弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1 被告関東運輸局長が、原告に対し、平成14年10月17日付け行政文書不開
示決定通知書(関総総第116号の2)をもってした行政文書不開示決定処分を取
り消す。
2 原告の被告国に対する請求を棄却する。
3 訴訟費用のうち、原告と被告関東運輸局長との間に生じた費用は被告関東運輸
局長の負担とし、原告と被告国との間に生じた費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 (主位的請求)
被告関東運輸局長が、原告に対し、平成14年10月17日付け行政文書不開示決
定通知書(関総総第116号の2)をもってした行政文書不開示決定処分を取り消
す。
(予備的請求)
被告関東運輸局長は、原告に対し、上記不開示決定に係る各行政文書を開示せよ。
2 被告国は、原告に対し、金25万円及びこれに対する平成14年10月17日
から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 上記1項について仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、被告関東運輸局長(以下「被告局長」という。)が、原告のした行政文書
開示請求に対し、開示請求に係る文書の一部は、行政文書の特定をすることができ
ないため、その余の部分は、開示請求に係る行政文書が不存在であるとして行った
行政文書不開示決定は違法であるとして、原告が、主位的に上記不開示決定の取消
しを、予備的に各文書の開示を求めるとともに、被告局長の上記不開示決定によ
り、精神的損害等を受けたとして、被告国に対し、その賠償を求める事案である。
1 前提となる事実(括弧内に認定根拠を掲げた事実のほかは当事者間に争いのな
い事実か、弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)
(1) 原告は、平成14年9月13日、被告局長に対し、行政機関の保有する情報の
公開に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、同月11日付け行政
文書開示請求書(甲1、以下「本件開示請求書」という。)を提出し、行政文書開
示請求をした(以下「本件開示請求」という。)。
本件開示請求書には、請求する行政文書の名称等として、「練馬の事務所での
(『教習車』)の申請書一式すべて(全年度分)」、「八王子の事務所での『教習
車』の登録をされ申請書等で『専ら使用』が書面でかくにんできないもの申請書一
式すべて(全年度分)」等と記載されていた。
(2) 被告局長は、同年9月20日付けで、原告に対し、法4条2項に基づき、本件
開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項を明らかにするよう補正を求めた
(甲2)。
(3) 原告は、同月30日、被告局長に対し、前項の補正として、本件開示請求に係
る行政文書の名称等は、「①新規検査、中古新規検査、構造変更検査等を東京陸運
支局練馬検査登録事務所および東京陸運支局八王子検査登録事務所で、行われ、車
体の形状が『教習車』で登録された時の車両に関する申請書類の一切(すべて)の
平成14、13、12、11、10、09、08、07、年度申請分すべて」(以
下「本件文書①」という。)及び「②上記①の東京陸運支局八王子検査登録事務所
分は、『教習車』に登録するために、教習用や試験用などに『専ら使用』すること
を確認する書類『都道府県警察本部から交付された、指定自動車教習所路上教習用
自動車証明書又は指定外自動車教習所路上教習用自動車証明書の写し』が含まれて
いないものの登録された時の車両に関する申請書類の一切(すべて)の平成14、
13、12、11、10、09、08、07、年度申請分すべて」(以下「本件文
書②という。)である旨の補正書(甲3)を提出した。
(4) 被告局長は、同年10月17日付けで、原告に対し、本件文書①については、
「自動車登録番号及び申請された年月日が不明であり、『教習車』ということのみ
では行政文書の特定をすることができないため」、本件文書②については、「該当
する行政文書はなく、不存在のため」という理由で、法9条2項に基づき、行政文
書不開示決定(以下「本件処分」という。)をし、原告に通知した(甲4)。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は、①本件文書①について、本件処分の適法性、(争点1)、②本件文
書②について、本件処分の適法性(争点2)、③被告国に国家賠償責任が認められ
るか(争点3)の3点であり、これらの点に関する当事者の主張は、以下のとおり
である。
(1) 争点1(本件文書①について、本件処分の適法性)について
ア 被告らの主張
(ア) 対象文書の特定の意義
法4条1項2号が、開示請求に際し、開示請求に係る行政文書を特定するに足りる
事項を記載した書面の提出を求めているのは、請求対象文書を特定し得ることが、
行政機関が、開示請求対象文書を検索・審査し、開示決定等を行う前提となるため
である。したがって、同号にいう「行政文書を特定するに足りる事項」は、行政機
関の職員が、当該記載によって申請対象文書を他の行政文書と識別できる程度に記
載されることを要するのであるが、識別できるというためには、単に対象文書の範
囲が形式的・外形的に明確であるというだけでは足りず、行政機関が合理的努力の
限度で文書を検索すれば具体的に対象文書を特定し得る程度に記載されることが必
要であるというべきである。したがって、仮に、当該記載により申請者が開示を求
める行政文書の範囲が形式的・外形的に明確であっても、当該記載だけでは検索の
対象とすべき行政文書の量が極めて膨大であるため、行政機関においてこれを具体
的に特定することが社会通念上不可能であるときには、「行政文書を特定するに足
りる事項」が記載されていると解することはできず、当該開示請求は、対象文書の
特定を欠くものと解するべきである(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」34
頁)。
(イ) 登録申請書類の通常の検索方法
登録申請書類を検索する通常の方法としては、検索に係る自動車の自動車検査証が
手元にある場合には、これにより登録された支局の別、登録年月日、受理番号を確
認し、保管された書類綴りの中から検索に係る登録申請書類を抽出するが、自動車
検査証がない場合には、検索に係る自動車の自動車登録番号から登録された支局の
別、登録年月日を調査した上で、保管された書類綴りの中から検索に係る登録申請
書類を抽出することになる。
しかしながら、本件文書①は、請求する行政文書の名称等として、登録された支局
が練馬事務所(及び八王子事務所)であること、平成7年度から14年度までの間
に申請されたものであること、車体の形状が「教習車」であることを挙げるのみで
あり、登録年月日や自動車登録番号の記載はない。したがって、このような請求に
対応するためには、結局、職員が、保管されている関係書類を、手作業により1件
ずつ確認し、開示請求の対象とされた登録申請書類を探し出すほかない。
(ウ) 申請書類の保管状況
練馬事務所における申請書類の保管状況は、以下のとおりである。
a 1件の申請に係る関係書類は、その処理が終わると、保存期間の別に従って、
A登録関係書類(保存期間5年)、B検査関係書類(保存期間2年又は3年)、C
自動車重量税納付書(保存期間5年)の3つに分けられる。
Aの登録関係書類に含まれる書類は、通常1件の申請当たり3ないし9枚の書面に
より構成され、具体的には、申請書、添付書類に加え、自動車検査証及び電子情報
