弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人Aに対し,557万3759円及び内100万2175円に対す
る昭和53年12月8日から,内457万1584円に対する昭和57年7月15日か
ら各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被控訴人は,控訴人Bに対し,100万5104円及び内18万0720円に対するF
昭和53年12月8日から,内82万4384円に対する昭和57年7月15日から各
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被控訴人は,控訴人Cに対し,100万5104円及び内18万0720円に対する
昭和53年12月8日から,内82万4384円に対する昭和57年7月15日から各
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被控訴人は,控訴人Dに対し,100万5104円及び内18万0720円に対する
昭和53年12月8日から,内82万4384円に対する昭和57年7月15日から各
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6被控訴人は,控訴人Eに対し,54万8238円及び内9万8575円に対する昭和
53年12月8日から,内44万9663円に対する昭和57年7月15日から各支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
8仮執行宣言
第2附帯控訴の趣旨
1原判決中被控訴人敗訴部分をいずれも取り消す。
2上記部分に係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも控訴人らの負担とする。
第3原判決(主文)の表示
1被控訴人は,控訴人Aに対し,14万0739円及びこれに対する昭和57年7月1
5日から完済まで年5分の割合による金銭を支払え。
2被控訴人は,控訴人Bに対し,2万5379円及びこれに対する昭和57年7月15
日から完済まで年5分の割合による金銭を支払え。
3被控訴人は,控訴人Cに対し,2万5379円及びこれに対する昭和57年7月15
日から完済まで年5分の割合による金銭を支払え。
4被控訴人は,控訴人Dに対し,2万5379円及びこれに対する昭和57年7月15
日から完済まで年5分の割合による金銭を支払え。
5被控訴人は,控訴人Eに対し,1万3843円及びこれに対する昭和57年7月15
日から完済まで年5分の割合による金銭を支払え。
6控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,これを10分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人らの負
担とする。
8この判決は,上記1ないし5に限り,仮に執行することができる。
第4事案の概要
1本件は,控訴人らにおいて,土地区画整理法に基づく藤沢都市計画α地区土地区画整
理事業(本件区画整理事業)の施行者である被控訴人の公権力の行使に当たる公務員で
ある藤沢市長が,控訴人らの所有する宅地につき換地処分を行うについて,故意又は過
失により清算金の算定を誤り,これによって違法に損害を受けたなどと主張して,被控
訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めている事案である。
2本件における基礎となる事実は,原判決の「事実及び理由」の「第3基礎となる事
実(原判決3ページ11行目から同5ページ22行目まで)に摘示するとおりであり,」
本件の主たる争点は(1)被控訴人が控訴人らに対し,昭和53年11月8日になした,
換地処分(本件換地処分)中の清算金の算定に違法があるかどうか(2)公権力の行使,
に当たった公務員である藤沢市長に故意又は過失があるかどうか(3)控訴人らの損害,
の有無及びその額(4)控訴人らの損害賠償請求権が被控訴人のした時効の援用によっ,
て消滅したか否かにあるところ,争点に関する当事者双方の主張は,当審において下記
