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平成14年(行ケ)第511号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年8月26日
判決
原       告    松下電工株式会社
同訴訟代理人弁理士 中川文貴
同安藤淳二
被       告    特許庁長官 小川洋
同指定代理人    藤原直欣
同田中秀夫
同小曳満昭
同涌井幸一
同宮下正之
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
(1) 特許庁が異議2001-70835号事件について平成14年8月23日
にした決定を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
 主文と同旨
第2 争いがない事実等
1 特許庁における手続の経緯
  (1) 原告は,平成11年9月30日,発明の名称を「ランプソケット及び放電
灯点灯装置」とする発明につき特許出願(特願平11-280154号)をした。
同出願について,特許庁は,特許をすべき旨の査定をし,平成12年7月21日,
特許第3090448号として設定登録がされた(以下,この特許権を「本件特
許」といい,本件特許に係る発明を「本件発明」という。)。
  (2) その後,A及び株式会社小糸製作所から本件特許について特許異議の申立
てがされ,同事件は異議2001-70835号として特許庁に係属した。同事件
の審理の過程において,原告は,平成13年10月16日付けで本件特許出願に係
る明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正を請求した。
  (3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成14年8月23日,上記訂
正を認めないとした上で,「特許第3090448号の請求項1乃至10に係る特
許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は同年9
月11日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨は,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1ないし10
に記載された次のとおりのものである(以下,請求項1ないし10に係る発明を,
それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)。
【請求項1】 放電灯が着脱自在に装着されるソケット部と,外部との電気的な
接続を行うためのコネクタ部と,複数の電子部品並びにこれら電子部品の少なくと
も一部と接続されて各電子部品間の配線路を形成するリードフレームを具備して放
電灯に高電圧を印加し起動する起動回路部と,起動回路部が納装されるケースとを
備え,ソケット部並びにコネクタ部がケースと一体に設けられたことを特徴とする
ランプソケット。
 【請求項2】 起動回路部を構成する電子部品としてトランスを含み,トランス
の2次側に発生する高電圧を放電灯に印加して起動することを特徴とする請求項1
記載のランプソケット。
 【請求項3】 ソケット部,コネクタ部並びにリードフレームを合成樹脂製のケ
ースに一体成形して成ることを特徴とする請求項1又は2記載のランプソケッ卜。
 【請求項4】 起動回路部の電子部品とリードフレーム又はリードフレーム同士
若しくは電子部品同士をレーザ溶接,スポット溶接,抵抗溶接又は半田付けにより
接続して成ることを特徴とする請求項1又は2又は3記載のランプソケット。
 【請求項5】 ケースと別体に形成されたソケット部並びにコネクタ部を振動又
は超音波を用いた溶着によりケースに溶着して成ることを特徴とする請求項1又は
2又は4記載のランプソケット。
 【請求項6】 ソケット部,コネクタ部及びケースの略全体を覆う導電体を設け
たことを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のランプソケット。
 【請求項7】 ソケット部は,放電灯が有する口金と嵌合する略円筒状に形成さ
れ,口金の周部から突設された係合突起が挿入される挿入用溝と,挿入用溝に連通
し且つ放電灯を回動させることで係合突起が係合される係合溝部と,係合溝部に並
行するスリットとが周部に設けられて成ることを特徴とする請求項1~6の何れか
に記載のランプソケット。
 【請求項8】 電子部品とリードフレームを両者の接続部位を除いて透光性を有
する樹脂で封止固定して成ることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のラン
プソケット。
 【請求項9】 電子部品のリードが挿通される挿通孔をリードフレームに設け,
挿通孔の周縁で電子部品のリードとリードフレームを接続して成ることを特徴とす
る請求項4記載のランプソケット。
 【請求項10】 電源からの電源供給を受けて放電灯に電力を供給して点灯する点