処理システムから出力される自動車検査証(控)と合わせて1件の登録申請書類と
して編てつされる。
Bの検査関係書類に含まれる書類には、必ず検査票が含まれ、その他、自動車の用
途に関する証明書や、保安基準に適合していることを証する書面等が含まれること
がある。
b 次に、上記AないしCに分類された書類は、さらに申請の種別により以下のよ
うに分けられる。
(a) Aの登録関係書類は、練馬事務所の場合、①型式指定自動車の新規登録申請
に係る関係書類、②型式指定自動車以外の新規登録申請に係る関係書類、③それ以
外の登録申請に係る関係書類の3つに分けて保管される。
なお、八王子事務所の場合には、AないしCに分類された後、上記①及び②以外の
関係書類は、③変更登録・移転登録・抹消登録申請に係る関係書類と、④それ以外
の登録申請(番号変更・自動車検査証記入申請等)に係る関係書類との4つに分け
て保管される。
(b) Bの検査関係書類は、①継続検査申請に係る関係書類(保存期間2年)と、
②それ以外の検査申請に係る関係書類(保存期間3年)との2つに分けて保管され
る。Cの自動車重量税納付書は、細分化されず、1つの綴りに保管される。
(c) また、上記AないしCの書類とは別個に、登録事項証明書の交付に関する関
係書類(申請書、登録事項等証明書(控)手数料納付書)が1つの綴りに保管され
る。
(エ) 本件文書①の具体的特定が社会通念上不可能であること
a 本件文書①は、「新規検査、中古新規検査、構造変更検査」によって「車体の
形状が『教習車』で登録」される場合の文書であり、これに該当する場合として
は、①登録を受けていない自動車について、新規検査登録申請をして、新しく「教
習車」として自動車検査証に記載される場合と、②「教習車」以外の車体の形状で
自動車検査証に記載されていた自動車について、車体の形状を変更する旨の自動車
検査証の記入申請をして「教習車」として記載される場合が考えられる。
また、本件文書①は、「新規検査、中古新規検査、構造変更検査『等』」と記載さ
れているから、上記①②の場合の申請書類に加えて、③所有者と使用者が同一であ
る「教習車」について所有者が変わるが、車体の形状は「教習車」のままである場
合(移転登録の場合)や、④所有者と使用者とが別々である「教習車」について、
使用者が変わるが、車体の形状は「教習車」のままである場合(変更登録の場合)
の申請書類も含まれるものと解される。
b そこで、保管書類の中から、上記各文書を抽出する手段を検討すると、以下の
とおり、極めて膨大な保管書類から手作業により確認するという過程が必要にな
る。
(a) 第1に、前記Aの登録関係書類綴りを一件ずつ手作業により確認して検索す
るという方法が考えられる。上記aの①ないし④の場合には、必ずAの登録関係書
類綴りに自動車検査証(控)が綴られるので、それを一件一件手作業により確認す
ることにより、車体の形状が「教習車」かどうかを確認することになる。この場
合、練馬事務所において検索しなければならない書類の数は、件数にして112万
5220件、登録の申請ごとに要する1件当たりの枚数を乗じれば、その総枚数は
782万2338枚にものぼることになる。なお、八王子事務所の場合には、件数
にして61万4566件、総枚数は、446万1879枚になる。
本件文書①に該当するものを特定するためには、上記のように著しく膨大な量の申
請書類を一件一件手作業で確認し、当該申請が「教習車」に関するものであるかを
確認するという途方もない作業が必要となるのである。
(b) 第2の特定方法として、前記Bの検査関係書類綴りに必ず綴られる検査票を
一件一件手作業で確認し、検査された当該自動車の車体の形状が「教習車」かどう
か確認することにより検索するという方法も考えられる。
この方法による場合には、練馬事務所の場合には5万4371件、八王子事務所の
場合には、3万4135件の検査申請を確認し、さらに、これらの書類が、平成1
1年度から同13年度の3年間のみの書類であることから、さらにAの登録関係書
類により残りの該当年度の文書を検索する必要が生じ、その場合には、練馬事務所
の場合、上記Bの書類に加えて、43万3272件(総枚数303万3425
枚)、八王子事務所の場合、24万2407件(総枚数176万1692枚)の書
類を確認する必要が生じる。また、この方法による場合には、平成11年度から同
13年度の3年間についても、検査を伴わない申請が行われる場合には、Bの検査
関係書類に書類が残らない結果となるため、Bの書類を確認しただけでは漏れが生
じることになり、同年度に係るAの関係書類のうち、練馬事務所については、63
万8248件(総枚数441万3013枚)、八王子事務所については33万92
74件(総枚数246万9992枚)の検索が必要になることになる。
(c) 以上のとおり、A及びBのいずれの書類を端緒として検索するにせよ、本件
文書①に該当する具体的文書を特定するためには、極めて甚大な労力を要すること
はいうまでもなく、このような検索作業を行うためには、仮に職員1名を専従作業
員とし、1日8時間全く休憩なしで、同じ作業効率で作業を進めたとしても、最低
で練馬事務所について6か月と4日間、八王子事務所について3か月と9日間の時
間を要するものであり、通常業務に著しい支障が生じることは明らかである。
さらに、以上の検索を行うことで、「教習車」として登録されている自動車の車台
番号や登録年月日等が特定されたとしても、開示請求の対象となっている「申請書
類の一切(すべて)」を揃えるためには、さらにBの検査関係書類の綴りから対応
する書類を抜き取り、また、Cの自動車重量税納付書の綴りから対応する納付書を
抜き取るという作業が必要となり、その労力も膨大なものとなる。
以上のとおりであって、本件文書①を検索し、具体的に特定することは社会通念上
不可能といわざるを得ないから、本件文書①は対象文書の特定を欠くものというべ
きである。
(d) なお、本件文書①を特定する方法として、ア 端末機械から直接情報を入力
して照会する方法、イ OCRシートに記入後、光学的文字読取装置に情報を読み
取らせて照会する方法がある。
しかしながら、アの方法によると、照会のために必要な情報である分類番号やかな
文字、一連番号の3項目の情報を入力する必要があるが、本件文書①の情報のみか
らでは、この3項目の情報が得られないため、この方法により照会を行うことはで
きない。また、イの方法であっても、同様に照会に必要な情報を記入することがで
きないため、照会事項の応答を受けることができない。
さらに、電子情報処理組織によって本件文書①を特定する方法も考えられるが、照
会に必要な自動車登録番号の標板文字、分類番号、かな文字及び一連番号の4項目
すべてを入力する必要があるため、これらの項目について考え得るすべての組み合
わせを逐一入力し、やみくもに検索する方法によらざるを得ず、やはり膨大な作業
が必要とされ、結局その特定は社会通念上不可能といわざるを得ない。
(e) 原告は、車体の形状コードによる検索、諸元ファイル照会による検索、備考
欄ファイル照会による検索をした後、保存ファイル照会により本件文書①を特定可
能である旨を主張する。
しかしながら、車体の形状コードによる検索は、コード番号から車名や車体の形状
を調査するための照会であり、諸元ファイルは、型式指定番号及び類別区分番号が
出てきた場合に、その自動車の長さ、高さ等の諸元がいかなるものであるかを調査
するための照会であり、備考欄ファイル照会は、当該自動車の登録番号が分かって
いる場合に、当該自動車の自動車検査証の備考欄にいかなる記載がされているかを
調査するものであって、いずれも教習車として登録されている自動車の登録番号を
検索することのできる機能を有するものではない。
また、原告は、委託業者等に依頼し、特別なプログラムを用いて検索することがで
