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(原審・宇都宮地方裁判所平成9年(ワ)第149号(甲事件),同11年(ワ)383号(乙事件)(原審言
渡日平成12年11月15日))
     主      文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1控訴の趣旨
 1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 2上記取消部分にかかる被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第2被控訴人らの請求
控訴人は,被控訴人らに対し,別紙金員目録中「請求金額」欄記載の各金員及び
これらに対する平成5年12月18日から(ただし,被控訴人Vについては平成4年2
月19日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第3事案の概要
 1 本件は,控訴人により父牛を名牛である甲と宣伝されていた乙の雌子牛を購
入した被控訴人らが,真実は乙の父牛は甲ではなく,購入した雌牛はいずれも甲の
血統を受け継ぐものではなかったのであり,もしこの事実を知っていたならば,同雌
牛を高額の金員を支払ってまで購入することはなかったと主張して,控訴人に対
し,不法行為を理由とする損害賠償を求めた事案である。
 2 原審裁判所は,被控訴人らの請求につき,別紙金員目録中「認容金額」欄記
載の各金員及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度において認容し,
その余の請求をいずれも棄却した。
これに対し,控訴人のみがこれを不服として控訴したものである。
 3 争いのない事実及び争点は,原判決「事実及び理由」欄第2「事案の概要」の
1及び2(原判決4頁4行目から9頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを
引用する。
第3当裁判所の判断
 1当裁判所も,被控訴人らの請求は,いずれも原判決の認容した限度において
理由があると判断するものであるが,その理由は,2において当審における控訴人
の主張及びこれに対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄第3
「当裁判所の判断」の1ないし3(原判決9頁17行目から20頁5行目まで)に説示す
るとおりであるから,これを引用する。
 2当審における控訴人の主張及びこれに対する判断
 (1) 不法行為の成否について
控訴人は,原判決が,家畜改良事業団の血液型検査の結果により,控訴人にお
いて,甲と乙との親子関係が否定される可能性が相当程度あるとの認識を有して
いたと認定したことに関し,控訴人の関係職員は,当時,新たに導入された赤血球
抗原の型を検査する検査方法のシステムや精度について正確な知識を有しておら
ず,親子関係矛盾の可能性について必ずしも十分な認識をもっていたわけではな
く,また,乙を種雄牛として供用することは,和牛登録協会のA会長の昭和57年6
月8日の指導に従った結果であり,当時の状況に照らし,控訴人がそれ以降,乙の
精液の供給を停止せず,販売を継続したことには何ら過誤はなかった旨主張する。
しかし,甲及び乙に実施された血液型検査は,和牛登録協会が和牛の血液型検
査方法を確立し,もって和牛の血統を正しく表示するために採用する予定の方法で
あったことは原判決の説示するとおりであり,このことに照らせば,上記検査の信頼
性は一般的に認知されていたというべきであり,控訴人の関係職員が正確な知識
や十分な認識を有していなかったということはできない。また,原判決の認定すると
おり,予備調査の結果を受けた控訴人は,直ちに家畜改良事業団に再検査の依頼
をし,その結果も両牛間の親子関係を否定する結論が出され,控訴人の関係職員
にその旨通知されたものであることからすれば,控訴人の上記主張は到底採用す
ることができないし,A会長の上記指導に従ったとする控訴人の主張も単なる弁解
にすぎず,控訴人の不法行為を肯定する原判決の結論を左右するものではない。
また,控訴人は,原判決が,乙の精液の販売を停止しないのであれば,甲と乙と
の親子関係が否定されることを告知することにより,畜産業界に相当程度の影響が
あることが予想されたとしても,控訴人には,甲と乙との親子関係が否定される可
能性があることを告知するなどして,第三者に不足の損害を被らせないようにする
ようにする義務があると判示したことに関し,①乙の雌子牛及びその直系の繁殖牛
は,平成8年度までに累計で4万2734頭が登録され,供用されており,控訴人が,
乙の直系の子牛を購入する可能性のある第三者に,乙が甲の子ではない蓋然性
を告知しながら乙の親牛を特定することができないことは,取りも直さず,その時点
で供用されていた乙直系の繁殖牛の血統を否定し,それらの繁殖牛の供用が事実
上不可能になり,和牛業界に甚大な損害をもたらすことになる,②乙の雌子牛を繁
殖牛としていた生産農家は,子牛の購入価格に見合う高い繁殖成績を上げていた
ことは明らかであり,平成8年5月1日の乙の血統更正後も血統更正を因子とする
乙の子牛価格の変動等はなく,第三者に不測の損害が生じていない旨主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,もともと控訴人が「甲と乙の親子関係が否定される
可能性があることを告知した場合の畜産業界に与える影響を考慮すべきである。」
と主張したのに対し,同主張を排斥した原判決の説示部分(原判決16頁)について
再度反論するものであるところ,そもそも甲と乙の親子関係の存否について,真実
を告知することによる畜産業界への影響を主張するならば,真実を伝えずに誤った
情報を告知することによる悪影響を憂慮こそすべきであって,この点に関する控訴
