弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 原告Aの訴えのうち,同原告を平成15年4月27日執行の中野区議会議員選
挙における当選人と決定することを求める請求に関する部分を却下する。
2 原告Aのその余の請求及び原告Bの請求を棄却する。
3 訴訟費用は,原告らの負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の申立て
1 原告A
(1) 平成15年4月27日執行の中野区議会議員選挙の当選の効力に関し,被
告が同年6月25日にした裁決中当選人を決定しなかった部分を取り消す。
(2) 原告Aを上記選挙における当選人と決定する。
2 原告B
 平成15年4月27日執行の中野区議会議員選挙の当選の効力に関し,被告が同
年6月25日にした裁決を取り消す。
3 被告
(1) 原告Aについて
 (主位的申立て)原告Aの訴えを却下する。
 (予備的申立て)原告Aの請求を棄却する。
(2) 原告Bの請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は,平成15年4月27日執行の中野区議会議員選挙(以下「本件選挙」
という。)につき,原告らが,いずれも自己が最下位当選者で相手方が次点(落選
者)であり,被告がした裁決(原告らの得票数が同数であることを理由に当選人原
告Bの当選を無効としたもの。以下「本件裁決」という。)中の原告らの得票数を
同数とした判断は誤りであると主張して,その是正を求める事案である。
 主要な争点は,原告Aの訴えの適法性及び原告ら各自の得票数(具体的には,別
紙1から4までの投票の効力)である。
2 争いのない事実
(1) 中野区選挙管理委員会(以下「区選管」という。)は,平成15年4月2
8日,選挙会において,本件選挙につき,原告Bの得票数が1379票,原告Aの
得票数が1378票であるとして,原告Bを当選人と決定した。
(2) 原告Aは,平成15年4月30日,区選管に対して,上記決定について異
議申出をした。区選管は,同年5月29日,異議申出を棄却した。
(3) 原告Aは,平成15年6月4日,被告に対して,上記異議申出棄却決定に
ついて審査申立てをした。被告は,同年6月25日,無効票とされていた「C」票
(別紙3)を原告Aに対する有効票と判断し,原告らの得票数が同数(いずれも1
379票)であるとして,区選管の異議棄却決定を取り消し,原告Bの当選を無効
とする旨の裁決をした。そこで,原告らは,同年7月24日,それぞれ本件訴えを
提起した。
(4) 本件で当事者が投票の有効性を問題とする票の記載内容は,別紙1ないし
4のとおりである。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 原告A
ア 原告Bに対する有効票とされた「D」票(その記載内容は別紙1のとおり。)
は,候補者中に「E(編注 EはDの一部である。)」という氏の者はおらず,
「F(編注 FはDの一部である。)」も原告Bの名である「B」とは似ておら
ず,何人を記載したかを確認し難いもの(公職選挙法68条1項8号),又は他事
記載(同項6号)をしたものとして,無効票である。
 これにより原告A1379票,原告B1378票となり,原告Aが当選人とな
る。
イ 本件裁決は,原告Bの得票数を1379票とした点に誤りがある。このような
場合,被告は,原告Aを当選人とする旨の裁判を求めることができると解すべきで
あり,本件訴えは適法である。
 原告Aは,同原告と原告Bの得票数が同数であるという本件裁決の理由中の見解
に服するものではなく,区選管への異議申出の時から一貫して,原告Aの得票数の
方が多いから,原告Bの当選無効の裁定のみならず,原告Aを当選人と定めるべき
ことを主張してきた。本件審査申立ての趣旨にも原告Aを当選人とする旨を記載し
たかったのであるが,受付で書式のとおり書いてほしいと指示され,やむを得ず,
原告Bの当選無効のみを申し立てたものである。
(2) 原告B
ア 無効票とされた「G」票(その記載内容は別紙2のとおり。)は,原告Bに対
する有効票である。
 投票所の投票台に掲示された候補者一覧には候補者氏名がひしめきあって記載さ
れ,原告BとH候補が隣り合って記載され,投票台には十分な照明がなくかなり暗
いところ,我が国では氏が重要で,フルネーム又は名を記憶していることは少ない
から,「G」票は,原告Bに投票する意思で「I(編注 IはBの姓である。)」
を先に記載し,投票台の候補者一覧の掲示によって名を確認しようとしたところ,
隣のH候補の「J(編注 JはHの名である。)」を誤記してしまったものとみる
のが自然であるからである。
イ 本件裁決により原告Aに対する有効票に変更された「C」票(その記載内容は
別紙3のとおり。)は,何人を記載したかを確認し難いもの(公職選挙法68条1