灯回路部と,トランスを含む複数の電子部品並びにこれら電子部品の少なくとも一
部と接続されて各電子部品間の配線路を形成するリードフレームを具備してトラン
スの2次側に発生させた高電圧を放電灯に印加して起動する起動回路部,点灯回路
部と起動回路部を接続するコネクタ部,放電灯が着脱自在に装着されるソケット
部,起動回路部が納装されるとともにソケット部並びにコネクタ部と一体に設けら
れたケースを有するランプソケットとを備えたことを特徴とする放電灯点灯装
置。」
 3 本件決定の理由の要旨は,次のとおりである(甲1)。
(1) 本件発明1について
   ア 本件発明1と特開平11-185504号公報(以下「刊行物1」とい
う。)に記載の発明(以下「引用発明1」という。)とは,「放電灯が着脱自在に
装着されるソケット部と,外部との電気的な接続を行うためのコネクタ部と,複数
の電子部品を具備して放電灯に高電圧を印加し起動する起動回路部と,起動回路部
が納装されるケースとを備え,ソケット部並びにコネクタ部がケースと一体に設け
られたランプソケット」である点(以下「一致点1」という。)で一致し,本件発
明1においては「(複数の)電子部品の少なくとも一部と接続されて各電子部品間
の配線路を形成するリードフレーム」を用いたのに対し,引用発明1においては,
各電子部品がプリント基板に実装されているところから,各電子部品間の配線路を
プリント基板を用いて形成した点(以下「相違点1」という。)で相違する。
   イ 相違点1について検討すると,特開平11-260575号公報(以下
「刊行物2」という。)には,放電ランプの始動装置におけるコンデンサ(C1)
と自動開閉器(F1)[本件発明1の「複数の電子部品」に相当]を,導電性材料
からなる板(1)[本件発明1の「リードフレーム」に相当。]で接続する構成が
記載されている。
     そして,引用発明1と刊行物2に記載されたものとは,放電灯起動装置
という同一の技術分野に属するものであるから,複数の電子部品間の配線路の形成
に際し,引用発明1におけるプリント基板に替えて刊行物2に開示されたリードフ
レームを採用する程度のことは,当業者が容易に想到し得るところであり,それを
阻害する格別の要因も何ら見出せない。
   ウ 本件発明1により奏される効果は,引用発明1及び刊行物2に記載の発
明(以下「引用発明2」という。)から予測し得る範囲のものである。
   エ したがって,本件発明1は引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものと認められる。
  (2) 本件発明2について
    本件発明2は,本件発明1において,さらに「起動回路部を構成する電子
部品としてトランスを含み,トランスの2次側に発生する高電圧を放電灯に印加し
て起動する」構成を加えて限定するものであるが,この構成は,「点灯トランス」
を起動回路部に有する引用発明1に実質的に包含されているものである。
    したがって,本件発明2は,前記(1)での検討内容を加味すれば,引用発明
1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めら
れる。
  (3) 本件発明3について
    本件発明3は,本件発明1又は2において,さらに「ソケット部,コネク
タ部並びにリードフレームを合成樹脂製のケースに一体成型して成る」構成を加え
て限定するものである。
    しかしながら,「ソケット部,コネクタ部を合成樹脂製のケースに一体成
型して成る」構成は,引用発明1において「ソケット並びにコネクタが合成樹脂製
本体ケースと一体に設けられた」構成として具備されているところである。
    また,特開平11-111352号公報(以下「刊行物3」という。)に
は,電子部品が接続されるバスバー(「リードフレーム」に相当。)をインサート
モールド(「一体成型」に相当。)で合成樹脂製の部材に固定する技術が開示され
ているところから,リードフレームを合成樹脂製の部材に一体成型することは周
知・慣用の技術であるといえる。
    そうすると,「ソケット部,コネクタ部を合成樹脂製のケースに一体成型
して成る」引用発明1に,リードフレームを採用する際に,該リードフレームをも
一体成型することにより,本件発明3の上記限定した構成とすることは,当業者が
容易になし得る程度の事項である。
    したがって,本件発明3は,前記(1)及び(2)での検討内容を加味すれば,
引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものと認める。
  (4) 本件発明4について
    本件発明4は,本件発明1,2又は3において,さらに「起動回路部の電
子部品とリードフレーム又はリードフレーム同士若しくは電子部品同士をレーザ溶
接,スポット溶接,抵抗溶接又は半田付けにより接続して成る」構成を加えて限定
するものであるが,この接続構成については,「金属板1(「リードフレーム」に
相当。)上に配置された構造要素(「電子部品」に相当。)は種々の結合技術,例