3及び4のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第5争点に関する
当事者の主張(原判決6ページ6行目から同10ページ17行目まで,同11ページ7」
行目の「原告らは」から同13ページ12行目まで及び同ページ24行目から同16ペ,
ージ3行目まで)に摘示するとおりであるから,これを引用する。
原判決は,上記争点(1)について,本件区画整理事業の施行区域内の都市計画道路
(本件都市計画道路)は,本件区画整理事業の施行によって初めて実現するものであっ
て,開設ないし拡幅された道路の利用等の便益を享受することができるのは,従前地で
はなく,専ら本件区画整理事業施行後の宅地としての換地であるというべきであるから,
本件都市計画道路が計画されているということを従前地の評価において考慮し,その価
格の加算要因とすることは,合理性を欠くものといわなければならず,清算金の算定に
当たって,控訴人らを一部の従前地所有者と比べて合理的な理由なく不利に扱うことと
なる以上,被控訴人が本件区画整理事業の従前地の評価に当たって期待価加算をし,こ
れに基づいて本件換地清算金を算定したことは違法というべきであると判断し,また,
従前地の評価について,本件従前地の1平方メートル当たりの評定指数の算出の過程に
おいて,本件前面隣接地それ自体に係る評価に用いられた値と異なる面積及び評定指数
の数値を用いたことについては合理的な理由がないところ,本件の証拠関係上,本件従
前地の1平方メートル当たりの評定指数の算出の過程において,本件前面隣接地それ自
体の評価における面積及び評定指数の数値より大きい数値を採用することについての合
理的な根拠は見出せないから,本件従前地の1平方メートル当たりの評定指数は,合理
的な理由がないのに控訴人らに不利益な方法により算定されたものというべきであり,
したがってまた,被控訴人がした本件従前地の評価も,合理的な理由がないのに控訴人
らに不利益な方法により行われたものといわざるを得ないから,被控訴人がこれに基づ
いて本件換地清算金を算定したことは違法というべきであると判断し,上記争点(2)
については,上記のとおり本件換地処分中の清算金の算定部分は違法であると認められ
るところ,上記の違法事由は,いずれも,土地区画整理事業の性質に照らして不合理な
宅地の評価方法を用いたことによるものであるから,本件区画整理事業の施行者である
被控訴人の代表者として本件換地処分の職務執行に当った藤沢市長には,過失があると
いうべきであると判断し,上記争点(3)のうち,当審において被控訴人の同意の下に
控訴人らが訴えを取り下げた主位的請求に係る損害に関する主張すなわち違法な本件換
地処分により本件従前地と本件換地の面積の差に相当する宅地を失ったなどとして,こ
の減少分に相当する宅地の時価が損害であるとの控訴人らの主位的主張については,控
訴人らの主張する本件換地処分の違法事由は本件換地処分の過程における本件従前地の
評定指数の算定の誤りであるところ,これと相当因果関係のある損害は,このような誤
りがなければ得られたであろう経済的利益を取得できなかったという損失であるとして,
主位的主張を排斥し,また,被控訴人の違法行為により控訴人らの保留地(本件保留地)
を不当に買い取らされたとの控訴人らの主張については,土地区画整理事業における保
留地の制度的位置付けや,本件保留地の売買が契約締結当時の時価相当額による任意の
ものであることに照らせば,本件保留地の売買代金等をもって,本件換地清算金の算定
の誤りと相当因果関係のある控訴人らの損害と認めることは困難と判断し,その上違法
な本件換地清算金の算定により控訴人らに生じた損害の額として,23万0720円を
認定し,慰謝料の請求については,違法な本件換地清算金の算定によって受けた財産的
損害の賠償を得てもなお填補されないような特別の精神的損害を被ったものと認めるに
足りる証拠はないと判断し,上記争点(4)については,控訴人らが違法な本件換地清
算金の算定による損害の発生を知ったのは,本件裁決がされた平成13年3月30日以
後のことというべきであり,控訴人らは,平成14年6月18日に本件訴訟を提起する
ことによって被控訴人に対して損害の賠償を請求したものであるから,本件損害賠償請