項8号)で,無効票である。
 日本人の名は男女で明白に区別されており,「C」票は女性に対する投票であっ
て,これを男性である原告Aに対する投票と解することはできない。
ウ 原告Aへの有効票とされた別紙4記載の投票は,*印及び△印の他事記載があ
るから,公職選挙法68条1項6号により無効票である。
エ 上記アからウまでによれば,原告B1380票,原告A1377票となり,原
告Bが当選人となるから,区選管の異議申出棄却決定は正当であり,本件裁決は取
り消されるべきである。
(3) 被告
ア 原告Aの訴えに対する本案前の抗弁
(ア) 原告Aは,原告Bの当選は無効である旨の決定を求めて区選管に対する異
議申出及び被告に対する審査申立てをしたところ,本件裁決は原告Aの申立てを全
部認容したものであるから,原告Aは本件裁決に対して不服を申し立てる余地はな
く,本件裁決の取消しを求める訴えは,不適法である。
 なお,原告Aは本件裁決中の当選人を決定しなかった部分の取消しを求めている
が,本件裁決中にそのような部分は存在しない。
(イ) 原告Aを当選人と決定する旨の訴えは,公職選挙法上認められる訴訟類型
ではなく,不適法である。
イ 「D」票について
 「E」は「B」と書こうとしたところ「ぬ」を脱字したものであり,「F」は
「K」のなまりで,「K」は「B」に類似するから,これを原告Bに対する有効票
と判断したことは合理的である。
ウ 「G」票について
 本件選挙においては,原告Bのほか「H」という候補者がいたのであるから,
「G」票は両者のいずれに投票する意思を有するのか判定が不可能な無効票であ
る。
エ 「C」票について
 本件選挙においては,原告Aのほか「L(通称M)」という候補者がいたが,両
者は,氏には類似性がないが,名の読みの「N」と「O」には類似性があることか
ら,原告Aの有効票と認めるのが相当である。
オ 別紙4記載の投票について
 原告B主張の*印及び△印の他事記載というのは,別紙4記載の投票中の書き損
じ部分の抹消のための線であり,他事記載には該当しない。
第3 当裁判所の判断
1 原告Aの訴えに関する本案前の抗弁について
(1) 本件裁決中当選人を決定しなかった部分の取消を求める訴えについて
 行政事件訴訟法43条,33条によれば,裁決を取消す判決は,主文のみなら
ず,理由中の主文を直接導く判断(本件についていえば,得票数に関する判断がこ
れに当たる。)を含めて関係行政庁を拘束することとなる。
 選挙の当選の効力に関する訴訟についてこれをみるのに,一般に,裁判所が原告
の得票が最下位当選者と同数であるという理由で最下位当選者の当選を無効と判断
した場合には,くじで原告又は最下位当選者のいずれかを当選者と決定することに
なるが,裁判所が原告の得票が最下位当選者よりも多いという理由で最下位当選者
の当選を無効と判断した場合には,選挙会においては原告を当選者と決定するほか
はなく,もはや最下位当選者が当選者とされる可能性はない。つまり,裁判所が主
文において最下位当選者の当選を無効と判断した場合であっても,理由中の得票数
に関する判断の内容により,くじに当たることを条件として当選者と決定してもら
える地位を獲得するにすぎないか,そのような条件なしに当選者と決定してもらえ
る地位を獲得するかという点において,原告の法的地位に異同が生ずることにな
る。
 選挙訴訟の当事者は,より自己に有利な法的地位を求めて訴えの提起や上訴の申
立てができると解すべきであるから,本件においては,原告Aは,同原告の得票数
が最下位当選者より多い旨の判断を求めて本件裁決の取消しの訴えを提起すること
ができるものというべきである。そして,同原告の訴えのうち本件裁決中当選人を
決定しなかった部分の取消を求めるものは,同原告の得票数が最下位当選者より多
い旨の判断を求めるものであり,実質的にみて,上記説示に係る裁決の取消しの訴
えと同趣旨の訴えとして適法というべきである。
(2) 原告Aを当選人と決定することを求める訴えについて
 当選の効力を争う訴えは,行政事件訴訟法5条にいう民衆訴訟であって,同法4
2条により法律に定める場合に限り提起することができるものである。当選の効力
を争う訴えについて定める公職選挙法207条の趣旨は,判決で直接に当選人を定
める旨の訴えを許容するものではなく,選挙管理委員会の裁決の取消しを求める訴
えのみを許容するものと解される。したがって,原告Aを当選人と決定することを
求める訴えは,不適法であり,却下すべきものである。
2 原告らの裁決取消しの訴えについての本案の判断
(1) 「D」票について
 甲イ4,甲ロ1,2及び弁論の全趣旨によれば,「D」票の記載内容は別紙1の
とおりであること,「E」に類似する氏をもつ候補者は原告B以外にはいなかった
こと,したがって,本件投票のうち「E」の部分は,「B」と書こうとしたところ
