弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原判決中電気主任技術者の地位の確認請求に係る部分を取り消す。
控訴人の右請求に係る訴を却下する。
控訴人のその余の控訴を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
       事   実
(申立)
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人が、被控訴人島田工場における工務
課電気係長及び電気主任技術者の地位を有することを確認する。訴訟費用は、第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄
却の判決を求めた。
(主張)
一 被控訴人の本案前の主張
 電気主任技術者は、電気事業法に基づき、その選任及び監督官庁への届出が義務
づけられ、また、届出によりその地位が確定する行政取締法規上の地位にすぎず、
被控訴会社島田工場電気主任技術者も被控訴会社の職制上の地位ではない。被控訴
人が監督官庁に届け出る保安規程も監督官庁に対してその運用を約したものにすぎ
ず、被控訴人と電気主任技術者との間に権利義務を設定するものではない。したが
って、保安規程の定めが労働契約の内容になることはなく、また、被控訴人が控訴
人の入社に際し、控訴人を電気主任技術者として採用する旨約定したこともない。
 このように電気主任技術者の地位は控訴人・被控訴人間の私法上の地位ではない
から、その存在確認を求める控訴人の請求は権利保護適格を欠くものである。
二 本案前の主張に対する控訴人の反対主張
 被控訴人の主張を争う。すなわち、島田工場には電気主任技術者の地位が設けら
れており、その職務内容は、被控訴人が昭和四七年四月に名古屋通商産業局に届け
出た同工場の保安規程(以下「保安規程」という。)によると、同工場の電気工作
物の工事、維持及び運用に関する保安の監督全般に及んでいて、電気工作物関連業
務の従事者に対する指揮権をも有している。これらの職務・権限は具体的に定めら
れ、労働契約の内容となりうるものであるところ、控訴人は、入社に際し、被控訴
人との間で島田工場電気主任技術者として雇用される旨の約定をしたのであるか
ら、この点は控訴人と被控訴人との間の重要な労働契約の内容となっている。
 その根拠を詳述すると、原判決三枚目表末行から同七枚目裏三行目までのとおり
である(但し、同三枚目表末行の「2」を「1」と改め、同裏一行目の「被告」か
ら二行目の「届出た」までを削り、同四枚目裏六行目から七行目にかけての「と解
するのが相当である」を「ものである」と、八行目の「3」を「2」とそれぞれ改
め、九行目の「第二種」の前に「自己の有する」を加え、同五枚目表七行目の「基
方的」を「基本的」と、八行目の「確認すると」を「確認を求めたところ」と、同
裏五、六行目を「控訴人は昭和四八年六月から後記の労働契約の内容のとおり島田
工場電気主任技術者の地位にあった。」と、七行目の「4」を「3」とそれぞれ改
め、同六枚目表一行目の「電気事業法」の前に「その権限は、」を加え、五行目か
ら六行目にかけての「権限を与えるということであった」を「及んだ」と、同裏五
行目の「改造行事」を「改造工事」と、同七枚目表五行目の「右法」を「電気事業
法」と、同裏三行目の「とするのが相当である」を「ものである」とそれぞれ改め
る。)。
三 控訴人の請求原因
1 当事者
(一) 被控訴人は、牛乳製品、菓子、薬品等の調理、製造、販売等を目的とする
株式会社であり、島田市<以下略>に工場(以下「島田工場」という。)を有す
る。
(二) 控訴人は、昭和四八年四月一日島田工場に電気主任技術者として採用さ
れ、同年六月から電気主任技術者として、同年一〇月からは電気係長としても勤務
してきたものである。
2 被控訴人は、島田工場における工務課電気係長及び電気主任技術者の地位から
控訴人を解任したと主張して、控訴人が右地位にあることを争っている。
 よって、控訴人は、被控訴人との間において、控訴人が島田工場における工務課
電気係長及び電気主任技術者の地位を有することの確認を求める。