えばろう付け,高周波ろう付け,高周波溶接,レーザー溶接,超音波溶接,点溶接
によって・・・金属板1に固定することができる。」として刊行物2に開示されて
いるところである。
    したがって,本件発明4は,前記(1)ないし(3)での検討内容を加味すれ
ば,引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明を
することができたものと認められる。
  (5) 本件発明5について
    本件発明5は,本件発明1,2又は4において,さらに「ケースと別体に
形成されたソケット部並びにコネクタ部を振動又は超音波を用いた溶着によりケー
スに溶着して成る」構成を加えて限定するものであるが,例えば刊行物3にも「2
枚の閉塞盤22,23とケース30とは,樹脂ロックや,熱溶着あるいは超音波溶
着のような樹脂カシメによって固定される。」と記載されているように,別体の樹
脂部材を溶着するにあたって,超音波溶着等を用いることは周知技術であり,かか
る周知技術を引用発明1に施して,本件発明5の上記限定された構成とすることも
任意である。
    したがって,本件発明5は,前記(1),(2)又は(4)での検討内容を加味すれ
ば,引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明を
することができたものと認められる。
  (6) 本件発明6について
    本件発明6は,本件発明1ないし5のいずれかにおいて,さらに「ソケッ
ト部,コネクタ部及びケースの略全体を覆う導電体を設けた」構成を加えて限定す
るものであるが,特開平10-3816号公報(以下「刊行物4」という。)に
は,放電ランプの点弧装置(起動回路部)において,「誘導形の構成エレメント2
2はポット状のケーシング部分34によって取り囲まれている。・・・ケーシング
部分34は,有利には電磁放射線をシールドする材料,有利には金属・・・から成
っている。」及び「コネクタ部分56は,導電性材料,例えば金属から成るポット
状のケーシング部分58を有している。」として,導電性材料で上記点弧装置を遮
蔽する技術が開示されており,起動回路部や放電灯からのノイズを抑制するために
上記技術を引用発明1に付加することにより,本件発明6の上記限定された構成と
することは,当業者が必要に応じて適宜なし得るところである。
    したがって,本件発明6は,前記(1)ないし(5)での検討内容を加味すれ
ば,引用発明1及び2並びに刊行物3及び4に記載の発明に基いて当業者が容易に
発明をすることができたものと認められる。
  (7) 本件発明7について
    本件発明7は,本件発明1ないし6のいずれかにおいて,さらに「ソケッ
ト部は,放電灯が有する口金と嵌合する略円筒状に形成され,口金の周部から突設
された係合突起が挿入される挿入用溝と,挿入用溝に連通し且つ放電灯を回動させ
ることで係合突起が係合される係合溝部と,係合溝部に並行するスリットとが周部
に設けられて成る」構成を加えて限定するものであるが,かかる限定された構成
は,ランプソケットの構造として周知のものにすぎない(例えば,特開昭62-2
37684号公報参照。)。
    したがって,本件発明7は,前記(1)ないし(6)での検討内容を加味すれ
ば,引用発明1及び2,刊行物3及び4に記載の発明並びに上記周知技術に基いて
当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
  (8) 本件発明8について
    本件発明8は,本件発明1ないし7のいずれかにおいて,さらに「電子部
品とリードフレームを両者の接続部位を除いて透光性を有する樹脂で封止固定して
成る」構成を加えて限定するものであるが,車両等において,耐振性かつ耐候性が
要求される状態で使用する電子部品やリードフレーム等を樹脂で封止固定すること
は熟知されていることであり,また,樹脂封止後に被封止部品の存在を確認し得る
ように透光性の樹脂を用いることは各種分野で採用されている周知・慣用手段にす
ぎない。
    したがって,本件発明8は,前記(1)ないし(7)での検討内容を加味すれ
ば,引用発明1及び2,刊行物3及び4に記載の発明並びに上記周知技術に基いて
当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
  (9) 本件発明9について
    本件発明9は,本件発明4において,さらに「電子部品のリードが挿通さ
れる挿通孔をリードフレームに設け,挿通孔の周縁で電子部品のリードとリードフ
レームを接続して成る」構成を加えて限定するものであるが,刊行物3には,バス
バー11,12(リードフレーム)に設けられたスリット15a,16a,17a
の周縁で電子部品4のリード線4b,4bを接続する態様として,上記の限定され
た構成が開示されている。
   したがって,本件発明9は,前記(1)ないし(4)での検討内容を加味すれ
ば,引用発明1及び2並びに刊行物3に記載の発明に基いて当業者が容易に発明を
することができたものと認められる。
  (10) 本件発明10について