きる旨を主張するところ、このような手段によったとしても、検索対象となるの
は、現在記録ファイルのみであるから、現在どのような車両が「車体の形状」を
「教習車」として登録されているかが分かるのみであって、当該車両が、いつ、い
かなる申請により検査又は登録されたのかを知ることはできないし、「車体の形
状」につき、一度「教習車」として登録され、その後他に変更された車両が検索結
果から除外されてしまう等の不都合が生じ、結局、本件文書①を特定することはで
きないことになる。
さらに、上記のような方法によるためには、被告局長とは別個の行政機関である国
土交通省自動車交通局管理課自動車登録管理室に設置されたコンピュータに組み込
まれた自動車登録ファイルを検索する必要があるところ、法が、開示請求から応答
まで、「行政機関の長」を主体としていることからは、被告局長は、当該行政機関
内において自らが採り得る方法により行政文書を検索すれば足り、それ以上に、他
の行政機関に共助を求める等して行政文書を検索することまでは要しないというべ
きである。
(オ) 本件文書①に関する開示請求は開示請求権の濫用であること
仮に、本件文書①に関する開示請求について、対象文書の特定に欠けることはない
としても、被告局長が、本件開示請求に対応せざるを得ないとすれば、被告局長の
業務に著しい支障を来すのみならず、他の情報公開請求に対応する余裕がなくな
り、かえって法の立法趣旨が没却されることは明らかであるから、本件開示請求
は、請求権の濫用と評価すべきであり、不適法である。
(カ) 以上のとおりであるから、本件文書①に関する開示請求は、いずれにせよ不
適法であり、本件処分は適法である。
イ 原告の主張
(ア) 被告らは、本件文書①は不特定である旨を主張するが、被告局長の主張は、
結局のところ、本件文書①を開示するためには、手作業で膨大な時間がかかるこ
と、検索機能がないため、手作業によらなければならないこと、国土交通省に検索
の協力を求める義務はなく、仮に検索の協力を求める場合にも、費用が数百万円か
かること等、実際の検索作業に時間と労力が必要であるとの主張にすぎず、文書の
特定とは別の問題である。本件文書①は、開示の対象となる文書が多数にのぼるだ
けであり、本件開示請求書及び補正書の記載自体によって特定されているというべ
きである。
(イ) また、被告らは、本件文書①を開示するために手作業によらなければなら
ず、膨大な作業が必要となる旨を縷々主張するが、自動車登録ファイルはデータ管
理されているはずであり、「教習車」の登録番号を確認することが可能なはずであ
る。さらに、情報処理の専門家による作業や、外部業者への委託によって、本件文
書①の保存場所を簡易に検索することも十分可能と考えられる。
(ウ) そもそも、法5条は、開示請求があった場合には、原則として当該行政文書
を開示しなければならない旨を定めているのであり、被告局長の主張するような作
業量の多さを理由として不開示とすることはできないはずである。被告局長は、作
業量を減らすために国土交通省への検索依頼を行い、あるいは作業員を増員する等
の手段によるべきであったというべきであり、これらの手段によらずに、本件文書
①を不特定として不開示とした本件処分は違法である。
(エ) また、被告らは、本件開示請求は、開示請求権の濫用であるとも主張
するが、原告が本件開示請求を行ったのは、別訴(東京地裁平成14年(行ウ)第
69、358号事件)の証拠として、本件文書①及び②が必要であったためであ
り、被告局長の業務を妨害すること等を目的としたものではないから、正当な理由
に基づく請求であって、濫用ということはできない。
(2) 争点2(本件文書②について、本件処分の適法性)について
ア 被告らの主張
(ア) 従前の取扱い
「車体の形状」は、自動車検査証の記載事項の一つである(道路運送車両法58条
2項、同法施行規則35条の3第9号)。そして、「車体の形状」として何を記載
するかは、昭和36年11月25日付け自車第880号「自動車検査業務等実施要
領について(依命通達)」(平成13年9月17日付け国自技第83号による改正
後のもの。)3-4-10において定められており、特種用途自動車の「車体の形
状」として「教習車」がある。
そして、車体の形状が「教習車」として記載されるためには、当該自動車の車体の
形状が「教習車」であることが必要であるところ、昭和35年9月6日付け自車第
452号「自動車の用途等の区分について(依命通達)」(平成13年4月6日付
け国自技第49号による改正後のもの。以下「用途区分通達」という。)6による
委任を受けた平成13年4月6日付け国自技第50号「自動車の用途等の区分につ
いて(依命通達)の細部取扱いについて」(以下「細部取扱通達」という。)は、
「教習車」とは、道路交通法98条の自動車教習所又は同法99条の指定自動車教
習所において使用し、かつ、専ら自動車の運転に関する技能の検定又は教習の用に
供する自動車、又は道路交通法108条の4第1項に定める指定講習機関において
使用し、かつ、初心運転者に対し運転について必要な技能の講習の用に供する自動
車であって、助手席にて操作できる補助ブレーキを有するものをいうと定めてい
る。
したがって、車体の形状を「教習車」と記載するためには、申請に係る自動車が上
記の「教習車」の定義に該当することが証明される必要があるところ、細部取扱通
達は、車体の形状を「教習車」とする申請があった場合の留意事項として、当該自
動車が「自動車教習所における教習を遂行するために専ら教習車として使用される
自動車であること」を証明する書面として、都道府県警察本部から交付された指定
自動車教習所路上教習用自動車証明書又は指定外自動車教習所路上教習用自動車証
明書の写し(以下「本件証明書の写し」という。)の提出を促すこととしている
(細部取扱通達の上記規定は、昭和63年8月4日付け地技第177号「『自動車
の用途等の区分について(依命通達)』(昭和35年9月6日自動車第452号)
の一部改正に伴う取扱いについて」(以下「昭和63年8月4日付け通達」とい
う。)の定めを引き継いだものである。)。
上記昭和63年8月4日付け通達及び細部取扱通達は、国土交通省自動車交通局技
術安全部長が、その指揮監督権に基づき、下級行政機関である地方運輸局長等に対
し、その事務処理を指揮するために発したものであり、被告局長は、その事務処理
について上記各通達に拘束され、これに従った事務処理をしてきた。すなわち、被
告局長は、従前から、車体の形状を「教習車」とする旨の申請があった場合には、
上記各通達に従い、必ず本件証明書の写しを提出するよう促していたものである。
(イ) 申請が認められた申請書類のみが保存されること
当該自動車の車体の形状を「教習車」とする新規検査登録申請、自動車検査証記入
申請、移転登録申請、変更登録申請がされた場合、これを認めるためには、当該自
動車が「自動車教習所における教習を遂行するために専ら教習車として使用される
自動車であること」が証明される必要がある。したがって、これを証明するに足り
る書面が提出され、当該申請が認められた場合には、被告局長は申請書類を保存す
ることになるが、これを証明するに足りる書面が提出されない場合には、申請が認
められることはなく、被告局長が申請書類を保存することはない。
(ウ) 本件文書②が存在しないこと
以上のとおりであるから、新規検査登録申請、自動車検査証記入申請、移転登録申
請、変更登録申請が認められて、車体の形状が「教習車」である自動車として申請
書類が保存されているものについては、すべて申請に際し本件証明書の写しが提出
されていたものである(本件証明書の写しの提出は記入申請が認められるための必
須の要件ではなく、法的には、本件証明書の写しに代わる書面の提出により、「教
習車」としての使用目的及び使用実態が証明されれば足りるものであるが、被告局