四 請求原因に対する被控訴人の認否
 請求原因事実を認める。
五 被控訴人の抗弁
1 被控訴人は、昭和五七年四月二八日ころ、控訴人を島田工場における工務課電
気係長の役職から解任して工務事務所のスタツフに移籍し(以下「本件移籍」とい
う。)、同年六月九日、同工場における電気主任技術者の地位から解任した(以下
「本件解任」という。)。
2 本件移籍及び本件解任について合理的理由が存することについては、原判決三
二枚目裏二行目から同三九枚目表七行目までのとおりである(但し、同三二枚目裏
二行目の前の「一」を「(一)」と、「会社」を「企業の経営者」と、同三三枚目
表一行目及び五行目の各「事業場」を「事業所」と、二行目及び九行目の各「会
社」を「被控訴人」と、九行目の「行使」から一〇行目の末尾までを「行使であ
る。」と、末行の「二」を「(二)」と、同裏一行目の「1」を「(1)」と、六
行目の「2」を「(2)」と、末行の「大工事」を「大規模なもの」とそれぞれ改
め、一行目及び一〇行目の各「被告」を、六行目の「前記」をそれぞれ削り、同三
四枚目表二行目の「a」の次に「(以下「a」という。)」を加え、八行目及び一〇
行目の各「もの」を「者」と、九行目の「3」を「(3)」と、同裏三行目の「ご
とく」を「ように」と、九行目の「メインテナンス」を「保守管理」と、同三五枚
目表一行目の「4」を「(4)」とそれぞれ改め、二行目の「被告」を削り、同裏
四行目の「五月」及び五行目の「一二月」の各前に「同年」を加え、八行目の
「5」を「(5)」と改め、同三六枚目表四、五行目及び九行目の各「被告」を、
四行目の「前記」を、同裏四行目及び八行目の各「被告」をそれぞれ削り、六行目
の「6」を「(6)」と、「パジフイック」を「パシフイック」と、同三七枚目表
二行目の「三」を「(三)」と、三行目の「1」を「(1)」と、一〇行目の
「2」を「(2)」とそれぞれ改め、三行目の「前記」の前に「その存在確認請求
に対する本案前の主張が理由がないとしても、」を加え、八行目の前の「前記」を
削り、同三八枚目表五行目の「ごとく」を「ように」と、八行目の「3」を
「(3)」と、六行目及び同三九枚目表二行目の各「相応し」を「ふさわし」とそ
れぞれ改め、同三八枚目表末行の「前記」を、同裏一行目の「被告」をそれぞれ削
る。)。
六 抗弁に対する控訴人の認否
1 抗弁1の事実を認める。
2 抗弁2の主張を争う。
 控訴人の反対主張は、原判決三九枚目表一〇行目から同四八枚目裏六行目までの
とおりである(但し、同三九枚目表一〇行目の冒頭に「(一) (一)のうち、」
を加え、同行の「掲記」を「被控訴人主張」と改め、同裏一行目を削り、二行目の
冒頭の「1」を「(二)(1)」と、「同1」を「(1)」と、九行目の冒頭の
「2」を「(2)」と、「同2」を「(2)」と、同四〇枚目表九行目の冒頭の
「3」を「(3)」と、「同3」を「(3)」と、同裏九行目の冒頭の「4」を
「(4)」と、「同4」を「(4)」と、同四一枚目表七行目の「いうことはでき
ない」を「いうことはない」と、同裏五行目の「為」を「ため」とそれぞれ改め、
同表末行の「五月」の前に「同年」を、同裏六行目の「である」の次に「。」を、
八行目の「停電」の次に「中の」を、同四二枚目表二行目の「一二月」の前に「同
年」をそれぞれ加え、同裏三行目の冒頭の「5」を「(5)」と、「同5」を
「(5)」と、七行目及び一〇行目から末行にかけての各「昭和五七年五月一〇
日」を「同日」と、九行目の冒頭から「技術員)」までを「また、工務事務所所属
の電気担当技術員」と、同四三枚目表一行目の「この電気技術員」及び七行目の冒
頭から「スタッフ」までをそれぞれ「右電気担当技術員」と、同四四枚目表七行目
の「保管」を「保守」と、九行目の「昭和四八年」を「同年」と、同四五枚目表一
行目の冒頭の「6」を「(6)」と、「同6」を「(6)」とそれぞれ改め、同四
五枚目表二行目を削り、三行目の冒頭の「1」を「(三)(1)」と、「同1」を
「(1)」と、四行目の冒頭の「2」を「(2)」と、「同2」を「(2)」と、
同四六枚目表八行目の「試傭」を「試用」と、同裏一行目の冒頭の「3」を
「(3)」と、「同3」を「(3)」と、三行目の「続けさせる」を「担当させ
