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平成22年3月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第4916号不正競争行為差止等請求事件(第1事件)
平成20年(ワ)第3404号不正競争行為差止等請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日平成22年2月2日
判決
東京都千代田区<以下略>
第1事件原告兼第2事件原告出光興産株式会社
訴訟代理人弁護士鈴木正勇
同相澤愛
岡山県倉敷市<以下略>
第1事件被告株式会社ビーシー工業
岡山県倉敷市<以下略>
第1事件被告A
上記両名訴訟代理人弁護士東松文雄
千葉県市原市<以下略>
第2事件被告有限会社P商事
千葉県袖ヶ浦市<以下略>
第2事件被告B
上記両名訴訟代理人弁護士荒木勝己
主文
1第2事件被告らは,別紙営業秘密目録1記載の図面中の別紙「千
葉工場第1ポリカーボネート装置P&IDリスト」の№2,5,
9,10,17,19,24及び38の各図面をポリカーボネート
製造装置の建設,改造,増設,補修,運転管理に使用してはならな
い。
2第2事件被告らは,別紙営業秘密目録1記載の図面中の別紙「千
葉工場第1ポリカーボネート装置P&IDリスト」の№2,5,
9,10,17,19,24及び38の各図面を第三者に開示して
はならない。
3第2事件被告らは,別紙営業秘密目録1記載の図面中の別紙「千
葉工場第1ポリカーボネート装置P&IDリスト」の№2,5,
9,10,17,19,24及び38の各図面が記録された文書,
磁気ディスク,光ディスクその他の記録媒体を廃棄せよ。
4第2事件被告らは,第1事件原告兼第2事件原告に対し,連帯し
て1100万円及びこれに対する平成20年2月20日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
5第1事件原告兼第2事件原告の第1事件被告らに対する請求及び
第2事件被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,第1事件原告兼第2事件原告に生じた費用の60分
の1と第2事件被告らに生じた費用の30分の1を第2事件被告ら
の負担とし,その余を第1事件原告兼第2事件原告の負担とする。
7この判決の第1項ないし第4項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1第1事件被告ら及び第2事件被告らは,別紙営業秘密目録1ないし3記載
の各図面及び図表を,ポリカーボネート製造装置の建設,改造,増設,補
修,運転管理において,自ら使用し,又は第三者に使用させてはならない。
2第1事件被告ら及び第2事件被告らは,別紙営業秘密目録1ないし3記載
の各図面及び図表を第三者に開示してはならない。
3第1事件被告ら及び第2事件被告らは,別紙営業秘密目録1ないし3記載
の各図面及び図表が記録された文書,磁気ディスク,光ディスクその他の記
録媒体を廃棄せよ。
4第1事件被告ら及び第2事件被告らは,第1事件原告兼第2事件原告に対
し,連帯して2億9700万円及びこれに対する第1事件被告株式会社ビー
シー工業においては平成19年3月9日から,第1事件被告Aにおいては同
月16日から,第2事件被告らにおいては平成20年2月20日から各支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,出光石油化学株式会社(以下「出光石油化学」という。)を吸収合
併した第1事件原告兼第2事件原告(以下「原告」という。)が,第1事件被
告株式会社ビーシー工業(以下「被告ビーシー工業」という。),第1事件被
告A(以下「被告A」という。),第2事件被告有限会社P商事(以下「被告
P商事」という。)及び第2事件被告B(以下「被告B」という。)に対
し,被告らが共同して,出光石油化学が保有する営業秘密であるポリカーボ
ネート樹脂製造装置(PCプラント)に関する別紙営業秘密目録1ないし3
記載の各図面及び図表に記載された情報(以下「本件情報」という。)を出光
石油化学の従業員をして不正に開示させて取得し,その取得した本件情報を
中国の企業に開示した行為が,不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為
又は民法709条の不法行為に該当する旨主張して,不正競争防止法3条1
項に基づく上記各図面及び図表の使用,開示の差止め,同条2項に基づく上
記各図面及び図表が記録された記録媒体の廃棄,同法4条(予備的に民法7
09条)に基づく損害賠償を求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者等
ア原告は,昭和15年3月30日に設立された,石油精製及び油脂製造
業,石油化学工業等を目的とする株式会社である。
出光石油化学は,昭和39年9月10日に設立された,石油化学製品
の製造及び販売等を目的とする株式会社であり,原告がその発行済株式
全部を保有する原告の完全子会社であった(甲28)。
原告は,平成16年8月1日,出光石油化学を吸収合併し(甲27,
28),その権利義務の一切を承継した。
イ被告ビーシー工業は,昭和53年6月30日に設立された,プラント
設備据付,補修,検査及び洗浄工事業等を目的とする株式会社であり,
被告Aは,その代表取締役である。
ウ(ア)被告P商事は,平成14年5月1日に設立された,合成樹脂製品
の再生・成型・加工及び販売・輸出入等を目的とする有限会社であ
り,被告Bは,その代表取締役である。
(イ)被告Bは,広島県内の工業高校を卒業後,昭和35年に原告に入
社し,昭和39年に出光石油化学の設立に伴って同社に移籍し,以
後,平成11年3月に退職するまで同社で勤務していた。
被告Bは,原告又は出光石油化学に在職中,原告徳山工場,出光石
油化学千葉工場などに勤務し,ポリスチレン(PS)樹脂,ポリカー
ボネート(PC)樹脂,ポリプロピレン樹脂等の製造業務に従事し
た。この間被告Bは,PC樹脂の製造装置に関わる業務として,昭和
35年から昭和39年までの間原告徳山工場のPCパイロットプラン
トにおける補助業務,昭和60年から平成元年までの間出光石油化学
千葉工場のPCプラントにおける装置運転業務に従事した。
被告Bは,出光石油化学退職後の平成11年中に,個人でプラスチ
ック樹脂を中国に輸出する事業を始め,平成14年5月1日にこれを
会社組織として被告P商事を設立した。
エ中国藍星(集団)総公司(以下「藍星」という。)は,中国北京市に本
社を置く,石油化学工業を営む中国法人である。
(2)PC樹脂の製造技術等(甲1,16,弁論の全趣旨)
アPC樹脂は,1953年(昭和28年)に,ドイツのバイエル社によっ
て開発された合成樹脂であり,それまでの汎用プラスチックに比べ,耐
熱性,耐衝撃性に優れた性質を有することから,電子機器,OA機器,
自動車部品,建材,医療機器,日用品など,様々な用途に使用されてき
た。特に近年では,パソコン筺体,DVD等の記録媒体の基板,液晶デ
ィスプレイ用のバックライト反射板などの用途において大きく需要を伸
張させている。
PC樹脂の製造技術には,界面重合法(「ホスゲン法」とも呼ばれ
る。)と溶融重合法(「エステル交換法」とも呼ばれる。)の2種類の方
法がある。界面重合法は,ビスフェノールAの苛性ソーダ水溶液と塩化
カルボニル(通称「ホスゲン」)とを,有機溶媒である塩化メチレンを用
い,触媒存在下で重合させる方法であり,混ざらない二つの液体を混ぜ
て反応界面を増加させること及び反応過程で生じる食塩を樹脂から取り
除くことが重要な技術課題となる。他方,溶融重合法は,高温・高真空
下で溶融させたビスフェノールAとジフェニルカーボネートとを,触媒
存在下でエステル交換反応により重合させる方法であり,高温下での反
応のため,反応中に生成する原料や樹脂の分解を防止することが重要な
技術課題となる。
イ平成20年2月当時,PC樹脂の製造について商業規模の自社技術を
有し活動している企業として知られていたのは,海外では,ドイツのバ
イエル社,アメリカ合衆国のSABICイノベーティブプラスチックス
社(旧GE社)及びダウケミカル社,国内では,帝人化成株式会社(以
下「帝人化成」という。),三菱瓦斯化学株式会社(以下「三菱ガス化
学」という。),原告,三菱化学株式会社(以下「三菱化学」とい
う。),旭化成株式会社(以下「旭化成」という。)の各社を中心とす
る8つの企業グループのみであった。これらの企業グループのうち,バ
イエル社,SABICイノベーティブプラスチックス社,三菱化学にお
いては界面重合法と溶融重合法の双方を,ダウケミカル社,帝人化成,
三菱ガス化学,原告においては界面重合法を,旭化成においては溶融重
合法をそれぞれの製造技術として保有している。これらのPC樹脂の製
造技術は,各企業グループがそれぞれ上記の技術課題を克服するための
研究開発,技術改良等を積み重ねて確立させた技術である。
ウPCプラントを設計するに当たって,その根幹となる技術資料は,Pip
ing&InstrumentDiagram(以下「P&ID」という。)及びProcessF
lowDiagram(以下「PFD」という。)である。P&IDは,PCプラ
ント内の各機器,それらをつなぐ配管,装置運転を制御するための計器
類をダイヤグラム形式で工程ごとに表した図面であり,PFDは,プラ
ント内の機器,配管を流通する流体の種類,流量,温度・圧力などの運
転条件が記載された図表である。また,これらの技術資料に基づいて,
PCプラント内で使用されるすべての機器の仕様が定められ,その情報
を記載した機器図が作成される。
P&ID,PFD及び機器図は,PCプラントの建設,運転,管理等
に使用される不可欠な技術資料である。
(3)原告及び出光石油化学によるPC樹脂の製造等(甲16,25,46,
弁論の全趣旨)
原告は,昭和32年にPC樹脂製造の基礎研究に着手し,昭和35年8
月に自社技術によるPCパイロットプラントを完成させ,本格的な製造研
究に乗り出した。
その後,原告及びその完全子会社である出光石油化学は,研究開発,技
術改良等を経て,界面重合法による自社技術を確立させ,原告は,昭和4
4年4月に原告徳山工場にPCプラントを完成させ,PC樹脂の製造を開
始した。
さらに,出光石油化学は,昭和60年に千葉工場第1PCプラントを,
平成2年に同じく千葉工場第2PCプラントを建設し,それぞれPC樹脂
の製造を開始し,その後出光石油化学を吸収合併した原告は,千葉工場の
各PCプラントにおいてPC樹脂の製造を行っている。
(4)出光石油化学と藍星との交渉経過(甲10,11,弁論の全趣旨)
藍星は,平成14年12月13日ころ,出光石油化学に対し,PC樹脂
製造事業に関する申入れをし,その後藍星と出光石油化学との間で協議が
行われた。
出光石油化学は,2003年(平成15年)1月24日付け書面(甲1
1)をもって,藍星に対し,双方の理解に相違があることなどを理由とし
て,上記申入れについての交渉を白紙に戻す旨通知した。
2争点
本件の争点は,原告主張の本件情報が「営業秘密」(不正競争防止法2条6
項)に当たるかどうか(争点1),被告らが,本件情報について,不正開示
行為であること若しくは不正開示行為が介在したことを知って,又は重大な
過失によりこれを知らないで,本件情報を取得し,藍星に開示する行為(不正
競争防止法2条1項8号の不正競争行為)を行ったかどうか(争点2),被
告らの不正競争行為により賠償すべき原告の損害額(争点3),仮に被告ら
による不正競争行為が認められない場合,被告らの行為が原告に対する民法
709条の不法行為を構成するかどうか(争点4−1)及び被告らの不法行
為により賠償すべき原告の損害額(争点4−2)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件情報の営業秘密性)について
(1)原告の主張
ア有用性
出光石油化学及び原告は,多大な期間,労力,資金を費やした研究開
発の結果,独自にPC樹脂の製造技術を開発し,それに基づいて,昭和
60年に千葉工場第1PCプラントを建設し,PC樹脂を製造してき
た。
これらの過程において,PC樹脂製造技術開発の成果及びノウハウが
集積されたものとして,別紙営業秘密目録1記載の各図面(P&I
D),同目録2記載の各図表(PFD)及び同目録3記載の機器図が作
成され,千葉工場第1PCプラントの建設,改造,増設,補修,運転,
管理等に使用されてきた。
上記P&IDは,設計当初は手書きで作成され,その後,たびたび行
われた図面の修正も手書きで行われていたが,平成13年にCAD(Com
puterAidedDesign。コンピュータを利用した製図)システムによって
作り直されたものである(以下,平成13年のCAD化前のP&IDを「
平成13年CAD化前の出光P&ID」,平成13年のCAD化以後の
P&IDを「平成13年CAD化後の出光P&ID」という場合があ
る。)。
このように別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表に記載
された情報(本件情報)は,PC樹脂の製造に有用な技術上の情報であ
る。
イ秘密管理性
出光石油化学及び原告は,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面
及び図表を千葉工場において保管してきた。
そして,①千葉工場は,塀で囲まれ,入口の詰所には常時守衛がお
り,外部の者が無断で出入りすることはできないこと,②上記各図面及
び図表が保管されている計器室の建物の入口には,「関係者以外立入禁
止」の表示があり,従業員であってもPS又はPC樹脂の製造に関係し
ない者が自由に立ち入ることは認められていないこと,③上記各図面及
び図表の電子データが記録されたフロッピーディスクを保管しているケ
ースには「持出禁止」のシールが貼付されていること,④上記各図面及
び図表について,業務と無関係に無断でコピーすることは許されていな
いこと,⑤計器室の建物の入口や上記各図面及び図表を保管しているロ
ッカーに鍵はかけられていないが,それは,千葉工場でのPC樹脂の製
造が24時間体制で行われているため,PCプラントを運転する現場に
おいても,常時これらの資料を参照する必要があるからであって,上記
各図面及び図表を自由に持ち出すことを許容する趣旨のものではないこ
と,⑥そもそもPC樹脂の製造技術は,世界で8つの企業グループしか
保有していない技術であり,出光石油化学又は原告の従業員であれば,
当然に営業秘密であることを認識できるものであること,以上の①ない