人の主張は,到底採用できない主張というべく,控訴人が自ら両牛の親子関係矛
盾の蓋然性を知りながら,長期間にわたり,これを秘して乙の冷凍精液を販売し続
けた結果,本件の被控訴人らが本件訴えを提起するような事態を生じさせ,かつ,
後記のとおり,被控訴人らに対し現実にも損害を発生させたものであるから,控訴
人の上記主張は,これらの原因を作出した控訴人の責任を否定する根拠となるも
のではない。
 (2)損害の有無及び原判決の損害額認定の誤りについて
控訴人は,被控訴人らは,購入時の市場の相場の中で,乙の客観的能力と母牛
の能力及び各子牛の形質等により適正に形成された価格に基づいて,乙の雌子牛
を購入したのであり,乙の客観的価値は高く,このことは上記のとおり乙の血統更
正後もその子牛価格に変動がなかったことからも明らかであって,そもそも被控訴
人らに客観的な損害の発生はない旨主張する。
しかし,原判決挙示の各証拠から認められる原判決添付の価格変動表のとおり,
乙の血統更正後の子牛価格に全く変動がなかったとはいえない上,市場において
形成された乙の価格は,甲を父牛とすることが大きな要因を占めていたことは否定
できず,乙の能力が優れていたことを考慮しても,血統が重視される和牛業界にお
いて,父牛が特定できない状態において同価格が形成されるとは認め難いこと,し
たがって,乙の父牛が甲であると信じて本件雌子牛を購入した被控訴人らに現実
の損害が発生したと認めるべきであることは,いずれも原判決の説示するとおりで
あって,控訴人の上記主張は採用することができない。
また,控訴人は,上記主張を前提として,原判決には,損害の発生について,証
拠に基づく適正な事実認定を行わないまま,損害額の認定について民事訴訟法24
8条を適用した違法があり,損害額についても,被控訴人らの購入価格の3割を相
当とするなどという自由心証主義を逸脱した専恣かつ不合理な認定を行った違法
がある旨主張する。
しかし,市場において形成された乙の価格について,甲を父牛とすることが大きな
要因を占めていたと考えられることは前記のとおりであるが,本件全証拠によって
も,乙が甲の子であるとされていたことにより形成された価格を具体的に認定する
ことが極めて困難であることは,原判決の説示するとおりであり,また,乙の能力自
体が優れていたと認められることも前記のとおりであるから,被控訴人ら主張のよう
に,被控訴人らの本件購入価格と,購入当時の全雌牛の全国市場平均価格との差
額をもって損害とするのも相当ではなく,結局のところ,原判決が損害額について同
法248条を適用したことは正当として是認できる。また,上記のような乙自体の価
値を考慮すれば,乙が甲の子でないとした場合には,被控訴人らの購入価格と購
入当時の全雌牛の全国市場平均価格との間においてその価格が形成されたもの
というべきところ,甲第6号証の1ないし4によれば,被控訴人らの購入時における
全雌牛の全国市場平均価格は,被控訴人らの購入価格のおおむね5割程度(ただ
し,複数の購入がある場合には,それぞれの合計金額の比較による。)であると認
められるから,乙が甲の子でないとした場合に形成されていたであろう価格は,これ
を上回るものであると認定できるのであり,以上の諸点を考慮して,本件の損害を
被控訴人らの購入価格の3割相当と認定することが不当に高い損害額の認定とい
うことはできない。
 したがって,原判決の結論は相当であって,この点に関する控訴人の主張はいず
れも採用することができない。
 控訴人が当審で提出した乙第30,第31号証及び第34ないし36号証も,結局は
乙自体の能力が高く,栃木県以外でも人気があったことを認めうる資料にすぎず,
上記の判断及び結論を左右するものではない。
第4 結論
 以上によれば,被控訴人らの請求は,別紙金員目録中「認容金額」欄記載の各金
員及びその遅延損害金の支払を求める限度において理由があり,この限度におい
て被控訴人らの請求をいずれも認容した原判決は相当であって,本件控訴はいず
れも理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第21民事部
     裁判長裁判官  大 和 陽一郎
          裁判官  橋 本 昌 純
          裁判官  蓮 井 俊 治
           金  員  目  録
請求金額      認容金額
 1 被控訴人B     46万3700円27万2600円
 2 被控訴人C     78万5700円64万8200円
 3 被控訴人D     72万6600円31万8800円
 4 被控訴人E     37万0700円26万1500円
 5 被控訴人F    103万3000円54万0200円
 6 被控訴人G     65万5000円34万8800円
 7 被控訴人H    118万8600円61万7300円
 8 被控訴人I   140万3200円108万0200円
 9 被控訴人J     50万1000円41万3000円
 10被控訴人K    74万8700円49万6100円
 11被控訴人L     48万2900円48万2900円
 12被控訴人M    46万9100円27万5600円
 13被控訴人N     45万3100円27万0800円
 14被控訴人O     56万3100円30万3800円
 15被控訴人P    397万3000円247万3100円
 16被控訴人Q     93万2300円41万6300円
 17被控訴人R     63万8800円29万5100円
 18被控訴人S    174万5200円 88万3100円
 19被控訴人T     70万1800円31万4000円
 20被控訴人U     64万6200円34万4000円
 21被控訴人V    872万0700円654万9300円

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