イ) bらの出資の履行
     a 仮に,bらの1700万円の出資の履行が,A町が本件増資金を支出する前提条
件となっていたとしても,下記のとおり,前提条件は履行されている。

       A町は,被告公社ら4者間で,bが被告公社のために個人で行った借入金をもっ
て出資の履行に代えることを合意しており,被告乙は,bらが,平成9年6月30日までに,上
記方法によって出資を履行したことを確認している。
     b したがって,A町の本件増資金の支出につき,支出の根拠を欠くとの違法はな
い。
   イ 増資期限の徒過について
A町は,平成9年5月24日,被告公社ら4者間で,増資期限を平成9年6月30日ま
で延長する旨の合意をし,平成9年6月10日ころ,変更合意書を締結した。
よって,本件増資金の支出は,変更後の増資期限である平成9年6月30日になされ
たものであり,支出の根拠を欠く違法はない。
第2 B-1事件(補助金の交付)
 1 原告らの請求
   被告乙及び被告公社は,連帯して,A町に対し,金2000万円及びこれに対する平成
10年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らの主張(請求原因)
  (1) 当事者
   ア 原告らは,いずれもA町の住民である。
イ 被告乙は,平成9年5月2日から現在に至るまで,A町長の地位にある者である。
   ウ 被告公社は,平成3年4月17日,A町における畜産振興等を目的(商業登記簿の
記載)として設立され,A町が現在51.2パーセントの株式を保有する株式会社である。
  (2) 補助金の交付
    A町(被告乙町長)は,平成10年3月31日,被告公社に対し,補助金2000万円(以
下「本件補助金」という。)を交付した。
  (3) 補助金の交付の違法性
   ア 公益上の必要性の欠如(地方自治法232条の2違反)
(ア) 本件補助金の交付につき,公益上の必要性がない場合には,地方自治法232
条の2に反し違法となる。
(イ) 公益上の必要性がないこと
A町は,被告公社に運転資金を提供して,その経営を維持・安定させ,その存続
を図ることを目的として,本件補助金を交付したが,このようにして被告公社の存続を図る必
要性がないことは,前記第1の2(3)ア(イ)で説示したとおりである。
さらに,被告公社は,本件補助金の約半額を,営利事業である肉用牛の繁殖・肥
育等によって生じた負債(飼料代,人件費等に関する未払金)の支払のために費消し,残り
の半額を預金して保管し,次年度(平成10年度)の肉用牛の繁殖・肥育事業によって生じ
た未払金の支払のために順次費消し,結局,何ら公益性ある事業を実施するために使用し
なかった。
以上からすれば,本件補助金の交付は,何らA町の畜産振興に貢献するものでは
なく,公益上の必要性はない。
(ウ) したがって,A町(被告乙町長)による本件補助金の交付は,地方自治法232条
の2に反し違法である。
   イ 支出の根拠の欠如(地方自治法232条の4第2項違反)
    (ア) 支出の根拠の必要性
前記第1の2(3)イ(ア)と同旨。
    (イ) 本件補助金交付の根拠-支援要綱の制定
A町は,被告公社に対する本件補助金の交付のために,A町和牛振興公社財政
支援要綱(A町訓令第7号,以下「支援要綱」という。)を制定・施行した。
よって,本件補助金の交付は,支援要綱の内容に従って行わなければ,支出の根
拠を欠き違法となる。
    (ウ) 支援要綱の未施行
A町は,平成10年3月31日,本件補助金を交付したが,この時点においては,補
助金交付の根拠となる支援要綱は作成されていなかった。
よって,A町(被告乙町長)による本件補助金の交付は,支援要綱に基づかずなさ
れたものであり,支出の根拠を欠き違法である。
    (エ) 添付書類の不備
支援要綱は,補助金の交付申請に当たり,事業計画書,収支予算書及び改善計
画書(再建計画書)をA町に提出することを要件としている。
しかし,被告公社は,本件補助金の交付申請に際し,上記添付書類を提出してい
なかった。
よって,A町(被告乙町長)による本件補助金の交付は,その手続が支援要綱に反
するもので,支出の根拠を欠き違法である。
    (オ) まとめ
  したがって,本件補助金の交付は,支出の根拠を欠くものであり,地方自治法232
条の4第2項に反し違法である。
  (4) 被告乙の故意又は過失,A町の損害
被告乙は,上記(3)ア(公益上の必要性の欠如),同イ(支出の根拠の欠如)の各事情
を知りながら(故意),又はそれらを確認すべきであったのにこれを怠るという不注意により
(過失),本件補助金を交付したことによって,A町に対し,本件補助金2000万円と同額の
損害を与えた。
  (5) 被告公社の不当利得
被告公社は,A町による本件補助金の交付決定が上記のとおり違法・無効であるか
ら,受給した本件補助金2000万円を不当に利得している。
  (6) 監査請求前置
ア 原告らは,平成10年6月26日,A町監査委員に対し,本件補助金の交付につき,
監査請求をした。
イ A町監査委員は,平成10年8月24日付けで上記監査請求を棄却し,平成10年8
月25日,原告らにその旨を通知した。
  (7) 結論
よって,原告らは,A町に代位して,被告乙及び被告公社に対し,連帯して次のア,イ
の支払をなすことを求める。
ア 被告乙に対し,地方自治法242条の2第1項4号前段により,本件補助金の交付に
基づく損害賠償金2000万円,及びこれに対する平成10年4月1日(本件補助金交付の翌
日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
イ 被告公社に対し,地方自治法242条の2第1項4号後段により,不当利得に基づく
利得金2000万円,及びこれに対する平成10年4月1日(本件補助金交付の翌日)から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
 3 被告乙及び同公社の主張(請求原因に対する認否,反論)
  (1) 認 否
    請求原因(1)(当事者),同(2)(補助金の交付),同(6)(監査請求前置)は認め,同(3)
(補助金の交付の違法性),同(4)(被告乙の故意又は過失,A町の損害),同(5)(被告公社
の不当利得)は否認ないし争う。
  (2) 公益上の必要性について
本件補助金の交付の目的及びその使途には,次のとおり公益上の必要性があった。
   ア 本件補助金の交付により,被告公社の存続を図る必要性があったことについて
は,前記第1の3(2)イと同様である。
   イ それ故,本件補助金が,被告公社の収益的事業に係る未払金の支払に充当され
たとしても,本件補助金の交付には,公益上の必要性がある。このことは,本件補助金が,
一旦未使用のまま預金され,年度を越えて順次被告公社の収益的事業に係る未払金の支
払に充当されたとしても,同様である。
  (3) 支出の根拠について
   ア 支援要綱は,平成10年3月1日に制定・施行されている。すなわち,本件補助金が
交付された平成10年3月31日の時点では,支援要綱は既に制定・施行されており,A町
は,当該支援要綱に基づいて,本件補助金を交付した。
   イ 被告公社は,本件補助金の交付申請に当たり,支援要綱の定める添付書類を提
出している。
   ウ このように,本件補助金の交付は,支援要綱の手続に従い適切に行われており,
支出の根拠を欠くとの違法はない。
第3 B-2事件(補助金返還請求権の不行使違法確認)
 1 原告らの請求(B-1事件の予備的請求)
   被告A町長が,被告公社に対して平成10年3月31日に交付された補助金2000万円
(本件補助金)の返還請求を怠ることが,違法であることを確認する。
2 原告らの主張(請求原因)
仮に,本件補助金の交付が適法であるとしても,予備的に以下のとおり主張する。
  (1) 当事者
   ア 原告らは,いずれもA町の住民である。
イ 被告A町長は,支援要綱に基づき,本件補助金の返還請求を行う権限を有する行
政機関である。
  (2) 本件補助金の返還請求権の発生
   ア 目的外使用による返還請求権の発生
    (ア) 支援要綱(丁1)1条は,「本件補助金交付の目的は,被告公社に対する財政支
援を行い,E牛の振興発展を図ることである」と規定し,同6条2項は,「被告公社が,本件補
助金を上記目的以外の用途に使用したときは,被告A町長は,被告公社に対し,期限を付
して補助金の全部又は一部を返還させることができる」と規定している。
    (イ) 地方公共団体が交付する補助金は,本来,同自治体の予算編成との関係上,
単年度毎に,当該年度に行うべき公益性ある事業に必要な金額に限り,交付すべきもので
ある。
したがって,A町は,被告公社に対し,平成9年度中に必要な財政支援を行う目的
で,本件補助金を交付したものである。
(ウ) ところが,被告公社は,本件補助金の約半額を,平成9年度中に使用せず,預
金として保管して次年度(平成10年度)に順次使用し,平成9年度中の被告公社の財政支
援という目的以外の用途に使用した。
(エ) よって,被告公社による本件補助金の使用は,支援要綱6条2項の定める目的
外使用に該当し,被告A町長は,被告公社に対し,本件補助金の一部(約半額)を返還さ
せることができる。
   イ 事業等の実施方法の不適当による返還請求権の発生
(ア) 支援要綱2条は,「本件補助金は,被告公社の公益的事業の実施及び経営の
安定に資するものとする。」と規定し,同6条3項は,「被告公社の公益的事業並びに経営改
善の実施方法が不適当であるときは,被告A町長は,被告公社に対し,期限を付して補助
金の全部又は一部を返還させることができる。」と規定している。
(イ) 被告公社が本件補助金の交付申請を行った際に添付書類として提出した改善
計画書等によれば,被告公社は次のような公益的事業及び経営改善を実施するとしてい
た。
a 経営管理体制の充実
経営目標の明確化,優良系統牛の導入,官民の役割分担等
b 経営再建のための改善
子牛の事故をゼロにする,落ちこぼれをなくする等
c 公益的機能の強化
ヘルパー制度及びショートステイ制度の確立,野草の有効利用,畜産経営の省
労力化と低コスト化,新種雄牛能力把握事業,受精卵移植事業,○○ビーフブランド化事
業,優良雄牛供給事業,繁殖障害牛や老廃牛の買い支え事業等
d 労働管理体制の充実
(ウ) ところが,被告公社は,本件補助金を受給後,何ら公益的事業を行わず,かつ,
経営改善も行わなかった。
(エ) したがって,被告公社が公益的事業及び経営改善を行っていない現状況は,
支援要綱6条3項にいう公益的事業及び経営改善の実施方法が不適当である場合に該当
し,被告A町長は,被告公社に対し,本件補助金の全部を返還させることができる。
  (3) 本件補助金返還請求権の不行使の違法
被告A町長は,本件補助金の目的外使用や,被告公社の公益的事業及び経営改善
の不実施を認識しながら,本件補助金の返還請求を怠ったものであり,かかる補助金返還
請求権の行使を怠る事実は違法である。
  (4) 監査請求前置
ア 原告らは,平成11年8月5日,A町監査委員に対し,被告A町長による本件補助金
の返還請求権の行使を怠る事実について,監査請求をした。
イ ところが,A町監査委員は,平成11年8月16日,本件補助金の交付日が平成10年
