弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

【主文】1 被告人を懲役6年及び罰金100万円に処する。
   2 未決勾留日数中240日をその懲役刑に算入する。
   3 上記罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換
算した期間被告人を労役場に留置する。
   4 押収してある覚せい剤(ビニール小袋入り)32袋(押番略,以下同
じ。),同大麻樹脂(ストロー片入り)29本,同大麻樹脂(塊のもの)3塊,同
大麻樹脂(ビニール小袋入り)6本,同大麻樹脂(ストロー片添付)1本,同大麻
(ビニール小袋入り)18袋,同乾燥大麻(チャック付きビニール小袋入り又はビ
ニール小袋入り)20袋,同コカイン(チャック付きビニール袋入り)1袋,同M
DMA(淡い緑色錠剤で,YK2と刻してあるもの)15錠,同MDMA(黄土色
錠剤で,XKと刻してあるもの)8錠及び同LSD(銀紙に包まれているもの)5
6片を没収する。
【理由】(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 イラン・イスラム共和国の国籍を有する外国人であり,入国審査官から上陸
の許可等を受けないで本邦に上陸する目的で,平成9年6月25日,ニュー・ジー
ランドから航空機で千葉県成田市所在の新東京国際空港に上陸して本邦に到着した
者であるが,そのころ同所に上陸した後引き続き平成13年6月4日まで千葉県a
市(地番,アパート名省略)等に居住するなどし,もって,本邦に上陸した後引き
続き平成12年2月18日から不法に在留し,
第2 みだりに,営利の目的で,平成13年4月17日,埼玉県b市所在のc株式
会社b営業所北側路上において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパ
ンを含有する結晶状粉末約12.437グラム,大麻樹脂約71.26グラム,乾
燥大麻約36.92グラム,麻薬であるコカインを含有する白色粉末約0.812
グラム,麻薬である3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)を含
有する錠剤32個及び麻薬であるリゼルギン酸ジエチルアミド(LSD)を含有す
る小紙片63片を所持したものである。
(事実認定の補足説明)
 被告人は,公訴事実第2の事実について,営利の目的がないのはもとより,覚せ
い剤等の薬物を所持した事実はないと述べて弁解し,弁護人も,被告人の弁解供述
に依拠して,被告人は覚せい剤等の薬物を所持したことはなく,営利の目的もない
から,無罪であると主張するので,以下,判示第2のとおり認定した理由を,補足
して説明する。
1(1)はじめに,公訴事実第2記載の場所で,被告人の行動等を目撃したAは,
検察官及び警察官に対して,要旨,次のとおり供述している。すなわち,公訴事実
第2記載の日の午後2時15分ころ,公訴事実第2記載のc株式会社b営業所の北
側路上において,白色の普通乗用自動車と赤色の普通乗用自動車が順次停車し,白
色の自動車から被告人が降車して走り出し,赤色の自動車から降車した男が被告人
を追い掛け,被告人が路上に倒れたところ,男が被告人に馬乗りになり,持ってい
たマイナスドライバーを被告人の首辺りに突き付ける格好をした,自分は,外国人
同士のけんかだと思いびっくりした,自分が,被告人らの方に近づいて行ったとこ
ろ,男は,持っていたドライバーで白色の自動車のタイヤ付近を刺すような格好を
した後,赤色の自動車に乗り込んで,被告人に向かって3回くらい車を走らせて被
告人をひこうとした,その後,男が運転していた赤色の自動車が走り去ったので,
けんかが終わったと思っていたところ,バンという大きな音がし,音のした方を見
ると,赤色の自動車が再び戻ってきていて,被告人が,その車とc興業のブロック
塀の間に挟まれて,足から血を流していた,そこで,自分は,表に出ていた同僚に
救急車を呼ぶように依頼し,被告人に,「じっとしていろ」と言ったが,被告人
は,白色の自動車の方にはって行き,「手を貸して」と言ってきた,そこで,自分
が左の肩を貸すと,被告人は,右手を首の後ろに回して自分の右肩をつかんで立ち
上がり,白色の自動車の運転席のドアを開け,上半身を運転席に入れて,茶色っぽ
いポーチや物がたくさん入っている黒色ビニール袋を車内から取り出した,自分
が,再度,被告人に肩を貸して被告人を立たせ,塀に寄りかからせるようにして座
らせたところ,そのわずかの間に,どこにやったのか分からないが,被告人は黒色
のビニール袋を手にしていなかった,その後,救急車が到着したので,自分は,救
急隊員に被告人が車にひかれたと説明したが,被告人は,事故じゃないと言ってい
た。
(2)Aの供述の要旨は,以上のようなものであるところ,その供述内容は,具