   ア 本件発明10と引用発明1とは,「トランスを含む複数の電子部品を具
備してトランスの2次側に発生させた高電圧を放電灯に印加して起動する起動回路
部,コネクタ部,放電灯が着脱自在に装着されるソケット部,起動回路部が納装さ
れるとともにソケット部並びにコネクタ部と一体に設けられたケースを有するラン
プソケット」である点(以下「一致点2」という。)で一致し,次の点で相違す
る。
    (ア) 本件発明10においては「電源からの電源供給を受けて放電灯に電
力を供給して点灯する点灯回路部」を設け,「ランプソケット」と共に「放電灯点
灯装置」を構成しているのに対し,引用発明1においては点灯回路部が構成として
明確にされていない点(以下「相違点2」という。)
    (イ) 本件発明10においては「(複数の)電子部品の少なくとも一部と
接続されて各電子部品間の配線路を形成するリードフレーム」を用いたのに対し,
引用発明1においては,各電子部品がプリント基板に実装されているところから,
各電子部品間の配線路をプリント基板を用いて形成した点(以下「相違点3」とい
う。),
    (ウ) コネクタ部に関して,本件発明10においては「点灯回路部と起動
回路部を接続する」ものであるのに対し,引用発明1においては該接続態様が明確
にされていない点(以下「相違点4」という。)
   イ 次に相違点について検討する。
    (ア) 相違点2及び4について
      特開平8-298190号公報(以下「刊行物5」という。)に見ら
れるように,電源からの電源供給を受けて放電灯に電力を供給して点灯する安定化
回路(「点灯回路部」に相当。)がランプソケットと共に放電灯点灯装置を構成す
ること,及び,ケースの電源側の接続部位で該安定化回路(点灯回路部)が始動回
路(「起動回路部」に相当。)に接続される構成とすることは周知の事項であるか
ら,ランプソケットである引用発明1において,点灯回路部を設けて放電灯点灯装
置となすこと,及び,ケースの電源側の接続部位であるコネクタを介して該点灯回
路部を起動回路部と接続することは,当業者であれば容易に想到し得る程度のもの
である。
    (イ) 相違点3について
      相違点3は,前記(1)における相違点1と同一であり,相違点3につい
ての判断は前記(1)イで既に検討したとおりである。
   ウ そして,本件発明10により奏される効果は,引用発明1及び2並びに
刊行物5に記載の発明から予測し得る範囲のものである。
     したがって,本件発明10は引用発明1及び2並びに刊行物5に記載の
発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
  (11) むすび
    以上のとおりであって,本件発明1ないし10は,上記の各刊行物に記載
された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから,本件発明1ないし10についての特許は,特許法29条2項の規定に違反
してなされたものである。
第3 当事者の主張
 (原告の主張する本件決定の取消事由)
1 取消事由1(本件発明1の進歩性に関する判断誤り)
(1) 引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件発明1の「リードフ
レーム」に相当するとした本件決定の認定について
ア「リードフレーム」なる用語は,様々な意味で用いられており,本件発
明1において,「リードフレーム」は,本件明細書の「発明の詳細な説明」及び本
件特許の願書添付の図面の記載を参照して,それらに記載された特定の構造・機能
を持つものとして認定されるべきである。
   イ(ア) 本件明細書の「発明の詳細な説明」等には,次のとおりの記載があ
る。
a「コネクタ部12は略角筒状であってケース14のメイン回路収納部
14aの一側面より外側へ突設されている。ここで,各々異なるリードフレーム1
31~133の端部に接続された3本の入力端子16a,16b,16cが,その長
手方向をコネクタ部12の軸方向に一致させ且つコネクタ部12の内部に突出する
ようにしてケース14の側面に植設されている。」(段落【0020】)
     b 「ソケット部11は円筒形の有底筒状であって・・・ケース14の
トランス収納部14bの底面より外側へ突設されている。ソケット部11では主電
極として,放電灯LAの口金105の中央電極106に接触する中央電極17と,
放電灯LAの口金105の外周電極107に接触する外周電極18とを有し,さら
に中央電極17を間にして外周電極18と対向する位置に外周電極18と同構成の
補助電極19を設けている。」(段落【0021】)
     c 「ケース14内部の周縁近傍に3本のリードフレーム131~133
が配置されており,これら3本のリードフレーム131~133の一端部にそれぞれ
入力端子16a~16cが・・・適宜の手段で接続されている。また,ケース14
内部の中心部には一端部が中央電極17と接続されたリードフレーム134が配置
され,その周囲には一端部がそれぞれ外周電極18及び補助電極19に接続された
