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令和2年11月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
令和元年(ワ)第29883号特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日令和2年10月1日
判決
原告有限会社宝石のエンジェル5
(以下「原告会社」という。)
原告X1
(以下「原告X1」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士加藤毅
山谷彰宏10
山谷奈津子
Y2こと
被告Y1
(以下「被告Y1」という。)
同補佐人弁理士磯野富彦15
鉾田慶亮
被告石福ジュエリーパーツ株式会社
(以下「被告石福ジュエリー」という。)
同代表者代表取締役山本孝広
同訴訟代理人弁護士横家豪20
主文
1本件各訴えのうち,原告会社が被告Y1に対して1億2719万04
00円,被告石福ジュエリーに対して765万円及びこれらに対する令
和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の各支
払を求める請求に係る部分並びに原告X1が被告Y1に対して15825
9万8800円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合
による金員の支払を求める請求に係る部分をいずれも却下する。
2原告らの被告Y1に対するその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求5
1被告Y1は,別紙1物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出を
してはならない。
2被告Y1は,別紙1物件目録記載の製品及び半製品を廃棄せよ。
3被告Y1は,別紙1物件目録記載の製品の製造に供する製造設備を廃棄せよ。
4被告Y1は,原告会社に対し,1億2719万0400円及びこれに対する令10
和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告Y1は,原告X1に対し,1589万8800円及びこれに対する令和元
年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6被告石福ジュエリーは,原告会社に対し,765万円及びこれに対する令和元
年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。15
7訴訟費用は被告らの負担とする。
8仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,発明の名称を「装飾品鎖状端部の留め具」とする特許権(特許第40
44598号。以下「本件特許権」という。)を有する原告会社及び原告会社か20
らその専用実施権の設定を受けた原告X1が,被告Y1が製造,販売し,被告石
福ジュエリーが販売する別紙1物件目録記載の商品名の製品(以下「被告製品」
という。)が,本件特許権に係る特記発明の技術的範囲に属するなどと主張して,
(1)被告Y1に対しては,特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造,
販売及び販売の申出の差止め,並びに被告製品,半製品及び製造設備の廃棄を求25
めるとともに,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,原告会社に
つき平成28年11月8日から令和元年7月7日までの間の損害額1億271
9万0400円,原告X1につき同月8日から同年11月7日までの間の損害額
1589万8800円及びこれらに対する不法行為の後の日である令和元年1
2月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第4
4条による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,(2)5
被告石福ジュエリーに対して,不当利得返還請求権に基づき,原告会社につき平
成23年2月からの33か月と平成28年10月の1か月の間の本件特許権の
侵害行為に係る765万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である令和
元年12月14日から支払済みまで上記と同様の割合による遅延損害金の支払
を求める事案である。10
2前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨
により認定することができる事実)
(1)当事者(甲4,弁論の全趣旨)
ア原告会社は,宝石及び貴金属の小売業を営む特例有限会社である。
イ原告X1は,原告の取締役であるAの長女であり,原告代表者の姪である。15
ウ被告Y1は,Y2の屋号で宝飾品パーツ及び装身具の製造,販売業を営む
者である。
エ被告石福ジュエリーは,宝飾品パーツ及び装身具の製造加工並びに売買等
を業とする株式会社である。
(2)本件特許権20
ア原告会社は,以下の特許権(本件特許権)を有している(以下,本件特許
権に係る特許を「本件特許」という。甲1)。
特許番号:特許第4044598号
出願日:平成17年6月30日(特願2006-528955号)
優先日:平成16年7月14日(特願2004-206769号)25
優先権主張国:日本国
登録日:平成19年11月22日
発明の名称:装飾品鎖状端部の留め具
請求項の数:4
イ本件特許に係る特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)
の請求項2後段の記載(後記第四次訂正後のもの)は,以下のとおりである5
(以下,請求項2後段に記載された発明を「本件訂正発明2」というが,訂
正の前後を通じ「本件発明2」という場合がある。なお,下線部分が第四次
訂正による訂正部分である(ウにおいて同じ。)。また,同訂正後の明細書
及び図面を「本件明細書等」といい,特定の時点の明細書の内容を示す場合
には,当該時点を示すため,「本件明細書等(登録時)」などという。)。10
「あるいは,装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の鎖状
部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具であ
って,かつ,前記留め具は,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホルダ
ー受けのネック部に対して,ホルダーの止め部が係止される方式の留め具で
あって,前記ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘15
導できる部位に,かつ,前記ホルダーと前記ホルダー受けには,前記ホルダ
ーを閉口動作する事で,前記ホルダー受けのネック部に対して,前記ホルダ
ーの止め部が係止できる位置に誘導できる部位に,互いに吸着する磁石の各
一方を,あるいは磁石とこれに吸着される金属材を,それぞれ吸着部材とし
て設けた装飾品鎖状端部の留め具において,前記ホルダーが,ホルダー受け20
嵌入用の開口部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した1対の顎
部材を開口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップであり,かつ,
前記の噛合い形状は,内周側へ張り出した止め部を形成していて,かつ,前
記ホルダー受けが1対の開口状態の顎部材間に嵌入して係止される係止部
材であり,かつ,嵌入するホルダー受けのネック部の径の大きさは,鰐口ク25
リップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間以下の大きさであ
り,かつ,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの閉口状
態の止め部より後部の一対の顎部材間以下の大きさであり,かつ,ホルダー
受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材の
止め部と止め部の間より大きく,かつ,ホルダー受けの吸着部材の先端から
後部までの長さは,閉口状態の鰐口クリップの中の吸着部材と止め部の間以5
下の長さであり,かつ,前記鰐口クリップの内部における1対の顎部材間に
一方の吸着部材を設け,前記係止部材の先端に他方の吸着部材を設け,前記
鰐口クリップの内部に設けた吸着部材を支持する支持部材が前記1対の顎
部材を軸支する支軸によって支持されている装飾品鎖状端部の留め具。」
ウ本件発明2を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,各構成10
要件を符号に従いそれぞれ「構成要件2A」などという。)。
2A装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の鎖状部の端
部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具であっ
て,
2Bかつ,前記留め具は,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホルダ15
ー受けのネック部に対して,ホルダーの止め部が係止される方式の留め
具であって,
2C前記ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘導
できる部位に,かつ,前記ホルダーと前記ホルダー受けには,前記ホル
ダーを閉口動作する事で,前記ホルダー受けのネック部に対して,前記20
ホルダーの止め部が係止できる位置に誘導できる部位に,互いに吸着す
る磁石の各一方を,あるいは磁石とこれに吸着される金属材を,それぞ
れ吸着部材として設けた装飾品鎖状端部の留め具において,
2D前記ホルダーが,ホルダー受け嵌入用の開口部を構成すると共に先端
部に噛合い形状を形成した1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支した25