体的かつ詳細で,不自然なところがなく,被告人とは全く面識のない同人が,偶
然,現場で被告人が赤色の車に乗っていた男に襲われ,車にひかれるなどした前後
の状況等,間近に目撃した事実を率直に供述しているもので,本件現場で,Aと同
様に,被告人の行動を目撃していたBの警察官に対する供述とも符合し,後記(3)
で認定する現場の客観的状況とも整合しているから,十分信用できる。
(3)そして,関係証拠から認められるところの,Aが,被告人に肩を貸して寄
りかからせたc興業のブロック塀の敷地の内側からは,公訴事実第2記載の覚せい
剤等の薬物の入った黒色ビニール袋が発見されていること,また,被告人が運転し
ていた前記白色の自動車のコンソールボックスの中から,被告人がなりすましてい
たイタリア人であるCあての平成12年11月21日付けから平成13年4月9日
付けまでの15枚のガソリンを給油した際の領収書と,運転席のサンバイザーの裏
側からC名義の国際自動車運転免許証1通が発見されていることなどを併せ考える
と,被告人は,赤色の自動車に追われて,白色の自動車を運転して本件現場付近に
至り,降車して逃げようとしたが,赤色の自動車の運転者に襲われ,同車とブロッ
ク塀に挟まれて右足に大けがを負ったものの,それにもかかわらず,居合わせたA
の助けを借りて立ち上がり,救急車が到着する以前に,白色の自動車内から,覚せ
い剤等の薬物の入った黒色ビニール袋を取り出し,これをc興業のブロック塀の内
側の敷地内に放り込んで隠匿した事実が合理的に推認できる。そして,以上の事実
によれば,被告人は,自己の管理する白色の自動車内で,公訴事実第2記載の覚せ
い剤等の薬物を,黒色ビニール袋に入れて保管していたと認められるから,覚せい
剤等の薬物を被告人が所持していたことは明らかである。
2(1)一方,被告人は,捜査,公判を通じて,被告人が運転していた白色の自動
車は,本件当日,Dと称する知人から運転を依頼されて乗っていたもので,途中,
Dの指示でガソリンスタンドで待機していた際,車内の掃除をしたところ,コンソ
ールボックスの中に黒色ビニール袋があり,その中に白い粉などが入っているのに
気が付き,麻薬などの怪しい物だと思い,後部トランクも確認したところ,ゴミ袋
のような袋にビニール袋が一杯入っていたので,掃除をやめてDが来るのを待って
いた,Dが赤色の自動車に乗ってきたので,車内の物が何かを聞いたところ,Dは
怒り出し,被告人の胸を2回殴り,赤色の自動車に付いてくるように命じたので,
仕方なく白色の自動車を運転して付いて行った,しかし,Dとこれ以上関わりたく
なかったので,途中で赤色の自動車を追い越し,本件現場で車を停めて降車して,
Dの自動車の方へ歩いて行くと,Dも車から降りてきて,被告人が「運転したくな
い」と言ったところ,けんかとなり,Dが折りたたみ式ナイフを取り出して襲って
きたので,その場から走って逃げた,その後,Dの運転する赤色の自動車にひか
れ,ブロック塀の間に足を挟まれ,その場に倒れた,その際,そこにいた人に肩を
借りたこともないし,白い粉などが入った黒色ビニール袋を白色の自動車内から外
に出したこともないと述べて弁解している。
(2)しかしながら,被告人の上記弁解供述は,先にみた信用できるA供述に明
らかに反する上,たまたま当日Dの指示で運転したという自動車内から,被告人が
なりすましていたCあての領収書が多数発見されたことについて合理的な説明がさ
れておらず,また,被告人は,白色の自動車内に麻薬等が入っていると思われる黒
色ビニール袋が存在していたと供述しているのに,車内からはそのようなビニール
袋が発見されていないのであって,客観的事実と明らかに矛盾している。のみなら
ず,供述内容自体も,被告人に自動車の運転を依頼したというDが,運転を断った
という理由だけで被告人に対してナイフで襲い掛かったり,被告人を車でひこうと
したというのも不可解というほかないから,到底信用できない。
3 以上の事実に加えて,関係証拠によれば,被告人が所持していた黒色ビニール
袋の中には,ビニール小袋32袋に小分けされた覚せい剤が約12.437グラ
ム,ストロー片29本に小分けされた大麻樹脂が約71.26グラム,ビニール小
袋16袋に小分けされた大麻樹脂が約15.58グラム,ビニール小袋6袋に小分
けされた大麻樹脂が約5.28グラム,ビニール袋に入れられたストロー片1本に
添付された大麻樹脂が約0.61グラム,ビニール小袋18袋に小分けされた大麻
が約17.65グラム,チャック付きビニール袋又はビニール小袋20袋に小分け
された乾燥大麻が約36.92グラム,チャック付きビニール袋1袋に小分けされ
たコカインが約0.812グラム,MDMA淡緑色錠剤が20錠及び黄土色錠剤が
12錠,銀紙63片に小分けされたLSDが約0.925グラム在中していたこと
が認められるところ,これらの覚せい剤や大麻,麻薬等の種類が多く,所持量も多