3月31日であり,監査請求の日が上記交付日から1年を経過していることを理由に,上記監
査請求を却下した。しかし,怠る事実の違法を確認し,必要な措置を求める監査請求には
地方自治法242条2項の適用はないから,上記監査請求の却下は違法である。
ウ したがって,原告らの本件提訴は,監査請求前置の要件を満たしている。
  (5) 結論
よって,原告らは,被告A町長に対し,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,被
告公社に対する本件補助金2000万円の返還請求権の行使を怠ることが違法であることの
確認を求める。
 3 被告A町長の主張(請求原因に対する認否,反論)
  (1) 認 否
   ア 請求原因(1)(当事者)は認める。
   イ 請求原因(2)(本件補助金の返還請求権の発生)のうち,同ア・イの各(ア)(支援要
綱の定め)は認め,その余は否認ないし争う。
   ウ 請求原因(3)(本件補助金返還請求権の不行使の違法)は争う。
   エ 請求原因(4)(監査請求前置)のうち,事実経過は認め,その余は争う。
  (2) 目的外使用の主張に対する反論
支援要綱1条は,本件補助金交付の目的が,被告公社に対する財政支援を行い,E
牛の振興発展を図ることにあるとし,同2条は,本件補助金の交付は,被告公社の公益的
事業の実施及び経営の安定に資するものとすべきことを定めている。
このように,支援要綱の趣旨は,被告公社に対する財政支援を行い,被告公社の公
益的事業や経営の安定を図ることにある。そして,被告公社が,本件補助金を収益的事業
に係る飼料代や人件費等の未払金の支払に使用することは,被告公社の経営の安定に資
するものである。
そうだとすると,被告公社が本件補助金を上記用途に使用することは,支援要綱6条
2項の定める目的外使用に該当せず,したがって,被告A町長が被告公社に対し,本件補
助金の返還を請求しないことに違法はない。
  (3) 事業等の実施方法が不適当との主張に対する反論
ア 被告公社は,現在,改善計画書どおりの経営改善を進め,かつ,公益的事業も行
っている。よって,支援要綱6条3項の定める事業等の実施方法が不適当である場合に該
当せず,被告A町長が,被告公社に対し,本件補助金の返還を請求しないことに違法はな
い。
イ 仮に,支援要綱6条3項の場合に該当するとしても,同条項は,被告A町長による補
助金返還請求権の行使に裁量を認めている。そして,本件補助金の交付は,A町議会の
議決によって決定された事項であることからすれば,被告A町長が本件補助金の返還を請
求するためには,極めて明白な理由が存在しなければならない。
しかし,被告公社の経営状態からして,被告公社に対して補助金の返還を請求す
れば,A町の畜産振興に貢献している被告公社の経営を打ち切ることにつながる可能性が
あり,A町の畜産業に打撃を与えかねない。
よって,被告A町長が,被告公社に対して本件補助金の返還を請求すべき明白な
理由は存在せず,被告A町長が被告公社に対し,本件補助金の返還を請求しないことに
違法はない。
第4 C事件(給与の支給)
 1 原告らの請求
   被告乙は,A町に対し,金36万2400円及びこれに対する平成10年6月27日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らの主張(請求原因)
  (1) 当事者
ア 原告らは,いずれもAの住民である。
イ 被告乙は,平成9年5月2日から現在に至るまで,A町長の地位にある者である。
  (2) 給与の支給
A町(被告乙町長)は,平成9年から平成10年にかけて,A町産業課畜産担当職員d
(以下「職員d」という。)及びA町臨時職員e(以下「臨時職員e」という。)に対し,給与を支給
した。
  (3) 被告公社事務の遂行
ア 職員d関係
A町は,平成9年8月19日以降,A町産業課畜産担当職員であるdに対し,職務専
念義務を免除することなく,同人の勤務時間中,A町役場において,被告公社の飼料の発
注,経理事務,決算事務,本件補助金の交付申請行為等を行わせた。
イ 臨時職員e関係
A町は,平成9年9月ころ,A町の臨時職員としてeを採用し,同人に対し,職務専念
義務を免除することなく,同人の勤務時間中,A町役場において,被告公社の未整理とな
っていた経理事務等を行わせた。
  (4) 給与支給の違法性等
 上記飼料の発注等の事務は,被告公社の事務であってA町の事務ではない。にもか
かわらず,職務専念義務を免除するための手続を履践することなくなされた職員d及び臨時
職員eによる上記事務の遂行は,公務員の職務専念義務について定める地方公務員法30
条,35条,24条1項の趣旨に反し,違法である。
よって,A町(被告乙町長)が,職員d及び臨時職員eに対し,A町の事務を行ってい
ない時間分に相当する給与を支給したことは違法であり,被告乙には,そのことについて故
意又は過失責任がある。
  (5) A町の損害
被告乙町長は,職員d及び臨時職員eに対し,職務専念義務も免除しないで被告公
社の事務の遂行を命じ,職員dらがA町の事務を行っていない時間分に相当する給与を支
給したことにより,A町に対し,同給与額と同額の損害を与えた。その給与相当額の損害
は,次のア,イの合計36万2400円である。
ア 職員dに関する損害額
職員dは,少なくとも平成9年8月19日以降,被告公社の事務を行っており,同人の
勤務時間中,その事務に費やした時間は,1か月当たり8時間を下らない。そして,職員dの
給与は,月額34万4500円であるから,同人の被告公社の事務を行った時間数に対応す
る給与額は,月額1万5000円を下らない。
したがって,原告らが住民監査請求を行った平成10年6月26日までの期間におい
て,A町が職員dに対し,被告公社の事務を行った時間数に対して支給した給与額は,合
計15万円を下らない。
イ 臨時職員eに関する損害額
臨時職員eが,専ら被告公社の事務だけを処理するために出勤した日数は,36日
を下らない。そして,同人の平成9年度の給与額は,日給5900円である。
したがって,A町が臨時職員eに対し,被告公社の事務を行った日数に対して支給
した給与額は,合計21万2400円を下らない。
  (6) 監査請求前置
ア 原告らは,平成10年6月26日,A町監査委員に対し,職員dらに対する36万2400
円の給与支給につき,監査請求をした。
イ A町監査委員は,平成10年8月24日付けで上記監査請求を棄却し,平成10年8
月25日,原告らにその旨を通知した。
  (7) 結論
よって,原告らは,A町に代位して,被告乙に対し,地方自治法242条の2第1項4号
前段に基づき,職員dらに対する給与支給による損害賠償金36万2400円,及びこれに対
する平成10年6月27日(本件監査請求の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求める。
 3 被告乙の主張(請求原因に対する認否,反論)
  (1) 認 否
  請求原因(1)(当事者),同(2)(給与の支給),同(3)(被告公社事務の遂行),同(6)(監
査請求前置)は認め,同(4)(給与支給の違法性等),同(5)(A町の損害)は否認ないし争う。
  (2) 反 論
ア A町課設置条例,A町行政組織規則及び事務分掌によれば,職員d及び臨時職
員eの属する産業課の事務分掌として「畜産に関すること」,「和牛振興組織に関すること」
が掲げられている。また,職員dについては,個別の事務分掌においても,「和牛振興組織
に関すること」「和牛振興公社に関すること」が掲げられている。
よって,原告ら主張の事務は,職員d及び臨時職員eがA町職員としての行うべき事
務の内容に含まれ,職員dらが被告公社の事務を遂行しても,何ら職務専念義務に違反す
るものではない。
イ また,被告公社は,A町が50%以上を出資している公益目的の法人であり,A町が
本来自ら行うべき畜産振興事業の一翼を担う存在である。このような被告公社の役割にか
んがみ,A町は,債務超過状態にある被告公社を再建し,A町の畜産振興を図る責務を負
っている。
ところが,被告公社が飼料を購入しようとした民間業者は,A町の口添えがなければ
被告公社に飼料を納入しないと回答し,このままでは被告公社は,肉用牛の飼育すらでき
なくなる状況にあった。そこで,職員dは,被告公社の経営再建のため,月に3回程度,当
該民間業者に対して,被告公社からの飼料発注の取次をした。
また,被告公社の再建のためには,A町として,被告公社の経営状況,経理内容,
今後の経営の見込み等を詳しく知り,被告公社支援策を立案する必要があった。そこで,
職員d及び臨時職員eは,平成9年8月下旬から平成10年3月末までの被告公社の伝票整
理,決算書類等の資料作りを行った。
このように,職員d及び臨時職員eが行った被告公社の事務は,A町自体の畜産振
興施策に必要なことであり,職務専念義務に違反するものではない。
          理由
第1 A事件(増資金の支出)について
 1 争いのない事実
請求原因(1)(当事者),同(2)(増資金の支出),同(5)(監査請求前置)は,当事者間に
争いがない。
 2 請求原因(3)ア(公益上の必要性の欠如)の検討
(1) 事実の認定
 証拠(甲1~3,11,15~17,19,24,28,29,31,32,42,43〔以上,枝番を含
む。〕,丙3~7〔以上,枝番を含む。〕,丁3~6,9,11,17,19,25,27~32,36~39,
41~45,49~51,56,57〔以上,枝番を含む。〕,証人b〔一部〕,証人c〔一部〕,被告乙
本人〔一部〕,原告甲本人〔一部〕),及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
   ア A町における畜産業の重要性
 (ア) A町は,兵庫県北西部に位置する,人口3000人弱の小さな町である。
 (イ) A町は,山岳に囲まれた町であり,その主たる産業は農業である。とりわけ,古く
からの伝統的産業である畜産(肉用牛の繁殖)が主力産業である。
 肉用牛の繁殖とは,肉用牛の子牛(素牛)を産ませて,6~8か月まで育てて販売
することをいう。A町では,伝統的に,子牛の繁殖経営のみが行われており,A町産の子牛
は,E牛として全国的に有名な和牛であるだけでなく,閉鎖育種(資質の良い牛により近親
交配を繰り返し,より資質の良い牛を育てること)によって純血主義を保持しており,黒毛和
牛の育種改良の原種として,全国的に広く普及し,最高値で取引されている高級和牛であ
る。
 (ウ) このように,A町における子牛の繁殖経営は,A町が全国に誇る産業であり,A
町の農業生産額の第1位(40パーセント程度)を占めるとともに,地域興しの基軸とされるな
ど,A町にとって積極的に推進してゆくべき重要な基幹産業である。
   イ A町の畜産業の直面している重要課題
    (ア) 子牛繁殖経営の問題点
 ところが,A町における子牛の繁殖経営には,次のような問題があった。
 a 子牛の繁殖経営上の多大なリスク
 A町の畜産農家では,伝統的に,数百年来の飼育技術を生かし,農家1戸当た
り子牛2,3頭の繁殖に携わるという極めて零細規模の繁殖経営が主体として行われてき
た。そのため,従来から,牛個体の繁殖能力の差異や繁殖障害によるリスクが大きく,畜産
農家にとって経営上の負担が大きかった。
 b 長期に亘る子牛価格の低迷