求権が時効によって消滅したものということはできないと判断し,結局,控訴人らの各
請求のうち,上記認定の23万0720円の損害に係る控訴人ら各自の損害金として,
前記の「原判決(主文)の表示」記載の各損害金元金とこれらに対する本件換地処分の
翌日である昭和57年7月15日から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却したので,控訴人
らが控訴し,被控訴人が附帯控訴した。
3当審における控訴人らの主張
(1)保留地の売買について
評定指数5880個の不足と清算金とは原因が全く異なる。
5880個の不足は,被控訴人が照応の原則に違反し,本件従前地の地形を悪化さ
,,,せ地積を減少し道路影響の不加算等により不当かつ誤った評価をしたことにより
控訴人らに交付されるべき換地権利指数自体が不足したものであり,権利者相互間の
調整を目的とする清算金(いわゆる横の関係)とは異なり,控訴人らと被控訴人との
間(いわゆる縦の関係)に直接発生した不足である。
換地は本来土地として交付されるべきものであり,5880個の不足は土地そのも
のの不足というべきである。5880個の不足がなければ,その分より広い換地が定
められたはずである。本件保留地17平方メートルについて,被控訴人はこれを指数
3160個と評定し,控訴人らに買い取らせたのである。この3160個の評定指数
については,被控訴人自ら作成した各筆評定指数計算書(乙20)に,明記されてい
る。したがって,被控訴人の故意・過失により生じた5880個の不足がなければ,
本件保留地の買い取りの必要など全く生じなかったものであり,本件保留地は,本来
当然に換地して控訴人らに交付されるべき土地であった。
(2)清算金の不足の損害について
控訴人らが問題とし,主張しているのは,違法な評価により生じた5880個の不
足は,その分に相当する土地の不足であり,したがって,本来土地で交付されるべき
であった5880個に相当する土地の損害である。
そして,土地の損害は時価で算定されるべきである。本件土地の時価は1坪当たり
120万円,1平方メートル当たり36万3600円は下らない。そして,換地処分
当時の本件換地周辺土地の指数は1平方メートル指数180個であるので,指数1個
の単価は36万3600円÷180=2020円となる。
したがって,その損害額は,5880個から保留地分3160個を差し引いた27
20個×2020円=549万4400円となる。
(3)慰謝料について
控訴人らは,昭和37年7月10日の本件土地区画整理事業仮換地設計原案の縦覧
開始以来,平成13年3月30日の本件裁決,そして今日に至るまで40年以上の長
きにわたり,被控訴人の不当かつ違法な行政処分に苦しめられてきたものであり,そ
の間の精神的苦痛,さらには経済的損失は,甚大なものであったことは明白である。
(4)被控訴人の主張する影響修正加算(被控訴人は,原審においてこれを「期待価加
算」と表現したが,当審において「影響修正加算」と表現する旨その表記を変更する
ので,以下これに従い「影響修正加算」という)の合理性に対して,。
被控訴人は,控訴人らの本件従前地につき影響修正加算がされないことにより控訴
人らが不利益を被ることはなく,影響修正加算には合理性がある旨主張する。
しかしながら,限定された土地区画整理事業区域の従前の宅地評価(本件では総指
数120,134,259個)において,一部権利者に影響修正加算を行えば,その
者は利益を得る反面,影響修正加算されなかった者は,相対的に,すなわち,前者が
受けた利益が後者の不利益となるという関係となり,後者がその分だけ損害を被るこ
とは明白である。
本件では,影響修正加算の対象となった従前宅地の指数は整理前総指数の22.8
パーセントにも及び,影響修正加算された宅地の指数は12パーセントも嵩上げされ
ており,その分だけ加算されなかった権利者を不利にしているのであり,裁決書が述
べるとおり「歪んだ評価」である。裁決書もこの点を指摘して,本件影響修正加算は,
合理性を欠くと判断したものであって,被控訴人の主張は理由がない。
また,被控訴人は,控訴人らは都市基盤整備によって多大な利益を受けていると主
