弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

判決 平成14年11月12日 神戸地方裁判所 平成14年(ワ)第428号 損
害賠償請求事件
            主         文
 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
   被告は,原告に対し,754万0100円及びこれに対する平成14年3月
14日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,別紙物件目録記載1の各土地(以下「本件土地」という。)及び同
目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を競落した原告が,阪神・淡路大
震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成11年法律第1
60号による改正前のもの。以下「震災特例法」という。)37条1項の適用を受
けることにより,本件建物の所有権の移転の登記については登録免許税が免除され
るにもかかわらず,主位的には当庁尼崎支部不動産競売係の書記官の,予備的には
神戸地方法務局東神戸出張所登記官の違法な公権力の行使により,本件建物の所有
権の移転の登記についても登録免許税を納付させられたと主張して,上記公務員ら
の属する被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,本件建物の所有権の移転の登
記に係る登録免許税の額に相当する損害金及び遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
 1 争いのない事実
(1) 原告は,当庁尼崎支部平成10年(ケ)第176号不動産競売事件に係る本
件土地及び本件建物について,同支部が実施した入札において,入札価額1億91
55万円で買受けの申出をした。
(2) 原告は,平成12年2月10日,保証金として3711万円を同支部宛に
振込送金した。
(3) 同支部は,同月24日,原告が最高価買受けの申出をしたとして,原告に
対し,売却許可決定をした。
(4) 同支部は,原告に対し,同年3月3日付けの代金納付期限通知書を送付し
た。同通知書には,①同年4月17日午前11時までに代金1億5444万円を納
付すべきであること,②注意事項として,a 注意1の欄には,代金納付時に用意
すべきものは,同通知書,代表者の資格を証する文書,不動産登記簿謄本,固定資
産評価証明書,印鑑であること,b 注意2の欄には,上記金額のほかに登録免許
税額に相当する印紙を同時に納付する必要があることがそれぞれ記載されている。
(5) 原告は,同月3日,同支部宛に1億5444万円を振込送金した。
(6) 原告は,その直後,同支部から,本件土地及び本件建物の登録免許税額を
記載した納付税計算書の交付を受けた。登録免許税額の内訳は,本件土地及び本件
建物の移転登記税額1083万7300円,本件土地及び本件建物の抹消登記税額
5000円で,その合計額は1084万2300円である。
(7) 原告は,芦屋税務署において,登録免許税額1084万2300円を納付
し,領収証書を受領した。
(8) 原告は,同支部に対し,上記領収証書を提出した。
(9) 同支部は,同月6日付けで,神戸地方法務局東神戸出張所に対し,本件土
地及び本件建物について,原告を登記権利者とする所有権移転登記並びに差押登記
及び抵当権設定登記の各抹消登記(以下「本件登記」という。)の嘱託をした。本
件登記の登記嘱託書(以下「本件嘱託書」という。)には,金1084万2300
円(移転登記分1083万7300円,抹消登記分5000円)と記載され,原告
が提出した領収証書が貼付されていた。
(10) 同支部不動産競売係の書記官及び同出張所登記官は,いずれも公権力を
行使する公務員である。
 2 争点
(1) 当庁尼崎支部不動産競売係の書記官の公権力の行使の違法性(過失)の有

(2) 神戸地方法務局東神戸出張所登記官の公権力の行使の違法性(過失)の有
無(予備的請求原因)
3 当事者の主張
(1) 当庁尼崎支部不動産競売係の書記官の公権力の行使の違法性(過失)の有
無(争点(1))について
(原告の主張)
当庁尼崎支部不動産競売係の書記官は,本件土地及び本件建物について神
戸地方法務局東神戸出張所登記官宛に登記嘱託をするに際し,本件建物が震災特例
法37条1項の登録免許税の免除規定の適用を受ける物件であることを本件嘱託書
に表示するか,又は登録免許税額を記載した文書に免除規定の適用を受けた税額を
表示すべき法的義務を負う(ただし,具体的な法的根拠はない。)のに,これを誤