バネ閉じ式の鰐口クリップであり,
2Eかつ,前記の噛合い形状は,内周側へ張り出した止め部を形成してい
て,
2Fかつ,前記ホルダー受けが1対の開口状態の顎部材間に嵌入して係止
される係止部材であり,
2Gかつ,嵌入するホルダー受けのネック部の径の大きさは,鰐口クリッ5
プの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間以下の大きさであ
り,
2Hかつ,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの閉口
状態の止め部より後部の一対の顎部材間以下の大きさであり,
2Iかつ,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの一対10
の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間より大きく,
2Jかつ,ホルダー受けの吸着部材の先端から後部までの長さは,閉口状
態の鰐口クリップの中の吸着部材と止め部の間以下の長さであり,
2Kかつ,前記鰐口クリップの内部における1対の顎部材間に一方の吸着
部材を設け,前記係止部材の先端に他方の吸着部材を設け,前記鰐口ク15
リップの内部に設けた吸着部材を支持する支持部材が前記1対の顎部
材を軸支する支軸によって支持されている装飾品鎖状端部の留め具。
(3)被告らの行為
ア被告Y1は,業として,被告製品の製造販売をしており,被告石福ジュエ
リーは,卸売問屋として,小売店等に被告Y1の製造に係る被告製品を販売20
している。なお,被告Y1の製造販売に係る被告製品の製品番号,被告石福
ジュエリーの販売に係る被告製品の製品番号は,それぞれ別紙2「被告製品
の製品番号目録(各被告が製造又は販売する製品番号の対応)」の「被告Y
1製品番号」欄,「被告石福ジュエリー製品番号」欄に記載のとおりである。
(甲4)25
イ被告製品のうち,別紙2「被告製品の製品番号目録」番号1(MAG-C
R302),同番号7(MAG-CR304)及び同番号10(MAG-C
R305)についての構成は,別紙3「被告製品の構成」に掲げた図面のと
おりである。なお,被告製品を構成する各部材の外観・形状は,製品番号に
よって若干異なる場合があるが,各部材の機能・構造は,実質的に異ならな
いことから,以下,被告製品を構成する各部材を,同別紙記載の符号に従い,5
「部材ア」などという(同別紙記載の製品番号以外の被告製品についても,
同別紙の例による。)。(甲4)
(4)本件特許権に関する訴訟及び特許請求の範囲の訂正の経緯等
ア本件特許登録時における特許請求の範囲の記載
本件特許登録時(平成19年11月22日)における本件特許請求の範囲10
の請求項1及び請求項2の各記載は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載1
のとおりであり,請求項2は,請求項1の従属項であった(なお,特定の時
点における各請求項の内容を表すために,「請求項1(登録時)」などとい
う場合がある。)。(甲1)
イ特許権侵害訴訟の提起及びその審理経過(第一審)15
(ア)原告会社は,平成25年10月24日,東京地方裁判所に対し,被告Y
1が製造・販売し,被告石福ジュエリーが販売する被告製品(本訴におけ
る被告製品と同一のもの。以下も同じ。)が本件特許の請求項1記載の発
明(以下,訂正の前後を通じ「本件発明1」という。)の技術的範囲に属
すると主張して,①被告Y1に対して,被告製品の製造・販売の差止め及20
び損害の賠償等を求め,②被告石福ジュエリーに対して,被告製品の販売
の差止め及び損害の賠償等を求める訴え(同裁判所平成25年(ワ)第2
8089号特許権侵害行為差止等請求事件。以下「前訴」という。)を提
起した。(甲4,乙A2)
(イ)原告会社は,前訴において,被告製品のうち,別紙2「被告製品の製品25
番号目録」番号1(MAG-CR302),同番号7(MAG-CR30
4)及び同番号10(MAG-CR305)についての構成は,別紙3「被
告製品の構成」に掲げた図面に記載したとおりであるとした上で,被告製
品が本件発明1の各構成要件を全て充足すると主張した(なお,前訴にお
ける各構成要件A~Gは別紙5「訂正の経緯」の「構成要件」欄の1A~
1Gに対応している。)。5
前訴において,原告会社は,①構成要件1Bについて,被告製品は,ホ
ルダー受け(部材エ)を引っ張っても,顎部材の爪(部材キ)がホルダー
受けの溝に引っかかって抜けず,ホルダー受け(部材エ)の凸凹部分に噛
み合って係止されているから,ホルダーとホルダー受けの間に隙間があり,
接触していないとしても,「噛み合わせて係止する」方式の留め具に当た10
る,②構成要件1Bについて,被告製品のホルダー受けとホルダーは,噛
み合うように鰐口クリップの内部に磁石があり,ホルダー受け(部材エ)
の先端にも磁石が内蔵されているから,「ホルダーとホルダー受けには,
これらを正しい噛合い位置に誘導できる部位に」磁石が吸着部材として設
けられていると主張し,被告らはこれらをいずれも争った。15
(ウ)東京地方裁判所は,平成26年12月15日に口頭弁論を終結した上,
平成27年2月23日,前訴につき,①被告製品が留め具としての機能及
び効果を発揮する状態において,部材ア及びイは部材エと接触していない
ことなどから,被告製品は「ホルダー」と「ホルダー受け」とを「噛合わ
せて係止」する方式を採用したといえず,これらを「正しい噛合い位置に20
誘導できる」部位に「互いに吸着する磁石」を「吸着部材」として設けた
ものとはいえないので,被告製品は構成要件1B及び1Cを充足しないな
どとして,原告会社の請求をいずれも棄却した(以下「前訴第一審判決」
という。)。(甲4)
原告会社は,平成27年3月5日,前訴第一審判決を不服として,知的25
財産高等裁判所に控訴した(同裁判所平成27年(ネ)第10040号特
許権侵害行為差止等請求控訴事件)。(乙A2)
ウ前訴控訴審の審理経過
(ア)原告会社は,平成27年3月28日,本件特許の特許請求の範囲の訂正
を求める旨の,訂正審判の請求(訂正2015-390027号)を行い,
同年4月23日,訂正を許可する旨の審決(以下「本件訂正認容審決1」5
という。)を受け,同審決は同年5月12日に確定した(以下,これによ
る訂正を「第一次訂正」という。)。第一次訂正による訂正後の請求項1
及び請求項2の内容は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載2のとおりで
あり(なお,下線部分が訂正箇所。以下,別紙5も含め同じ。),請求項
2は,独立項に改められた。(甲9,乙A1)10
(イ)原告会社は,前訴控訴審において,第一次訂正後の本件発明1(以下
「本件訂正発明1-1」という場合がある。)を別紙5「訂正の推移」「請
求項1」欄「第一次訂正(控訴審時)」欄のとおり分説し,従前の主張に
加え,そもそも,1対の顎部材の先端は,ホルダー受けに対して円弧状の
軌跡に沿って噛合い動作するから,噛合い部分に一定の隙間を設定しなけ15
れば,むしろ円滑な噛合い動作に支障を来たすおそれがあるなどと主張し
た。(甲5)
(ウ)知的財産高等裁判所は,平成27年6月4日に口頭弁論を終結した上,
同年8月6日,前訴第一審判決と同様の争点につき,①本件訂正発明1-
1の属する技術分野である装飾品の「留め具」において,「噛み合う」と20
いう用語は,通常,凸部とそれに対応する凹部とが接触した組合せからな
る係止の状態を示しているものと解することができるところ,被告製品は,
磁石同士が吸着した後,部材ア及びイの開口部を閉じることにより装着が
終了した時点で,両部材は部材エと接触しておらず,部材ウの中に部材エ
が完全に収まっており(嵌入しており),部材ウ及びエは,それぞれの内25
部の磁石の吸着によって固定されているにすぎないから,ホルダーである
部材ア~ウ,オ及びカと,ホルダー受けである部材エとが「噛合わせて係
止」した状態ということはできず,構成要件1Bを充足しない,②本件発
明1における「正しい噛合い位置」とは,ホルダーとホルダー受けにおけ
る吸着部材同士が吸着した際に音が発生する際のそれぞれの位置のこと
を指し,「正しい噛合い位置」において,ホルダーとホルダー受けとが噛5
み合っていることを要するところ,部材ウ及びエの磁石が吸着した「正し
い噛合い位置」において,部材エは,部材ウの中に完全に収納された(嵌
入した)状態にあって部材ア及びイと接触しておらず,部材ウ及びエは内
部の磁石の吸着により固定されているので,ホルダーである部材ア~ウ,
オ及びカと,ホルダー受けである部材エとが「噛合わせて係止」した状態10
ということはできず,被告製品は構成要件1Cを充足しないとして,控訴
棄却の判決(以下「前訴控訴審判決」という。)をした。(甲5)
(エ)原告会社は,平成27年8月20日,前訴控訴審判決を不服として,上
告及び上告受理申立てをしたが(最高裁判所平成27年(オ)第1634
号,同年(受)第2043号),最高裁判所は,平成28年7月12日,15
上告を棄却するとともに上告受理申立てを受理しない旨の決定(以下「前
訴上告審決定」という。)をし,これにより,前訴控訴審判決は確定した。
(甲6,乙A2)
エ本件特許の特許請求の範囲の訂正(第二次)
原告会社は,平成29年5月29日,本件特許請求の範囲の請求項2につ20
いて訂正を求める旨の訂正審判の請求(訂正2017-390038号)を
行い,同年8月4日,訂正許可の審決(以下「本件訂正認容審決2」という。)
を受け,同審決は同月16日に確定した(以下,これによる訂正を「第二次
訂正」という。)。第二次訂正による訂正後の請求項2の内容は,別紙4「本
件特許請求の範囲」記載3のとおりである。(甲7,9)25
オ本件特許の特許請求の範囲の訂正(第三次)
原告会社は,平成30年2月7日,本件特許請求の範囲の請求項1,3及
び4について訂正を求める旨の訂正審判の請求(訂正2018-39002
8号)を行い,同年3月19日,訂正許可の審決(以下「本件訂正認容審決
3」という。)を受け,同審決は,同月29日に確定した(以下,これによ
る訂正を「第三次訂正」といい,第三次訂正後の請求項1記載の発明を「本5
件訂正発明1-2」という。)。第三次訂正による訂正後の請求項1の記載
