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平成11年(行ケ)第219号審決取消請求事件
平成13年12月18日口頭弁論終結
         判     決
      原      告 株式会社オー・ケー・イー・サービス
      訴訟代理人弁理士 丸  山  英  一
      同        山  本  隆  也
      被      告 特許庁長官 及 川 耕 造
      指定代理人    谷  川     洋
      同        小  林  信  雄
      同        大  橋  良  三
         主     文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成9年審判第13875号事件について,平成11年6月10日
にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,平成5年5月27日,発明の名称を「特定小電力無線機を用いた長
距離単向通信方式」とする発明について特許出願をしたが,平成9年7月11日に
拒絶査定を受けたので,平成9年8月20日,これに対する不服の審判を請求し
た。特許庁は,これを平成9年審判第13875号事件として審理した結果,平成
11年6月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成1
1年6月28日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
「送信部に電波法で認定された送信出力10mWの特定小電力無線送受信機を
仕様変更することなく認定品そのままのものを用いた送信機と送信アンテナを具有
しており,受信部は前記送信部から数Km離れた位置に設けられ,該受信部にはハ
イゲインアンテナを具備し,該ハイゲインアンテナで前記送信機から送信された雑
音レベルに近い微弱な無線信号を受信し,無線信号周波数に同調した当該ハイゲイ
ンアンテナにより無線信号を選択して増幅し,選択された微弱な無線信号を優れた
低雑音指数を有するプリアンプで雑音を抑圧して増幅し,受信主増幅器で復調に必
要なレベルまで更に増幅して信号復調回路で復調し,出力回路に一定レベル以上の
送信信号と同等の信号を出力することを特徴とする特定小電力無線機を用いた長距
離単向通信方式」(別紙図面(1)参照)
3 審決の理由
 審決の理由は,別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発
明は,特開平3-190403号公報(以下「引用刊行物1」という。)に記載さ
れた発明(以下「引用発明1」という。)及び特開昭60-200627号公報
(以下「引用刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」とい
う。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許
法29条2項に該当し,特許を受けることができない,というものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決の理由中,1(本願発明)を認め,2(引用発明)を,引用刊行物1,
2に審決認定の記載があるとの限度で認める。3(本願発明と引用発明1との一致
点及び相違点の認定),4(相違点についての判断),5及び6(結論部分)を争
う(ただし,一部認めるところがある。)。
 審決は,本願発明及び引用発明1,2のそれぞれを誤認したため,相違点
③,④についての認定判断を誤り(取消事由1,2),これらの誤りがそれぞれ結
論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点③についての認定判断の誤り)
(1)審決は,本願発明と引用発明1とでは,「受信部のアンテナ」が,本願発
明においては「ハイゲインアンテナ」であるのに対して,引用発明1においては
「利得アンテナ」である点で相違することを,相違点③として正しく認定しつつ
(審決書8頁5行~8行),これにつき,「刊行物1,特に第1図には送信アンテ
ナの長さを1/2λとし,受信部のアンテナの長さを5/8λとすることが記載さ
れている。この記載からみると,受信部のアンテナの利得は,送信アンテナの利得
より高いことが理解できる。したがって,刊行物1発明における「受信部のアンテ
ナ」は送信アンテナと比較して利得が高い「ハイゲインアンテナ」といえるから,
この点については実質的な相違点とはいえない。」(審決書9頁17行~10頁6
行)として,誤った判断をした。
(ア)引用刊行物1には,審決が摘示するように,第1図(別紙図面(2)参照)
に,送信アンテナの長さを1/2λ,受信部のアンテナの長さを5/8λとするこ
とが記載されている。しかし,同刊行物には,同時に,利得についてより直接的
に,「5/8λアンテナ3よりは1/2λアンテナ6の方が利得がよい」(2頁左
下欄2行~3行)とも記載されているのであるから,引用発明1においては,送信
アンテナの利得の方が,受信アンテナの利得より大きくなっていることは,明らか
である。
 したがって,引用刊行物1の,送信アンテナの長さを1/2λとし,受信部のア
ンテナの長さを5/8λとするとの記載から,受信部のアンテナの利得は,送信ア
ンテナの利得より高いことが理解できるとし,引用発明1の「受信部のアンテナ」
は,送信アンテナと比較して利得が高い「ハイゲインアンテナ」といえるとした審
決の認定は,その前提において既に誤っているという以外にないのである。
(イ)「ハイゲインアンテナ」は,「高利得アンテナ」とも称され,当業界に
おいて,基準アンテナに比較して数倍高い利得を有しているアンテナを指称する語
として一般に用いられているものである。「ハイゲインアンテナ」の種類として
は,例えば,1/2λや5/8λのダイポールアンテナをすべて位相を揃えて直列
に接続して構成する多段同位相半波長ダイポールアンテナ(甲第7号証の246頁
参照),5/8λのアンテナ(ダイポールアンテナ)を多段に構成したもの(甲第
9号証の15頁参照),ビームアンテナ(甲第8号証の73頁27行~28行及び
甲第9号証の13頁参照)などがある。
 特定小電力無線局において通常使用されるアンテナは,たかだか20cm程度の
長さのアンテナである。しかし,本願発明では,特定小電力無線機の送信部から送
信される微弱な信号を長距離位置において受信するべく,この特定小電力無線機を
用いた長距離単向通信方式における受信側アンテナを,そのような従来一般のアン
テナよりも高利得となるように,「ハイゲインアンテナ」としているのである。