 A町では,子牛(素牛)の繁殖経営が主体であるため,地域外顧客の動向(景気
等の経済情勢)により子牛価格が直接左右されることを回避できない。ところが,近年,長期
に亘る景気低迷によって肉用牛の枝肉価格が低迷し,その影響をもろに受け,A町産の子
牛価格も下落傾向にあるため,畜産農家の経営が圧迫されていた。
 c 牛肉輸入自由化による子牛価格への影響
 これに加え,昭和50年代後半ころから,牛肉の輸入自由化が取り沙汰されてお
り,近い将来,海外から入ってくる安い牛肉に押され,肉用牛は,今後更に厳しい価格競争
にさらされ,A町産の子牛価格もさらに下落することが予想されていた。
    (イ) A町の畜産業の実情
 上記(ア)のような畜産農家における子牛繁殖経営上の問題は,A町の畜産業に,
次のような悪影響を及ぼしていた。
 a 農家の生産意欲の低下
 畜産農家の子牛繁殖経営上の圧迫は,畜産農家の所得減少,投下資本の回収
率の悪化につながって畜産農家の安定経営を阻害し,これがA町の畜産農家の生産意欲
を減退させる要因となり,A町の畜産業において,畜産農家の高齢化や後継者不足という
深刻な事態を招来していた。
 b 畜産農家の戸数,和牛飼養頭数の減少
 このことは,A町の畜産農家の戸数減少,それに伴う和牛飼養頭数の減少に直
結した。例えば,昭和59年ころまでの和牛飼養頭数は,A郡4町で2500頭を超え,A町だ
けでも450頭を越えていたが,昭和60年ころから漸減し,平成元年にはA郡4町で2000頭
を割り込み,A町だけでは,350頭を切る事態に至っている(別表参照)。
    (ウ) A町の畜産業における危機
 A町の畜産業は,上記(イ)bのような和牛飼養頭数の顕著な減少傾向を受けて,次
のような危機的状況に直面していた。
     a 子牛の繁殖経営の存続の危機
 A町における和牛飼養頭数の減少がこのまま放置されれば,A町の畜産業は,
子牛の育種改良を実施するなど,今後も子牛の繁殖経営を継続してゆくのに必要な最低
限度の和牛飼養頭数の維持すらも困難となりかねない状況にあった。
     b D家畜市場の存続の危機
(a) A町を含めたA郡4町の子牛は,A郡B町にあるD家畜市場に出され,そこで
競り売りされ,販売されていた。ところが,昭和47年ころ,兵庫県により,このD家畜市場を,
将来的には,兵庫県C郡C町にあるE家畜市場に統合し,E牛の市場を一本化する方針が
打ち出され,D家畜市場は,昭和61年ころからは,臨時市場として扱われるようになってい
た。
(b) これに対し,A町の畜産農家のほとんどは,次のような理由により,D家畜市場
の閉鎖に反対し,その存続を希望していた(丁37の1・2)。
 ⅰ 子牛価格への悪影響
A町産の子牛は,閉鎖育種により純血主義を保持し,全国的にも最高値で取
引されているため,その市場価格も,D家畜市場内において他町産の子牛を引き離してい
るだけでなく,E家畜市場に出される子牛よりも,1頭当たり10万円程度の高値を付けてい
た。
しかし,D家畜市場が閉鎖され,E家畜市場に統合されると,A町産の子牛の
価格に悪影響が出ることが予想される。
 ⅱ 畜産農家の負担の増加
畜産農家が家畜市場に子牛を連れ出すには,専用の車両を使用しなければ
ならないが,A町では,そのような車両を所有する畜産農家は少なく,かかる車両を所有す
る者がその搬送を手伝っている。
しかし,C郡にあるE家畜市場は,D家畜市場よりも距離的に遙かに遠方にあ
り,かかる子牛の輸送の負担は格段に重くなり,A町の畜産農家にとって,多大な負担とな
りかねない。
 ⅲ 畜産農家の生産意欲の低下
A町は,閉鎖育種により純血主義を保持したE牛の子牛の産地であり,いわば
E牛の本場である。しかし,D家畜市場が閉鎖されれば,E牛の本場であるにもかかわらず,
その専用市場を有しないこととなり,畜産農家の生産意欲の減退につながりかねない。
(c) ところが,A郡4町における和牛飼養頭数の漸減により,2000頭を切る事態と
なれば,D家畜市場の閉鎖,E家畜市場への統合が早急に現実化する可能性があった。
   ウ A町による畜産業の危機回避への取組み
    (ア) 和牛飼養頭数の増頭政策
 a 結局,上記のような危機的状況に対処するには,A町の基幹産業である子牛繁
殖経営を維持し,長期的展望をもって,家畜飼養頭数を維持・増加することが必要であると
認識された。
 b そこで,A町は,町独自に,また,A郡4町全体として,次のような和牛飼養頭数
増頭のための政策を実施し,現在に至っている。
 (a) A町の増頭政策
 A町では,和牛飼養頭数増頭のための対策事業として,繁殖用素牛維持増頭
対策事業(経営規模拡大奨励事業,子牛代金前払金利子補給事業,不妊牛見舞金制度,
優良雌子牛保留促進事業,子牛導入資金利子補給事業,和牛短期飼育預託事業,増頭
対策施設整備事業,畜舎周辺環境改善対策事業),雌牛肥育事業,畜産経営安定貸付基
金事業等を実施してきた。
 また,A町は,その他にも次のような多種多様な事業を実施し,あるいは補助制
度を制定し,畜産農家を財政的に支援している。
 ⅰ 飼養管理技術向上対策事業(A町子牛品評会,A町二才雌牛共励会,先進
地等視察研修会)
 ⅱ E牛の里交流推進事業
 ⅲ 飼料生産利用技術向上推進事業
 ⅳ 家畜糞尿共同処理施設設置事業
 ⅴ 雌牛肥育事業
 ⅵ 耕作放棄地等活用畜産振興事業
 ⅶ 山村畜産確立事業
 ⅷ 各種畜産関係組合等への補助金支出
 (b) A郡4町の子牛増頭政策
 A郡4町では,平成3年8月ころ,A郡4町及び農協等による「E牛の振興を考え
る会」を組織し,平成4年2月には,A郡の和牛頭数を3000頭にすることを目指した「A郡肉
用牛振興計画書」を作成し,A郡4町全体においても,和牛飼養増頭政策を推進している。
    (イ) 畜産業の構造改革
 a また,A町の畜産業は,子牛の繁殖経営の不安定,それによる畜産農家の意欲
減退にも悩まされており,かかる事態に対しては,伝統的な零細規模による子牛(素牛)の
繁殖経営から脱却し,子牛の繁殖経営に関しては多頭飼育農家を育成し,より産業として
の発展を目指し,かつ,子牛の肥育事業(子牛を30か月程度まで育て,肉用牛として販売
すること)に進出して,生産・肥育・販売という一貫体制を確立し,A町の畜産振興のため
に,積極的な対応を行う必要があった。
 b それ故,A町は,上記目標を実現するため,次のような研究・施策に取り組み始
めた。
 (a) 多頭飼育経営への取組み
 A町は,多頭飼育経営の確立を目指す見地から,平成7年度から平成9年度に
かけて,新山村振興特別対策事業として和牛センター(牛舎)整備事業を実施し,A町内の
適地4カ所に,経営規模拡大を目指す農家の牛を収容できる町営アパート牛舎を建設し
た。
 (b) 肥育事業への取組み
ⅰ A町議会議員は,昭和59年,和牛の肥育と牛肉の加工・販売に関する視察
を実施し,技術取得にも着手した。
ⅱ また,A町は,昭和59年ころから昭和61年ころにかけて,肉用牛の肥育経営
が成り立つか否かについての試験を実施することとし,当該事業に協力してくれる農家を募
集した。しかし,これに応じる農家が見つからなかったため,当時,畜産農家兼A町議会議
員であった原告甲に対し,3頭の牛を委託し,肥育試験を実施した。
ⅲ さらに,A町は,昭和61年,国土庁の事業である「山村地域資源高度活用促
進モデル事業」を導入した。これは,山間地域であるA町が,農業振興策として,地域資源
であるE牛を活用し,都市との交流を図る事業である。
この事業により,昭和62年に農産物の加工施設が,平成2年に地域活性化セ
ンターが建設された。もっとも,この時点では,これらの施設に利用する牛肉の生産体制が
整っていたわけではなく,これらの施設は,将来,A町における和牛の繁殖・肥育・販売とい
う一貫体制が整ったときの,生産牛の受け入れ施設と位置付けられていた。
ⅳ さらに,A町長(b),農協組合長(a),A町産業課長は,平成元年12月,和
牛の繁殖・肥育・販売の一貫経営に成功している社団法人北川町畜産公社(宮崎県)を視
察した。
   エ 被告公社設立計画の立案
    (ア) 被告公社の設立機運
   このような一連の流れの中,A町においても,被告公社の設立の機運が生じてき
た。
    (イ) 設立準備委員会での議論
 a そこで,A町では,平成2年3月1日から同年7月5日までの間,A町の事務方レ
ベルで,「畜産公社(仮称)設立準備会」が合計7回開催され,事業規模,牛舎の場所,損
益予想などについての検討・議論が行われた。
 b そして,平成2年8月22日,A町畜産公社(仮称)設立準備会(以下「設立準備委
員会」という。)が発足した。設立準備委員会のメンバーには,当時のA町長b,A町助役k,
A町産業課長f,当時の農協組合長a,農協理事g,A町議会副議長h,A町議会の組織で
ある産業建設常任委員会(以下「産建委員会」という。)委員長i,そして,一般農家の意向も
踏まえるために,畜主代表として原告甲が設立したA町和牛振興研究所会長jの8名が就
任した。
 c 設立準備委員会においては,当初,150頭の多頭飼育経営を実施することを計
画していた。しかし,それでは1億円以上の赤字が出るとの試算が出されたため,繁殖牛30
頭,肥育牛30頭の合計60頭程度の多頭飼育経営からスタートするとの計画に修正され
た。
 もっとも,これでも,被告公社は,設立後かなりの期間,赤字経営となることが予
測されていた(丁11)。
    (ウ) 産建委員会での議論
 上記(イ)の設立準備委員会での議論は,産建委員会に適宜報告された。産建委
員会においても,被告公社が設立後かなりの期間赤字経営となると予測されることが問題と
されたが,結局,平成3年2月27日,A町の将来的な畜産振興を推進するためには,早急
に被告公社の設立を要するとの結論が出された。
    (エ) A町議会での議論
 産建委員会の決定を受け,A町議会においても,被告公社設立の問題が議論さ
れ,被告公社が設立後かなりの期間赤字経営となると予想される点が問題とされたが,A町
の畜産振興のためには必要であるとして,被告公社の設立が決定された(丁12の1・2)。
   オ 被告公社の設立
    (ア) 被告公社設立のための出資
 A町議会は,平成3年3月11日,A町が1000万円を出資することにより,被告公
社を設立することを議決し,A町は,被告公社設立のために1000万円を出資した。
 なお,A町の他には,農協が1000万円,設立準備委員会のメンバー8名が各々5
万円ずつを出資し,合計2040万円の出資がなされた。
 このように,被告公社の出資者は,A町と農協が大半を占め,かつ個人で出資した
者も,当時就いていた役職から出資したにすぎない。原告らが主張するような,被告公社が
「当初から特定人の利益と強く結びついていた」ものではない。
    (イ) 被告公社の設立
 被告公社は,平成3年4月5日,設立総会を行い,平成3年4月17日,「1.肥育素
牛の導入,肥育及び販売,2.繁殖雌牛の素牛導入飼養,生産,販売及び貸付,3.飼料
の生産」を目的とするとの設立登記を行った。これにより,被告公社が設立されるに至った。
   カ 被告公社の経営
    (ア) 被告公社の役員
 被告公社の役員は,設立当初から現在に至るまで,設立準備委員会のメンバーを
中心に,A町関係等の公職に就いている者があて職として就任した。