量であり,いずれも小分けされて密売に適した状態で保管されていたこと,上記の
各種の薬物の外にも,計量用のはかりや多数のストロー,ビニール小袋等が,被告
人の運転していた白色の自動車内から発見されていること,更に関係証拠からうか
がわれる被告人の収入の状況等をも併せ考えれば,被告人が,これらの薬物を営利
の目的で所持していたことを優に推認できる。
以上の理由により,判示第2のとおり,認定した次第である。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は出入国管理及び難民認定法70条2項(70条1項1
号,3条)に,判示第2の所為のうち,覚せい剤を営利目的で所持した点は覚せい
剤取締法41条の2第2項,1項に,大麻を営利目的で所持した点は大麻取締法2
4条の2第2項,1項に,麻薬を営利目的で所持した点は包括して麻薬及び向精神
薬取締法66条2項,1項にそれぞれ該当するが,判示第2は1個の行為が3個の
罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として最も
重い覚せい剤取締法違反罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示第1の罪につ
いては懲役刑を,判示第2の罪については情状により懲役刑及び罰金刑をそれぞれ
選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条
本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の
加重をし,その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役6年及び罰金100万円
に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中240日をその懲役刑に算入し,上
記罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に
換算した期間被告人を労役場に留置し,押収してある覚せい剤(ビニール小袋入
り)32袋は判示第2の罪に係る覚せい剤で犯人の所持するものであるから,覚せ
い剤取締法41条の8第1項本文により,同大麻樹脂(ストロー片入り)29本,
同大麻樹脂(塊のもの)3塊,同大麻樹脂(ビニール小袋入り)6本,同大麻樹脂
(ストロー片添付)1本,同大麻18袋及び同乾燥大麻20袋は,判示第2の罪に
係る大麻で犯人の所持するものであるから,大麻取締法24条の5第1項本文によ
り,同コカイン(チャック付きビニール袋入り)1袋,同MDMA(淡い緑色錠剤
で,YK2と刻してあるもの)15錠,同MDMA(黄土色錠剤で,XKと刻して
あるもの)8錠及びLSD(銀紙に包まれているもの)56片は,判示第2の罪に
係る麻薬で犯人の所持するものであるから,麻薬及び向精神薬取締法69条の3第
1項本文により,いずれもこれらを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項
ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,偽造パスポートを用いて本邦に密入国した上,不法に本邦に
在留し(判示第1の事実),覚せい剤,大麻樹脂,乾燥大麻,コカイン,MDM
A,LSDなどの違法な薬物を営利の目的で所持した(判示第2の事実)事案であ
る。
被告人は,イタリア人であるC名義の偽造パスポートを使用し,他国を経由して
本邦に密入国した上,不法在留したもので,在留期間が相当長期間に及んでいるこ
とに加え,過去に退去強制された処分歴があることを考えると,犯情は悪質であ
る。また,被告人は,営利の目的で,たくさんの種類の違法な薬物を,多くの量所
持していたばかりか,所持の態様が,いずれもビニール小袋等に小分けされて,い
つでも売却できる状態にあったことを考えると,これらの薬物が社会に拡散される
危険性は大きかったといえるのであり,極めて悪質である。加えて,被告人が,捜
査,公判を通じ,自己の刑責を免れるために不自然,不合理な弁解に終始してお
り,反省の態度が見られないことを併せ考えると,被告人の刑事責任は重いといわ
ざるを得ない。
 そうすると,被告人には,本邦における前科がないこと,判示第2の犯行の際に
負傷しており,現在も歩行するのに障害があることなど,被告人のためにしん酌し
得る事情を十分に考慮してみても,主文掲記の科刑は免れない。
(求刑 懲役8年及び罰金100万円並びに覚せい剤,大麻及び麻薬の没収)
【さいたま地方裁判所第三刑事部
裁判長裁判官川上拓一,裁判官森浩史,裁判官片岡理知】

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