は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載4のとおりである。(甲9)
カ再審の訴えの提起及びその審理経過
(ア)原告会社は,平成30年,知的財産高等裁判所に対し,前訴控訴審判決
を取り消し,前訴に係る請求の認容を求める再審の訴えを提起(同裁判所10
平成30年(ム)第10003号特許権侵害行為差止等請求再審事件)を
した。原告会社は,同訴訟において,①本件訂正認容審決3により,ホル
ダー受け(係止部材,吸着部材,ネック部)とホルダー(鰐口クリップ)
の構造や形態が明確となり,「噛み合う」とは,凸部とそれに対応する凹
部との組合せによるものであることを要しないこととなり,また,噛み合15
い状態において,噛み合い部分が接触するものとも限られず,明白な隙間
がある状態でも,ホルダーに引っ掛かることでホルダー受けがホルダーか
ら抜け出ない状態となっていれば,噛み合い状態に含まれることが明らか
となった,②この結果,被告製品は,前訴控訴審判決が充足しないとした
本件訂正発明1-2の構成要件1B及び1Cを充足することとなり,前訴20
控訴審判決の基礎となった行政処分である本件特許権に係る特許査定が
後の行政処分である本件訂正認容審決3により変更されたとして,民訴法
338条1項8号の再審事由があると主張した。(乙A2)
(イ)知財高等裁判所は,平成30年9月18日,原告会社の再審請求を棄却
する決定(以下「前訴再審棄却決定」という。)をした。同決定において,25
同裁判所は,①特許法における特許請求の範囲等の訂正は,「実質上特許
請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない」と規定し(同
法126条6項),訂正前の特許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品
が訂正後の特許発明の技術的範囲に属しないことを保障しているのであ
るから,被疑侵害品が特許発明の技術的範囲に属しないことを理由とする
請求棄却判決が確定した後に,特許権者が訂正認容審決を得て,再審の訴5
えにおいて被疑侵害品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属する旨主張
することは,特許法がおよそ予定していない,②原告会社は,前訴におい
て,前訴控訴審判決の基礎となる第一次訂正前の本件発明1及び本件訂正
発明1-1の技術的範囲について,主張立証する機会と権能を有していた
のであるから,前訴控訴審判決が確定した後に,本件訂正認容審決3が確10
定したという,特許法がおよそ予定していない理由によって,前訴控訴審
判決を覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵
害訴訟の紛争解決機能や法的安定性の観点から適切ではなく,同法104
条の4の規定の趣旨にかなわない,③原告会社が前訴係属中に第一次訂正
を行っていたことからして,その係属中に本件訂正認容審決3を得ること15
ができなかったとも認められないとした上で,これらの事情を考慮すると,
本件訂正認容審決3が確定したことを原告会社が再審事由として主張す
ることは,同法104条の4並びに同法126条1項ただし書及び同条6
項の各規定の趣旨に照らし許されないと判断した。(乙A2)
キ本件特許の特許請求の範囲の訂正(第四次)20
原告会社は,平成31年2月14日,本件特許請求の範囲の請求項2につ
いて訂正を求める旨の訂正審判の請求(訂正2019-390025)を行
い,令和元年5月8日,訂正許可の審決(以下「本件訂正認容審決4」とい
う。)を受け,同審決は,同月19日に確定した(以下,これによる訂正を
「第四次訂正」という。)。(甲8,9)25
ク原告X1への専用実施権の設定
原告会社は,令和元年5月30日,原告X1との間で,本件特許権につき,
以下の内容の専用実施権を設定する旨の専用実施権設定契約を締結し,その
登録(同年7月8日受付)をした(以下,この専用実施権を「本件専用実施
権」という。)。(甲2,3,9)
専用実施権者原告X15
範囲地域日本
期間令和元年7月5日から令和3年7月5日まで
内容(1)法的範囲生産(製造),使用,譲渡(販売)
(2)請求項の制限請求項2項のみ
ケ本訴の提起10
原告らは,令和元年11月7日,東京地方裁判所に本訴を提起した。
3争点
(1)本訴に係る請求が訴訟上の信義則に反するか否か(争点1)
(2)被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2)
(3)原告らの損害額及び被告石福ジュエリーの不当利得額(争点3)15
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本訴に係る請求が訴訟上の信義則に反するか否か)について
(被告らの主張)
本訴は,前訴における紛争の蒸し返しであるから,訴訟上の信義則に反し許さ
れず,却下されるべきである。20
(1)原告会社について
ア確定した前訴控訴審判決では,被告製品の構成について,請求項1が規定
する構成要件のうち,①「噛み合わせて係止する」方式であるか,②「正し
い噛み合い位置」との構成を充足するか,といった点につき審理がされ,被
告製品が,これらをいずれも充足せず,本件発明1の技術的範囲に属しない25
旨の判断がされた。
請求項2は,もともと本件特許登録時には,その時点の請求項1(登録時)
を引用する従属項だったものを,その形式を改めて独立項にしたものであり,
本件訂正発明2も,請求項1(登録時)の発明特定事項を含み,「噛み合わ
せて係止する」方式のものであって「正しい噛み合い位置」に吸着部材を設
けた構成の「留め具」に係るものである。5
原告会社は,前訴において,前記①及び②について主張立証を尽くしてお
り,既に十分な審理がなされている上,同社は,前訴控訴審判決確定後,第
三次訂正に係る本件訂正認容審決3を理由として再審請求をし,再審棄却決
定を受けたにもかかわらず,その後,第四次訂正に係る本件訂正認容審決4
を得て本訴を提起しており,本訴は,実質的に再審の再審というべきもので10
ある。
イ後訴の請求又は後訴における主張が信義則に照らして許されないか否か
は,前訴及び後訴の各内容,当事者の訴訟活動,前訴において当事者がなし
得たと認められる訴訟活動,後訴の提起又は後訴における主張をするに至っ
た経緯,訴訟により当事者が達成しようとした目的,訴訟をめぐる当事者双15
方の利害状況,当事者間の公平,前訴確定判決による紛争解決に対する当事
者の期待の合理性,裁判所の審理の重複,時間の経過などの諸事情を考慮し
て,後訴の提起又は後訴における主張を認めることが正義に反する結果を生
じさせることになるか否かで決すべきである。
そして,以下の(ア)~(キ)の事情を考慮すれば,本訴は前訴の蒸し返しにす20
ぎず,本訴の提起及び原告らの主張を認めることが正義に反する結果を生じ
させるものということができるので,本訴の提起は信義則に反し許されない
というべきである。
(ア)前訴と本訴の当事者は同一であり,被疑侵害対象物件もいずれも被告製
品で同一である。また,前訴に係る本件発明1と本訴に係る本件発明2は,25
いずれも「噛み合わせて係止する」方式の留め具の発明であり,かつ,「正
しい噛み合い位置」に吸着部材を設けたものであって,共通の構成を有す
る。そして,前記アのとおり,争点も共通するから,本訴の審理内容は,
前訴の審理内容と重複する。
(イ)原告会社は,前訴において,被告製品が「噛み合わせて係止する」方式
の留め具であること,「正しい噛み合い位置」に吸着部材を設けた留め具5
であることについて主張し,かつ,前訴において,当該主張及びその立証
の機会を既に十分に与えられていた。
(ウ)原告会社は,唯一の独立項であった請求項1のみを対象として提訴した
前訴の継続中に,請求項2を従属項から独立項の形式に改める第一次訂正
をしており,同訂正後の請求項2後段に基づく請求を前訴の審理対象とす10
ることも可能であった。
(エ)被告らは,前訴控訴審判決が確定したことをもって,紛争が解決済みで
あるとの期待を抱き,さらに,再審請求の棄却決定により,そのことを確
信した上で事業を継続しているものである。前訴控訴審判決に対する上告
の棄却決定から本訴提起まで,3年以上もの期間が経過しており,その間15
に,被告らの上記期待は十分に形成されているのであって,被告らの上記
期待,確信は,公平かつ十分な審理の上で示された司法判断の結果に基づ
くものであるから,合理性を有する。
(オ)第二次訂正及び第四次訂正に係る訂正審判の判断には誤りがあるにも
かかわらず,原告会社は,訂正が認容されたことを奇貨として,本訴提起20
をしている。
(カ)原告会社は,前訴控訴審判決確定後に第三次訂正に係る訂正審判が認容
されたことを理由として再審請求をし,その棄却決定において,当該再審
請求が特許法126条6項等の規定の趣旨に照らし許されない旨の判断
が明確に示されたにもかかわらず,本訴においてもなお,訂正後の請求項25
2後段の「噛み合う」との文言が訂正前の同文言よりも拡張解釈されるか
のような,同条項の趣旨に反する主張を続けている。
(キ)原告らは,本訴提起直前に,事実上無意味な専用実施権を設定し,専用
実施権者の請求を本訴に含めることで,本訴が前訴の蒸し返しにすぎない
と判断されるのを不当に回避しようと企図している。
(2)原告X1について5
原告X1についても,①本件専用実施権は,原告会社が,その代表者の姪に
対して設定したものであること,②本件専用実施権の設定範囲が,本訴の対象
である請求項2のみである上,わずか2年間であること,③原告会社は本件特
許権のほかにも宝飾品の留め具に関する複数の特許を保有しているにもかか
わらず,それらのいずれについても原告X1に対して実施権を設定した形跡が10
ないこと,④原告X1は,本件専用実施権の設定日から半年以上が経過しても
「宝飾品の販売を考えており」と述べるのみで,その事業を現実に行っている
とはうかがわれないことに加え,原告らが,訴状において,本訴が前訴の蒸し
返しではない旨の主張を自発的に行っており,本訴が前訴の蒸し返しか否かが
本訴における主要な争点となることを十分に想定していたことも併せ考えれ15
ば,原告らが本訴に先立って本件専用実施権を設定した真の動機は,前訴の当