。,,張するしかしながら事業による利益を享受するのはひとり控訴人らだけではなく
事業施行地区内権利者全員が利益を受けるのである。したがって,影響修正加算の対
象となった権利者は,加算と都市基盤整備により,いわば二重の利益を受けることに
なり,まさに,不合理,不均衡といわねばならない。乙40が例として引用する株式
会社Fの路線価は,整理前の路線価130に対し,整理後は255と約2倍に上昇す
るのに対し,控訴人らの土地は約70パーセント上昇するにとどまっている。
被控訴人は,影響修正加算の根拠として「影響面積」部分の土地権利者の地積が狭,
小となる不利益,不均衡を是正するためであると主張して,乙40において,上記株
式会社Fのケースを引用する。しかし,単なる減歩率の比較,提示は,換地前と換地
後の各評価及びその計算,地形,面積等すべての資料が明示されなければ,単なる数
字の羅列であり,無意味である。また,前述のとおり,一部権利者に対する影響修正
加算が不合理,違法なものであり,地積狭小を救済するために加算するのは本末転倒
の理屈である。地積狭小を救済するのであれば,保留地を付けて随意契約で買い取ら
せる,又は,地形を大きくして清算金で調整するなどの方法によるべきである。
(5)被控訴人の本件従前地の評価の主張について
被控訴人は,本件従前地の評価の誤りは,計測,測量担当者の技術上の個人差の誤
差であり,避けられないものである旨主張する。
しかし,同主張は,被控訴人の過ちを糊塗しようとする弁解にすぎない。本件従前
地の評価は,本件従前地と本件前面隣接地(株式会社G銀行所有地)の併せた画地か
ら,本件前面隣接地の面積及び指数を控除する方法により行われているが,その計算
及び評価に誤りがあったことは,既に控訴人らの主張しているところである。すなわ
ち,本件前面隣接地の面積について,被控訴人は,甲13で288.03平方メート
ル,甲15で288平方メートル,甲22で366.66平方メートル,甲14で3
73.73平方メートルと計測している。被控訴人の測量した現況図(甲15)と換
地評価の基準となった調整公図(甲14)とでは,本件前面隣接地の面積は85.7
3平方メートル,23パーセントも過大に計算されている。到底計測上の微差,誤差
といえる数字ではない。また,被控訴人は,本件計測では縮尺600分の1のスケー
ルを使用し,縮小された距離を一目盛0.5メートルに換算して刻んだ目盛板を有す
る計測具で計測する旨述べているが,本件で提出された被控訴人作成の各種図面に表
示された距離はいずれも10センチメートル単位まで示されているが,いったい50
センチメートル一目盛の計測具でどのような計測をしたのか,甚だ疑問である。
4当審における被控訴人の主張
(1)従前地に係る影響修正加算(被控訴人が原審において「期待価加算」と表現した
,「」。)評価指数の加算方式を被控訴人としては当審において影響修正加算と表現する
の合理性について
本件事業における換地の設計方法は,多くの施行者が採用している評価式を採用し
ているが,従前地に係る影響修正加算の合理性は,価格的に適当しても,この評価式
において地積的に不均衡が生じることが多いなどの指摘されている問題点を是正する
効果に求められる。
本件土地評価基準23条2号が「特別な扱いとする従前地」として,この影響修,()
正加算を定めているのは,都市計画道路の築造によって,事業施行地区内権利者が都
市基盤整備によって総体的に事業による多大の利益を受ける(本件事業でいえば,控
訴人らはこの利益を受ける)反面,土地評価において都市計画道路の影響を受ける従。
前地,すなわち「影響面積(土地評価基準細則3条2号)部分を所有する土地権利,」
者(控訴人らは,この土地権利者に該当しない)は,換地面積が価格的に適当しても。
(。),地積的に狭小となる減歩割合が大きくなる不利益を受ける不均衡を是正するため
都市計画道路築造により利益を受ける権利者と不利益を受ける権利者(影響面積部分
の所有者)との間の利害の調整を図るための事業施行者(代表者市長)の行政裁量の
範囲内の措置であると解される。してみれば,影響修正加算の対象とならない権利者
(控訴人らはこれに該当する)は,この影響加算を受けることがないから,不利益を。