る」と、同四七枚目表四行目の「務めて」を「努めて」と、八行目の「もの」を
「者」と、同四八枚目表五行目の「様な」を「ような」と、八行目の「工作部」を
「工作物」とそれぞれ改め、同四六枚目裏末行の「にあり」の、同四七枚目裏三行
目の「有し」の及び同四八枚目表九行目の「おいては」の各次に、「、」を加え
る。)。
七 控訴人の再抗弁
1 不当労働行為
 被控訴人のした本件移籍及び本件解任は、労働組合法七条一号に該当する不当労
働行為であって違法無効である。
(一) 不利益取扱該当性について
 控訴人は、本件移籍及び本任解任により次のような不利益を被った。
(1) 賃金
 控訴人は、電気主任技術者という労働条件で採用されたため、その初任基本給は
他の一般中途採用者よりも三万円高い一一万円であった(控訴人は昭和一七年四月
一五日生まれで、採用された当時三〇歳であったが、被控訴人の中途採用者の初任
給に関する社内基準によれば、三〇歳で中途採用される者の初任基本給は八万円で
あった。)。そして、これまでも電気主任技術者であるゆえに被控訴人の一般従業
員よりも高額な給与の支払を受けてきた。
 島田工場工務課電気係長の地位は、監督職であり、監督者手当(係長について
は、昭和五七年四月現在月額一万円、昭和五九年四月現在月額一万一〇〇〇円、昭
和六〇年四月現在月額一万二〇〇〇円、昭和六二年四月現在(但し、職能給制度の
導入により監督者手当A)月額一万五〇〇〇円)が支給され、右監督者手当は時間
外手当の算出の基礎にもなっている。昭和六一年四月一日から職能給制度が導入さ
れ、一般従業員は一等級から七等級に格付けされ、控訴人は四等級になった。とこ
ろが、係長は七等級に格付けされており、控訴人も係長を解任されなければ、七等
級になり、監督者手当A(昭和六二年四月現在月額一万五〇〇〇円)が得られ、出
張旅費の額も約二〇〇〇円の減額とはならなかった筈である。
 右のとおり、工務課電気係長の地位は労働条件において一般職員と異なってお
り、被控訴人が一方的に奪うことのできないものである。
(2) 電気主任技術者は、これまでの前例から工務課課長代理その他の役職への
昇進の可能性が高い。
(3) 控訴人は、第二種電気主任技術者の資格を有しており、昭和四八年に入社
して以来島田工場の電気工作物の保守、点検及び修理等の業務に従事し、その業務
を通して新たな知識を取得してきた。そして更に、電気技術者として研鑚を積み向
上していくことを目的としてきたが、本件移籍により、①保守関係業務に携わるこ
と、②工務課内での安全会議への出席、③社内外における会議(研修会も含む)へ
の出席等ができなくなり、そのために新たな知識を取得する機会及び能力を発揮す
る場を奪われ、電気技術者として致命的な打撃を受け、また、電気エネルギー管理
士の資格も有しているが、電気管理士に選任される機会も失なった。
(二) 組合活動及び控訴人に対する不利益処分の不当労働行為性
 この点については原判決一一枚目裏末行から同二三枚目裏八行目までのとおりで
ある(但し、同一二枚目表二行目の括弧書を削り、同裏五行目の「そんな中にあっ
て」を「かかる状況のもとにおいて」と、七行目の「たちを協力」を「と協力し、
組合員らを」と、同一三枚目表四行目及び九行目の各「組合」を「右組合」と、七
行目の「本部」を「右組合本部」とそれぞれ改め、同一四枚目表二行目の「組合
が」を削り、九行目、同裏七行目の各「あった」を「ある」と、同一六枚目裏七行
目の「符号」を「符合」とそれぞれ改め、同一七枚目表七行目の「全国本部」を削
り、同裏五行目の「地労委」を「地方労働委員会(以下「地労委」という。)」と
改め、一〇行目の末尾に「(以下「中労委」という。)」を加え、同一八枚目裏六
行目の「これを横領して」を「勝手に」と、同一九枚目表五行目の「組合(第一組
合)」を「第一組合」と、同二〇枚目表九行目の「忠告」を「注意」とそれぞれ改
め、六行目の「工場長」の次に「フレイ(以下「工場長」という。)」を加え、同
二一枚目表三行目の「の組合」を削り、同裏一行目の「五月」を「同月」と、「技
術事務所」を「工務事務所」と、四行目の「申し入れ」を「申入れ」と、同二二枚
目表一行目の「五月一〇日」を「同日」と、末行の「前提とし」を「留保し」と、