リードフレーム135,136が配置されている。」(段落【0024】)
     d 「ケース14のトランス収納部14bにパルストランスPTを収納
し,その上から複数のリードフレーム131・・・をケース14内に 収納配置し
てリードフレーム131・・・とパルストランスPTの1 次巻線15a及び2次
巻線15bとを接続した後,端子10cをリードフレーム131・・・の凹溝13
aに載置するようにしてケース1 4内に電子部品10bを収納するとともに,リ
ード131・・・と端子10cを・・・適宜の手段で接続することで起動回路部1
0が形成できる。」(段落【0025】)などとの記載がある。
     e また,図6~8には,本件の発明の実施形態におけるリードフレー
ムの構成が示されている
(イ) 本件明細書及び図面の上記(ア)の各記載と,本件発明1が,「小型
化が可能なランプソケット及び放電灯点灯装置を提供すること」(本件明細書の段
落【0005】)という課題を解決するためになされたものであり,また,「従来
例においてはプリント基板に電子部品を実装することで起動回路が構成されていた
が,本発明では起動回路部10の電子部品10bをリードフレーム131・・・で
電気的に接続しているためにプリント基板を使用する必要が無(い)」(同段落
【0026】)という作用を奏するものであることを合わせて考慮すると,本件発
明1における「リードフレーム」とは,「複数の電子部品並びにソケット部及びコ
ネクタ部の端子に合わせて水平,垂直に折り曲げられて配線路を形成する立体的な
形状を有するもの」と解すべきである。
 ウ刊行物2の「導電性材料からなる板(1)」
   刊行物2には,放電ランプの始動装置に関する発明が記載されている。
この発明における「導電性材料からなる板(1)」は,コンデンサ(C1)の電気
接続端子及び自動開閉器(F1)の電気接続端子が導電的に接続されるものであ
る。
     刊行物2には,「板(1)が金属板あるいは帯状板金であること」
(【請求項2】),「この板が1つあるいは複数の折り曲げあるいは湾曲部分を有
していると有利である。これによって板およびこの上に固定された電子部品から成
る始動装置の構造ユニットを種々に形成された中空室に合わせることができる。」
(段落【0008】)との記載があり,「導電性材料からなる板(1)」を折り曲
げたり湾曲させたりしてもよいことが開示されている。
     しかし,刊行物2では,「この板が・・・折り曲げあるいは湾曲部分を
有していると有利である。これによって板およびこの上に固定された電子部品から
成る始動装置の構造ユニットを種々に形成された中空室に合わせることができ
る。」と記載されているのであって,刊行物2の上記記載は,この構造ユニットの
形状を,例えばランプ口金で構成される中空室の形状に合わせた上で,このランプ
口金内に組み込むことができる(段落【0007】)という意味を有するにすぎな
い。すなわち,刊行物2では,始動装置をランプ口金内に組み込むことができるよ
うに,「導電性材料からなる板(1)」を折り曲げあるいは湾曲することによっ
て,「始動装置の形状」をランプ口金で構成される「中空室の形状」に合わせても
良いことが示唆されているに止まるものである。現に,刊行物2の段落【001
1】以下の発明の実施の形態の欄及び図面に示された実施例を見ても,発光管(1
1)(本件発明1における放電灯に相当する。)が接続される電極(13,14)
(本件発明1における出力端子に相当する。)は,始動装置からリード(15,1
6)を介して接続されている。
   エ 上記イで述べたとおり,本件発明1における「リードフレーム」は,複
数の電子部品並びにソケット部及びコネクタ部の端子に合わせて水平,垂直に折り
曲げられて配線路を形成する立体的な形状を有するもの」であると解すべきとこ
ろ,上記ウで見たとおり,引用発明2における「導電性材料からなる板(1)」は
これとは異なるものであるから,本件決定が,引用発明2における「導電性材料か
らなる板(1)」が本件発明1における「リードフレーム」に相当すると認定した
ことは誤りである。
(2) 本件発明1の進歩性に関する判断について
前記(1)に述べたとおり,引用発明2における「導電性材料からなる板
(1)」は本件発明1における「リードフレーム」に相当するものではないという
べきであり,したがって,これと異なる認定を前提として,本件発明1は引用発明
1及び2から容易に想到することができるとした本件決定の判断は誤りである。
2 取消事由2(本件発明2ないし9の進歩性に関する判断誤り)
本件発明1の進歩性に関する判断は誤りであるから,本件発明1が進歩性を
有しないことを前提として,本件発明2ない9の進歩性を否定した本件決定の判断
は誤りである。
3 取消事由3(本件発明10の進歩性に関する判断誤り)
前記1(1)で述べたのと同様の理由により,引用発明2における「導電性材料
からなる板(1)」は本件発明10における「リードフレーム」に相当するもので
はないというべきであり,したがって,これと異なる認定を前提として,引用発明
