弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とす。
         事    実
 控訴人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一である。
 証拠として被控訴人は甲第一、二号証の各一、二甲第三号証甲第四号証の一、二
甲第五号証を提出し、原審証人A同B同C当審証人D同Eの各証言原審及び当審に
おける被控訴人本人訊問の結果を援用し、乙第一号証の一、二乙第二号証の成立を
認める、乙第三号証〇一、二の成立は不知、乙第一号証の一、二を利益に援用する
と述べ、控訴人は乙第一号証の一、二乙第二号証乙第三号証の一、二を提出し、原
審証人F当審証人F同Gの各証言、当審における控訴人本人訊問の結果を援用し、
甲第三号証甲第五号証は成立を認める、その他の甲号証の成立は不知と述べた。
         理    由
 船橋市a町b丁目c番地所在、家屋番号a町b丁目d番の木造瓦葺平家住宅建坪
十六坪五合附属建物木造亜鉛葺平家炊事場建坪二坪、木造亜鉛葺平家住宅建坪三坪
(以下本件建物とよぶことにする)が、もと、訴外Hの所有であつたところ、被控
訴人は昭和二十一年十一月二十五日これを買受けて所有権を取得し、昭和二十三年
二月四日その旨の登記をへたことは、成立に争なき甲第三号証によつて認められる
から、本件建物は現に被控訴人の所有に属すると認める。この建物に控訴人が居住
しこれを占有することは本件当事者間に争なきところである(もつとも仮執行宣言
付の本件第一審判決にもとずく強制執行により控訴人は本件建物の占有をうばわれ
現に被控訴人の占有にあることは当裁判所に顯著であるけれども、仮執行というも
のの性質上、この事実は、本件請求の当否を判断するに際しては、これを無視すべ
きものである)。
 被控訴人所有の建物を控訴人が占有する権原として控訴人は賃借権を主張し、控
訴人が昭和二十年四月中前所有者Hから、賃料は月四十七円毎月末日払の定めで、
期間の定めなく借受けたことは本件当事者間に争なきところである。
 被控訴人は、前所有者Hは賃貸人として昭和二十一年八月四日賃借人たる控訴人
にたいして解約申入れをしたと主張し、この申入れは正当の事由をそなえているか
ら、その後六月の期間経過により前記賃貸借は終了したと主張する。そこで、はた
して右主張のごとく解約申入がなされたか否かは、しばらくおき、正当の事由があ
るかどうかの点を考えてみるに、被控訴人の主張するところは、訴外Hはその家計
上本件建物を売却する必要があり、家計上の必要から売却するには空屋としてでな
ければ目的に合しないから控訴人に出てもらわなくてはならない、という事情と、
解約申入れにあたつて控訴人の移転先として本件建物からほど遠からぬa町e番地
にある右H所有の階下六畳、三畳、二階六畳の住家を貸与し、向う一年間は無家賃
とすべき旨及び移転費用として金千円を支払うべき旨を申出た、という事情を合せ
て、解約申入れの正当の事<要旨>由となるというのであるが、賃貸人がその家計上
売却換価の必要があり、有利に換価するには空家とする必要があるという事
実だけでは、賃貸借解約の正当の事由と認められないことは多く言うをまたない。
ところで前記移転先の提供を加えればよいか、というに、当時控訴人方同居の世帯
員は控訴人及びその両親と、弟妹合せて五人で妹は胸を病んでいるというありさま
であり、H提供の前記家屋は本件建物より前記のとおり本件建物よりは相当せまい
のみならず、周囲はトタン張りで、水道ガスのないことはいうまでもなく、流し場
や下水さえそなわらないものであり、井戸は三間半もはなれた他人の井戸を使わせ
てもらうありさまであることは当審証人G同Fの証言及び当審における控訴人本人
訊問の結果によつて認められるのであるから、かような移転先を向う一年間は無家
賃で貸与すべく金千円の移転費用を負担すべき旨を付け加えて申出たとしても解約
申入れの正当の事由ありとは認めることはできない。されば、被控訴人前主Hが賃
貸人として解約申入れをした効果として控訴人の賃借権は消滅したとの被控訴人の
主張は採用できない。
 なお、被控訴人は本件訴状送達は解約申入の意味をかね有すると主張し、正当事
由としては被控訴人が住居に困つて住居とするため本件建物を買受けたのであり、
現に住宅を必要としており、前述の前所有者Hが移転先として提供した家屋を提供
しているとの事実を主張する。本件訴状には賃貸人としてではなく所有者として、
賃借人としてではない控訴人にたいし不法占有を理由として明渡を求める旨明記し
てあるから、これを送達すると解約申入れになるというのは筋のとおらないことで
ある。従つて被控訴人の自ら解約したとの主張は<要旨>この点だけでも理由なきこ
と明かであるが、それのみならず、住宅がなくて困つておる者が、他人が正当に
借中の建物を、賃借人に出てもらつて自分が住むという計画で、所有者か
ら買受けた場合に、住宅がなくて困つているという事実は、それだけでは解約申入
れの正当の事由とはならないと解するのが相当であり、それに前述のごとき家屋が
移転先として提供されているとの事実を加えたのでは、まだまだ正当の理由たるに
たらないといわなければならない。
 以上説明のとおりで、被控訴人主張の賃貸借終了の事由は認められず、従つて控
訴人は、いまなお、本件建物の賃借権を有し、この賃借権は建物所有権を取得した
被控訴人に対し効力を有すること明かであるから、被控訴人は控訴人をして本件建
物を使用せしめる義務こそあれ、これが明渡を求める権利はないのである。被控訴
人の請求はこれを棄却しなければならない。
 被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるからこれを取消すべく、訴訟費用
は全部敗訴の当事者たる被控訴人の負担たるべきものである。
 (裁判長判事 玉井忠一郎 判事 藤江忠二郎 判事 山口嘉夫)

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