弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成15年(行ケ)第564号 審決取消請求事件(平成16年7月26日口頭弁
論終結)
          判           決
      原      告   ユーエスピーエー プロパティーズ インク
      訴訟代理人弁理士   広瀬文彦
      被      告   ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッ
ド パートナーシップ
      訴訟代理人弁護士   松尾眞
      同          兼松由理子
      同          向宣明
      同          三谷革司
      同          高田祐史
      同    弁理士   曾我道照
      同          岡田稔
          主           文
     特許庁が無効2001-35482号事件について平成15年8月5日
にした審決を取り消す。
     訴訟費用は被告の負担とする。
     この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と
定める。
          事実及び理由
第1 請求
   主文第1,2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,別添審決謄本別掲(1)のとおり,馬に乗ったポロプレーヤーがマレッ
トを振り下げてポロ競技をしている黒塗りのシルエット図形の下に「U.S.P.
A」の欧文字を配してなり,指定商品を旧別表第20類「家具,畳類,建具,屋内
装置品,屋外装置品,記念カップ類,葬祭用具」として,平成4年1月17日に登
録出願,平成9年3月19日に登録査定,同年6月6日に設定登録がされた登録第
2721956号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
   被告は,平成13年10月29日,本件商標について商標登録無効審判の請
求をした。特許庁は,同請求を,無効2001-35482号事件として審理し,
平成15年8月5日,「登録第2721956号の登録を無効とする。」との審決
をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,「本件商標は,構成中に他の構成
部分より独立して商品の出所識別力を有する馬に乗ったポロプレーヤーの図形を有
し,引用商標(注,馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振り上げてポロ競技を
している図形〔以下「ポロプレーヤーマーク」ともいう。〕からなる同別掲(2)の商
標)が有名なデザイナーであるラルフ・ローレンのデザインした商品に使用され,
被服等のファッション関連商品について極めて高い著名性を有することを考慮すれ
ば,同図形と引用商標とは類似するものであり,かつ,本件商標の指定商品と引用
商標が使用されている商品とは取引者・需要者を共通にすることが多いものである
こと等の事情が認められ,これらの事情を総合勘案すると,本件商標を指定商品に
使用する場合には,これに接する取引者・需要者がポロプレーヤーの図形に着目し
てラルフ・ローレンのデザインに係る商品であると連想,想起し,その商品がラル
フ・ローレン又は同人と組織的,経済的に何等かの関係を有する者の業務に係る商
品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれがある」(審決
謄本16頁の「(4)結論」)として,本件商標の登録は,商標法4条1項15号の規
定に違反してされたものであり,同法46条1項1号の規定により無効とすべきも
のであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 審決は,本件商標を指定商品に使用したときの,商品の出所混同のおそれに
ついての認定判断を誤ったものである(取消事由)から,違法として取り消される
べきである。
 2 取消事由(商品の出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)
 (1) 本件商標と引用商標との非類似 
   ア 本件商標の一体性
     審決は,本件商標と引用商標との類似性を検討するに当たり,「本件商
標は,・・・馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振り下げてポロ競技をしてい
る黒塗りのシルエット図形と『U.S.P.A』の欧文字とを組み合わせた結合商
標であるところ,構成中の図形部分は,構成中の『U.S.P.A』の欧文字が我
が国において特定の意味合いを有する語又は略称として知られているものではな
く,他に同文字部分と常に一体不可分のものとして把握しなければならない事由が
認められないから,同文字部分より独立して商品の出所識別機能を有するものであ
る」(審決謄本14頁下から第3段落)として,本件商標の構成中の図形部分のみ
を取り出して引用商標と対比した。しかし,本件商標は,その構成中の図形部分と
文字部分とが一体として認識されるものであるから,審決が本件商標から図形部分
のみを取り出し引用商標と対比することによって,本件商標と引用商標とが類似す
ると判断したことは誤りである。
     本件商標は,その構成中の図形部分と文字部分とが分離されないような
態様で構成されている。すなわち,本件商標は,馬に乗ったポロプレーヤーの図形
の足下に,これと適応する程度の大きさで「U.S.P.A」の文字を配した構成