って本件嘱託書にその旨を記載せず,その上,一般法である登録免許税法の税額1
084万2300円を表示し,震災特例法の免除規定を知らない原告をしてその登
録免許税額を納付させ,原告に対し,754万0100円の損害を与えたものであ
る。
(被告の主張)
ア 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員
が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を与え
たときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものであ
り,公権力の行使に当たる公務員の行為が同条項の適用上違法と評価されるために
は,当該公務員が損害賠償を求めている国民に対して個別の具体的な職務上の義務
を負担し,かつ,当該行為がその職務上の法的義務に違反してされた場合でなけれ
ばならないところ,法律による行政の原則からして違法性判断の基準となる公務員
の法的義務は,原則として法令の規定に基づかなければならないというべきであ
る。
しかるに,本件において,原告が主張するような注意義務については,
民事執行法や民事執行規則等の法令中にその根拠となるような規定が存しない。
加えて,震災特例法37条1項は,阪神・淡路大震災がもたらした被害
に着目し,その復興が急務であるとの認識のもと,これについての税制上の対応策
の一環として滅失した建物の再建を支援するとの趣旨から,大震災により滅失等し
た建物に代わるものとして取得する建物の所有権の保存登記等に対する免税措置を
定めたものであり,いわば,通常一般の納税者との公平を犠牲にしても,阪神・淡
路大震災により滅失等した建物の再建を支援して早期復興を図るという経済的政策
のために,例外的に登録免許税の免除という特典を付与しようというものであるこ
と,及びその免税制度の存在を広報ないし周知することは,不特定多数の被災者に
対する多量かつ継続的な性質を有することなども併せ考えると,原告の主張するよ
うな注意義務は国家賠償法上の違法性判断の基準となる公務員の法的義務たり得な
いというべきである。
イ さらに,本件競売事件担当職員には,本件免税規定の適用があるか否か
について,買受人からその旨の申出がない限り,原告が阪神・淡路大震災の被災者
であるか,同震災により滅失した建物又は損壊したため取り壊した建物に代わるも
のとして取得した建物であるかなど,免税規定の要件の具備の存否を知り得ない
上,同特例の周知のための手段として,当時,当庁尼崎支部不動産競売係では,代
金納付期限通知書を送付する際には,震災特例法による免税措置の説明が記載され
た「注意書」(乙2)を同封し(現在は,注意書を改め,またそれに加筆修正を加
えた「代金納付の手引き」を同通知書とともに送付している。),また,物件明細
書閲覧室において,震災特例法による免税措置を紹介する「登録免許税の特例のあ
らまし」(乙3)を2枚に分けて壁面1箇所に貼付していたのであり,通常,物件
購入希望者は,入札に当たって当該物件の情報を得るために,同室において物件明
細書,現況調査報告書及び評価書の写しを綴ったファイルを閲覧していることか
ら,通常の買受申出人が相応の注意をしていれば,免税措置の存在を知り得る程度
の広報はされていたといえ,原告も,同室の免税措置を紹介するパンフレットを見
て,同特例を知り得る状況にあったといえるところである。
ウ したがって,本件競売事件担当職員に過失はないというべきである。
(2) 神戸地方法務局東神戸出張所登記官の公権力の行使の違法性(過失)の有
無(予備的請求原因)(争点(2))について
(原告の主張)
ア 神戸地方法務局東神戸出張所登記官は,当庁尼崎支部から本件土地及び
本件建物について登記嘱託を受けた際,本件建物が震災特例法37条1項の登録免
許税の免除規定の適用を受ける物件であるか否かを知り又は知り得べき状況にあっ
たのであるから,これを調査し,登録免許税額が国税に関する法律に従ったもので
あるか否かを判断して,免除規定の適用を受けた税額を原告に通知する義務があっ
たのにこれを怠り,一般法である登録免許税法を正当な額として取り扱い,震災特
例法の免除規定を知らない原告をしてその登録免許税額1084万2300円を納
付させ,原告に対し,754万0100円の損害を与えたものである。
イ 同登記官は,登録免許税法26条1項に基づき,国税に関する法律であ
る震災特例法37条1項を適用すべきであるのに,これを誤り,一般法たる登録免
許税法31条1項3号を適用した点に過失がある。
(被告の主張)
ア 登記官の審査義務の範囲について(不動産登記法49条の解釈)
不動産登記法49条は,登記官が申請を却下すべき場合及び却下の手続
等を定めた規定であり,官公署からの登記の嘱託についても同条が適用される(同