「ぬ」を脱落させた誤記であって原告Bの氏が表示されたものであること,本件投
票のうち「F」の部分は,「K」の音がなまったものであり,「K」という名が表
示されたものであること,「K」に類似する名をもつ候補者は原告Bのほか,
「P」,「Q」,「R」,「S」,「T」,「U」,「V」,「W」がいたことが
認められる。
 また,本件投票が何らかの有意の記載をしようとした他事記載に該当するもので
あることを窺わせるような事情は,何ら認められない。
 そうすると,この投票は,氏は原告Bと同一であり,その余の候補者の氏には全
く類似しておらず,名はPと同一であり,原告B,Q,R,S,T,U,V,Wに
類似している(原告B,Sとは「X(編注 XはKの一部である。)」の音が同一
であり,その余の者とは「Y(編注 YはKの一部である。)」の音が同一であ
る。)から,全体としてみればこの投票を原告Bに対する有効票とみるのが相当で
ある。
(2) 「G」票について
 甲イ4,甲ロ1,2及び弁論の全趣旨によれば,「G」票の記載内容は別紙2の
とおりであること,「G」に類似する氏名をもつ候補者は原告Bと「H」の2名が
いたことが認められる。
 「G」という表示は,氏は原告Bと同一であり,Hには全く類似しておらず,名
はHと同一であって,原告Bには全く類似しておらず,他にこの投票がいずれの候
補者を記載しようとしたものかについての判定の手がかりとなる事情も認められな
いから,結局,この投票は,何人を記載したかを確認し難い(公職選挙法68条1
項8号)ものとして無効であるというほかない。
 原告Bは,この投票を自己に対する有効票であると主張する。しかしながら,あ
る候補者の氏と他の候補者の名が記載された投票については,このような投票を一
律に氏が記載された候補者に対する有効票とすることは,名の呼称も重要視される
ことの多い我が国の選挙においては,公平な判断基準とはいえない。そのような投
票は,特段の事情のない限り,何人を記載したかを確認し難い(公職選挙法68条
1項8号)ものとして無効とすべきである。
 原告Bは,この投票は,原告Bに投票する意思で「I」を先に記載した後に投票
台の候補者一覧の掲示を見誤って隣のH候補の「J」を誤記したものであると主張
するが,この主張は両候補者名が掲示上隣同士であったこと(甲ロ2)以外は何ら
具体的な証拠に裏付けられたものではなく,一般に我が国において人を識別する際
に氏の方が名と比較して重要であるという点も,上記主張の裏付けとしては十分で
ないから,本件において特段の事情を認めることはできない。
(3) 「C」票について
 甲イ4,甲ロ1,2及び弁論の全趣旨によれば,「C」票の記載内容は別紙3の
とおりであること,「C」に類似する氏名をもつ候補者は原告Aと「M」の2名が
いたことが認められる。
 「C」という表示は,氏は原告Aと同一であり,Lには全く類似しておらず,名
はLの名である「O」と同一であるが原告Aの名である「Z」とも音が類似してお
り,原告Aと7音中6音まで一致しており,1音だけが異なるだけなのであるか
ら,この投票を原告Aに対する有効票とみるのが相当である。
 原告Bは,日本人の名は男女で明白に区別されており,「C」票は女性に対する
投票であって,これを男性である原告Aに対する投票と解することはできないと主
張する。しかしながら,誤記をする場合には必ずしも性別を意識しないこともあ
り,同性名相互間でのみ誤記をするとはいえないのであって,男性名を書こうとし
て女性名を誤記することやその逆の誤記をすることもあるから,上記主張は採用で
きない。
(4) 別紙4記載の投票について
 甲イ4,甲ロ1,2及び弁論の全趣旨によれば,この投票の内容は別紙4記載の
とおりであること,この投票は書き損じ部分の上に線を引いて書き損じを抹消した
上,改めてひらがなで「A」と記載したものであり,原告B主張の*印及び△印の
他事記載というのは,上記書き損じ部分及びこれを抹消するための線にすぎないこ
とが認められる。
 他方,これが何らかの有意の記載をしようとした他事記載に該当することを窺わ
せる事情は,何ら認められない。
 以上によれば,この投票は,公職選挙法68条1項6号の他事記載投票として無
効とすることはできず,原告Aに対する有効票とみるのが相当である。
(5) 以上によれば,原告らの得票数はいずれも1379票であり,当選人はく
じで定められるべきである。そうすると,本件裁決は,その得票数に関する理由中
の判断部分を含めて正当であり,原告らの本件裁決取消請求は,いずれも理由がな
い。
3 よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 相良朋紀
裁判官 野山宏
裁判官 上田卓哉

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