 すなわち,被告公社の設立当初は,代表取締役には当時の農協組合長aが,そ
の他の取締役には,A町長b,助役k,議会副議長h,議会産建委員会委員長i,A町和牛
振興研究会長jが,監査役には,A町産業課長f,農協理事gが就任していた。
 その後,代表取締役aが病気を理由に辞任を申し出たため,平成5年5月までA町
長であったbが2代目社長に就任し,平成9年12月8日からは,A町長である被告乙が,平
成10年6月からは,元農協理事で農業委員会会長のlが就任している。
 そして,被告公社の取締役,監査役に対する報酬は,被告公社設立初年度に年
間合計22万円が支払われた他は,一切支払われていない。被告公社の役員は,A町の畜
産業の維持・振興のために,無報酬で懸命に努力してきたのである。
    (イ) 被告公社の運営方法
 被告公社の取締役会には,A町長及び農協組合長が,取締役に就任しているか
否かにかかわらず,常に出席して行われている。
   キ 被告公社の事業実施状況等
    (ア) 経営の実情
      被告公社は,設立当初からある程度の赤字覚悟で設立されたが,それに加えて,
牛肉の輸入自由化及びバブル崩壊による景気の長期低迷等による子牛価格の大幅下落
等で,更に資金不足に陥った。そこで,被告公社は,平成5年11月にA町に経営支援を求
めたが,当時のc町長がこれを拒否したため,被告公社は無理な経営コスト削減に努めざる
をえなくなった。このため,被告公社は人手不足等を生じ,これが原因で子牛の発育に支
障を来した面もあった。
また,被告公社は,公益事業であることから,これまで実績のない若い種牛の種も
試験的に採用せざるを得ず,当然,実績のある種牛に比べると格段に子牛の値段が安くな
り,これをもって被告公社の経営努力不足とはいえないのが実情であった。
さらに,被告公社は,平成7年度と平成9年度の子牛の事故率が,一般農家に比
べて高かった。これは,この年に白痢病や肺炎が発生し,被告公社が一般農家に比べると
格段に多頭数経営であることから,これらの伝染性のある病気の影響を受けやすかったこと
が要因の一つとなっている。
    (イ) A町内の飼育頭数の増加
 被告公社が和牛飼育事業を開始して以降,A町農家の戸数は減少傾向のままで
あるが,被告公社の存在により,A町全体の飼育頭数は若干増頭となった(別表参照)。例
えば,平成10年2月1日時点におけるA町産の和牛376頭のうち58頭は,被告公社が飼
育した牛である。
    (ウ) 実施事業
 被告公社は,設立当初より,A町産の素牛を導入することによる町内の牛の買い
支え事業,都市住民との交流事業(平成6年より,オーナー牛制度を実施),育種価把握事
業,肥育事業,高齢者の畜産農家支援事業(ショートステイ)等を実施していた。
   ク 被告公社の経営状態の悪化
    (ア) 社会経済情勢の変化
 被告公社設立後,被告公社を取り巻く社会経済情勢は,急激な変化を遂げた。
 すなわち,平成3年4月に,牛肉の輸入自由化が実現し,外国産の安い牛肉が大
量に輸入されようになったのを始め,その後のバブル崩壊による景気の長期低迷,平成5
年12月には,ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉による合意を受け,平成12年までの間の農産
物の関税等の段階的引き下げが決定し,外国産の牛肉がより低価格で国内に入ってくるよ
うになった。
 これを受けて,国内産の肉用牛の枝肉価格が下落し,それに伴い,子牛価格も予
想を越えて大幅に下落した。被告公社設立時点では,子牛価格平均70~80万円であった
のが,平成10年ごろには,その半額近い平均45万円程度まで下落している。
    (イ) 経営状態の悪化
 被告公社は,設立前の試算においても,ある程度の赤字経営になることが予想さ
れていたが,これに加えて,上記(ア)のような社会経済情勢の変化が重なり,被告公社の経
営状態が悪化し,平成8年度には6378万0122円,平成9年度には6441万6427円もの
未処理損失を抱え,著しい債務超過の状態に陥った。
   ケ A町から被告公社への経営支援
    (ア) 本件増資金の出資等
a 被告公社は,平成8年3月25日,A町に対し,被告公社に対する経営参画と支
援を求める請願をした(甲4)。
  A町は,平成8年6月24日,上記請願を採択し(丁14の2),平成9年6月30日,
被告公社に対し,本件増資金3000万円を出資した。当該3000万円のうち,2700万円に
ついては,過疎対策事業債を起債することによって調達した。
     b A町は,平成8年12月27日,被告公社に対して本件増資金を支出するまでの
つなぎ資金とする目的で,被告公社に対し3000万円の貸付を行った。
  被告公社は,上記貸付金3000万円を,被告公社の和牛飼育事業により生じた
負債(農協に対する飼料代1000万円,人件費,牛舎の借地料等にかかる未払金)の返済
に充当した。
    (イ) 本件補助金の交付等
a さらに,A町は,平成10年3月31日,被告公社に対し,補助金2000万円を交付
した。
b 被告公社は,本件補助金のうち,その約半額を被告公社の和牛飼育事業により
生じた負債(農協に対する飼料代等の未払金)の返済に充当し,残りの約半額は預金して
保管し,次年度(平成10年度)における被告公社の和牛飼育事業にかかる運営費(人件
費,飼料代等)に,順次充当していった。
(ウ) 被告公社倒産による損失回避の必要性
もし,A町が,被告公社に対し,本件増資金の支出,本件補助金の交付を通じて
の経営支援をしなければ,被告公社は倒産に追い込まれ,A町に莫大な損害(過疎債償還
5000万円,オーナー牛制度により都市住民から受領している2500万円の補償,農協飼
料代1500万円の支払,被告公社への貸付金3000万円の返済不能,借地返還に伴う費
用3000万円等)が発生し,A町の基幹産業である畜産業への計り知れない打撃,イメージ
ダウンが生じることが予想された。
   コ 被告公社による公益的事業の実施
 被告公社は,本件増資金及び本件補助金の交付を受けた後,次のような公益的事
業を実施した。
    (ア) 畜産農家への労力支援
     a ヘルパー制度
 ヘルパー制度とは,畜産農家が自身や家族等の病気等により,一時的に和牛の
飼育が困難となった場合に,その農家に代わって和牛の飼育を行うために,被告公社の職
員を派遣する制度である(丙6)。
 平成11年度には,この制度を利用した農家が1戸あった。すなわち,平成11年5
月31日から平成11年6月30日までの間,当該農家の主婦が病気で入院したため,ヘルパ
ー制度の利用申込みがあり,被告公社から人材派遣を行った。
 ヘルパー制度は,畜産農家の高齢化という今後の時代の要請や若手後継者の
育成のために必要な制度であり,特に高齢畜産農家の支援事業として,畜産農家の高齢
化に伴い,更に重要となる施策である。
     b ショートステイ制度
 ショートステイ制度とは,畜産農家が,冠婚葬祭,病気,旅行,出稼ぎ等のため
に,一時的に和牛飼育ができない場合に,被告公社でその牛を一時的に預かって飼育す
る制度であり,成牛で1日600円~800円,子牛で1日300円(半額はA町が補助)の料金
で実施されている。
 平成10年度には農家4戸(成牛8頭,子牛7頭)が,平成11年度には農家1戸
(成牛4頭,子牛3頭)が,平成12年度には農家2戸(成牛2頭,子牛2頭)がこの制度を利
用した。この制度の利用により,畜産廃業を検討していた農家が畜産業を継続したケース
が,これまで6戸程度ある。
 A町の畜産農家が平成12年2月時点で67戸であることからすれば(丁36の1
9),決して少ない割合ではない。
    (イ) 畜産農家への経営支援
     a 繁殖障害牛,老廃牛の買い支え事業
 繁殖障害牛や繁殖能力を失った老廃牛は,近年売却困難な状況にあるが,畜
産農家にとっては,これらの牛を売却することは,新しい牛の購入資金を確保する意味で極
めて重要である。そこで,被告公社は,売却困難な繁殖障害牛や老廃牛を買い支え,畜産
農家の資金調達を支援する事業を実施している。
 当該事業は,被告公社の設立当初から,毎年1~2頭の割合で買取を実施し,
現在まで引き続き実施している。買い取った繁殖障害牛や老廃牛は,6か月から1年間程
度,被告公社の肥育事業により,肥育用の餌を与えて肉牛にしている。
 将来的には,繁殖障害牛や老廃牛の本来持っている優良な肉質を引き出して肥
育する技術を確立し,その技術を畜産農家に還元して,農家の所得増大に寄与することを
目標としている。
     b 優良雌牛供給事業(町有雌牛貸付制度)
 A町は,被告公社で飼育されている和牛の中から,繁殖成績の良い牛(毎年子
牛を産み,子育てのうまい親牛)を買い取り,飼育和牛の増頭を希望する農家や,種付けが
悪く困っている農家に貸し付け,畜産農家の経営を支援する事業を計画しており,被告公
社は,これに協力して,被告公社の牛を提供することとした。
 当該事業は,具体的には,A町が被告公社の雌牛を1頭当たり平均50万円で買
い上げ,町内の畜産農家に1頭当たり平均25万円で貸し付け,畜産農家が貸付代金を完
済すれば,当該牛の所有権が,A町から畜産農家に移転するという,町有雌牛貸付制度と
して実施されている。
 平成12年度には,A町が被告公社から買い上げた牛のうち,8頭の貸付が行わ
れた。
    (ウ) A町産の子牛の増頭,質向上に向けた事業
     a 新種雄牛能力把握事業
 兵庫県では,閉鎖育種政策により,種雄牛を兵庫県が一括して管理しているた
め,各畜産農家は,兵庫県に対し,種付けを希望する雄牛の申込みを行い,種付けを実施
している。
 しかし,既に数年の産子実績のある種雄牛に比べ,新種雄牛は,その遺伝的能
力を判断しがたいため,一般畜産農家の種付け希望は,新種雄牛を敬遠し,実績ある種雄
牛に偏る傾向がある。
 このような状況の下では,新種雄牛の育種改良が進みにくいため,兵庫県は,1
1万円の補助金を交付することによって畜産農家の協力を取り付け,新種雄牛の交配を実
施しているのが実情である。
 そこで,被告公社でも,新種雄牛を積極的に種付けし,産まれた雌牛を数頭保
持して,次世代の牛を育てるとともに,その子牛が優良な肉牛となるかどうかを兵庫県に検
定して貰うため,平成10年度に,素牛2頭を購入して貰うなどし,兵庫県の種雄牛改良事業
に協力している。
     b 受精卵移植事業
 受精卵育種事業は,育種改良による優良系統牛の増頭や不妊牛の利用等を目
的として,母牛の受精卵を取り出して,別の牛の腹に移植する事業である。
 当該事業には,優良系統牛の卵子と精子を体外で受精させ,一定の発育をさせ
た後,別の雌牛の子宮に着床させるという新技術の実践が必要であり,現時点では着床率
も低いため,実用化までには未だ研究が必要である。
 しかし,被告公社は,平成9年度にA郡受精卵移植協議会に加入して,当該事
業に着手し,平成10年度に1頭,平成11年度に2頭の子牛を誕生させている。
    (エ) 肥育事業の実施
     a 和牛肥育事業へのシフト
 被告公社は,和牛の肥育経営を目的として設立されたものであるが,実際には,
和牛の繁殖経営を主体とし,一部において肥育経営を実践していたにとどまり,肥育した肉
用牛を主体的に販売する肥育経営の実施までは至っていなかった。
 そのため,被告公社は,和牛飼育体制を強化するとともに,今後は徐々に繁殖