し⑥などからすれば,出光石油化学及び原告は,上記各図面及び図表に
記載された情報(本件情報)を秘密として管理してきたものといえる。
ウ小括
以上のとおり,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表に
記載された情報(本件情報)は,出光石油化学及び原告によって秘密とし
て管理され,PC樹脂の製造技術として有用な情報であって,しかも,
公然と知られていないものであるから,不正競争防止法2条6項の「営
業秘密」に当たる。
(2)被告らの主張
ア被告ビーシー工業及び被告Aの主張
原告の主張は争う。
イ被告P商事及び被告Bの主張
原告主張の本件情報の管理には,次のような問題点があり,本件情報
は,秘密管理性の要件を満たしているとはいえないから,不正競争防止
法2条6項の「営業秘密」に該当しない。
まず,原告主張の計器室建物内の資料保管ロッカーに収納されたフロ
ッピーディスクの管理については,ロッカーの置かれた位置が,計器室
の1階か2階かが不明であるが,ロッカーが1階に置かれている場合
は,計器室入口に「関係者以外立入禁止」の表示があったとしても,特
別の監視装置があるわけではないので,PS,PCの部署以外の従業員
が立ち入らないということはできず,誰か係員が監視していなければ,
鍵のかけられていないロッカーから容易にケースごとフロッピーディス
クを持ち去られる危険がある。また,ロッカーが2階に置かれている場
合は,ロッカー内のフロッピーディスクを持ち出す際のチェックはどの
ようにして行うのか,フロッピーディスクから所要の情報を画面上に出
し,これを印刷する際の手続はどうなっているのか,この操作を許容さ
れている従業員の範囲及び暗証番号等の規定はどうなっているのか不明
である。
このことは,書類についても同様であって,通常昼夜を問わず必要と
されるであろう各セクション毎の書類は,どこに,どのようにして保管
され,使用されているのか,PS,PCの部署の従業員が必要箇所を含
む1冊を持ち出して工場現場まで持ち込む際のチェック及び工場内に持
ち込んで必要箇所をコピーした際には何か記録に残すのか残さないの
か,その書類を記録室に返還する場合の手続はどのようなものであるの
か,工場内で夜間持ち出した書類を,丸ごとコピーして社外に持ち出す
危険はないのかなどの疑問が生じるのであるが,これらの手続について
規定があるのか,あるとすればその内容はどうなっているのか不明であ
る。
次に,退職者,転勤者らの訪問の際の取扱いが問題であり,その取扱
い如何によっては,本件営業秘密の社外への流出は十分防止できない。
正門において守衛を配置するのであれば,出入者は特別の者を除き身体
捜検を行う位の注意が必要であると考えられるが,守衛の任務について
の規定は不明である。
2争点2(被告らによる不正競争行為の有無)について
(1)原告の主張
ア(ア)被告らは,阿州エンジニアリング株式会社(旧商号「株式会社三共
プロセス・サービス」。以下「三共プロセス」という。)及びその代
表取締役のC(以下「C」という。)と共同して,PC樹脂の製造技
術を欲している藍星に対し,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図
面及び図表に記載された情報(本件情報)を開示することにより利益を
得ることを企て,被告Bにおいて出光石油化学の従業員をして本件情
報を不正に開示させて取得した。
すなわち,被告Bは,出光石油化学の従業員に千葉工場で保管され
ている別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表を持ち出す
よう働きかけ,当該従業員が持ち出した上記各図面及び図表に記載さ
れた情報(本件情報)を開示させてこれを取得し,平成15年から平
成16年にかけて,三共プロセスが立ち上げた各技術分野の技術者を
集めたプロジェクト・チーム(以下「三共PT」という。)に本件情
報を提供した。
三共PTは,そのころ,藍星が建設を予定している現地に合うよう
に本件情報の修正等を行い,被告ビーシー工業作成名義のPCプラン
トの設計図面等を作成した(以下,この修正等に係る設計図面等を「
三共PT作成図面等」という。)。
三共PT作成図面等は,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面
及び図表と実質的に同一である。
(イ)そして,被告ビーシー工業は,三共プロセスから受け取った三共
PT作成図面等を藍星に引き渡した。
(ウ)以上のような被告らの行為は,出光石油化学が保有する営業秘密
である本件情報について,不正開示行為であること若しくは不正開示
行為が介在したことを知って,又は重大な過失によりこれを知らない
で,本件情報を取得し,その取得した本件情報を藍星に開示する行為
であり,不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為に該当する。
イ被告らが前記アの不正競争行為を行ったことは,次の諸点から明らか
である。
(ア)甲16添付の別紙図面8ないし14が別紙営業秘密目録1記載の
各図面の一部を複製したものであること
甲16添付の別紙図面8ないし14(以下「甲16の図面8ないし
14」という。)は,三共プロセスの電気エンジニアリングマネージ
ャーの肩書で,電気技術者として三共PTに参加していたD(以下「
D」という。)が原告に提供した図面であり,三共PT作成図面等に
含まれるP&IDの一部である。
TITLEBCIndustrial甲16の図面8ないし14の右下の「」欄には「
」との記載があるところ,この記載は,被告ビーシー工業Company.Ltd.
の英語表記であり,被告ビーシー工業の作成名義の図面であることを
示している。
一方で,甲16添付の別紙図面1ないし7(以下「甲16の図面1
ないし7」という。)は,原告が作成した平成13年CAD化後の出
光P&IDの一部であり,別紙営業秘密目録1記載の各図面に含まれ
る。
甲16の図面1ないし7とこれらに対応する甲16の図面8ないし
14とを対比すると(具体的には,図面1と8,2と9,3−1と1
0−1,3−2と10−2,4と11,5と12,6と13,7と1
4),P&IDの主要な事項である,①主原料及び製品流体の流れ並
びにそれらが直接係わる機器,②その他の流体等の流れ及びそれらが
直接係わる機器,③制御のための機器類及び信号ラインのいずれにお
いても,ほとんど同一である。
したがって,甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14
は,実質的に同一である。
このことは,東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻の
E教授(以下「E教授」という。)作成の技術鑑定結果報告(甲1
6)において,甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14
について,PC樹脂の製造技術の状況を前提にプロセスフロー図の類
似性,主要機器の類似性,各図面の比較検討を行った結果,極めて類
似しているとして,甲16の図面8ないし14は甲16の図面1ない
し7を複製して作成したものと判断されていること,原告技術部担当
課長F(以下「F」という。)作成の報告書(甲25)においても,原
告のPC樹脂の製造技術の特徴を基にして,上記①ないし③の点につ
いて具体的かつ詳細に比較検討を行った結果,甲16の図面9ないし
14と甲16の図面2ないし7は実質的に同一であると判断されてい
ることからも裏付けられる。
そして,甲16の図面1ないし7及び甲16の図面8ないし14
は,その記載内容からも明らかなように極めて複雑精巧なものであ
り,その記載が偶然一致するようなことはあり得ないこと,PC樹脂
の製造技術は,多くの専門的技術的ノウハウを要するものであり,原
告を含む8社を中心とする8つの企業グループしか同製造技術を保有
していないこと,藍星が独自に作成したP&IDとして提出された乙
1の1,2は,甲16の図面8ないし14と全く異なるものであるこ
とによれば,甲16の図面8ないし14は,別紙営業秘密目録1記載
の各図面の一部である甲16の図面1ないし7を複製して作成された
ものとしか考えられない。
(イ)本件情報全体との関係
三共プロセスは,各分野の技術者を集めた三共PTにおいて,被告
Bから提供された千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD,機
器図等の修正作業を行い,平成16年6月に国内での作業を終了し,
同年10月末に中国現地に併せた修正も終了し,藍星が計画するPC
プラントについての基本設計を完成させた。
PCプラント建設のためには,甲16の図面8ないし14だけでは
なく,PC樹脂の製造工程全てについてのP&ID,PFD及び機器
一台ごとに表した機器図の全てが必要となるが,これらは一連の実験
や実測データに基づくノウハウにより定められるもので相互に密接に
関連しており,他社が開発した技術と組み合わせて使用できるような
ものではない。
出光石油化学の千葉工場第1PCプラントにおいても,全ての工程
のP&IDは,合計60枚あり,このような多数の図面がなければP
Cプラントを建設することはできない。しかも,甲16の図面8は,
甲16の図面1のシンボル(記号)リストを複製したものであるが,
シンボルリストはP&IDのシンボルを全体として統一して記載する
ためのものであるから,シンボルリストを複製するということは,P
&ID全てについて複製することを前提とするものである。
上記のとおり,三共PTが藍星が計画するPCプラントについての
基本設計(P&ID,PFD,機器図等を含む。)を完成させている
以上,三共PTは,甲16の図面1ないし7を複製して甲16の図面
8ないし14を作成したにとどまらず,別紙営業秘密目録1ないし3
記載の各図面及び図表の全てを入手し,複製している。
(ウ)出光石油化学以外の経路から本件情報を入手した可能性がないこ

被告P商事及び被告Bは,後記のとおり,被告Bは,平成15年5
月ころ,中国の藍星本社に行った際に,藍星から,本件情報に係る資
料を直接手渡されたものであり,上記資料は,出光石油化学によるオ
ランダ,ブラジル,台湾での合弁事業から流出し,それを藍星が入手
していた可能性がある旨主張する。
しかし,被告P商事及び被告Bの主張は,以下のとおり,理由がな
い。
a甲16の図面1ないし7は,図面の右下に「CAD化による作
図」として「‘01.10.31」などの記載があり,いずれも平
成13年CAD化後の出光P&IDである。
甲16の図面8ないし14は,甲16の図面1ないし7のCAD
データを複製して作成されたものである。
すなわち,甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14
とを比較すると,縮尺率が異なっていたり,一部機器の移動,省略,
簡易化,中国向け仕様による修正等がされるなど完全に一致するもので
はないが,多くの主要機器や配管等の位置関係が同じである上,字
体,引き出し線の位置,角度の大半までが一致しており,CAD化
前の手書きの図面に基づいて作成した場合に,ここまで一致するこ
とはあり得ない。
また,①甲16の図面5では,そのタイトル欄に記載されている
ように,粘度計である「」が平成13年CAD化後の「2XVIS3466
002年4月30日」に加えられているが,甲16の図面12にも
同様に粘度計と思われる配管構成の記載があること,②甲16の図
面7では,「」(サンプリングボックス)が平成SAMPLINGBOX
13年CAD化後の「2002年4月30日」に加えられている
が,甲16の図面14にも同様に「」の記載があるこSamplingBox
とによれば,甲16の図面8ないし14は,平成13年CAD化後
の出光P&IDのCADデータを複製して作成されたものとしか考
えられない。
他方,被告P商事及び被告Bが主張するオランダ,ブラジル,台
湾の合弁事業は,千葉工場第1プラントのP&IDがCAD化され
る平成13年より前に行われたものであるから,上記合弁事業にお
いて流出した資料に基づいて甲16の図面8ないし14が作成され
たということはできない。
bまた,甲23は,出光石油化学の千葉工場第2PCプラントのP
&IDのシンボル(記号)をベースに1989年(平成元年)に作
成され,同時期の前記aの合弁事業の計画段階で用いられたもので
あるが,これらのシンボルと,甲16の図面8のシンボルとでは,
レイアウトが異なっている上に,個々のシンボルの形状が異なって
いたり,該当するシンボルが欠けているものも多い。甲16の図面
8ないし14が上記合弁事業から流出した資料に基づいて作成され
たのであれば,当然,P&IDのシンボルが甲23と同じになるは
ずであるから,甲16の図面8ないし14が上記合弁事業から流出
したものでないことは明らかである。
cしたがって,本件情報に係る資料が前記aの合弁事業から流出
し,それを藍星が入手していた事実はない。
(エ)被告らの本件情報の具体的取得経過
被告らは,被告Bが出光石油化学の従業員であったG(以下「G」
という)及びH(以下「H」という。)に働きかけて,出光石油化学
が保管する別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表を持ち
出させて本件情報を取得した。このことは,以下の事実から裏付けら
れる。
a本件情報は公表されたものではなく,前記(ウ)の合弁事業から流
出したものでもないから,被告Bが本件情報を取得するためには,
出光石油化学から不正に持ち出す以外に方法はない。被告BがCに
PC樹脂の製造方法の説明等をしたとする平成15年7月の時点に
おいて,G(平成15年10月31日退職)及びH(平成16年1
月31日退職)は,いずれも出光石油化学に従業員として在職して
おり,両名が出光石油化学から別紙営業秘密目録1ないし3記載の
各図面及び図表を持ち出すことは可能な状況にあった。
bHは,平成15年の秋以降に,被告Bから,千葉工場第1PCプ
ラントに係る洗浄塔,分離槽など4箇所ほどの機器についての機器
図の提供を求められ,これに応じて当該機器図を千葉工場内でコピ
ーし,それらのコピー図面を持ち出し,被告Bに渡している。
Hは,PC樹脂製造技術開発の資料をまとめて保管する作業を行
っており,千葉工場内で本件情報全てを容易にコピーすることがで
きる状況にあった。このような状況の下で,上記4か所ほどの機器
についての機器図の変更を行うために,不正に機器図を出光石油化