法25条2項)。
同法49条は,登記の申請を却下すべき要件を1号から11号まで制限
的に列挙しているが,その趣旨は,登記簿に記載された登記はできる限り事実に合
致していることが望ましいという取引の安全の要請と,登記手続の渋滞を避けると
いう取引の迅速性の要請との調和にあるとされ,したがって,登記官は,提出され
た書面及び登記簿という書面によってのみ審査し,他の資料の提出を求めたり口頭
で審尋する等の権限は認められていない。しかも,却下すべき事項は制限的に列挙
され,この範囲でのみ審査が行われることとされている。
この結果,登記官は,提出すべきものとされている書面及び登記簿とい
う書面の書面審査により,同条各号に掲げる事由が存在すると認められる場合に限
って(10号を除く。)申請を却下することができると解されているのである(い
わゆる権利登記における形式的審査権,書面審査権)。
しかるに,本件嘱託書には,同法36条に規定されている事項が記載さ
れるとともに,同法35条等に規定する必要書類の添付もされ,登録免許税を国に
納付した領収証書も本件嘱託書に貼り付けてあり(同法49条9号関係),それら
の書面審査の結果,同条各号に掲げられた却下事由がなかったのであるから,神戸
地方法務局東神戸出張所登記官に同条の審査義務に基づく注意義務違反はない。
イ 本件は,登録免許税の課税標準等が国税に関する法律の規定に従ってい
ない場合ではなく,登録免許税法26条による通知を要する場面ではないこと
震災特例法37条1項は,以下に主張するとおり,登記申請時における
被災証明書の添付を免税要件としたものであるところ,原告は,本件登記申請に際
して震災特例法施行規則20条1項所定の書類の添付をしなかったのであるから,
「登録免許税の額が国税に関する法律の規定に従っていない」(登録免許税法26
条)場合ではない。
(ア) すなわち,震災特例法37条1項は,「阪神・淡路大震災の被災者
であって政令で定めるもの又はその者の相続人その他の政令で定める者が阪神・淡
路大震災により滅失した建物又は当該震災により損壊したため取り壊した建物に代
わるものとして新築又は取得をした建物で政令で定めるものの所有権の保存又は移
転の登記については,大蔵省令で定めるところにより平成7年4月1日から平成1
7年3月31日までの間に受けるものに限り,登録免許税を課さない。」と規定し
ている。
このように「登記については,大蔵省令で定めるところにより・・・
受けるものに限り」という表現をしていること,登録免許税の納税義務が登記の時
に成立し,納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定
することからすると,同規定は,同条項により登録免許税の免除が受けられるの
は,登録免許税が成立・確定する登記の時点で,大蔵省令で定める手続に従って受
ける登記であることを要する,すなわち,大蔵省令で定める手続に従った登記であ
ることを免税要件とすることを定めたものであることは明らかである。
(イ) なお,かかる大蔵省令への委任は,以下のとおり,租税法律主義に
も反しない。
a 震災特例法37条1項は,「登記については,大蔵省令で定めると
ころにより・・・受けるものに限り」と表現しているところ,書面主義が行われて
いる登記手続の中では,一定の書面の添付を予定していると考えられ,また,省令
は主として純粋に手続的事項の定めしか置かないのが通常であることからすると,
同条項の大蔵省令への委任は,一般的・白紙的に委任をしたものではなく,法律及
び委任を受けた政令の定める免税の実体的要件を証明すべき添付書類の内容の定め
に限り,大蔵省令に委任したものと解される。
すなわち,上記のとおり,不動産登記法上,登記官の登記申請書類
に対する審査は同法50条(表示登記の調査権)の場合を除いては提出書類の書面
審査であるとされており,登記における手続的課税要件としては,登記官の審査の
性質にかんがみると,せいぜい書類の添付ないしそれと同質のものしか想定できな
いところ,震災特例法37条1項の,「阪神・淡路大震災の被災者であって」,
「阪神・淡路大震災により滅失した建物又は当該震災により損壊したため取り壊し
た建物」との規定は,その規定ぶりからして,同条項の適用要件である「被災者で
あること」あるいは「被災を受けたこと」の要件を証明するための書類が要求され
るものであることを示しており,法律及び委任を受けた政令の定める免税の実体的
要件を証明すべき添付書類の内容の定めに限り,大蔵省令に委任したものと解され
るのである。
b この点,震災特例法施行規則20条1項により添付すべき証明書類
は,震災特例法の定める「阪神・淡路大震災の被災者」,震災特例法施行令(平成
13年政令第142号による改正前のもの。以下同じ。)29条1項に定める「阪