であり,「U.S.P.A」の文字からは,直ちに「ユーエスピーエー」の称呼が
生ずるから,簡易・迅速を尊重する取引の実情を考慮すると,本件商標に接する取
引者,需要者は,文字部分から生ずる「ユーエスピーエー」の称呼によって実際の
取引に当たると考えられる。本件商標の図形部分が分離して認識され,その図形部
分だけを取り出したものをもって取引が行われるとは到底考えられない。
   イ図形部分の非類似
     仮に,本件商標が文字部分と図形部分とに分離して認識される場合であ
っても,本件商標の図形部分と引用商標との間には,外観上,特徴的な相違がある
ので,両者は類似しているとはいえない。
     すなわち,本件商標の図形部分は,右向きの馬の上のポロプレーヤー
が,馬の向きとは反対の左方向に体を向け,下を見ながら真下にあるポロの玉を,
後方から下向きに振り下ろしたマレットで,まさに打とうとしているところを表し
たものであり,プレーヤーの上半身は,かがみ込むようにして腕を下方に長く伸ば
している状態である。特に,馬上のプレーヤーが馬の向きとは異なる方向を向き,
馬の4本の足と下向きのマレットとが混在し,マレットの前に玉が置かれている点
が特徴的である。これに対して,引用商標は,左向きの馬が両足を蹴り上げて疾駆
する状態にあり,馬上のポロプレーヤーは,馬の向きと同じ向きに体を伸ばしてマ
レットを右手上方に高く振り上げている。
     以上のように,本件商標の図形部分と引用商標とは,詳細な構成はもと
より,主要な構成においても,外観上,大きな相違がある。したがって,本件商標
の図形部分と引用商標とは,全体の印象において類似しておらず,容易に識別がで
きる非類似の図形である。
   ウ 離隔的観察
     審決は,本件商標の図形部分と引用商標との間には,馬の向き,ポロプ
レーヤーが持っているマレットの位置,ボールの有無等において差異があることを
認めつつ,両者は,「馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振りながらポロ競技
をしている図形を描いたものである点において基本的な構成を共通にしているの
で,・・・引用商標が極めて高い著名性を有することを併せ考慮すれば,時と所を
異にして観察する場合には,本件商標と引用商標とは類似性が高い商標といい得
る」(審決謄本14頁最終段落~15頁第1段落)とした。しかし,我が国におい
ても,一般に,ポロ競技は,「一個の木のボールを馬上から長柄の槌(マレット)
で相手側のゴールへ打ち込み合って勝負を争うスポーツ」であるという程度には理
解,認識されているものであるから,このような理解,認識をもって両者を見れ
ば,おのずと上記の相違点に注意が向くと考えられる。また,審決は,商品の出所
混同のおそれを認める判断において,引用商標が著名性を有することにも言及して
いるが,著名であるがゆえに,かえって,わずかな図形的差異でも,混同を生じさ
せない結果をもたらすことは,経験の教えるところである。
     したがって,本件商標の図形部分と引用商標とは,時と所を異にして接
した場合であっても,相紛れることはなく,非類似というべきである。
 (2) 「U.S.P.A」の文字部分の識別力
 上記(1)で述べた図形部分の非類似に加えて,本件商標においては,その文
字部分の「U.S.P.A」が出所表示機能を有しているから,商品の出所混同の
おそれはあり得ない。「U.S.P.A」は,原告の上部団体である「United
StatesPoloAssociation」(全米ポロ協会,米国ポロ協会と訳出されることもあ
る。)の略称表記であり,識別力を有している。商標中にこのような出所表示部分
がある場合にまで,本件商標が使用される商品について出所の誤認混同が生ずると
は考えられない。被告は,「UnitedStatesPoloAssociation」は団体としての知
名度が低いから,「U.S.P.A」に識別力はないと主張するが,偏見のない一
般的基準で考えれば,本件商標の図形部分と文字部分との間に出所表示機能の強弱
はなく,また,欧文字4字からなる文字部分の出所表示機能を否定する理由もな
い。「UnitedStatesPoloAssociation」の団体としての知名度のいかんは,
「U.S.P.A」の文字部分の出所表示機能を否定する理由とはなり得ない。ち
なみに,原告は,第20類の家具等について「USPA」の商標登録を得ており,
このことは,「U.S.P.A」(USPA)に識別力があることの証左である。
 本件商標は,上記のとおり,引用商標とは類似せず,引用商標が使用され
てきたファッション関連商品を指定商品とするものでもなく,しかも,構成中に
「U.S.P.A」の文字部分が存在するのであるから,本件商標を指定商品に使
用したときには,取引者,需要者は,たとえ原告を想起しない場合であっても,少
なくともラルフ・ローレンブランドとは異なる出所を想起するというべきである。
 (3) 商品の出所混同のおそれの有無
 審決は,商品の出所混同のおそれを判断するに当たり,引用商標の周知・
著名性を考慮すると本件商標と引用商標とは類似性が高いとした上,本件商標の指
定商品と引用商標の使用商品との関連性について検討して,「本件商標の指定商品
と引用商標が使用されている商品とは,『家具,屋内装置品(じゅうたん,カーテ
ン及びテーブル掛け等を含む。)』と『ホームファニシング』のように,同一であ
るか又は類似する商品を含むものであり,また本件商標の指定商品が主として一般
的な生活用品であることからすれば,両商品の取引者・需要者を共通にすることが
多いといえるものである。そして,・・・これらの商品を購入するに際して払われ