事者でもその承継人でもない原告X1の請求を本訴に加えることによって,本
訴の審理において本訴が前訴の蒸し返しにすぎないと判断される不利益を避
けるためであったと考えられる。
そうだとすれば,このような不適切な動機に基づく専用実施権の設定に係る20
主張を含む原告らの請求は,それ自体が信義則に反するものである上,本訴の
原告は,実質的に原告会社のみということができるので,この点からも本訴は
前訴の蒸し返しにすぎない。
なお,原告会社は,前訴において,被告製品が「噛み合わせて係止する」方
式の留め具であること,「正しい噛み合い位置」に吸着部材を設けた留め具で25
あることについて,主張及び立証の機会を既に十分に与えられた上で判決を受
けたのであり,原告X1は,原告会社から専用実施権の設定を受けたことによ
りかかる利益を承継したということができる。原告X1は,原告会社により手
続保障が代替されているから,本件訴えを却下することによる原告X1の不利
益は考慮する必要がない。
(3)「噛み合う」との用語を請求項1及び請求項2後段で同義に解すべきこと5
ア「噛み合う」との用語は,装飾品の留め具の分野では,通常,凸部とそれ
に対応する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態をいい,本件訂正認
容審決1で訂正が認められた本件明細書等(第一次訂正後)にも,それ以前
の本件明細書等(登録時)にも,「噛み合う」との用語やその態様について
明確な記載は存在しないから,その一般的な意味で用いられているものと解10
釈すべきであり,前訴控訴審判決で示された請求項1の「噛み合う」と実質
的に同一の意味と解釈されるべきである。
イまた,特許法70条2項に則り,本件明細書等の記載を考慮しても,請求
項1及び2後段の「噛み合う」の用語をその一般的意義と別異に解釈すべき
理由はない。15
すなわち,本件明細書等の記載のうち,「第5図に示すように,鰐口クリ
ップ3が閉じて係止部材4と噛み合ったときには,1対の顎部材6の上記止
め部14が,ネック部15に食い込む」(甲1・7頁49~50行,乙A1・
10頁1~2行),「第9図に示すように鰐口クリップ3が閉じて係止部材
4と噛み合った時,S極磁石16とN極磁石10との吸着動作が,N極磁石20
10を固定した方の顎部材6の止め部によって邪魔される恐れがない。同時
に,N極磁石10を固定していない方の顎部材6に設けた止め部14が,係
止部材4のネック部15に食い込むので,鰐口クリップ3と係止部材4との
噛み合い状態は確保される」(甲1・9頁44~49行,乙A1・11頁2
9~32行)との記載によれば,噛み合った状態において,止め部がネック25
部に対して食い込むのであるから,止め部とネック部とが互いに接触した状
態になることが明らかである。
また,本件明細書等の「係止部材は,開口状態にある鰐口クリップの顎部
材間に嵌入可能である適宜な形状と,鰐口クリップの顎部材が確実に噛合う
ことができる形状の噛合い部分を備えていれば良い。噛合いの確実性を期す
るために,顎部材の先端部にも一定の適宜な噛合い形状を形成することがで5
きる」(甲1・5頁11~14行,乙A1・7頁36~38行)との記載に
よれば,止め部がネック部に確実に噛むこと,すなわち,顎部材の先端部の
止め部が,凹凸でいう凸に相当し,これが凹んだネック部と接触することが
想定されているということができる。
そして,本件明細書等の【図5】~【図7】に構成の概略が示された本願10
の第2発明の説明文である,④「本願の第2発明においては,第1発明に係
るホルダーが1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口
クリップであり,ホルダー受けが前記1対の開口状態の顎部材間に嵌入して
係止される係止部材である。」(甲1・3頁11~13行,乙A1・6頁5
~6行)との記載にも,③の「嵌入可能である適宜な形状」と同様に「嵌入」15
という用語が使用されている。
他方,本件明細書等(登録時)(甲1)及び本件明細書等(第一次訂正後)
(乙A1)のいずれにおいても,「噛み合う」との用語について,止め部が
ネック部に接触せずに隙間のある状態で係止される態様を含むことを裏付
ける明確な記載はない。20
このように,本件明細書等の記載及び図面を考慮しても,請求項2後段の
「噛み合わせて係止する」との文言の「噛み合う」との用語は,その訂正の
前後を通じ,前訴控訴審判決で明示された請求項1における同文言の解釈と
実質的に異なるものではない。
ウなお,第四次訂正後の請求項2後段には,請求項1とは異なり,「ホルダ25
ー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材
の止め部と止め部の間より大きく」との文言が付加されているが,この付加
文言は,単に吸着部材の径の範囲を規定しているにすぎず,「噛み合う」と
の文言の解釈に何ら影響を与えるものではない。すなわち,請求項2後段に
は,留め具において「径」の範囲を特定した部材が用いられるとの限定が付
されているにすぎず,このような所定部材が適用されることを意味するだけ5
であって,ホルダー及びホルダー受けにおける「一方の凸部」と「他方の凹
部」とが互いに接触した状態で係止される構成に変わりはない。
エ以上のとおり,請求項2後段の「噛み合う」との文言の解釈は,請求項1
のそれと実質的に同一であり,しかも本訴の侵害被疑物件である被告製品は
前訴のそれと同一であるから,本訴の侵害論においても前訴と全く同一の解10
釈をすべきことは明らかである。
したがって,本訴は,前訴の蒸し返しにほかならない。
(4)原告らの主張について
原告らは,本件発明2では,ホルダーの中の吸着部材の「径」よりもホルダ
ー受けの吸着部材の「径」が短く,ホルダー受けのネック部の「径」がホルダ15
ーの閉口状態の止め部と止め部との間よりも短いことから,「噛み合う」には
噛み合い部分が接触していない状態も含むと主張する。
しかし,請求項2後段には,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさについて,
「鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間より大きく」
(構成要件2I)との限定があるにとどまり,係止時における「ホルダーの一20
対の止め部」と「ホルダー受けの吸着部材」との相対的な位置関係まで規定し
ているわけではない。すなわち,本件発明2において,例えば,「ホルダー」
に対して「ホルダー受けの吸着部材」が同軸的に配置された状態で係止される
といった限定はないから,ホルダーとホルダー受けとが互いに係止した状態に
おいて,ホルダー受けの所定径を有する吸着部材は,必ずしも,その中心軸が25
止め部と止め部の間のちょうど真ん中の位置に来るように配置されるもので
はない。このことから,ネック部の径が止め部と止め部との間以下の大きさに
形成されるとしても,それだけでは,止め部と吸着部材とが互いに接触してい
ない状態で係止されることにはならない。
しかも,請求項2後段のホルダー受けの吸着部材の径の大きさに関する構成
要件は,前訴控訴審判決後の本件訂正認容審決2により付加されたものである5
ところ,訂正の結果,訂正前から存在する同一の文言を,訂正後に拡張して解
釈すること自体が許されないことは,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変
更する訂正を禁ずる特許法126条6項の趣旨からも明らかである。「噛み合
わせて係止」する留め具でないとして本件特許発明の技術的範囲に属しないと
された物件が,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさに関する構成要件を付加10
する訂正により,「噛み合わせて係止」する留め具に該当し,本件特許発明の
技術的範囲に属することになるのは不合理である。
「噛み合う」との用語の解釈に関する原告らの主張は,訂正の内容が,実質
的に特許請求の範囲を拡張・変更したものであって,本件特許が無効理由を有
するものであること(特許法123条1項8号,126条6項)を自白するに15
等しい。また,「噛み合う」との文言を,凹部と凸部とが接触しない状態で係
止される態様を含むように解釈させる文言を訂正により付加したのだとすれ
ば,訂正後の請求項2後段の記載はその内容に矛盾が生じ,不明確となるから,
訂正後の請求項2後段は同法36条6項2号に反し,本件特許は無効理由を有
することになる(同法123条1項8号,126条7項)。20
なお,原告らは,請求項2後段では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホ
ルダー受けの吸着部材の径を短くした旨,すなわち,本件発明2の構成要件に
「ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径が短い」こ
とが含まれる旨の主張をするが,吸着部材の径の大小関係については,請求項
2後段には何ら規定されておらず,その文言からは導くことができない。25
(原告らの主張)
前訴は,本件特許権の請求項1に関するものであり,請求項2後段に関する本
訴とは訴訟物が異なり,また,以下のとおり,請求項1と請求項2後段ではその
内容が異なっており,「噛み合う」という用語の意義も異なるため,本訴は,紛
争の蒸し返しではなく,その提起が訴訟上の信義則に反するものではない。
(1)原告会社について5
ア請求項1に係る本件発明1は,顎部材を軸支する支軸又は支軸に巻き付く
バネをそのまま一方の吸着部材として扱うものである(別紙6〔請求項1〕
参照)。他方,請求項2後段に係る本件発明2では,支軸又は支軸に巻き付
くバネとは別に支持部材を設け,それを使って吸着部材を設けるものである
(別紙7〔請求項2の1〕,別紙8〔請求項の2の2〕参照)。このため,10
本件発明2では,支持部材を設けることにより,吸着部材の位置をホルダー
の入口に近づけることができるし,本件発明1では支軸又は支軸に巻き付く
バネを磁石にすることは耐久性の問題から困難であるのに対し,ホルダーの
中の吸着部材を磁石にすることも容易になるため,本件発明1よりも,吸着
部材間の吸引力を強くすることが可能となる。15