長は、前記各通達に拘束され、本件証明書の写しの提出を必ず促す事務処理を行っ
てきたものである。)。
したがって、本件文書②は、膨大な保管書類を検索して具体的な対象文書を特定す
るまでもなく、存在しないことが明らかである。
イ 原告の主張
(ア) 被告らは、被告局長は、新規検査登録申請、自動車検査証記入申請、移転登
録申請、変更登録申請が認められて、車体の形状が「教習車」である自動車として
申請書類が保存されているものについては、すべて申請に際し本件証明書の写しの
提出を要求する事務処理を行ってきたとして、本件文書②は不存在であると主張す
る。
(イ) しかしながら、本件文書②は、存在するものと認められるから、被告らの主
張は理由がない。すなわち、例えば、ドライビングスクールナカダは、道路交通法
98条の自動車教習所あるいは同法99条の指定自動車教習所ではなく、同法10
8条の4第1項に定める指定講習機関にも該当しないものと認められる(その証拠
に、原告が別途、警視総監に対し、東京都情報公開条例に基づき開示を求めた「指
定自動車教習所連絡一覧表」「届出自動車教習所一覧表」「初心運転者講習指定機
関」のいずれにも、「ドライビングスクールナカダ」の記載は認められない。)。
そして、被告らは、各申請に際し、車体の形状を「教習車」として申請が認められ
るためには、本件証明書の写しの添付が必要であると主張するから、仮に被告らの
主張が正しいとすると、上記教習所及び各講習機関に該当しないドライビングスク
ールナカダは、本件証明書の写しの交付を受けることができず、「車体の形状」を
「教習車」とする自動車検査証の記入を受けることができないことになるはずであ
る。しかし、実際には、ドライビングスクールナカダを経営するEは、指定自動車
教習所である多摩ドライビングスクール(甲10)から教習車の譲渡を受け、自ら
を所有者とする旨の移転登録申請を行い、申請に基づき「車体の形状」を「教習
車」とする登録事項等証明書、自動車検査証の記入を受けていることが認められる
(甲13ないし16の10)。
(ウ) 以上によれば、被告局長は、移転登録申請の際、本件証明書の写しの提出を
要求することなく、申請を受理して記入を行ったことが明らかであるのであって、
このような場合には、本件証明書の写しの提出のない申請に係る申請書類が保存さ
れているはずであるから、本件文書②は存在するはずである。したがって、本件文
書②を不存在として被告局長がした本件処分は違法である。
(3) 争点3(被告国に国家賠償責任が認められるか)について
ア 被告らの主張
(ア) 国民の「知る権利」については、憲法上明文の規定はなく、憲法21条の規
定する表現の自由は、国民が直接に行政機関の保有する情報の開示を請求し得る権
利としての「知る権利」を含むものではない。したがって、国民に行政運営に関す
る情報に対する開示請求権を付与するかどうか、いかなる限度で、どのような要件
の下で付与するかは、立法政策の問題であり、具体的な開示請求権の内容、範囲等
は専ら情報公開法の定めるところによることになる。
(イ) そして、法が、開示請求権を付与した目的は、専ら行政運営の監視及び透明
性の確保という公益の実現のためにあり、特定個人の固有の権利、利益を認めたも
のではなく(法1条)、法の定める開示の具体的制度も、上記の制度趣旨、目的に
基づき、これに適合するよう構成されていて、法が、開示請求者個人の権利利益を
全く問題にしていないことが明らかである。
そして、国家賠償法1条1項の違法性が認められるためには、公務員の職務執行に
より侵害されたと主張される権利利益が、単にある法令により何らかの権利又は利
益として規定されているだけでは足りず、個人の私的な権利又は利益が侵害されて
いることが必要である。
しかしながら、前記のとおり、憲法上具体的請求権としての「知る権利」が保障さ
れているとは解されない。また、法上の開示請求権が、私的な権利利益として付与
されたものとも解されないから、原告の主張する精神的利益は、適正な行政権の発
動に関し、国民各人の抱く正義感情の満足にすぎず、これをもって国家賠償法上保
護された権利利益とはいい難いから、原告の主張する被侵害利益は、いずれも国家
賠償法上保護される権利利益には当たらないものというべきである。
また、国家賠償法1条1項の定める違法性が認められるためには、公務員が個別の
国民に対し職務上の法的義務を負担しており、かつ、これに違背したことが必要で
あるところ、開示請求権の前記趣旨目的、公益的性質からすると、上記の公務員の
負担する義務は、専ら適正な行政運営の確保を目的として国民全体に対して負うも
のであり、これを個別の国民等に対する職務上の法的義務と解することはできな
い。
さらに、公務員が、開示請求に対する措置の要件充足性に関する判断を誤ったとし
ても、これにより生ずる権利利益の侵害は、名目的なものにすぎないものであっ
て、開示請求に対する措置の判断を誤ったからといって、直ちに上記義務違反が認
められるといった高度の注意義務違反ともいうことはできない。
以上によれば、本件処分について、国家賠償法上の違法性が認められる余地はない
から、原告の請求には理由がない。
イ 原告の主張
本件開示請求は、原告が、前記別訴の証拠として提出するために行ったものである
が、本件処分によって、原告は、別訴で本件文書①及び②の文書を提出することが
できず、これにより精神的、肉体的不利益等を受けた。また、原告は、国民の知る
権利としての行政文書開示請求権を迅速に行使することができず、計り知れない精
神的損害を受けたところ、この精神的損害等に対する慰謝料の額は、少なくとも金
25万円とされるべきである。これに対する被告らの責任は重大であり、被告国に
は上記損害を賠償する責任がある。
第3 争点に対する判断
1 争点1(本件文書①について、本件処分の適法性)について
(1) 本件文書①について、法4条1項2号に定める開示請求文書の特定があったと
認められるか
ア 被告らは、本件文書①について、法4条1項2号にいう開示請求文書の特定が
あったと認められるためには、行政機関の職員が、当該記載によって申請者が開示
を求める行政文書を他の行政文書と識別できる程度の記載を要するのであって、こ
のように識別できるというためには、行政機関の合理的努力によって文書を検索
し、特定し得ることが必要であると主張した上、総務省行政管理局の編著に係る書
籍の記載を引用して、仮に、申請者が開示を求める行政文書の範囲が形式的・外形
的に明確であっても、検索の対象となる文書の量が極めて膨大であって、文書を具
体的に特定することが社会通念上不可能である場合は、同号にいう特定に欠けるも
のと主張する。
しかし、上記書籍には、行政文書の範囲が形式的・外形的に一応明確であっても特
定が不十分となる場合があるとの記載があるが、そのようなものとして例示されて
いるのは「○○(行政機関又は下部組織)の保有する行政文書」につき一括して開
示請求をするような場合であって、その量もさることながら、その対象文書に多種
多様なものが含まれ、それらのすべてを請求するものとは通常考えられないことか
ら、そのような請求は不特定なものとしているのであり、単に分量や対象文書の検
索に要する手数に着目して不特定との結論を導いているものではない。むしろ、同
書籍は、いかなる行政文書を請求しているかが明確か否かという観点から特定され
ているか否かを判断すべきものとしていると理解でき、それが法の所管官庁として
の総務省行政管理局の見解であって、被告らの主張はこれと異なるものといわざる
を得ないし、特定という事柄の性質に照らすと、同局の見解こそ正当なものと考え
られるところである。そして、本件文書①については、その範囲が外形的に特定さ
れているばかりか、請求者がいかなる行政文書の開示を求めているかも、後記イの