学から持ち出すのであれば,P&IDの記載も変更する必要がある
から,変更されているP&IDについても持ち出すのが自然であ
る。
以上によれば,Hが被告Bから求められて,原告から持ち出した
資料は,上記機器図だけではなく,別紙営業秘密目録1ないし3記
載の各図面及び図表の全てであるとしか考えられない。
(オ)被告ビーシー工業及び被告Aの関与
a被告ビーシー工業は,I(以下「I」という。)に対し,藍星が
中国に建設を予定しているPCプラントに関する業務について統括
管理者としての業務を委託した。
Iは,上記委託を受けて,三共PTにおいて,①設計事務所から
交付される基本設計書をチェックすること,②被告ビーシー工業の
客先に基本設計書を引き渡し,客先と設計会談を行い,客先から質
問等を受け,それについて被告ビーシー工業からの発注先である設
計事務所に問い合わせた上で,その質問等の回答を客先に伝えるこ
と,③設計業務の進行についての工程管理をすること,④プロジェ
クトに関わるエンジニアの能力判断等をすることなどの業務を行
い,被告ビーシー工業の代表取締役である被告Aに対し,これらの
業務についての報告をしている。
このように被告ビーシー工業及び被告Aは,藍星が中国に建設を
予定しているPCプラントに関する三共PTの業務を,Iを用いて
主体となって推進していた。
b被告Aは,Iから前記aのとおりの報告を受けていたほか,被告
Bに複数回会ったり,三共PTによる作業が行われていた現場にも
4,5回行っており,三共PTのメンバー,藍星の担当者,中国で
詳細設計をする「第二設計院」の担当者のことも知っていた。
また,そもそもPC樹脂の製造技術は,多くの専門的技術的ノウ
ハウを要するもので,世界でも原告を含めた8企業グループしか保
有していない技術であるから,被告Aにおいても,被告B又は三共
PTが提供するPCプラントに関する情報が被告B自身又は三共P
Tが自ら開発したものでもなければ,出光石油化学の承諾を受けた
ものでもないことを認識していたはずである。
そして,三共PTにおいては,被告BらについてYグループ等の
仮名が使われ,被告Bに接触できる者がCとIの二人に制限される
などしており,通常のプロジェクトでは考えられない異常な状況に
あり,三共PTに参加していたD,J(以下「J」という。)や,
被告ビーシー工業から業務委託を受けたK(以下「K」という。)
においてもデータの出所がおかしいと認識していたのであるから,
Iから全ての報告を受けている被告Aにおいても,被告Bから提供
されるPCプラントに関する情報が出光石油化学から不正に取得し
たものであることを知らなかったとは考えられない。
したがって,被告Aが,被告Bから提供されるPCプラントに関
する情報が出光石油化学から不正に取得したものであることを認識
していたことは明らかである。
cそして,被告ビーシー工業及び被告Aは,被告Bが出光石油化学
が保有する別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表に記
載された情報(本件情報)を不正に取得して提供するものであるこ
とを認識しながら,三共プロセスを介して上記各図面及び図表と実
質的に同一の三共PT作成図面等を取得し,これらを藍星に引き渡
し,藍星に対し,本件情報を開示した。
(2)被告らの主張
ア被告ビーシー工業及び被告Aの主張
(ア)被告ビーシー工業及び被告Aが,出光石油化学の従業員に働きか
けて本件情報を不正に開示させて取得した事実はない。
被告ビーシー工業は,以下のとおり,藍星からPC樹脂の生産につ
いて支援要請を受けて支援をした。しかし,被告ビーシー工業が藍星
から依頼されたのは,あくまで藍星が保有するPC樹脂製造の基礎と
なる図面を修正し,実用化に耐えるものとすることであり,PC樹脂
の製造技術そのものを入手するということではなく,三共PTが行っ
た作業も,そのような技術支援にすぎない。藍星がもともとPCプラ
ントの設計図面を保有していたことは,藍星から許可を得て本件訴訟
において提出した当該設計図面の一部である乙1の1,2が存在する
ことから明らかである。
a被告ビーシー工業は,1989年(平成元年)ころから,藍星と
業務提携を行っていたところ,2002年(平成14年)2月こ
ろ,藍星からPC樹脂の生産について,支援要請を受けた。藍星の
説明では,同社は,既にPC樹脂の生産に関する基礎的な技術を独
自に開発していたが,未だ本格的生産に至るものではなく,被告ビ
ーシー工業にその支援業務を行ってもらいたいとのことであった。
被告ビーシー工業は,PCに関する技術について何らの経験,知
識も有していなかったが,藍星の要請に応じるため,日本国内にお
いて広く人材を求めることとし,東京,名古屋,大阪,松山,広
島,岡山,福岡,神奈川等の人材銀行に求人依頼をし,また,自社
のホームページでも,同様の求人を行った。
なお,藍星が被告ビーシー工業に依頼したのは,被告ビーシー工
業が自ら図面の修正等を行うというものではなく,その技術を有す
る者を探し出し,これに委託することが当然の前提とされていた。
b被告ビーシー工業は,2003年(平成15年)4月ころ,種々
あった応募の中から,三共プロセスを技術支援元に決定することと
し,その後,三共プロセスが中心となってPC技術支援プロジェク
トチーム(三共PT)を立ち上げることとなった。これに先立つ同
年2月15日,被告ビーシー工業と藍星は,上記支援業務に関し,
秘密保持契約を締結した。その秘密保持契約書(乙2)には,三共
プロセスが図面の修正作業等の受託先に内定していたこともあっ
て,三共プロセスの代表取締役のCも署名した。
三共PTのメンバーは,同年4月21日,東京都内の日中友好会
館で,藍星の保有するPC生産に関する設計図等の検討会を行っ
た。同検討会には,藍星の幹部及び技術者も出席した。
上記検討結果を踏まえ,藍星の技術を補完すべく,三共PTのメ
ンバーによる図面の修正等の作業が行われた。その成果物は,順次
藍星側に引き渡されたが,2004年(平成16年)12月になっ
て三共プロセスが倒産したこともあって,以後の作業は,藍星が独
自に行うこととなり,三共PTは解散することとなった。
その後,藍星においては,PC生産が現地の排水,排気ガスの規
制を遵守できないことが判明し,藍星において,PCプラント設備
を建設しないこととなった。
(イ)仮に被告ビーシー工業及び被告Aが本件情報を入手した事実があ
るとしても,それが不正開示によること又は不正開示行為が介在して
いることについて,被告ビーシー工業及び被告Aは認識しておらず,
認識していないことについて重過失もない。
すなわち,被告ビーシー工業及び被告Aは,藍星が中国に建設を予
定しているPCプラントに関する業務について,内容的なことは三共
プロセスに全面的に委せていたものであり,その詳細を知り得る立場
にはなかった。三共PTに関与していたI及びKは,いずれも,被告
ビーシー工業のマネージャーの肩書が記載された名刺を有してはいた
が,それは便宜上のものにすぎず,実際には被告ビーシー工業の従業
員ではなく,被告ビーシー工業が三共PTと藍星との間の連絡調整役
の業務を個別に委託していた者にすぎない。しかも,I及びKは,三
共PTによる図面等の作成自体には関与していないから,被告ビーシ
ー工業及び被告Aが,I及びKを通じて,三共PTによる作業の詳細
を知り得たものでもない。
甲3(甲16の図面9と同じもの)及び甲5(甲16の図面14と同
じもの)の右下の「」欄に,被告ビーシー工業の英語表記がされTITLE
ているのは事実であるが,これは,藍星との契約当事者が被告ビーシ
ー工業であり,修正した図面等を藍星に納品するために被告ビーシー
工業の名称が記載されていないとその後の手続に支障があることから
便宜上行われたものであって,被告ビーシー工業が作成した図面であ
ることを示すものではない。
また,被告ビーシー工業及び被告Aは,本件訴訟の提起前に,出光
石油化学及び原告に直接接触したことはなく,ましてや千葉工場の存
在など知らなかったのであるから,本件情報を不正に取得することを
企てることなどあり得ない。
(ウ)甲3(甲16の図面9と同じもの)及び甲5(甲16の図面14と
同じもの)は,三共プロセスに雇われて三共PTの業務に従事してい
たDが原告に提供したものであるところ,Dが,三共プロセスが保有
する図面を同社に無断で第三者に開示することは違法な行為に当た
り,被告ビーシー工業と藍星との間の前記(ア)bの秘密保持契約に係
る秘密保持義務にも違反することになるから,これらの証拠は,違法
に収集された証拠として,証拠能力を欠くというべきである。
(エ)以上のとおり,被告ビーシー工業及び被告Aが原告主張の不正競
争行為を行った事実はない。
イ被告P商事及び被告Bの主張
(ア)被告Bが出光石油化学の従業員に働きかけて本件情報を不正に開
示させてこれを取得した事実はない。
被告Bは,平成14年の年末ころ,大日本インキ株式会社四日市工
場(以下,単に「大日本インキ」という。)の関係者から,三共プロ
セスの代表取締役のCがPCの分かる者を探しているという話を聞
き,Cに電話したところ,藍星が中国に建設を予定しているPCプラ
ントについての技術支援の要請を受け,これを了承した。
その後,被告Bは,平成15年春ころ,東京都内の日中友好会館
で,被告A,C,藍星の担当者らとの会合を持った後,同年6月に,
藍星の招きにより北京市所在の藍星の本社を訪問した。
被告Bは,その訪問の際,藍星から,藍星が保有するPCプラント
に関するP&IDを含む多数の図面等の資料を手渡されて,日本に持
ち帰った。上記資料は,作成日時及び作成者等の欄が抹消されてはい
たが,ホスゲン法による原告のPC製造等に関するものであった。ま
た,不足している部分があるなど資料として完全なものではなかっ
た。
その後,被告Bは,同年7月ころ,Cとの間で,被告Bにおいて,
藍星から手渡された上記資料中の英文は和文に翻訳し,不足している
部分を追加すると同時に,余分の箇所を削除するなどの整理をした上
で,順次図面等を三共プロセスのCに引き渡すこと,これらの図面等
に基づいて年産1万トンクラスのPC樹脂の製造方法を説明すること
などの業務を引き受けることを合意した。
被告Bは,同年9月までに,上記図面等を順次三共プロセスに引き
渡し,同年10月ころ以降は,Cからの要求に応じて,PC樹脂の製
造方法を説明するなどした。
このように被告Bが三共プロセスに提出したPCプラントの設計図
面等(以下「被告B提出図面等」という。)は,藍星が保有し,被告B
に手渡された上記図面等を被告Bにおいて整理したものであって,被
告Bが出光石油化学の従業員に働きかけて,同社から持ち出させたも
のではない。
(イ)仮に被告B提出図面等が別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図
面及び図表と同一のものであったとしても,出光石油化学は,海外(
オランダ,ブラジル,台湾)においてPC製造に関する合弁事業等を
行っていた事実があり,これらの事業の過程で流出したPCプラント
に関する資料を藍星が入手し,それを被告Bに渡した可能性もあるか
ら,これらが同一であるからといって被告Bが藍星から被告B提出図
面等の基となった図面等を取得したという事実が否定されることには
ならない。
(ウ)a原告は,被告Bが,出光石油化学の従業員であったG及びHに
働きかけて,出光石油化学が保管する本件情報に係る資料を持ち出
させたものである旨主張するが,そのようなGやHによる資料持ち
出しの事実はない。
かえって,Gは,平成10年6月に出光石油化学の千葉工場から
関東第一支店営業課に,次いで平成15年4月に東北支店(仙台
市)に転勤となり,同年10月末に退社しているのであるから,平
成13年のCAD化以降の時点において,Gが千葉工場に保管され
ていた第1PCプラントに関する設計図面等に接近し,本件情報に
係る大量の資料をコピーすることは困難であったというべきであ
る。
また,Hは,平成13年以降も出光石油化学千葉工場に勤務して
いたが,H自身が,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び
図表を千葉工場から持ち出した事実を明確に否定している。
bなお,Hは,本件第2回口頭弁論期日(平成21年10月15
日)に実施された証人尋問において,平成15年秋ころ,被告Bか
ら,出光石油化学千葉工場第1PCの洗浄塔,分離槽など4か所ほ
どの機器についての機器図を提供するよう求められ,千葉工場に保
管中の当該箇所の機器図をコピーし,それらを被告Bに渡した旨供
述している。
Hは,これまで原告の事実調査など受けても,千葉工場第1PC
プラントに関する資料を社外に持ち出した事実については,終始こ
れを否認していたにもかかわらず,平成21年5月27日,福岡市
内の貸事務所において,東京から赴いてきた原告副社長のL,原告
化学管理部のM及び原告訴訟代理人弁護士鈴木正勇の3名から,種
々糾問された結果,上記の事実を認めるに至ったものである。
しかしながら,上記会話の内容を記録した録音の反訳文(丙5の
1)によれば,上記3名は,Hに対し,随所において利益誘導や威
圧を加えている。すなわち,Hは,原告側の誘導に従って資料持ち
出しの事実を認めれば,被告Bのように本件訴訟を提起しないし,
損害賠償の金額も加減するが,否認を通せば,被告Bと同様の対応
をせざるを得ない旨申し向けられたために,事実に反して自己に不
利な上記事実を認めたのであり,その供述が原告側の利益誘導と威
圧の結果であることは明白である。
したがって,機器図の持ち出しに関するHの供述は信用できな
い。
(エ)以上のとおり,被告P商事及び被告Bが原告主張の不正競争行為
を行った事実はない。
3争点3(不正競争行為による損害額)について
(1)原告の主張
ア不正競争防止法5条2項又は3項3号の損害額
(ア)被告ビーシー工業は,被告らが本件情報を藍星に開示した行為に
より,640万米ドル(1ドル120円換算で7億6800万円)の
報酬の支払を受けている。
被告らは,出光石油化学の技術を違法に複製して図面等を作成した
ものにすぎず,当該作成について技術開発費用を支出していないか
ら,上記支払額と同額の利益を受けたといえる。
したがって,上記7億6800万円は,不正競争防止法5条2項に
より,被告らの不正競争行為によって出光石油化学が受けた損害額と
推定される。
(イ)また,仮に被告らが前記(ア)の7億6800万円の利益を受けて
いないとしても,被告らによる不正競争防止法2条1項8号の不正競
争行為によって侵害された営業秘密である本件情報の「使用」(開示
行為)に対し受けるべき金額に相当する金額(同法5条3項3号)
は,7億6800万円が相当である。