被るという関係にはない。
以上の影響修正加算の合理性を,その対象となった場合についてみると,影響修正
を行わないとその減歩割合は40パーセントを超える程の不均衡となる事例も,いわ
.,ゆる平均減歩率の2111パーセントに近い24パーセントまで不均衡が是正され
一方,控訴人らの減歩割合は,都市計画道路築造による都市基盤整備による総体的な
宅地利用増進の利益を享受しながら,17.94パーセントと,いわゆる平均減歩率
21.11パーセントより低い数値となっているのである。
したがって,控訴人らの,本件従前地につき影響修正加算のされないことにより控
訴人らは不利益を受けるとの主張には理由がない。
(2)本件従前地の評価について
本件従前地(3筆合併評価)に係る「各筆評定指数計算書(乙35)に記載の図面」
中4の部分と本件前面隣接地地番2345−9の各筆評定指数計算書甲(),()「」(
22)に記載の図面中(1)及び(2)の部分とは,その面積と評定指数に異なる数
値が用いられている点については,これらの両指数計算書における図面は,いずれも
縮尺600分の1の「調整公図(甲13)から透写(原図を下敷きにした薄紙上に透」
視して転写する)し,この透写した図面上で三角スケール(縮尺600分の1から1。
00分の1までの縮尺があり,600分の1の場合,縮小された距離を一目盛0.5
メートルに換算して刻んだ三面の目盛板を有する物指といえる計測具で,測量等に従
),事する技術者が携帯するものを用いて図上計測・図面三斜測量の作業をする過程で
従事する者の技術上の個人差による微差の生じることは避けられず,こうした作業結
果に本件のような差異が生じることはやむを得ないところである。
控訴人らは,同一の調整公図を用いながら異なる評定指数を用いることについて合
理的な理由を見出すことは困難である旨主張するけれども,上記で述べたとおり,6
00分の1に縮尺の「調整公図」からの透写図面上の三角スケールによる図上計測に
あっては,実務経験則上このような差異の生じることは,誤差として避けられない結
。,,果である本件従前地の画地評価において異なる数値が算定された原因は基本的に
異なる測定対象を複数の担当者が分担したことによる作業技術上の微差が評価上の数
値の差異となって表れたものである。
本件従前地の評価においては,上記の差のある面積及び評定指数の数値のうち,控
訴人らに不利益となる「大きい数値」を採用することに合理的根拠を見出せないとす
る見解については,控訴人ら所有の本件従前地と株式会社G銀行所有の本件前面隣接
,地というそれぞれ別個の換地処分の客体である従前地に係る指数の評定作業において
異なる数値(異なる数値のうち本件従前地に係る数値は,次に述べるように,評定作
業の過程において評価の技術上の理由から算出されたものである)が算出されたとし。
ても(両従前地に係るそれぞれの評定において,次に述べる評価過程の結果算出され
たものであるから,このような評価過程を経ない本件前面隣接地と同一数値が算出さ
れなければならないとする必然性はない,別個の客体(本件前面隣接地)の評定に。)
おける数値と比較して「大きい数値」を「採用する」ことによって,控訴人らに不利,
益を与えるということもないのである。
本件従前地の評価計算の概要は,次のとおりである。すなわち,本件従前地は,北
側道路から宅地全体を利用しているためβ××××−1,××××−8,××××−
22の3筆を一の画地とみなして合併評価を行っている。また,形状が裏返しのL型
であることから,前面隣接の株式会社G銀行所有地である××××−9(本件前面隣
接地)を併せて普通地(土地評価基準10条1項(1)として,宅地の面する北側道)
路に付された路線価から宅地の奥行きによる逓減を行い,宅地の一部に不整形地,高
低差があるのでその修正を行って算出された計算指数から隣接地の計算指数を差し引
き,図上面積で除して計算単指数を求め,この計算単指数に各筆の地積を乗じて,本
件従前地の指数を求めている。
(3)藤沢市長による本件土地評価基準及び同基準細則の定立及び執行(従前地の評価
作業を含む)については,そのいずれもが,本件事業の遂行上必要とされる権利者間。
の均衡保持に必要な合理性追求のための行政裁量の範囲内のもので,本件事業の施行