る注意力はさほど高いとはいえない」(審決謄本15頁下から第2段落),
「『U.S.P.A』の欧文字は,ポロ協会(又は全米ポロ協会)を意味す
る『UnitedStatesPoloAssociation』の略称表記であるとしても,本件全証拠に
よっても,ポロ競技そのものについての認識が低い我が国においては,上記略称を
表記するものとして広く知られているとは認められず,構成中の馬に乗ったポロプ
レーヤーの図形が本件商標の指定商品の取引者・需要者に想起,連想させることに
対するラルフ・ローレンとの関連性を打ち消す表示には当たらない」(同16頁第
2段落)として,混同のおそれを肯定した。
 しかしながら,ラルフ・ローレンの「POLO」(ポロ)ブランドや引用
商標が著名性を獲得しているのは,ファッション関連商品についてであり,ホーム
ファニシング商品等の一般的生活用品まで著名性を獲得しているものではない。引
用商標が,本件商標の指定商品である「家具,屋内装置品(じゅうたん,カーテン
及びテーブル掛け等を含む。)」について周知・著名であることを示す証拠はな
く,ラルフ・ローレンのデザインしたホームファニシング商品が,引用商標を使用
して,全国規模で,恒常的に販売されていることを示す証拠もない。このような実
情からすれば,本件商標を指定商品に使用しても,ラルフ・ローレン又は同人と経
済的,組織的に何らかの関係のある者に係る商品(以下「ラルフ・ローレンに係る
商品」という。)であるように誤信して商品の出所について混同が生ずるおそれが
ないことは明らかである。
 本件商標の図形部分と引用商標とは,既に述べたとおり,図形としての特
徴的な相違によって全体としての印象が異なっているのであり,また,本件商標に
は出所表示機能を有する「U.S.P.A」の文字部分が存在するのであるから,
商品を購入するに際して払われる一般的な注意力を考慮に入れても,混同が生ずる
おそれはない。
 なお,WIPOの周知商標の保護規則に関する共同勧告(SCT1999
年11月)を受けた特許庁の改正審査基準においては,「他人の著名な商標と結合
した商標は原則として出所混同を生ずるおそれがあるものと推認して取り扱うもの
とする」とされているが,本件商標は,引用商標それ自体を含んでいるのではな
く,引用商標とは非類似の図形を含んでなるものであるから,上記審査基準に照ら
しても,引用商標との間に商品の出所混同を生ずるおそれのある商標であるとはい
えない。
第4 被告の反論
 1 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(商品の出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)について
 (1) 本件商標と引用商標の類似性
   ア 本件商標は図形部分が独立して認識され得ることについて
   図形と文字の結合商標において,文字部分にどの程度重きを置いて取引
されているかは,結合商標ごとに個別に判断されるべきものであって,結合商標で
あれば必ず文字部分が重要視されるわけではない。
    本件商標における「U.S.P.A」の文字自体は,頭文字を重ねたも
のであって,我が国において確立された概念を有する既成の語ではない。また,そ
の称呼「ユーエスピーエー」は日本語として冗長であり,これをもって取引に当た
るとは考え難い。さらに,本件商標の図形部分は中央に大きくはっきりしたシルエ
ットで配されているのに対し,「U.S.P.A」の欧文字は図形部分より比較的
小さく下方に配されている。これらの点を考慮すると,本件商標において文字部分
より生ずる称呼の方が取引において重要視されるとは考えられない。原告は,本件
商標の文字部分である「U.S.P.A」の識別力について主張するが,同文字部
分は,引用商標とは別の出所を想起させるほどの識別力を有しないというべきであ
る。したがって,審決が,本件商標の図形部分を取り出して引用商標と比較したこ
とは正当である。
   イ 本件商標の図形部分を分離観察した場合の需要者の認識について
    原告は,本件商標の図形部分と引用商標とは外観上非類似であると主張
するが,審決は,両者の外観上の類似性を根拠として本件商標が商標法4条1項1
5号に該当すると判断したものではない。審決は,本件商標の図形部分はポロプレ
ーヤーを描写しており,引用商標と基本的構成を共通にしていること,引用商標が
極めて高い著名性を有していること,今日ファッションデザイナーがファッション
関連商品にとどまらず,生活全般にわたる商品をトータルにデザインする傾向にあ
ること,本件商標の指定商品については,その需要者が一般消費者であるから,一
般消費者の注意力を基準とすべきこと等の事情を総合的に考慮し,本件商標を指定
商品に使用したときには,一般消費者はその図形部分にまず着目し,ラルフ・ロー
レンに係る商品を想起するであろうことを認定し,さらに,本件商標の文字部分の
性格からすれば,本件商標の文字部分は上記のような想起を打ち消すほどの効果を
有していないとして,本件商標は引用商標との間で商品の出所混同のおそれがある
と判断したものであって,その判断は正当である。
     原告は,商標(図形)自体を対比した場合の類否は著名であるがゆえに
かえって狭くなると主張するが,ある図形商標に高い著名性がある場合には,図形
相互の相違点があっても著名な図形商標を想起する可能性が高まるというべきであ
る。
 (2) 「U.S.P.A」の文字部分の識別力について
    原告は,本件商標の文字部分である「U.S.P.A」が出所表示機能を
有すると主張するが,「U.S.P.A」が全米ポロ協会の略称であることは,我
が国においては,知られておらず,また,上記団体自体も知名度の低いものであ