とおり補正後の請求書の記載のみから既に明確であって、上記書籍が不特定とする
ものとは全く異なった請求であると考えられる。
もっとも、そのような補正後の請求によっても本件文書①に何通の行政文書が含ま
れるかは明確でないといわざるを得ず、そのような請求が特定しているか否かは、
被告らの主張とは別途に検討を要するところであるが、法4条1項2号が、開示請
求の際、開示請求文書の特定を求める趣旨は、開示請求の対象となる文書がいかな
る文書であるかを明らかにすることが、開示請求を受けた行政機関において、非開
示事由の有無を判断し、開示の範囲等を決定するための不可欠の前提となるためで
あると解される。そうすると、請求に係る文書が、他の文書と識別可能な程度に明
らかにされている場合には、たとえ開示請求に係る文書が、請求の時点において全
部で何通存在するかが明らかでなくても、請求を受けた行政庁において、開示請求
文書をすべて識別した上、それらについての開示の適否を判断することが可能であ
るから、そのような請求につき文書の特定がないということはできないというべき
である(なお、このような考え方は、情報公開審査会の実務においても前提とされ
ているものと認め得る。情報公開審査会平成14年度答申第171号(平成13年
11月及び12月の記者発表資料の不開示決定に関する件)は、「平成13年11
月1日から同年12月31日の間に防衛庁が記者クラブに配布した記者発表文書
(配布資料、ピンナップ資料等のファイルにとじられているもの。)のうち、イン
ターネットのホームぺージに掲載されなかったもののすべて」を開示請求の対象と
した上1件分の手数料が納付された事案において、処分庁が、2件の文書が開示の
対象となることが判明したため、請求者に対し2件分の手数料の納付が必要である
旨を指摘して補正を命じたところ、請求者がこれに応じなかったため、手数料不足
を理由としてされた不開示決定について、その適否が同審査会により審査された事
案であり、同審査会は、上記決定の適法性の審査に際し、開示請求文書が特定され
ているかを問題としていない。そうすると、同審査会は、請求時において、開示請
求文書の個数が不明であるような包括的な請求がされる場合であっても、開示請求
文書の特定に欠けるものとは解していないものと思われる。)。
イ 以上の考え方に基づき本件文書①について検討すると、本件文書①は、当初提
出された本件開示請求書(甲1)には、「練馬の事務所での(「教習車」)の申請
書一式すべて(全年度分)」と記載されていたところ、被告局長から、「補正個
所」として「①練馬及び八王子での保有している何番の自動車登録番号の、いつ行
われた、どのような申請書類を開示すればよいのか。」、及び「補正理由」とし
て、「①については、各種申請書類は1車両1行政文書であり、行政文書を特定す
るためには行った内容、自動車登録番号、行った場所及び年月日等の確定をする必
要があるため。」と記載された補正通知書(甲2)により補正を求められたため、
これを受けて、「1 補正個所」として「①新規検査、中古新規検査、構造変更検
査等を東京陸運支局練馬検査登録事務所および東京陸運支局八王子検査登録事務所
で、行われ、車体の形状が「教習車」で登録された時の車両に関する申請書類の一
切(すべて)の平成14、13、12、11、10、09、08、07、年度申請
分すべて」と補正されたことが認められる(甲3)。他方、本件文書②は、上記開
示請求書において、「八王子の事務所での「教習車」の登録をされ申請書等で「専
ら使用」が書面でかくにんできないもの申請書一式すべて(全年度分)」「自動車
の検査票の記入方法・記入意味がわかるものすべて」と記載され、上記補正通知書
により、「1 補正個所」として、「②八王子事務所での「教習車」の登録をされ
申請書等で「専ら使用」が書面でかくにんできないもの申請書一式すべて」とは、
どのような申請書類のことなのか。具体的に申請書類名を示してください。」及び
「2 補正理由」として、「②については、①と同様行政文書の特定をするた
め。」として補正を求められ、これを受けて、上記補正書において、「②上記①の
東京陸運支局八王子検査登録事務所分は、「教習車」に登録するために、教習用や
試験用などに「専ら使用」することを確認する書類「都道府県警察本部から交付さ
れた、指定自動車教習所路上教習用自動車証明書又は指定外自動車教習所路上教習
用自動車証明書の写し」が含まれていないものの登録された時の車両に関する申請
書類の一切(すべて)の平成14、13、12、11、10、09、08、07、
年度申請分すべて」と記載されていることが認められる。
そうすると、本件文書②は、当初から八王子事務所でされた申請に係る申請書類の
開示を求めるものと解されるところ、本件文書①及び本件文書②を、開示請求の対
象となる文書に重複のないよう整合的に理解するためには、本件文書①は、八王子
事務所におけるものを含まず、練馬事務所のみにおける申請書類を対象としてお
り、本件文書②は、八王子事務所における申請書類を対象とするものと解するのが
合理的であり、そのように理解することが原告の開示請求の趣旨にも沿うものと解
される(なお、被告らは、本件文書①には、八王子事務所における申請書類も含む
ものと解した上で訴訟活動を行っているが、このように解すると、本件文書①の中
に、本件文書②の全部が含まれてしまうことになり、原告が本件文書②の開示を求
めた理由を説明することができないから、相当ではない。もっとも、被告らの主張
は、上記のように本件文書①に八王子事務所の申請書類も含まれるとの理解を前提
としているのであるから、以下の判断においては、本件文書①について主張してい
る点は本件文書②においても主張しているものとして取り扱うこととする。)。
したがって、本件文書①は、平成7年度ないし同14年度に、東京陸運支局練馬事
務所において行われた新規検査、中古新規検査、構造変更検査等の申請のうち、
「車体の形状」が「教習車」として登録された車両に関する申請書類全部の開示を
求めるものと理解するのが相当であり、被告局長が管理する文書のうち、いずれを
開示すべきかについて、その他の行政文書と識別可能な程度に特定されているもの
というべきである。
ウ これに対し、被告局長は、前記のとおり、補正通知書において、当該行政文書
を特定するためには、行った内容、自動車登録番号、行った場所及び年月日等の確
定をする必要があるとして、何番の自動車登録番号の、いつ行われた、どのような
申請書類を開示するかを明らかにするよう求めており、原告は、補正書において
も、上記各事項を明らかにしていない。確かに、行政機関が、その管理する全文書
の中から、開示を求められている文書を検索し、開示する際には、当該文書の内容
や作成日付等の詳細な情報が明らかにされることによって、当該文書の保管場所が
より明らかになり、迅速な開示に資するものと解されるから、被告局長が、上記の
ような事項を明らかにするよう促すことにも一応の合理性があるものと認められ
る。しかしながら、前記のとおり、本件文書①は、その他の行政文書と識別可能な
程度に特定されているものと認められるから、被告局長は、上記以上に本件文書①
に関する情報が明らかになっていないとしても、開示請求文書が特定されていない
ものとしてこれを不開示にすることはできないものといわざるを得ない。
エ また、被告らは、本件文書①を開示するためには、本件文書①を検索すること
が必要であるところ、それには膨大な時間と労力が必要となること、このように検
索に時間と労力が必要となる場合には、開示すべき文書が特定されているものとは
いえないことを主張する。しかしながら、文書の保管方法は、各行政機関により異
なるものと想定されるところ、上記ウで主張する程度に厳密に特定された文書であ
っても、当該行政庁の保管の仕方如何によっては、検索が容易である場合もあれば