また,本件発明1では,支軸又は支軸に巻き付くバネ自体が吸着部材とな
るため,常にその位置はホルダーの中心線上に一定する(別紙6〔請求項1〕
参照)。そのため,ホルダーの閉口状態の内径とホルダー受けの吸着部材の
径と同じだけ開口すれば,ホルダー受けの吸着部材はホルダーの止め部に当
たることなく,ホルダーへの挿入又は離脱ができる(別紙6〔請求項1〕(4)20
及び(5)参照)。しかし,本件発明2のように支持部材を使って吸着部材を
設けると,ホルダー内の吸着部材の位置は,完全に開口しなければホルダー
の中心線上に一定せず,ホルダーの上又は下に寄ることになる(別紙7〔請
求項2の1〕(1)及び(4),別紙8〔請求項2の2〕(1),(2),(4)~(6),(4)'
~(6)'参照)。そして,ホルダー受けの挿入時にホルダーの吸着部材がホル25
ダーの上又は下に寄った場合,ホルダーの中の吸着部材の径とホルダー受け
の吸着部材の径が同じ大きさだと,ホルダーがホルダー受けの吸着部材の径
と同じだけ開口しても,ホルダー受けの吸着部材がホルダーの止め部に当た
り,ホルダーの中に挿入できない(別紙7〔請求項2の1〕(1)参照)。その
ため,本件発明2では,ホルダー受けをホルダー内に挿入しやすくするため,
ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くす5
る必要がある(別紙8〔請求項2の2〕(1)及び(2)参照)。
さらに,本件発明2では,ホルダー受けのネック部の径がホルダーの閉口
状態の止め部と止め部の間と同じ大きさの場合,ホルダーが閉口すると常に
ホルダー受けがホルダーの中心に位置することになる(別紙9〔請求項2の
3〕(1)~(4)参照)。そして,ホルダーを開口すると,完全開口になるまで10
はホルダー内の吸着部材の位置はホルダーの中心線上に一定せず,ホルダー
の上又は下に寄ることがあるため,その場合,ホルダーがホルダー受けの吸
着部材の径と同じだけ開口しても,ホルダーの上下の2つの止め部が開口し
なければ,ホルダー受けの吸着部材がホルダーの止め部に引っ掛かり,ホル
ダー受けがホルダーから離脱できない(別紙9〔請求項2の3〕(5)~(8)参15
照)。そこで,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止め部
と止め部の間よりも短くすることで,ホルダーが閉口しても,ホルダー受け
の吸着部材がホルダーの中心に位置することはなく,挿入時の位置を一定程
度維持できる。そうすると,ホルダーがホルダー受けの吸着部材の径と同じ
だけ開口し,ホルダー受けの吸着部材が引っ掛かっている一方の止め部が開20
口すれば,ホルダー受けがホルダーから離脱できるようになる(別紙8〔請
求項2の2〕(4)~(7)参照)。なお,ホルダー受けの吸着部材が引っ掛かっ
ていない方の止め部が開口した場合には,ホルダーがホルダー受けの吸着部
材の径と同じだけ開口しても,ホルダー受けの吸着部材がホルダーの止め部
に引っ掛かり,ホルダー受けがホルダーから離脱できないが,それはやむを25
得ない(別紙8〔請求項2の2〕(4)'及び(5)'参照)。そのため,本件発明
2では,ホルダー受けをホルダーから離脱しやすくするため,ホルダーの閉
口状態の止め部と止め部の間の径よりもホルダー受けのネック部の径を短
くする必要がある。
このように,請求項2後段では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホル
ダー受けの吸着部材の径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダー5
の閉口状態の止め部と止め部の間よりも短くすることで,ホルダー受けがホ
ルダー内に挿入しやすく,また離脱しやすいようになるという意味で,請求
項1とは大きな違いがある。
イ前訴控訴審判決においては,「「噛み合う」という用語は,通常,凸部と
それに対応する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態を示している10
ものと解することができる。…止め部14とネック部15やS極磁石16と
の間に明白な隙間がある状態が「噛合い状態」に含まれることを前提とした
記載とみることはできない。」と判断されたが,本件発明2では,ホルダー
の中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くし,ホルダー
受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間よりも短15
くすることが製品の性能を向上させるために当然に予定されているため,
「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが接触し
ている必要はなく,明白な隙間がある状態でも,「噛合い状態」に含まれる。
実際,本件訂正認容審決2及び4により,本件発明2に係る請求項2後段
においては,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の20
径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止め部と
止め部の間よりも短くすることが予定されていること,すなわち,「噛み合
う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが接触している必
要はなく,明白な隙間がある状態でも「噛合い状態」に含まれることが認め
られている。25
ウ以上のとおり,請求項1(本件発明1)と請求項2後段(本件発明2)の
内容は異なるため,本訴は紛争の蒸し返しとはならず,前訴の結果が本訴に
影響することはない。
(2)原告X1について
原告X1は宝飾品の販売を考えており,原告会社は,後継者を育てるために,
その特許権の一部について原告X1に専用実施権を設定し,商品の販売を経験5
させた。例えば,原告X1は,令和2年1月20日から同月23日まで東京ビ
ッグサイトで開催された国際宝飾店に原告会社と一緒に出店した。原告X1は,
その後も別の展示会への出店を計画していたが,新型コロナウイルスの関係で
展示会が中止となったため,出店を止めている。原告会社が原告X1に専用実
施権を設定したのは,後継者としての自覚を持たせるためであり,その対象が10
請求項2に限られているのは,販売する商品が請求項2に該当する商品だから
であって,原告X1への本件専用実施権を設定した理由に合理性がないという
ことはない。
(3)被告らの主張について
ア被告らは,「噛み合う」という用語が本件発明1及び2で同義であること15
を前提とした主張をし,また,請求項2後段が当初は請求項1の従属項であ
ったことを指摘する。
しかし,複数の請求項に係る発明は相互に独立しており,請求項1と請求
項2後段が同じ文言を使用していても,当然に両者が同じ意味となるわけで
はない。本件特許出願当時,原告会社は,「噛み合う」という用語には,当20
然に,噛合い部分が接触している状態だけでなく,明白な隙間がある状態を
も含むと考えていたため,請求項2後段の記載において請求項1を引用した
のである。前訴によって,「噛み合う」という用語が,凸部とそれに対応す
る凹部とが接触している状態を意味するとされたとしても,それは,請求項
1の性質を前提とするものであり,請求項2後段の「噛み合う」の解釈にま25
で影響を及ぼすものではない。ましてや,請求項2後段は,本件訂正認容審
決1により請求項1を引用しない独立項である。
被告らは,本件特許の請求項1と請求項2後段の実質的な違いを無視し,
請求項2後段(登録時)が請求項1を引用し,「噛み合う」という同じ文言
を使っているという形式的な理由から,本訴を紛争の蒸し返しと主張するも
のであって,失当である。5
イ被告らは,第二次訂正及び第四次訂正は,特許請求の範囲を実質的に拡張・
変更するものであると主張する。
しかし,請求項2後段では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー
受けの吸着部材の径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉
口状態の止め部と止め部の間よりも短くすることが,製品の性能を向上させ10
るために当然に予定されている。そのため,請求項2後段における「噛み合
う」という用語は,もともと,請求項1と異なり,必ずしも噛み合い部分が
接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも「噛み合い状態」に含
まれるのであるから,上記各訂正は,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は
変更するものではない。15
2争点2(被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか否か)について
(原告らの主張)
被告製品は,以下のとおり構成要件2A~2Kの全てを充足するから,本件発
明2の技術的範囲に属する。
(1)構成要件2A20
本件発明2において,「装飾品」とは,鎖状の形態からなり,又は鎖状の形
態部分を有する限りにおいて限定されず(本件明細書等〔甲1〕4頁18~2
0行,同〔乙A1〕7頁2~3行),「鎖状部」とは,全体として自由に屈曲
できる細長い部材であることを意味し,通常の鎖状の部材に限定されるもので
はなく(同〔甲1〕4頁21~27行,同〔乙A1〕7頁4~9行),「ホル25
ダー及びホルダー受け」は,任意の形態の噛合わせにより留め具の係止を行う
とともに,その噛合わせの解除により留め具の係止状態を開放する機構である
限りにおいて,その種類及び構造を限定されない(同〔甲1〕4頁29~31
行,同〔乙A1〕7頁11~12行)。
そして,本件発明2における「噛合わせて係止」とは,ホルダーを閉口した
際にホルダー受けをホルダーから離脱させないものをいい,凸部とそれに対応5
する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態に限られない。なぜなら,構
成要件2G~2Jに規定された,①ホルダー受けのネック部の径の大きさ,②
鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間の大きさ,③ホ