2に開示された発明から本件発明10の相違点3に係る構成を想到することは容易
であるとし,本件発明10の進歩性を否定した本件決定の判断は誤りである。
(被告の反論)
1 取消事由1(本件発明1の進歩性に関する判断の誤り)について
(1)引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件発明1の「リードフ
レーム」に相当するとした本件決定の認定について
   ア原告は,本件発明1における「リードフレーム」とは「複数の電子部品
並びにソケット部及びコネクタ部の端子に合わせて水平,垂直に折り曲げられて配
線路を形成する立体的な形状を有するもの」と解すべきである旨主張する。
     原告のこの点の主張は,本件明細書の「特許請求の範囲」の記載には,
最高裁平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁でいう「特許請求の範囲の
記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」という「発明の詳細
な説明の記載を参酌することが許される特段の事情」があることを前提とした主張
と考えられるが,本件明細書の「特許請求の範囲」には,上記最高裁判決でいう特
段の事情はないから,原告の上記主張は,その前提において誤っている。
     仮に,本件発明1における「リードフレーム」の意味内容を確定するに
ついて,本件明細書の「発明の詳細な説明」等の記載を参酌することが許されると
しても,原告の上記主張は,根拠を欠き失当である。
     すなわち,原告が「リードフレーム」の語を上記のように解釈すべきと
する根拠として挙げる本件明細書の「発明の詳細な説明」や本件特許の願書添付の
図面の記載は,いずれも,本件明細書の「特許請求の範囲」でいう「リードフレー
ム」の語を定義した記載ではないのであり,上記「発明の詳細な説明」等の記載を
参酌したとしても,「リードフレーム」の語を原告主張のように解釈すべき理由は
ない。
     原告の上記主張は,本件明細書の「特許請求の範囲」に何ら限定のない
「リードフレーム」の語を,本件明細書に記載の実施例のもののように限定的に解
釈すべきであると主張するものであり,そのような主張が,「発明の要旨の認定
は,特許請求の範囲に基づいてされるべきである」旨の上記最高裁判決の判事事項
や,該最高裁判決の根拠とされている特許法36条の規定の趣旨に照らして失当で
あることは明らかである。
     なお,「リードフレーム」の語が原告主張のように明確でないものとす
ると,本件明細書の「特許請求の範囲」の記載は特許法36条6項2号の要件を満
たしていないことになるから,ここでの原告主張は,本件特許出願が拒絶されてし
かるべきものであることを自認するものと解され,主張自体失当なものというべき
ものでる。
 イ上記アで述べたとおり,本件発明1における「リードフレーム」を原告
主張のように限定的に解すべき根拠はなく,それは文字どおりものと解すべきであ
る。そして,引用発明2には,放電ランプの始動装置における複数の電子部品を本
件発明1の「リードフレーム」と同様に電気を導く機能を有する部材である「導電
性材料からなる板(1)」で接続することが開示されており,引用発明2の「導電性材
料からなる板(1)」が本件発明1の「リードフレーム」に相当するとした本件決定の
認定に誤りはない。
(2) 本件発明1の進歩性に関する判断について
前記(1)イで述べたとおり,引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が
本件発明1の「リードフレーム」に相当するとした本件決定の認定に誤りはなく,
同認定が誤っていることを前提に,本件発明1の進歩性を否定した本件決定の判断
の誤りをいう原告の主張は失当である。
2 取消事由2(本件発明2ないし9の進歩性に関する判断の誤り)について
前記1で述べたとおり,本件発明1の進歩性を否定した本件決定の判断に誤
りはないから,同判断に誤りがあることを前提に本件発明2ないし9の進歩性を否
定した本件決定の判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
3 取消事由3(本件発明10の進歩性に関する判断の誤り)について
前記1で述べたのと同様,引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件
発明10の「リードフレーム」に相当するとした本件決定の認定に誤りはなく,同
認定が誤っていることを前提に,本件発明10の進歩性を否定した本件決定の判断
の誤りをいう原告の主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の進歩性に関する判断の誤り)について
 (1)引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件発明1の「リードフ
レーム」に相当するとした本件決定の認定について
   ア 本件発明1における「リードフレーム」について