著しく困難な場合もあるから、実際の検索の難易が、開示請求文書の特定の有無に
影響するものと解するのは相当ではないというべきであって、検索の難易の問題
は、開示すべき文書が特定されているか否かとは本来的に別個の問題であるという
べきである。むしろ、このような検索の難易の問題は、被告らが別途主張するよう
に、開示請求権の濫用と評価できるかというような観点から開示の可否の判断の一
つの検討要素となるにすぎないものと解するのが相当である。
(2) 開示請求権の濫用の有無
ア そこで、次に開示請求権の濫用の有無について検討するに、被告局長は、本件
文書①を検索するためには、手作業によって、件数にして112万5220件分、
総枚数にして782万枚にものぼる書類の中から、「車体の形状」が「教習車」と
して申請されたものを確認する作業が必要となること(Aの登録関係書類綴りの確
認による方法を用いた場合)、そのためには、職員1名を専従作業員として、1日
8時間全く休憩なしで、同じ作業効率で作業を進めたとして、最低で6か月余りの
時間が必要となり、その結果、被告局長の通常業務に著しい支障が生じ、社会通念
上不可能ともいえるのであって、このような開示請求は、請求権の濫用と認められ
る旨を主張する。
イ しかしながら、法10条1項は、開示決定等の期限等として、開示決定等は、
原則として、開示請求があった日から30日以内にしなければならない旨を定め、
同条2項は、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは、その期限を延長す
ることができる旨を規定した上、法11条は、開示請求に係る行政文書が著しく大
量であるため、開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定
等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には、開示
請求に係る行政文書のうちの相当部分につき当該期間内に開示決定等をし、残りの
行政文書については相当の期間内に開示決定等をすれば足りる旨を規定する。そし
て、法が、著しく大量の文書の開示請求であっても、そのことのみを理由として非
開示とする旨の規定を置いていないこと、むしろ、このような場合であっても、通
常業務と並行的に順次開示手続を進行させていくための規定を置いていることにか
んがみれば、法は、大量の文書の開示請求があった場合や開示請求の内容からして
その対象文書の検索に相当な手数を要する場合であっても、当該行政機関に労を尽
くしてこれに応じることを求める趣旨と解するのが相当である。また、法37条1
項が「行政機関の長は、この法律の適正かつ円滑な運用に資するため、行政文書を
適正に管理するものとする。」と定めていることからすると、文書の開示に相当な
時間を要するとしても、その原因が当該機関の文書管理が適切でないことにあると
きには、開示請求が権利の濫用とならないことは勿論のこと、開示決定期限の延長
を求める理由にもならないこともあり得ると考えられる。
そうすると、開示請求文書の開示に相当な時間を要することが明らかである場合で
あっても、そのことのみを理由として、開示請求を拒むことは原則としてできない
のであって、開示請求に係る行政文書が著しく大量である場合又は対象文書の検索
に相当な手数を要する場合に、これを権利濫用として不開示とすることができるの
は、請求を受けた行政機関が、平素から適正な文書管理に意を用いていて、その分
類、保存、管理に問題がないにもかかわらず、その開示に至るまで相当な手数を要
し、その処理を行うことにより当該機関の通常業務に著しい支障を生じさせる場合
であって、開示請求者が、専らそのような支障を生じさせることを目的として開示
請求をするときや、より迅速・合理的な開示請求の方法があるにもかかわらず、そ
のような請求方法によることを拒否し、あえて迂遠な請求を行うことにより、当該
行政機関に著しい負担を生じさせるようなごく例外的なときに限定されるものとい
わざるを得ない。
ウ このように解すると、開示請求を受けた行政機関には、大量又はその検索に相
当の手数を要する文書を対象とする開示請求を原則として拒否することができない
ことになり、行政機関には、相当の物理的負担が生じる場合のあることが容易に予
想されるし、行政機関によっては、現状の担当者のみでは当該請求に迅速に応じる
ことができず、人員を補充する等の手当が必要となることも考えられ、当該行政機
関には、時間的負担のみならず、経済的な負担が生じることも考えられるところで
ある。
しかしながら、開示請求文書の検索が著しく困難であって、そのために開示決定ま
でに通常よりも著しく長期間が必要となることが予想される場合には、当該行政機
関から、開示請求者に対し、その旨を伝えた上で、開示請求の範囲を減縮すること
を求めたり、一部分ずつ開示するほかないと通知することにより、請求者から請求
の減縮や検索をより容易にするような当該文書に関する情報の提供等の協力が得ら
れる場合もあると考えられるし(本件でも、被告局長は、前記「補正通知書」にお
いて、「文書の特定をするため」としているものの、開示請求文書の内容や、自動
車登録番号、年月日等、文書の検索を容易にする情報の提供を求めており、原告
も、「補正書」の中で可能な限りで補正に応じていることが認められる。)、それ
らによってもなお開示決定までに著しく長期間を要する場合には、法11条の定め
に従って対応するしかないというのが法の趣旨であると考えられる。また、開示対
象文書が当初から多数のそれぞれ独立した文書である場合はもとより、請求当初に
は文書の数が明確でなかったものの、検索の結果、多数の行政文書が開示請求の対
象であったことが判明した場合においても、開示請求に係る手数料は行政文書の個
数に応じた額となるのであって、この限度において行政機関の経済的負担について
も法は考慮しているのであって、それ以上にこの点を考慮することは、法16条2
項が、手数料の額を定めるに当たっては、できる限り利用しやすい額となるよう配
慮しなければならない旨を規定していることからして許されないのであって、開示
手続に多大の費用を要することのみを理由に開示請求を権利の濫用とみることは法
の趣旨に反するものというほかない。
エ 以上を前提として本件について検討すると、被告局長は、本件文書①の開示請
求につき、原告に対し、検索に著しい時間と労力が必要となると主張するが、これ
は、検索に当たって申請書類を編年体に編綴した多数の簿冊を1頁ずつ確認するこ
とが必要であることを前提とするものであるところ、このような多数の申請書類を
保管するに当たって編年体の簿冊に編綴することはやむを得ないとしても、そのよ
うな簿冊には、その中にいかなる申請書類が編綴されているかを明らかにするた
め、被告局長において申請を特定するために通常用いる情報、すなわち、申請年月
日、登録番号及び申請者名等を記載した目次を付し、編綴された書類に一連の頁数
を付すべきものであり、それがされていれば、原告が開示を求める文書が教習車と
いう特種自動車の一種であって、特種自動車に係る申請か否かは登録番号によって
容易に識別することができ、しかも特種自動車に係る申請はその他の自動車に係る
申請に比べかなり少ないものであるから、これを検索する手数は被告らが主張する
数分の一にすぎないものと考えられる。すなわち、被告らの主張には、自らの文書
管理に適正を欠くことを前提とする部分がかなり含まれているものといわざるを得
ない。その上、被告局長は、登録自動車に関する情報をコンピュータに入力して管
理しながら、その情報検索に関するソフトウェアはかなり限定された能力しかな
く、その点にはコンピュータを用いた情報管理としてはかなり時代遅れの感があ
り、情報管理のあり方に問題があるといわざるを得ない。