 このように,本願発明における「ハイゲインアンテナ」は,そのアンテナ単体で
高利得となるように構成されているアンテナであって,送信側アンテナ及び受信側
アンテナとの間の相対的な比較において規定されるものではない。したがって,本
願発明と引用発明との間に,受信部のアンテナにおいて実質的な相違はないとした
審決の判断は,誤りというしかないのである。
(ウ)被告は,仮に,審決が引用発明1の認定を誤ったと認定されるとして
も,同刊行物には,結局のところ,「10mWの小電力無線機を用いた長距離通信
方式」においてアンテナを工夫して長距離通信を行う技術が記載されているという
ことができるのであり,相違点③に係る本願発明の構成も,アンテナを工夫して長
距離通信を行う点で同様であるから,その意味で,審決が相違点③について実質的
に相違点といえないとしたことに誤りはないと主張する。
 しかしながら,被告の上記主張は,審決の認定していない事項をその内容とする
ものであるから,これを審決取消訴訟において持ち出すことは許されないところで
ある。
 また,引用発明1においては,親機側(送信側)のアンテナを従来の5/8λア
ンテナから1/2λアンテナに変更することを特徴としているのであるから,送信
側のアンテナを工夫しているのである。このように,通話距離を長くするために送
信側のアンテナを5/8λアンテナよりも利得のよい1/2λアンテナとする引用
刊行物1の記載をどのように解釈しようとも,本願発明のように,特定小電力無線
機の送信機から送信される信号を遠距離位置において受信するために,送信機には
何ら手を加えることなく,受信機側を工夫し,その受信機のアンテナとしてハイゲ
インアンテナを用いることによって長距離通信を行うという解釈に結び付けること
はできない。
(2)また,審決は,「刊行物2(判決注・引用刊行物2)には,無線通信にお
いて,受信アンテナを大きくすることが記載され,さらに,刊行物2,特に第2図
(判決注・別紙図面(3)参照)には,複数のアンテナを用いて受信信号を合成して利
得を高くする技術(引用発明2)が記載されている。これらのことから,刊行物1
発明(判決注・引用発明1)における「受信部のアンテナ」を,「大型のアンテ
ナ」であって「ハイゲインアンテナ」とすることは,当業者であれば,適宜なし得
ることである。」(審決書10頁11行~19行)と判断するが,この判断は,誤
りである。
 引用刊行物2に開示されているのは,多方向多重無線回線のアンテナ分岐
回路に関する発明であり,そこでは,複数のアンテナを用いて多方向からの電波を
受信し,また多方向へ電波を送信することにより,多方向多重無線を行うように構
成されているのである。したがって,引用刊行物2に,複数のアンテナを用いて受
信信号を合成するとの記載があるとしても,それは,多方向多重無線を行うためで
あり,「利得を高くする」目的で構成されているのではない。
 また,引用発明1は,長距離通信を行う目的で,従来の小電力型無線機の5/8
λアンテナを,1/2λアンテナへと変更する手段を採用することによって,アン
テナ長さを短くする技術を開示しているものであるから,引用発明1において,ア
ンテナを大きくする技術を採用することは,およそあり得ないことである。「受信
部のアンテナ」として,引用発明2のような「大型のアンテナ」を採用すること
は,引用発明1と相容れない正反対の技術なのである。
 このような状態の下では,引用発明1に同2を組み合わせるとの動機付けが生じ
る余地はなく,したがって,これらを組み合わせることを容易とすることはできな
いのである。
2 取消事由2(相違点④についての判断の誤り)
 審決は,本願発明と引用発明1とを対比して,「受信主増幅器」の前段増幅
器として,本願発明においては「選択された微弱な無線信号を優れた低雑音指数を
有して雑音を抑圧して増幅するプリアンプ」が設けられているのに対して,引用発
明1においては前段増幅器を設けることについて特に明記されていない点で相違す
ることを,相違点④として正しく認定しつつ(審決書8頁9行~14行),これにつ
き,「刊行物発明(判決注・引用発明1)は,電波出力が10mW以下で通話距離
を拡大しようとするものであるから,一般的に,送信出力が決められ,通信する距
離が長い場合には,受信する信号を受信部で増幅することは,当業者であれば,適
宜なし得るところ,刊行物2(判決注・引用刊行物2)には,アンテナで受信した
信号を受信機の前段に設けた低雑音増幅器で増幅することが記載されているから,
刊行物1発明(判決注・引用発明1)において,アンテナで受信した信号を受信主
増幅器の前段に低雑音増幅器を設け,雑音を抑圧して優れた増幅を行うことは,当
業者であれば,適宜なし得ることである。」(審決書11頁1行~12行)とし
て,誤った判断をした。
 本願発明においては,「ハイゲインアンテナ」を用いることによって,ハイゲイ
ンアンテナの特性によって,目的とする無線信号周波数を雑音レベルに比較して増
幅させ,これを「低雑音増幅器」であるプリアンプによって更に増幅し,目的とす
る無線信号周波数を良好に取り出すことができるのである。つまり,本願発明にお
いて,「低雑音増幅器」であるプリアンプは,「ハイゲインアンテナ」の使用によ
って初めて効果を発揮するのであり,その構成は「ハイゲインアンテナ」と切って
も切り離せない密接な関係を有しているのである。
 言い換えると,本願発明は,受信部において,ハイゲインアンテナとプリアンプ
とが協働関係にあることによって,特定小電力無線機を用いて長距離単向通信を行
うという所期の目的を達成するものであり,本願発明のプリアンプは,ハイゲイン
アンテナによって雑音レベルから増幅された無線信号を,更に雑音を抑圧して増幅
するものであり,本願発明は,これらハイゲインアンテナ及びプリアンプによって
それぞれ増幅された無線信号を,後段の受信主増幅器及び信号復調回路を経て一定
レベル以上の送信信号と同等の信号を出力し得るようにしているのである。
 他方,引用発明2の「低雑音増幅器」は,アンテナによる受信自体はもともと良
好であったものの,アンテナによって受信された搬送波が受信機まで搬送される過
程で,その途中に介在されるサーキュレータや分配機等のために減衰した分の信号
を補う目的で挿入されたものである。そして,「ハイゲインアンテナ」ではない引
用発明1の1/2λアンテナによって受信された信号を「低雑音増幅器」で増幅し
ようとしても,1/2λアンテナの選択性が0dBのため,目的とする無線信号周
波数がそのアンテナによって増幅されないので,雑音から分離できず,目的とする
無線信号周波数を取り出すことはできない。
 したがって,引用発明2の「低雑音増幅器」を引用発明1に適用するにしても,
両者を技術的に結び付けるための動機付けが全く見当たらないものであるから,両
