弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決中,上告人ら敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人末永汎本,同末永久大,同黒川裕希の上告受理申立て理由について
1本件は,上告人Y1が開設するA病院(以下「上告人病院」という。)にお
いて,同病院に勤務していた上告人Y2(以下「上告人Y2」という。)の執刀に
より,下肢の骨接合術等の手術を受けた被上告人が,上記手術による合併症として
下肢深部静脈血栓症を発症し,その後遺症が残ったことにつき,上告人らに対し,
(1)上告人Y2は,必要な検査を行い,又は血管疾患を扱う専門医に紹介する義
務があるのに,これを怠り,その結果,被上告人に上記後遺症が残った,仮に,上
記義務違反と上記後遺症の残存との間の因果関係が証明されないとしても,上記後
遺症が残らなかった相当程度の可能性を侵害された,(2)仮に,上記因果関係及
び上記可能性が証明されないとしても,上告人Y2は,その当時の医療水準にかな
った適切かつ真しな医療行為を行わなかったので,被上告人は,そのような医療行
為を受ける期待権を侵害されたなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求め
る事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)診療経過等
ア被上告人は,昭和63年10月29日,左脛骨高原骨折の傷害を負い,同年
11月4日ころ,上告人病院に入院し,同病院の整形外科医である上告人Y2の執
刀により,骨接合術及び骨移植術(以下「本件手術」という。)を受けた。
イ被上告人は,平成元年1月15日,上告人病院を退院したが,その後,本件
手術時に装着されたボルトの抜釘のために同年8月ころに上告人病院に再入院する
までの間,上告人病院に通院して上告人Y2の診察を受け,リハビリを行った。
本件手術後の入院時及び上記通院時に,被上告人は,上告人Y2に対し,左足の
腫れを訴えることがあったが,上告人Y2は,腫れに対する検査や治療を行うこと
はなかった。
ウ被上告人は,上記ボルトを抜釘して上告人病院を退院した後は,自らの判断
で,上告人病院への通院を中止し,その後,平成4年7月16日,平成7年6月3
日及び平成8年8月3日に,それぞれ,肋骨痛,腰痛等を訴えて上告人病院で診療
を受けたことがあったものの,その際には,上告人Y2に対し,左足の腫れを訴え
ることはなかった。
エ被上告人は,平成9年10月22日,上告人病院に赴き,上告人Y2に対
し,本件手術後,左足の腫れが続いているなどと訴えた。上告人Y2は,レントゲ
ン検査を行ったほか,左右の足の周径を計測するなどの診察を行ったが,左足の周
径が右足のそれより3㎝ほど大きかったものの,左膝の可動域が零度から140度
まであり整形外科的治療として満足できるものであったこと,圧痛もなく,被上告
人がこれまでどおり大工の仕事を続けることもできていたこと等からみて,機能障
害はなく問題はないものと判断して,被上告人の上記訴えに対して格別の措置は講
じなかった。
オ被上告人は,平成10年8月24日,右足の親指を打ったことによる痛みを
訴えて上告人病院で診療を受けたが,この際は,上告人Y2に対し,左足の腫れを
訴えることはなかった。
カ被上告人は,平成12年2月ころ,左くるぶしの少し上に鶏卵大の赤いあざ
ができ,その後,左膝下から足首にかけて,無数の赤黒いあざができるなど,皮膚
の変色が生じたことから,上告人病院で診察を受けた。上告人Y2は,上記症状を
診て,皮膚科での受診を勧めた。
キ被上告人は,平成13年1月4日,左足の腫れや皮膚の変色等の症状が軽快
しないことを訴えて,上告人病院で診察を受けたが,上告人Y2は,被上告人が皮
膚科でうっ血と診断され,投薬治療を受けていたことから,レントゲン検査を行う
にとどまった。
ク被上告人は,平成13年4月から10月にかけて,鳥取大学医学部附属病
院,九州大学医学部附属病院及び神戸大学医学部附属病院に赴き,これら各病院に
おいて,それぞれ,左下肢深部静脈血栓症ないし左下肢静脈血栓後遺症(以下「本
件後遺症」という。)と診断された。
(2)被上告人は,本件手術及びその後の臥床,ギプス固定による合併症として
左下肢深部静脈血栓症を発症し,その結果,本件後遺症が残ったものであるが,下
肢の手術に伴い深部静脈血栓症を発症する頻度が高いことが我が国の整形外科医に
おいて一般に認識されるようになったのは,平成13年以降であり,上告人Y2
は,上記(1)クの診断がされる以前において,被上告人の左足の腫れ等の症状の原
因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至らなかった。
(3)被上告人の左下肢深部静脈血栓症については,平成9年10月22日の時
点では既に,適切な治療法はなく,治療を施しても効果は期待できなかった。
3原審は,上記事実関係の下において,上告人Y2が,必要な検査を行い,又
は血管疾患を扱う専門医に紹介する義務を怠ったことにより,被上告人に本件後遺
症が残ったとはいえず,また,被上告人が,本件後遺症が残らなかった相当程度の
可能性を侵害されたともいえないとしたものの,その当時の医療水準にかなった適
切かつ真しな医療行為を受ける期待権が侵害された旨の被上告人の主張について
は,次のとおり判断して,被上告人の請求を慰謝料300万円の限度で認容した。
上告人Y2は,平成9年10月22日の時点で,専門医に紹介するなどの義務を
怠り,被上告人は,これにより,約3年間,その症状の原因が分からないまま,そ
の時点においてなし得る治療や指導を受けられない状況に置かれ,精神的損害を被
ったということができるから,上告人らは,被上告人に対し,上記損害を賠償すべ
き不法行為責任を負う。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係によれば,被上告人は,本件手術後の入院時及び同手術時に装着さ
れたボルトの抜釘のための再入院までの間の通院時に,上告人Y2に左足の腫れを
訴えることがあったとはいうものの,上記ボルトの抜釘後は,本件手術後約9年を
経過した平成9年10月22日に上告人病院に赴き,上告人Y2の診察を受けるま
で,左足の腫れを訴えることはなく,その後も,平成12年2月以後及び平成13
年1月4日に上告人病院で診察を受けた際,上告人Y2に,左足の腫れや皮膚のあ
ざ様の変色を訴えたにとどまっている。これに対し,上告人Y2は,上記の各診察
時において,レントゲン検査等を行い,皮膚科での受診を勧めるなどしており,上
記各診察の当時,下肢の手術に伴う深部静脈血栓症の発症の頻度が高いことが我が
国の整形外科医において一般に認識されていたわけでもない。そうすると,上告人
Y2が,被上告人の左足の腫れ等の原因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至
らず,専門医に紹介するなどしなかったとしても,上告人Y2の上記医療行為が著
しく不適切なものであったということができないことは明らかである。患者が適切
な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医
療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否
かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどま
るべきものであるところ,本件は,そのような事案とはいえない。したがって,上
告人らについて上記不法行為責任の有無を検討する余地はなく,上告人らは,被上
告人に対し,不法行為責任を負わないというべきである。
5以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そし
て,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却し
た第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官千葉勝美裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官
須藤正彦)

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