ルダー受けの吸着部材の径の大きさ,④鰐口クリップの閉口状態の止め部より
後部の一対の顎部材間の大きさ,⑤ホルダー受けの吸着部材の先端から後部ま10
での長さ,⑥閉口状態の鰐口クリップの中の吸着部材と止め部の間の長さから
すれば,ホルダーを閉口した際にホルダー受けがホルダーと接触しない状態も
「噛合わせて係止」した状態として,当然に想定されているからである。
被告製品は,鎖状の形態となるネックレスの端部につけるものであり,部材
ア~ウ,オ及びカからなる集合体が閉口することにより部材エを離脱させるも15
のであるから,構成要件2Aを充足する。
(2)構成要件2B
被告製品は,部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(ホルダー)が閉口する
ことにより,部材エ(ホルダー受け)を同集合体(ホルダー)から離脱させな
いようにするとともに,同集合体(ホルダー)が開口することにより,部材エ20
(ホルダー受け)を離脱させるものであるから,構成要件2Bを充足する。
(3)構成要件2C
本件発明2における「吸着部材」は,ホルダーとホルダー受けの双方に設け
られ,互いに吸着するN極磁石とS極磁石との組合せであってもよいし,磁石
とこれに吸着される一定の金属材(例えば鉄材)との組合せであってもよい(甲25
本件明細書等〔甲1〕5頁18~22行,同〔乙A1〕7頁42~45行)。
被告製品には,部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(ホルダー)と部材エ
(ホルダー受け)の双方に磁石が設けられており,かかる磁石は,同集合体(ホ
ルダー)を閉口した際に部材エ(ホルダー受け)を同集合体(ホルダー)から
離脱させない部位に誘導するものであり,吸着部材であるから,構成要件2C
を充足する。5
(4)構成要件2D
本件発明2における「バネ閉じ式の鰐口クリップ」は,一対の顎部材が基本
的に平行に軸支される非交差式のものと,一対の鰐部材が交差状に軸支される
交差式のものとが考えられるが,いずれも,係止部材の係止用部分を接着する
ための一対の顎部材を備え,一対の顎部材は支軸によって回動可能に拘束され,10
これらの顎部材間に設けたバネ手段により顎部材の先端部(係止部材に対する
接着部)同士が開いた状態から閉じた状態へ移行するように付勢されている
(本件明細書等〔甲1〕4頁43~50行,同〔乙A1〕7頁22~27行)。
被告製品は,部材アが一対の顎部材として平行に軸支された非交差式のもの
で,部材ア(顎部材)は部材カ(支軸)によって回動可能に拘束され,これら15
の顎部材間に設けられた部材オ(バネ手段)により部材ア(顎部材)の先端部
同士が開いた状態から閉じた状態に移行するように付勢されているから,構成
要件2Dを充足する。
(5)構成要件2E
被告製品は,部材アにおいて,内周側へ張り出した止め部が形成されている20
から,構成要件2Eを充足する。
(6)構成要件2F
本件発明2における「係止部材」は,開口状態にある鰐口クリップと顎部材
間に嵌入可能である適宜な形状と,鰐口クリップの顎部材が確実に噛み合うこ
とができる形状の噛合い部分を備えていればよい(本件明細書等〔甲1〕5頁25
11~16行,同〔乙A1〕7頁36~40行)。
被告製品は,部材エ(ホルダー受け)が開口状態の部材ア(顎部材)の間に
嵌入するものであり,部材アは,部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(ホル
ダー)を閉口した際に部材エ(ホルダー受け)を同集合体(ホルダー)から離
脱させない形状を備えているから,構成要件2Fを充足する。
(7)構成要件2G5
被告製品は,部材エ(ホルダー受け)のネック部の径の大きさが,部材ア(顎
部材)の止め部と止め部の間以下の大きさであるから,構成要件2Gを充足す
る。
(8)構成要件2H
被告製品は,部材エ(ホルダー受け)の磁石(吸着部材)の径の大きさが,10
鰐口クリップの閉口状態の止め部より後部の一対の顎部材(部材ア)間以下の
大きさであるから,構成要件2Hを充足する。
(9)構成要件2I
被告製品は,部材エ(ホルダー受け)の磁石(吸着部材)の径の大きさが,
鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材(部材ア)の止め部と止め部の間より15
大きいから,構成要件2Iを充足する。
(10)構成要件2J
被告製品は,部材エ(ホルダー受け)の磁石(吸着部材)の先端から後部ま
での長さが,閉口状態の部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(鰐口クリップ)
の中の磁石(吸着部材)と止め部の間以下の長さであるから,構成要件2Jを20
充足する。
(11)構成要件2K
被告製品は,部材ア(顎部材)の間と部材エ(ホルダー受け,係止部材)の
双方に磁石(吸着部材)を設け,部材アの間にある磁石(吸着部材)を支持す
る部材ウ(支持部材)が部材ア(顎部材)を軸支する部材カ(支軸)によって25
支持されているから,構成要件2Kを充足する。
(被告らの主張)
争う。
3争点3(原告らの損害額及び被告石福ジュエリーの不当利得額)について
(原告らの主張)
被告Y1の不法行為により,原告会社が受けた損害は1億2719万04005
円,原告X1が受けた損害は1589万8800円であり,被告石福ジュエリー
が原告会社に返還すべき不当利得額は765万円である。
(1)原告らの損害額
被告Y1が本訴提起の日から過去3年間に譲渡(販売)した被告製品の数量
は,少なくとも1か月3000個を下らず,被告製品1個当たりの利益額は110
324.9円であるから,原告らの損害額は,合計1億4308万9200円
(=3000個×1324.9円×36か月)となる。
そして,このうち原告会社の損害は,平成28年11月8日から令和元年7
月7日までの32か月分として1億2719万0400円,原告X1の損害は,
同月8日から同年11月7日までの4か月分として1589万8800円と15
なる。
(2)被告石福ジュエリーの不当利得額
被告石福ジュエリーは,少なくとも平成23年2月からの33か月間と平成
28年10月の1か月間の合計34か月間,被告Y1の製造した被告製品を販
売するという本件特許権侵害行為により,法律上の原因なく利得を得ているた20
め,その得た利益を原告会社に返還すべき義務を負う。
その不当利得額は,上記期間の被告石福ジュエリーの被告製品の売上高が少
なくとも7650万円(=1500個×1500円×34か月)を下らず,装
飾品のパーツの実施料率は10%を下らないから,少なくとも765万円(=
7650万円×10%)となる。25
(被告らの主張)
争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(本訴に係る請求が訴訟上の信義則に反するか否か)について
(1)前訴と本訴の訴訟物の同一性等
ア損害賠償請求及び不当利得返還請求(以下,併せて「損害賠償等請求」と5
いう。)について
原告会社は,前訴において,被告製品に係る本件特許権侵害の不法行為に
基づき,①被告Y1に対し,平成23年2月以降を損害賠償の対象期間(終
期については,本件証拠上判然としないが,前訴第一審判決言渡しの日以降
の法定利息の支払を求めていることからすると,第一審判決の口頭弁論終結10
日である平成26年12月15日までであるか,最も遅くとも,前訴控訴審
判決の口頭弁論終結日である平成27年6月4日時点(以下「本件基準時」
という。)までと考えられる。)とする損害賠償金及びこれに対する法定利
息の支払を求め,②被告石福ジュエリーに対し,平成23年2月以降を損害
賠償の対象期間とする損害賠償金及びこれに対する法定利息の支払を求め15
た(甲4)。
一方,原告らは,本訴において,①被告製品による本件特許権侵害の不法
行為に基づき,被告Y1に対し,原告会社につき平成28年11月8日から
令和元年7月7日までの間を,原告X1につき同月8日から同年11月8日
までの間を,それぞれ損害賠償の対象期間とする損害賠償金及びこれに対す20
る遅延損害金の各支払を求め,②被告石福ジュエリーに対し,不当利得返還
請求権に基づき,原告会社につき平成23年2月からの33か月と平成28
年10月の1か月の間の本件特許権の侵害行為に係る不当利得金及びこれ
に対する遅延損害金の支払を求めている。
そうすると,原告会社と被告ら各自との間の損害賠償等請求については,25
前訴と本訴とで訴訟物がいずれも異なっているということができる。
したがって,被告X1が原告会社の口頭弁論終結後の承継人(民訴法11
5条1項3号)に当たるか否かにかかわらず,原告らの本訴における損害賠
償等請求について,前訴の既判力は及ばない。
イ差止め及び廃棄請求(以下,併せて「差止等請求」という。)について
原告会社は,前訴において,被告製品が本件発明1の技術的範囲に属する5
として,①被告Y1に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製
品の製造及び販売の差止め並びに被告製品及びその金型の廃棄を求め,②被
告石福ジュエリーに対し,同各条項に基づき,被告製品の販売の差止め及び
その廃棄を求めていた(甲4)。
一方,原告らは,本訴において,前訴と同一の被告製品が本件発明2の技10
術的範囲に属するとして,被告Y1に対し,特許法100条1項及び2項に
基づき,被告製品の製造,販売及び販売の申出の差止め並びに被告製品,半
製品及び製造設備の廃棄を求めている(被告石福ジュエリーに対する差止め
及び廃棄請求はされていない。)。
前訴請求は,被告製品が請求項1に係る本件訂正発明1-1の技術的範囲15
に属することを前提とする請求であったのに対し,本訴請求は,被告製品が
独立項である請求項2後段に係る本件訂正発明2の技術的範囲に属するこ
とを前提とする請求であるが,民事訴訟において,原告は訴訟物を特定する
責任があり,それが被告に対し防御の目標を提示する手続保障の役割を果た
すとともに,裁判所に対し審判の対象を提示する機能を有するところ,本件20
においては,①原告会社と被告Y1との間の前訴と本訴の差止等請求は,原
告会社に関しては当事者が同一であり,いずれも本件特許権に基づく請求で
