弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人永井正恒、三宅厚三提出の控訴趣意書(右両弁護人共同
作成名義)記載のとおりであるから、ここにこれを引用するが、これに対し当裁判
所は次のとおり判断する。
 控訴趣意第一点および第二点法令の適用の誤りについて、
 所論はまず原判決は公職選挙法二二一条一項四号にあたる本件犯罪に対し、罰金
等臨時措置法二条一項を適用しなかつたのは、法律の適用を遺脱した違法があると
いうのである。
 よつて原判決の擬律を検討すれば、原審が公職選挙法二二一条一項四号により被
告人を処断しながら、罰金等臨時措置法二条一項の適用を判文上明示しなかつたこ
とは、所論のとおりであるけれども同条一項は刑法一五条と等しく罰金刑の最低額
を規定するに過ぎない刑法総則的な規定であると解すべきものであるから、刑事訴
訟法三三五条所定の法令の規定を示す場合、前記措置法二条一項を必ずしも常に判
文上明示する必要はないといわなければならない。原判決も右罰金等臨時措置法二
条一項を適用しながら、その適用を明示しなかつたに過ぎないものと認められるの
で、論旨は理由がない。
 次に、原判決は被告人に対し金五、〇〇〇円を追徴する旨言渡しをしているが、
被告人は原判示のとおりAから金五、〇〇〇円の供与を受けたけれども、その後右
利利益を返する趣旨のもとに二回にわたつて清酒合計八本を合計金三、九二〇円で
購入し、その都度陣中見舞および当選祝名義で同人に返還しているので、公職選挙
法二二四条の立法精神にかんがみ、右清酒合計八本の代金合計三、九二〇円は被告
人が供与を受けた金五、〇〇〇円の一部を返還したものと認のるのが相当であるか
ら、原審は右五、〇〇〇円三、九二〇円の差額金一、〇八〇円だけを追徴すべきで
あるのにかかわらず金額五、〇〇〇円を追徴する旨の言渡しをしたのは、同条の適
用を誤つた違法があるというのである。
 よつて、原判決挙示の証拠によれば、被告人がAより受領した金五、〇〇〇円は
原判示候補者Bのために、原判示の如き趣旨すなわち同候補者のため投票並びに投
票取りまとめ等選挙運動の報酬として供与を受けたものであることは明白である。
そして検事に対する被告人の供述調書、検車に対するCの供述<要旨>調書によれ
ば、被告人は右金五、〇〇〇円のうち一、四七〇円で二級清酒三本分の商品切手一
枚を買い受け、その頃陣中見舞名義で前記Aに右商品券を贈与し、更にその
後二級酒五本を、前記五、〇〇〇円の残額のうちから二、四五〇円を拠出して買い
求め、右清酒を当選祝名義でBに贈与し、なお右五、〇〇〇円のうち余剰の一、〇
八〇円は自己の用途に費消したことが認められる。そうすると仮告人が本件供与に
かゝる五、〇〇〇円のうち自己の用途に費消した右金一、〇八〇円はもちろん、残
余の合計三、九二〇円についてもこれを前記の如く商品切手、清酒の各購入代金に
充て、これをAに贈与したとしても、それは被告人が供与を受けた金員をAに対し
返還したものと認めるべきではなく、被告人の負担においてするAに対する社交儀
礼上の贈与と認むべく、すなわち、右金員についても、被告人は結局自己の用途に
これを費消してしまつたこととなるのであるから、被告人において、本件供与にか
かる五、〇〇〇円についてはその利益をすべて享受し終つたためもはやこれを没収
することができなくなつたものといわなければならない。
 従つて原判決が被告人に対し五、〇〇〇円全額を追徴する旨の言渡しをしたのは
まことに相当であつて、被告人において所論追徴を免れる理由は毫も存しないもの
というべく、論旨は理由がない。
 控訴趣意第三点、量刑不当の論旨について、
 本件記録を精査し、原裁判所の取り調べたすべての証拠を検討してみると、被告
人の本件犯行の態様、特に受供与の金額、被告人が本件供与を受けた趣旨、同種事
犯の刑の権衡その他一切の犯清を勘案すると、原判決の被告人に対する量刑は重き
に過ぎ不当なものであるとはとうてい考えられない。論旨は理由がない。
 よつて本件控訴は理由がないので、刑事訴訟法三九六条に則りこれを棄却するこ
ととし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 谷口正孝 判事 布谷憲治 判事 中谷直久)

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