牛の頭数を減らし,肥育事業に進出することを計画している。そのため,A町内の精肉業者
や牛肉販売店の協力を取り付け,家畜商免許も取得するなどして,準備を整えている。
     b ○○ビーフブランド化事業
 被告公社の肥育経営を成功させるためには,A町の肥育牛(○○牛)をA町の特
産品として広くPRし,消費を拡大して販売利益を上げる必要がある。
 そこで,被告公社は,和牛肥育経営の一環として,○○ビーフブランド化事業(A
町産牛肉を,○○〔A町域の旧呼称〕ビーフと銘打って,商品として消費者に強く印象づ
け,牛肉としてのブランドを確立する事業)にも取り組んでいる。
 具体的には,平成10年度に,A町内の学校や老人ホームに合計3回にわたり○
○牛を提供したり,地元産牛肉としてA町民に販売するなどしている(丙3)。
 そして,今後は,より幅広くA町民及び一般消費者に,低価格で品質の良い牛肉
を提供してゆくことを検討している。平成12年9月からは,毎月1頭のペースで,A町内での
地産地消(地元産の牛肉を地元で消費する)を実現し,これを拡大してゆく予定である。
    (オ) 農地の保全・畜産経営の省労力化・低コスト化の実践
 A町の畜産農家は,子牛が離乳するまでは,牛舎内で飼育管理をしているため,
離乳する7月ころまでは,人手で野草の刈り取り等を行っているが,この間,被告公社の牛
を利用して草管理を行い,この負担を軽減することを検討している。そのため,A町内に点
在する小規模牧場として利用している農地等を,良好な状態で維持する事業を始めてい
る。
 現在は,被告公社周辺の遊休農地を集積し,放牧の実証を行い,飼料代の軽減
を図るという小規模の実施であるが,将来的には,公営的な牧場管理のノウハウや放牧技
術等を習得する予定である。
  (2) 検 討
    前記(1)の事実を総合すると,次のアないしオのように纏めることができ,被告公社の
経営を維持すること自体に公益性があることが認められ,被告公社の経営を維持するため
に支出された本件増資金や本件補助金には,これまた公益性があることが認められる。した
がって,原告ら主張の請求原因(3)ア(公益上の必要性の欠如-地方自治法232条の2違
反)は認められない。
   ア 被告公社は,次のような畜産業の危機的状況に直面したA町が,同町の基幹産業
である畜産業の維持・振興を図る目的で設立した第三セクターである。
    (ア) A町の畜産農家は,後継者不足及び景気低迷の影響により危機的状態にあっ
た。
(イ) A町の畜産業は,牛肉輸入自由化による価格競争等の危機に晒されていた。
    (ウ) A町の和牛の飼育頭数は,著しい減少傾向にあった。
    (エ) A郡B町にあるD家畜市場は,閉鎖の危機に晒されていた。
   イ そして,被告公社は,肉用牛の繁殖・肥育という収益的事業を実施することを通じ
て,A町における肉用牛の飼育頭数減少に歯止めをかけ,上記危機を回避する役割を果
たしている。この意味において,被告公社の実施している上記収益的事業は,公益性ある
事業といえる。
   ウ また,被告公社は,畜産農家への労力支援,畜産農家への経営支援,A牛の増
頭,質向上に向けた事業,肥育事業の実施,農地の保全・畜産経営の省労力化・低コスト
化の実践,都市住民との交流事業(オーナー牛制度),高齢畜産農家支援事業(ショートス
テイ)等の多くの公益的事業を実施してきており,今後も様々な公益的事業を実施する予定
である。
   エ したがって,被告公社の経営状況はよくないが,一般畜産農家ではこのような公益
的事業を実施し難く,被告公社の公益的事業は,将来その必要性を増すことは確実であ
る。そして,このような被告公社の設立経緯や事業実施状況からすれば,被告公社は,A町
の畜産振興事業の一翼を担う存在であり,かかる被告公社の経営を維持することを目的とし
て支出された本件増資金及び本件補助金の支出には,公益上の必要性がある。
   オ そうであれば,本件増資金及び本件補助金が,被告公社の収益的事業に係る未
払金の支払に充当されたとしても,本件増資金及び本件補助金の支出には,公益上の必
要性が認められる。
 3 請求原因(3)イ(支出の根拠の欠如)の検討
  (1) 事実の認定
 証拠(甲4~7,23,31,32,41,42〔以上,枝番を含む。〕,丙8~10,丁2,7,14
~18,20~25,46~50,57,61,62〔以上,枝番を含む。〕,証人b〔一部〕,証人c〔一
部〕,被告乙本人〔一部〕,原告甲本人〔一部〕),及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が
認められる。
   ア 経営支援の請願採決
 (ア) 被告公社は,平成8年当時,著しい債務超過に陥り,経営状態が悪化してい
た。そして,被告公社役員らも,被告公社のために,個人名義を用いて金融機関から貸付
を受けるなどしており,被告公社に対して,多額の貸付金や求償債権を有している状態で
あった。
   そこで,被告公社は,A町に経営支援を要請することとし,平成8年3月25日,A
町に対し,A町の経営参画と支援を求める嘆願書(甲4)を提出して,被告公社に対する経
営支援を行うよう請願した。
    (イ) A町議会は,平成8年3月26日,被告公社からの請願を産建委員会(A町議会
の委員会)に付託した(丁14の1)。これを受けて,産建委員会は,慎重な審議を重ねた結
果,被告公社の請願を採択すべきとの結論を出し,その旨をA町議会に報告した(丁14の
2)。
 A町議会は,産建委員会の結論に従い,平成8年6月24日,被告公社からの経営
支援の請願を満場一致で採択した(丁15)。
   イ 活性化委員会での支援決定
 (ア) A町長(c)は,A町議会の決定を受けて,平成8年7月10日,被告公社の支援
策を立案するために,A町和牛振興公社活性化推進委員会(活性化委員会)を設置した
(丁20の1)。
   活性化委員会のメンバーには,被告公社,A町議会,農協,兵庫県B農業改良普
及センター,兵庫県C農林事務所,兵庫県D農業技術センター,兵庫県家畜保健衛生所,
A郡和牛育種組合,兵庫県種雄牛育成組合の各代表者17名が選任され,原告甲が委員
長に就任した(丁20の2)。
    (イ) 活性化委員会では,平成8年7月10日から同年10月30日までの間,合計7回
の会合が開催され,被告公社を再建するための方策等について精力的に議論された。そ
の結果,活性化委員会では,被告公社再建のためには,被告公社の抱える債務超過を解
消することが必要であるとの認識がなされ,その方途が検討され,次のような事項が決定さ
れた(丁21の1~7)。
a 被告公社の抱える負債約6000万円を,増資による資金調達によって解消するこ
と。
b 増資引受額の分担は,代表取締役bを中心とする被告公社役員らが1700万
円,A町が3000万円,農協が1000万円とすること。
c A町は,3000万円の増資金を支出するまでのつなぎ資金として,平成8年度予
算により3000万円の貸付金を支出し,これをもってその後の出資に振り替えること。
d 後日,増資払込期限を定めた本件確認書を締結すること。
   ウ 5者会談の実施
     その後,活性化委員会での上記決定に従って本件確認書を作成するための打ち
合わせが,被告公社,b,A町,農協,原告甲による5者の間で実施された。
     その場で,もし増資払込期限までに出資を履行しない者があったときには,被告公
社が倒産しかねないため,その時には出資の履行をしなかった者が,他者の株式を買い取
り責任を負うこと,本件確認書作成に当たっては,農協の顧問弁護士の指導を受け,後日
争いのないようにしておくこと等が決定・確認された。
   エ A町議会の議決(第1貸付)
     活性化委員会による被告公社支援決定(本件増資金の出資決定)を受け,A町議
会は,平成8年9月,被告公社に対して3000万円の貸付(第1貸付)を行うための予算を成
立させた(丁16の1・2)。
   オ 確認書の締結等
(ア) 活性化委員会の決定及びそれを受けたA町議会の予算決議に基づき,被告公
社,b,A町,農協の4者は,平成8年12月25日,活性化委員会委員長原告甲を立会人と
して,増資払込期限を平成9年5月末日と定め,これまでの議論を踏まえた本件確認書(甲
5)を締結した。その内容は,次のとおりである。
  a 被告公社は,平成9年5月末日までに5680万円の増資を行う。
  b 上記増資分のうち1700万円は,bが被告公社設立以後に被告公社の役員に選
任されたことのある者と連帯して引き受ける。3000万円はA町が引き受け,1000万円は農
協が引き受ける。そして,A町は,被告公社の株式の51パーセント以上を保有する。
  c A町は,本件確認書の締結後,速やかに,返済期日を平成9年3月31日までとし
て,被告公社に3000万円を貸し付け,被告公社の経営安定を図るとともに,被告公社の経
営を積極的に指導,援助する。
  d 上記出資の履行が遅滞し,又は行われず,被告公社が破産等の整理手続に入
った場合には,出資の履行を行わなかった者に対して,被告公社の株式を額面額で買い
取ることを請求することができる。
 (イ) 本件確認書の締結を受けて,A町(c町長)は,平成8年12月27日,被告公社に
対し,平成9年3月31日を返済期限として,3000万円の貸付(第1貸付)を実行した(丁2
2)。なお,この貸付は,後日の出資に振り替えることが予定されていたため,無担保でなさ
れた。被告公社は,A町からの貸付金3000万円を,農協に対する未払金(飼料代等)の支
払に充当した(丁49)。
   カ A町議会の議決(本件増資金の出資,第2貸付)等
 (ア) A町による増資金支出の決定
      平成9年3月29日,A町の定例議会において,平成9年度の一般会計予算案が
可決された。この中には,被告公社に対する本件増資金3000万円の出資と,前の貸付(第
1貸付)による貸付金の返済期日の翌日である平成9年4月1日から本件増資金を支出する
までのつなぎとしての3000万円の貸付(第2貸付)についても,予算計上されていた(丁17
の1~3)。
 (イ) 上記予算可決を受けて,被告公社は,平成9年3月31日,b(被告公社代表取
締役)及びc(A町長)の保証を得て,農協から3000万円を借り入れ,これをもって,A町か
らの第1貸付による借入金3000万円を返済した。そして,翌4月1日,A町から,第2貸付金
3000万円の貸付(第2貸付)を受け,これをもって,前日の農協からの借入金3000万円を
返済した(丁23,24)。
   キ 被告乙の町長就任等
     被告乙は,平成9年4月20日に実施された町長選挙においてc前町長を破り,同年
5月2日A町長に就任した。その際の事務引継書においても,重要懸案事項として,被告公
社の再建と支援事業の促進が明記されていた(丁25)。
   ク 増資払込期限の延期
 (ア) b(被告公社社長)は,活性化委員会の決定及び本件確認書に基づいて,被告
公社役員経験者との間で,増資出資金1700万円の具体的な分担金額の交渉に入ってい
たが,被告公社役員らは,責任回避的な話が多く,調整に手間取っていた。
 (イ) そこで,bは,平成9年5月24日,A町長(被告乙),A町産業課長,農協組合
長,農協畜産販売部長らも出席した被告公社の役員会議の席上で,被告公社役員経験者