者を組み合わせることを適宜なし得るものとすることはできない。仮に,両者を組
み合わせる発想があったとしても,目的とする無線信号周波数を取り出すことが技
術的に困難であるから,両者を組み合わせることを当業者が適宜なし得ることとす
ることができないことは,この点からみても,明らかである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点③についての認定判断の誤り)について
(1)引用発明1の受信部のアンテナの利得は,送信アンテナの利得より高いの
であるから,受信部のアンテナは,利得(ゲイン)が高い(ハイ)ので,この受信
部のアンテナを「ハイゲインアンテナ」といえる,とした審決の認定は,必ずしも
誤りとはいえない。
 すなわち,引用刊行物1には,審決が引用した記載に関連して,「1/2λアン
テナ6は1/2λ(>5/8λ)と長くなる」(2頁左下欄3行~4行)との記載
がある。一般的には,「1/2λ(<5/8λ)」が正しいことは明らかである。
しかし,引用刊行物1において「1/2λ(>5/8λ)」と記載されている理由
を検討すると,同刊行物の小電力型無線機においては,使用周波数は380MHz
と254MHzが例示されており,254MHzの1/2λ(約60cm)と38
0MHzの5/8λ(約50cm)を選択すると,「1/2λ(>5/8λ)」と
なる。したがって,「1/2λ(>5/8λ)」との記載が,必ずしも不合理とは
いえず,「1/2λ(>5/8λ)」との記載を前提とすれば,引用刊行物1に
は,従来用いていた5/8λである約50cmのアンテナの長さを1/2λである
約60cmとすることで,通話距離を従来の100mから1000m,さらに10
00mより長くする技術,すなわち,アンテナの長さを長くすることで通話距離を
長くする技術が引用刊行物1に記載されていると理解することができる。ただし,
以上のことは,2つの周波数を使用して同時に通信する場合にいえることであっ
て,1つの周波数を使用して交互に通信する場合には,5/8λが1/2λより長
いことは明らかである。
 このように,引用発明1の小電力型無線機においては,使用周波数として380
MHzと254MHzが例示されているのであるから,2つの周波数を使用して通
信する場合において,254MHzにおける1/2λ(アンテナ長さ約60cm)
と380MHzにおける5/8λ(アンテナ長さ約50cm)を選択したとすれ
ば,アンテナ長さにおいて,「1/2λ」の方が「5/8λ」より大きくなるので
あり,必ずしも審決が誤っているとはいえない。
(2)仮に,審決が引用発明1の認定を誤ったと認定されるとしても,同刊行物
には,結局のところ,「10mWの小電力無線機を用いた長距離通信方式」におい
てアンテナを工夫して長距離通信を行う技術が記載されているということができる
のであり,相違点③に係る本願発明の構成も,アンテナを工夫して長距離通信を行
う点で同様であるから,その意味で,審決が相違点③について実質的に相違点とい
えないとしたことに誤りはない。
 引用刊行物2には,「ハイゲインアンテナ」という用語は記載されていないもの
の,「自局の受信アンテナを大きくする」(2頁右上欄8行),「アンテナの寸法
を大きくする」(2頁右上欄11行)との記載があるから,引用発明1と同様に,
アンテナの長さを大きくすることで受信アンテナの利得を高くする技術,すなわ
ち,受信アンテナを「ハイゲインアンテナ」とするという技術が記載されていると
いうことができる。
 また,引用刊行物2によるまでもなく,一般の無線通信において,送信機,受信
機のいずれか,又は,両方において,送信機と受信機との距離に応じて,アンテナ
の利得が適宜決められることは,例えば,テレビ放送を受信する場合において,遠
方のテレビ受信機ほど,テレビ放送の電波が弱まるため,高利得アンテナ(ハイゲ
インアンテナ)を用いることは,よく知られていることである。
 原告は,引用発明1に同2を組み合わせるという動機付けが生じる余地はない旨
主張する。
 しかし,甲第8号証や甲第9号証によれば,利得が数倍の「ハイゲインアンテ
ナ」が,従来から汎用的に使用されていることが明らかなのであるから,引用刊行
物1の「利得アンテナ」の利得を数倍高くして「ハイゲインアンテナ」とすること
は,当業者であれば適宜なし得る,設計的事項に属する事項というべきである。
2 取消事由2(相違点④についての判断の誤り)について
 原告は,ハイゲインアンテナとプリアンプとの協働関係について,単にアン
テナを長く大きくしても,それだけでは本願発明が意図している雑音に埋もれかね
ないような極めて微弱な信号を雑音から分離して取り出すことはできない,と主張
し,特に,プリアンプの機能について,極めて微弱な信号を雑音から分離して取り
出すと主張する。しかし,この主張は誤りである。
 低雑音指数を有する「プリアンプ」とは,プリアンプにおける増幅器自体が発生
する雑音が低い,すなわち,内部雑音が低いということであって,アンテナから入
力される外部雑音は,微弱な信号とともにプリアンプで増幅されるから,いかに低
雑音指数を有するプリアンプといえども,極めて微弱な信号を雑音から分離して取
り出すことはできない。また,微弱な信号を強力な信号とする一般的な受信機にお
いては,アンテナに始まり最終の増幅器に至るまで,何段にもわたって微弱な信号
を増幅している。したがって,原告が主張するハイゲインアンテナとプリアンプと
の協働関係は,特別な関係ではなく,アンテナとプリアンプとのごく一般的な関係
にすぎない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点③についての認定判断の誤り)について
(1)本願発明と引用発明1とを対比すると,「受信部のアンテナ」が,本願発
明においては「ハイゲインアンテナ」であるのに対して,引用発明1においては
「利得アンテナ」である点で相違すること(審決認定の相違点③)は,当事者間に
争いがない。
(2)審決は,上記相違点について,「刊行物1,特に第1図には送信アンテナ
の長さを1/2λとし,受信部のアンテナの長さを5/8λとすることが記載され
ている。この記載からみると,受信部のアンテナの利得は,送信アンテナの利得よ
り高いことが理解できる。したがって,刊行物1発明における「受信部のアンテ
ナ」は送信アンテナと比較して利得が高い「ハイゲインアンテナ」といえるから,
この点については実質的な相違点とはいえない。」(審決書9頁17行~10頁6
行)と認定判断し,被告も,主位的には,引用発明1の受信部のアンテナの利得
は,送信アンテナの利得より高いから,受信部のアンテナは,利得(ゲイン)が高
い(ハイ)ので,この受信部のアンテナを「ハイゲインアンテナ」ということがで
きると主張する。