「技術事務所」を「工務事務所」と、同裏九行目の「行なう」を「行う。」とそれ
ぞれ改め、同二三枚目表五行目の「事実」を削り、六行目の「地方労働委員会」を
「地労委」と、九行目の「技術事務所」を「工務事務所」とそれぞれ改め、九行目
の「六月」の前に「同年」を加える。)。
2 禁反言、信義則違反(電気主任技術者からの解任に対して)
 この点については原判決二三枚目裏一〇行目から同二五枚目裏末行までのとおり
である(但し、同二三枚目裏末行の「続けさせる」を「担当させる」と、同二四枚
目表六行目の「被告」から七行目の「ある。)」までを「工場長」と、八行目の
「過ぎから」を「ころ」と、同裏九行目の「保主」を「保守」と、同二五枚目表一
行目、八行目及び同裏五行目の各「技術事務所」を「工務事務所」と、八行目の
「続けさせる」を「担当させる」と、九行目の「言葉」を「言明」とそれぞれ改
め、同二四枚目裏二行目の「五月」の前に「同年」を、同二五枚目表六行目の「課
長」の次に「(以下「b」という。)」を、七行目の「分離し」、八行目の「減少さ
せ」、末行の「かかったので」及び同裏四行目から五行目にかけての「分離し」の
各次に「、」を、二行目の「午後三時」の前に「同日」をそれぞれ加え、同二五枚
目表五行目の「過ぎ」を、九行目から一〇行目にかけて及び同裏一行目の各「フレ
イ」をそれぞれ削る。)。
八 再抗弁に対する被控訴人の認否
1 再抗弁1について
 前文の主張は争う。
(一) (一)について
(1) (1)は争う。控訴人は、本件移籍により給与等金銭的不利益を受けてい
ない。すなわち、監督手当等の支給はその職務に伴う給付であるから、その地位を
離れたらなくなるのは当然であり、それを不利益ということはできず、また、職能
給制度は、本件移籍の四年後に導入されたものであるから、本件移籍と直接の関係
はない。
(2) (2)は争う。電気主任技術者の解任ないしは本件移籍と将来の昇進とは
全く関係がない。
(3) (3)は争う。電気主任技術者の解任ないしは本件移籍により、新技術・
知識の取得等が不可能になったということはあり得ない。控訴人は、同一課内で引
き続き電気関係の業務に従事しているのであるから、本人に自覚さえあれば、新技
術・知識の取得は可能である。
(二) (二)について
(1) (1)の事実中前段は認めるが、後段は争う。
(2) (2)の事実は、否認若しくは争う。
(3) (3)の事実は、否認若しくは争う。
(三) (三)について
 前文の主張は争う。
(1) (1)の事実は否認する。
(2) (2)の事実中、控訴人に対し広田工場への転勤を打診したこと、控訴人
が右打診に対して転勤には応じられない旨答えたことは認めるが、右打診が控訴人
に対する不当な圧力であったとの主張は争う。
 転勤の打診は、広田工場のクレマトップ製造ラインの増設工事に伴うものであっ
て、業務内容、経験からして控訴人が適任と考えられたからに外ならない。
(3) (3)の事実について
 被控訴人が控訴人に対し、工務事務所に配置替えをしたい旨通告したことは認め
る。被控訴人が控訴人の係長職からの移籍、電気主任技術者からの解任の事実を控
訴人に伝えなかったという点は否認する。被控訴人が強行的・一方的に本件移籍及
び本件解任を行ったという点、手続が労働協約に反し異常であるという点、本件解
任・移籍が組合敵視の政策・組合の組織破壊の一環としてされたという点の主張
は、いずれも争う。
2 同2について
(一) (一)の事実は否認し、その主張は争う。
(二) (二)の事実について
 工場長が昭和五七年四月二八日控訴人に対し、業務の分離を通告したこと、控訴
人の業務として控訴人主張の②ないし⑦を指示したこと、保守管理業務をcが担当す
ることになったことは認めるが、その余は争う。
 被控訴人は「電気主任技術者及び職場長(すなわち係長)から解任」する旨申し
伝えた。
(三) (三)の主張は争う。
(証拠関係) (省略)
       理   由
一 電気主任技術者の地位確認請求に対する本案前の主張について
1 電気事業法は、電気に起因する災害の防止と電気の円滑な供給とを図るため、
自家用電気工作物の設置者に対し、電気工作物の工事、維持及び運用に関する作業
