弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は、原告に対し、金一五六万〇九五三円及びこれに対する昭和六三年四月
二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 原告の請求
 主文同旨
第二 事案の概要
 本件は、原告が被告との間で締結した「海外派遣契約」に基づき、海外における
勤務の時間外手当等を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 被告は、土木工事・建築工事の設計・施工・管理等を目的とする株式会社であ
るが、原告は、昭和六二年八月七日から翌六三年三月一〇日まで訴外久保田鉄工株
式会社(以下、訴外会社という。)のポンプ設備現地据え付け工事に従事するた
め、被告によりカタール国へ海外派遣された。
2 原告は、右海外派遣されるに際し、昭和六二年八月五日、被告との間で次の内
容の「海外派遣契約」(以下、本件契約という。)を結んだ。
(一) 派遣業務の内容
 原告は、訴外会社がカタール公共省に納入した設備、材料に関して、訴外会社の
現場総責任者の指示に従って、現地の打ち合わせ、図面作成、下請の指導、工程計
画、管理、試運転調整、提出記録の作成等、訴外会社のプラントが最終引渡するま
で関連業務を行う。
(二) 派遣の期間
昭和六二年八月六日から昭和六三年二月二九日(予定)
但し、業務の都合により延長または短縮される場合がある。
(三) 派遣の場所
本業務を行う主たる場所は、カタール国・カタール公共省とする。
(四) 就業形態
就業時間は、原則として訴外会社の指示及び現地就業規則によるものとする。な
お、業務の状況に応じ、時間外勤務を指示する場合がある。
(五) 派遣の対価
海外業務(日本国内の支払い) 月額六三万円
国内業務 日額 一万円
但し、派遣期間が端数月の場合は、三〇分の一の日割計算とする。
(六) 時間外手当
 派遣の対価に含むものとする。
二 争点
1 本件契約が雇用契約であるか請負契約であるか。
2 仮に、雇用契約であるとした場合、予め時間外手当をも含む趣旨で時間外労働
の有無、時間の長短にかかわらず労働の対価を一定額に定めることは労働基準法に
違反するか。
3 時間外労働をしたか否か。
第三 争点に対する判断
一 本件契約の性質
 前記争いのない事実の他、甲第一号証の一ないし八、同第三号証、同第四号証の
一ないし三、乙第二、第三号証及び証人Aの証言によれば、被告は労働者派遣事業
をも目的とする会社であるところ、昭和六二年五月ころ協力会社の紹介でボイラー
建設主任技術者等の資格を有する原告を知り、同人から履歴書の交付を受けたこ
と、その後訴外会社から本件注文が来たことからこれを受けることにし、訴外会社
との間で派遣員契約を締結し、「出向に関する覚書」及び「誓約書」を取り交すと
ともに原告と本件契約を締結したこと、被告と訴外会社との間の右契約によれば、
被告は、訴外会社がカタール国カタール公共省に納入したポンプ設備の現地据付工
事につき、訴外会社の現場総責任者の業務全般をアシストするために、原告を被告
の従業員である技術員として訴外会社に出向させること、出向期間は昭和六二年八
月六日から同六三年二月二九日とし、出向期間中の勤務条件は訴外会社において管
理し、勤務時間は一日九時間、週六日間を原則とし、現地工事の状況により変動す
ることがあること、技術員は勤務時間外といえども訴外会社の総責任者に協力する
こと、技術者は毎日の勤務記録を勤務報告書に記入の上訴外会社の総責任者に提出
すること、技術員の賃金は被告の賃金規定に基づき被告が支払うこと等の取決がな
されていることが認められる。
 ところで、被告は、本件契約は訴外会社を元の注文者とすることを前提とし被告
をその請負人であり下請への注文者、原告を下請とする請負契約であると主張す
る。しかしながら、右に認定のように原告の供給する労務は専門的な知識や技術を
必要とするものではあるが、労務供給の形態が、労務の供給を受ける訴外会社の定
める就業時間に従い、同社の現場総責任者の監督や指示に従いながら労務を供給す
ることが求められるものであることや、その対価も月額という時間の長さによって
決められていることからすると、本件契約が労務の供給による仕事の完成自体を目
的とし、対価も完成された仕事に対して支払われる請負契約であるとは解し難い。
そして、右認定の事実関係からすれば、被告と訴外会社との間の前記契約は、「労
働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法
律」二六条に定める「労働者派遣契約」に該当し、原告と被告との間の本件契約
は、被告が原告を訴外会社に派遣するためにその前提として締結した雇用契約であ