したがって,出光石油化学の権利を承継した原告は,被告らに対
し,不正競争防止法5条3項3号に基づく損害賠償として7億680
0万円の支払を求めることができる。
この点,出光石油化学は,Qとの間のPC製造プロセスのライセン
ス契約において,ライセンスの対価として,年産5万トンの第1プラ
ントについて,3200万米ドルの支払を受けるものとされている(
甲48の第4.2条a)1)項)。このような実例からしても,被告
らによる上記不正競争行為によって侵害された営業秘密である本件情
報の「使用」(開示行為)に対し受けるべき金額に相当する金額は,
7億6800万円(640万米ドル)を下回らないことは明らかであ
る。
(ウ)したがって,被告らの本件不正競争行為により出光石油化学が被
った損害は,3億円を下回ることはない。
イ弁護士費用相当額
原告は,被告らの本件不正競争行為により訴訟提起を余儀なくされた
ところ,被告らの本件不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用の
額は2700万円を下らない。
ウ小括
したがって,出光石油化学の権利を承継した原告は,被告らに対し,
不正競争防止法4条に基づく損害賠償として3億2700万円(前記ア
及びイの合計額)の一部である2億9700万円及びこれに対する不正
競争行為の後である訴状送達の日(被告ビーシー工業においては平成1
9年3月9日,被告Aにおいては同月16日,被告P商事及び被告Bに
おいては平成20年2月20日)から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
(2)被告らの主張
原告の主張はいずれも争う。
4争点4−1(被告らによる不法行為の成否)及び争点4−2(不法行為に
よる損害額)について(予備的損害賠償請求)
(1)原告の主張
ア本件情報は,原告又は出光石油化学が蓄積していた技術開発力をもと
に,多大な期間,労力,資金を費やして開発したPC樹脂の製造技術の
成果及び同製造のノウハウが集積されたものであり,一切外部に公表す
ることなく保有していたものである。仮に前記2(1)のような方法により
本件情報を取得し開示した被告らの行為が不正競争行為に該当しないと
しても,被告らの行為は,自由競争原理を明らかに逸脱する違法なもの
であり,出光石油化学に対する民法709条の不法行為を構成する。
イ被告らの前記アの不法行為により出光石油化学が受けた損害額は,2
億7000万円をはるかに上回るものであり,少なくとも同額の損害が
生じたことは明らかである。
加えて,原告は,被告らの上記不法行為により訴訟提起を余儀なくさ
れたところ,被告らの上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の
額は2700万円を下らない。
ウしたがって,出光石油化学の権利を承継した原告は,被告らに対し,
民法709条の不法行為による損害賠償として2億9700万円(前記
イの合計額)及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日(被告
ビーシー工業においては平成19年3月9日,被告Aにおいては同月1
6日,被告P商事及び被告Bにおいては平成20年2月20日)から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め
ることができる。
(2)被告らの主張
原告の主張はいずれも争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(本件情報の営業秘密性)について
原告は,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表に記載された
情報(本件情報)は,原告及びその完全子会社である出光石油化学が独自に開
発したPC樹脂製造技術開発の成果及びノウハウが集積されたものとして出
光石油化学千葉工場において秘密として管理されてきた有用な技術上の情報
であって,公然と知られていないものであるから,不正競争防止法2条6項
の「営業秘密」に当たる旨主張する。
(1)判断の前提となる事実
前記争いのない事実等と証拠(甲1,6,7,16,22,25(枝番
のあるものは枝番を含む。),証人H)及び弁論の全趣旨を総合すれば,
本件情報の内容,管理状況等に関し,以下の事実が認められる。
アPC樹脂の製造技術等
(ア)PC樹脂(ポリカーボネート樹脂)は,1953年(昭和28年)
に,ドイツのバイエル社によって開発された合成樹脂であり,それま
での汎用プラスチックに比べ,耐熱性,耐衝撃性に優れた性質を有す
ることから,電子機器,OA機器,自動車部品,建材,医療機器,日
用品など,様々な用途に使用されてきた。
平成20年2月当時,PC樹脂の製造について商業規模の自社技術
を有し活動している企業として知られていたのは,海外では,ドイツ
のバイエル社,アメリカ合衆国のSABICイノベーティブプラスチ
ックス社(旧GE社)及びダウケミカル社,国内では,帝人化成,三
菱ガス化学,原告,三菱化学,旭化成の各社を中心とする8つの企業
グループのみであった。
PC樹脂の製造技術には,界面重合法(「ホスゲン法」とも呼ばれ
る。)と溶融重合法(「エステル交換法」とも呼ばれる。)の2種類の
方法があるところ,上記企業グループのうち,バイエル社,SABI
Cイノベーティブプラスチックス社,三菱化学においては界面重合法
と溶融重合法の双方を,ダウケミカル社,帝人化成,三菱ガス化学,
原告においては界面重合法を,旭化成においては溶融重合法をそれぞ
れの製造技術として保有している。
これらの製造技術は,上記企業グループがそれぞれの研究開発,技
術改良等を積み重ねて確立させたものであり,それぞれが独自の技術
である。
(イ)PCプラント(PC樹脂製造装置)の設計に当たっては,①P&
ID(PCプラント内の各機器,それらをつなぐ配管,装置運転を制
御するための計器類をダイアグラム形式で工程ごとに表した図面),
②PFD(PCプラント内の機器,配管を流通する流体の種類,流
量,温度・圧力などの運転条件が記載された図表),③P&ID及び
PFDに基づいて定められたPCプラント内で使用されるすべての機
器の仕様に係る情報を記載した機器図が作成される。
P&ID,PFD及び機器図は,PCプラントの建設,運転,管理
等に使用される不可欠な技術資料である。
イ原告及び出光石油化学によるPC樹脂の製造等
(ア)原告は,昭和32年にPC樹脂製造の基礎研究に着手し,昭和3
5年8月に自社技術によるPCパイロットプラントを完成させ,本格
的な製造研究に乗り出した。
その後,原告及びその完全子会社である出光石油化学は,研究開
発,技術改良等を経て,界面重合法による自社技術を確立させ,原告
においては,昭和44年4月に原告徳山工場にPCプラントを完成さ
せ,PC樹脂の製造を開始し,出光石油化学においては,昭和60年
に千葉工場第1PCプラントを,平成2年に同じく千葉工場第2PC
プラントを建設し,それぞれPC樹脂の製造を開始した。
その後,原告は,平成16年8月1日に出光石油化学を吸収合併
し,以後,千葉工場の各PCプラントにおいて,PC樹脂の製造を行
っている。
(イ)出光石油化学は,次のとおり,海外でPC樹脂の製造に関する合
弁事業等を行ってきた。
a出光石油化学は,1981年(昭和56年),ブラジルのRとの
間で,出光石油化学が保有するPC樹脂の製造技術情報等に関する
技術供与契約を締結し,そのころ,同社に対して,当該技術情報等
を供与した。
b出光石油化学は,1988年(昭和63年)6月13日,オラン
ダのSとの間で,合弁会社を通じて,出光石油化学が保有するPC
樹脂の製造技術に基づくPC樹脂の製造,販売等を行うための合弁
契約を締結した。その後,上記合弁契約は,1990年(平成2
年)7月31日に終了した。
c出光石油化学は,平成7年ころ,台湾の会社と共同で,出光石油
化学が保有するPC樹脂の製造技術に基づくPC樹脂の製造,販売
等を行うための合弁会社を設立したが,その合弁は後に解消され
た。
ウ別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表の管理状況等
(ア)別紙営業秘密目録1記載の各図面(P&ID),同目録2記載の
各図表(PFD)及び同目録3記載の機器図は,出光石油化学(前記
イ(ア)の吸収合併後は原告)の千葉工場第1PCプラントのP&I
D,PFD及び機器図である。
千葉工場第1PCプラントのP&IDは,設計当初は手書きで作成
され,その後,たびたび行われた図面の修正も手書きで行われてきた
が,平成13年にCADシステムによって作り直され,CAD化され
ている。
別紙営業秘密目録1記載の各図面(P&ID)は,「CAD化によ
る作図」がされた図面であり,平成15年2月から3月にかけての定
期見直し(以下「平成14年度末定期見直し」という。)が実施され
た時点におけるP&IDである。このように別紙営業秘密目録1記載
の各図面(P&ID)は,平成13年にCAD化された後のP&I
D(平成13年CAD化後の出光P&ID)である。
甲16の図面1ないし7は,平成13年CAD化後の出光P&ID
の一部であり,図面1は別紙営業秘密目録1記載のP&ID中の別
紙「千葉工場第1ポリカーボネート装置P&IDリスト」の№2の図
面(図面番号PC−00−GD−00B01)に,図面2は№5の図面(図面番号
PC−07−GD−078−8A−07802)に,図面3−1は№9の図面(図面番
号PC−62−GD−237−B−07831)に,図面3−2は№10の図面(図面
番号PC−62−GD−238−B−07832)に,図面4は№17の図面(図面番
号PC−07−GD−078−8A−07839)に,図面5は№19の図面(図面番
号PC−07−GD−079−6A−07902)に,図面6は№24の図面(図面番
号PC−07−GD−080−A−08002)に,図面7は№38の図面(図面番号
PC−07−GD−081−8A−08108)にそれぞれ対応する。
ただし,甲16の図面2,3−2,4,5,6においては,平成14
年度末定期見直し後に一部修正が行われている。
(イ)平成18年ないし平成19年の時点において,別紙営業秘密目録
1ないし3記載の各図面及び図表(P&ID,PFD及び機器図)並
びにその電子データ(CADデータ)が記録されたフロッピーディス
クは,原告千葉工場のPS・PC計器室内に保管されていた。
千葉工場は,周囲に塀がめぐらされ,敷地内への出入口にはゲート
が設置されており,そのゲート脇には,守衛が駐在する詰所があり,
外部の者が構内に出入りする際には,詰所において入出構手続をとる
必要があり,許可のない者が入構することはできなかった。
上記PS・PC計器室は,独立した一つの建物となっており,その
建物出入口の扉には,「関係者以外立入禁止」の表示が付されてお
り,上記各図面及び図表(P&ID,PFD及び機器図)及び上記フ
ロッピーディスクは,上記PS・PC計器室にあるロッカー内に保管
されていた。
上記ロッカー内の上記フロッピーディスクが入れられたケースの表
面には,持ち出しを禁止する旨が記載されたシールが貼付されてい
た。
なお,上記PS・PC計器室の建物出入口及び上記ロッカーは,施
錠されていなかった。
(2)前記(1)の認定事実を前提に,本件情報が「営業秘密」(不正競争防止
法2条6項)に当たるかどうかについて判断する。
ア有用性及び非公知性
まず,前記(1)の認定事実によれば,本件情報(別紙営業秘密目録1な
いし3の各図面及び図表に記載された情報)は,原告及び出光石油化学
が独自に開発したPC樹脂の製造技術に基づいて設計された,出光石油
化学千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD及び機器図であっ
て,同PCプラントの具体的な設計情報であり,同PCプラントの運
転,管理等にも不可欠な技術情報であるから,出光石油化学及び同社を
吸収合併した原告のPC樹脂の製造事業に「有用な技術上の情報」であ
ることは明らかである。
次に,平成20年2月当時,PC樹脂の製造について商業規模の自社
技術を有するものとして知られていたのは,世界でも8つの企業グルー
プに限られ,それぞれの技術は各企業グループが研究開発等によって確
立させた独自の技術であり,原告及び出光石油化学が有していたPC樹
脂の製造技術も,その中の一つであること(前記(1)ア(ア))に照らすな
らば,千葉工場第1PCプラントの設計情報である本件情報は,世界的
にも稀少なものといえるから,その性質上,出光石油化学及び原告にと
って秘匿性が高く,社外の者に開示されることがおよそ予定されていな
い情報であることは明らかであり,現に,本件情報が公刊物に記載され
ているなど,一般的に入手し得る状況にあることをうかがわせる証拠は
ない。
したがって,本件情報は,「公然と知られていないもの」であること
が認められる。
イ秘密管理性
(ア)平成18年ないし平成19年の時点における本件情報の管理状況
は,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,別紙営業秘密目録1ないし3記載の
各図面及び図表(P&ID,PFD及び機器図)並びにその電子デー
タ(CADデータ)が記録されたフロッピーディスクが千葉工場のP
S・PC計器室内のロッカー内に保管され,上記PS・PC計器室の
建物出入口の扉には「関係者以外立入禁止」の表示が付され,上記ロ
ッカー内の上記フロッピーディスクが入れられたケースの表面には,
持ち出しを禁止する旨が記載されたシールが貼付されていたものであ
り,また,外部の者が千葉工場の構内に出入りする際には,守衛が駐
在する詰所において入出構手続をとる必要があり,許可のない者が入
構することはできなかったものである。
平成15年ないし平成16年当時の千葉工場における本件情報の管
理状況も,おおむね上記管理状況と同様であったものと推認される。
加えて,本件情報の上記管理状況及び弁論の全趣旨によれば,本件
情報が,世界的にみても稀少といえる,原告及び出光石油化学が独自
に開発したPC樹脂の製造技術に基づいて設計されたPCプラントに
ついての具体的な設計情報であり,その性質上,出光石油化学及び原
告にとって秘匿性が高い情報であること(前記ア)は,少なくとも出
光石油化学千葉工場の従業員であれば,一般的に認識していたものと
推認される。
以上を総合すれば,本件情報は,平成15年ないし平成16年当時
の出光石油化学千葉工場において,従業員以外の者はそもそもアクセ
スすることができず,また,従業員であっても,特定の関係者以外は