の監督を担当する者として(原則的に電気主任技術者免状の取得者から)主任技術
者を選任するとともに、保安規程を定め、これを監督官庁である通商産業大臣に届
け出ることを義務づけ、電気主任技術者については、その義務を厳しく定めている
(同法第七四条、第五七条第一項)。同法の主任技術者に関する定めの内容は以上
に尽き、主法技術者と選任者である雇用者との雇用関係については格別の定めはな
い。したがって、同法の前示の目的及び規定の内容に照らすと、電気主任技術者が
前示工作物設置者である企業における職制上の地位として設けられ、その地位にあ
る者の雇用上の権利・義務の内容となるものではなく、このような地位を企業の職
制として設けるか、あるいは職制上設けられた地位にある者を選任してこれに充て
るかは、当該企業が自主的に決定できるものであるというべきである。また、保安
規程も、前示工作物設置者が、工作物の維持運用等の安全確保についての監督官庁
の監督の便宜を図る目的で監督官庁に対する提出を義務づけられているものであっ
て、直接には電気主任技術者本人と企業との間の権利・義務について定めるもので
はなく、右権利義務の内容は、特段の約定のない限り、各別に締結された労働契約
に従って定められることになる。
2 原本の存在及び成立につき争いのない甲第一号証、成立に争いのない甲第二な
いし第六号証、第七号証の一、二、乙第一号証、原審及び当審証人dの証言並びに原
審及び当審における控訴人本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 被控訴人は、昭和四七年ころ島田工場を開設し、昭和四八年五月ころから
生産を開始したが、同工場に、工場長の下に総務、会計、製造、品質管理の各課と
並んで機械設備及び電力等に関する業務を担当する工務課を設けた。そして、工務
課に電気係を置き、同工場受電設備の維持、保全及び改善、同工場内における電気
工事の立案、発注及び監督等の業務を担当させ、その統括者として電気係長を置い
ている。
(二) 被控訴人は、昭和四七年四月右開設に参加したeをとりあえず同工場の電気
主任技術者に任命したが、同人はなるべく早く本社に復帰させる必要に迫られてお
り、その後任として同工場の電気主任技術者に任命すべき適当な者が社内にいなか
ったので、緊急に同年一一月ころ社外から募集することにした。
 控訴人は、第二種電気主任技術者免状を取得しており、それを生かせる職場で働
きたいとの希望を持っていたので、これに応募し、昭和四八年三月一五日被控訴人
との間で同社生産部門における社員として採用するとの契約書を取り交わした。
 被控訴人は、右募集に際し、控訴人に対し、電気主任技術者を募集する旨明示
し、また、右契約書の作成後、採用後六か月間の試用期間を経て主任技術者に選任
する旨の通知もした。控訴人は、同年四月一日から島田工場で勤務し、同年六月こ
ろ同工場工務課電気係長の地位に就き、また、同工場電気主任技術者に選任され
た。
3 右事実によれば、島田工場の職制は、昭和四七年ころから昭和五七年五月一〇
日までの間、電気関係業務に関しては工場長の下に工務課長ー電気係長職を設け、
電気係長が工務課長を補佐して島田工場における電気関係業務の実質的責任者とな
っており、被控訴人は、電気主任技術者ないしこれに相当する独立の職制を設定せ
ず、電気事業法の求める電気主任技術者には電気係長を充てている。
 そうすると、控訴人は被控訴人との間の雇用上の権利・義務は、電気係長の地位
について定められており、控訴人は、電気係長として、その職務内容の一部となっ
ている電気主任技術者としての業務を負担していたものというべきである。
 なお、控訴人は、入社にあたり、電気主任技術者として採用するとの特別の合意
に基づいて雇用された旨の主張をし、前示のとおり、被控訴人は、電気主任技術者
を募集し、控訴人もそれに応募している。しかし、採用に際して取り交わされた契
約書には、生産部門における職員として採用すると定められているのであるから、
被控訴人の右募集内容は誘因にすぎず、電気主任技術者として採用することが雇用
契約の内容となっていたと解することはできない。
 前掲甲第一号証によれば、被控訴人が自ら作成した保安規程において電気主任技