との間で1700万円の出資の負担割合についての調整が終わらず,出資全額の準備がで
きないので,本件確認書の増資期限を1か月延期して欲しい旨の申し入れをした。
 その結果,A町(被告乙町長)は,上記会合の場で,関係者4名全員との間で,増
資期限を平成9年6月30日に延期することを,口頭で合意した。
 (ウ) ところが,平成9年5月27日,A町で実施されたA町畜産問題及び将来方向調
査特別委員会において,本件確認書の件についての質問があり,増資期限の変更合意が
口頭でなされた点が問題とされたため,被告乙が関係者に呼びかけて,延期に関する文書
を作成することとした。
 このようにして,平成9年6月半ばころまでに,被告公社代表取締役(b),b,A町
町長(被告乙),農協代表理事(m)が記名押印して,本件確認書の増資払込期限を平成9
年6月30日に延期する旨の変更合意書(丁2)が作成された。
   ケ 本件増資金3000万円の支出
  本件増資の払込取扱機関である農協は,平成9年6月30日,A町に対し,bら公社
役員経験者からの1700万円の増資が払い込まれたことの証明書(丁62)を提出した。これ
を受けて,A町(被告乙町長)は,同日,本件増資金3000万円の支出した。そして,被告公
社は,同日,本件増資金3000万円をもって,A町からの第2貸付による借入金3000万円
を返済した。
  (2) 検 討
   ア bらの出資の不履行等について
    (ア) 原告らの主張
原告らは,次のとおり主張する。
     a 活性化委員会での増資決定当時及び本件確認書締結当時,被告公社の経営
状態に対する役員の経営責任を明らかにするため,①増資期限である平成9年5月31日ま
でに,bら被告公社役員経験者が1700万円の出資を履行しなければ,A町は増資に応じ
ないこと,また,②被告公社が経営管理改善計画書及び将来の収支の試算表を作成しな
ければ,A町は増資に応じないことが合意されている。
     b ところが,A町(被告乙町長)は,上記①②が履行されていないのに本件増資金
を支出しており,本件増資金の支出は,支出の根拠を欠き違法である。
    (イ) 検 討
  しかし,原告らの上記(ア)の主張は認められない。その理由は,次のとおりである。
     a 理由①
   前記(1)で認定した次の(a)ないし(d)の諸事情に照らせば,A町からの本件増資
金3000万円の支出が必ず行われることが予定されていたことが認められ,本件確認書(甲
5)の合意内容として,A町による本件増資金の支出が,bらによる出資の履行及び被告公
社による経営管理改善計画書等の作成がなされることを前提条件としており,それらの履行
がなければ,A町は増資に応じないとの合意がなされていたものとは認められない。
  (a) 本件増資金は,A町が被告公社からの経営支援を求める請願に応じ,十分な
議論を経た上で,被告公社を経営支援するために支出することとなったものであること。
  (b) 活性化委員会での決定に従って作成された本件確認書には,bらの出資の
履行や,被告公社の経営管理改善計画書等の作成をA町の増資金支出の条件とする旨の
記載がないこと。
  (c) むしろ,本件確認書では,A町は,本件増資金の支出の以前に,3000万円
の貸付金を無担保で貸付けることが予定されており,後日,本件増資金でもって,上記貸付
金の返済を受ける必要があること。
  (d) A町は,本件確認書の合意に基づき,bらが1700万円の出資を履行する以
前に,3000万円の貸付(第1,第2貸付)を実行していること。
     b 理由②
       本件確認書には,bらによる1700万円の出資の履行や,被告公社の経営管理
改善計画書等の作成が,A町の3000万円の出資の条件であることを窺わせる記載は,ど
こにも存在しない。
       仮に,原告らが主張するように,活性化委員会の議論により,bらによる1700万
円の出資の履行がA町の出資の履行の条件であるとの共通認識に至ったというのであれ
ば,本件確認書にはそのような条項が記載されている筈である。
       特に,本件確認書は,後日争いがないように,農協顧問弁護士の指導を受けな
がら作成されたものである(甲42)。にもかかわらず,原告らが主張するような条件とするとい
う記載がないのは,活性化委員会の議論でも条件とされていなかったことを示すものであ
る。
以上からも,本件確認書の合意内容として,A町による本件増資金の支出が,b
らによる出資の履行及び被告公社による経営管理改善計画書等の作成がなされることを前
提条件としており,それらの履行がなければ,A町は増資に応じないとの合意がなされてい
たものとは認められない。
c 理由③
 本件確認書の4条には,「本確認書による増資の履行が遅滞し,または行われ
ず,甲(被告公社)が破産等の整理手続に入った場合,乙(bら),丙(A町),丁(農協)は,
当該履行を行わなかった者に対し,甲の株式を券面額で買い取ることを請求することができ
るほか,甲に対する債権のうち回収できなかった金額を請求することができる。」と規定され
ている。
この条項は,仮に出資予定者である乙(bら),丙(A町),丁(農協)のいずれかが
増資金の出資の履行を行わず,その結果,被告公社が破産等の整理手続に入った場合
に,初めて出資履行者に対し,券面額での株式買取請求ができるとされているのである。し
たがって,この内容から考えても,原告らが主張する条件(bらが増資金1700万円の出資を
履行した後に,A町は,それを確認して,本件増資金3000万円を出資すること。)は認めら
れない。
   イ 増資期限の徒過について
(ア) 原告らは,本件増資金の支出は,その増資期限を平成9年6月30日とする旨の
変更合意がなかったにもかかわらず,本件確認書の増資払込期限を経過した平成9年6月
30日になされたものであり,支出の根拠を欠く違法な支出であると主張する。
(イ) しかし,前記増資期限の延期が決定した経緯及び本件増資金の支出に至る過
程(前記(1)ク,ケ)からすれば,本件増資金の支出がなされる以前に,A町及びその他の関
係者(4者)間で,増資期限を延期するとの合意が存在したことを認めることができ,本件増
資金の支出には,増資期限を徒過してなされた違法はない。
(ウ) それゆえ,原告らの上記(ア)の主張も採用できない。
   ウ まとめ
 以上の次第で,本件増資金の支出手続に違法があるものとは認められず,原告ら
主張の請求原因(3)イ(支出の根拠の欠如-地方自治法232条の4第2項違反)も認めるこ
とができない。
4 小 括
 以上の2(公益上の必要性の欠如の検討),3(支出の根拠の欠如の検討)によると,請
求原因(3)(増資金支出の違法)が認められないので,原告らのA事件請求は,その余の点
について論じるまでもなく理由がない。
第2 B-1事件(補助金の交付)について
 1 争いのない事実
   請求原因(1)(当事者),同(2)(補助金の交付),同(6)(監査請求前置)は,当事者間に
争いがない。
2 請求原因(3)ア(公益上の必要性の欠如)の検討
被告公社の経営を維持すること自体に公益性があることや,被告公社の経営を維持す
るために支出された本件増資金や本件補助金には,これまた公益性があることが認められ
る。その理由は,前記第1の2で認定判断したとおりである。
   したがって,原告ら主張の請求原因(3)ア(公益上の必要性の欠如-地方自治法232
条の2違反)は認めることができない。
3 請求原因(3)イ(支出の根拠の欠如)の検討
  (1) 事実の認定
 証拠(甲8,31,42〔以上,枝番を含む。〕,丙1〔枝番を含む。〕,丁1,8〔枝番を含
む〕,26,34,35,50,55,57,証人b〔一部〕,証人c〔一部〕,原告甲本人〔一部〕,被告
乙本人〔一部〕)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
   ア 特別委員会調査報告書の承認可決
 平成9年3月30日,A町畜産問題及び将来方向調査特別委員会(以下「特別委員
会」という。)がA町議会に設置され,同年9月17日,A町議会において,この特別委員会調
査報告書(丁26)が承認可決された。
 その内容によれば,被告公社の資金調達につき,被告公社の公益部門(公益的事
業にかかる負債)についてはA町が負担し,収益部門(子牛の繁殖事業にかかる負債)に
ついても,当分の間はA町が最低限度の資金を振興資金として貸し付けることとされてい
た。
   イ 2000万円貸付の可決
この調査報告書を受け,被告乙町長は,平成9年12月,A町議会において,被告
公社に対する3000万円の貸付を行うとの議案を提出した。
しかし,A町議会では,被告公社のみを公金で保護することに対しての反発が予想
されるため,一般畜産農家の理解も得られるような支援策でなければならないとの議論がな
された。そこで,被告乙町長は,A町議会における議論を踏まえ,被告公社に対して2000
万円の貸付を行うこととし,残りの1000万円は一般畜産農家支援のための貸付基金とする
案を再度提出した。
その結果,A町議会は,平成9年12月22日,一般会計補正予算として,被告公社
に対する2000万円の貸付を可決した(丁8の3)。
   ウ 補助金2000万円の交付への変更
    (ア) その後,被告乙町長は,2000万円を貸付金ではなく補助金として交付すると
の方針変更をし,平成10年2月20日,産建委員会にその旨を付議した。そして,産建委員
会は,平成10年2月20日,公社の公益性を勘案し,貸付金よりも補助金として2000万円を
支出することを承認した。
 これを受けて,被告乙町長は,平成10年3月1日,A町和牛振興公社財政支援要
綱(丁1,支援要綱)を制定・施行した。
 (イ) 被告乙町長は,平成10年3月,A町議会において,従来の2000万円の貸付金
を支出する決定を変更し,支援要綱に基づいて2000万円の補助金を交付するとの補正予
算案を提出した。
 そして,A町議会は,平成10年3月17日,上記補正予算案を賛成多数(9対1)で
可決し(丁8の4),これをもって,A町が,被告公社に対し,本件補助金2000万円を交付す
ることが決定した。
   エ 補助金2000万円の交付
被告公社は,平成10年3月18日,A町に対し,支援要綱に定められた添付書類と
ともに,補助金交付申請書を提出した(丙1〔枝番を含む〕)。その際,被告公社は,活性化
委員会(前記第1の3(1)イ(ア))の提言を基本方針とし,兵庫県浜坂農業改良普及センタ
ー,兵庫県農林水産部畜産課等,公的機関の指導を受けて,上記添付書類を作成した。
そして,被告公社は,平成10年3月26日,A町に補助金請求書を提出した。これを
受けて,A町(被告乙町長)は,所定の事務手続きを経て,平成10年3月31日,被告公社
に対し,本件補助金2000万円を交付した。被告公社は,本件補助金を受給後,被告公社
が行っている子牛の繁殖・飼育にかかる未払金の支払に充てた。
  (2) 検 討
   ア 支援要綱の未施行の主張について
(ア) 原告らは,平成10年3月31日時点では,支援要綱は作成されておらず,平成1
0年4月下旬になって,平成10年3月1日から施行されていたとして公表されたものであるか
ら,本件補助金の交付は,支出の根拠に基づかずになされたもので違法であると主張す
る。
(イ) しかし,次のとおり,A町は支援要綱に基づき本件補助金を交付したことが認め
