弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金壱万五千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金弐百円を壱日に換算した期
間、被告人を労役場に留置する。
         理    由
 弁護人寺井俊正の控訴趣意は、その提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、
これを引用する。以下これについて判断する。
 同控訴趣意中憲法違反の主張について。
 <要旨>憲法第三十一条の規定は、或る行為に或る刑罰を科するには法律で定めた
手続によらなければならないということだけではなく、その沿革上、如何な
る行為に如何なる刑罰を科するかといういわゆる罪刑法定主義をも定めた趣旨であ
ること所論のとおりである。しかし経済統制等に関する法律がその立法目的を明示
し、犯罪構成要件に関してこれを概括的に規定した上、その個別的構成要件を規定
することを命令に委任することは、必ずしも罪刑法定主義に違背するものではない
と解すべきである。
 蓋し、法律に委任された命令により規定せられる個別的構成要件は、結局におい
て法律に基くものであるといい得ると共に、それは明示せられた立法目的と概括的
構成要件の制約内で規定せられるものであるから、法律的確実性と人権保障は害せ
られないものといえるからであり、他面、経済法規の性格上或る程度の委任命令を
認めない限り、変転極りない経済変動の間に処して、不測の事態に対し臨機の措置
をとり、その実効をはかることが不可能となるからである。所論の憲法第七十三条
第六号は、却つて、法律の特別の委任ある場合にはその委任事項を命令で定め得る
ことを予定しているものと解すべく、即ち、同法条同号において、政令は特に法律
の委任がある場合を除いては罰則を設けることはできない旨を定めているのは、法
律の委任に基く政令により、その委任の範囲内で、国民の権利について一定の制限
を設け、この制限に違反した者に対して罰則を科することができる趣旨であるとい
うべきである。また、所論の憲法第二十九条第一、二項から、直ちに、所論のよう
に、法律の委任に基く命令により、その委任の範囲内で、権利を制限することを一
切禁止する趣旨であるとは解されない。
 本件において、食糧管理法第一条は「本法ハ国民食糧ノ確保及国民経済ノ安定ヲ
図ル為食糧ヲ管理シ其ノ需給及価格ノ調整並ニ配給ノ統制ヲ行フコトヲ目的トス」
と明示し、同法第九条第一項は「政府ハ主要食糧ノ公正且適正ナル配給ヲ確保シ其
ノ他本法ノ目的ヲ遂行スル為特ニ必要アリト認ムルトキハ政令ノ定ムル所ニ依リ主
要食糧ノ配給、……譲渡其ノ他ノ処分、……ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得」
と規定し、右の委任に基き、同法施行令第八条は「主要食糧の適正な流通を確保す
るため特に必要があると認めるときは、農林大臣又は……は、……場合を除いて、
主要食糧を所有する者に対し、その者の行う主要食糧の譲渡に関し、その相手方又
は時期を制限することができる」と規定し、それに基き、同法施行規則第三十七条
は「……場合を除いて、米穀の生産者は、その生産した米穀を政府以外の者に売り
渡してはならない……」と規定している。所論は、右同法施行令第八条と同法施行
規則第三十七条は同法第九条の「……配給ヲ確保シ……為特ニ必要アリト認ムルト
キハ」に制約せらるべきなのに、同法施行令第八条の「……流通を確保」は同法第
九条の「……配給ヲ確保」の目的を超えるものであり、同法施行規則第三十七条は
無条件で何等の制約が附せられていないと主張し、配給の確保に協力した供出完納
者は同法施行規則第三十七条から除外さるべきであると主張する。しかし、同法施
行令第八条は同法第九条の「……主要食糧ノ公正且適正ナル配給ヲ確保シ其ノ他本
法ノ目的ヲ遂行スル為特ニ必要アリト認ムルトキハ」に制約せられ、同法施行規則
第三十七条は同法施行令第八条の「……主要食糧の適正な流通を確保するため特に
必要があると認めるときは」に制約せられるものであることは規定上明白であるか
ら、同法施行令第八条が所論のように同法第九条の委任の範囲を超えているとはい
えず、また、所論の供出完了者と雖も自由にその生産米を政府以外の者に売渡す場
合は、同法施行規則第三十七条の制約たる「……主要食糧の適正な流通を確保す
る」ことを阻害するから、これを禁ずる必要のあること勿論である。従つて、右食
糧管理法関係法規は憲法第三十一条に違反するものとはいえない。また憲法第七十
三条第六号第二十九条第一項に反するものでないこと言をまたない。
 なお、食糧管理法の目的は前記の如く国民全般の食生活その他一切の経済生活を
安定確保すること即ち公共の福祉にあるから、前記食糧管理法関係法規は所論の憲
法第二十九条第二項にも違反するものではない。
 されば、憲法違反の所論は採用の限りでない。
 論旨は理由がない。
 同控訴趣意中量刑不当の主張について。
 所論に考え、記録を精査し、そこに現れた一切の事情を考慮するときは、原判決
の被告人に対する量刑は必ずしも相当とは認め難い。論旨は理由がある。
 そこで、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条第四百条但書により、原判決
を破棄して自判する。
 原判決の確定した事実に、原判決摘示の各法条を適用して、主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 村木達夫 裁判官 檀崎喜作 裁判官 細野幸雄)

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