り,「U.S.P.A」の文字部分も図形部分と比べれば従たる意義しか有しない
ものであるから,当該文字部分は,本件商標中のポロプレーヤーの図形がラルフ・
ローレンとの関連性を想起,連想させることを打ち消す表示とはなり得ない。本件
商標は,その構成中に「U.S.P.A」の文字部分を含んでいても,なお,本件
商標を付した商品がラルフ・ローレンに係る商品であるかのように誤信を生じさせ
るものである。
 (3) 商品の出所混同のおそれの有無について
    被告が扱うラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品
は,西武百貨店を始めとする被告の認可店,全国の有名百貨店(例えば,伊勢丹新
宿店,西武池袋店,高島屋横浜店,阪急梅田店,そごう横浜店,高島屋名古屋店,
松坂屋名古屋店,大丸神戸店,阪神梅田店,三越名古屋店など),有名小売店等に
おいて日々販売されており(乙15-1~7),百貨店内などに専門のショップや
コーナーを設けて販売している店舗は約90か所に上る。また,このような一般消
費者向けの小売販売に,専門業者向けの壁紙やカーテン用生地の販売を含めると,
平成15年度の小売推定売上げは,およそ60億円弱と推定され,全国規模で恒常
的に販売されているということができる。インターネットのショッピングモール
「楽天市場」において,「家具・インテリア」のジャンル内でキーワードを「ラル
フローレン」として検索すると,ラルフ・ローレンのカーテンが多数販売されてい
ることが分かる(乙10)。
また,ファッションデザイナーが,生活全般をトータルにコーディネート
する見地から,寝具,食器などの日用品,壁紙などの住宅関連用品にまでデザイン
の対象を広げており,家の中を同一デザイナーのデザインする商品で埋め尽くすこ
とも不可能ではない時代である。このような時代にあっては,従来の観念からすれ
ば必ずしもファッション関連商品とは直ちにいえないような範ちゅうであっても,
商品の種類によっては取引者,需要者が特定のファッションデザイナーを想起する
蓋然性が高い商品もある。被告を主宰するラルフ・ローレンが,本来のファッショ
ン関連商品のみならず,壁紙,寝具,食器等広く日用品のデザインを手掛けている
ことは,一般に知られているところである(乙11~13)。したがって,本件商
標を指定商品に使用したときに,その需要者と想定される一般消費者の注意力を基
準とすれば,引用商標が連想,想起され,被告の商品と混同するおそれがあるとし
た審決の判断は正当である。
    ちなみに,原告がその本拠を置く米国においては,原告の上部団体とされ
る全米ポロ協会の公認雑誌である「POLO」なる雑誌につき,被告の関連会社で
あるポロ社の商品との混同を生ずるとして雑誌名の使用差止めが認められた例もあ
る(乙5)。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(商品の出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)について
 (1) 審決は,「本件商標を指定商品に使用する場合には,これに接する取引
者・需要者がポロプレーヤーの図形に着目してラルフ・ローレンのデザインに係る
商品であると連想,想起し,その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的,経済
的に何等かの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所
について混同を生ずるおそれがある」(審決謄本16頁の「(4)結論」)と認定し
て,本件商標の登録は,商標法4条1項15号の規定に違反してされたものと判断
したところ,原告は,本件商標を指定商品に使用しても,ラルフ・ローレンに係る
商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれはないとして,審決
の認定判断の誤りを主張する。 
    商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生
ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品に使用したときに,当該商
品が他人の商品又は役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみなら
ず,当該商品が当該他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の
関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の
業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれのある商標,すなわち,広義の
混同を生ずるおそれがある商標も含まれる。そして,混同を生ずるおそれの有無
は,当該商標と他人の商標との類似性の程度,他人の商標の周知・著名性及び独創
性の程度,当該商標の指定商品と他人の業務に係る商品又は役務との関連性の程
度,取引者,需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品
の取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断され
るべきである(以上につき,最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集5
4巻6号1848頁参照)。そこで,以下,この見地から,原告の上記主張の当否
について検討する。
 (2) 引用商標に関連する前提事実について