者代表者市長が過失責任を,したがって,被控訴人がこれを理由として損害賠償責任
を問われることはない。
(4)消滅時効の要件である損害を知るとは,必ずしも損害の程度又は数額を知ること
を要しないが,損害の発生した事実は知らなければならないのであるから,控訴人ら
の昭和57年7月29日付け審査請求書甲19の1によれば清算金額は不(),「」,「
均衡を是正するにたりる額ではない」としていることからすれば,昭和57年7月2
9日の審査請求の時点において,損害の発生した事実を知っていたものであり,控訴
,,人らが清算金の算定に係る違法事由の主張が明示的になされていなくてもすなわち
損害の程度又は数額は主張されていなくても,損害の発生を知ることにより,消滅時
効は成立しているのである。
5証拠関係
証拠関係は,原審及び当審訴訟記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
第5当裁判所の判断
1当裁判所も,本件換地処分の清算金の算定において,被控訴人代表者市長の過失によ
り,控訴人らに違法に損害を与えたものであり,控訴人らの本件請求は,原判決の認容
した限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。そのように判断する理由
は,下記2ないし9のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第6当
裁判所の判断」の第1項ないし第5項(原判決16ページ5行目から同23ページ17
行目まで,同24ページ9行目から同30ページ13行目まで)に説示するとおりであ
るから,これを引用する。
2(1)被控訴人は,従前地に係る影響修正加算(原審における期待価加算)の合理性
について,本件事業における換地の設計方法は,多くの施行者が採用している評価式
,,,を採用しているが影響修正加算はその問題点を是正する効果を有するものであり
影響修正加算の対象とならない権利者(控訴人ら)は,この影響加算を受けることが
ないから,不利益を被るという関係にはなく,都市計画道路築造により利益を受ける
権利者と不利益を受ける権利者との間の利害の調整を図るための事業施行者(代表者
市長)の行政裁量の範囲内の措置であると主張する。
(2)しかしながら,原判決も適切に説示するとおり,土地区画整理事業において従
前地及び換地の価格をそれぞれ算定するのは,当該事業の施行の前後におけるそれぞ
れの宅地の価格を評価することにより,換地処分における換地と従前地との照応を図
りつつ,適正な清算金の額を算出するためであるから,専ら事業が施行された後の換
地の価格に対して影響を与える事情を,従前地の評価において考慮することはおよそ
合理性を欠くというべきである。そして,本件都市計画道路のうち本件区画整理事業
の施工区域内の部分は,本件区画整理事業の施行(すなわち,その道路敷地である土
地についての区画整理,減歩等による用地確保など)によって初めて開設ないし拡幅
されたものであって,このように開設ないし拡幅された本件都市計画道路の利用等の
便益を享受できるのは,従前地というよりも,むしろ本件区画整理事業後の換地であ
ると認められるのであるから,本件都市計画道路が計画されているということに対す
る期待ないしそのような計画があることが従前地に及ぶ影響を,従前地に対する評価
において考慮し,加算要因とすることは,合理性を欠くものというほかない。
(3)また,被控訴人は,影響修正加算の対象とならない権利者(控訴人らを含む)。
は,この影響加算を受けることがないから,不利益を被るという関係にはないと主張
するけれども,影響修正加算の対象とされた権利者は,その加算の対象とされなかっ
た権利者に比して,従前地の評価上,ひいては清算金の算定上,合理的な理由なく,
相対的に有利に扱われ,その加算の対象とされなかった権利者は,同じく合理的な理
由なく,相対的に不利に扱われることになるといわざるを得ず,被控訴人の主張は,
到底採用することができない。
(4)さらに,被控訴人は,かかる影響修正加算は,都市計画道路築造により利益を
受ける権利者と不利益を受ける権利者との間の利害の調整を図るための事業施行者代(