神・淡路大震災によりその所有する建物に被害を受けた者であることにつき,市長
から証明を受けた者」との要件を立証する書面であるから,同規則の定めは法律の
委任の範囲に属する合理性のある規定であり,有効である。
c なお,震災特例法37条1項は,免税の要件としての一定の書類の
添付を法律で定め,又はその書類の細目の定めを財務省令に委任する旨を定める規
定ぶりとは異なるが(登録免許税法4条2項,同法5条1項,租税特別措置法41
条8項参照),法律が手続的課税要件の内容を明文で規定までしていなくても,上
記のように,法律が委任内容を限定していると解される場合にはその範囲で定めら
れた省令は有効というべきである。
d また,震災特例法37条1項は,一定の書類の添付等をしない場合
には適用しない旨の明文の規定は置いていないが(租税特別措置法70条5項参
照),上記のとおり,震災特例法37条1項の規定ぶり及び登録免許税の納税義務
が登記の時に成立し,納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要し
ないで確定することからすると,同規定自体から,大蔵省令で定める手続に従った
登記であることを免税要件とすること,すなわち,登記手続上一定の書類を添付し
ない場合には免税の利益を失うことが読み取れるというべきである。
e したがって,震災特例法37条1項の大蔵省令への委任は,租税法
律主義に反しない。
(ウ) また,前記(1)(被告の主張)アの震災特例法37条1項の制度趣旨
を考慮すると,上記のとおり,同条項が手続的課税要件を定めるものとして,その
内容の定めを大蔵省令に委任したものであることが一義的に明らかである以上,不
当なものであるとはいえない。
(エ) 以上のとおり,同条項は,登記申請時における被災証明書の添付を
免税要件としたものであるところ,本件嘱託書には,震災特例法施行規則20条1
項所定の書類の添付がされていなかったのであるから,「登録免許税の額が国税に
関する法律の規定に従っていない」(登録免許税法26条)場合ではなく,通知義
務はないから,同登記官に注意義務違反はない。
ウ 本件は,原告の主張によっても過納の場合であり,登録免許税法26条
による通知を要する場面ではないこと
登記官の認定した登録免許税の課税標準等が,申請書に記載された登録
免許税の課税標準等の額より低い場合(過納)の場合であっても一応通知すべきも
のとも考えられるが,登録免許税法26条は2項において,不足の場合はその差額
を納付すべき旨の規定を置いて,過納の場合については触れていないから,過納の
場合については,同法31条の通知の処理で足りるものと解することができ(乙
6),この解釈に立てば,本件は原告の主張によっても過納であるから,同法26
条の通知を要しない。
エ 同登記官は,本件建物につき免税規定の適用の有無を知り得ないこと
登記官は,登録免許税の調査をするときに,震災特例法等の規定により
登録免許税が免除される被災証明書の添付があって初めて当該建物が震災特例法3
7条1項に該当する物件であることを知るのであり,同登記官は,免税規定の適用
があるか否かについて,申請者からその旨の申出がない限り(ましてや,本件は嘱
託による登記である。),原告が阪神・淡路大震災の被災者であるか,同震災によ
り滅失した建物又は損壊したため取り壊した建物に代わるものとして取得した建物
であるかなど,免税規定の要件の具備の存否を知り得なかったのであるから,登録
免許税法26条の調査における注意義務違反もない。
オ なお,同特例の周知のための手段として,当時,神戸地方法務局東神戸
出張所では,震災特例法による免税措置を紹介する「登記の申請をされる方へ 租
税特別措置法等をご存じですか」という張り紙を受付横の柱に貼付していたのであ
り(乙7),通常,物件購入希望者は,買受けの申込みに先立ち,当該物件の情報
を得るために,登記所において登記簿を閲覧していることから,通常の買受申出人
が相応の注意をしていれば,免税措置の存在を知り得る程度の広報はされていたと
いえ,原告も,同出張所の免税措置を紹介する張り紙を見て,同特例を知り得る状
況にあったといえるところである。
第3 当裁判所の判断
 1 当庁尼崎支部不動産競売係の書記官の公権力の行使の違法性(過失)の有無
(争点(1))について
   原告は,当庁尼崎支部不動産競売係の書記官が,本件土地及び本件建物につ
いて神戸地方法務局東神戸出張所登記官宛に登記嘱託をするに際し,本件建物が震
災特例法37条1項の登録免許税の免除規定の適用を受ける物件であることを本件
嘱託書に表示するか,又は登録免許税額を記載した文書に免除規定の適用を受けた
税額を表示すべき法的義務を負う(ただし,具体的な法的根拠はない。)のに,こ