術者の職務内容が定められていることが認められるが、その文理上からも、それは
その職務の執行上の権限を定めたものであって、控訴人の被控訴人に対する私法上
の権利を定めたものではない。控訴人は、電気主任技術者として、通常の中途採用
者に比較して高額の給与を与えられた旨主張し、控訴人の給与額がそのとおりであ
ったことは当事者間に争いがないが、前掲d証言によれば、被控訴会社においては、
電気主任技術者に見合う給与の定めがないことが認められ、控訴人に対する高額の
給与の支給は、前示の当時被控訴人において緊急に電気主任技術者を選任するため
の職員を採用せざるをえなかったという事情に基づくものであり、右d証言及び前掲
控訴人の供述によって認められる後示の本件解任後もそれ自体を理由とする給与の
減額はなかったこととを併せ考えると、右通常よりの高額分が電気主任技術者の職
務に見合って支給されることとなったものとは認め難い。
 そうであるとすれば、本件における控訴人の電気主任技術者の地位は、控訴人・
被控訴人間の雇用契約上の地位にあたるものではなく、また右地位に基づく控訴人
の私法上の権利と目すべきものを包含せず、いわば委任契約上の受任者に付与され
た代理権と同様なものとみられるから、右地位にあることの確認を求める控訴人の
請求は、権利保護の適格を欠くものであり、右訴は不適法として却下を免れないと
いうべきである。
二 工務課電気係長の地位確認について
1 請求原因1の事実、同2のうち控訴人が島田工場工務課電気係長として勤務し
ていたこと及び抗弁1の事実は当事者間に争いがない。
2 被控訴人は、本件移籍は被控訴人が企業経営者として従業員の同一事業所内で
の職種の変更について一般的に有する権限の行使であると主張するが、控訴人は後
示のとおり、監督者の地位を失うことに伴い、給与上も監督者手当等を失う不利益
を受けているから、被控訴人の右主張は肯認できないところ、被控訴人は、更に本
件移籍には合理的な理由が存すると主張するので、この点について判断する。
 前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第一八、一九号証、第三一号証の一、二、
乙第四号証、第五号証の一ないし五、前掲控訴人の供述により成立の認められる甲
第一七号証(原審における供述)、第一二八号証(当審における供述)、前掲d証言
(当審)により成立の認められる乙第六号証、弁論の全趣旨により成立の認められ
る乙第一九、二〇号証、第二八号証、前掲d証言並びに控訴人の各供述(後記採用し
ない部分を除く。)を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 被控訴会社は、島田工場において熱風乾燥方式によりインスタントコーヒ
ーを製造してきたが、凍結乾燥方式による製造方法の採用の必要に迫られ、昭和五
六年二月ころそのための生産設備を増設するために本社技術部直轄のパシフィック
プロジェクトチームが編成された。
(二) パシフィックプロジェクトチームは、fをリーダーとして島田工場とは別に
組織され、当初、本社に置かれていたが、同年一一月に島田工場に移転した。右プ
ロジェクトの電気部門の責任者には、aが任命された。aは、以前島田工場で電気技
術員として控訴人の下で勤務したこともあるが、その後霞ケ浦工場に転勤し、同工
場電気係長(兼電気主任技術者)、工務課長代理を歴任している(なお、同人は、
昭和五五年に新設備の計画・立案に関する知識習得の目的でスイスのネッスル総本
社に派遣されている。)。控訴人ら島田工場勤務者も右プロジェクトの応援を命ぜ
られて参加することになり、控訴人は、主として特高受電設備の増設を担当した。
したがって、控訴人は、従前の島田工場における既設電気設備の保安等の電気係長
の職務のほかに右プロジェクト関係の仕事もするようになった。右プロジェクトの
ための特高受電設備は、既設設備全部と同等程度の大規模のものであり、その増設
により島田工場の電気設備は倍増することになった。昭和五七年五月七日に右特高
受電設備が完成し、島田工場に引き渡されて保守、管理も島田工場で行うことにな