表者市長)の行政裁量の範囲内の措置であるとも主張する。
しかしながら,土地区画整理事業の遂行上,換地の決定,保留地の決定,清算金の
算定等において,施行者に合理的な範囲で,裁量が認められるとしても,専ら事業が
施行された後の換地の価格に対して影響を与える事情を,従前地の評価において考慮
することは,前述のとおり,およそ合理性を欠くというべきであって,施行者に認め
られる裁量権の範囲を超えるものというべきである。
被控訴人は,減歩割合の大きい権利者の不利益を調整する必要性をも主張するけれ
ども,かかる調整を,換地後の事情を清算金算定における加算要素として考慮する方
法により行うことは,清算金の趣旨にそぐわない疑いが濃いところというべきであっ
て,その合理性は,多大の疑問を払拭しきれない。
3(1)被控訴人は,本件従前地の評価において,本件前面隣接地の評価における面積
,,及び評定指数と異なる数値を用いたことについて別個の換地処分の客体であるから
本件前面隣接地の評価の場合と異なる数値を用いても,控訴人らに不利益を与えるも
,,,のではないとか控訴人らの本件従前地の評価は適正になされているとかあるいは
作業技術上の誤差の範囲であるなどと主張する。
(2)しかしながら,控訴人らの本件従前地の評価においては,本件従前地及び本件
前面隣接地を併せた画地の図上の評定指数の合計値から本件前面隣接地の図上の評定
指数を控除することによって,本件従前地の図上の評定指数を算出し,これを図上で
求積した本件従前地の面積で除するという方法を採用しながら,同一の調整公図を用
いて,本件前面隣接地の評価においては,同一の土地の面積について異なる数値を用
い,計算指数も逓減された数値を用いることには,合理性を認め難いものであり,よ
り大きな面積及び計算指数を控除されたことにより不利益を受けたとする控訴人らの
主張は,当を得たものといわざるを得ず,その不利益を受けたことは,否定し難いと
ころというべきである。
被控訴人は,面積等の相違は,作業技術上の誤差の範囲内であると主張するけれど
も,同一の調整公図を用い,控訴人らの本件従前地の評価における面積及び計算指数
と異なる数値を用いること自体に合理性がないというべきであり,数値自体を比較し
て作業技術上の誤差の範囲の問題として理解することは到底相当ということはできな
い。
4(1)被控訴人は,藤沢市長による本件土地評価基準及び同基準細則の定立及び執行
(従前地の評価作業を含む)については,そのいずれもが,本件事業の遂行上必要と。
される権利者間の均衡保持に必要な合理性追求のための行政裁量の範囲内のもので,
本件事業の施行者代表者市長が過失責任を負うことはなく,したがって,被控訴人が
これを理由として損害賠償責任を問われることはない旨主張する。
(2)なるほど,土地区画整理事業の遂行上,その施行者には,合理的理由がある範
囲で,権利者間の均衡保持に必要な合理性追求のために,換地の方法,土地の評価方
法,清算金の算定方法等において,合理的な範囲で裁量権を有するとはいえよう。
しかしながら,前示の影響修正加算及び従前地の評価方法等,本件における清算金
の算定は,施行者に与えられたそのような裁量権の範囲を超えるものというべきであ
り,その違法の内容・態様・結果等にかんがみると,本件区画整理事業の施行者は,
職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とかかる行為をしたものと評す
べきであり,国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されてもやむを得ないものとい
うべきである。
5(1)被控訴人は,控訴人らは,昭和57年7月29日の審査請求の時点において,損
害の発生した事実を知っていたから,清算金の算定に係る違法事由の主張が明示的に
なされていなくても,すなわち,損害の程度又は数額は主張されていなくても,損害
の発生を知ることにより,消滅時効は成立している旨主張する。
(2)しかしながら,前記引用に係る原判決の説示するとおり,控訴人らは,本件裁
決が,従前の宅地の評価方法や本件従前地の評価方法に誤りがあることや正しい清算
金の額を認定したことにより,賠償請求が可能な程度にその損害の発生を認識したと