また、仮に検索に相当の手数を要するとしても、本件においては、原告に対し、法
11条に基づいて、一部については通常どおりの期間内に開示をし、その余につい
ては、相当の期間内に開示するというような方法もあること、本件では、開示請求
の対象となる文書が多数あると予想されるところ、その文書1件につき300円の
「開示請求にかかる費用」(法施行令13条1項1号)が必要となること、さらに
これらの開示の実施を受けるためには「開示実施費用」(同項2号)も別途必要と
なること等を説明することにより、原告が迅速な開示を望む場合には、後記のとお
りの開示請求の目的からすると、差し当たり開示請求文書を半年分や一年度分に限
定することや、まずその程度の開示を行ってそれ以外の分はその後に順次開示する
こと等の了解を得ることも可能であったと解される。しかしながら、本件では、被
告局長は、文書の特定を求める「補正通知書」を送付し、これに応答する「補正
書」を受け取ったことは認められるものの、これに加えて、上記のような打診をし
たものとは証拠上認めることができない。また、弁論の全趣旨によれば、原告が、
本件文書①の開示を求めたのは、開示請求によって得た文書のうちに自己に有利な
文書があれば、既に係属していた別訴において証拠資料として利用することを意図
したものであることが認められるのであって(被告らもこの点については争ってい
ない。)、原告の上記のような目的からは、本件開示請求が、ある程度包括的かつ
網羅的なものにならざるを得ないことや、補正書の記載以上に当該文書の具体的な
日付や当該文書に係る自動車登録番号を特定して開示を求めることができなかった
のはやむを得ないものというべきである。
以上に加えて、本件文書①に該当する文書の検索が完了した場合には、本件文書①
の類型性にかんがみ、個々の申請書類につき、非開示事由の有無を個別に判断する
必要は認められず、開示するか否か及びその範囲の決定にはさほどの困難を伴うも
のとは考えられないことが認められる。そして、このほかに、本件開示請求が、被
告局長の業務に著しい支障を来すことを意図されたものである等、原告が本件開示
請求を濫用したと認めるに足りる事情は認められない。
したがって、本件開示請求を、開示請求権の濫用と評価することはできないものと
いうべきである。
(3) 以上によれば、本件文書①は、開示請求文書を特定した上、適法にされたもの
と認められるから、開示請求文書が特定されていないとの被告局長の判断は誤って
おり、その他に本件文書①に係る開示請求を不適法な請求とし、あるいは非開示事
由に該当するものと解する法的根拠は認められないから、被告局長の判断は誤って
おり、本件文書①に係る開示請求に対応する部分について、違法なものとして取消
しを免れないものというべきである(なお、原告が開示を求める文書の中には、既
に保存期限を経過しているものもあるとうかがわれるが、被告はこの点に関する主
張をしないので、本件処分全部を取り消した上、この点も含めて被告局長に検討さ
せるのが相当である。)。
2 争点2(本件文書②について、本件処分の適法性)について
(1) 次に、原告による本件文書②の開示請求に対し、被告局長は、本件文書②は存
在しないとして、本件処分をしている。そこで、まず本件文書②がいかなる文書で
あるかを検討する。
ア 前記のとおり、本件文書②は、八王子事務所における申請書類の開示を求める
ものであると解すべきであること、本件開示請求書には、「八王子の事務所での
『教習車』の登録をされ申請書等で『専ら使用』が書面でかくにんできないもの申
請書一式すべて(全年度分)」と記載され、補正書には、「東京陸運支局八王子検
査登録事務所分は、『教習車』に登録するために、教習用や試験用などに『専ら使
用』することを確認する書類『都道府県警察本部から交付された、指定自動車教習
所路上教習用自動車証明書又は指定外自動車教習所路上教習用自動車証明書の写
し』が含まれていないものの登録された時の車両に関する申請書類の一切(すべ
て)の平成14、13、12、11、10、09、08、07、年度申請分すべ
て」と記載されていることにかんがみれば、本件文書②は、八王子事務所に対して
された当該年度の申請のうち、車体の形状を「教習車」として実際に登録を受けた
車体に関する申請であって、その申請書類のうちに、本件証明書の写しが含まれて
いないものの申請書類一切の開示を求めるものであって、本件文書②は、それ自
体、被告局長の保管する他の文書と識別可能な程度に明らかにされているものと解
するのが相当である。
そして、前記記載のとおり、開示請求文書の特定の問題と、開示請求文書の難易の
問題とは、本来別個の問題であるというべきであるから、仮に被告の主張するよう
に、本件文書②を検索するのに、件数にして61万4566件、総枚数446万1
879枚を確認することが必要となるとしても、そのことをもって、開示請求の対
象文書が特定されていないものとはいうことができない。
イ もっとも、本件文書②を検索するためには、本件文書①を検索する際の
作業に加えて、検索により引き出した申請書類に、本件証明書の写しが含まれてい
るか否かを確認し、含まれていないもののみを開示するという作業が必要になる。
しかしながら、本件文書②は、本件文書①と事務所を異にする同様の文書のうち、
開示請求の対象となる文書をさらに絞って請求するものにすぎず、どのような文書
を請求の対象にするかについて、他の書類と識別可能な程度に特定されていること
は前記のとおりである。したがって、上記作業が必要となることをもって当該文書
が不特定ということもできないものというべきである
(2) 次に、被告らは、車体の形状を「教習車」とする申請がされる場合には、昭和
63年8月4日付け通達及び細部取扱通達に基づき、従来、必ず本件証明書の写し
の添付を促す扱いがされており、本件証明書の写しの添付なくして申請が認められ
ることは考えられないとして、本件文書②は不存在であると主張し、本件処分をし
ている。
ア ところで、車体の形状が「教習車」として記載されるためには、当該自動車の
車体の形状が「教習車」であることが必要であるところ、用途区分通達による委任
を受けた細部取扱通達は、「教習車」とは、道路交通法98条の自動車教習所又は
同法99条の指定自動車教習所において使用し、かつ、専ら自動車の運転に関する
技能の検定又は教習の用に供する自動車、又は道路交通法108条の4第1項に定
める指定講習機関において使用し、かつ、初心運転者に対し運転について必要な技
能の講習の用に供する自動車であって、助手席にて操作できる補助ブレーキを有す
るものをいうと定めている。したがって、上記通達に従う限り、車体の形状を「教
習車」と記載するためには、申請に係る自動車が上記の「教習車」の定義に該当す
ることが証明される必要があるところ、細部取扱通達は、車体の形状を「教習車」
とする申請があった場合の留意事項として、当該自動車が「自動車教習所における
教習を遂行するために専ら教習車として使用される自動車であること」を証明する
書面として、本件証明書の写しの提出を促すこととしている。
イ そして、被告らは、被告局長は、事務処理について上記各通達に拘束さ
れ、これに従った事務処理をしてきたのであって、被告局長は、従前から、車体の
形状を「教習車」とする旨の申請があった場合には、上記各通達に従い、必ず本件
証明書の写しを提出するよう促していたのであるから、本件証明書の写しなくして
申請が認められる場合は存在しないとして、本件文書②に該当する文書は存在しな
いとして、本件処分をしたものと主張している。
しかしながら、上記主張は、被告局長及びその補助職員が通達に反する行為は一切
しないとの前提の下にのみ成り立つものであるが、人が誤りを犯すことは避けられ
ない以上、そのような前提自体が誤りというほかなく、現場の職員が、本件証明書