アクセスが制限され,さらに,アクセスした従業員においても,それ
が秘密情報であることが認識し得るような状況の下で管理されていた
ものと認められるから,本件情報は,その当時,「秘密として管理さ
れている」情報であったことが認められる。
(イ)これに対し被告P商事及び被告Bは,本件情報の管理について,
PS・PC計器室の建物出入口に「関係者以外立入禁止」の表示があ
ったとしても,特別の監視装置があるわけではないので,PS,PC
の部署以外の従業員が立ち入らないということはできず,鍵のかけら
れていないロッカーから容易にケースごと本件情報が記録されたフロ
ッピーディスクを持ち去られる危険がある,上記フロッピーディスク
から所要の情報を画面上に出し,これを印刷する操作を許容されてい
る従業員の範囲及び暗証番号等の規定が不明である,PS,PCの部
署の従業員が必要箇所を含む書類1冊を持ち出して工場現場まで持ち
込む際のチェック及び工場内に持ち込んで必要箇所をコピーし,その
書類を返還する場合の手続が不明である,退職者,転勤者らの訪問の
際の取扱い如何によっては本件営業秘密の社外への流出は十分防止で
きないなどの問題点があり,本件情報は,秘密管理性の要件を満たし
ているとはいえない旨主張する。
しかし,前記(ア)認定のとおり,本件情報は,平成15年ないし平
成16年当時の出光石油化学千葉工場において,従業員以外の者はそ
もそもアクセスすることができず,従業員であっても,特定の関係者
以外はアクセスが制限され,アクセスした従業員においても,それが
秘密情報であることが認識し得るような状況で管理されていたもので
あり,被告P商事及び被告Bが指摘する上記問題点を勘案しても,上
記認定を左右するものではない。
したがって,本件情報は秘密管理性の要件を満たしているとはいえ
ないとの被告P商事及び被告Bの主張は,採用することができない。
ウ小括
以上によれば,本件情報は,平成15年ないし平成16年の時点にお
いて,出光石油化学千葉工場において秘密として管理されている出光石
油化学及び原告のPC樹脂の製造事業に有用な技術上の情報であって,
公然と知られていないものと認められるから,出光石油化学が保有す
る「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に当たるものと認められ
る。
2争点2(被告らによる不正競争行為の有無)について
原告は,被告らは,三共プロセス及びその代表取締役のCと共同して,P
C樹脂の製造技術を欲している藍星に対し,別紙営業秘密目録1ないし3記
載の各図面及び図表に記載された情報(本件情報)を開示することにより利益
を得ることを企て,被告Bにおいて出光石油化学の従業員をして本件情報を
不正に開示させて取得し,三共プロセスが立ち上げた三共PTにおいて藍星
が建設を予定している現地に合うように本件情報の修正等を行い,被告ビー
シー工業において三共プロセスから受け取った上記修正等がされた三共PT
作成図面等を藍星に引き渡したものであり,被告らの上記行為は,出光石油
化学が保有する営業秘密である本件情報について,不正開示行為であること
若しくは不正開示行為が介在したことを知って,又は重大な過失によりこれ
を知らないで,本件情報を取得し,その取得した本件情報を藍星に開示する
行為であって,不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為に該当する旨主
張する。
(1)判断の前提となる事実
前記争いのない事実等と証拠(甲8,15,16,20,26,41,
42の1,43の1,44の1,乙2,3,丙1,証人D,証人H,被告
B本人,被告A本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件の経過等とし
て,以下の事実が認められる。
ア被告ビーシー工業は,平成元年ころから中国法人である藍星と取引関
係を有していたところ,平成14年ころ,藍星から,同社が中国に建設
を計画しているPCプラントに関して協力を求める要請を受けた。
被告ビーシー工業は,PC樹脂及びその製造等に関する知識及び経験
を有していなかったが,藍星からの要請に応ずるため,自社のホームペ
ージに求人広告を出すなどして,PC樹脂及びその製造等に関する知
識,経験等を有する人材の募集を行った。
その後,三共プロセスは,被告ビーシー工業の上記募集に応募した。
イ藍星は,平成14年12月13日ころ,出光石油化学に対し,PC樹
脂の製造事業に関する申入れを行った。
出光石油化学と藍星は,平成15年1月17日,中国の上海におい
て,藍星の上記申入れに関する打合せをした。その中で,出光石油化学
が藍星のPCプラント建設に合同で出資して参加すること,出光石油化
学が藍星のビスフェノールA(PC樹脂の原料)プラント建設に関与す
ることなどについての協議が行われた。
その後,出光石油化学は,平成15年1月24日付け書面(甲11)
をもって,藍星に対し,上記打合せの内容についての双方の理解に相違
があることなどを理由として,藍星の上記申入れについての交渉を白紙
に戻す旨通知した。
その後,出光石油化学と藍星との間で,出光石油化学が保有するPC
樹脂の製造技術の藍星への技術供与,藍星のPCプラント建設への参加
等に関する交渉が行われることはなかった。
ウ被告P商事の代表取締役の被告Bは,平成14年の年末ころ,大日本
インキの関係者から,三共プロセスの代表取締役のCがPCの分かる者
を探している旨の話を聞き,Cに電話したところ,Cから,藍星が中国
に建設を予定しているPCプラントについての技術支援の要請を受け,
これを了承した。
被告Bは,昭和35年に原告に入社し,昭和39年に出光石油化学の
設立に伴って同社に移籍し,平成11年3月に同社を退職した後,同年
中に,個人でプラスチック樹脂を中国に輸出する事業を始め,平成14
年5月1日にこれを会社組織として被告P商事を設立していた。
被告Bは,原告又は出光石油化学に在職中,昭和35年から昭和39
年までの間原告徳山工場のPCパイロットプラントにおける補助業務
に,昭和60年から平成元年までの間出光石油化学千葉工場のPCプラ
ントにおける装置運転業務に従事したことがあった。しかし,被告B
は,PCプラントの設計,建設業務に関与したことはなく,また,PC
樹脂の製造等に関する被告Bの知識は,昭和60年から平成元年までの
4年間の上記業務経験に基づくものであり,平成15年当時の技術水準
に対応したものではなかった。
エ藍星と被告ビーシー工業は,平成15年2月16日,藍星が被告ビー
シー工業に対し,藍星が「独自に開発した30,000MT/Yポリカ
ーボネートプラントの基本設計に関する本秘密情報」を開示し,被告ビ
ーシー工業は,その実現可能性等の検査及び評価を行うこととし,その
検査及び評価を行うに際し,藍星に対し,「本秘密情報」を秘密として
保持する責任を負うことなどを内容とする「非迂回非開示秘密保持契約(
秘密保持契約)」と題する契約書(乙2の秘密保持契約書)に調印した。
その際,三共プロセスの代表取締役のCは,乙2の秘密保持契約書の被
告ビーシー工業の「統括代理者」欄に署名した。
オ(ア)被告ビーシー工業は,平成15年4月ころ,藍星から協力要請の
あったPCプラント建設に関する技術支援元を三共プロセスとするこ
とを正式に決定した。
三共プロセスは,そのころ,藍星のPCプラント建設に関する技術
支援を行うことを目的として,各技術分野の技術者を集めたプロジェ
クト・チーム(三共PT)を立ち上げた。三共PTには,三共プロセ
スの代表取締役であるC,同社の「ゼネラルマネージャー」の肩書を
持つN(以下「N」という。),「プロジェクトマネージャー」の肩
書を持つO(以下「O」という。),「電気エンジニアリングマネー
ジャー」の肩書を持つD,被告ビーシー工業の「マネージャー」の肩
書を持つI及びKとともに,Cが集めた複数の技術者が参加してい
た。
三共PTは,平成15年から平成16年にかけて,被告Bから提出
されたP&IDを含むPCプラントの設計図面等(被告B提出図面
等)に修正を加えるなどの作業を行い,出来上がったPCプラントの
設計図面等(三共PT作成図面等)を,被告ビーシー工業を介して,
藍星に引き渡した。なお,三共PTが上記作業を行っていた東京都内
の事務所には,藍星の関係者である中国人技術者2名が数週間訪れて
いた。
また,三共PTのメンバーは,平成16年6月中旬ころから同年1
0月末ころまでの間,中国蘭州に滞在して藍星の工場内の事務室で上
記作業を行い,同年10月ころ,藍星のPCプラント建設の基本設計
に係る作業を終了し,帰国した。そのころ,三共PTは解散した。
(イ)甲16の図面8ないし14は,三共PT作成図面等に含まれるP
&IDであり,その基となった修正等の作業前の図面は,被告Bが三
共プロセスに提供したもの(被告B提出図面等)である。
甲16の図面8ないし14の各図面右下には,「TITLE」の欄に被告
ビーシー工業の英語表記である「BCIndustrialCompanyLtd.」の表
記が,「DESIGNED」の欄にOを表す「O1」の表記が,「CHECKED」の
欄にNを表す「N1」の表記が,「APPROVED」の欄にCを表す「C
1」の表記が,「REVIS0RYCONTENTS」の欄に三共プロセス(現商号
・「阿州エンジニアリング株式会社」)を表す「AschueProcessServ
iceCorporation」の表記がある。
なお,三共PTのメンバーで,被告Bと直接接していたのは,C及
びIの2名であり,三共PT内においては,被告B及びそのグループ
を「Yグループ」等の仮名で呼んでいた。
(ウ)甲16の図面8ないし14に係る電子データは,Dが三共PTに
おける作業の過程で取得した電子データであって,Dの私物パソコン
に残っていたものを原告に提供したものである。
カ藍星は,2008年(平成20年)5月の時点において,中国天津市所
在の臨海工業区において,年産1万トン規模のPCプラントを建設する
プロジェクトを進行させていた。
(2)被告P商事及び被告Bの不正競争行為の有無
原告は,被告Bが,出光石油化学の従業員に千葉工場で保管されている
別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表を持ち出すよう働きか
け,当該従業員が持ち出した上記各図面及び図表に記載された情報(本件
情報)を開示させてこれを取得した旨主張する。以下において,原告がそ
の主張の根拠として挙げる諸点について順次判断する。
ア甲16の図面1ないし7と甲16の図面8ないし14との対比
原告は,甲16の図面8ないし14は,別紙営業秘密目録1記載の各
図面の一部である甲16の図面1ないし7を複製して作成された旨主張
する。
(ア)a東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻のE教授作
成の「技術鑑定結果報告」(甲16)において,E教授は,甲16の
図面1ないし7と甲16の図面8ないし14とを詳細に比較検討し
た結果,①プロセスフロー図は,プラントの建設や運転において極
めて重要なものであり,一般に,様々な情報を組み合わせても,類
似のプロセスフロー図はできないこと,②甲16の図面1と甲16
の図面8において使用されているシンボルには,JIS等による推
奨記号も存在するが,各企業独特の記号等も存在するところ,両図
面のシンボルは,推奨記号以外のものも含めて酷似していること,
③甲16の図面2ないし7と甲16の図面9ないし14は,いずれ
も同一の工程を示したものであり,機器番号や名称等に違いが認め
られるものの,主原料及び主反応物の流れに直接関わる重要な機器
構成が同一であること,④甲16の図面1ないし7と甲16の図面
8ないし14における主要な機器(甲16添付の資料12)が酷似
していることなどを理由に,甲16の図面8ないし14は,甲16
の図面1ないし7と極めて類似し,これらを複製して作成されたも
のであると判断している。
E教授の上記判断は,国立大学の大学院教授の立場にある専門家
としての専門的知識,経験に基づくものであり,内容において不合
理な点は認められない。被告ビーシー工業及び被告Aも,甲16の
内容を争わない旨答弁(被告ビーシー工業及び被告Aの平成20年
4月15日付け準備書面4頁3行)している。
bこれに対し被告Bは,その本人尋問において,甲16の図面2な
いし7の一部と甲16の図面9ないし14の一部が似ていない旨供
述する。
しかしながら,被告Bの上記供述は,似ていないことの根拠とな
る点を具体的に示すものではない。
また,被告Bは,原告及び出光石油化学に在職中,PCの製造に
関しては,昭和35年から昭和39年まで原告徳山工場のPCパイ
ロットプラントにおいて補助業務に従事し,昭和60年から平成元
年まで出光石油化学千葉工場のPCプラントにおいて装置運転業務
に従事した経験を有するものの,PCプラントの設計,建設に携わ
った経験はないこと(前記(1)ウ)に照らすならば,被告Bの上記供
述は,PCプラントのP&IDに関する的確な専門的知識,経験に
裏付けられたものとはいい難い。
したがって,被告Bの上記供述は,E教授の前記aの判断を左右
するものではない。
(イ)a甲16の図面1ないし7は,平成13年CAD化後の出光P&
IDの一部であるところ(前記1(1)ウ(ア)),このうち甲16の図
面1と平成13年CAD化前の出光P&IDの一部である甲46の
図面(甲46の5枚目)とを対比すると,両者のシンボルリストに
記載された機器・部品の種類,それらの区分の仕方,記載の順序が
大きく異なり,両図面に共通して記載された機器・部品について
も,そのシンボルの形状が異なっているものがあること(例え
ば,「BACKPRESSUREVALVE」や「INSULATEDVESSEL」のシンボル形
状が両図面で微妙に異なっている。)からすると,P&IDのシン
ボルリストの内容は,平成13年のCAD化の前後によって,大き
く変更されていることが認められる。
他方で,甲16の図面8のシンボルリストをみると,記載された
機器・部品の種類,それらの区分の仕方,記載の順序において,平
成13年CAD化後の出光P&IDの一部である甲16の図面1と
おおむね一致している上,甲16の図面8の「BACKPRESSUREVALV
E」及び「INSULATEDVESSEL」のシンボル形状をみると,甲16の図
面1のそれとほぼ完全に一致している。
b甲16の図面7をみると,平成13年のCAD化後である200
2年(平成14年)4月30日に,「SAMPLINGBOX(サンプリングボ
ックス)」を追加する図面修正が行われている。他方で,これに対
応する甲16の図面14においても,甲16の図面7と同じ位置