ると解するのが相当である。なお、前記覚書によれば、原告を被告の従業員として
出向させる旨の記載があるが、前述のように訴外会社は原告に対し賃金等の対価を
支払うべき義務を負っていないことからしても、訴外会社と原告との間には雇用関
係がないことは明らかであり、右当事者間に新たに雇用関係が生じるいわゆる出向
とは異なるものであることは明らかである。
二 本件契約が労働基準法に反するか否か
 以上のように、本件契約は原告と被告との間の雇用契約であると解すべきである
が、そうであるとすると、本件契約の内、時間外労働の対価はすべて派遣の対価に
含まれており、時間外労働に対する割増賃金は別に請求できないとした点が労働基
準法三七条に違反するか否かが問題となる。
 被告は、この点につき、海外派遣の業務は現地での労働規則・慣行等が予め明ら
かになっているわけではなく、測り難いところが多いので、本件契約でも通常の時
間外労働の分をカバーするに足りる対価を約束していたものであるから本件契約は
適法である旨主張する。
 しかしながら、前記Aの証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件契約
を締結するに当たり、被告の担当者であった右Aに現地での残業の有無につき尋ね
たところ、訴外会社からあまり残業はないとの話を聞いていた同人から原則として
残業はないとの説明を受けたので、それを信じ、仮に月に一〇時間程度の残業があ
ってもサービスしようとの意思で右条項につき同意したものであり、もともとある
程度残業があることを双方認識し、それを前提の上で対価を決めあるいは右約定を
なしたものではないことが認められることや、仮に、本件契約による派遣の対価が
被告主張のように通常の時間外労働の対価を含むものであったとしても、それが時
間外労働の対価をカバーするに足るものであるか否かは、時間内労働の対価及び被
告のいう「通常の時間外労働」がどの程度のものであるかが明らかにならない限り
判断できないものであることからすると、その点についての明確な定めもなく、予
め時間外労働の対価の請求を一切放棄させる本件契約中の前記約定は、原告にとっ
てあまりに不利益であり、労働基準法三七条に違反し、同法一三条により無効であ
ると判断せざるをえない。
三 時間外労働及び時間外手当
 前述のように、本件契約によれば、原告の派遣先における労働時間は訴外会社の
指示及び現地就業規則によるものとされていたところ、甲第一号証の一ないし八及
び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、訴外会社の指定による労働時
間は、金曜日を公休とし、土曜日から翌週の木曜日までは始業時間を午前六時、終
業時間を午後二時三〇分、この間一時間の休息、祝日はカタール国のカレンダーに
よるというものであったこと、カタール国の祝日は国王即位記念日(二月二三
日)、独立記念日(九月三日)、ラマダン明け休日四日間、ハッジ明け休日四日間
の年合計一〇日間であったこと、原告は本件海外勤務中に合計三三七・五時間の時
間外勤務と、合計三八時間の休日勤務についたことが認められる。
 なお、前記認定のように、被告と訴外会社との間の契約によれば、原告の勤務時
間は一日九時間とし、労働日は週六日間を原則とする旨の定めがなされており、前
記Aの証言によれば原告と被告との間の契約においてもそのことは当然の前提にな
っており、原告にも説明し了解を取った旨証言しているが、右証言は原告との間の
本件契約書にはそのことが明示されておらず、原告が提出し訴外会社の担当者から
検印も受けている勤務報告書(甲第一号証の一ないし七)によれば勤務時間は午前
六時から午後二時半までとされていることや、原告本人尋問の結果と照らし合わせ
ると採用し難い。
 そこで、右認定に基づき時間外手当等について計算すると次のようになる。
① 一年間の休日 六二日
(三六五日÷七)+一〇日●六二日
② 一年間の労働時間 二、二七二・五時間
(三六五日ー六二日)×七・五時間=二、二七二・五時間
③ 時間単位の賃金額 金三、三二六円(一円以下切り捨て、以下同じ)
(六三万円×一二か月)÷二、二七二・五時間●三、三二六円
④ 時間単位の割増賃金額 金四、一五七円
 三、三二六円×一・二五=四、一五七円
⑤ 時間外手当及び休日出勤手当
 四一五七円×三三七・五時間=一四〇万二、九八七円
⑥ 休日出勤手当
 四、一五七円×三八時間=一五万七、九六六円
 よって、被告は原告に対し、右⑤と⑥の合計金一五六万〇九五三円及びこれに対
する支払期日後である昭和六三年四月二七日から支払済まで民法所定年五分の割合
による遅延損害金を支払う義務がある。
(裁判官 高田健一)

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