れを誤って本件嘱託書にその旨を記載せず,その上,一般法である登録免許税法の
税額1084万2300円を表示し,震災特例法の免除規定を知らない原告をして
その登録免許税額を納付させ,原告に対し,754万0100円の損害を与えた旨
主張する。
この点,震災特例法37条1項は,「阪神・淡路大震災の被災者であって政
令で定めるもの又はその者の相続人その他の政令で定める者が阪神・淡路大震災に
より滅失した建物又は当該震災により損壊したため取り壊した建物に代わるものと
して新築又は取得をした建物で政令で定めるものの所有権の保存又は移転の登記に
ついては,大蔵省令で定めるところにより平成7年4月1日から平成17年3月3
1日までの間に受けるものに限り,登録免許税を課さない。」と規定する。震災特
例法施行令29条1項は,震災特例法37条1項に規定する政令で定める被災者
は,阪神・淡路大震災によりその所有する建物に被害を受けた者であることにつ
き,当該建物の所在地の市町村長から証明を受けた者とすると規定する。そして,
震災特例法施行規則20条1項は,震災特例法37条1項の適用を受けようとする
者は,その登記の申請書に,震災特例法施行令29条1項等の市町村長の証明に係
る書類で阪神・淡路大震災によりその所有していた建物に被害を受けた者の氏名又
は名称及び住所又は本店もしくは主たる事務所の所在地並びに当該建物の所在地の
記載があるもの(以下「被災証明書」という。)等を添付しなければならないと規
定する。
そうすると,震災特例法37条1項の適用を受けるためには,大蔵省令で定
めるところに従って登記の手続をすること,すなわち,登記の申請書に被災証明書
を添付することを要するものと解される。そして,嘱託による登記の手続について
は,登記嘱託書に被災証明書を添付することを要するものと解される。
これを本件についてみると,証拠(甲1の2)及び弁論の全趣旨によれば,
原告は,同支部に対し,被災証明書を提出せず,本件登記の嘱託の際,本件嘱託書
には被災証明書が添付されていなかったことが窺われ,本件嘱託書に被災証明書が
添付されていたと認めることはできないから,原告は震災特例法37条1項の適用
を受けないものといわざるを得ない。
なお,登録免許税の納税義務は登記の時に成立し(国税通則法15条2項1
2号),その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(同
条3項5号)のであるから,原告が本件登記の後に被災証明書を取得したとして
も,原告は,本件建物の所有権の移転の登記に係る登録免許税の納税義務を免れな
いものというべきである。
したがって,原告が震災特例法37条1項の適用を受けることを前提とする
原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
 2 神戸地方法務局東神戸出張所登記官の公権力の行使の違法性(過失)の有無
(予備的請求原因)(争点(2))について
   原告は,神戸地方法務局東神戸出張所登記官が,当庁尼崎支部から本件土地
及び本件建物について登記嘱託を受けた際,本件建物が震災特例法37条1項の登
録免許税の免除規定の適用を受ける物件であるか否かを知り又は知り得べき状況に
あったのであるから,これを調査し,登録免許税額が国税に関する法律に従ったも
のであるか否かを判断して,免除規定の適用を受けた税額を原告に通知する義務が
あったのにこれを怠り,一般法である登録免許税法を正当な額として取り扱い,震
災特例法の免除規定を知らない原告をしてその登録免許税額1084万2300円
を納付させ,原告に対し,754万0100円の損害を与えたなどと主張する。
しかしながら,原告が震災特例法37条1項の適用を受けないことは前記1
のとおりである。他に,本件登記に係る登録免許税の額が国税に関する法律の規定
に従っていないこと(登録免許税法26条1項参照)を認めるに足りる証拠はな
い。
したがって,原告が震災特例法37条1項の適用を受けること及び本件登記
に係る登録免許税の額が国税に関する法律の規定に従っていないことを前提とする
原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
第4 結語
   よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟
費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
   神戸地方裁判所第六民事部
       裁 判 長 裁 判 官     松村 雅司
   裁 判 官水野 有子
   裁 判 官増田 純平

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