に「SamplingBox」が記載されている。
c上記a及びbによれば,甲16の図面8ないし14は,平成13
年CAD化後の出光P&IDを基にして作成されたものと認められ
る。
(ウ)以上の(ア)及び(イ)によれば,甲16の図面1ないし7と甲16
の図面8ないし14とは極めて類似していること,甲16の図面1な
いし7は,平成13年CAD化後の出光P&IDの一部であるとこ
ろ,甲16の図面8ないし14は,平成13年CAD化後の出光P&
IDを基にして作成されたことが認められ,しかも,P&IDの性質
上,無関係に作成された複数の図面が偶然このように類似することは
考えられないから,甲16の図面8ないし14は,甲16の図面1な
いし7を複製して作成されたものと認められる。
そして,甲16の図面8ないし14は,三共PT作成図面等に含ま
れるP&IDであり,その基となった修正等の作業前の図面は,被告
Bが三共プロセスに提供したもの(被告B提出図面等)であるから(前
記(1)オ(イ)),被告Bは,甲16の図面1ないし7を複製した図面あ
るいはこれらの図面に係る電子データを所持し,これを三共プロセス
に提供し,三共PTにおいて上記複製物を複製して甲16の図面8な
いし14を作成したものと推認することができる。
(エ)この点について被告P商事及び被告Bは,甲16の図面8ないし
14の基となった図面を含む被告B提出図面等は,被告Bが,藍星の
本社を訪問した際に,藍星から手渡されたPCプラントに関する多数
の図面等の資料を一部追加削除するなどして整理したものであり,上
記資料は,出光石油化学によるオランダ,ブラジル,台湾での合弁事
業から流出し,それを藍星が入手していた可能性がある旨主張する。
これに沿うように被告Bの供述及び陳述書(丙1)中には,被告B
が平成15年6月ころ中国北京市所在の藍星本社を訪問した際,P&
ID等を含む書類一式を藍星から託されて持ち帰った旨の部分があ
る。
aしかしながら,甲16の図面1ないし7は,別紙営業秘密目録1
記載のP&ID中の別紙「千葉工場第1ポリカーボネート装置P&
IDリスト」の№2,5,9,10,17,19,24及び38の
各図面と同一の図面であって,甲16の図面1ないし7に記載され
た情報は本件情報に含まれるものであり,出光石油化学が秘密とし
て管理する重要な技術情報であるから,同社との間で,当該技術に
関するライセンス契約を締結したり,PC樹脂の製造に関する合弁
事業を営むなどといった特別の関係を持たない第三者が当該情報を
保有することは,通常は考え難い事態であるといえる。
そして,出光石油化学と藍星の間においては,平成14年12月
から平成15年1月にかけて,藍星からの申入れに基づき,PC製
造の合弁事業等に関する交渉が持たれたものの,進展のないまま短
期間で交渉が打ち切られ,その後,出光石油化学が保有するPC樹
脂の製造技術の藍星への技術供与,藍星のPCプラント建設への参
加等に関する交渉が行われることはなかったこと(前記(1)イ)に照
らすならば,藍星が出光石油化学から直接甲16の図面1ないし7
を入手したものとは考え難い。
bまた,甲16の図面8ないし14は,平成13年CAD化後の出
光P&IDを基にして作成されたものであるところ(前記(イ)),
被告P商事及び被告Bが資料の流出元であると指摘する出光石油化
学によるオランダ,ブラジル,台湾での合弁事業等が行われたの
は,最も遅いものでも平成7年ころであって(前記1(1)イ(イ)),
いずれも平成13年のCAD化よりかなり前のことであるから,平
成13年CAD化後の出光P&IDに含まれる設計図面が,これら
の合弁事業等の過程で外部に流出し,藍星の手に渡ったものとは考
え難い。
このほか,藍星が平成13年CAD化後の出光P&IDに含まれ
る設計図面を入手し得たことを具体的にうかがわせる証拠もない。
したがって,出光石油化学によるオランダ,ブラジル,台湾での
合弁事業等の過程で流出したP&ID等の設計図面を藍星が入手
し,それを被告Bに渡した可能性があるものと認めることはできな
い。
cなお,藍星がもともとPCプラントの設計図面を保有していたこ
とを裏付けるものとして提出された乙1の1,2は,いずれも断片
的かつ不鮮明なコピーにすぎず,その記載からは,何らかの設計図
面であることはうかがわれるもの,PCプラントのP&IDである
かどうかさえ判別することができず,甲16の図面8ないし14と
の関連性もうかがうことができないから,乙1の1,2は,藍星が
PCプラントの設計図面を保有していたことを証する証拠となり得
るものではない。
d以上によれば,甲16の図面8ないし14の基となる図面を含む
被告B提出図面等は,被告Bが,藍星の本社を訪問した際に,藍星
から手渡されたPCプラントに関するP&IDを含む多数の図面等
の資料である旨の被告Bの上記供述部分及び陳述書の記載部分は措
信することができない。
他に被告Bが甲16の図面8ないし14の基となった甲16の図
面1ないし7(複製図面)あるいはこれらの図面に係る電子データを
所持していたとの前記(ウ)の推認を妨げる証拠はない。
イ被告Bの入手経路
前記ア(ウ)及び(エ)で認定のとおり,被告Bが甲16の図面1ないし
7(複製図面)あるいはこれらの図面に係る電子データを所持し,これら
が藍星から手渡されたものではないことを前提とした場合,被告Bがい
かなる方法によりこれらを所持するに至ったのか,その入手経路が問題
となる。
この点について原告は,被告Bが出光石油化学の従業員であったG及
びHに働きかけて,出光石油化学が保管する別紙営業秘密目録1ないし
3記載の各図面及び図表(甲16の図面1ないし7は,上記各図面及び
図表の一部)を持ち出させて本件情報を取得した旨主張するので,以下
において検討する。
(ア)別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表に記載された
情報(本件情報)は,平成15年ないし平成16年当時,出光石油化学
千葉工場において秘密として管理されていたこと,すなわち,従業員
以外の者はアクセスすることができず,また,従業員であっても,特
定の関係者以外はアクセスが制限され,アクセスした従業員において
も,それが秘密情報であることが認識し得るような状況の下で管理さ
れていたこと(前記1(2)イ(ア))からすれば,社外の第三者が上記各
図面及び図表に直接アクセスしてこれを取得することは,通常考え難
いものといえる。
被告Bは,平成11年3月に出光石油化学を退職しているから(前
記(1)ウ),その在職中には,平成13年CAD化後の出光P&IDを
含む設計図面は未だ存在していないし,また,上記各図面及び図表の
管理状況に照らすと,その退職後において,部外者となった被告B自
身が上記各図面及び図表に直接アクセスしてこれを取得する機会があ
ったものとは考え難いことからすれば,被告Bが上記各図面及び図表
の一部である甲16の図面1ないし7を入手し得る経路としては,被
告Bにおいて上記各図面及び図表にアクセスし得る出光石油化学の従
業員に働きかけて甲16の図面1ないし7を持ち出させること以外に
は容易に想定し難い。
(イ)また,以下のような事情からすれば,被告Bが出光石油化学の従
業員に働きかけて,甲16の図面1ないし7を持ち出させることは,
十分可能な状況にあったものといえる。
a前記(1)ウの認定事実と証拠(丙1,被告B本人)及び弁論の全趣
旨を総合すれば,①被告Bは,昭和39年に原告に入社し,平成1
1年3月に出光石油化学を退職するまでの約35年間,原告又は出
光石油化学に在職し,この間,徳山工場,千葉工場のほか,海外の
合弁会社の工場などにも勤務し,主にポリスチレン(PS)等の製
造装置の運転業務に従事し,千葉工場複合樹脂課の課長などの管理
職も務めたこと,②被告Bは,平成11年の退職後,まもなく個人
でプラスチック樹脂を中国に輸出する事業を始め,平成14年5月
には被告P商事を設立して同様の事業を会社組織として継続してい
るところ,当該事業の関係で出光石油化学とも取引関係があり,千
葉工場に出入りしていたことが認められる。
上記認定事実によれば,被告Bは,平成11年の退職後も,出光
石油化学の従業員の中に,多数の元同僚,部下などの知人がいたも
のと推認することができる。
これらの事情によれば,被告Bには,平成15年ないし平成16
年の時点において,出光石油化学千葉工場に勤務する従業員の中
に,上記のような働きかけの対象となり得る知人等がいた蓋然性が
あるものと認められる。
b前記1(1)ウ(イ)認定の出光石油化学千葉工場における別紙営業秘
密目録1ないし3記載の各図面及び図表の管理状況からすれば,少
なくとも千葉工場でPSやPCの製造業務に従事する出光石油化学
の従業員であれば,PS・PC計器室に保管されている上記各図面
及び図表やその電子データが記録されたフロッピーディスクにアク
セスし,これらをコピーするなどして持ち出すことは,十分可能で
あったものと認められる。
(ウ)aまた,証人Hの供述中には,Hと被告Bはかねてからの知り合
いであったところ,平成15年秋ころ,その当時出光石油化学千葉
工場に勤務していたHが被告P商事の事務所を訪れた際,同事務所
に千葉工場第1PCプラントのP&ID等の図面があることを見
て,千葉工場第1PCプラントにおいては,熱交換器,洗浄塔,分
離槽など5か所ほどの機器図が同図面のものから変更されている旨
指摘したところ,被告Bから,それらのうち4つの機器の機器図の
提供を求められたこと,Hは,これに応じて,千葉工場のPS・P
C計器室において当該4つの機器図をコピーして社外に持ち出し,
被告Bに交付したこと,Hは,被告Bから,PCプラントに関する
協力の報酬として,平成16年2月に180万円を受領し,その後
も平成17年2月まで毎月30万円(合計で390万円)を受領した
ことなどを述べる供述部分があり,これに沿うH作成の報告書(甲4
4の1)及び始末書(甲44の2)の記載部分がある。
証人Hの上記供述部分(上記報告書及び始末書の記載部分を含
む。以下同じ。)は,全体として格別不合理な点は見当たらず,金
銭の受領については客観的な裏付け(被告P商事の預金取引明細
表(甲45))がある上,自己に不利益な供述内容も含まれている
ことなどからすれば,その供述自体において信用性を疑わせる事情
は特段認められない。
そして,証人Hの上記供述部分によれば,被告Bは,平成15年
秋ころ,かねてからの知り合いであり,その当時出光石油化学千葉
工場に勤務していたHに対し,千葉工場第1PCプラントの機器図
の一部を提供するよう働きかけ,Hにそのコピーを持ち出させて取
得したことが認められる。
bこれに対し被告P商事及び被告Bは,Hは,原告による事実調査
に際し,千葉工場第1PCプラントに関する資料を社外に持ち出し
た事実を終始否定していたにもかかわらず,Hが機器図の一部の持
ち出しを認める供述をするに至ったのは,平成21年5月27日の
福岡市での原告側担当者らとの会談において,原告側から利益誘導
と威圧があったことによるものである,すなわち,Hは,原告側の
誘導に従って資料の持ち出しの事実を認めれば,被告Bのように原
告が訴訟を提起することはないし,損害賠償の金額も加減するが,
否認を通せば,被告Bと同様の対応をせざるを得ない旨申し向けら
れたために,事実に反して自己に不利な上記事実を認めたのもので
あって,このことは,上記会談の内容を記録した録音の反訳文(丙
5の1)から明らかであり,上記機器図の持ち出しに関する証人H
の供述部分は信用できない旨主張する。
確かに,丙5の1及び証人Hの供述によれば,Hが上記機器図の
持ち出しを認めるに至ったのは,上記会談における原告側担当者ら
とのやりとりの結果であり,また,そのやりとりにおいては,原告
側担当者らからHに対し,Hが別紙営業秘密目録1ないし3記載の
各図面及び図表に係る資料の持ち出しに関与したことを前提にした
追及が繰り返され,その中には,Hが資料持ち出しの事実を否認す
る態度を通せば,被告Bと同様に訴訟を提起するなどの対応をせざ
るを得ないことを示唆する趣旨の発言もあったことが認められる。
しかしながら,丙5の1によれば,これに対するHの回答は,原
告側担当者らの追及に全面的に迎合するというものではなく,機器
図の持ち出しについては認めるが,別紙営業秘密目録1記載の図
面(P&ID)の持ち出しについては終始否認を継続するなど,自
己の意思に基づいて,認めるべき事実とそうでない事実とを区別し
て回答していることがうかがわれる。
しかも,上記機器図の持ち出しを認めるHの供述は,上記のやり
とりにおいて原告側担当者らに迎合してされた一時的な供述にとど
まるものではなく,その後,改めてHが作成して原告に提出した平
成21年6月12日付けの報告書(甲44の1)や本件訴訟における
証人尋問においても,一貫して維持されているものである。
これらの事情からすれば,証人Hが上記機器図の持ち出しを認め
る供述をするに至った経過において原告側担当者らとの上記のよう
なやりとりがあったことを考慮しても,証人Hの上記供述部分の信
用性を否定できるものではない。
したがって,被告P商事及び被告Bの上記主張は,採用すること
ができない。
c前記a認定のとおり被告Bが出光石油化学の千葉工場に勤務して
いたHに対し第1PCプラントの機器図の一部を提供するよう働き
かけて同人にそのコピーを持ち出させて取得したことは,被告B
が,上記の機器図以外の設計図面についても同様に,出光石油化学
の従業員の誰かに働きかけて,持ち出させて取得した可能性を強く
示唆するものといえる。
(エ)小括
a以上のとおり,被告Bによる甲16の図面1ないし7の入手経路
としては,被告Bが,これらの図面にアクセスし得る出光石油化学
の従業員に働きかけてこれを持ち出させること以外には容易に想定
し難いこと(前記(ア)),被告Bには,甲16の図面1ないし7を
持ち出し得る出光石油化学の従業員の中にそのような働きかけの対
象となり得る知人等がいた蓋然性があること(前記(イ)),しか
も,被告Bが,機器図の一部について,現に千葉工場に勤務してい
たHに対してそのような働きかけを行い,そのコピーを千葉工場か
ら持ち出させていること(前記(ウ))を総合すれば,被告Bが,甲
16の図面1ないし7にアクセスし得る出光石油化学に勤務してい
た従業員に働きかけて,その複製図面あるいはこれらの図面に係る
電子データを千葉工場から持ち出させたとの事実を推認することが
できる。
bもっとも,本件全証拠によっても,被告Bの働きかけにより甲1
6の図面1ないし7(複製図面)あるいはこれらの図面に係る電子
データの持ち出しを実際に行った出光石油化学の従業員が具体的に
誰であるのかは不明であるといわざるを得ない。
