弁護士法人ITJ法律事務所

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主      文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人から控訴人に対する倉吉簡易裁判所平成11年(ロ)第26号の仮
執行宣言付支払督促正本に基づく強制執行はこれを許さない。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨
(以下,控訴人を「原告」,被控訴人を「被告」という。)
第2 事案の概要
1 前提事実(なお,証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)原被告間には,倉吉簡易裁判所平成11年(ロ)第26号事件についての仮執
行宣言付支払督促がある。
(2)原告は,平成9年6月2日,鳥取地方裁判所倉吉支部に自己破産申立てをし
て(同裁判所平成9年(フ)第31号),平成12年5月22日,原告について破産宣
告(以下「本件破産宣告」という。)がなされると同時に破産廃止決定がなされた。
 そして,原告は,平成12年7月19日,同支部に免責の申立て(以下「本件免責
申立て」という。)をして(同支部平成12年(モ)第103号),同年10月26日,原
告について免責決定(以下「本件免責決定」という。)がなされ,同決定は同年11
月26日確定した。(以上につき,甲2ないし4,弁論の全趣旨)
2 原告の請求等
 原告は,上記の仮執行宣言付支払督促に記載されている被告の原告に対する
債権(以下「本件債権」という。)は,上記の破産申立事件における破産債権であ
り,本件免責決定によって免責されていると主張して,同仮執行宣言付支払督促
正本の執行力の排除を求めた。
 これに対し,被告は,本件債権について,破産法366条の12第5号所定の非
免責債権に当たると主張して原告の請求を争っている。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)争点①
本件債権は,破産法366条の12第5号本文所定の「破産者ガ知リテ債権者名
簿ニ記載セザリシ請求権」に当たるか。
【被告の主張】
 本件免責申立てに際して提出した債権者名簿には本件債権が記載されておら
ず,また,原告が,本件債権について記載された支払督促正本の送達を受けて
いるにもかかわらず,債権者名簿に本件債権を記載しなかったことなどを考慮す
れば,本件債権は,同号本文所定の請求権に当たるというべきである。
【原告の主張】
 被告の主張は争う。
 なお,被告は「A商事」という屋号で貸金業を営んでいるところ,上記債権者名
簿には,債権者欄において「A商事」とした債権の記載があり,本件債権は,債権
者名簿に記載された債権である。
(2)争点②
 被告は,本件破産宣告を知っていたか(破産法366条の12第5号ただし書)。
【原告の主張】
 被告は,前記の破産申立事件に関する弁護士の受任通知を受けた後,弁護士
事務所や裁判所に破産手続の進行状況について問い合わせるなどし,また,数
日毎に原告方を訪ねて破産の話をしているのであるから,本件破産宣告のあっ
たことを知っていたといえる。
【被告の主張】
 原告の主張は争う。
第3 証拠
原審の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
第4 当裁判所の判断
1 争点①について
(1)前記前提事実(第2の1)に証拠(甲1,2,乙1,被告の原審供述)及び弁論
の全趣旨を総合すると,次の事実を認めることができる。
ア 被告は,肩書住居地(鳥取県岩美郡a町b c丁目dのe)において,「A商事」
という屋号で貸金業を営んでいる。
イ 被告は,平成8年ころから原告に対する貸付けを行うようになり,平成9年3
月19日,いわゆる借換えの方法で,金40万円を貸し付けた。
ウ 原告は,同年5月9日まで,被告に対する返済を続けてきたが,そのころ,
被告に対し,「自己破産を考えており,弁護士に頼むつもりであるが,被告には
他の債権者との関係が落ち着いてから返済するつもりである。」と申し向けた。
エ 原告は,平成9年6月2日,弁護士B(以下「B弁護士」という。)を代理人とし
て,前記の破産申立てをした。
オ 被告は,原告に対して,被告を債権者・原告を債務者として,上記金40万
円の残元本金28万円などの支払を求める支払督促の申立てをし(倉吉簡易裁
判所平成11年(ロ)第26号),平成11年1月20日,支払督促(以下「本件支払
督促」という。)がなされ,その後,本件支払督促正本は原告に送達された。
カ 被告は,本件支払督促について仮執行宣言の申立てをし,平成11年2月1
9日,仮執行宣言がなされた。なお,仮執行宣言付支払督促正本についても,
後に原告に送達された。
キ 平成12年5月22日,原告について本件破産宣告・破産廃止決定がなさ
れ,同年7月19日,原告は,B弁護士を代理人として,本件免責申立てをし,B
弁護士は,免責申立書添付の債権者目録(以下「本件債権者目録」という。)に