られ,原告らの上記(ア)の主張は理由がない。
 a 支援要綱は,平成10年3月1日に制定・施行されている(前記(1)ウ,丁1)。
 b A町議会において,同月17日に,支援要綱に基づき本件補助金2000万円を交
付するための補正予算案が可決されている(前記(1)ウ)。
 c 翌18日に,被告公社から,A町に対し,支援要綱に定められた添付書類ととも
に,本件補助金交付申請書が提出されている(前記(1)エ,丙1〔枝番を含む〕)。
   イ 添付書類の不具備の主張について
(ア) 原告らは,次のとおり主張する。
 a 支援要綱3条1項には,「被告公社は,本件補助金の交付申請に当たり,A町に
対し,事業計画書,収支予算書及び改善計画書(再建計画書)を提出しなければならな
い。」と定めている。
 b ところが,被告公社は,本件補助金の申請に際し,A町に対し,上記添付書類を
提出していない。
(イ) しかし,前記(1)エのとおり,被告公社は,平成10年3月18日,A町に対し,本件
補助金の交付申請に当たり,事業計画書(丙1の2),収支予算書(丙1の3)及び改善計画
書(再建計画書)(丙1の4)を提出していることが明らかであり,原告らの上記(ア)の主張も
理由がない。
   ウ まとめ
 以上の次第で,本件補助金2000万円の交付手続に違法があるものとは認められ
ず,原告ら主張の請求原因(3)イ(支出の根拠の欠如-地方自治法232条の4第2項違反)
も認めることができない。
4 小 括
 以上の2(公益上の必要性の欠如の検討),3(支出の根拠の欠如の検討)によると,請
求原因(3)(補助金の交付の違法性)が認められないので,原告らのB-1事件請求は,そ
の余の点について論じるまでもなく理由がない。
第3 B-2事件(補助金返還請求権の不行使違法確認)
 1 争いのない事実
   次の事実は,当事者間に争いがない。
  (1) 請求原因(1)(当事者)。
  (2) 請求原因(2)(本件補助金の返還請求権の発生)のうち,同ア・イの各(ア)   (支援
要綱の定め)。
  (3) 請求原因(4)(監査請求前置)のうちの事実経過。
 2 請求原因(4)(監査請求前置)の検討
  (1) 原告らは,平成11年8月5日,A町監査委員に対し,被告A町長による本件補助金
の返還請求権の行使を怠る事実について,監査請求をした。ところが,A町監査委員は,平
成11年8月16日,本件補助金の交付日が平成10年3月31日であり,監査請求の日が上
記交付日から1年を経過していることを理由に,上記監査請求を却下した(当事者間に争い
がない。)。
  (2) しかし,怠る事実の違法を確認し,必要な措置を求める監査請求には,地方自治法
242条2項(監査請求期間の制限)の適用はないから(最高裁昭和53年6月23日判決・判
例時報897号54頁,最高裁平成14年7月9日判決・裁判所時報1319号1頁),上記監査
請求の却下は違法である。
  (3) したがって,原告らのB-2事件(補助金返還請求権の不行使違法確認)の訴え
は,監査請求前置の要件を充足した適法な訴えであることが認められる。
3 請求原因(2)(本件補助金の返還請求権の発生)の検討
  (1) 事実の認定
 証拠(甲1~3,11,15~17,19,24,28,29,31,32,42,43〔以上,枝番を含
む。〕,丙1,3~7〔以上,枝番を含む。〕,丁3~6,9,11,17,19,25,27~32,36~3
9,41~45,49~51,56,57〔以上,枝番を含む。〕,証人b〔一部〕,証人c〔一部〕,被告
乙本人〔一部〕,原告甲本人〔一部〕),及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
   ア 支援要綱の制定・施行
 A町は,平成10年3月1日,次のような内容の支援要綱(A町訓令第7号,丁1)を制
定・施行した。
 (ア) 1条(目的)
 この要綱は,A町の和牛の振興を図り,地域産業の育成を推進するため,被告公
社に対する財政支援(以下「補助金」という。)を行い,E牛の振興発展を図ることを目的とす
る。
 (イ) 2条(補助金)
 被告公社に対する補助金は,前条の目的を達成するために,予算の範 囲内に
おいて公益的事業の実施並びに経営の安定に資するものとする。
 (ウ) 6条(補助金の返還)
 A町長は,被告公社が次の各号の一つに該当するときは,期限を付して既に交付
した補助金の全部又は一部を返還させることができる。
 a 1号 省略
 b 2号
   補助金を当該補助金の交付の目的以外の用途に使用したとき
 c 3号
   公益的事業並びに経営改善の実施方法が不適当であるとき
   イ 被告公社の経営改善計画の策定
 被告公社は,本件補助金を受給するに当たり,平成10年3月18日,A町長に対し,
補助金の交付申請書(丙1の1)を提出したが,それに添付された改善計画書等(丙1の4)
には,次のような経営改善及び公益的事業を実施することが記載されていた。
 (ア) 経営管理体制の充実
  ①経営目標の明確化,②優良系統牛の導入,③官民の役割分担,等。
 (イ) 経営再建のための改善
  ①子牛の事故をゼロにする,②落ちこぼれを無くする,等。
 (ウ) 公社の公益的機能の強化
  ①ヘルパー制度の確立,②ショートステイの確立,③野草の有効利用,④畜産経
営の省労力化・低コスト化,⑤新種雄牛能力把握事業,⑥受精卵移植事業,⑦○○ビーフ
ブランド化事業,⑧優良雌牛供給事業,⑨繁殖障害牛・老廃牛の買い支え事業,等。
 (エ) 労働管理体制の充実。
   ウ 本件補助金の交付・使途等
     A町は,平成10年3月31日,被告公社に対し,本件補助金2000万円を交付した。
被告公社は,本件補助金のうち,その約半額を被告公社の和牛飼育事業により生じた負債
(農協に対する飼料代等の未払金)の返済に充当し,残りの約半額は預金して保管し,次
年度(平成10年度)における被告公社の和牛飼育事業にかかる運営費(人件費,飼料代
等)に,順次充当していった。
   エ 被告公社の経営改善策
 被告公社は,本件増資金及び本件補助金を受給後,次のような経営改善策を実施
した。
    (ア) 優良系統牛の導入
 被告公社では,自家産牛の中から計画的に優良系統牛(外観,肉量,肉質ともに
優れ,その資質を後代に遺伝する能力の高い牛)を自家保留して,和牛飼育事業の財政
的な負担を軽減することとした。そして,平成10年度には,4頭の自家保留を実施した。こ
のうち1頭は,平成11年10月21日に開催された子牛の品評会(兵庫県共進会)において
優秀賞を獲得した子牛であり,その他の子牛も,市場性の高い雌牛の卵子を受精卵移植し
て産まれた子牛である。
    (イ) 1頭当たりの経費の縮減
 被告公社は,繁殖成績の良くない牛や老廃牛を,状況を見ながら,早めに肥育牛
にするこなどして,和牛飼育経費(繁殖・肥育を含む。)の削減,飼料費及び労働費の改善
に努めたところ,1頭当たり飼育経費を17万5000円程度引き下げることができた。
    (ウ) 経営体制の刷新
 被告公社は,平成10年9月8日,元農協職員で,肉用牛の飼育及び流通に精通
し,畜産業を行う被告公社の経営者としての資質を有しているlを新代表取締役に迎え,平
成11年9月には,取締役を1名増員し,代表取締役,専務及び常務の合議により経営方針
を決定することを可能とし,被告公社の経営管理体制を強化した。
    (エ) 経営状態の改善
 被告公社は,上記のような負債を減らすための努力をした結果,次のとおり,営業
成績は徐々に回復する傾向にある。
 a 平成8年度の営業損失   3416万3206円
 b 平成9年度の営業損失   2464万3209円
 c 平成10年度の営業損失  2087万3220円
 d 平成11年度の営業損失  1492万6201円
 e 平成12年度の営業損失  1230万0000円(およそ)
 f 平成13年度の営業損失   942万4727円
    (オ) さらなる経営改善策の検討
 被告公社は,平成10年6月に,A町助役を被告公社の取締役に迎え,行政経験
や管理能力を生かして,公的機関の技術支援を受ける体制作りに取り組んだ。それにより,
平成10年度には,A町,農協,普及センターの実務者レベルの検討会を行い,平成11年
度には,県立農業技術センター,家畜保健衛生所の職員等も加わり,詳細な改善策の検
討会を実施するなどしている。
   オ 被告公社の子牛飼育事業の改善
     被告公社は,本件増資金及び本件補助金を受給後,子牛の事故防止及び繁殖成
績の向上に関して,次のような実績を上げた。
 (ア) 和牛飼育体制の強化
 被告公社は,平成10年6月以降,和牛飼育現場に元農協職員で和牛飼育に精
通した職員を支配人として置き,和牛の飼育管理や飼育作業員の指揮監督を行わせ,子
牛の通常管理体制を強化した。
 すなわち,子牛を正常に発育させて事故死をゼロに近づけ,落ちこぼれをなくす
ために,子牛の観察のより一層の徹底,定期的な畜舎消毒,牛床の改善,発育の遅い子牛
に対する粉ミルクの給与,群飼いによる月齢に応じた飼育管理等,飼育管理体制の改善を
実施した。
 (イ) 実 績
   その結果,被告公社は,子牛の事故防止及び繁殖成績の向上に関して, 次のよ
うな実績を上げた。
     a 品評会での入賞
       被告公社が飼育した子牛は,毎年開催されるA町子牛品評会において,去勢
の部で,平成10年度及び平成11年度と2年連続して金賞一席に入賞し,種牛の部で,従
来は3等賞止まりであったのが,平成10年度から2等賞に入賞するようになった(丙4の1~
3)。
       また,平成11年9月21日に開催された第68回三方郡種牛共進会において,被
告公社の出品牛が1等賞5席に入賞し,平成11年10月21日に開催された兵庫県畜産共
進会において,被告公社の出品牛が優秀賞を受賞した(乙2~4,丙5)。
     b 兵庫県による買い上げ
  平成11年度兵庫県種雄牛購買会(兵庫県が特に優れた雄子牛を毎年購入する
もの)において,被告公社の飼育した子牛が,出品された46頭の中,兵庫県の買い上げが
決定した雄子牛11頭の中に選ばれ,兵庫県から150万円で買い上げられた。この年,A町
産の牛の中で兵庫県が買い上げたのは,被告公社の1頭のみであった(乙5,6)。
     c 子牛の体躯の向上
 被告公社が飼育する子牛の体重は,去勢牛の1日当たりの平均増体重量につ
いて,平成7年度が0.80キロであったのに対し,平成10年度には0.88キロに向上し,雌
牛については,平成7年度が0.77キロであったのに対し,平成10年度には0.80キロに向
上した。
     d 事故子牛の減少
 事故子牛の頭数は,平成9年度が13頭であったのに対し,平成10年度には2頭
となり,平成11年度には4頭となるなど,減少傾向にある。
 カ 被告公社による公益的事業の実施
 前記第1の2(1)コ記載のとおり。
  (2) 請求原因(2)ア(目的外使用による返還請求権の発生)の検討
   ア 原告らは,「被告公社が,平成9年度に受給した本件補助金の約半額を平成9年
度中に使用することなく預金して保管し,次年度(平成10年度)に費消したことは,本件補
助金が平成9年度における公社の財政を支援することにあるとの支援要綱1条に反し,同6
条2項にいう本件補助金を目的外に使用した場合に該当する。」と主張する。
