弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士中野義定、同奈賀隆雄、同伊藤利夫の上告理由一乃至三につい
て。
 論旨は原審が本件仮処分によつて保全せらるべき権利が金銭的補償によつてその
終局の目的を達し得る場合であるか否かの判断に当り、その判断に必要な上告人主
張の諸事情を考察することなく、これを積極に解したのは違法であるというにある。
論旨は、「原判決が本件仮処分の取消により仮処分債権者たる上告人の被ることあ
るべき損害が金銭によつて償われ得るものである事情はそれだけで民訴法七五九条
にいわゆる仮処分の取消を許す特別事情となり得るものであると解したことは擬律
の錯誤である」との論旨を含まないものと解する。かかる論旨の理由がないことは
当裁判所の判例(昭和二四年(オ)二三〇号同二六年二月六日第三小法廷判決参照)
とするところである。よつて按ずるに、裁判所が民訴法七五九条により仮処分を取
消すベきかどうかを決定するについて、仮処分にかゝる被保全権利が金銭的補償に
よりその終局の目的を達し得るかどうかを判断するには、諸般の状況に照らし社会
通念に従い客観的に考察すべきものであり(昭和二八年(オ)三〇六号同二九年四
月三〇日当裁判所第二小法廷判決参照)、又、仮処分の債権者の利害からも債務者
の利害からも観察するを要するものである(大審院大正五年(オ)六一四号同六年
二月一四日第三民事部判決参照)ことは判例の趣旨とするところであるが、原判決
は上告人(仮処分申請人)が昭和二七年富山地方裁判所(ヨ)五〇号仮処分申請事
件において同年七月一四日「被上告人(仮処分被申請人)は本件宅地に立入り建造
物の築造その他工作を続行してはならない。云云。」との仮処分決定を得てその執
行をしたという当事者間に争なき事実を肯認し、右仮処分を取消すべき特別事情が
あるかどうかの争ある事実については当事者双方提出の疏明方法を取調べた結果、
「控訴人(上告人―仮処分債権者)はその本職の傍ら昭和二一年一〇月訴外Dから
本件土地を借受け、同地上に建設した建物においてその妾のE名義で飲食店を経営
していたのであるが同二五年六月右建物をその営業名義と共に訴外Fへ一ヶ月三万
五千円(その外権利金一〇万円)にて賃貸し次いで同二六年二、三月頃その営業名
義が右Fと変更されたこと、而して控訴人(上告人)は右Fからの収入の一部を以
て右Eとの間に出生した子供の養育料に充当していた」事実を認め、しかし、原判
決は控訴人(上告人)が妾と子を子のない本妻と同居させず又妾をしてその自由に
子を養育させないようにして一家の円満を図るため本件土地の賃借権を得たもので
あること、訴外Fに営業権を賃貸したことはあるがそれは一時の故障によつてEが
自ら営業行為をし得なかつたためであるから本件仮処分が取消されて本件土地にお
いて営業することが不可能となれば上告人の一家円満計画は挫折し一家に重大な変
化を来しこれによる損害は到底金銭による補償を以つて回復するに由がないこと、
且つ本件土地は容易に入手し得ず控訴人としてはこの場所を利用して長く営業すべ
きことを期待していたのに突然この場所を取られてはこれによる精神的苦痛と控訴
人方家庭事情の変化による損害とは一層金銭的補償を以て満足し得られないもので
あること」の控訴人主張事実は全疏明方法を以ても肯定し難いと判断したことは原
判文上明瞭である。かようにして原審が争にかかる特別事情の存否について判断す
るため双方から提出せられた疏明方法によつて原判示通り単に仮処分債権者(控訴
人)だけに関する事実を認めることができるとしたことは、それだけで前示判例(
当裁判所昭和二九年四月三〇日判決、大審院大正六年二月一四日判決)の趣旨に違
反し違法であるということはできない。而して原判決の認めた右事実は約言すれば
上告人は本件土地に建物を建てこれを利用して得た金銭的収益の一部を以て判示の
子の養育料に充てていたという事実に外ならないから、原判決が本件仮処分の趣旨
やこの事実に徴し本件仮処分の取消によつて、即ち、本件土地を利用し得ないこと
によつて生ずべき損害は金銭的補償を以て満足され得るものであるとし、本件仮処
分の被保全権利は金銭的補償によつてその終局の目的を達し得るものなる趣旨を判
示し、右事実は民訴法七五九条にいわゆる特別事情に当ると解したことは正当であ
り当裁判所の判例(前示第三小法廷判決参照)と趣旨を同じくするものである。論
旨は理由がない。
 同四について。
 所論の中(1)、(2)、(3)、(6)、(7)はいずれも、被保全権利の存
否、仮処分の必要性に関するもので、仮処分の当否の判断に必要なものに過ぎない。
本件の場合の如く民訴法七五九条の場合においてはかような仮処分の当否を判断す
るの要なく専ら仮処分取消の事情の有無を判断すべきものであり、殊に、(7)の
保証の額の如きは特別事情があり仮処分を取消すべきものとされた後始めて考慮せ
らるべきものであるから特別事情有無の判断のために参酌する必要はない。同(5)
にいう、仮処分による債務者の損害の程度は、債権者側の事情たる被保全権利が金
銭補償により満足せられるか否かの問題とは無関係である。よつてこれらの点をす
べて考慮することなく原判決が本件被保全権利は金銭的補償によつてその終局の目
的を達し得るものと判断したことは違法ではない。同(4)については、原判決は、
上告人主張に係る本件賃借権の存在が一家の円満を図るためのものであり本件仮処
分の取消によつて一家に重大な変化を来し上告人の精神的苦痛と家庭事情の変化に
よる損害とは金銭的補償を以て満足し得られないものであることは全疏明方法を以
ても肯定し難い旨判示して上告人主張のような金銭的補償によつて満足せられ得な
い非財産的利益は別に認められないことを判示していること前示の通りであるから、
所論は原判示を正解しないでこれを非難するものであり、採用することができない。
 すなわち右論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」
(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法
にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
 上告代理人奈賀隆雄提出の昭和二八年一二月九日付一一日受付の上告理由書は同
月一〇日を最終日とする上告理由書提出期間経過後のもので且つ仮処分の被保全権
利が金銭的補償によつて終局目的を達し得るものであるという事実だけでは独立し
て仮処分取消の特別事情とはならないという別個の論旨のものであるから判断をし
ない。
 よつて民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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