(3)本願発明にいう「ハイゲインアンテナ」の技術的意味について
 本願発明に係る特許請求の範囲には,「該受信部にはハイゲインアンテナ
を具備し」との記載があることが認められる。
 「ハイゲインアンテナ」という用語は,「ハイゲイン」と「アンテナ」という語
を結合して成るものであり,「ハイゲイン」の「ゲイン」(gain)がアンテナに
おける電力利得(power gain)を意味することは,甲第7号証,甲第8
号証及び弁論の全趣旨から明らかである。そして,「ハイゲイン」の「ハイ」が
「high」を意味することは,いうまでもないことであるから,「ハイゲインア
ンテナ」とは,「高利得アンテナ」,言い換えると,高い電力利得(単に「利得」
ということが多い。)を有するアンテナを意味するということになる。
 もっとも,「ハイゲインアンテナ」という用語が,当業者間で,一般に,単なる
「ハイゲイン」(高利得)のアンテナという意味とは異なった,特別な技術的意味
を有するものとして用いられていることも,一応考え得るところである。しかし,
本件全証拠を検討しても,「ハイゲインアンテナ」と呼称される特定の種類のアン
テナが存在することを示す資料は,見いだすことができない。
 そこで,本願明細書の発明の詳細な説明について検討する。
 甲第2号証によれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,「ハイゲインアンテ
ナ」に関し,「従来の特開平3-190403号公報に記載の技術は,波長5/8
λから1/2λとアンテナ長さを短くして電波を1kmまで飛ばそうとするもので
あるが,本発明は,この従来技術とは逆に,従来のアンテナを同相になるような多
段に重ねてなるハイゲインアンテナを使用することにより,10mWという小電力
であっても,1km以上の長距離で電波を受信する技術である。」(第12段),
「実施例1 本発明者は,本発明のハイゲインアンテナを用いて遠距離通信が可能
かどうかを調べた。その結果,通信距離と電界強度の関係を電波伝搬に関する理論
や各種のノモグラフ等により検討した結果,数Km離れた位置での遠距離通信が十
分可能な電界が得られることを見出した。」(第15段),「(条件)通信可能か
どうかの調査対象距離を5Km,8Kmの2地点とし,送受信機(即ち,送信アンテ
ナ)の高さを海抜2mとなるようにし,また受信アンテナとしては,従来のアンテ
ナを位相をそろえて3段に重ねてなるハイゲインを用いた。」(第17段1行~4
行),「2は受信部であり,前記送信部1から数Km離れた位置に設けられる。2
01は送信部1の送信用アンテナ102から送信される微弱な無線信号を受信する
ためのハイゲインアンテナであり,例えばグランドプレーンアンテナが用いられ
る。」(第29段1行~4行),「10は陸上設備で,受信用ハイゲインアンテナ
201か設けられている。ハイゲインアンテナ201としては例えばビームアンテ
ナでもよい。」(第59段1行,2行)などといった記載があることが認められ
る。
 甲第8号証によれば,昭和42年6月10日株式会社コロナ社発行「アンテナ・
電波伝搬」には,「6・3 ビーム・アンテナ」の項に,「一様に励振された数多
くの半波長アンテナ素子を同一平面内に縦横に規則的に列べることにより,その面
に垂直な方向に鋭い指向性をもつアンテナを構成することができる。このようなア
ンテナ・アレイ(antenna array)による指向性アンテナをビーム・
アンテナ(beam antenna)という。」(71頁12行~18行),
「以上述べたビーム・アンテナはその構造からも明らかなように,短波および超短
波の範囲の高利得指向性アンテナとして適している。」(73頁下から2行~末
行)との記載があることが認められる。また,甲第9号証によれば,1996年3
月作成の,第一電波工業株式会社発行「Ham World Antennas 
& Accessories Catalog」には,高利得のアンテナとして,
「ビームアンテナ」(13頁),「グランドプレーンアンテナ」(15頁)が掲載
されていることが認められる。
 本願明細書の上記認定の記載,特に,「本発明は,・・・従来のアンテナを同相
になるような多段に重ねてなるハイゲインアンテナを使用することにより,10m
Wという小電力であっても,1km以上の長距離で電波を受信する技術であ
る。」,「従来のアンテナを同相になるような多段に重ねてなるハイゲインアンテ
ナ」,「201は・・・ハイゲインアンテナであり,例えばグランドプレーンアン
テナが用いられる。」,「ハイゲインアンテナ201としては例えばビームアンテ
ナでもよい」との記載及び上記甲第8,9号証の記載によれば,本願明細書におい
ては,10mWという小電力で1km以上の長距離で電波を受信するために,従来
のアンテナを同相になるような多段に重ねた構造のアンテナ,ビーム・アンテナ,
グランドプレーンアンテナを使用することにし,これらを「ハイゲインアンテナ」
と総称していることが認められる。
 そうすると,発明の詳細な説明の上記記載によっても,結局,本願発明の「ハイ
ゲインアンテナ」とは,高利得(高い電力利得)を有するアンテナという程度の意
味を有するものであると理解するほかはない。そして,甲第2号証によれば,この
ような理解を妨げるべき資料は,本願明細書の記載中に見いだせないことが,明ら
かである。
 そこでさらに,「ハイゲインアンテナ」の「ハイゲイン」,すなわち,「高利得
(高い電力利得)」の意味について検討する。
 上述したとおり,「ハイゲインアンテナ」とは,高い電力利得を有するアンテナ
であり,ここに「高い」という以上,高低を決める基準となるアンテナが存在する
はずであるから,基準とするあるアンテナに比較して利得が高いものであるという
ことができる(原告自身も,「ハイゲインアンテナ」は,「高利得アンテナ」とも
称され,当業界において,基準アンテナに比較して数倍高い利得を有しているアン
テナを指称する語として一般に用いられているものであるとしている。)。
 本願発明に係る特許請求の範囲に,「送信部に電波法で認定された送信出力10
mWの特定小電力無線送受信機を仕様変更することなく認定品そのままのものを用
いた送信機と送信アンテナを具有しており,受信部は前記送信部から数Km離れた
位置に設けられ,該受信部にはハイゲインアンテナを具備し,該ハイゲインアンテ
ナで前記送信機から送信された雑音レベルに近い微弱な無線信号を受信し,」との
記載があることからすると,特許請求の範囲の記載でみる限り,本願発明の受信部
の「ハイゲインアンテナ」と比較されるものは,電波法で認定された送信出力10
mWの特定小電力無線送受信機に用いられる一般的な送信アンテナしかなく,そう
であれば,本願明細書の発明の詳細な説明中に異なった結論に導く明確な根拠が見