     原告は,本件発明1において「リードフレーム」は,本件明細書の「発
明の詳細な説明」及び本件特許の願書添付の図面の記載を参照して,それらに記載
された特定の構造・機能を有するものとして理解されるべきであるとし,本件発明
1における「リードフレーム」とは,「複数の電子部品並びにソケット部及びコネ
クタ部の端子に合わせて水平,垂直に折り曲げられて配線路を形成する立体的な形
状を有するもの」と解すべきである旨主張する。
     しかしながら,本件明細書(甲2)の「特許請求の範囲」の請求項1で
は,リードフレームについては,「これら電子部品の少なくとも一部と接続されて
各電子部品間の配線路を形成するリードフレームを具備して放電灯に高電圧を印加
し起動する起動回路部」と記載されいるにすぎない。そして,「リードフレーム」
とは一般に導電性の板状のものを意味するものであるところ,上記の記載によれ
ば,上記請求項1において,「リードフレーム」は,その文言どおりのものとし
て,①複数の電子部品の少なくとも一部と接続すること,②各電子部品間の配線路
を形成していること及び③起動回路部に具備されているものであることが規定され
ているということができる。
     上記請求項1には,「リードフレーム」の形状については何らの記載も
なく,また,同請求項1に記載のない「リードフレーム」の形状について,本件発
明1の構成要件として解釈しなければならない特段の事情は認められない。
イ 引用発明2における「導電性材料からなる板(1)」について
    (ア)刊行物2(甲4)には,「放電ランプの始動装置及び放電ランプ」
に関して,以下の事項が記載されている。
     a 「始動装置の給電用の電圧入力端(J1,J2,J3),始動電圧
出力端(J4,J5),少なくとも1つの第1の電気接続端子と少なくとも1つの
第2の電気接続端子とを備えたコンデンサ(C1),少なくとも1つの第1の電気
接続端子と少なくとも1つの第2の電気接続端子とを備えた自動開閉器(F1),
および少なくとも1つの1次巻線(N1)と少なくとも1つの2次巻線(N3)と
を有する変成器(TR)を備えた放電ランプの始動装置において,この始動装置が
導電性材料から成る板(1)を有し,この板(1)に少なくともコンデンサ(C
1)および自動開閉器(F1)が固定され,コンデンサ(C1)の少なくとも1つ
の第1の電気接続端子および自動開閉器(F1)の少なくとも第1の電気接続端子
が板(1)に導電的に接続されていることを特徴とする放電ランプの始動装置」
(【請求項1】)
     b 「板(1)が金属板あるいは帯状板金であることを特徴とする請求
項1記載の始動装置」(【請求項2】)
c 「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,特に放電ラン
プのランプ口金の中に簡単に組み込むことができるような放電ランプの始動装置を
提供することにある。
 【問題を解決する手段】この課題は,本発明に基づいて,始動装置が
導電性材料から成る板を有し,この板に少なくともコンデンサおよび自動開閉器が
固定され,コンデンサの少なくとも1つの第1の電気接続端子および自動開閉器の
少なくとも第1の電気接続端子が板に導電的に接続されているに(注:「に」は
「ことに」の誤記と認める。)よって解決される。本発明の特に有利な実施態様は
各従属請求項に記載されている。」(段落【0005】,【0006】)
d「導電性材料から成る板を利用することによって,始動装置のコン
デンサおよび自動開閉器を予め製造された構造ユニットとして形成すること,およ
び例えばランプ口金の中に組み込むことができる。板が導電性材料から成っている
ので,この板はコンデンサおよび自動開閉器を保持するために使用できるだけでな
く,補助的にこれらの構造要素間の電気接触片をも作り上げる。」(段落【000
7】)
     e 「板が金属板あるいは帯状板金として形成されていると有利であ
る。というのは,金属板および帯状板金は一方では良導電性を有し他方ではコンデ
ンサおよび自動開閉器を固定するために十分な強度を有し任意の形状に成形できる
からである。この板がその上に配置された電気構造要素に給電するために少なくと
も1つの電気接続端子を備えていると有利である。更にこの板が1つあるいは複数
の折り曲げあるいは湾曲部分を有していると有利である。これによって板およびこ
の上に固定された電子部品から成る始動装置の構造ユニットを種々に形成された中
空室に合わせることができる。」(段落【0008】)
     f 「始動装置の構成要素はランプ口金10の内部空間内に収納されて
いる。変成器TRは環状鉄心変成器として形成され,ランプ口金10の内部に両ラ
ンプ管11,12に対して同軸的に配置されている。始動コンデンサC1および火
花ギャップF1がそれぞれその上に固定されたリングセグメント状の湾曲金属板1
は,ランプ口金10の内部におけるそれに合わせて形成された収容装置の中に配置
されている。」(段落【0013】)
     g 「金属板1上に配置された構造要素は種々の結合技術,例えばろう