あって,差止めの対象となる製品も同一であること,②2以上の発明につい
ては,経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の
要件を満たす一群の発明に該当するときは,一の願書で特許出願をすること25
ができるものとされ(特許法37条),これを受けた特許法施行規則25条
の8第1項は,上記技術的関係とは,2以上の発明が同一の又は対応する特
別な技術的特徴を有していることにより,これらの発明が単一の一般的発明
概念を形成するように連関している技術的関係をいう旨を定めていること
によれば,本件特許の特許請求の範囲の各請求項も相互に技術的関係を有す
る単一の発明であるということができること,③本訴の前提とされている本5
件訂正発明2に係る請求項2は,もともとは請求項1の従属項であり,その
後第一次訂正により独立項とされたものの,「噛合わせて係止」,「正しい
噛合い位置」などの構成も含め,前訴控訴審時の審理対象であった本件訂正
発明1-1の発明特定事項を全て含み,その権利範囲を限定するものである
ことなどの事情が認められ,これによれば,前訴と本訴の差止等請求に係る10
訴訟物は同一であり,根拠となる請求項が異なることは攻撃方法の差異にと
どまるものと解するのが相当である(知財高裁平成28年(ネ)第1010
3号同29年4月27日判決参照)。
なお,前訴では被告製品の製造及び販売の差止めが請求されていたのに対
し,本訴ではこれらに加えて販売の申出の差止請求が追加されているが,製15
造及び販売と販売の申出とでは,侵害の態様が異なるにすぎないから,この
点の異同(追加)は訴訟物の同一性に影響を及ぼさない。
(2)損害賠償請求について
以上を踏まえ,まず,本訴請求のうち原告らの損害賠償等請求が,本訴提起
が訴訟上の信義則に反するか否かにつき検討する。20
ア民訴法2条は,当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければな
らない旨を定めており,後訴の請求又は主張が前訴の請求又は主張の蒸し返
しにすぎない場合には,後訴の請求又は主張は,信義則に照らして許されな
いものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第331号同51
年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,最高裁昭和49年25
(オ)第163,164号同52年3月24日第一小法廷判決・裁判集民事
120号299頁参照)。
そして,後訴の請求又は後訴における主張が信義則に照らして許されない
か否かは,前訴及び後訴の各請求及び主張内容,前訴における当事者の主張・
立証の状況,前訴と後訴の争点の同一性,前訴において当事者がなし得たと
認められる訴訟活動,後訴の提起に至る経緯及び後訴提起の目的,前訴判決5
の確定からの経過期間,前訴確定判決による紛争解決に対する当事者の期待
の合理性や当事者間の公平の要請などの諸事情を考慮して,後訴の提起又は
後訴における主張を認めることが正義に反する結果を生じさせることにな
るか否かで決すべきである。
そこで,これを踏まえ,前記前提事実に基づき,以下検討する。10
イ原告会社について
(ア)前訴は,原告会社が,被告らに対して,被告製品が本件特許に係る本件
訂正発明1-1(請求項1)の技術的範囲に属するとして,その製造・販
売の差止等や損害賠償を求めたものであるところ,本訴は,原告らが,被
告らに対して,前訴と同一の被告製品が前訴と同一の特許に係る本件訂正15
発明2(請求項2後段)の技術的範囲に属するとして,その製造・販売の
差止等や損害賠償等を求めるものである。
(イ)本件発明2は,本件発明1と同様に,「装飾品の片方の鎖状部の端部に
設けたホルダーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わ
せて係止する方式の留め具」に関する発明であって,本件特許請求の範囲20
の請求項2は,前記判示のとおり,もともとは請求項1の従属項であり,
請求項1(登録時)の発明特定事項を更に限定するものであった。
そして,上記請求項2は,第一次訂正により独立項とされ,第二次訂正
及び第四次訂正を経ているものの,第四次訂正後の本件訂正発明2は,「噛
合わせて係止」(別紙4の「第二次訂正」欄の構成要件2A),「正しい25
噛合い位置」(同2C)などの構成も含め,前訴控訴審時の審理対象であ
った第一次訂正による訂正後の請求項1(本件訂正発明1-1)の発明特
定事項を全て含み,更に発明特定事項の限定をするものである。
そうすると,被告製品が本件訂正発明1-1の技術的範囲に属しないの
であれば,本件訂正発明2の技術的範囲にも属しないことは明らかである。
(ウ)また,前記前提事実(4)イ及びウのとおり,前訴第一審及び前訴控訴審5
においては,本件訂正発明1-1の構成要件に含まれる「噛合わせて係止」,
「正しい噛合い位置」などの語の意義が争点となり,前訴控訴審は,「噛
み合う」という用語は,通常,凸部とそれに対応する凹部とが接触した組
合せからなる係止の状態を示し,「正しい噛合い位置」とは,ホルダーと
ホルダー受けにおける吸着部材同士が吸着した際に音が発生する際のそ10
れぞれの位置のことを指し,「正しい噛合い位置」において,ホルダーと
ホルダー受けとが噛み合っていることを要するとした上で,被告製品はこ
れらの構成要件を充足しないと判断した。
このように,原告会社は,前訴第一審及び前訴控訴審において,上記争
点に関する主張及び立証を十分に尽くしており,前訴係属中までに請求項15
2の訂正審判請求をし,これに基づく主張をなし得なかったとする事情も
うかがえない(現に,前訴係属中に本件訂正認容審決1を得ている。)。
原告らは,本訴において,「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部と
それに対応する凹部とが接触している必要はなく,明白な隙間がある状態
でも「噛合い状態」に含まれると主張し,前訴の確定判決とは異なる解釈20
に基づき,被告製品は,本件訂正発明2の「噛合せて係止」(構成要件2
A),「正しい噛合い位置」(同2C)を充足すると主張するが,同主張
は,前訴の確定判決が示した判断とは異なる解釈を展開することにより,
同一の争点について再度判断を求めるものであり,前訴における紛争を蒸
し返すものにほかならないというべきである。25
(エ)原告会社が前訴を提起したのは平成25年10月24日であるところ,
原告会社の請求を全て棄却する旨の前訴第一審判決及び前訴控訴審判決
がなされ,更に同控訴審判決に対する上告及び上告受理申立てを経て,前
訴控訴審判決が確定したのは平成28年8月25日である。
これに加えて,原告会社は,平成30年,知的財産高等裁判所に対し,
前訴控訴審判決を取り消し,前訴に係る請求の認容を求める再審の訴えを5
提起し,本件訂正認容審決3により,「噛み合う」とは,凸部とそれに対
応する凹部との噛み合い部分が接触するものとも限られず,明白な隙間が
ある状態でも噛み合い状態に含まれることが明らかになったなどと主張
し,同裁判所は,平成30年9月18日,原告会社の再審請求を棄却する
決定をした。10
以上のとおり,被告らは,前訴の被告として約3年間にわたり原告の主
張に対する反論や反証の負担を負った上,前訴控訴審判決の確定後に提起
された再審の訴えに対しても応訴することを余儀なくさせられたもので
あり,再審棄却決定により,被告製品の製造・販売が本件特許権を侵害す
るものではなく,今後,本件特許権に基づく差止めや損害賠償等の請求を15
受けることがないと期待するのは当然であるということができる。
本訴は,再審棄却決定から1年以上も経過した令和元年11月7日に提
起されたものであり,対象となる被告製品,侵害されたと主張されている
特許権,争点はいずれも同一であり,原告会社が本訴により達成しようと
する目的も前訴と異なるものではない。かかる訴訟において,前訴と同様20
の争点について改めて審理することによる被告らの負担は決して軽いも
のではなく,上記の合理的期待を著しく損なうものであって,当事者の公
平の観点からも容認し得ないというべきである。
(オ)したがって,原告会社が本訴において損害賠償請求及びこれに係る主張
をすることは,前訴の蒸し返しにすぎないというべきであり,原告会社と25
被告らとの間において同請求を審理することは,被告らとの関係で正義に
反する結果を生じさせるということができるので,訴訟上の信義則に反し,
許されないというべきである。
ウ原告X1について
前記前提事実によれば,①原告X1は,原告の取締役の長女であり,原告
代表者の姪であること,②原告X1が本件専用実施権の設定を受けたのが,5
本件再審棄却決定後であり,令和元年5月19日に第四次訂正に係る本件訂
正認容審決4が確定した直後の同月30日であること,③本件専用実施権の
対象が,本訴請求の対象である本件発明2に係る請求項2のみであり,しか
もその設定期間は2年間に限定されていることという各事実が認められ,ま
た,原告X1が本件専用実施権に基づき本件発明2の実施をしていると認め10
るに足りる証拠はない。
そうすると,原告X1は,前訴と同様の争点につき,改めて判断を求める
べく,原告会社のために本訴の共同原告となったものと推認することができ
るから,本訴の損害賠償請求につき,固有の利益を有するものとは認められ
ない。15
それにもかかわらず,原告X1が同請求及びこれに係る主張をすることは,
実質的には,原告会社による前訴の蒸し返しにすぎないというべきであり,
原告X1と被告Y1との間においても,同請求を審理することは,やはり,
同被告との関係で正義に反する結果を生じさせるといえるから,訴訟上の信
義則に反し,許されないというべきである。20
エ原告らの主張について
(ア)原告らは,本件特許の請求項1及び請求項2後段では発明の内容が異な
り,「噛み合う」という用語の意味も異なるなどとして,本訴の提起が訴
訟上の信義則に反するものではないと主張する。
しかし,以下のとおり,請求項1及び請求項2で共通して用いられてい25
る「噛み合う」等の用語が,各請求項で異なる意味内容のものであるとは
認められない。
a前記判示のとおり,特許法37条及び特許法施行規則25条の8第1