った。右プロジェクトは、昭和五八年三月ころに終了した。
(三) 右増設された特高受電設備の引渡による島田工場における業務量の増加に
伴って、被控訴人は、同年五月一〇日から電気部門を電気設備の保守、管理部門と
プロジェクト部門とに分割し、プロジェクト関係を担当する工務事務所の技術担当
員を増員し、電気設備部門には電気担当工務課長代理の地位を新設し、以上に伴う
人事異動を行うこととした。その発令に先立って、工場長は同年四月二八日に控訴
人を工場長室に呼び、b総務課長、d工務課長立会いのもとで、「パシフィックプロ
ジェクトにより業務量が増大したので、電気部門においても右プロジェクト部門と
電気設備の保守、管理部門とを分割したい。控訴人にはプロジェクト関係をやって
もらい、右保守、管理部門は他の人にやってもらう。」旨通告し、同年五月一〇日
aを島田工場工務課長代理(電気担当)に、控訴人を工務事務所勤務の電気技術員と
して右プロジェクト関係業務の担当者に、cを控訴人の後任の電気係長にそれぞれ任
命した。
 工務事務所は、島田工場開設当初から設置されているものであり、工務課長の所
轄のもと島田工場の機械設備に関し新規導入のための設計・工事、改善及び予算要
求等の業務を担当する技術員が所属しており、昭和五七年五月当時六名の技術員が
いたが、電気担当者はいなかった。控訴人が電気技術員に充てられたのち、更に電
気技術員を一名増員したほか、臨時に一名配置したことがあった。
(四) 控訴人は、本件移籍により、基本給与上の不利益を受けていないが、監督
者手当の支給はなくなり、旅費の支給に関しても一般職員としての取扱を受けてい
る。
 前掲控訴人の供述中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに
足りる証拠はない。
 なお、控訴人は、島田工場における業務量の増加について、プロジェクトないし
工務事務所における控訴人の超過勤務時間の増加のうち、前者は特高受電設備の試
運転が島田工場の休電日に行わざるをえなかったことによるものであり、後者は控
訴人の下に配置されていた部下職員三名を引き揚げられたことによるものであっ
て、業務量自体の増加はない旨供述するが、電気部門における規模の増大に伴う業
務量の増加状況は前示のとおりであり、右特高受電設備の試運転当時控訴人が平日
には全く仕事がなかったことを示す事跡はないのであるから、電気部門の業務量の
増加がないとは認め難い。
3 右事実によると、島田工場に新しい生産方式が導入され、それにより生産設備
が著しく拡大し、電気部門においても業務量が増加したのに伴い、被控訴人が同工
場の電気部門を分割し、また前示の新職種を設けたことは、業務量の増加に対処す
るための相当な措置であり、また、aを工務課長代理に任命したことについても、同
人の前示の職歴からすると特段の疑点はない。
 そうすると、本件移籍は、業務上の必要性に基づいて行われたというべきであ
り、また、前示の職務の内容及び給与の減額の事由及び程度に鑑みると、大幅な労
働条件の変更を伴う場合に該当するとも認め難い。なお、控訴人は、本件移籍によ
り監督者手当を失い、また、旅費手当の支給についても一般職員として遇されるこ
とになり、不利益を被ったことになる。しかし、監督者手当等は、監督職である係
長職にある者に対する特別の手当であり、後示のとおり本件移籍は不当労働行為に
該当しないから、右不利益は業務上必要な移籍に伴うものとして控訴人は甘受しな
ければならない。
 また本件移籍は、電気係長の地位が前示のとおり相対的に低下したことを考える
と、明らかに降格であるとも認め難く、控訴人は、本件移籍により昇進の機会を失
い、新しい知識、技術の取得もできなくなったとも主張するが、右昇進の機会とか
知識、技術の取得は、電気係長職の対価ではなく、その業務の執行の際の事実上の
反射的利益にすぎないから、仮にこれを失ったからといって、本件移籍に伴う法律
上の不利益ということはできない(職能給制度の導入により、控訴人主張の不利益
が生ずるとしても、それは本件移籍により直接被ったものとはいえない。)。
4 そこで、本件移籍は不当労働行為に当たり無効であるとの控訴人の再抗弁につ
いて検討する。