認めるのが相当であり,そうすると,本件裁決がされた時点から,消滅時効は進行す
るものと解され,平成14年6月18日の本訴提起の時点では,消滅時効は完成して
いないというべきであるから,被控訴人の主張は理由がない。
6(1)控訴人らは,換地は,本来土地として交付されるべきものであり,本件保留地
は,本来当然に換地して控訴人らに交付されるべき土地であり,控訴人らは,被控訴
人の違法行為により,本件保留地を不当に買い取らされたから,その売買代金等を損
害として賠償すべきである旨,重ねて主張する。
(2)しかしながら,前記引用に係る原判決の認定・説示するとおり,土地区画整理
事業における保留地は,事業の施行の費用に充てるために定めるものであり,その位
置,形状,地積等は施行者の合目的的な裁量によって定めることができる性質のもの
であって,また,本件保留地も,契約締結当時の時価相当額により任意の契約により
取り引きされた経緯が認められることなどにかんがみると,本件保留地の売買代金等
が,本件換地清算金の算定の誤りと相当因果関係のある損害と認めることは困難であ
るほか,控訴人らの主張する評定指数の不足と相当因果関係のある損害と認めること
も困難といわざるを得ないのであり,控訴人らの主張は,理由がない。
7(1)控訴人らは,被控訴人の違法な評価により,本来土地で交付されるべきであっ
た5880個に相当する土地の損害を被ったものであり,土地の損害は時価で算定さ
れるべきであるところ,本件土地の時価は1坪当たり120万円,1平方メートル当
たり36万3600円は下らないから,5880個から保留地分3160個を差し引
いた2720個×2020円=549万4400円の損害を受けたものであるから,
同額の清算金の不足という損害を受けている旨重ねて主張する。
(2)しかしながら,前記引用に係る原判決の認定・説示するとおり,大部分の仮換
地について従前地同様の使用収益が開始される段階である工事概成時の昭和44年を
基準時として,指数単価19.84円を求め,これに昭和44年から換地処分がなさ
,,れた昭和56年までの12年間について年6分の複利計算による時点修正を加えて
換地処分時における指数単価として算出した評定指数単価40円は,合理的なものと
いうべきであり,これに基づき,違法事由を是正して得た本件従前地の評定指数との
差5880個を乗じた23万5200円と本件換地処分によって控訴人らに交付され
ることとされた清算金4480円との差額である23万0720円の損害を控訴人ら
は受けたものと認めるのが相当である。
8(1)控訴人らは,昭和37年7月10日の本件土地区画整理事業仮換地設計原案の
縦覧開始以来,平成13年3月30日の本件裁決,そして今日に至るまで40年以上
,,の長きにわたり被控訴人の不当かつ違法な行政処分に苦しめられてきたものであり
その間の精神的苦痛,さらには経済的損失は,甚大なものであったことは明白である
と主張して,慰謝料を請求する。
(2)なるほど,本件審査請求の申立てから本件裁決まで,相当長期間経過している
ことは認められるけれども,本件訴訟の証拠関係及び弁論の全趣旨からしても,控訴
人らに,前記算定した適正な換地清算金に相当する損害の賠償をしても,なお填補さ
れないような特別の精神的損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。
9その他,控訴人ら及び被控訴人は,本訴請求の理由の有無についてるる主張するけれ
ども,いずれも上記認定・判断を左右するものではない。
第6結論
よって,控訴人らの本件請求は,原判決認容の限度で理由があり,その余は理由がな
いので,棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴及び本件附帯
控訴は,いずれも理由がないから,棄却することとし,控訴費用及び附帯控訴費用の負
担につき,民訴法67条1項,61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官雛形要松
裁判官浜秀樹
裁判官北澤純一

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