項によれば,本件特許に係る請求項1及び2記載の各発明は,単一の一
般的発明概念を形成するように連関している技術的関係を有すること
を前提として特許されたものであるということができる。5
bそして,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の
記載に基づいて定めなければならず(同法70条1項),特許請求の範
囲に記載された用語の意義は,願書に添付した明細書の記載及び図面を
考慮して解釈すべきものであるところ(同条2項),用語は,その有す
る普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて10
統一して使用するものとされていること(特許法施行規則様式第29
(備考)8本文)に照らすと,請求項1及び2における用語が,本件特
許請求の範囲や本件明細書等において,それぞれ特定の別の意味を有す
るものとして定義され使用されている(同8ただし書)といった格別の
事情がない限り,それらは同一の意味内容を表すものと解すべきことに15
なる。
cそこで,請求項1及び2で共通して用いられている用語が異なる意味
を有するか否かにつき,本件特許請求の範囲や本件明細書等の記載(甲
1,乙A1)をみても,前訴において争われた「噛み合う」,「噛み合
わせて係止」,「正しい噛合い位置」といった用語を含め,請求項1と20
請求項2で共通して用いられた用語がそれぞれ特定の別の意味を有す
るものとして定義され使用されているなど,それぞれ異なる意味に用い
られていることをうかがわせる事情は見当たらない。
かえって,本件明細書等の発明の詳細な説明の【発明の開示】の項に
は,「本願の第1発明は,装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダ25
ーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止す
る方式の留め具であって,前記ホルダーとホルダー受けには,これらを
正しい噛合い位置に誘導できる部位に,互いに吸着する磁石の各一方を,
あるいは磁石とこれに吸着される金属材とを吸着部材として設けた装
飾品鎖状端部の留め具である。」(甲1・2頁42~46行,乙A1・
5頁40~43行),「本願の第2発明においては,第1発明に係るホ5
ルダーが1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口
クリップであり,ホルダー受けが前記1対の開口状態の顎部材間に嵌入
して係止される係止部材である。」(甲1・3頁11~13行,乙A1・
6頁5~6行),「本願の第3発明においては,第2発明に係る鰐口ク
リップの内部に一方の吸着部材を設け,係止部材の先端に他方の吸着部10
材を設けている。」(甲1・3頁18~19行,乙A1・6頁10~1
1行),「本願の第4発明においては,第3発明に係る鰐口クリップの
内部に設けた吸着部材が,前記1対の顎部材のいずれか一方に固定され,
あるいはこの吸着部材を支持する支持部材が1対の顎部材を軸支する
支軸によって支持されている。」(甲1・3頁25~27行,乙A1・15
6頁16~18行)との記載があるが,これらの記載と請求項1(登録
時)及び請求項2(登録時)の発明特定事項(構成要件)を対比すると,
「第1発明」に係る記載は請求項1(登録時)の構成要件1A~1Cと,
「第2発明」に係る記載は構成要件1D及び1Eと,「第3発明」に係
る記載は構成要件1F及び1Gと,それぞれ同内容であり,「第4発明」20
に係る記載は,請求項2(登録時)の「前記鰐口クリップの内部に設け
た吸着部材が前記1対の顎部材のいずれか一方に固定され,あるいはこ
の吸着部材を支持する支持部材が前記1対の顎部材を軸支する支軸に
よって支持されている」との記載(請求項1を引用する発明特定事項を
更に限定する部分の記載)と同内容である(別紙5「訂正の推移」参照。)。25
しかも,本件明細書等の上記記載によれば,「第2発明」は「第1発
明」を,「第3発明」は「第1発明」及び「第2発明」を,「第4発明」
は「第1発明」,「第2発明」及び「第3発明」を,それぞれ前提とし
て,更に発明特定事項を付加することで,先の発明の内容を限定してい
るものであることが明らかであって,「第3発明」が請求項1(登録時)
に,「第4発明」が請求項2(登録時)に,それぞれ対応するものとい5
うことができるから,請求項2(登録時)に係る本件発明2は,請求項
1(登録時)に係る本件発明1と同一の発明特定事項を全て包含しつつ,
これを更に限定するものであると解される。
このことは,請求項2がもともとは請求項1の従属項であったことや,
本件明細書等の【発明を実施するための最良の形態】の項に「以下にお10
いて,単に「本発明」と言う時は,第1発明~第6発明の内の該当する
発明群を一括して指している。」と記載されていること(甲1・4頁1
2~13行,乙A1・6頁46~47行)からも裏付けられる。
dそうすると,前訴において争われた「噛み合う」,「噛み合わせて係
止」,「正しい噛合い位置」といった用語を含む,請求項1及び2に記15
載の発明特定事項に係る同一の用語は,同一の意味内容を有するものと
解するのが相当というべきである。
(イ)原告らは,第二次訂正に係る本件訂正認容審決2や第四次訂正に係る本
件訂正認容審決4が出され,ホルダー受けのネック部や吸着部材の径等に
係る発明特定事項が限定されたことなどを根拠として,請求項2後段にお20
ける「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが
接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも「噛合い状態」に含
まれると主張する。
しかし,訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであ
ってはならないとする特許法126条6項は,訂正前の特許請求の範囲に25
は含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることになると,第
三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため,そうした事態が生
じないことを担保する趣旨の規定であると解され,特許法は,訂正前の特
許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品は,訂正後の特許発明の技術的
範囲に属しないことを保障しているということができる。原告らが主張す
るホルダー受けのネック部や吸着部材の径等の限定は,いずれも第二次訂5
正や第四次訂正によりなされたものであるから,こうした訂正により訂正
前の発明の技術的範囲が拡張することはあり得ないというべきである。
本訴において問題となる本件訂正発明2(第一次訂正により独立項とさ
れ,第二次訂正及び第四次訂正による訂正を経た後の請求項2後段)は,
本件訂正発明1-1(前訴控訴審時の審判対象であった第一次訂正後の請10
求項1)の発明特定事項を全て含み,更に発明特定事項の限定をしている
ものである上(別紙5「訂正の推移」参照),前記のとおり,請求項1及
び請求項2で共通して用いられている用語は同一の意味内容を有するも
のと解すべきことも考慮すれば,被告製品が本件訂正発明1の技術的範囲
に属しない以上,本件訂正発明2の技術的範囲に属する余地はないという15
べきである。
したがって,原告らの上記主張は採用し得ない。
(3)差止等請求について
上記(1)イのとおり,前訴と本訴の差止等請求に係る訴訟物は同一であると
解すべきところ,前訴と本訴との間で訴訟物が同一である場合には,本訴にお20
いて前訴確定判決の既判力ある判断と矛盾,抵触する判断ができなくなるので
(民訴法114条1項),本件請求については,基準時後に生じた新たな事由
が認められない限り,前訴確定判決の既判力に触れることになる。
本件において,原告X1は,本件基準時後に原告会社から本件特許に係る専
用実施権の設定を受けているが,特許権者が特許権について専用実施権を設定25
したときは,専用実施権者が,設定行為で定めた範囲内において,業としてそ
の特許発明の実施をする権利を専有する半面,特許権者は上記範囲内における
特許発明の実施をする権利を喪失する(特許法68条,77条1項,2項)の
であるから,原告X1は,民訴法115条1項3号が定める口頭弁論終結後の
承継人に当たり,原告会社と被告との間の前訴確定判決の既判力は,原告X1
にも及ぶというべきである。5
なお,本件においては,前訴の既判力の基準時より後に,請求項2に係る第
二次訂正及び第四次訂正がされているが,原告会社は,同時点より前に,これ
らの訂正を求める訂正審判請求をし,前訴においてそれを踏まえた主張をする
ことができた(現に,前訴係属中に本件訂正認容審決1を得ている。)のにし
なかったのであるから,これを本訴の既判力の基準時の後に生じた新たな事由10
に当たるということはできず,他に同事由の存在を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの差止等請求は,前訴控訴審判決の既判力に抵触し許さ
れないものというべきであり,仮にそうでないとしても,前記(2)の同様の理
由から,訴訟上の信義則により許されない。
2以上のとおり,本件各訴えのうち損害賠償請求に係る訴え部分は訴訟上の信義15
則に反し許されないものであり,その余の差止等請求に係る部分は前訴確定判決
の既判力によって遮断されることになる。
よって,本件各訴えのうち損害賠償請求に係る訴え部分は却下することとし,
その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決
する。20
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官25
佐藤達文
裁判官
三井大有
裁判官
齊藤敦

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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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