    まず,審決が他人の業務に係る商品に使用されている表示として挙げてい
る引用商標(ポロプレーヤーマーク)及びそれが使用される商品に関する前提事実
は,以下のとおりである(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨によって認めら
れる。)。
   ア 被告は,アメリカ合衆国ニューヨーク州所在のリミテッド・パートナー
シップであり,同国のファッションデザイナーとして世界的に著名なラルフ・ロー
レンのデザインに係る商品を,関連会社やライセンシー及び販売店を通して世界的
な規模で販売している。我が国においては,昭和51年に,西武百貨店が被告とラ
イセンス契約を結び,ラルフ・ローレンのデザインに係る男性用衣料品の取扱いを
開始したのを皮切りに,婦人用衣料,ファッション関連商品等についてもラルフ・
ローレンのデザインに係る商品が被告のライセンシー,販売店等を通じ,全国の有
名デパートや専門店等において販売されるようになり,今日に至っている。
   イ ラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品には,文字商
標として,横長四角形中に「Polo」,「POLO」の欧文字を配した標章(以
下「POLO標章」ともいう。),「POLO」,「Polo」の文字と「by R
ALPH LAUREN」,「by Ralph Lauren」の文字とを組み
合わせた標章(以下「ポロ/ラルフローレン標章」ともいう。),図形商標とし
て,引用商標(ポロプレーヤーマーク)などが使用されてきた。これらの商標を付
した商品は,ラルフ・ローレンの「ポロ」,「POLO」(Polo)(単に「ポ
ロ」,「POLO」等と略称されることもある。)ないし「ポロ/ラルフ・ローレ
ン」のブランド名で,需要者の間で高い人気を博しており,引用商標(ポロプレー
ヤーマーク)を含めた上記各標章は,そのブランド名と共に,遅くとも本件商標の
登録出願時(平成4年1月17日)より前に,ファッション関連商品の分野におい
て,取引者,需要者の間で周知・著名となっており,その周知・著名性は,登録査
定時(平成9年3月19日)を経て今日まで継続している(なお,ファッション関
連商品の分野における「ポロ」,「POLO」ブランドの周知・著名性に関して,
これを認めた多数の審決例及び判決例があることは,当裁判所に顕著な事実であ
る。)。
 (3) 本件商標と引用商標との類似性の程度について
  ア 本件商標は,馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを振り下げてポロ競
技をしている黒塗りのシルエット図形と,その下に配した「U.S.P.A」の欧
文字とから構成される結合商標である。他方,引用商標は,馬に乗ったポロプレー
ヤーがマレットを振り上げてポロ競技をしている図形(ポロプレーヤーマーク)の
みから構成される図形商標である。
     両商標間の類似性の評価に関し,原告は,本件商標は,構成中の図形部
分と文字部分とが一体として認識されるものであり,その図形部分だけを取り出し
たものをもって取引が行われることはないから,本件商標の構成中の図形部分を分
離して引用商標と対比すべきではないと主張する。しかし,本件商標は,構成中の
馬に乗ったポロプレーヤーの図形と「U.S.P.A」の文字部分とを別々に上下
に配した構成であって,その外観上,図形部分と文字部分とが分離されないような
態様で構成されているものではなく,また,図形部分と文字部分とが不可分のもの
として一つの観念を形成しているものでもないから,両部分は,これを分離して観
察することが取引上不自然と考えられるほど不可分一体に結合しているということ
はできない。また,「U.S.P.A」は,その文字のみによっては意味が不明で
あり,我が国において,特定の企業,団体等の名称を示す略称として知られている
と認めるに足りる証拠もないから,本件商標は,「U.S.P.A」の文字部分を
除いた図形部分のみによっても認識され,図形部分が分離して認識されて自他商品
の識別標識として機能することもあるものというべきである。
   イ そこで,まず,本件商標の図形部分と引用商標とを外観について対比す
ると,両者は,走る馬に乗ったポロプレーヤーがマレット(長柄の槌)を操作して
いる様を表したものであるという点においては共通する。しかし,その共通性は,
馬,マレット及びこれを操作する馬上のポロプレーヤーという多分に抽象的なレベ
ルにとどまり,図形としての表現態様という観点から見るときには,馬の向き,馬
及びポロプレーヤーの姿態,マレットの位置等,多くの点で異っている。すなわ
ち,引用商標においては,馬は左向きに疾駆する状態で描かれ,馬上のポロプレー
ヤーは,上半身をややそり気味にして右手に持ったマレットを斜め後方(図の右上
方向)に振り上げているのに対し,本件商標の図形部分においては,馬は右向きに
描かれ,馬上のポロプレーヤーは,馬を制御しながら下向きにかがみ込む姿勢でマ
レットを振り下げて馬の足下の玉を打とうとしている。特に,引用商標において
は,プレーヤーの上半身から右上に延びて長く描かれたマレットが図形全体に縦長
の印象を与えるとともに,前足を蹴り上げて疾駆する馬の姿態と相まって,強い躍
動感をもたらしているのに対し,本件商標の図形部分においては,ポロプレーヤー
は上半身を下に向けており,マレットも下向きで,馬の4本の足の間に挟まれるよ
うに描かれていることが特徴的である。
     本件商標の図形部分と引用商標との間に見られる上記のような違いは,
両図形が与える印象を全体として異なったものとしており,見る者に異なる印象,
記憶を生じさせるものというべきである。