いだせない限り,本願発明にいう「ハイゲインアンテナ」とは,電波法で認定され
た送信出力10mWの特定小電力無線送受信機に用いられる一般的な送信アンテナ
に比べて高い利得を有するアンテナを意味しているものと考えれば,必要にして十
分なものであるということができる。
 そして,発明の詳細な説明を検討しても,前記認定の本願明細書の発明の詳細な
説明の記載からみる限り,「ハイゲインアンテナ」の電力利得の程度には何らの限
定も存在せず,甲第2号証によれば,本願明細書のその余の記載をみても同様であ
ることが明らかである。
 以上のとおりであるから,結局のところ,本願発明の「ハイゲインアンテナ」の
「ハイゲイン」は,電波法で認定された送信出力10mWの特定小電力無線送受信
機に用いられる一般的な送信アンテナに比べて高い利得を有することを意味してい
るにすぎないものというべきである。
(4)引用刊行物1に,受信部に「ハイゲインアンテナ」を使用する技術の開示
があるかについて検討する。
(ア)甲第4号証によれば,引用刊行物1には,その特許請求の範囲の欄に,
「(1)無線回線を介して信号の授受を行なう小電力型無線機において,0dBの利得
とする略半波長の利得アンテナ(1/2λアンテナ)を用い,通話可能範囲を広く
したことを特徴とする小電力型無線機のアンテナ。」(1頁左下欄5行~9行)と
の記載が,発明の詳細な説明の欄に,「この発明は,電波出力10mW以下の小電
力型無線機に用いられるアンテナに係り,更に詳しくは信号の授受可能範囲,つま
り通話距離を拡大するようにした小電力型無線機のアンテナに関するものであ
る。」(1頁左下欄下から6行~2行),「近年,小電力型無線機としてはコード
レス電話を始めとして種々提案されているが,その小電力型無線機のアンテナとし
ては通常5/8λアンテナが使用されている。・・・小電力型無線機1,2は小型
で,携帯用,つまり移動局であることから,アンテナ3の長さをできるだけ短く
し,使い易くできるからである。」(1頁右下欄1行~11行),「その目的は電
波の出力を10mW以下に抑え,通話エリアを広くすることができるようにした小
電力型無線機のアンテナを提供することにある。」(2頁左上欄5行~7行),
「第1図および第2図において,電波出力10mW以下である小電力型無線機の親
機(接続装置)4には略半波長の利得アンテナ(1/2λアンテナ)6が用いられ
ている。また,その1/2λアンテナ6は特に周波数380MHz帯域または25
4MHz帯域で0dbの利得としている。ここで,コードレス電話システムの親機
から子機側に電波が発射されると,1/2λアンテナ6の場合,電波が達する距離
が屋外では,例えば見通しがよければ約1000mで,屋内では約200mにな
り,つまり通話距離が長くなる。すなわち,1/2λアンテナ6と5/8λアンテ
ナとを比較すると,5/8λアンテナ3よりは1/2λアンテナ6の方が利得がよ
いからである。なお,1/2λアンテナ6は1/2λ(>5/8λ)と長くなる
が,コードレス電話の場合,親機4は固定されているため,使い易さ等の問題にな
らない。このように,親機4から1000m離れた子機51,・・・,5Nには親機
4からの電波が達し,通話可能であるため,例えば広いゴルフ場やレジャー施設場
等内において子機の移動範囲が広く,その子機の扱い者にとって有用である。な
お,上記実施例では,親機4のアンテナを1/2λアンテナ6としているが,子機
51,…,5Nにその1/2λアンテナ6を用いれば,通話距離はさらに長くなる。
また,使用周波数が380MHz帯域または254MHz帯域である場合について
説明したが,他の周波数の場合であってもよいが,その周波数によって,アンテナ
の長さは異なることになる。」(2頁右上欄10行~左下欄下から2行)との各記
載があることが認められる(上記「1頁左下欄下から6行~9行」,「2頁左上欄
5行~7行」,「2頁右上欄10行~左下欄末行」は,いずれも,引用刊行物1か
らの引用の部分を示すものとして,審決が記すところである。審決書の「1頁左下
欄下から6行ないし2行」における「5」は「6」の誤記と認める。)。また,同
刊行物の第1図には,同刊行物に係る発明の一実施例として,親機のアンテナを長
い1/2λアンテナとし,短い子機のアンテナに向けて電波を送信している図が示
されていることが認められる(別紙図面(2)参照)。
(イ)引用刊行物1の上記認定の記載によれば,同刊行物には,従来,小電力
型無線機のアンテナとしては,携帯用という用途にふさわしくするためアンテナの
長さをできるだけ短くしようとの発想から,通常5/8λアンテナが使用されてい
たこと,しかし,送信側の親機のアンテナを長くして,従来の5/8λアンテナ3
より利得の高い1/2λアンテナ6を使用すれば通話可能範囲を広くすることがで
きることが記載されていることが,明らかである。
 そうすると,「刊行物1、特に第1図には送信アンテナの長さを1/2λとし、受信
部のアンテナの長さを5/8λとすることが記載されている。この記載からみると、受
信部のアンテナの利得は、送信アンテナの利得より高いことが理解できる。」(審
決書9頁17行~10頁2行)とした上,これを根拠に,「刊行物1発明における
「受信部のアンテナ」は送信アンテナと比較して利得が高い「ハイゲインアンテ
ナ」といえるから,この点については実質的な相違点とはいえない。」(審決書1
0頁3行~6行)とした審決の認定は,少なくともその限りでは,引用刊行物1に
おける「5/8λアンテナ」と「1/2λアンテナ」との技術的意味の誤解に基づ
き犯された,明らかな誤りという以外にない(なお,甲第2号証によれば,原告自
身も,本願明細書において「従来の特開平3-190403号公報(判決注・引用
刊行物1)に記載の技術は,波長5/8λから1/2λとアンテナ長さを短くして
電波を1kmまで飛ばそうとするものである」と記載していたことが認められ,引
用刊行物1における「5/8λアンテナ」と「1/2λアンテナ」との技術的意味
を誤解していたことが明らかである。)。
(5)被告は,予備的に,引用刊行物1には,「10mWの小電力無線機を用い
た長距離通信方式」においてアンテナを工夫して長距離通信を行う技術が記載され
ているということができるのであり,相違点③に係る本願発明の構成も,アンテナ
を工夫して長距離通信を行う点で同様であるから,その意味で,審決が相違点③に
ついて実質的に相違点といえないとしたことに誤りはない,と主張する。
(ア)本願発明にいう「ハイゲインアンテナ」とは,電波法で認定された送信
出力10mWの特定小電力無線送受信機に用いられる一般的な送信アンテナに比べ
て高い利得を有するアンテナを意味するにすぎないことは,前述したとおりであ
る。そして,相違点③に係る本願発明の構成というのは,受信部のアンテナを「ハ