   イ しかし,支援要綱1条(目的)には,「公社に対する財政支援(補助金)を行い,E牛
の振興発展を図ること」が目的として掲げられ,同2条(補助金)には,「前条の目的を達成
するため,…省略…経営の安定に資するものとする」と規定されていることからすれば,かか
る目的に反しなければ,同6条2項の目的外使用には当たらない。
     本件では,被告公社は,平成9年度(平成10年3月31日)に受給した本件補助金
の半額を一旦預金して保管し,次年度(平成10年4月1日から平成11年3月31日まで)に
生じた和牛飼育事業に係る未払金の支払に充当している(前記(1)ウ)。そして,被告公社の
和牛飼育事業は,A町にとって公益性ある事業であるから,当該補助金の使途は,公社の
経営を安定し,E牛の振興発展に貢献するものであると認められる。
     しかも,前記第1の2(1)ク,ケのとおり,そもそも,本件補助金は,被告公社の存続を
図るために交付されたものであることからして,本件補助金を当該交付年度内(平成10年3
月31日のたった一日)に使い切らなければ違法である,とは到底認めることができない。
   ウ したがって,被告公社による本件補助金の使途は,目的外使用には該当しないこ
とは明らかであり,原告らの前記アの主張は理由がない。
  (3) 請求原因(2)イ(事業等の実施方法の不適当による返還請求権の発生)の検討
   ア 原告らは,本件補助金を受給後も,被告公社は何ら経営改善を行わず,公益的事
業も実施していないから,支援要綱6条3号に該当すると主張する。
イ しかし,前記(1)エ(被告公社の経営改善策),同オ(被告公社の子牛飼育事業の改
善),同カ(被告公社による公益的事業の実施)のとおり,被告公社は,本件補助金を受給
後も経営改善に努力し,公益的事業を実施していることが認められ,被告公社が受領した
本件補助金について,支援要綱6条3号に該当しないことは明らかである。
ウ よって,原告らの前記アの主張も理由がない。
 4 小 括
   以上によると,請求原因(2)(本件補助金の返還請求権の発生)が認められないので,
原告らのB-2事件請求も,その余の点について論じるまでもなく理由がない。
第4 C事件(給与の支給)について
 1 争いのない事実
 請求原因(1)(当事者),同(2)(給与の支給),同(3)(被告公社事務の遂行),同(6)(監
査請求前置)は,当事者間に争いがない。
2 事実の認定
前記1の争いのない事実に,証拠(甲31,36~38,42,丙1〔枝番を含む〕,丁33,5
1,57~59,証人b〔一部〕,被告乙本人〔一部〕,原告甲本人〔一部〕),及び弁論の全趣旨
を総合すると,次の事実が認められる。
  (1) 被告公社の事務遂行の状況
bは,平成9年8月18日,被告公社の代表取締役を辞任し,A町役場に対し,被告公
社の経営にかかる必要書類を送付した。被告公社には同社の事務処理に専従する職員が
存在しなかったため,それ以後は,被告公社の事務(経理事務,決算事務等)を,A町職員
が行うようになった。
  (2) 職員d関係
   ア 職員dの事務分掌
     職員d(A町産業課畜産担当)の事務分掌は,「畜産に関すること」「和牛振興組織
に関すること」「和牛振興公社に関すること」である(丁33の9・10)。
   イ 職員dによる被告公社事務の遂行
     職員dは,平成9年8月19日から平成10年6月26日までの間,A町役場において,
勤務時間中に,A町の固有事務の外に,次の(ア)(イ)のとおり,被告公社の経理事務,決算
事務,本件補助金交付を申請するための書類作成事務,飼料発注業務等に携わった。被
告乙町長は,職員dがかかる事務処理をなすに当たり,職務専念義務を免除するための手
続を履践しなかった。職員dの給与は,月額34万4500円であった。
    (ア) 経理事務等の処理の経緯
      職員dは,平成9年8月19日から平成10年6月26日までの間,被告公社の伝票
整理や決算のための資料づくり等を行い,被告公社の経理事務,決算事務全般を行った。
さらに,職員dは,平成10年3月,本件補助金の交付を申請するための書類作成事務を行
った。
    (イ) 飼料発注等の事務
      被告公社は,設立当初から,和牛の飼料を農協より購入していた。ところが,農協
は,平成10年4月以降,被告公社に対して飼料の納入を停止したため,被告公社は,民間
業者から飼料を購入しなければならなくなっていた。
      そこで,被告公社は,民間業者であるF商店に対し,飼料を売って欲しいと依頼し
たところ,F商店は,A町の口添えがないと納入しない旨の回答をした。当時,A町産業課
係長で畜産を担当していた職員dは,被告公社からその話を聞いた。
      そのため,職員dは,平成10年4月以降,月に数回程度被告公社から飼料の発
注量を聞き,それを元に,F商店に対して,「被告公社はこれだけのえさを欲しいと言ってい
る。」などと取り次ぎをした。
  (3) 臨時職員e関係
   ア 臨時職員eの採用,事務分掌
     A町は,平成9年9月ころ,eを臨時職員として採用した。同職員の事務分掌は,生
産調整対策事業,畜産事業等,主に産業課の一般事務であるが,和牛振興公社に関する
事務も含まれていた。
   イ 臨時職員eによる公社事務の遂行
     臨時職員eは,平成9年9月から平成10年6月26日までの間,A町役場において,
勤務時間中に,A町の固有事務の外に,被告公社の伝票整理や決算のための資料作り等
を行い,被告公社の経理事務,決算事務の補助を行った。被告乙町長は,臨時職員eがか
かる事務処理をするに当たり,職務専念義務を免除するための手続を履践しなかった。臨
時職員eの給与は,日給5900円であった。
  (4) 職員の給与に関する条例
A町は,職員の給与に関する条例(甲36)を定めている。そして,同条例25条(給与
の減額)は,下記のとおり規定している。

    職員が正規の勤務時間中に勤務しない場合においては,職務に専念する義務の特
例に関する条例の規定により職務に専念する義務を免除された期間等を除き,その勤務し
ない時間1時間につき,第19条に規定する勤務1時間当たりの給与額を減額して給与を支
給する。
(5) 職務に専念する義務の特例に関する条例等
A町は,職務に専念する義務の特例に関する条例(甲37),職務に専念する義務の
特例に関する規則(甲38条)を定めている。
 3 請求原因(4)(給与支給の違法性等)の検討
  (1) 一般論
地方公務員法35条(職務専念義務)は,元来,職員が地方公共団体の業務に従事
すべき義務があることを定めたものであるが,同条の規定の趣旨からすれば,地方公共団
体も,職員に上記の義務に違反させるべきではない義務を課されているものというべきであ
る。
したがって,任命権者が当該地方公共団体の職員を当該地方公共団体以外の団体
ないし組織の職務に従事させながら,当該職員に給与の全額を支払うことは,それが職務
専念義務に反しない場合,又は職務専念義務の免除の措置を講じている場合でなけれ
ば,違法な公金支出になる(最高裁昭和58年7月15日判決・民集37巻6号849頁参照)。
しかも,職務専念義務の免除の措置を講じている場合であっても,職務専念義務の
免除が地方公務員法30条,35条の趣旨に違反したり,勤務しないことの承認が地方公務
員法24条1項の趣旨に反する場合には,当該職員に給与の全額を支払うことは,これまた
違法な公金支出になる(最高裁平成10年10月4判決・判例時報1640号115頁参照)。
(2) 本件への当てはめ
これを本件について見るに,前記2の(1)ないし(3)のとおり,A町(被告乙町長)は,職
員d,臨時職員eに対し,職務専念義務を免除することなく,被告公社の経理事務(伝票整
理等を含む。),決算事務(決算のための資料作りを含む。),本件補助金の交付を申請す
るための書類作成,飼料の発注等の事務処理を行わせ,その勤務時間分についても給与
を支払っていたのである。
そして,上記各事務は被告公社の固有事務であり,A町の事務ではないから,A町
(被告乙町長)が,職員d,臨時職員eに対し,職務専念義務を免除することなく,これらの事
務に従事することを命じ,その勤務時間分についても給与を支払っていたことは,地方公務
員法24条1項,30条,35条,職員の給与に関する条例(甲36)25条に違反するものであ
り,違法な公金支出というべきである。
(3) 被告乙の過失
    以上のとおり,A町(被告乙町長)が,職員d及び臨時職員eに対し,A町の事務を行
っていない時間分に相当する給与を支給したことは違法であり,被告乙は,そのことについ
て,少なくとも過失責任を免れない。
4 請求原因(5)(A町の損害)の検討
(1)A町(被告乙町長)は,職員d及び臨時職員eに対し,職務専念義務も免除しないで
被告公社の事務の遂行を命じ,職員dらがA町の事務を行っていない時間分に相当する給
与を支給したことにより,A町に対し,同給与額と同額の損害を与えた。
  (2) 職員dの給与は月額34万4500円(前記2(2)イ),臨時職員eの給与は日給5900円
であった(前記2(3)イ)。
    職員dは,平成9年8月19日から平成10年6月26日までの間,A町役場において,
勤務時間中に,A町の固有事務の外に,被告公社固有の経理事務,決算事務,本件補助
金の交付を申請するための書類作成事務,飼料発注等の事務に携わった。
臨時職員eは,平成9年9月から平成10年6月26日までの間,A町役場において,勤
務時間中に,A町の固有事務の外に,被告公社の伝票整理や決算のための資料作り等を
行い,被告公社固有の経理事務,決算事務の補助を行った。
以上の職員dらの給与額,被告公社の事務に携わった期間,その事務内容等に照ら
せば,職員dらが被告公社の事務を行っていた時間分に相当する給与額は,合わせて20
万円を下回ることはないと認められる。
(3) 以上によると,被告乙町長は,職員d及び臨時職員eに対し,職務専念義務も免除し
ないで被告公社の事務の遂行を命じ,職員dらがA町の事務を行っていない時間分に相当
する給与を支給したことにより,A町に対し,同給与額20万円と同額の損害を与えたことが
認められる。
 5 小 括
よって,被告乙は,A町に対し,職員dらに対する給与支給による損害賠償金20万円,
及びこれに対する平成10年6月27日(本件監査請求の翌日)から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払義務があるが,原告らのその余のC事件請求は理
由がない。
第5 結論
   以上の認定判断によると,原告らの本訴請求は,下記の限度で理由があるからこれを
認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

  被告乙は,A町に対し,損害賠償金20万円,及びこれに対する平成10年6月27日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払え。
神戸地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官  紙  浦  健  二
裁判官  中  村     哲
裁判官  秋  田  志  保

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