   ウ 次に,称呼及び観念についてみると,本件商標の図形部分は,ポロ競技
をよく知る者にとってはそこに表現されたものが英国に発祥するスポーツのポロ競
技をするプレーヤーであることを感得させる態様のものであるが,その表現は,長
柄の槌を持った人が馬上にいる姿をシルエットのみによって表わしたというもので
あり,我が国におけるポロ競技の認知度を考慮すると,本件商標の図形部分から
は,スポーツとしてのポロ競技に関連したものという程度の漠然とした観念が生ず
ることはあり得るとしても,直ちに特定の称呼や商品の出所を識別させる程度に具
体性を持った観念が生ずると認めることはできない。一方,引用商標も,その周
知・著名性を考慮の外に置いて,図形として見たときには,スポーツとしてのポロ
競技という程度の観念を生じさせるものにすぎない。したがって,本件商標の図形
部分と引用商標との対比において,称呼及び観念は,両者の類似性を評価する要素
としては捨象して差し支えないものというべきである。
     そうすると,本件商標は,その図形部分を取り出して引用商標の「ポロ
プレーヤーマーク」と対比観察し,時と所を異にして観察した場合でも,図形部分
において引用商標と類似するということはできず,また,本件商標は,図形部分と
「U.S.P.A」の文字とからなるものであるから,これを全体として見ると,
本件商標と引用商標とは非類似の商標というべきである。
   エ ところで,審決は,本件商標の図形部分と引用商標の図形との間に,馬
の向き,ポロプレーヤーが持っているマレットの位置,ボールの有無等において差
異があっても,引用商標の著名性をも併せ考慮すれば,本件商標と引用商標とは類
似性が高い商標である(審決謄本14頁最終段落~15頁第1段落)と判断してい
る。しかし,両商標が互いに類似するものでないことは,前示のとおりであり,こ
の点に関する審決の判断は,是認することができない。
     もっとも,両商標の類似性が高いとした審決の判断は,引用商標の周
知・著名性を考慮すると,馬に乗ったポロプレーヤーの図形という点で引用商標と
共通する本件商標の図形部分から,連想によって,引用商標やラルフ・ローレンの
「ポロ」ブランドが想起され,引用商標を使用した商品について,ラルフ・ローレ
ンに係る商品であるかのような誤信を生じさせるという趣旨であると解することが
できる。しかし,この点は,商標間の類似性の問題というよりは,むしろ,引用商
標の周知・著名性や使用される商品の関連性等の個別具体的な事情の下で生ずる連
想,想起に基づく商品の出所混同の可能性の問題と考えるべきである。そこで,以
下,項を改めて,これらの点について検討することとする。
 (4) 引用商標の周知・著名性について
   ア ファッション関連商品における引用商標(ポロプレーヤーマーク)を含
めた「POLO標章」及び「ポロ/ラルフローレン標章」の周知・著名性は,上
記(2)のとおりである。
     しかしながら,ラルフ・ローレンに係る商品に使用されている上記各標
章における「POLO」,「Polo」ないし「ポロ」の語は,英国を発祥地とす
るポロ競技に由来するもので,ポロ競技のプレーヤーが着用するシャツが「ポロシ
ャツ」と称されることもあるなど,それらの語自体としては,普通名称と認められ
るものである。また,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ポロ競技をしている
プレーヤーと馬の様子を写実的な筆致でやや単純化して表現したものであって,そ
の図形自体としてそれほど独創性が高いものとはいえず,図形が想起させる「ポ
ロ」ないし「ポロ競技」の観念も,それ自体としては一般的なものということがで
きる。したがって,ファッション関連商品において引用商標(ポロプレーヤーマー
ク)が有する高い識別力,顧客吸引力は,標章自体が有する外観や観念の独創性な
いし特異性に由来するというものではなく,むしろ,引用商標がラルフ・ローレン
のデザインに係る「ポロ」ブランドの商品に使用され,「ポロ」ブランドの著名化
とともに,ラルフ・ローレンの「ポロ」を表示するマークとして定着し,広く知ら
れるようになったという事実によってもたらされたものであるということができ
る。  
   イ 以上のとおり,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ファッション関
連商品の分野においては周知・著名性が認められるものであるが,ファッション関
連商品以外の,被告が「ホームファニシング商品」と称する一群の商品の分野にお
ける周知・著名性については,これを認めるに足りる的確な証拠がない。
     この点に関し,被告は,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品は,フ
ァッション関連に限らず,カーテン等のインテリア関連商品,寝具,食器等の日用
品,壁紙などの住宅関連用品を含む,ホームファニシング商品にまで及んでおり,
それらの商品は,全国の有名百貨店,有名小売店等において販売され,多大な売上
げを上げていると主張する。確かに,被告提出の証拠(乙6~12,15-1~
7,乙16)によれば,デザイナーであるラルフ・ローレンは,1980年(昭和
55年)にホームファニシング商品と称する一群の商品のデザインを手掛けるよう
になり,それらの商品は,現在,我が国においても,各地の有名デパート等におい
て販売されていることが認められる。しかしながら,ラルフ・ローレンのデザイン
に係るホームファニシング商品の我が国における販売状況を示す証拠として被告が
提出した乙6~8の「RALPHLAURENHOMECOLLECTION」と題するカタログ(乙6は