イゲインアンテナ」にしたというにすぎないものである。
(イ)前記(ア)認定のとおり,引用刊行物1には,従来,小電力型無線機のアン
テナとしては,携帯用という用途にふさわしくするためアンテナの長さをできるだ
け短くしようとの発想から,通常5/8λアンテナが使用されていたこと,しか
し,送信側の親機のアンテナを長くして,従来の5/8λアンテナ3より利得の高
い1/2λアンテナ6を使用すれば通話可能範囲を広くすることができることが記
載されているのであり(引用刊行物1が「10mWの小電力無線機を用いた長距離
通信方式」に関する技術であることは,当事者間に争いがない。),同記載によれ
ば,引用刊行物1に,「10mWの小電力無線機を用いた長距離通信方式」におい
てアンテナを工夫して通信距離を長くする技術が記載されていることは,明らかで
ある。そして,一般的にいって,送信側から受信側に送られる電波が弱ければ,送
信側の発信能力又は受信側の受信能力,あるいは双方を高めればよいことは,当た
り前のことであり,本件においても,アンテナを工夫して通信距離を長くするに当
たり,送信側のアンテナを長くするなどして送信側の利得を高めるか,受信側のア
ンテナを長くするなどして受信側の利得を高めるかは,いわば,具体的事情によっ
て変わる都合に応じて選択すべき,単なる設計事項にすぎないものというべきであ
る(引用刊行物1自体にも,親機4のアンテナを1/2λアンテナ6として長くす
ることにより通話距離を長くすることのほか,前認定のとおり,「なお,上記実施
例では,親機4のアンテナを1/2λアンテナ6としているが,子機51,…,5N
にその1/2λアンテナ6を用いれば,通話距離はさらに長くなる。」(甲第4号
証2頁左下欄12行~15行)として,子機51,…,5Nのアンテナを1/2λア
ンテナ6として長くすることにより,通話距離を更に長くすることも記載されてい
る。)。そうだとすると,引用発明1の「利得アンテナ」と本願発明の「ハイゲイ
ンアンテナ」との間には,「ハイゲインアンテナ」という用語を用いるか否かとい
う相違があるだけで,発明の特許性の有無を検討するに当たって,格別の検討に値
する実質的な相違はないというべきであり,その意味で,「この点については実質
的な相違点とはいえない。」(審決書10頁5行~6行)とした審決は,結論にお
いて誤っていない,ということができる。
(ウ)原告は,被告の上記主張は,審決の認定していない事項であるから,こ
れを審決取消訴訟において持ち出すことは許されない旨主張する。
 審決取消訴訟においては,拒絶査定不服の審判にせよ無効審判にせよ,その審判
手続において審理判断されなかった公知事実との対比における拒絶理由ないし無効
理由は,審決を違法とし,又はこれを適法とする理由として主張することができな
いものであると解されている(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30
巻2号79頁参照)。
(エ)本件についてみると,甲第1号証によれば,相違点③に関して,審決
は,次のとおり認定判断したことが認められる,
(a)本願発明と関連性を有する公知刊行物として特開平3-190403
号公報(引用刊行物1)及び特開昭60-200627号公報(引用刊行物2)を
選択した(これらは,いずれも,平成10年12月16日付け拒絶理由で引用され
た刊行物である。)。
(b)引用刊行物1には,「①電波出力10mW以下の小電力型無線機に用
いられるアンテナに係り,更に詳しくは信号の授受可能範囲,つまり通話距離を拡
大するようにした小電力型無線機のアンテナに関すること(1頁左下欄下から6行
ないし2行) ②電波の出力を10mW以下に抑え,通話エリアを広くすることが
できるようにした小電力型無線機(2頁左上欄5行ないし7行) ③第1図および
第2図において,電波出力10mW以下である小電力型無線機の親機(接続装置)
4には略半波長の利得アンテナ(1/2λアンテナ)6が用いられている。(中
略)ここで,コードレス電話システムの親機から子機側に電波が発射されると,1
/2λアンテナ6の場合,電波が達する距離が屋外では,例えば見通しがよければ
約1000mで,屋内では約200mになり,つまり通話距離が長くなる。(中
略)このように,親機4から1000m離れた子機51,…,5Nには親機4からの
電波が達し,通話可能であるため,例えば広いゴルフ場やレジャー施設場等内にお
いて子機の移動範囲が広く,その子機の扱い者にとって有用である。(中略)ま
た,使用周波数が380MHz帯域または254MHz帯域である場合について説
明したが,他の周波数の場合であってもよいが,その周波数によって,アンテナの
長さは異なることになること(2頁右上欄10行~左下欄下から2行)」(審決書
3頁15行~4頁末行)が記載されていると認定した。
(c)本願発明と引用発明1とを対比して,両者は,「上記「受信部のアン
テナ」が,本願発明においては「ハイゲインアンテナ」であるのに対して,刊行物
1発明においては「利得アンテナ」である点で一応相違する。」(審決書8頁5行
~8行)と認定し,これを相違点③とした。
(d)相違点③についての判断において,「刊行物1,特に第1図には送信
アンテナの長さを1/2λとし,受信部のアンテナの長さを5/8λとすることが
記載されている。この記載からみると,受信部のアンテナの利得は,送信アンテナ
の利得より高いことが理解できる。したがって,刊行物1発明における「受信部の
アンテナ」は送信アンテナと比較して利得が高い「ハイゲインアンテナ」といえる
から,この点については実質的な相違点とはいえない。」(審決書9頁17行~1
0頁6行)と判断した(なお,原告の,本願発明における「受信部のアンテナ」は
「大型のアンテナ」であるとの主張に関連して,引用刊行物1及び同2に記載され
た技術を組み合わせて,引用発明1における「受信部のアンテナ」を「大型のアン
テナ」であって「ハイゲインアンテナ」とすることは,当業者であれば適宜なし得
るとの進歩性の判断もしている。)。
(オ)上記認定によれば,審決は,引用刊行物1の記載を正しく認定してこれ
を基に引用発明1を認定し,本願発明と引用発明1との対比において,相違点③を
正しく認定したものの,同相違点の判断に際し,引用発明1における「5/8λア
ンテナ」と「1/2λアンテナ」との技術的意味を誤解したため,「引用発明1に
おける受信部のアンテナの利得は,送信アンテナの利得より高い」と誤った認定を
し,この誤った認定を,相違点③は実質的な相違点とはいえないとの結論を理由付
ける事実として採用してしまった,ということができる。
 審決が引用刊行物1につき前記(エ)(b)認定の記載を引用して掲げていることは,
とりもなおさず,審決が,引用発明1は,「10mWの小電力無線機を用いた長距
