弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中210日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,中度知的障害を有するものであり,夫と義母,3人の実子(そのうち
2人に障害がある。)と共に生活し,主婦として家事や育児をしてきたが,令和元
年6月,4人目の子であるA(以下「被害者」という。)が生まれ,一時的に施設
に預けていた二女が同年8月に帰宅した後は,不眠などによる身体的,精神的な負
担が増していった。被告人は,行政機関に相談したが具体的な支援は得られず,被
害者を施設に預けることを夫や義母に相談しても反対され,引き続き家事や育児の
多くを担い,不眠も続くなどしたため,ますます疲弊し,体重も大幅に減少した。
さらに,令和2年1月9日以降,夫や義母を含む家族4人がインフルエンザにかか
り,その世話にも追われることになって,これまで以上に追い詰められた。このよ
うな状況の中,被告人は,同月18日,被害者を預けることに再び反対した義母と
言い合いになり,その際,被害者さえいなければこのような思いをしなくて済んだ
などと述べたが,その夜,被害者を夜通しあやしながら,自分のその発言で頭がいっ
ぱいになり,適応障害の状態に陥った。そして,被告人は,ほとんど寝ないまま翌
19日の朝を迎え,出かける長男を玄関で見送ると,そのまま被害者を抱いて自宅
を出た。
(犯罪事実)
被告人は,被害者(当時生後7か月)を殺害しようと考え,令和2年1月19日
午前9時46分頃から同日午前9時53分頃までの間に,大阪市(住所省略)B住
宅C館東側階段4階から5階に至る階段踊り場において,殺意をもって,被害者を
同所から同館1階東側地面に落下させたが,同所の植込み上に落下したことから殺
害するには至らず,さらに,同日午前10時5分頃,同館西側階段9階から10階
に至る階段踊り場において,殺意をもって,被害者を同所から同館1階西側地面に
落下させ,よって,その頃,同所において,被害者を脳挫滅により死亡させて殺害
した。
なお,被告人は,本件犯行当時,中度知的障害及び適応障害のため心神耗弱の状
態にあった。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
省略
(責任能力の判断についての補足説明)
関係証拠によれば,被告人には中度知的障害があったが,被告人は,犯行直前に
は被害者を落とすのを「誰かに止めてもらいたい」と思っており,犯行後には被害
者の受傷原因に関し家族等に嘘をついたことも認められるから,善悪についての判
断能力はあったといえる。また,前記の犯行に至る経緯から考えると,被告人は,
本件前から適応障害の状態にあり,知的障害の影響も相まって,子供に対する普段
の態度とは大きく異なる突発的な行動として本件犯行に及んだと認められるから,
犯行当時,自分の行動をコントロールする能力は著しく低下していたといえる。もっ
とも,被告人が,被害者を落とすのを「誰かに止めてもらいたい」と思い,1回目
に落とした後には被害者が生きていてよかったと思うなど,自分の行動とは矛盾し
た感情を抱いていたことや,被害者を落とすために1回目よりも更に高い11階ま
で上がった後,被害者を投げ落とすまでに7分も時間を要していることからすると,
被害者を殺すことへの迷いや葛藤があったと考えられ,自分の行動をコントロール
する能力が完全には失われていなかったといえる。したがって,被告人は,本件犯
行当時,心神耗弱の状態であったと認められる。
(量刑の理由)
1被告人は,集合住宅の階段の踊り場から,2回にわたって生後7か月の被害者
を落下させている。高さ11mからの1回目の落下行為も十分危険なものである
が,これにとどまらず,より危険な25mの高さからの2回目の落下行為にも及
び,1回目には幸運にも死を免れていた被害者を確実に死に至らしめている。こ
れらの点からすると,本件犯行は,強い殺意に基づくものということができ,犯
行態様も,非常に危険で悪質である。
一方,被告人は,中度知的障害を抱えながら,被害者や障害のある子を含む4
人の育児や家事を担い,睡眠不足や疲労が蓄積する中で家族や行政機関に何度も
助けを求めていたのに,適切なサポートを得られないまま,適応障害を発症する
に至り,心神耗弱の状態で本件犯行に及んでいる。このように犯行に至る経緯に
は,被告人にとって気の毒な面が多分にあり,強い殺意に基づく点も,適応障害
等の影響によるところが大きいため,被告人の意思決定を強く非難することはで
きない。これに対し,検察官は,乳児院から翌週には空きが出る旨連絡を受けて
おり,育児の負担が軽減される見通しがあったのに犯行に至った点を刑を重くす
る事情として主張する。しかし,被告人が適応障害の状態に陥っていたことから
すると,将来の見通しを冷静に考えることができたとはいい難いし,家計を管理
していた義母が被害者を施設に預けることに反対していたこと等からすると,育
児の負担が軽減される確実な見通しがあったともいえないから,検察官の主張は
採用できない。
以上によれば,本件は,子を被害者とし家族問題を動機(「その他の家族関係」)
とする前科のない殺人1件の事案の中では,軽い部類に位置付けられる。
2そして,被告人が反省していることや,夫,義母及び行政機関の今後のサポー
トもある程度期待できること,養育すべき3人の子がいることも踏まえると,被
告人に対しては,場合によっては刑務所に入る可能性があることも意識させなが
ら,社会内で更生に向けた努力をする機会を与えるのが相当といえる。そこで,
被告人を主文の刑に処し,執行猶予期間を最長とした上,被告人が,今後,残さ
れた3人の子の育児を行いながら立ち直りを図っていく上で適切な指導や援助を
受けられるよう,その猶予期間中,保護観察に付することが相当であると判断し
た。
(求刑-懲役5年)
令和3年2月18日
大阪地方裁判所第14刑事部
裁判長裁判官坂口裕俊
裁判官湯川亮
裁判官重田裕之

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