発行時期不詳,乙7は1992年〔平成4年〕秋号,乙8は1996年〔平成8
年〕春号)及び乙9の「RALPHLAURENFURNITURE」と題するカタログ(1996年
〔平成8年〕号)は,いずれも英語版であって,そのうち,乙6及び乙8にのみ,
最終頁に日本語による説明及び価格表が付されているところ,価格表の下には小文
字で「日本展開予定の商品です。ショップにより未扱いの場合もありますが,ご了
承下さい。」と注記されていることが認められる。そうすると,提出された証拠か
ら見る限り,ラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品の我が国
における販売は,乙7の英語版カタログの発行時期と推測される平成4年より前に
遡ることはなく,また,乙8のカタログの最終頁に記載された「日本展開予定」等
の注記に照らすと,平成8年ころにおいても,比較的限られた店舗において販売さ
れるにとどまっていたものと推認される。
     さらに,上記カタログ(乙6~9),有名デパートのウェブサイトの平
成16年7月21日付けの検索結果(乙15-1~7)及び雑誌「Hanako」平成1
2年9月13日号(乙16)によれば,ラルフ・ローレンのデザインに係るホーム
ファニシング商品は,「RALPHLAURENHOMECOLLECTION」,「ラルフローレン ホ
ーム」,「ラルフローレン ホーム コレクション」などと銘打って販売されてい
ることが認められ,また,被告自身,インターネット上のショッピングモール「楽
天市場」においてラルフ・ローレンのデザインに係るホームファニシング商品を
「ラルフローレン」のキーワードで検索している(乙10)から,それらの製品
は,「RALPH LAUREN」をブランド名として前面に押し出し,「RAL
PH LAUREN」の表示を使用して販売されていることが明らかである。被告
が提出した証拠からは,POLO標章や引用商標(ポロプレーヤーマーク)
が「RALPHLAURENHOMECOLLECTION」に属するホームファニシング商品に付されて
いるかどうかは明らかではなく,少なくとも乙6~9のカタログに掲載された商品
の写真中にPOLO標章や引用商標(ポロプレーヤーマーク)は見当たらない。
     以上のとおり,証拠上認定される,我が国におけるラルフ・ローレンの
デザインに係るホームファニシング製品の販売状況に照らすと,引用商標(ポロプ
レーヤーマーク)が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,ファッショ
ン関連商品以外のインテリア関連商品や寝具,食器等の生活用品,壁紙などの住宅
関連用品等の商品の分野においてまで周知・著名性を獲得していたということはで
きない(なお,上記説示は,「ポロ」や「RALPH LAUREN」のホームフ
ァニシング商品の分野における周知・著名性の有無について言及するものではな
い。)。
 (5) 商品の出所混同のおそれの有無について
   ア 上記のとおり,本件商標と引用商標(ポロプレーヤーマーク)とは類似
するものとはいえず,また,引用商標は,ホームファニシング商品の分野において
まで周知・著名となっていたものとはいえないから,ホームファニシング商品の分
野における引用商標の周知・著名性に基づく商品の出所混同のおそれを認めること
はできない。
     そこで,進んで,ファッション関連商品の分野における引用商標(ポロ
プレーヤーマーク)の周知・著名性に基づいて,本件商標をその指定商品に使用し
たときに,ラルフ・ローレンに係る商品であるかのように誤信されて商品の出所混
同が生ずるおそれがあるか否かを検討する。
   イ 今日,ファッション関係のデザイナーが,ライフスタイルを提案し,あ
るいは生活全般をトータルにコーディネートするという見地から,ファッション関
連以外の商品にデザインの領域を広げ,家具,インテリア用品,寝具,テーブルウ
エア等々,様々な商品をデザインし,販売する例があることは,よく知られたこと
である。このことは,デザイナーのラルフ・ローレンについても例外ではなく,同
人がカーテン,クッション,寝装品,リネン類,食器等,生活全般にわたる多様な
商品をデザインし,販売していることは,我が国の雑誌等にも紹介されている(乙
11)。そうすると,我が国においてラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表
示するものとして周知・著名なPOLO標章,ポロ/ラルフ・ローレン標章,引用
商標(ポロプレーヤーマーク),あるいは,これらに類似する標章がファッション
関連以外の商品について使用された場合,それらの商品が,ラルフ・ローレンに係
る商品のいわば延長線上にあると考えられるものであるときには,商品の出所混同
の可能性がないとはいえない。本件商標の指定商品である旧別表第20類「家具,
畳類,建具,屋内装置品,屋外装置品,記念カップ類,葬祭用具」の中には,ラル
フ・ローレンがデザインしても不自然ではないと考えられる商品や,現に「ラル
フ・ローレン ホーム コレクション」として販売されている商品が含まれる。
     しかしながら,本件において,ラルフ・ローレンに係る商品に使用され
る各種標章のうち,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ホームファニシング商
品の分野においてまで周知・著名であるとはいえない上,「ポロプレーヤーマー
ク」自体の独創性,特異性によって識別され周知・著名化したというよりは,むし
ろ,ラルフ・ローレンの「ポロ」(ポロ/ラルフローレン)ブランドに使用される
マークとして上記ブランド及びデザイナーのラルフ・ローレンの名とともに周知・