原告は,上記従業員は出光石油化学の従業員であったG及びHで
ある旨主張する。
しかし,原告の主張を前提としても,G及びHが持ち出しを行っ
た時期,具体的な態様等を特定するものではなく,原告の上記主張
を認めるに足りる証拠はない。かえって,証人Hは,甲16の図面
1ないし7を含む,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び
図表に係る資料の持ち出しに関与したことを一貫して否定する供述
をしている。
したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
以上のとおり,被告Bの働きかけにより甲16の図面1ないし
7(複製図面)あるいはこれらの図面に係る電子データの持ち出し
を実際に行った出光石油化学の従業員が原告が主張するG及びHで
あるものと認めることはできず,具体的に誰であるのか本件証拠上
不明であるといわざるを得ないが,このことは,被告Bが上記の行
為を行ったとの事実を認定することを妨げるものではない。
なお,本件事案の性質・内容,本件訴訟の審理の経過等にかんが
みれば,原告は,被告Bの働きかけにより上記持ち出しを実際に行
った出光石油化学の従業員が,G及びHであることが認められない
場合には,それ以外の者である旨の主張を予備的にしているものと
解されるので,以下,これを前提に検討を進める。
ウ被告Bが持ち出させた図面等の範囲
(ア)原告は,PCプラントの建設のためにはPC樹脂の製造工程全て
についてのP&ID,PFD及び機器一台ごとに表した機器図の全て
が必要となるが,これらは一連の実験や実測データに基づくノウハウ
により定められるもので相互に密接に関連しており,他社が開発した
技術と組み合わせて使用できるようなものではないこと,三共PT
は,被告Bから提供されたB提供図面等の修正作業について,平成1
6年6月に国内での作業を終了し,同年10月末に中国現地に合わせ
修正も終了し,藍星が計画するPCプラントについての基本設計を完
成させたこと,甲16の図面8は,甲16の図面1のシンボル(記
号)リストを複製したものであるが,シンボルリストはP&IDのシ
ンボルを全体として統一して記載するためのものであるから,シンボ
ルリストを複製するということは,P&ID全てについて複製するこ
とを前提とすることなどからすれば,被告Bの働きかけにより出光石
油化学千葉工場から持ち出された図面等は,甲16の図面1ないし7
にとどまらす,別紙営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表の
全てである旨主張する。
a証拠(甲8,26,41,42の1,43の1,44の1,乙
3,丙1,証人D,証人H,被告A本人,被告B本人)及び弁論の
全趣旨を総合すれば,被告B提出図面等の中には,甲16の図面1
ないし7以外にも,多数のP&IDその他の図面等が含まれていた
ことをうかがうことできる。
しかしながら,それらの図面等が,別紙営業秘密目録1ないし3
記載の各図面及び図表のいずれであるのかを具体的に特定し得るに
足りる証拠はない。
また,証人Hの供述(甲44の1の報告書を含む。)によれば,
Hは,出光石油化学千葉工場第1PCプラントに係る機器図のう
ち,酸による洗浄塔,純水による洗浄塔,分離槽及びロータリーバ
ルブの4機器に係る機器図をコピーして持ち出し,これらを被告B
に交付したことが認められるが,これらの機器図についても,それ
が別紙営業秘密目録3記載の各機器図のうちのいずれであるのかを
具体的に特定し得るに足りる証拠はない。
b原告は,三共PTは,平成16年中に,被告Bが提供する被告B
提出図面等に基づくPCプラントのP&ID,PFD,機器図等の
修正作業を終了し,出来上がった三共PT作成図面等は全て藍星に
引き渡し,藍星が計画するPCプラントについての基本設計を完成
させているから,その前提として,被告Bは別紙営業秘密目録1な
いし3記載の各図面及び図表の全てを入手していたはずである旨主
張する。
そこで検討するに,三共PTは,藍星が中国に建設を計画してい
たPCプラントについて,被告Bから提出された設計図面等(被告
B提出図面等)の修正等をして,PCプラントの設計図面等を作成
する作業を行っていたこと,平成16年10月ころには,三共PT
による上記の作業は完了し,出来上がった図面等(三共PT作成図
面等)は全て藍星に引き渡されていることは,前記(1)オ(ア)認定の
とおである。
しかしながら,①このようにして出来上がった三共PT作成図面
等が具体的にどのようなものであったのかについては,甲16の図
面8ないし14の範囲でしか証拠上明らかではなく,その全貌は不
明であること,②三共PT作成図面等を受け取った藍星が,これら
の図面等に基づいて現にPCプラントを建設したという事実を認め
るに足りる証拠はないこと(前記(1)カのとおり,平成20年5月の
時点において,藍星が天津市においてPCプラントの建設プロジェ
クトを進行させている事実は認められるが,その進捗状況等の詳細
は不明でありる。)からすると,三共PT作成図面等がそれに基づ
いて商業的なPCプラントを建設し得る設計図面(基本設計図面)
として完成度の高いものであったかどうかは不明というほかない。
そうである以上,三共PT作成図面等の基となったB提出図面等
についても,不完全なものであった可能性を否定することはでき
ず,三共PTが藍星の計画するPCプラントについての基本設計を
完成させているからといって,被告Bが別紙営業秘密目録1ないし
3記載の各図面及び図表の全てを入手していたと断ずることはでき
ない。
(イ)以上によれば,被告Bが出光石油化学千葉工場の従業員に働きか
けて,千葉工場から持ち出させて取得し,三共PTに提供した図面に
含まれるものと具体的に認めることのできる図面は,別紙営業秘密目
録1記載の図面中の別紙「千葉工場第1ポリカーボネート装置P&I
Dリスト」の№2,5,9,10,17,19,24及び38の各図
面(以下「本件持ち出し図面」という。)であり,これら以外の別紙
営業秘密目録1ないし3記載の各図面及び図表が含まれていたものと
認めることはできない。
エ小括
(ア)以上によれば,被告Bは,出光石油化学千葉工場の従業員に働き
かけ,当該従業員をして出光石油化学の千葉工場から,少なくとも本
件持ち出し図面のコピー又はその電子データを持ち出させてこれを取
得し,更にそれらに記載又は記録された情報を三共プロセスに開示し
たものと認められる。
しかるところ,上記の持ち出しを行った出光石油化学の従業員は,
出光石油化学が保有する営業秘密である本件持ち出し図面に記載され
た情報を示され,少なくとも雇用契約に付随する信義則上の義務とし
て,これを第三者に漏洩しない義務を負っていたものというべきであ
るから,当該従業員が本件持ち出し図面のコピー等を被告Bに交付す
る行為は,営業秘密を守る法律上の義務に違反して当該営業秘密を開
示する行為であって,不正競争防止法2条1項8号括弧書き後段に規
定する「不正開示行為」に当たるものと認められる。
そうすると,被告Bが当該従業員から本件持ち出し図面を取得した
行為及び本件持ち出し図面に記載された情報を三共プロセスに開示し
た行為は,営業秘密について不正開示行為であることを知ってこれを
取得し,更にこれを開示する行為であって,不正競争防止法2条1項
8号の不正競争行為に当たるものと認められる。
(イ)また,被告Bの供述によれば,被告Bが三共プロセスに被告B提
出図面等を提供する行為は,三共プロセスとの契約に基づくものであ
り,その契約名義人は被告P商事とされ,また,三共プロセスから支
払われた報酬は,被告P商事がこれを受領し,同社の収入として会計
処理されていることが認められる。
上記認定事実によれば,被告Bの前記(ア)の行為は,被告B個人の
不正競争行為であると同時に,被告P商事の代表者がその職務として
行った法人たる被告P商事の不正競争行為に当たるものと認められ
る。
(3)被告ビーシー工業及び被告Aの不正競争行為の有無
前記(2)エ認定のとおり,被告Bが出光石油化学千葉工場に勤務していた
従業員から別紙営業秘密目録1記載の図面中の別紙「千葉工場第1ポリカ
ーボネート装置P&IDリスト」の№2,5,9,10,17,19,2
4及び38の各図面(甲16の図面1ないし7に対応する図面)を取得し
た行為及び上記各図面に記載された情報を三共プロセスに開示した行為
は,被告P商事及び被告Bによる不正競争行為(不正競争防止法2条1項
8号)に該当する。
原告は,被告ビーシー工業及び被告Aは,被告Bが上記各図面に記載さ
れた情報(本件情報の一部)を不正に取得して提供するものであることを
認識しながら,三共プロセスを介して上記各図面と実質的に同一の三共P
T作成図面等を取得し,これらを藍星に引き渡し,藍星に対し,本件情報
を開示した旨主張する。以下において,原告がその主張の根拠として挙げ
る諸点について順次判断する。
ア原告は,被告ビーシー工業は,Iに対し,藍星が中国に建設を予定し
ているPCプラントに関する業務について統括管理者としての業務を委
託し,上記委託を受けたIは,三共PTにおいて,①設計事務所から交
付される基本設計書をチェックすること,②被告ビーシー工業の客先に
基本設計書を引き渡し,客先と設計会談を行い,客先から質問等を受
け,それについて被告ビーシー工業からの発注先である設計事務所に問
い合わせた上で,その質問等の回答を客先に伝えること,③設計業務の
進行についての工程管理をすること,④プロジェクトに関わるエンジニ
アの能力判断等をすることなどの業務を行い,被告ビーシー工業の代表
取締役である被告Aに対し,これらの業務についての報告をしているか
ら,被告ビーシー工業及び被告Aは,三共PTの上記業務をIを用いて
主体となって推進していた旨主張し,これに沿うI作成の「会談記録」
と題する書面(甲42の1)がある。
(ア)しかしながら,甲42の1に記載されたIの供述は,反対尋問の
テストを経ていないものにすぎないから,そもそもその証明力には限
界があるといわざるを得ない。また,仮にIの上記供述を前提にした
としても,Iが行っていたとする業務の内容が,藍星と三共プロセス
との間の連絡調整,プロジェクトの工程管理,図面の受け渡しの管理
等の範囲を超え,三共PTの具体的な作業内容にまで立ち入るもので
あったかどうかは,明らかとはいえない。確かに,甲42の1中に
は,Iが,三共プロセスから交付される基本設計書をチェックするこ
とやエンジニアの能力判断等をすることなど,三共PTの具体的な作
業内容に関わる技術的事項についても関与していたかのごとき記載も
みられるが,甲42の1の記載全体をみても,そもそもIがPC樹脂
の製造に関する技術的事項について理解し,関与し得るだけの知識,
経験等を有していたか否かが明らかではなく,また,Iが三共PTの
具体的な作業内容にまで立ち入っていたことを示す具体的な事実が述
べられているものでもない。
かえって,被告Aの供述中には,被告ビーシー工業は,藍星からP
C樹脂の製造に関する支援業務を引き受けたものの,自社にその知
識,経験がなかったことから,三共プロセスに当該業務を全面的に委
ね,自らは,専ら藍星と三共プロセスとの連絡調整等を行って,一定
の利ざやを得ただけであり,被告Aは,三共プロセスが行った図面の
作成作業自体には関与しておらず,その内容についても認識しておら
ず,また,認識し得る立場にもなかった旨の供述部分がある。
被告Aが供述するように,発注者から一定の業務を請け負った企業
が,自ら当該業務を行うことなく,他の企業に全面的にこれを行わ
せ,自らは,発注者との連絡調整等のみを行って,一定の利ざやを得
ることは,一般的に行われていることといえる。
加えて,被告ビーシー工業は,PC樹脂及びその製造等に関する知
識及び経験を有していなかったが,藍星からの要請に応ずるため,自
社のホームページに求人広告を出すなどして,PC樹脂及びその製造
等に関する知識,経験等を有する人材の募集を行い,それに応募した
三共プロセスが立ち上げた三共PTにおいてPCプラントの設計図面
等の作成がされていること(前記(1)ア,オ(ア))に照らすならば,被
告ビーシー工業としては,当初から自社が主体となって藍星からの協
力要請に応えることを企図していたものでないことは,容易に推認し
得るところである。
そうすると,被告ビーシー工業及び被告Aの関わりが,上記のよう
なものにとどまることもあながちあり得ないことではなく,被告Aの
上記供述は,その内容において不合理であると断ずることはできな
い。
(イ)したがって,被告ビーシー工業及び被告Aは,三共PTの前記業
務をIを用いて主体となって推進していたとの原告の上記主張は採用
することができない。
イ(ア)原告は,①被告Aは,Iから三共PTの業務について報告を受け
ていたほか,被告Bに複数回会ったり,三共PTによる作業が行われ
ていた現場にも4,5回行っており,三共PTのメンバー,藍星の担
当者,中国で詳細設計をする「第二設計院」の担当者のことも知って
いたこと,②PC樹脂の製造技術は,多くの専門的技術的ノウハウを
要するもので,世界でも原告を含めた8企業グループしか保有してい
ない技術であるから,被告Aにおいても,被告B又は三共PTが提供
するPCプラントに関する情報が被告B自身又は三共PTが自ら開発
したものでもなければ,出光石油化学の承諾を受けたものでないこと
を認識していたはずであること,③三共PTにおいては,被告B及び
そのグループはYグループ等の仮名で呼ばれ,被告Bに接触できる者
がCとIの二人に制限されるなど,通常のプロジェクトでは考えられ
ない異常な状況にあり,三共PTに参加していたD,Jや,被告ビー
シー工業から業務委託を受けたKにおいてもデータの出所がおかしい
と認識していたことからすれば,Iから全ての報告を受けている被告
Aにおいても,被告Bから提供されるPCプラントに関する情報が出
光石油化学から不正に取得したものであることを知らなかったとは考
えられず,被告Bから提供されるPCプラントに関する情報が出光石
油化学から不正に取得したものであることを認識していた旨主張す
る。
(イ)しかしながら,前記(ア)①の点については,被告Aと三共PTと
の間に関わりがあったことを示す事情であるといえるとしても,その
関わりの具体的内容を示すものではなく,少なくとも被告Aが三共P
Tが行っていた作業の具体的内容,更には被告Bが三共PTに提供し
た図面等(被告B提出図面等)の出所についてまで認識していたことを
示す事情となり得るものではない。
次に,前記(ア)②の点については,PC樹脂の製造技術が多くの専
門的,技術的ノウハウを要し,世界でも8企業グループしか保有して