付け,高周波ろう付け,高周波溶接,レーザー溶接,超音波溶接,点溶接によって
あるいは例えばクランプや差込みのような機械的接続技術によって金属板1に固定
することができる。」(段落【0016】)
(イ)上記刊行物2の記載によれば,刊行物2には,放電ランプの始動装
置において,複数の電子部品の一部,少なくともコンデンサ(C1)及び自動開閉
器(F1)を「導電性の材料から成る板(1)」で接続する構成が開示されている
ことが認められ,この「導電性の材料から成る板(1)」は,始動装置(起動装
置)に備わる導電性の板であり,始動装置の複数の電子部品の一部を接続し,その
各部品間の配線路の一部を形成するものであることが明らかである。
   ウ 以上によれば,引用発明2における「導電性の材料から成る板(1)」
は本件発明1における「リードフレーム」に相当するというべきであり,この点に
関する本件決定の認定に誤りはない。
原告の上記主張は,「リードフレーム」の意義について本件明細書の
「特許請求の範囲」に基づかない解釈に基づき本件決定の認定を論難するものであ
り,失当である。
 (2) 本件発明1の進歩性に関する判断について
本件発明1と引用発明1とが一致点1で一致し,相違点1(本件発明1に
おいては「(複数の)電子部品の少なくとも一部と接続されて各電子部品間の配線
路を形成するリードフレーム」を用いたのに対し,引用発明1においては,各電子
部品がプリント基板に実装されているところから,各電子部品間の配線路をプリン
ト基板を用いて形成した点)で相違することは当事者間に争いがない。
相違点1についてみるに,前記(1)イに認定したとおり,刊行物2には,放
電ランプの始動装置における複数の電子部品の一部,すなわち「コンデンサ(C
1)」と「自動開閉器(F1)」を,「導電性材料からなる板(1)」で接続する
構成が開示されており,この「導電性材料からなる板(1)」が本件発明1におけ
る「リードフレーム」に相当するものであることは前記(1)で説示したとおりであ
る。
    しかして,引用発明1と引用発明2とは放電灯起動装置という同一の技術
分野に属するものと認められるから,引用発明1において相違点1に係る本件発明
1の構成を採用することは,引用発明1及び2に接した当業者において容易に想到
し得ることというべきであり,また,本件発明1の奏する効果も,引用発明1及び
2から予測し得る範囲を出るものとはいえない。この点に関する本件決定の判断に
誤りはない。
原告は,引用発明2の「導電性材料からなる板(1)」が本件発明1の
「リードフレーム」に相当するとした本件決定の認定が誤りであることを前提に,
本件発明1の進歩性を否定した本件決定の判断を論難するものであって,その前提
を欠き失当である。
2 取消事由2(本件発明2ないし9の進歩性に関する判断の誤り)について
本件発明1の進歩性に関する本件決定の判断に誤りがないことは,前記1(2)
に説示したとおりである。
本件発明1の進歩性に関する本件決定の判断が誤りであることを前提に,本
件発明2ないし9の進歩性に関する本件決定の判断の誤りをいう原告の主張は,そ
の前提を欠き失当というべきである。
3 取消事由3(本件発明10の進歩性に関する判断の誤り)について
本件発明10と引用発明1とが一致点2で一致し,相違点3(本件発明10
においては「(複数の)電子部品の少なくとも一部と接続されて各電子部品間の配
線路を形成するリードフレーム」を用いたのに対し,引用発明1においては,各電
子部品がプリント基板に実装されているところから,各電子部品間の配線路をプリ
ント基板を用いて形成した点)等で相違することは当事者間に争いがない。
相違点3は相違点1と同一であるところ,前記1の(1)イに認定したとおり,
刊行物2には,放電ランプの始動装置における複数の電子部品の一部を「導電性材
料からなる板(1)」で接続する技術事項が開示されており,また,前記1の(1)で
説示したのと同様の理由により,上記技術事項における「導電性材料からなる板
(1)」は本件発明10の「リードフレーム」に相当するというべきである。
   したがって,引用発明1において相違点3に係る本件発明の構成を採用する
ことは,引用発明2に接した当業者において容易に想到し得ることというべきであ
る。
   本件発明10における「リードフレーム」が引用発明2の「導電性材料から
成る板(1)」に相当するとした本件決定の認定が誤りであることを前提に,本件
決定の相違点3に関する判断,ひいては本件発明10の進歩性に関する判断の誤り
をいう原告の主張は,その前提を欠き失当というべきである。
4 以上によれば,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がな
く,その他本件決定にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官    北  山  元  章
   裁判官      青  栁     馨
         裁判官   沖  中  康  人

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