離通信方式」においてアンテナを工夫して通信距離を長くする技術であることを認
定していたことを示すものというべきである。
 そうすると,被告の,引用刊行物1には,「10mWの小電力無線機を用いた長
距離通信方式」においてアンテナを工夫して長距離通信を行う技術が記載されてい
ることを前提とする予備的主張は,本願発明と対比されるべき主たる公知事実とし
て,審判段階で取り上げられなかったものを新たに主張しようとするわけのもので
はなく,被告がしようとしているのは,審判段階で既に取り上げられていた公知事
実を前提に,そこから結論を導き出すための根拠とする事由を,引用刊行物1に記
載されていると誤って認定した事項から,引用刊行物2に記載された事項,あるい
は,周知事項に変更することにすぎない,ということが可能である。
 以上の事情を考慮するならば,本訴において,引用刊行物1に「10mWの小電
力無線機を用いた長距離通信方式」においてアンテナを工夫して長距離通信を行う
技術が記載されていることに基づいて相違点③についての判断の当否を認定判断し
たとしても,必ずしも,原告に保障されている,専門行政庁たる特許庁の審理判断
を受ける利益が害されるとはいえず,前記最高裁判決の趣旨に反するともいえない
と解するのが相当である。
 そうである以上,被告の予備的主張を,審決の認定していない事項を根拠とする
ものであるとして,それを理由に,本訴において主張し得ないものとすることはで
きない,というべきである。
 原告の上記主張は,採用できない。
(カ)原告は,引用発明1においては,親機側(送信側)のアンテナを従来の
5/8λアンテナから1/2λアンテナに変更することを特徴としているのである
から,送信側のアンテナを工夫しているのである,このように,通話距離を長くす
るために送信側のアンテナを5/8λアンテナよりも利得のよい1/2λアンテナ
とする引用刊行物1の記載をどのように解釈しようとも,本願発明のように,特定
小電力無線機の送信機から送信される信号を遠距離位置において受信するために,
送信機には何ら手を加えることなく,受信機側を工夫し,その受信機のアンテナと
してハイゲインアンテナを用いることによって長距離通信を行うという解釈に結び
付けることはできないと主張する。
 しかしながら,送信部あるいは送信部と受信部にハイゲインアンテナを使用する
技術が開示されているとき(前記認定のとおり,引用刊行物1には,「なお,上記
実施例では,親機4のアンテナを1/2λアンテナ6としているが,子機51,
…,5Nにその1/2λアンテナ6を用いれば,通話距離はさらに長くなる。」と
いう記載がある。),送信部は従来どおりのアンテナで,受信部をハイゲインアン
テナとしてみようと考えることは,このような思考を妨げる特殊な事情でもない限
り,極めて当たり前のことというべきである。そして,本件全証拠を検討しても,
上記特殊な事情は見いだせない。原告の上記主張は,失当である。
2 取消事由2(相違点④についての判断の誤り)について
(1)本願発明と引用発明1とを対比したとき,「受信主増幅器」のプリアンプ
として,本願発明においては,「選択された微弱な無線信号を優れた低雑音指数を
有して雑音を抑圧して増幅するプリアンプ」が設けられているのに対して,引用発
明1においては,プリアンプを設けることについて特に明記されていない点で相違
すること(審決認定の相違点④)は,当事者間に争いがない(審決書8頁9行~1
4行)。
(2)本願発明にいう「選択された微弱な無線信号を優れた低雑音指数を有して
雑音を抑圧して増幅するプリアンプ」という構成の技術的意味について考察する。
 「プリアンプ」が,「主増幅器」の前に置かれる増幅器(amplifier)
を意味すること,「増幅器」が「増幅作用を行わせる装置」であることは,当裁判
所に顕著である。そして,これを,無線技術の分野についていえば,受信する微弱
な無線信号を増幅する作用を有する装置であることは,明らかである。
 上記「微弱な無線信号を優れた低雑音指数を有して雑音を抑圧して増幅する」と
の文言のうち,「優れた低雑音指数を有して雑音を抑圧して」との文言は,文言自
体の一般的用法に従って解釈する限り,構成に触れるところのないものであるか
ら,本願発明に係るプリアンプの有する機能を示し得るだけである。
 そうだとすると,本願明細書の発明の詳細な説明中に異なった結論に導く明確な
根拠が見いだせない限り,本願発明にいう「プリアンプ」とは,一般的な低雑音増
幅器を主増幅器の前に設置した構成であると考えれば,必要にして十分なものであ
るということができる。
 本願明細書の発明の詳細な説明について考察する。甲第2号証をみると,本願明
細書の発明の詳細な説明において,実施例についての説明中で,「202は受信信
号の雑音を抑圧するための低雑音指数のプリアンプである,203は雑音を抑圧さ
れた信号を更に増幅するための受信主増幅器であり,204は信号出力レベルに必
要な範囲まで復調するための信号復調回路である。」(第29段4行~6行),
「受信部2では,送信部1より送信されたデータ信号を受信用ハイゲインアンテナ
201で受信し,受信されたデータ信号は低雑音指数プリアンプ202に送られ,
信号をよりよく取り出すために出力に不必要な雑音は抑圧される。雑音を抑圧され
たデータ信号は,受信主増幅器203に送られ出力に可能なレベルにまで増幅され
る。」(第31段1行~5行)などという記載があるものの,不必要な雑音をどの
ように選択し,どのように抑圧するのかその具体的な手法についての記載は,全く
見いだせない。
 このように,発明の詳細な説明の上記記載中にも,特許請求の範囲に係る上記解
釈と異なった結論に導く何らの根拠も見いだせない以上,「優れた低雑音指数を有
して雑音を抑圧して」とは,前述の,一般的な低雑音増幅器が通常に有するべき機
能あるいは性質を説明しているにすぎないものというべきである。
(3)甲第5号証によれば,引用刊行物2には,「一般にはアンテナ分岐回路は
それぞれのアンテナで受信された受信波は減衰する事なく受信機に導かれるのが理
想であるが,分岐回路4及び5で数db前後の減衰が生じるので受信波の搬送波/
雑音が低下して品質が低下する。」(2頁左上欄13行~17行),「そこで,受
信品質を低下させない為に下記の様な手段を取っていた。(1)相手局からの放射電
力を増加させる為に,送信電力を増加したり送信アンテナを大きくする。・・・(2)
自局の受信アンテナを大きくする。」(同頁右上欄)2行~8行),「アンテナ
1,2及び3で受信された各子局からの受信波はサーキュレータ10,11,12
及び受信帯域ろ波器14,16,18を通ってアンテナ1,2及び3の直ぐ近くに
配置された低雑音増幅器19,20及び21に加えられる。ここで,それぞれに増