いない稀少な技術であることは事実であるとしても(前記1(2)ア),
そのようなことは,一部の専門家や当該業界の関係者以外には,一般
的に知られた事実であるとまでいえないし,また,PC樹脂に関する
知識,経験もない被告Aがそのようなことを当然に認識していたもの
ということもできないし,被告Aが当該事実を認識していたことを認
めるに足りる証拠もない。
さらに,前記(ア)③の点については,三共PTのメンバーで,被告
Bと直接接していたのは,C及びIの2名であり,三共PT内におい
ては,被告B及びそのグループを「Yグループ」等の仮名で呼ばれて
いたが(前記(1)オ(イ)),そのような状況がIから被告Aに報告され
ていたかどうかは,証拠上必ずしも明らかではない。甲42の1にお
けるIの供述をみても,三共PT内の上記状況を被告Aに報告してい
たことについては,何ら述べられていないし,当然に報告されていた
はずであるとの推認が働くような事実ともいえない。
もっとも,証人Dの供述中には,三共PTに参加していたDは,Y
グループから三共PTに提供されるPCプラントの技術は原告の技術
であると理解し,そのことは三共PTのメンバー全員の公然の秘密で
あった旨の供述部分があるが,その根拠となる点は伝聞ないし客観的
裏付けを欠くものであって推測の域を出ないものであり,他方で,証
人Dの供述中には,Dは,原告の名称が記載された図面等を見たこと
がない旨の供述部分もある。
また,甲16の図面1ないし7には,各図面の右下に「出光興産株
式会社千葉工場」との記載があるが,これに対応する甲16の図面8
ないし14には,上記記載が存在しないことに照らすならば,三共プ
ロセスから甲16の図面8ないし14を受け取った被告ビーシー工業
及び被告Aにおいて,上記各図面が原告のPCプラントあるいは千葉
工場のPCプラントに関する図面を基に複製されたことを認識するこ
とは困難であったものと認められる。
したがって,仮に原告が主張するようにD,JやKにおいてデータ
の出所がおかしいと認識していたとしても,被告Aにおいて,被告B
から提供されるPCプラントに関する情報が出光石油化学から不正に
取得したものであることを認識していたことを裏付けるものではな
い。
ウ以上によれば,被告Aにおいて,被告ビーシー工業及び被告Aが三共
プロセスから受け取って藍星に引き渡した甲16の図面8ないし14に
被告Bが出光石油化学の従業員に働きかけて不正開示させた営業秘密が
含まれていること及び当該従業員の被告Bに対する不正開示行為の介在
を知っていたものとは認められず,また,重過失によりこれを知らなか
ったものと認めることもできない。
したがって,被告ビーシー工業及び被告Aが原告主張の不正競争行為
を行ったものとは認められない。
(4)まとめ
以上によれば,被告らのうち,被告P商事及び被告Bについては,本件
持ち出し図面の取得及び開示に関する限度で,出光石油化学に対する不正
競争防止法2条1項8号の不正競争行為を行ったことが認められるが,被
告ビーシー工業及び被告Aについては,これを認めることができない。
なお,被告ビーシー工業及び被告Aは,甲3(甲16の図面9と同じも
の)及び甲5(甲16の図面14と同じもの)は違法に収集された証拠で
あるから証拠能力を欠く旨を主張するが,前記認定のとおり,これらの図
面が出光石油化学の従業員によって不正開示された営業秘密(甲16の図
面2及び7)を用いて作成されたものであり,被告Bの不正競争行為を証
明する重要な証拠であることからすれば,Dの開示に基づいてこれらの図
面を取得した原告の行為は,自己の権利を実現するための正当な証拠の収
集行為であって,違法とされるべきものでないことは明らかであるから,
被告ビーシー工業及び被告Aの上記主張は失当である。
(5)原告の被告P商事及び被告Bに対する差止請求及び廃棄請求の当否
ア被告P商事及び被告Bによる本件持ち出し図面の取得及び開示に係る
前記不正競争行為は,出光石油化学又はその権利義務を承継した原告の
営業上の利益を侵害するものであることが明らかであるところ,現時点
においても,被告P商事及び被告Bが,別紙営業秘密目録1記載の図面
中の別紙「千葉工場第1ポリカーボネート装置P&IDリスト」の№
2,5,9,10,17,19,24及び38の各図面(本件持ち出し
図面)又はその電子データを保有し,これを,PC製造装置の建設,改
造,増設,補修,運転管理に使用し,又は第三者に開示するおそれがあ
るものと認められる。
この点について被告Bの供述中には,本件に関する資料を全部廃棄し
た旨の供述部分があるが,その廃棄の時期について,当初は被告ビーシ
ー工業及び被告Aに対する本件訴訟(第1事件)が提起された後の平成1
9年2月と主張していたが,被告Bの本人尋問の際には,平成17年1
0月ころと訂正し,廃棄の時期の主張に変遷があること,廃棄を裏付け
る客観的証拠は提出されていないことに照らし,被告Bの上記供述部分
は措信することができない。
イしたがって,原告は,被告P商事及び被告Bに対し,不正競争防止法
3条1項に基づき本件持ち出し図面の使用(その使用の態様には,第三者
に使用させる場合を含む。),開示の差止めを,同条2項に基づき本件
持ち出し図面が記録された記録媒体の廃棄を求めることができる。
3争点3(不正競争行為による損害額)について
(1)前記2(5)で認定したとおり,被告P商事及び被告Bは,故意により別
紙営業秘密目録1記載の図面中の別紙「千葉工場第1ポリカーボネート装
置P&IDリスト」の№2,5,9,10,17,19,24及び38の
各図面(本件持ち出し図面)の取得及び開示という不正競争行為(不正競
争防止法2条1項8号)を行って出光石油化学の営業上の利益を侵害した
ものであるから,同法4条により,これによって出光石油化学に生じた損
害を,出光石油化学の権利義務一切を承継した原告に賠償すべき責任があ
る。
(2)そこで,出光石油化学の損害額について検討する。
ア原告は,不正競争防止法5条2項により,被告らが受けた利益の額を
もって出光石油化学の損害額と推定すべきである旨主張する。
しかしながら,被告P商事及び被告Bが前記(1)の不正競争行為によっ
て受けた利益の額については,これを認めるに足りる直接的な証拠はな
く,本件各証拠上認められる諸事情からの推認も困難というほかない。
また,原告は,不正競争防止法5条3項により,本件情報の使用に対
し受けるべき金銭の額をもって,出光石油化学が受けた損害額とすべき
であるとして,具体的には,被告Aにおいて,被告ビーシー工業が本件
に関して藍星から支払を受けた報酬額である640万米ドル1ドル12
0円換算で,7億6800万円),あるいは,原告が2000年(平成
12年)に台湾の「Q」(以下「Q1」という。)との間で締結したP
C製造プロセスのライセンス契約(甲48)におけるライセンス料であ
る3200万米ドルをもって,上記金額の基準とすべき旨主張する。
しかしながら,まず,被告ビーシー工業の上記報酬額については,そ
の金額が,藍星が被告ビーシー工業から提供される情報を使用すること
の対価として定められたものであることを認めるに足りる証拠はなく,
ましてや,これが本件情報の一部である本件持ち出し図面に記載された
情報を使用することの対価に対応するものと認めることはできない。
また,Q1から支払われる上記ライセンス料については,上記ライセ
ンス契約に係る契約書(甲48)によれば,出光石油化学が保有するPC
製造プロセスに関する技術情報を開示し,その使用を許諾すること(第
2.1条,第2.2条)についての対価の趣旨のみならず,人員の訓
練(第3.3条),初期運転における援助(第3.4条),人員の提供(
第3.6条)などといった様々な技術支援等についての対価の趣旨も含
まれているものと認められる。加えて,被告P商事及び被告Bによる不
正競争行為として認められるのは,出光石油化学が保有していたPC樹
脂の製造に関する技術情報のうち,本件持ち出し図面に係る限られた範
囲の情報の取得,開示にすぎないのであり,上記ライセンス契約のよう
に,出光石油化学が保有するPC樹脂の製造技術を全般的に提供するも
のとでは,使用の対象とされる情報の範囲が全く異なっている。
以上によれば,原告が主張する上記報酬額や上記ライセンス料を基準
として,本件持ち出し図面に記載された情報の使用についての対価を算
定することは,困難というほかなく,他にその算定の根拠となるべき資
料も見当たらない。
イところで,被告P商事及び被告Bの前記不正競争行為の結果,出光石
油化学は,同社が保有する営業秘密であるPC樹脂の製造に関する技術
情報の一部を競業他社である藍星に開示される事態となり,競争上不利
な立場に立たされるなど,有形,無形の損害を被ったことが認められ
る。
このように,被告P商事及び被告Bの上記不正競争行為による出光石
油化学の損害については,それが生じたことは認められるものの,その
損害額を立証するために必要な事実を立証をすることが当該事実の性質
上極めて困難であるものと認められるから,不正競争防止法9条によ
り,本件口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額
を認定すべきものと思料する。
そこで検討するに,①本件持ち出し図面に記載された情報は,世界的
にみても稀少といえる,原告及び出光石油化学が独自に開発したPC樹
脂の製造技術に基づいて設計されたPCプラントについての具体的な設
計情報の一部であり,当該設計情報の持つ経済的価値は相当高いものと
考えられること,②現に,平成12年に出光石油化学とQ1との間で締
結されたライセンス契約においては,出光石油化学が保有するPC製造
プロセスに関する技術情報の使用許諾のみならず,様々な技術支援等に
ついての対価の趣旨をも含むものではあるものの,3200万米ドル(
契約時である平成12年時点におけるレートから1ドル110円で換算
すると,約35億円)のライセンス料が支払われることが合意されてい
ること,③他方で,本件持ち出し図面に記載された情報は,出光石油化
学が保有するPCプラントの設計情報のごく一部にとどまるものであ
り(出光石油化学千葉工場第1プラントに係るP&ID合計60枚のう
ちの8枚),これのみでPCプラントの建設,運転,管理等が行えるも
のではなく,その利用価値には限界があること,④被告P商事が三共プ
ロセスから支払を受けた報酬額は明らかではないが,被告Bがその協力
者の一人であるHに対し合計570万円の報酬を支払っていること(甲
45。前記2(2)イ(ウ))からすると,被告P商事が受けた報酬の額
は,上記570万円を大きく上回るものと推察されること,以上の①な
いし④の事情に加え,被告P商事及び被告Bによる上記不正競争行為の
態様,本件訴訟に至る経緯,本件訴訟の経過等本件に顕れた一切の事情
を総合考慮すれば,出光石油化学の上記損害額は,1000万円と認め
るのが相当である。
(3)被告P商事及び被告Bの前記不正競争行為と相当因果関係のある弁護士
費用の額は,前記(2)の損害額の1割に相当する100万円と認められる。
(4)以上によれば,出光石油化学が,被告P商事及び被告Bの前記不正競争
行為によって受けた損害額は,1100万円(前記(2)イ及び前記(3)の合
計額)と認められる。
したがって,出光石油化学を吸収合併し,その権利義務一切を承継した
原告は,不正競争防止法4条に基づいて,被告P商事及び被告Bに対し,
1100万円の損害賠償を求めることができる。
4争点4−1(被告らによる不法行為の成否)について(予備的損害賠償請
求)
原告は,被告らによる本件情報の取得,開示は,不正競争行為に当たらな
いとしても,自由競争原理を明らかに逸脱するものとして,出光石油化学に
対する民法709条の不法行為を構成するとして,予備的に不法行為に基づ
く損害賠償を請求する。
(1)そこで検討するに,まず,被告P商事及び被告Bについては,別紙営業
秘密目録記載の各図面及び図表のうち,別紙営業秘密目録1記載の図面中
の別紙「千葉工場第1ポリカーボネート装置P&IDリスト」の№2,
5,9,10,17,19,24及び38の各図面(本件持ち出し図面)
に記載された情報の取得,開示の範囲では,前記3のとおり,主位的請求
である不正競争行為に基づく損害賠償が認められる。
また,それ以外の各図面又は図表に記載された情報については,取得,
開示の事実を具体的に認めることができないから,それらに関しては,民
法709条の不法行為の成立も認めることができない。
(2)次に,被告ビーシー工業及び被告Aについては,原告主張の不正競争行
為を行ったことが認められないことは前記2(3)のとおりであり,同様の理
由により,被告ビーシー工業及び被告Aが自由競争原理を逸脱した違法行
為と評価される行為を行ったものと認めることはできないから,民法70
9条の不法行為の成立も認めることができない。
5結論
以上によれば,原告の被告ビーシー工業及び被告A(第1事件被告ら)に
対する請求は,理由がないからいずれも棄却することとし,被告P商事及び
被告B(第2事件被告ら)に対する請求は,不正競争防止法3条1項に基づ
く本件持ち出し図面の使用,開示の差止め,同条2項に基づく本件持ち出し
図面が記録された記録媒体の廃棄,同法4条に基づく損害賠償として110
0万円及びこれに対する不正競争行為の後である平成20年2月20日(訴
状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
連帯支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容することとし,そ
の余は理由がないからいずれも棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官関根澄子
(別紙)営業秘密目録
原告千葉工場第1ポリカーボネート製造装置(プラント)に関する以下のも
の。
1()Piping&InstrumentDiagramP&ID
上記プラント内の機器,配管,計器類をダイアグラム形式で工程毎に表した
別紙「千葉工場第1ポリカーボネート装置リスト」記載の№1ないし№6P&ID
0の各図面(図表を含む。)。ただし,平成15年2月から3月にかけて実施
された平成14年度末定期見直し版。
2()ProcessFlowDiagramPFD
上記プラント内の機器,配管を流通する流体の種類,流量,条件などが記載
された各図表。
3機器図
上記プラント内で使用する機器1台毎に表した別紙「千葉工場第1ポリカー
ボネート装置機器図関連リスト」記載の№1ないし№65の各図面。

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