の写しの添付されていない申請を誤って認めた事例が存在する可能性までをも否定
できるものとはいい難い。したがって、このような状況において、本件文書②が一
切存在しないものというためには、せめて、本件文書②に該当する文書を無作為に
検索し、その有無を確認する等により、存在しないことを一応確認すべきものと考
えられるのである。それにもかかわらず、弁論の全趣旨によれば、被告局長は、本
件処分をするに当たり、上記各通達の存在のみを根拠に、本件文書②は不存在であ
るとして本件処分をしたものと認められる。しかしながら、原告が、車体の形状を
「教習車」とする申請が認められた例のうちには、上記各通達の規定に反して、本
件証明書の写しの提出を要求することなく申請が認められた場合があるのではない
かとの疑問を抱き、その真否を確認するために本件文書②の開示を求めた(弁論の
全趣旨)ことに照らすと、このような被告局長の対応や、被告らが上記の主張を訴
訟においてすることに対しては誠実さに欠けるものとの非難がされてもやむを得な
いものと考えられる。
ウ また、本件各証拠(甲8ないし16の10)によれば、本件文書②は存在した
可能性が高いものと認められるから、この点においても、被告局長の処分は事実関
係を誤ってされたものといわざるを得ない。すなわち、原告が指摘するドライビン
グスクールナカダは、道路交通法98条の自動車教習所あるいは同法99条の指定
自動車教習所には該当せず、同法108条の4第1項に定める指定講習機関にも該
当しないと認められる(甲10ないし12)。したがって、上記教習所あるいは講
習機関からの申請に応じて発行される本件証明書の交付がされることはないものと
解されるところ、上記証拠によれば、同ドライビングスクールの経営者であるE
は、車体の形状を「教習車」とする登録事項等証明書、自動車検査証の記入を受け
ていることが認められ、これらの車両のうち、「自動車登録番号又は車両番号」を
「八王子88な2432」とする車両については、八王子事務所において移転登録
がされたものと認められる(甲16の1)から、被告局長は、八王子事務所におけ
る各申請書類の検索を行えば、当該車両についての申請書類の中に、本件証明書の
写しが含まれていないことを確認し得たものということができる。そうすると、本
件文書②が不存在であるとの被告らの主張は誤りであるといわざるを得ない(な
お、被告らは、上記各証拠を提出して、本件文書②が実際には存在したとする原告
の主張に対し、具体的な認否をせず、争わない。)。
エ 以上によれば、被告局長が本件文書②の存否を確認せず、各通達の存在のみを
根拠としてこれを不開示としたことは不当であり、かつ、本件文書②は実際には存
在したものであるから、これを不存在としたのは誤りであるというべきである。
(3) 次に、被告らは、本件文書①の開示請求に関して、これを権利濫用であると主
張しているところ、被告らは、本件文書①は、練馬事務所及び八王子事務所の各申
請書類の開示を求めるものと理解した上で、そのような主張をしており、当裁判所
は、本件文書①は、練馬事務所の各申請書類の開示を、本件文書②は、八王子事務
所における各申請書類の開示を求めるものと解していることは前記のとおりであ
る。したがって、当裁判所は、被告らは本件文書②についても、原告の開示請求が
権利濫用に当たると主張しているものと認めるが、この点については、前記本件文
書①における検討と同様、被告らが主張する点は、被告局長の文書及び情報管理の
不備を前提とする部分がかなり多く含まれている上、本件文書②に係る開示請求
は、原告が、別訴における証拠資料として提出するためにしたものであって、被告
局長の業務を妨害する意図等をもって行われたものではないこと、原告としては、
上記のような目的に基づく開示請求であるため、ある程度網羅的な開示請求になら
ざるを得ないこと、本件文書②は、非開示事由の有無について、各文書の内容に応
じた個別の判断が必要となることはなく、検索が終了すれば、開示決定はある程度
迅速に処理可能なものであること、被告局長としては、本件開示請求に応じるため
には、多大な労力と時間が必要となる旨を原告に伝えて、年度を1年度に絞っても
らったり、第一段階として一定の件数に絞ってもらい、それによる開示では原告の
目的が達成されない場合には、さらに第二段階として請求をしてもらう等の手段に
よることにより、自らの負担を軽減してもらうための努力をすることが可能であっ
たにもかかわらず、本件補正通知書により、文書をさらに特定するよう求めるにと
どまり、それ以上に上記のような打診等を行ったとは認められないことに照らせ
ば、本件文書②に係る本件開示請求が、原告の開示請求権を濫用して行われたもの
ということはできない。
(4) 以上のとおりであるから、本件文書②の開示請求に対し、これを不存在として
被告局長のした本件処分は違法であり、その他に、非開示事由に該当する事実等は
認められないから、本件文書②についてされた本件処分は、取消しを免れないもの
というべきである(本件文書②にも保存期限を経過したものが含まれることがうか
がわれるが、前記2(3)のとおり、本件処分全部を取り消すこととする。)。
3 争点3(被告国の賠償責任の有無)について
前記1及び2によれば、本件処分が公権力の行使として行われたものであることは
明らかであり、本件処分は、公務員の職務上の義務に違反するものであって、国家
賠償法上も違法というべきである。被告らは、法による情報公開請求権は、公益実
現を目的として国民に付与されたものであり、個人の権利利益として保護する趣旨
で付与されたものではないから、開示にかかる判断を誤ったとしても、原告の被侵
害利益は、国家賠償法上保護される権利利益には当たらないと主張するが、侵害対
象である権利は、実定法上権利とされているものだけでなく法的利益をも包含すべ
きであると解されるのであって、仮に、被告の主張のとおり、法が、情報公開請求
権を個人の権利利益として保護する趣旨で付与したものでないとしても、そのこと
をもって直ちに、法の解釈を誤った不開示処分を受けた国民が、国家賠償法による
損害の賠償を受けられないことを意味するものとはいいがたい。
もっとも、本件開示請求の目的は開示された文書を別訴における証拠として用いる
ことにあったところ、別訴においては、本件開示請求の決着を待たないまま、第一
審において原告勝訴の判決がされたことは当裁判所に明らかであり、このことや本
件における諸般の事情を総合すれば、前記2(2)イのとおり、被告局長の対応に誠実
さを欠く点があったことを考慮しても、本件処分によって原告が受けたであろう精
神的苦痛は、本件訴訟において本件処分の違法が確認され、本件処分が取り消され
ることによって慰謝され得る程度のものと認められ、原告が、それ以上の精神的苦
痛を受けたとの事情を認めるには足りないものというべきである。
したがって、原告が、被告国に対し、25万円の損害賠償を求める部分について
は、理由がないものといわざるを得ない。
第4 結論  
   よって、本件訴えに係る請求のうち、被告局長に対し、本件処分の取消しを
求める部分は、理由があるからこれを認容することとし(そうである以上、前記第
1、1の予備的請求については、その適否も含めて判断する必要はない。)、被告
国に対し、賠償を求める部分は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費
用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官       藤山雅行
           裁判官新谷祐子
                       裁判官加藤晴子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