幅された受信波は結合回路23,受信帯域ろ波器25,サーキュレータ26及び2
7を通って受信機29に加えられる。」(2頁右下欄10行~17行)との各記載
があることが認められる。
 引用刊行物2の上記認定の記載によれば,同刊行物には,受信アンテナを大きく
して受信品質の低下を防止する技術,アンテナで受信された受信波が,まず低雑音
増幅器に送られ,ここで増幅されてから受信機に送られる技術が記載されているこ
とが明らかである。
 上記の引用刊行物2記載の技術(引用発明2)に接した当業者が,引用発明1に
おいて,受信する信号を受信部で増幅しようとする場合に,引用発明2を採用し
て,受信した無線信号を,まず,低雑音増幅器に送り,その後に,主増幅器に送る
という構成に想到することは,本件出願当時,ごく容易なことであったというべき
である。
(4)原告は,本願発明は,「ハイゲインアンテナ」を用いることによって,ハ
イゲインアンテナの特性によって,目的とする無線信号周波数を雑音レベルに比較
して増幅させ,これを「低雑音増幅器」であるプリアンプによって更に増幅し,目
的とする無線信号周波数を良好に取り出すことができる,つまり,本願発明におい
て,「低雑音増幅器」であるプリアンプは,「ハイゲインアンテナ」の使用によっ
て初めて効果を発揮するのであり,その構成は「ハイゲインアンテナ」と切っても
切り離せない密接な関係を有していると主張する。
 しかしながら,本願発明にいう「ハイゲインアンテナ」が,電波法で認定された
送信出力10mWの特定小電力無線送受信機に用いられる一般的な送信アンテナに
比べて高い利得を有するアンテナを意味しているにすぎないものであることは,前
述したとおりである。そして,本願明細書の発明の詳細な説明中の発明の効果の項
の記載は,「以上の説明から明らかなように,本発明によれば,低電力の特定小電
力無線送受信機から送信される微弱な無線信号を,1km以上離れた位置でも低雑
音高感度で受信が可能であり,かつ各種のデータや情報を長距離単向通信できる特
定小電力無線機を用いた長距離単向通信方式を提供することができる。」(第73
段)というものであり,他には何も記載されていない。これらのことからすれば,
本願発明においては,高い利得の「ハイゲインアンテナ」を使用することによっ
て,送信される微弱な無線信号を従来のアンテナの場合より遠い所で低雑音高感度
で受信でき,これにより,各種のデータや情報を遠くへ単向通信で送ることができ
るとしているにすぎないことが,明らかである。したがって,本願発明が,「ハイ
ゲインアンテナ」を用いることによって,ハイゲインアンテナの特性によって,目
的とする無線信号周波数を雑音レベルに比較して増幅させ,これを「低雑音増幅
器」であるプリアンプによって更に増幅し,目的とする無線信号周波数を良好に取
り出すことができる,などという作用効果を問題とする発明でないことは,いうま
でもないところである。
 原告の上記主張は,前提において既に誤っている。
 原告は,引用発明2の「低雑音増幅器」は,アンテナによる受信自体は,もとも
と良好であったものの,アンテナによって受信された搬送波が受信機まで搬送され
る過程で,その途中に介在されるサーキュレータや分配機等のために減衰した分の
信号を補う目的で挿入されたものであるとして,引用発明2の「低雑音増幅器」を
引用発明1に適用するにしても,両者を技術的に結び付けるための動機付けが全く
見当たらないものであるから,両者を組み合わせることを適宜なし得るものとする
ことはできないばかりか,仮に,両者を組み合わせる発想があったとしても,目的
とする無線信号周波数を取り出すことが技術的に困難であり,この点からみても,
当業者が適宜なし得るものとはいえない,と主張する。
 しかしながら,本件においては,引用発明2として,「低雑音増幅器」が用いら
れている理由まで引用しているわけではない。また,引用刊行物2に記載されてい
る具体的な技術を,文字どおり,そのまま引用発明1に適用できるかどうかを検討
しているのでもない。本願発明の進歩性を検討するに当たって考慮されるべきは,
引用発明1と同2とに接した当業者が,これらを契機として本願発明に容易に想到
し得たかどうかであり,引用発明2の技術課題が特殊なものであるため,組み合わ
せることが妨げられるといった特別の事情が認められない限り,当業者において,
容易に,引用発明1に同2の技術を適用し得たものというべきである。
 そして,引用発明2において,「低雑音増幅器」を搬送波を受信するまでの減衰
を補うために使用するか,受信した後に増幅器に達するまでの減衰を補うために使
用するかで,「低雑音増幅器」の作用に変わるところがないから,引用発明1に同
2の技術を適用することを妨げる特別の事情ということはできない。
 原告は,「ハイゲインアンテナ」ではない引用発明1の1/2λアンテナによっ
て受信された信号を「低雑音増幅器」で増幅しようとしても,1/2λアンテナの
選択性が0dBのため,目的とする無線信号周波数がそのアンテナによって増幅さ
れないので,雑音から分離できず,目的とする無線信号周波数を取り出すことがで
きないとして,これを,引用発明2の「低雑音増幅器」と引用発明1とを技術的に
結び付けるための動機付けがない根拠としている。
 しかしながら,上述したとおり,本願発明は,「ハイゲインアンテナ」を用いる
ことによって,ハイゲインアンテナの特性によって,目的とする無線信号周波数を
雑音レベルに比較して増幅させ,これを「低雑音増幅器」であるプリアンプによっ
て更に増幅し,目的とする無線信号周波数を良好に取り出すことができる,などと
いう作用効果を問題とする発明でないから(そのようなことは,本願明細書に何ら
記載されていない。),雑音からの分離,目的とする無線信号周波数の取出しをい
う原告の主張は,前提において既に失当である。
3 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,
その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,本訴請求を棄却
することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適
用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
  裁判長裁判官    山   下   和   明
     裁判官    設   樂   隆   一
裁判官    宍   戸       充
別紙図面(1)   別紙図面(2)   別紙図面(3)

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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