著名となったこと,ラルフ・ローレンに係るホームファニシング商品は,「RAL
PH LAUREN」をブランド名として前面に押し出し,「RALPH LAU
REN」の表示を使用して販売されていることなどの諸事情を総合考慮すると,引
用商標とは非類似の図形に「POLO」(ポロ)や「RALPH LAUREN」
(ラルフ・ローレン)とは全く別の欧文字「U.S.P.A」(ユーエスピーエ
ー)を組み合わせてなる本件商標を付した商品が,ラルフ・ローレンに係る商品と
誤信されて商品の出所の混同を生ずる可能性は極めて低いというべきである。
   ウ これに対し,被告は,本件商標の構成中の「U.S.P.A」の語
は,「UnitedStatesPoloAssociation」(全米ポロ協会)の略称であることが我
が国において知られているものではなく,上記協会の存在すら我が国において知ら
れているものではないから,出所識別機能を発揮し得ない部分であり,引用商標の
周知・著名性を考慮すれば,本件商標の構成中に「U.S.P.A」の文字があっ
ても,商品の出所混同が生ずるおそれはあると主張する。
     しかしながら,商標の構成中に2ないし4文字程度の大文字の欧文字を
組み合わせた文字表記が存在する場合には,これが何らかの名称を頭文字で表した
略称であると理解する余地があり,その文字表記自体としては意味が明確でなかっ
たり,特定の出所を積極的に表示しているとはいえない場合であっても,当該文字
表記の存在が,図形部分から特定の出所が連想されることを打ち消すように機能す
る場合があるというべきである。
     これを本件についてみると,引用商標(ポロプレーヤーマーク)は,ラ
ルフ・ローレンの「ポロ」ブランドないしデザイナーのラルフ・ローレンと密接に
結び付いたものとして著大な識別力を獲得するに至ったと認められるものであるか
ら,本件商標のように,引用商標とは外見の異なる非類似の図形に,ラルフ・ロー
レンの「ポロ」や「ラルフ・ローレン」を想起させる余地のない「U.S.P.
A」の欧文字を,ゴシック体で,図形に比肩する大きさで表示してなる結合商標に
ついては,その出所として「U.S.P.A」の名称ないし略称を有する業務主体
が認識されるかどうかはともかく,ラルフ・ローレンの「ポロ」や「ラルフ・ロー
レン」への連想が妨げられ,少なくともラルフ・ローレンではない商品の出所が認
識されることになることは明らかというべきである。
     ちなみに,「U.S.P.A」の頭文字で表される「UnitedStates
PoloAssociation」(全米ポロ協会)は,1890年に設立され,国際オリンピッ
ク委員会の公認を受けた国際ポロ競技の統括団体である国際ポロ連盟の傘下にあっ
て,米国各地でポロ競技のトーナメントを開催するなど,現に活動している実在の
団体であり(甲2-1,甲8,9),また,原告はポロ競技に対する一般の意識を
高めるとともに,上部団体である全米ポロ協会に帰属する商標等からライセンスの
収益を上げること等を目的として設立された法人であると認められ(甲18),原
告による本件商標の登録が著名な「ポロプレーヤーマーク」へのフリーライド等を
目的としてされたものであることをうかがわせる事情は存在しない。
   エ 以上によれば,ファッション関連商品の分野における引用商標の周知・
著名性を考慮に入れても,本件商標を指定商品に使用したときに,当該商品が,ラ
ルフ・ローレン又は同人と密接な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事
業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように誤
信され,商品の出所混同が生ずるおそれがあるということはできないから,その出
所混同のおそれを肯定した審決の認定は誤りであるといわなければならない。
     そして,上記判断は,審決が指摘するように(審決謄本15頁下から第
2段落),一般的に,生活関連用品について消費者が有する注意力はさほど高いも
のではないことを考慮しても,左右されないというべきである(なお,ラルフ・ロ
ーレンのデザインに係るホームファニシング商品が,生活全般のトータルコーディ
ネートというコンセプトの下に展開されていることからすると,それらの商品の購
入者は,生活用品全般について,こだわりを持った商品選択をする需要者層である
と考えられる。そうとすれば,ラルフ・ローレンのデザインに係る「ポロ」ブラン
ドを商品選択の基準とする需要者においては,商標に対する注意力が,日常用品,
生活用品一般についての消費者の注意力よりも高いと考えられるのであって,この
点を考慮すれば,引用商標とは外観,印象の異なるポロプレーヤーの図形に「U.
S.P.A」の欧文字を組み合わせてなる本件商標を指定商品に使用したときに,
その商品がラルフ・ローレンに係る商品と誤信され,商品の出所の混同を生ずる可
能性は,一層低いといわざるを得ない。)。
 2 結論
   以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があり,この誤りが審決の結論に
影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決
する。
    東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官     篠  原  勝  美
              裁判官     古  城  春  実
              裁判官     岡  本     岳

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