おいて,被告の債権として,別紙の番号欄「17」のとおりの記載をした。
ク なお,原告は,上記のとおり,本件支払督促正本等の送達を受けていた
が,本件債権についてはすでにB弁護士に依頼している破産手続において処
理されるものと考え,B弁護士に対して本件支払督促正本等の送達を受けた事
実を連絡しなかった。
 それゆえ,B弁護士は,本件支払督促の存在を知ることがなく,また,従前,
被告の氏名・住所について原告から報告を受けたこともなかったため,本件債
権者目録においては,上記の記載をなすにとどまった。
(2)以上の認定事実に基づいて,本件債権が破産法366条の12第5号本文所
定の請求権に当たるかについて検討する。
ア 同号本文は,破産者が知って債権者名簿に記載しなかった請求権は免責
されない旨規定しており,まず,本件債権者名簿に本件債権が記載されている
かが問題となる。
 この点,破産者が免責申立てに際して提出すべき債権者名簿においては,破
産債権者の氏名及び住所並びに破産債権の額及び原因等の記載によって債
権を特定することが必要である(破産法366条の3)ところ,本件債権者名簿に
おいて被告の債権として記載されているものは,契約年月日等のみならず,被
告の住所の点においても不完全ないし事実と異なるものである(別紙の番号欄
「17」)。
 そうすると,鳥取県内において原告以外には「A商事」の屋号で貸金業を営む
ものの存在が窺われないこと(被告の原審供述)を考慮してもなお,本件債権
者名簿に本件債権が記載されているとはいえないというべきである(なお,破産
法366条の3の趣旨は,破産債権者に対し,免責審尋期日の決定を送達して
異議申立ての機会を付与することなどにあるが,被告の原審供述及び弁論の
全趣旨によれば,被告が当該決定の送達を受けたことはなかったものと認めら
れる。)。
イ 次に,同号本文所定の請求権は,破産者が知っている請求権であればよ
く,債権者名簿に記載しなかったことが破産者の過失による場合でも同号本文
に当たると解される。
 そして,前記認定事実によれば,本件債権は原告の知っている請求権である
ところ,原告は,本件支払督促正本等の送達を受けたにもかかわらず,B弁護
士に対してその連絡を怠り,その結果,前記のとおり,本件債権者名簿に本件
債権が記載されなかったまま放置されたのであるから,本件債権者名簿に本件
債権を記載しなかったことは原告の過失によるものというべきである。
ウ よって,本件債権は破産法366条の12第5号本文所定の請求権に当た
る。
2 争点②について
(1)上記前提事実(第2の1)に証拠(甲1,乙2,被告の原審供述)及び弁論の全
趣旨を総合すると,次の事実を認めることができ る。
ア 被告は,平成9年5月9日ころ,前記のとおり,原告から自己破産を考えて
いるなどと申し向けられ,また,同日,B弁護士が原告の自己破産申立手続を
受任した旨の通知を,B弁護士からファックスにより送信された。
イ これに対して,被告は,同日ころ,B弁護士の事務所に電話を架け,同事務
所の事務員と原告の破産手続について話をした。
ウ 被告は,その後原告に対する取立てを止め,原告について破産手続が円
滑に終了するのを待っていたが,原告から一向に連絡がなかったことなどか
ら,平成11年1月20日,本件支払督促の申立てをした。
エ 平成12年5月22日の本件破産宣告前後において,被告が,原告の破産
手続ないし免責手続に関して,破産裁判所から何らかの通知を受けたことはな
い。
(2)以上を前提として,被告が,本件破産宣告を知っていたといえるか(破産法3
66条の12第5号ただし書)について検討する。
 上記認定事実によれば,被告が,原告の破産手続の進行状況について関心を
有していたことは認められるが,上記(1)ア,イの事実は本件破産宣告の3年以
上も前の事実であり,この事実をもって,直ちに被告が本件破産宣告について知
っていたということはできないというべきであり,ほかにこれを認めるに足りる証
拠はない(なお,被告が上記受任の通知を受けた後も数日毎に原告方を訪ねて
破産の話をしていたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,また,かかる事実に
よって被告が本件破産宣告について知っていたということもできない。)。
3 したがって,本件債権は,破産法366条の12第5号所定の非免責債権に当
たる。
第5 結論
 以上によれば,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却
することとし,控訴費用の負担につき民訴法67条1項本文,61条を適用して,主
文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日平成15年5月13日)
鳥取地方裁判所民事部
裁判長裁判官    山田陽三
    裁判官    山本和人
    裁判官    小野寺 明

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