(一) 前示のとおり控訴人は、本件移籍により監督者手当等を失い、不利益を被
ったことになる。
(二) 控訴人が、昭和四九年九月から昭和五〇年九月までの間、ネッスル日本労
働組合島田支部副委員長、同月から昭和五五年九月まで島田支部委員長兼ネッスル
労組本部執行委員であったことは当事者間に争いがない。
 成立に争いのない甲第四八号証、第四九号証の一、二、第五一ないし第五三号
証、第五八号証、乙第一八号証、原審証人gの証言により成立の認められる甲第四
四、四五号証、同証言及び前掲控訴人の供述によると、次の事実が認められる。
(1) 右組合は被控訴人の従業員により結成された労働組合であるが、昭和四七
年ころから賃上げ・労災闘争を通じて同盟罷業を行う等被控訴人との間に対立関係
が発生し、被控訴人も労働組合対策を講ずるようになり、昭和五三年以降組合から
被控訴人に対する不当労働行為を理由とする労働委員会への救済申立や訴の提起が
頻発するようになった。
(2) 昭和五六年ころから労使協調路線を支持し、組合本部執行部に対し批判的
な組合員が増加し、同年開催された第一六回全国大会において、本部役員選挙で対
立候補を擁して争う姿勢を示すに至った。当時の本部執行部は、被控訴人の介入に
よるものと反発して被控訴人との闘争を呼び掛け、本部執行部及びそれを支持する
組合員との被控訴人の支持を受けた協調路線を支持する組合員との対立も激化して
いった。
(3) 昭和五七年度の本部役員選挙に際し、本部執行委員長に闘争路線を主張し
て現職のhが、協調路線を主張してiがそれぞれ立候補したが、本部執行委員長及び
全国大会代議員の選出を巡って両派に紛争が生じ、同年一一月ころ事実上分裂し、
昭和五八年一月までに両派とも独自の組合活動を行うに至った(以下、闘争路線を
支持する派を「第一組合」といい、協調路線を支持する派を「第二組合」とい
う。)。
(4) 島田支部も、昭和五七年度の支部大会の開催を巡って両派に紛争が生じ、
それぞれ独自に支部大会を開催して第一組合と第二組合とに分裂した。控訴人は、
第一組合に所属し、その組合員の立場で行動してきた。
(三) 右事実によると、控訴人は、昭和五〇年九月から昭和五五年九月までの間
島田支部委員長の地位にあり、組合の分裂後は被控訴人との闘争を主張する第一組
合に所属しているが、組合内部の対立・抗争が顕在化してきた昭和五六年ころに
は、既に労働組合役員の地位から退いており、また、本件移籍は同一工場内におけ
る移籍であるから、控訴人の組合活動についての場所的不便を生じていない。
 本件移籍が被控訴会社の組織変更の必要性に伴うものであり、右組合内部及び被
控訴人と第一組合との間の抗争における控訴人の役割及び控訴人の組合活動の利便
を併せ考えると、特に被控訴人が、控訴人に対する不利益処分をするために組織を
変更し、本件移籍を強行したとは認め難いものであり、結局、本件移籍が、控訴人
が組合活動をしたことを原因として行われたと認めるに足りる証拠はないといわざ
るを得ない。
 なお、前掲控訴人の供述によると、①控訴人が、工場長から昭和五六年一二月一
四日、社長の批判はやめるように注意されたこと、②昭和五七年一月広田工場への
転勤を打診されたことが認められるが、工場長は、社長批判をやめるように注意し
たにとどまり、また転勤の申入れも控訴人が拒絶すると直ちに撤回されており、こ
れらをもって本件移籍が組合活動によるものであると推認することはできない。
 したがって、本件移籍は有効であり、控訴人の前記請求は理由がない。
三 以上の次第により、控訴人の電気主任技術者の地位の確認を求める訴は不適法
として却下し、電気係長の地位の確認請求は棄却すべきである。よって、前者につ
いてこれと異なる原判決の右部分を取り消し、後者についてはこれを棄却した原判
決は相当であり、右に係る本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負
担について民事訴訟法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 丹野達 加茂紀久男 新城雅夫)

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